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ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~

作者:???
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不安-エンザイエティ-part1/怪しい挑戦者

 
前書き
ゼロ「帰ってきたぜ……


地球と書いて…『EARTH』!!!


…え?それ違う人の台詞だって?


それにここは異世界?


こまけぇこたぁいいんだよ!!」


 

 
トリステインのとある野原の道を、一台の馬車が通過していた。そのつくりはとても優雅で、見るからに搭乗者が金持ちであることを物語らせている。
その馬車に乗っているのは、魔法学院の男子生徒の一人、かつてキュルケがボーイフレンドの一人に数えていた少年、ギムリだった。
「ふぅ…もうすぐ学期再開、か」
若干憂鬱そうにため息を漏らすギムリ。地球と同様、ハルケギニアの学生貴族も学校が再開される時期になると生徒が気落ちするのは変わらないようだ。
「サボりたいな…」
などとつい勝手なことを口してしまう。
しかし、学院に無事に戻った方がどれほどよかったことか、と不幸を呪う事態が、彼の身に降りかかる。
ギムリは突然馬車が止まったことに気づくと、前を見る。そこには馬車の運転席が見える窓が張られており、運転手の姿が見えるようになっている。しかし、そこにあるはずの運転手の姿がなかった。
「?」
なんだ?まさか、逃げたのか?軽く舌打ちすると、ギムリは馬車から降りる。もし逃げ出したのだとしたら許せる話じゃない。いくら仕事が辛いとしてもだ。貴族をこんな場所に放置して逃げるなどもってのほかだ。
馬車を降りた彼は、運転席の方に向かう。しかし、そこで驚くものを目にする。
「っ!馬もいない…!?」
なんと、馬車を引っ張っていた馬までもがいなくなっている。彼の記憶では二匹の馬が馬車を引っ張ってくれていた。しかし運転手もそうだが…音も立てず馬が二等ともいなくなるなどありえるだろうか?もし逃げたのだとしても、足音が流石に聞こえてくるはずだというのに。
おかしいと思いつつ、ギムリは周囲を見る。すると、ちょうど馬がいた場所と馬車の運転席に、何かがべっとりと張り付いていた。不気味な黒い液体だ。
(なんだこれ…?)
水にしては濁りすぎている。それになんだか粘り気があるように見えて気味が悪い。あまり触りたくないものだ。
しかし問題はこんな濁り水よりも、どうやって学院に向かうかだ。こんなときに従者がいないのはかなり参る。
「仕方ない。飛んでいくか」
ひとまずレビテーションの魔法を使いながら学院に向かうことにしたギムリだが…


ここで彼のみに災厄が降りかかる。


トントンと、誰かが自分の肩を叩いてきた。
「何だよお前…どうして馬車から」
ギムリは恐らく従者が帰ってきたのだろうと思い、振り向く。だがそこにいたのは、従者ではなかった。
「っ!うわあああああああああああああああ!!」
振り向いた彼はその目に飛び込んだものを目にした瞬間、悲鳴を上げた。


それから間もない頃、ギムリのいた場所には何も残らず、ただ黒い液体が撒き散らされていただけだった。


あれから学院は夏休みが終わりに近づき、次第に生徒が実家から戻ってくることになる…。




………はずだった。



もうすぐ学院が再会する予定の日だというのに、学院に戻ってきた生徒の数が少なかったのだ。
「ふむ…おかしいな」
毎年この時期は学院の生徒が戻ってくることが普通だった。学院の敷地内にて、ホーク3号を観察しながらも、コルベールは首を傾げた。学院の空気が静けさを保っている。
まぁ、今年はたまたま戻ってくる人数が少ないだけ。すぐに生徒たちは学院に戻ってくることだろう。

