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殺戮を欲する少年の悲痛を謳う。

作者:Ax_Izae
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4話 爪を剥がれた暗殺者(アサシン)

 彼は今19歳だ。
 クロノス。これは彼が最初の飼い主に貰ったすべてだ。
 クロノスと言う名前。それは彼からしてみれば“区別”にすぎない。しかし、人を殺す技術以外彼は何も持っていない。


 彼は物心が付いた時から奴隷だった。9歳の頃から畑仕事を手伝う日常。
 当時からのクロノスの友達…。同じ飼い主の元で働く奴隷が居た。その子の名前はマシロ。飼い主が日本人だった為、日本語の色で名前を分けていた。
 その子は彼からしてみれば唯一の友達であり、初めて恋心を持った相手だった。
 14歳の頃、彼の奴隷生活を大きく変える。
 その日は平凡な日常。少し違うといえば、飼い主が少し考え事をしていて、作業の後に必ず「ありがとう」と優しい言葉をかけるのだが、今日は違った。
 それに気づいたのはクロノスだけで、それ以外の奴隷たちは、飼い主の変化を気にもとめなかった。
 その日の作業を終え、長屋に戻る奴隷たち。
 長屋の中にある部屋は畳20個分のもので、8人いる奴隷達が雑魚寝をしても問題ないくらいの大きさだった。
 「なあ、マシロ」
 クロノスは今日の飼い主の変化について、相談してみようと口を開く。
 「どうしたの?」
 「今日、なんか節見さん、変じゃなかった?」
 それをいうとマシロは首を傾げ、
 「どんなふうに?」
 と、聞き返した。
 クロノスは今までの態度と、今日の態度を見比べて言ってみたが、マシロはそんな細かい変化に気づ居ていない模様。
 クロノスは小さい頃から節見と呼ばれる飼い主と一緒に居て、ここにいる奴隷の中で1番長く生活している。
 「クロノスはよく飼い主を見てるよね?どうして?」
 マシロはいぜん、他の飼い主によって奴隷として働いていた。その頃はただの皿洗いで、バーのお手伝いをしていた。彼女からしてみれば、飼い主は所詮飼い主、彼らが自分たちを人間と見ていないよう、彼女も飼い主を人間と見ていなかった。だから飼い主である節見の変化など興味を持てなかった。
 
 
 その日の夜。マシロが連れて行かれるのをクロノスが見た。連れて行ったのは飼い主で、クロノスはそれを見つからないように尾行した。
 「え?」
 マシロが連れて行かれた場所…雑居ビルに広がる風俗店…。
 「なんでマシロがこんなところに…」
 彼は当時、その場所の存在を詳しく知らなかった。飼い主が戻っていくのが見え、クロノスは見つからないように先回りして長屋に戻る。
 翌朝、マシロの姿が見えないことに気づき、クロノスは仕事を放り出して昨日の風俗店に向かってみた。
 「…」
 雑居ビルの路地裏には痛々しい姿で転がるマシロの肉塊…。
 彼は脈を確認するが冷たく硬直していて、触れた瞬間に死亡が確認できた。
 クロノスはその後、飼い主に連れ戻され、話を聞いた。
 彼の耳には何も言葉が入らない。
 どうやら、節見は経済的に厳しくなり、奴隷の1人を売らざる負えない状況に化した。それで、唯一女の子であったマシロを高値で売りつけた。その結果、彼女は痛みに耐え切れず死んでしまった。
 クロノスは声を殺し嘆いた。
 泣いても仕方ないと知っていた。


