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逆襲のアムロ

作者:norakuro2015
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23話 数々の星屑たち・・・ 5.12

* ソーラレイ宙域 クワジン級 ギレン艦 艦橋 5.12 9:00


ギレンは艦長席にて、数々の戦況報告を受けていた。ほとんどが悲鳴に近いものだった。最初は小さな石が少し飛来してきただけだった。しかし時間が経つにつれ、それが大きくなってきて、更に量も増えた。それが四方八方からソーラレイに向かっているということだった。

ギレンの手持ちの戦力での打開はいわゆる機械相手ならばできたが、自然の驚異に関しては無抵抗だった。

ギレンは頭を抱えた。ワイアットの企みが明らかになったが、地球圏内だけしか目を向けていなかった自分の視野の狭さを呪った。一統治者としての限界もあったのかもしれない。それを言い訳にすることはできない。起きたことにどう対処するか、それを考えていた。

「(とりあえず、掛ける保険は掛けておいた。この事態でもそれが対応できるかもしれん。地球を汚染するためだったが・・・。已む得まい。後はあの女豹がどう変わるかに期待だが・・・)」

艦橋にシャリアが現状の報告にやって来た。何度も往来してきていたが、相変わらず表情が硬い。

「総帥・・・。ソーラレイは完全に使用不能に陥りました。あの石の大軍を処理するには許容がありません」

「わかってる。全ては私の責だ。これで前線は崩壊するだろう。しかし、戦況とは終結を見るまで、どう変わるかはわからんぞ」

「ど・・・どういうことでしょうか・・・」

「情報は得てして、様々な姿を見せる。連邦がこの決着を望まないものに期待でもしようか」

人心について、統治者であるギレンには関心事であった。連邦は内部で派閥闘争に明け暮れている。そこに付け入る隙がいくらでもある。ギレンは様々な種を撒いた。それが開花せずとも、芽生えればよい。その工作がこの3年間という連邦からの統治権の保持を獲得できていた。

ジオンの勢力維持にソーラレイもあったが、連邦は経済制裁などでジオンを崩壊に追い込むこともできた。しかしそれが出来なかったのも彼が人心を利用していたに尽きた。目先の利をちらつかせれば、それにいとも容易く食いつく。

戦火を利用とする愚者たちは中々の力を持っている。それが市民生活に一部となっていれば尚更だった。それがアナハイムやハービック、ヴィックウェリントン等・・・。

ギレンは前線の様子を確認した。

「ところで今公王の艦隊はどうなっている?」

オペレーターが状況を確認して、ギレンに伝えた。

「はっ。敵はこちらのソーラレイ使用不能が伝わったらしく、鶴翼陣形にて公王陛下の艦隊を半包囲しようとしております。シーマ別働艦隊は公王陛下の中央を割って入るようにコロニーと共に侵入しようとしております」

「ほう」

ギレンはシーマの動きに期待していた。混戦模様になって、ワイアットの間を割くようにコロニーが侵入する。阻止限界点からは大分距離がある。それを包み込むように連邦も殺到するだろう。

シーマにはその命と地球の大気圏内にて、各都市への攻撃用のミサイル群を発射させる装置を持たしてある。コロニーにそのような細工をしていた。全てのミサイルが非公式での入手、つまり核だった。

「元々、南極条約を破って来たのは連邦の方だからな。もはや効力などあるまい」

「は?」

シャリアはギレンの独り言に驚いた。総帥はまた何か思惑がある。それも過激なもの。シャリアはあえてそれについては言及しなかった。たまに苛烈さにあてられて、気の迷いを生じる時があった。自分の理想を求める上では汚れ仕事も必要だと分かってはいるのだが、気が引くのは良心が残っているからだった。