そう思っていたのは、わずかの間のみだった。


サイトたちのほうでも、また新たな戦いの幕が開こうとしていた。



「防衛組織の編成…か」
シュウたちがアルビオン大陸にて過酷な状況に立たされている間、サイトたちは魔法学院の生活を送っていた。その際、ジャンバードとビデオシーバーを介しての、アンリエッタからの通信が入る。内容は、今後のアルビオン軍の使役する怪獣に対する対策と、対抗手段の一種として、壊滅した魔法衛士隊に代わる防衛組織の編成を行うための相談だった。
まだ夏季休暇の期間中だが、もうじき休みも終わり授業が再開される。その前のルイズたちにまだ余裕のある時間が残っている間に、アンリエッタはぜひサイトから話を伺いたいとのことだった。
『やっぱ何かしら対策を考えないといけないって、姫様たちも考えたってことだよな』
サイトの世界は、ウルトラマンと人類が共に怪獣や異星人からの脅威からたびたび救われ続けた世界。当然、対応策およびそれをなすための文明の力は圧倒的だ。国を守るため今度こそ女王としての役目を全うすることを目的とするアンリエッタとしては、サイトの世界の情報は喉から手が出るほどだった。
『まぁ、当然だな。例え相手がどれだけ強大でも、自分たちの住む場所を守るためだ』
ゼロも、これはこれでよい兆候が見えてきたと思った。守るべき側の人間もまた未来のために努力するようになり始めた。だからこそ守らなくてはならない…モチベーションも上がる。
「…けど、どんな奴なんだろうな…『ロマリア』からの助力者って」
ふと、サイトがルイズたちが何かを企んでいる間に気になることを口にする。
実はアンリエッタからいずれサイトの下への来訪の際、ある人物を連れてくることを彼女から伝えられていた。話によると、ハルケギニア大陸の国の一つである『ロマリア連合皇国』という国から、トリステインへ助っ人が来るというものだった。ロマリアは、トリスタニアにディノゾールが出現しゼロに倒された直後の時期に、アンリエッタからの要請で一度は助力を申し込まれていたが、ここに来てようやく応えてくれたのである。
しかし、どんな奴なのだろう?普通のメイジ、とは違うと思う。高々一人天才メイジが来たとしても、怪獣に立ち向かえるとは思えないし…。
「なぁルイズ。ロマリアってどんなところなんだ?」
「ふぅん。サイトにしてはいい兆候じゃない?ハルケギニアの知識に興味があるなんて」
「…馬鹿にしてるだろ」
まぁ、確かに勉強は好きな方ではなかったが、深く気にせずルイズの答えに耳を傾けた。
「ロマリアは始祖ブリミルの弟子フォルサテという方が興した都市国家郡よ。ブリミル教の総本山とも言えるわね。信者にとって始祖のご加護を最も受けているとも認知されていて、『光の国』とも言われているわ」
「光の…国、かぁ」
偶然にも、ウルトラマンたちの故郷と同じ異名を持つのか。そう聞くと、まだ見たことは無いのだが、なんだかとても良い国のようにも聞こえてきてしまう。サイトはロマリアに興味を抱いた。
「ロマリアねぇ…」
ふと、デルフが鞘から声を漏らしてくる。何か思い当たることでもあるのだろうか。しかしその呟きは誰にも聞こえていなかったらしく、ルイズはそのまま話を続けた。
「でも、本来なら世俗の権力とか争いには静観を通すはずのロマリアからも援助が来るってことは、それだけレコンキスタの…怪獣の脅威が無視できなくなっていると見るべきね」
「……平賀君」
ベッドに身を預けたまま、ハルナはサイトの顔を見る。同考えても今のくだりは戦いに関する話だ。サイトがそれに参加することを聞いて表情が曇る。
「大丈夫だってハルナ。俺は絶対にハルナを地球に連れて帰る」
「…そのときは、平賀君も一緒だよね?」
しかし、危険に身を窶すことがたやすく分かる。それを理解したハルナは猛烈な不安を感じた。この世界にただ一人の知り合いにして…そんな男が戦いに身を投じること。最悪な未来を予感してしまいそうで恐ろしかった。ルイズが約束し、サイトもまた共に地球へ帰ることを誓ってくれていた。だが、それでも…。
「当たり前だろ?俺を信じて」
「…うん」
やはりというか、見詰め合っていい雰囲気を漂わせる二人に、ルイズとシエスタは危機感を抱く。
(まずいですねミス・ヴァリエール。サイトさん、やっぱりハルナさんの方にばかり構ってますよ)
(ええ、わかってるわ)
ルイズとしてもこれは無視できなかった。確かにハルナには、サイトを無事地球へ帰すと約束はしたが…彼女にとって『地球に帰す』ことと『それまでの間にいちゃつく』ことは全くの別問題らしい。…難儀なことである。