 3日経ち、クロノスは逃亡した。
 生き方は、殺して奪うだけ。
 乞食を装い、一人暮らしの家に押し入り、人が出た時に、包丁で首を掻っ切る。中にある食べ物や金銭を、その家にある鞄とともに盗む。
 その生活が続き、長くが経った。彼は16歳になり、殺し屋になった。独学の殺しの技術。これが割りと自分の肌に在っているようだ。
 そして、殺し屋として名を売れることができた彼はついに望んでいた依頼が来た。
 「ああ、あの人を殺してくれ」
 路地裏でクロノスは男から現金を受け取る。
 「わかった」
 彼はなれた足取りで対象がいる場所に行く。
 彼が依頼された標的は…節見と言う奴隷商人。節見は農家をやめ、奴隷商人と成り下がっていた。
 「君は…クロノスじゃないか!」
 彼は堂々と対象に近づいた。
 「殺し屋になっているって聞いてびっくりしたよ!」
 対象はフレンドリーに接する。それを見たクロノスは作り笑いを浮かべ、答えた。
 「節見さん。一度、奴隷になったことって在ります?俺の場合は物心が付いた時から奴隷でしたが、その御蔭で、今では奴隷に大人気の殺し屋です」
 そして銃口を節見の…昔の飼い主の鳩尾に向け乱射する。
 その男は痛みで顔を歪ます。クロノスは高笑いを続ける。
 それの表情が何よりも楽しかった。その表情は何よりも素敵だった。
 

 彼を依頼する時の支払いの方法はほとんど前払い。しかし、この依頼者は成功報酬は後に支払うと言い出した。しかし、依頼者は支払う前に逃走。それをクロノスが捕獲し、殺害。残っている金額すべてを奪い取った。それからだ。クロノスが依頼者殺しと謳われたのが…


 そして現在。クロノスは高層ビルで佐久島組と戦っている。3人の敵が銃を乱射し、クロノスはそれを壁で凌いでいる。敵の数が多いので、フレンドリーファイヤーも狙える。彼はカリヒとは違い、武器に愛を持っているわけではない。だから、いつでも愛用しているスコーピオンを使っているわけではない。今は一掃に便利なM26を使用。彼の知り合いには武器を安値で売ってくれる。アサルトライフルで、しかもマイナーなものならば朝飯前と言わんばかりに。
 敵3人はクロノスを囲み、トカレフを向けてきた。クロノスは1人の頭を直撃させ、すぐに退避。
 敵2人はまだクロノスの位置を把握しておらず、探していた所、彼は丁寧に節約しながら連射した。
 敵の背部を食い込む弾丸。その後腕ホルダーから刀身20センチの短刀を取り出す。この刀は以前の依頼人である女性の家にあった懐刀。それを盗んできたのだ。
 倒れている的に近づき、クロノスは首を掻き切る。そしてトカレフを拾い、納刀し、安全装置をつけM26を腰ベルトに引っ掛けた。
 そして、待ち伏せをした。敵はクロノスが逃げないよう3人1組で入り口の方に駆け出た。クロノスはそれを狙い、両手でトカレフを掃射する。
 全弾命中し、敵を片付け、彼はビルの外へと出た。
 「さて。これからどこへ逃げようか」
 彼は知り合いの居るとされるバーに向かう。
 「おう、クロノスじゃないか」
 彼はガナート。これはコードネームで本名ではない。元奴隷で、俺が今、1番気を許している相手だ。
 「やあガナート」
 俺は携帯電話などの機種を持っていない。だから、すべてガナートに合うのは運なのだ。
 「クロノス。もしかして、佐久島組と抗争したか?」
 「情報網が早いな。どうしてそれを?」
 クロノスはカウンターの彼の隣りに座る。
 「情報が早いんじゃなくて、お前が此処に来るのが遅いんだよ」
 ガナートはクリアファイルに入れられた資料のようなものを渡した。
 「ん?なんだこれ?」
 彼が受け取ったのはアメリカ軍の特殊機密事項。
 「お前。アメリカ軍に雇われろ」
 ガナートが渡したのはクロノス宛のメールをプリントアウトしたものだ。
 (クロノスへ。今アメリカ軍ではテロ対策を行っております。
 しかし、防衛だけではテロを防げないのは百も承知です。
 しかし、今アメリカでは武器廃止を試みております。ですので、アメリカ国籍を備えていないあなたに、テロ組織の鎮圧をお願いしたい所望で御座います。
 アメリカ軍エイミー・ヴァイズ中将)
 「ほう。これは面白そうな依頼だな。でも金額が提示されていないからパスかな?」
 「4百万ドルだってさ」
 クロノスが紙をガナートに返しながらいうとガナートは肘を机につき、頬杖をついた。
 「4百万ドルって円に直すとどれくらいだ?」
 クロノスは日本円の単位しか知らない。だから、今どれくらいなのか理解出来ていないのだ。
 「円安で1ドル120円だ。計算できるか?」
 「無理」
 「はぁ」
 クロノスのガキのような対応に頭を抱えるガナート。
 「4億8千万円だ」
 「は?スーツケースが5つも必要な金額だな。でも、それしか無いのか?」
 「それしか無いっていうか、お前前払いだろ?」
 「前払いだけど、軍を潰すのにそれだけしか金をもらえないんならやる意味無いなって思って」
 それを聞いたガナートは頬を歪まし笑う。
 「お前。勘違いしてるぜ。この金額は前払い。お前を捕まえるためのな。そして、害虫駆除をする度に、その害虫の危険度に応じた金額を渡されるんだ」
 ガナートの説明にクロノスは首を大きくかしげる。
 「いや。なんでお前がそのことを知っているんだ?」
 いくらガナートが情報やだとしても、そこまで知っているのはおかしいと感じたクロノス。それに対し、ガナートは辞書のように分厚いコピー用紙の束を見せた。
 「これにいろいろ詳細が書かれてあってな。お前、字読めるようになったの最近だろ?」
 「ああ、最近だ」
 ガナートはそれを考慮した上で適当に外用を伝えたのだ。ガナートの考えを理解したクロノスは納得した。彼はクロノスの仕事の仲介役をやっている。
 「ありがとうな。ガナート」
 クロノスは素直に礼を言う。それを聞いたガナートは、顔を赤くした。
 「どういたしまして」