* ワイアット艦隊 ジオン本隊 交戦宙域 ワイアット旗艦 艦橋 同日12:00


ワイアットは冷静だった。特別喜ぶこともなく、隕石群の攻撃でソーラレイの無力化に成功、後始末だけだった。

「両翼、ゆったりと包み込むようにジオンを殲滅せよ」

ワイアットの号令により、戦況を映し出しているモニターが各々の動きを表示させていた。
徐々に半包囲態勢が整い、ジオンの艦隊が為すすべなく撃ち滅ぼされていく。

オペレーターが再編を済ましたデラーズ艦隊が左翼から迂回して攻撃、並びシーマ艦隊がコロニーと共に艦隊の中央を割って入ってくるという報告をもたらしていた。

「そうか。左翼に迎撃を命じろ。中央を割って入ってくるコロニーについては本隊が対処しよう」

ワイアットはオペレーターにそう伝令をするよう命じた。バスクの艦隊が戻って来て、ジオンの退路に蓋をする計画であったが、現れていない。

「(何をもったいぶっているのだバスク。完全なる勝利をもたらすためにはお前の戦力が必要とする。少し頼り過ぎたのか・・・)」

バスクはジャミトフの部下であり、コリニー派閥でもあった。今は再び地球圏統一の機会のため、内部のいざこざを無くして、挑んでいるはずだった。

「(何を企んでいるのか・・・)」

高揚できない理由がそこにあった。

一方、ワイアット艦隊の左翼に合流していたシナプス隊も戦闘の最中にあった。
無口で定評のある操舵手のイワン・パザロフ大尉が唸っていた。

「ええい!避け処がない」

アクラム・ハリダ中尉も頭を掻きながら、航路を探すに手一杯だった。

「艦長!右も左も死地です」

「なら、前進しかあるまい」

シナプスが叱咤する。それにシモンが反論する。

「艦長!それでは我が艦だけ突出してしまいます。味方との連携をとらないと」

スコットが計算機で弾き出して、効率良く戦えるポイントをハリダの手伝いで探していた。

「艦長。天底方向に敵の薄い所があります。後退するにも後ろからの味方の前進に阻まれておりますので、そちらに一度退避がよろしいかと・・・」

シナプスはスコットの意見を聞き、ハリダの確認を取り、即決した。

「よし!スコット軍曹。モビルスーツ隊に入電。本艦は戦闘宙域の変更をする。各自遅れずに移動せよ」

「了解。各パイロットに通信文を送ります」

スコットは急ぎで通信文を打ち込んでいた。その傍でニナとルセットは不安そうに戦況を眺めていた。
その姿を見たシナプスは2人に謝罪した。

「ニナさん、ルセットさんと呼んでも良いかな?」

ルセットはシナプスの問いかけに頷いた。

「ええ。大丈夫ですよ。と、この場で大丈夫という言葉が当てはまるのか疑問ですが・・・」

「そうですな。お2人共民間人であるにも関わらず、巻き込んでしまっている。絶対に生きてアナハイムに戻す事お約束致します故、もし具合が悪ければ、自室にてお休みください。仮に戦場から離れることのできる機会があれば脱出していただきます」

激戦の渦中にあるアルビオンの中にいる民間人の2人にとっては戦場は異質なものであった。
2人とも艦橋に残ることに決めていた。理由は死ぬならば、艦橋で自分の死ぬ状況を知って死にたい。閉鎖的な部屋で恐怖に駆られている方がよりストレスなためだった。

「いいえ、艦長。ここにルセットと共に残ります」

「ええ。ニナの意見に賛同しますわ。艦長、ここに残らせてもらいます」

シナプスは覚悟を決めた2人の顔を見て、再び戦況モニターに目を戻した。そして1つ付け足した。

「よくわかりました。だが、軍人としては貴方達を脱出できるタイミングで脱出させます。それは肝に銘じといてください」

2人ともその話に無言で頷いた。

ニナは戦場のどこかにいる2人に気持ちを馳せていた。

「(コウ・・・ガトー・・・。どうして、貴方達が・・・)」

ルセットはニナの複雑そうな顔を見て、また悪そうな顔をしてニナをいじることにした。

「ニナ~。また両天秤に掛けているでしょう。貴方、そんな優柔不断だと良い事ないよ~」

「なっ・・・ルセット。ほっておいて!」

ニナは図星を当てられて、ルセットに怒っていた。
ルセットはこんな死地でもこのようにはしゃげる環境にいられることをニナに感謝していた。

バニングはこれで10機目のゲルググをアデルと共に撃墜していた。モンシアとベイトは補給と休憩のため、アルビオンに帰投していた。そのため前線に出ているのはバニング、アデル、アレン、キース、アムロとコウだった。