現在、アンリエッタがサイトとの連絡のために利用した…アルビオン王家が始祖の秘法として保管していたジャンバードは、研究機関であるトリステイン王立アカデミーの敷地である広場に置かれている。ルイズたちに連絡すべきことがあるときは、ここへ直接出向くのだ。無論女王となった彼女を一人にするわけにいかないので、アニエスが護衛についてきた。
伝えるべきことは伝えた。後はサイトに話したとおり、予定日に学院に赴くことだけだ。
「陛下、一つお尋ねしたいのですが…」
ジャンバードから降りてきたアンリエッタを入り口で出迎えたアニエスが口を開いた。
「なんでしょう?」
「彼の話を信用するのですか?私には、にわかに信じがたい…」
アニエスはサイトに対して疑惑を覚えていた。彼が怪獣やウルトラ戦士たちが激闘を繰り広げた世界の人間であったということに。アンリエッタもそうだが、まだほんのちょっとしか会っていない相手だからすぐに信頼を寄せるのは難しかった。
「私は彼と、彼を信じるルイズを信じてますから」
「…」
アンリエッタは迷うことなく言った。幼馴染と、幼馴染が信じる者に対する強い信頼があった。こういうとアンリエッタは断固として自分の言葉を曲げようとしない。
「ところでアニエス、『ねずみ』の件は進みましたか?」
すると、アンリエッタは意味深な言い回しをして話を切り替えてくる。
「進んでおりました。途中までは…」
「途中まで?何か弊害があったのですか?」
「はい。大変情けないことですが、押収した物品とこれまでの事件レポートが何者かに盗まれておりました。」
「…!?」
盗まれた、と聞いてアンリエッタは目を見開く。
「あなたのことですから、それらのような重要なものは全て厳重に保管していると思うのですが?」
「ええ。その通りです。だがそれでも、あるはずのものなくなっていた。
恐らく…すでに内部にいるのでしょう。それも…」
「…私たちのすぐ近くに、ですね」
苦々しげに呟いた。チュレンヌのときといい、ワルドのパターンといい、やはり…と彼女は予想したくなかった現実が既に自分たちのすぐそばで息づいていることを痛感した。
「その者も、既にアルビオンの手の者でしょう。やはり早急に対策をとり、且つサイトさんとも話をする必要がありますね」
例え何者が相手であろうと、これ以上この世界を食い物に好き勝手する輩に、民たちの平穏を脅かされるわけに行かない。それが、一度盲目にとらわれた自分のせいで大変な目にあったルイズたちや、今あの思い出の湖で静かに眠っている愛する人への償いとなるはずだから。


女王、アンリエッタ・ド・トリステインは今日も行く。


その頃の、とある暗がりの場所…。
そこでは暗闇の中からぽぅ、と一つの光が灯る。しかし一つだけではなく。いくつも暗がりの中に怪しげな光が次々と灯る。その光はゆれやれとゆれ、まるで人魂のように不気味なものだった。光は互いに見つめあいながら、何かを会話しあうように声を発した。うなり声のような声やせせら笑うような声も聞こえる。
「魔法…宇宙でもめったに見ない力」
彼らは引き続き話を続けて行った。話の内容からして、何か良からぬことを企んでいるに違いない。
「科学的視点で調べておきたいな」
「クール星人がひと暴れしてくれたおかげだな。おかげで次の標的となった星が見つかった」
「おっと、抜け駆けはするなよ?この星の人間共は共に分け合うという約束だったはずだ」
「我々は若い肉体さえあればいいさ。老いから逃れるためならなんだっていい」
なぜなら、彼らの声には…確実な邪気が込められていたのだから。


