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主は誰か

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第二章

「決断が遅くしかも都の文化に関心が強過ぎる」
「戦や政よりも」
「越前一国は安泰であろうが」
「それでもですな」
「それ以上にはならぬ、そして朝倉家は代々の譜代の方特に一門衆の方の力が強い」
 そして禄もだ、仕事は殆ど彼等がしている。
「わしが上がれる望みはない」
「このままですか」
「左様、とてもな」
 こう従者に話した、そして実際に。
 彼は朝倉家の中で重く用いられることはなかった、主である義景は彼のことを忘れているふしすらあった。
 しかもだ、宗滴が死ぬとだった。
 実際にだ、朝倉家は。
「戦の柱がなくなった」
「はい、宗滴様がおられなくなり」
「それでだ」
 そうなってしまったからだというのだ。
「もうこの家にいてもだ」
「仕方ありませぬか」
「衰えるばかりだ」
 それが朝倉家の行く末だというのである。
「義景様もああだしな」
「相変わらず都のことばかりですな」
「かといって上洛もされない」
 都の文化で遊ぶばかりだというのだ。
「これでは駄目だ」
「では」
「機を見て去ろう」
 その朝倉家をというのだ。
「そうしよう」
「では」
 そして実際にだった、明智は朝倉家には十年仕えたがただ仕えていただけに過ぎずこの家を去った。その後は。
 つてがあり幕臣となった、だが最早幕府は。
「禄がかい」
「はい、殆どです」
 ないとだ、彼は母に答えた。
「ありませぬ」
「幕府なのにかい」
「幕府は最早です」
 それこそというのだ。
「力がありませぬ故」
「それでなんだね」
「禄もです」
「殆どないんだね」
「そうです」
「そうなんだね、じゃあ私のことはいいよ」
「母上のことはとは」
「私を養う分はいいよ」
 こう我が子に言ったのである。
「私は尼寺にでも入るよ」
「いえ、それはなりませぬ」
 明智は出家して家の食い扶持を減らそうとする母に強く言った。
「母上は私がです」
「面倒を見てくれるっていうんだね」
「決してひもじい思いはさせませぬ」
 例え何があろうと、というのだ。
「ですからその様なことは仰らないで下さい」
「けれど禄がないんだよね」
「それでもです」
 例え禄が少なくとも、というのだ。
「ご苦労はかけませぬ」
「それじゃあだね」
「お残り下さい」
 出家せずにというのだ。
「是非」
「わかったよ、そこまで言うのならね」
「必ず、必ずやです」
 明智は母に強い声で約束した。
「母上に錦を差し上げますので」
「そこまでしなくていいよ」
「それがしの気持ちです」
 その錦はというのだ、明智は母にそう言ってだった。
 出家と思い留まってもらってだった、幕府にも仕えた。だが幕府の禄は少なくしかも衰えきっていて気苦労ばかりが多かった。
 しかしその中でだ、都にある者が来ることになりだ。明智はその者の前に参上することとなった。 
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