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第七章

 職場の昼休みにだ、彼は若い部下達に言った。彼は既に課長になっていた。課長とはいっても現場にいる。
「北朝鮮は悪い国や」
「何か無茶苦茶やってません?」
「テロとか」
「あと拉致ほんまにやってるみたいやし」
「ヤクザみたいな国ちゃいます?」
「そや、わしもそう思う」
 まさにとだ、彼は言い切った。工場は改築されてすっかり奇麗になった休憩室で部下達にその休憩室にあるテレビを観つつの会話だ。
「あそこは犯罪国家や」
「まさにそうですよね」
「もうやりたい放題やないですか」
「しかも首領様とその家族だけ贅沢して」
「国民餓えてるんですよね」
「核開発してるって話もあるし」
「最悪の国や」
 実に忌々しげにだ、彼はこうも言った。
「あそこはな」
「けど僕子供の頃聞きました」
 部下の火鳥がここで彼に言った。
「あそこは地上の楽園でめっちゃええ国やって」
「それは嘘やったんや」
「嘘やったんですか」
「何処に人が餓えてる楽園があるねん」
 口を尖らせてだ、一樹はその部下に問うた。
「他に」
「ないです」
「そやろ、人を攫って軍隊ばかり多くてテロやって核開発や」
「しかもとんでもない独裁国家で」
「言論の自由もなくて収容所があってや」
 それにというのだ。
「国民が餓えてるんや」
「楽園やないですね」
「そや、絶対にな」
「新聞も学者も政治家も言ってましたけど」
 一樹を同じことをだ、この部下も言った。首を傾げさせつつ。
「それはちゃうかったんですね」
「そや、嘘やったんや」
「新聞が嘘言うてたんですか」
「学者も政治家もな」
「新聞が嘘書くなんて」
「新聞かて嘘書く」
 一樹は今度は苦々しげに言った。
「普通にな」
「そうするんですか」
「そや」
「それが信じられませんけど」
「新聞かて人間が書いてる」
 この人間の世界では絶対の事実をだ、一樹は部下に言った。人間の世界であるからこのことは絶対のことである。
「それこそ」
「嘘もですか」
「あるわ」
 そうだというのだ。
「それでその嘘はや」
「嘘は、ですか」
「知らんで書いてしまう嘘もある」
 事実をだ。
「これはこれで問題やけどな」
「間違ったこと言ってますからね」
「そやからですね」
「その嘘もですね」
「まずいですね」
「そや、けれどや」
 さらに言う一樹だった。
「わざと嘘言うてる奴も世の中おるやろ」
「はい、いますね」
「詐欺師とかですね」
「人を騙すのが仕事の奴」
そういう奴いますよね、世の中」
「ほんまに」
「詐欺師は自分で詐欺師と言わんしや」
 それにというのだ。 
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