ルイズとシエスタは平民の使用人が利用する寄宿舎の厨房にいた。
「サイトさんは?」
「今は中庭で真面目に素振りをしてるわ。ようやく使い魔としての自覚ができた…って思いたいんだけどね」
まずは
「ハルナさん、ですね」
「さっきあいつに、やたら真面目に剣の素振りしている理由を尋ねたら『少しでも強くならないと』とは言っていたけど、ムカついたのはその後よ。『ここにはハルナだっている。強くなって、ちゃんと守ったやらないと』って」
「むぅ…」
「もう!あそこはご主人様である私のほうでしょ!?第一何時に経ったらハルナが仮病であることに気づくのよあの馬鹿犬は!」
「そうですね…ハルナさん、病気を言い訳にサイトさんの気を引くなんてずるいです…」
確かにハルナは、最初の頃は異世界の環境に適応しきれず熱を出していた。しかしあの発熱はそんなにたいしたものではなく、すぐに治っている。だがハルナはサイトに甘えたい一身のあまり、すでに病気が治っていることを隠していた。気持ちこそ分かるが、不満である。何せ、あのサイトはいまだに気づきもしないで、自分たちをそっちのけでハルナに構ってばかりだったのだから。
「ミス・ヴァリエール、私に考えがあります」
「何かいい考えがあるの?」
「はい!」
自信たっぷりに笑みを見せるシエスタ。彼女は魔法が使えない平民ではあるが、サイトをめぐる抗争以外においてはルイズも信頼に足る存在だと認識している。どんな案を思いついたのだろうと、耳を傾けてみることにした。
「これは私のひいおじいちゃんが、私がまだ小さかった頃に教えてくれた昔話を基にしたものなんですけど…」

シエスタの思いついた案とは、こういうものだった。

それは…名づけて『北風の太陽』作戦。
今のハルナは病人であることを装っているため、ベッドから離れることはできない。それを逆手に取り、彼女の部屋をとにかく熱くさせてしまうというもの。熱くさせる手段には、部屋においてある暖炉を利用するなり布団をかぶせたりしてしまえばいい。とにかく彼女の周囲を熱くさせることで、彼女が実は仮病であったことを自らの口で白状させてしまおうというものだった。
「ふふ、それいい案じゃない!」
見てらっしゃいハルナ!とルイズは、ふふんと得意げな笑みを浮かべながら鼻息を飛ばした。


その頃、サイトは学院の広場を歩いているコルベールを見かけた。
「あれ、コルベール先生。どうしたんですか?」
彼はコルベールに近づいて声をかけると、コルベールはいつも通りの穏やかな。
「おや、サイト君ですか。ミス・ヴァリエールはご一緒じゃなかったのかい?」
「なんでか、シエスタと二人で話をしたいからってほっぽりだされちゃいましたよ。俺何か悪いことしたのかな…?」
後頭部を掻きながら、サイトは記憶を辿ってみるが、やはり思い当たる節が何も無い。
「サイト君に心当たりが無いのなら、君は悪くないと思うのだが…ミス・ヴァリエールも女性だ。親しい君に対しても明かされたくない事情があるのだろう」
「うーん、そういうもんなんですか?」
鈍感なサイトに、女性の心は良く分からない。
「はは、最も私も、女性付き合いがないからなんともいえないがね」
「ところで、何か慌ててたみたいですけど?」
「あぁ、そのことなのだが、サイト君は気づいていないかな?」
中庭を見渡しながら、コルベールはサイトに言った。
「え?」
「そろそろ夏季休暇が終わる頃だ。この時期になると、魔法学院には故郷から戻ってきた学院の生徒たちが集まるものなのだが…」
「今年は戻ってきた生徒が少ないってことですか?」
「ええ。今年はたまたま少ないだけだと思うのだが…」
妙な胸騒ぎを感じていた。特に確証というべきものはないが…。