戦い始めて、丸1日経っていた。戦闘は疲労との戦いでもあった。迂回してきたデラーズ艦隊を迎撃し、そこを突破してコロニーに取りつくつもりであった。

戦略的には既に勝敗はついているのだが、依然敵の戦意は衰えていない。彼らにはまだコロニーがあった。

そしてコウの前に再びノイエ・ジールが補給と修理を終えて姿を現していた。

「ガトーか!」

「むっ!ウラキか」

両者とも互いの大きな機体にすぐ気が付き、攻撃を始めていた。
スレッガーの教えを元に、コウは距離を取り、どこのポイントでの攻撃が次につながるようになるか、できるだけ見極めながら、ここまでの戦闘をこなしてきていた。その結果、ここまでの戦闘がより効率化され、弾薬の消費量や本人の体力の消耗等を軽減されていた。その事に自分でも驚いていた。

コウ自身も元々学習できる方だった。短期間でGP03も使いこなせていた。スレッガーの客観視論は自身の効率化だった。

ガトーもコウの攻撃のスタイルの変化に戸惑っていた。

「こやつ・・・動きが変わっている。厄介な方に・・・」

ガトーは攻めの姿勢から若干守勢に回ったりし、本来の積極性が為りを潜めていた。
その事に気が付いたコウは効果があると踏んで、よりガトーの動きや機体性能に不利な状況を自分の中で探しながら、ガトーの攻め手を詰めていった。

コウのガンダム自体の元より小回りが利くものではないので、ある程度の距離からビーム砲やミサイル等をガトーに浴びせていた。ビームはI・フィールドで、ミサイルは避けるか撃ち落としていた。
しかし、避け切れないものが機体に掠め、ノイエ・ジールの性能の低下を徐々に招いていった。


* クワジン級 デラーズ旗艦 艦橋 同日 14:15


戦闘については敗戦濃厚だが、ジオンのコロニーは未だ健在でそれを阻止限界点まで持っていくことのみに執着していた。負けない戦いはできるとデラーズは自身の艦隊状況を把握していた。

ところが秘匿回線でギレンからデラーズ宛てに連絡が入ってきた。

「モニター通信で会話する。艦橋に回してくれ」

デラーズがオペレーターに命ずると、艦橋のモニターにギレンの顔が映った。

「息災でなによりだデラーズよ」

「はっ。激戦の最中、兵士たちはコロニーに全てを託して奮闘しております」

デラーズはギレンに敬礼をし、直立不動となっていた。
ギレンは目を閉じ、少し間を置いてから再び見開いた。

「デラーズ。お前の艦隊をその場よりマ・クベの艦隊と合流するべく転進させろ」

「は?・・・」

デラーズはギレンにこの戦場を放棄せよという指令に戸惑いを覚えた。
ギレンは少し笑い、再度デラーズに伝えた。

「デラーズよ。その場にいるとお前も死ぬぞ。それよりはもう一つのコロニーをケアにあたれ。以上だ」

ギレンは一方的に通信を切った。デラーズは自身の艦隊を月の方角へ転進することにした。何より総帥の指令である。従わない訳にはいかなかった。

戦闘中のガトーも帰投し、その宙域の放棄について伝わっていた。
その指示にガトーは吼えていた。

「戦闘中止だと・・・バカな!」

友軍の奮闘を見捨てて、月より来るコロニーの防衛にあたるという話だった。またもや犠牲を目の前にして、大義を為そうという話だった。ソロモンのソーラレイと同じ。ソロモンの時の苛烈さのことも苦渋を飲み、ここに居る。ガトーは已む無しと決意し、後退することにした。