ミカエル教官の指導を受け、アーシャとリーナは格段に強くなっている。
 とっても、まだ僕の足元に及ばないのが事実。
 突然、サイレンが鳴り響く。
 「なにこれ?」
 僕は此処に来て日が浅い為、初めて聞く音。警告のランプが点滅するが、どんな合図なのか把握できなかった。
 「何が起こっている?」
 「空爆です」
 僕はミカエルに聞き、彼女は焦るように答える。
 『アメリカ軍の爆撃機がSRAに空爆を行っています。対空部隊以外の方々は直ちに避難してください!』
 放送の声が鳴り渡る。すると、アーシャはかけ出した。
 「え?」
 ミカエルは、かけ出した彼女を見て唖然とし、急いで呼び止めようとした。
 「ミカエル。対空砲エリアを教えてくれ」
 この施設は日本の東京ドーム3個分の広さを誇る。大きすぎる為、屋上には18個の対空ミサイル砲台と7個のチェインガンが備わっている。
 「多分アーシャは…」
 俺はミカエルに指示された場所に行く。そこは対空機銃、チェインガンの砲台場所だったアーシャはその中から敵爆撃機を狙って乱射していた。他の隊員達はヘルメットと耳栓をしているが、彼女はその場に在るヘッドホン型の耳当てをつけて銃を打つ。


 「アーシャ。歯を食いしばれ」
 僕は彼女を手の甲で打つ。
 アーシャはやはり反抗的な目をしていた。
 先ほどアーシャはチェインガンで爆撃機を狙って機銃を連射したのだが、結局1機も落とせず、敵の標的にされ、足の腿に建物の破片を掠めて軽く出血をしている。射撃の腕に自信があると言っても、それは止まっていたり、鈍間に動くものにしか通用しない。
 「でも!アタシの足止めのおかげで全員が無事回避出来ました!」
 「だからって君が危険な囮に出向くことは無いだろ!あれは本来ならここにいる人たちの役割だ!君はルール違反まで犯して自分の身を危険に晒したんだ!」
 アーシャは赤く腫れた頬のまま、俺を睨みつける。
 「カリヒさんだって危険なマネするじゃないですか」
 「それとこれとは別問題だ!僕には君にはない実戦経験とそれなりの結果がある」
 「でも結果的に皆生きていたわけじゃないですか!」
 「関係ない。対空砲を撃たなくても敵はそのうち撤退した。弾が切れたからだ」
 「でもアタシは悪いことをしたとは思っていません!」
 「いいや。明らかに君の判断ミスだ。最悪、君は犬死して、仲間の志気をダダ下がりさせるだけだ」
 「カリヒさんが以前やったことと同じです!」
 「同じなものか…僕には」
 そこへリーナが横から入ってきた。
 「同じです!カリヒさんは!いつだって死のうとしています!」
 僕は固まってしまった。リーナの言動。アーシャへの態度。そして僕自身へと報いが交互に心臓を貫き、言葉で表現できないほどの激痛が僕の鼓膜を震恐させる。
 僕は今思い出した。
 「ああ。そうだな。ごめんなアーシャ。言い過ぎた。リーナもごめん。なんか心配させて…」
 俺は彼女らを両腕で抱えた。
 「あ、アタシこそごめんなさい。自惚れでした」
 アーシャは自分の非を認めてくれた。
 