と、そのときだった。

「きゃああああああああ!!!」

「!」
突然校舎から悲鳴が聞こえてきた。尋常じゃないその叫び声は、二人を動かすのに十分だった。二人はとっさに悲鳴の聞こえた方へと走り出した。


悲鳴が轟く幾分ほど前のこと…。
「ふんふん、ふふーん…」
鼻歌を歌いながら、シエスタは『北風と太陽』作戦のための用意した、背中に山のような布団を背負っていた。
「大丈夫シエスタ?結構積み上げてるし…」
ルイズはシエスタの背中に背負われた布団の山を見上げながら尋ねる。しかし布団以外にも用意しているものがある。それはアツアツに煮込まれたスープだった。しかも辛みのあるスパイスを含めた激辛料理だ。
「いえいえ、これもサイトさんのためです。これくらいの重さ、なんてこと…わっとっと」
「ちょ、ちょっと!やっぱり危ないじゃない!少しくらい私が持ってあげるわよ!」
だがさすがに彼女ひとりで持つにはきつかったらしく、ふらついている。しかもスープまで抱えているのだ。危険すぎる。自分が代わりに抱えた方がいいと思ったが、シエスタは首を横に振った。
「そ、そんな!ミス・ヴァリエールに荷物持ちをさせるなんて!」
「今は拘ってる場合じゃないでしょ?火傷でもしたらどうするのよ。ほら」
ルイズはシエスタからスープの入った鍋をふんだくり、代わりに持つ。
「さ、早くハルナのもとに行きましょ」
「す、すみません。ミス・ヴァリエール」
何事もなかったようにルイズは促す。シエスタも限界をすでに感じていたのでそれ以上何も言わなかった。
シエスタが布団の山、ルイズがスープの鍋を運び、平民用寄宿舎の一室にいるハルナの元に向かう。
そしていざ、ハルナの部屋の前に立つと、シエスタは扉をノックする。
「ハルナさーん。ちょっとよろしいでしょうか?」
その時、二人は気づいていなかった。

ゆらりゆらりとした足取りで、二人に近づいてきた魔の陰が迫っていたのを。


その頃、ハルナは静かに部屋のベッドに腰掛けていた。もうすでに熱は下がっており、体調も万全だ。でも…ハルナはこの世界に来てから不安ばかりだった。
最初はもちろん不安だらけだったが、異世界にて出会った人たちはいい人たちだらけで良かった。何より、サイトの存在が大きい。彼女にとってそれが何よりも大きかった。
しかしサイトのことを考えると、また違った不安を覚える。それは、サイトが異世界の人たちと親しくなっていくことだった。誰とでも仲良くなれる。地球にいた頃から変わらない、サイトの成せる業にして最も魅力的な部分といえる。