バニング隊はデラーズ艦隊のモビルスーツ隊がこぞって後退していく様を見た。それに追撃はしなかった。既に疲労が蓄積されて、それどころではなかった。

バニングの傍にアムロがやって来ていた。

「バニング大尉。敵が後退する」

「ああ、レイ大尉。確認している。我々もここいらが潮時だ。アルビオンに帰投しよう」

その時であった。ワイアット艦隊の中央部から閃光が放たれていた。
途方もない光量だった。

アムロ、バニング共にその眩しさに目を隠した。

「なんだ・・・一体」

バニングはただただ驚いていた。アムロはその正体を直感で感じ取っていた。

「核だ!・・・それもかなりの数」

コウもその光を見て、眼を隠していた。

「何の光なんだこれは!」

帰投中のガトーもその光に目を奪われていた。

「・・・そういうことか・・・」

ガトーは光のある宙域の情報を計算機で弾き出していた。コロニーが丁度ワイアット艦隊の先方とジオン本隊に差し掛かっていた。その宙域のグレートデギンもきっと巻き込まれているだろう。

その時、横から友軍であるシーマ艦隊がガトー含む、デラーズ艦隊へ攻撃を掛けてきていた。

「っぐ・・・おのれ!」

ノイエ・ジールはミサイル攻撃を受けて、横に揺さぶられた。
攻撃してきたムサイを見つけては、それに向かって突撃した。

「貴様らー!武人としての誇りを忘れたか!」

ガトーの怒りの一撃をムサイはまともに受けて四散した。
ガトーは無線を傍受し、シーマが連邦と内通していたという報告を受信していた。
シーマの動きは既にデラーズの旗艦を捕捉していた。

「間に合うか・・・」

ガトーは全速力でデラーズの下へ急いだ。

シーマはコロニーの制御をグレートデギンに任せて後方に下がり、デラーズ艦隊と連携して、敵左翼の迎撃に努めると報を司令部に伝えていた。

その報にキシリアは戦術的に理に適うと思った。片翼を捥ぎ取ることで中央の負担を軽減するという策は有利に働く。ましてや密集している本隊にシーマ艦隊の配置する隙間などなかったのも理由の一つであった。

そしてグレートデギンの横をコロニーが通過して行った。その巨体にデギンとキシリアは感慨深く眺めていた。

「これで、宇宙の権利、権威が世に示されるのだ」

そうデギンが語ったとき、白い閃光が艦橋を包み込んだ。

シーマは既にその光の効力に届かない距離に位置し、デラーズ艦隊へ向かっていた。
シーマの座乗艦リリー・マルレーンのモニターにはシロッコが映し出されていた。

「よくやってくれたシーマ中佐。これで君たちの連邦の席を用意することができよう。君たちが宇宙を平和に導いてくれたのだ」

シーマはシロッコの姿を見て、紅潮していた。

「ああ、アンタの言う通りにしたんだ。それなりの期待をさせてもらうからな」

シロッコは微笑を浮かべ、シーマを労った。

「当然だ。私は誠実な男だ。君の様な素敵な女性を今まで汚れ仕事を押し付けていたジオンにこそ罪があり、今その報いを与えることができた。まして君の手でな」

シーマはジオン本隊の反応の半数が消えたことが確認できていた。グレートデギンの消滅も確認している。つまりデギンとキシリアがこの世から消え去ったのだった。

ギレンは生き残っているが、それも連邦の戦力があっという間に一網打尽にしてくれるだろうと予想していた。

コロニーもワイアット艦隊が始末するのだろうと睨んでいた。それをシロッコに尋ねてみた。

「シロッコ。あのコロニーはワイアットが何とかしてくれるんだろ?」

シロッコは無言で頷いた。そしてシーマがデラーズを叩いた後に再び地球軌道上のステーションで再会しようと約束した。そのことにシーマは喜んでいた。シーマも何故自分より年下のシロッコに想いを馳せたのかはよくわからない。ただ恋愛というものは、いつの世も不可解なものだという話だった。

ワイアットはコロニーの異変により、ジオンの半数が消滅したことに戸惑いを覚えていた。
しかし、それが誰の仕業が答えがすぐにやって来た。オペレーターが通信でジャミトフからワイアットへ取り次いで欲しいという話を持ってきていた。