 僕はミカエルにそのことを話したら、大笑いされた。
 「なんですかそれ?」
 「そ、そんなに笑うことないだろ」
 僕が言葉を発しても、彼女はまだ笑いを止めず、それどころか、
 「カリヒさんはお父さんですか?」
 と、僕を殴打するような言動を浴びせる。
 僕は右手に持っている焼酎のぶどうジュース割のコップを咥え一口飲む。するとミカエルは僕の右手を睨む。正確には持っているものを…
 「な、なに?」
 「それ…。なんかアルコールの臭いがします。もしかしてお酒ですか?」
 僕は縦に首を振る。するとミカエルはそのコップを僕の手から奪い取ろうと右手を伸ばしてきて、僕は彼女の体から遠ざけ、その手を回避し、僕は口の中に半分入れる。
 「カリヒさん!カリヒさんは未成年ですよね?」
 「その“未成年”って単語よくわかんないんだよね。詳しく説明してくれないか?」
 ミカエルは手を止めずに聞く。
 「カリヒさんって、日本国籍でしたよね?」
 「ああ。母親がね」
 僕は彼女の手をあしらい答える。
 「20歳から成人です。それまでは飲酒喫煙は駄目です!」
 「でももう遅いよ。ほら」
 ミカエルは頬を膨らます。
 「だから駄目です!」
 僕はミカエルのいうことを聞き、今日は飲酒を控えた。
 「煙草も駄目。酒も駄目。じゃあ僕に求められた娯楽ってなんだ?」
 宿所に戻る際、僕は軽く口ずさみながら歩いていると、後ろから何かがぶつかってきた。
 「カリヒさん!在るじゃないですか。娯楽」
 「あ、ああ」
 

 「君たちに集まっていただいたのは他でもない」
 後日本拠地を取り仕切る男性が僕、リーナ、アーシャを呼んだ。
 「ああ。わかっているよ。もう此処が見つかったんだ。早めに手を打たないとな」
 僕は男性に言い返す。この組織の上下関係はいまいち僕は理解できていない。
 「その通りだ。明日のアメリカ行き、F25便に乗ってもらう」
 急すぎる話だ。僕達からしてみれば、準備などもある。しかし明日となると、武器を隠すものがない。聞いた話、航空機は乗る前に金属探知機で、武器を一切持ち込めないようにしているという。僕らには武器を隠す手段がない。
 「実は、何故明日の便に乗らせようとしていたかというと。アメリカに滞在している第5部隊が人手不足を1年ほど前から嘆いていて、増援を送ろうとしたのだが、さっき入った情報によると、第5部隊は壊滅したらしい。そこで、キャンセル料金を取られないために、君たち3人をそのまま連れて行こうと思ったのだ。申し訳ない。武器が無いのは仕方がない。だが、資金提供は出来る。1人3万ドルを渡そう。向こうで武器調達をしてくれ」
 長ったらしく説明され、僕ら3人は着替えと、お金を入れる鞄を用意した。
 「私があなた方をお送りします」
 ミカエルが乗用車を引っ張り出してきた。
 「ああ。助かるよ」
 明日の12時の便なので、今(20時)から行けば、しばらく休んでいられるだろう。
 「偽造パスポート…じゃないな。僕の名前だし」
 渡されたパスポートには、矢渕カリヒと記載されており、僕の顔写真もついていた。
 