故に怖いのだ。

サイトが、この世界で出会った人たちに未練を抱き、『地球に帰ることを拒む』ことが。

しかも、ルイズたちのようなかわいらしい女の子やキュルケのように綺麗な女性もいる。その人たちに心を奪われてしまうのもまた恐ろしい。
もしそうなってしまえば…
(私…一人になっちゃうのかな…)
仮病を使ってまで気を引こうとしているのも、彼の気を引くことで、二人で地球に帰るという目的を忘れさせないためだ。
(平賀君、早く来ないかな…)
ずるいとわかっていても、それでも…不安ばかりが増していくのだ。自分の中にある何かが膨らんで破裂していきそうなほどに。
だから、どうしようもなく求めてしまう。平賀サイトという、一人の少年を…。
すると、とんとん!と扉をノックする音が聞こえてきた。誰かが来たのだ!もしやサイトだろうか。仮病がばれることがないよう、急いで彼女はベッドにもぐりこむ。
「ハルナさーん。ちょっとよろしいでしょうか?」
ちょっと残念。どうやら来訪者はシエスタだったようだ。声ですぐに分かった。
「…はい、どうぞ!」
少し声が上ずりそうになりながらも、ハルナは返事した。
では失礼します、と一言いれて、シエスタが顔を出してきた。しかし彼女だけではなく、ルイズも一緒だ。シエスタは布団を持っており、ルイズは熱い何かが入っている鍋を持ち運んでそれをテーブルの上に置く。
何か嫌な予感を感じた。別に命の危険があるようには見えないが…。
「あの、ルイズさん。その鍋は?」
「あぁ、このスープはシエスタがあなのために栄養のある食材をかき集めたものよ。ちょっと暑いけど大丈夫。すぐによくなると思うわ」
「さすがミス・ヴァリエール!よくわかっていらっしゃいます。病気にかかった人はあえてアツアツで辛いお料理を食べて汗をかけば、その分だけ熱が下がるんですよ」
シエスタは鍋の中をあえてハルナに見せる。トマトのように真っ赤な液体がその中に溜め込まれていた。
「ハルナさんのためにがんばって用意したんですよ?」
「へ、へえ…これは…とっても熱くて…とても辛そうな…」
まるでキムチ鍋を何人分も作りこんだような、それもかなり熱されているスープだ。猫舌だったら一口も吸えないかもしれない。
「すみませんがミス・ヴァリエールはスープを一杯分器に注いでください。私はこの厚手のお布団を敷きますね」
そういってシエスタは持ち運んできた布団の山の一部を取り上げ、ハルナの元に運んでいく。
「え…?」
見るからにシエスタが運んできた布団はかなり厚手のものだ。同考えても真冬用の者に違いない。
「ハルナさんの熱を下げるためです。これくらいはしないといけません」
「ふあ!そ、そんなことされたら…」
有無も言わさず、シエスタは布団をかぶせてきた。ちゃんと顔は出ているものの、体が少し重くなって息苦しさも感じる。
「お加減はいかがですか~?」
「ち、ちょうどいいかな…なんて」
「それはよかったわ~。じゃあハルナ、私が特別にスープを飲ませてあげるわ」
すると、今度はルイズが器に注いだ熱々の激辛スープをハルナの傍らに運んできた。湯気がめちゃくちゃ立っている。めがねが合ったらすぐに曇ってしまうことだろう。
「え、でも今食欲が無くて…」
別に激辛料理がすきというわけでもないので、流石にこれを飲まされると参ってしまう。
「だめよハルナ。病気なら寧ろ食べないといけないわ。栄養をとらないといつまでも治らないわよ」
「そうですよ、ミス・ヴァリエールの言うとおりです」
…おかしい。やはりこの二人の笑みには明らかに裏がある。女の勘でなくとも何かがあることくらいは読み取れるくらい、よくない含みを感じる。
「…あの、意地でも食べさせるつもりだったりします?」
「意地だなんて、何を言い出すのよ。シエスタがあなたのために用意した料理なのよ?」
ルイズはそう言ったが、そのときの彼女とシエスタの顔に、一瞬だけ変化があったのをハルナは見抜いた。
「…もし病気が治っているのでしたら、食べる必要はないかもしれないなー、なんて思ってますけどね~…」
そのわずか一瞬の内に浮かべた笑みは、まさに天邪鬼の笑みだった。
やっぱりそうだ!とハルナは心の中で確信を得た。
(この二人…やっぱり私が仮病を使っていることに気付いてる…)
大方、布団をかぶせるなり熱々の激辛スープを食わせることで、サイトを独占する自分に仮病であることを吐かせるつもりなのだ。
(平賀君に看病されているのが気にいらないんだろうけど…負けないんだから)
サイトとの付き合いも、彼を思う気持ちも、自分の方が強く長いというだけの自負が彼女の中にある。相手が誰であろうと、意地でも引き下がるわけに行かないのだ。
「ふふ、ふふふふふふ…」
「うふふ…うふふふふふ…」
「ふ、ふふふふ」
三人は互いに笑みを見せているが、その笑みは熱々のスープとあったかい掛け布団とは魔逆の氷点下を示していた。どうしてか恐ろしい凄みがこのときの三人にあった。
「そうそう、せっかくですから暖炉もつけましょうか。もっと汗をかくために」
「え…!?」
流石に暖炉をつけるのは予想外だったのか、ハルナは一瞬唖然とした。シエスタは彼女のその動揺を見抜き、早速行動に移した。
「っと、そういえば薪を持ってきてませんでしたね。じゃあ私、薪を取ってまいりますね」
「ええ、その間は私がハルナを見ておくわ」
(まさか、この時期に本気で暖炉を!?)
そこまでして自分に仮病を吐かせたいのか。この二人、予想以上の強敵である。しかし、弱音は吐けない。サイトと自分の絆がかかっているのだから。
(…ええ、いいわ!覚悟を決めたわ!何度の暑さにさらされても、また病気になったとしても耐えてやる!!)
暖炉の使用は流石に予想外すぎたが、ハルナは覚悟を決めた。