ワイアットは苦虫を潰したかのような顔で、残敵の掃討とコロニー内部に潜入しての進路変更を命じ、ジャミトフと通信を受けた。通信モニターにジャミトフが映っていた。

「やあ、ジャミトフくん。君がどうやら我々の戦いに水を差したようだね。まあ被害が軽微に済んだのは有り難いが、謀略は正直好かないな」

ジャミトフは苦笑し、ワイアットに語り掛けた。

「大変申し訳ございません将軍。あともうひと押し、将軍のお手伝いをさせていただきたく連絡致しました」

「手伝いだと・・・なんだ」

「はい、バスクは月のコロニーに向かわせております。将軍には作戦行動に水を差してしまいましたが、一応コリニー将軍の許可と参謀本部の許可を頂いております。そして、それを伝えるに激戦下で困難でありました。ご了承ください」

ワイアットは不満に思った。しかしこの艦隊が無事である以上、コリニー派閥を潰せる機会があることに変わりないため、言う通りにしてやることに決めた。

「わかった。結果上々なことだからな。後はギレンを潰すだけだ。それは我々でやらせていただこう」

そう話している時にワイアットの座乗艦の傍を悠々とコロニーが通過しようとしていた。
ジャミトフはその状況を見て、思い出したかのようにワイアットへ伝えた。

「あー、将軍。将軍へのお手伝い、つまりコロニー処理につきましても我々もやらせていただきたく思いまして、よろしいでしょうか?」

ワイアットは疑問に思った。コロニーの処理を遠く離れたところから作業をすることに。その時、コロニー内部に潜入した部隊から報告があった。

「将軍!申し上げます。コロニーの制御が破壊されており、手動操作での進路変更が利きません!」

ワイアットは全砲門でコロニーを破壊するしかないと考えた。部隊を編制して、コロニーを攻撃する。その報告を通信中のジャミトフも聞いていた。

「将軍。それならば尚更です。我々が爆破処理しましょう。既にこの時の為に特殊部隊を編制済みです」

ワイアットはジャミトフの提案を受け入れることにした。既に想定済みならば、それを使うのも已む得まいと。

「わかった。ジャミトフ、君の好きなように・・・」

ジャミトフは目を見開き、大いに喜んだ。

「将軍、理解が早くて助かります。では結果をすぐにでも出して差し上げます」

そう言ってジャミトフが通信を切ってから、数分後コロニーは消し去られた。
しかし、ワイアットも一緒に消えていた。

アルビオン艦橋でワイアットの旗艦の消滅とコロニーの消滅、並び宇宙艦隊の半数以上の消滅が確認された。各艦への連邦参謀本部よりの通信文がもたらされていた。

それをシナプスが受け取り読んだとき「やられた」の一言だった。

アムロもその通信文を読んだ。

「連邦本部より、ワイアット提督のコロニー処理の不備、並び連邦への叛意の意志が見られた。彼は連邦本部を自身の派閥によって支配しようと企んでいた。連邦は彼のものではない。しかし、彼はそれをコロニーを使って脅してきた。よって、コロニーレーザー<グリプス2>により、全てを処理した。各自ジオンの残敵を掃討しつつ、バスク大佐の指示の下、月から襲来する残りのコロニー処理にあたること。以上だ」

艦橋にいる全クルーが沈黙していた。

状況は2転3転していた。ソーラレイ破壊、ジオン本隊の壊滅、コロニーの消滅、ワイアットの粛正。
そして、シナプスにとって一番の悲報が通信文により連邦本部からもたらされた。

シナプスはそれを読み、ため息をついた。今度はそれをバニングが読んだ。

「アルビオンの全クルーに告ぐ、貴官らのGP03の強奪は本部としても看過できない。よって軍法会議にて裁くことになる。それまで軍事行動は控えるように」

モンシアはその文面に怒りを覚えた。

「あの堅物どもめ!現場で頑張っている奴らを何だと思っているんだ!」

艦橋にいる皆が頷いていた。しかしながら状況は4転目から5転目に差し掛かった。
シモンがある宙域からの艦による秘匿通信がアルビオンにもたらされていた。

「誰からだ?繋いでくれ」

艦橋の通信モニターに映し出されたのは若き連邦議員のガルマだった。
ガルマは悲観的状況のアルビオン艦橋を眺めて、笑顔で話し掛けた。

「やあ、諸君。諸君らの活躍はブレックスさんから聞いているよ」

シナプスは初めて見るガルマに戸惑っていた。
とりあえず自己紹介をした。

「ガルマ議員。私がこの艦の長を務めておりますエイパー・シナプスと申します」

「ああ、ガルマ・ザビ議員だ。よろしく。さて、貴官たちは絶望的な状況にある」

艦橋のクルーがこの状況をガルマが知っていると認識した。ガルマはシナプスに提案を持ち掛けた。

「そこでだ。私とバウアー氏で働きかけて、GP03の返還で手打ちにしようかと思う。その後、貴官たちはこれから結成される部隊への配属を取り付けたいと思うのだが、いかがかな?」