 「じゃあガナート。元気でな」
 「ああ。多分金輪際合うことは無いだろうな。クロノス」
 今、クロノスは空港にいる。
 「そう言えばお前、ついさっき暴力団のアジト内に誘導されて銃撃戦を繰り広げていたって聞いたが、その時の状況を詳しく聞かせてくれないか?」
 「あ?」
 クロノスは正直ノリ気ではなかったが、仕方なく、言う。
 「まあ、ホテルに戻ると、そのホテルの部屋に、火薬瓶が投げられたんだ。俺はまあ暴力団が大量に押し寄せたものだと思って、M26と弾薬を準備して外に出た。すると、もうすでに佐久島組にその場所が占領されてて、取り敢えず、敵を殺しながら進んで行ったさ
 すると、何故か敵の多い所と守りの薄い所が作られていて、まず俺は罠だと思って、多い方に突っ込んでいったんだ。まあ、罠じゃなくて、ただ単に、奴らの拠点であるビルが近かったから、自然とそこを守りに来ていたわけだ。
 で、そのビルまでたどり着いた俺は、逃げるようにその中をウロウロしていたわけだ。残弾が少ないこともあり、俺は敵の銃を拾って戦っていたんだ」
 「俺がお前の事を知ったのは、あのバーにいた佐久島組がお前の名前を出しながら電話をしていたぜ。どうやらお前ラッキーだったみたいだな」
 「なるほど。だからお前は俺が暴力団と戦っている事を知ったんだな。おっと、もう8時半を過ぎたか」
 21時発のF26便は、日本からロシアに行き、それからF25便に乗り換えアメリカに向かう。これがクロノスのスケジュールだ。
 「なんでこんなに回りくどいんだ?」
 彼が一番先に思った疑問で、直接アメリカに向かえばいいだろうとも思った。
 F26便は出発し、クロノスは久しぶりに死んだように眠れた。


 「さて。上層部からの連絡が途絶えた。さてどうする?」
 サジは第三部隊で、カイと海彦に相談していた。
 「第一部隊が潰れたんだ。最後の作戦に出たんだろうよ。俺達みたいな三軍は所詮第一第二の予備軍でしかなかったわけだ」
 カイは捨てるように言葉を吐く。
 「カリヒが居なくなった第三部隊は…静かだな」
 サジは珍しく弱音を見せる。カリヒがいたから彼は戦ってこれた。サジがこの部隊に編成された時、カリヒからいろいろなことを学んだ。しかしサジは素直にそれを言葉に表せず、そのまま今生の別れをしてしまった。
 「ですが、私達で出来ることをやりましょう。カリヒさんやリーナさん、アーシャさんが居ない穴を埋めるにはまず活動在るのみです。彼らが失敗することは無いと思いますが、それでもバッグアップがあればやりやすいでしょう」
 海彦は2人を元気づけようと口を開くが、言って3秒ほどで、言葉を発した本人が寂しくなった。
 「すみません」
 「いやいいよ」
 サジは歯痒い思いでいっぱいだった。
 「お前ら気合が足りなすぎだぜ」
 ミレーナは3人に声をかけた。
 「私らはまず、カリヒのために居場所を残すことを考えろ。SRAの誇りにかけてな!」
 ミレーナの言葉に、サジと海彦は失いかけていた気力を取り戻した気がした。しかし、カイは違った。
 「以前から、俺は全員に言おうと思っていたことがある。でも、中々言い出せなくてな」
 カイは首の裏を掻く。
 「俺、どうやら肺癌らしいんだ」
 彼は決死の思いで言い出した。それを気づいたのは3ヶ月前、カリヒ達が第三部隊を去った時のことだ。彼は喉の調子が悪く、付近の病院に行った所、レントゲンで末期の肺癌である事が判明した。しかし、彼は言い出す勇気がなく、余命1年と申告されていた。つまり、カリヒに合うことはもうできない。
 「そうだったのか。だから最近煙草は控えていたんだな」
 彼らは又曇天な空気に戻ってしまった。カリヒの存在感の大きさは、彼らの心の支えだった。


 今日僕らは、F25便に乗る。

 今日クロノスは、F25便に乗る。

 僕はアメリカを目指す。

 クロノスはアメリカを目指す。

 「「さあ!はじめよう!」」
 
 僕は、

 クロノスは、

 終わりを始める。
 死を運ぶ飛行機の音に包まれながら、
 
 僕は、

 クロノスは
 
 最後の休息を苦痛に思う。

                                ……続く 
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