が、ルイズとシエスタの目論見、およびハルナの覚悟を砕く事態が次の瞬間、起きた。

がちゃりと扉を開いた途端、シエスタは目を見開いた。
「き、きゃあ!」
その目に飛び込んできた光景を見て、彼女は思わず悲鳴を上げた。
「ちょ、何シエスタ。そんな声を上げ…!!?」
「シエスタさん?」
不思議に思ったルイズとハルナも振り向く。その瞬間、彼女たちの目が見開かれた。


フォッフォッフォ…


全身が真っ黒で、左右のズレた配置の目を持つ、怪しげな怪人がそこにいたのだ。



「いやあああああああ!!!」
シエスタは青ざめ、腰を抜かして床に尻を着いた。
「な、何!?なんなのこいつ!」
ルイズも恐怖に近い驚愕を覚えて大声を出していた。こんな怪しい姿をした亜人、いつ入り込んできたのだ。魔法学院は現在夏季休暇中とはいえ、見張りの兵がしっかり門前をガードしている手はずだ。こんな怪人が入り込む隙があるはずが無い。なのに、現れた。一体こいつは何なのだ!?
「え、エイリアン…!」
ハルナは経った今部屋に入り込んできた怪人の姿を見て、そいつが地球ともこの星とも異なる世界から来た種族であることを確信した。
その怪人は奇怪な声を上げながら、頭のチョウチンアンコウに似た突起からばしゃ!!と黒い液体を噴出した。
「危ない!」
ルイズが瞬時にシエスタを捕まえてハルナの元へと引っ張ることで回避、黒い液体はシエスタが持ち運んできた布団の山とにかかった。
次の瞬間、驚くべき光景が現実のものとなった。
「き、消えた…!?」
なんと、黒い液体にかけられた布団がうっすらと、まるで最初から無かったかのように消滅してしまったではないか。
あの液体にかけられたら、つまり…


消される。


最悪の事態を想定した三人は怪人に戦慄する。すると、その怪人はルイズたちにその不気味な並びをしている目を向けてきた。どういう意図かは分からないが、この怪人はどうやらとにかく人間を消したがっているようだった。
「さ、サイト!!早く来て!!」
ルイズが必死になって叫ぶ。その間に怪人はルイズたちのほうへ、不気味な声を漏らしながら近づいてきた。
それと同時だった。
「大丈夫か、三人とも!」
「サイト、コルベール先生!」
開きっぱなしの扉からサイトとコルベールの二人が飛び込んできた。
「な、何者だ!この神聖なる魔法学院に進入する不届き者め!」
怪人の姿を見たコルベールが杖を握って怪人と対峙する。
「こ、こいつは…!!」
一方でサイトは、その怪人の姿を見てぎょっとした。この薄気味悪い、グロテスクとも取れる容姿をしているこの怪人…間違いなかった。


『こいつは…誘拐怪人ケムール人!!』


ケムール人。かつてウルトラマンが飛来する以前の地球にて、いくつもの行方不明事件を起こした、未来に当たる2020年のケムール星から飛来したとされる宇宙人だ。
宇宙人がこうしてまた自分の前に現れる。
宇宙人は怪獣と違って地球人と互角かそれ以上の知性を持つ固体ばかりだ。それゆえに怪獣よりも知恵を働かせることができるという点は厄介だ。
「ケムール人!ルイズたちから離れろ!」
「いかん、サイト君!このような狭い場所で長剣の利用は危険だ!」
警告をいれ、デルフの柄に手を触れようとしたが、横からコルベールが活を入れてきた。
ケムール人との距離も、そもそもこの部屋自体も戦闘を行うには狭すぎる。よって、デルフを使った戦闘は行えず、ガンダールヴの力も発揮されない。ルイズの魔法は狭い場所では威力が集中しすぎる。コルベールも炎のメイジだから木製の部屋の中での利用は自殺行為だ。
ケムール人はちょうど部屋の真ん中に立っており、一見挟み撃ちしているようにも見えるが、全く違う。どちらかといえばケムール人に三人を人質にされているような状況というべきだ。
まずい。助けに来たのはいいが、かなりまずい状況だ。
ケムール人は、標的をサイトたちに変えると、彼らに向けて頭の突起から黒い液体を噴射した。
「先生!!」「ぬぅ!!」
二人はすぐさま廊下へ転がり出ることで避けた。しかし、このままでは何時まで経っても埒が明かない。
「サイト君、ここは私が応援を呼ぼう。すまないが、それまでなるべく1秒でも長く時間を稼いでくれ!」
「はい!」
コルベールは、ここはやむを得ず学院に残っている戦力集めのために一度引き上げた。サイトもそれを受け入れ、ケムール人と1対1で対峙する。コルベールがいなくなった分、部屋に余裕ができた。
「この野郎…ルイズたちには指一本触れさせねえぞ!」
サイトはケムール人に向けて宣言する。その一言はルイズたちの胸を一瞬だけ高鳴らせた。

…ん?

ふと、サイトは何か違和感を覚えた。昔にも、なんか似たようなことがあった気がする。こういったことをデジャヴというのだろうか?
『おいサイト!自分で言った傍からボーっとしてんじゃねえ!』
ゼロの警告が頭の中に響くと同時に、ケムール人がサイトに向かって飛び掛ってきた。
「ぐ!!」
サイトはそれに応じて、掴みかかってきたケムール人の両腕を逆に掴み返す。ものすごい力だった。人間のそれとは比べ物にならない。投げた押し、警察官のように床の上にさえつけ、両腕を封殺してやろうと思っていたが、ここまで力強い相手では無理に思えてくる。
「ンの野郎!」
だったら足だ!サイトはケムール人の腹に蹴りを叩き込んで怯ませた。腹を押さえながら後ろへ下がるケムール人。そこからすかさず、サイトは腰からウルトラガンを取り出し、ケムール人に銃口を向ける。すると、ケムール人は頭から真っ黒な液体を飛ばしてきた。
「あぶね!」
間一髪避けたサイト。しかし、次の瞬間からサイトは窮地に立たされた。ケムール人は真っ先に目についたベッドのハルナを無理やり立ち上がらせ、腕の中で彼女の首を押さえつける形で彼女を捕えてしまった。
「ぐぅ…!!」
「ハルナ!」
「人質のつもり!?ずる賢いやつね!」
ルイズが悪態をつくが、対するケムール人は嘲笑うようにふぉっふぉ、と声を漏らしてくるだけ。なんとでも言うがいいと言っているのだろう。現にその声にはこちらをあざ笑う意志が感じられる。
(くそ、これじゃ手出しが…!)
ケムール人が、脇腹が隙だらけとなったサイトの脇腹に蹴りを入れる。
「ぐ!」
続けてはサイトを放り投げ、壁に彼を叩きつけた。ずり落ちたところで、立ち上がることさえ許すまいと、彼の腹を何度も蹴りつける。
「平賀君!」
しまった。サイトは腹を押さえながら膝を突いた。隙を大きく広げられたサイトを、ケムール人はゆっくりと見下ろす。
「!みんな、早く逃げろ!」
自身の絶体絶命を思い知り、サイトはルイズたちに向けて必死に叫んだ。
「…邪魔ダ」
ずっと言葉を発さなかったケムール人の頭の突起から黒い液体が噴出、サイトの体に頭からばしゃ!とかかってしまった。
「あ…ああ…!!」
その光景にハルナは口を押さえ、ルイズとシエスタは唖然とする。あの液体はかけられた対象を消滅させる。つまり…
「く、くそ…あ、あああああ!!!」
「相棒おおおおおお!!」
黒い液体をふき取ろうとしたものの、それは悪あがき。サイトの体がデルフもろとも見る見るうちに空気に溶け込んでいき

…跡形も無く消滅した。

「い、いやああああああああああ!!サイトさあああああああああん!!」

「サイト…サイトおおおおおおお!!!」

ルイズたちの悲鳴が魔法額院内に轟いた。
 
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