ガルマの提案にシナプスが少し混乱した。傍で聞いていたアムロがガルマに語り掛けた。

「小官はアムロ・レイ大尉と言います。手打ちの件はわかりましたが、結成される新部隊とは?」

「それについては私から説明しよう」

画面モニターにシャアが映った。その姿に艦橋がどよめいた。

「(シャアだ。赤い彗星・・・)」

シャアはどよめく最中、アムロ含めた艦橋クルーに話し始めた。

「君たちは我々カラバと同様の現連邦に対抗する組織エウーゴに参加してもらいたい。これからは連邦内部での武力闘争に発展する見込みだ。ティターンズの名前は聞いたことがあるだろう」

バニングが頷き、シャアに語り掛けた。

「ああ、現体制の強硬派だ。言うこと聞かない市民を弾圧していると聞く」

シャアもバニングの話に頷いた。

「そうだ。ワイアット将軍の死により、それは加速され、もはや市民抵抗の為す術が失われつつある。地球絶対至上主義者の野望を断固阻止しなければならない。既に連邦でも内部分裂が鮮明化しつつある。シャイアンに幽閉されていたダグラス中将がテネスらの支持派閥により、独自に地球内でティターンズの反対運動として、ジャブロー制圧に乗り出そうとしている」

シナプスは驚いた。現体制の反対運動が連邦軍部でも武力衝突として起き始めている現実を。

「各企業の参加もこれみよがしに盛んになっている。内戦の動乱はもはや避けられない。連邦本部などもはや機能不全も等しいわけだ」

全クルーはシャアの話に皆意見を一致させていた。
シナプスは代表して、ガルマの意見を了承した。

「わかりましたガルマ議員。GP03は返還します。送り先等よろしくお願い致します」

「ああ、任されよう」

ガルマは笑顔を見せた。そしてアルビオンの次の進路を伝えた。

「では、諸君らにはサイド1のロンデニオンに向かってもらいたい。そこで我々の用意してある新型を使ってもらう。アルビオンもドッグ入りし、新たな旗艦を用意しよう」

アムロはガルマにもう一つのコロニーの処理について質問した。

「もう一つのコロニーをどうするのだ。バスクが処理するらしいが、大丈夫なのか?」

「ああ、その点については問題ない。バスクの処理を我々で遠見するつもりで宇宙に出てきている」

「なんだと。シャアたちが既に宇宙にいる?」

シャアがそれについて説明した。

「ああ、アムロ。既にヘンケン中佐の下、新造艦ラーディッシュでの処女航海中だ。カラバの新鋭機リック・ディアスも載せてある。スペック等はトリントンで披露した通りだ」

「そうか。オレたちが受領するのもリック・ディアスという代物か?」

「ああ、そうだ。旗艦も同等のものを用意してある」

アムロはコクリと頷いた。そして通信を終えた。

シナプスは全クルーに現体制の軍から外れ、独自の行動を取ることを説明した。それに従えないものは現体制の軍法会議が待っていることも告げた。

皆がシナプスの話に従うことにした。アルビオンは進路をサイド1のロンデニオンへ進路を取った。

バスクはその後マ・クベ艦隊を敗走させ、コロニーを制御し事なきを得た。ジャミトフはグリプス2のテスト照射による修繕・改良に努めるためその場に残り、ジャマイカンに艦隊を任せ、手薄のソロモンを攻略させた。

ギレンは自身の艦隊を率い、ソロモン攻略中のジャマイカンを無視し、グリプス2へ急襲、破壊した。ジャミトフは十分な戦力を持たない状況でのギレンの襲来に恐れをなして、ルナツー方面に逃げ延びた。

ジャマイカンがソロモンを制圧後、グリプス2の危機を受け戻ったが、既に破壊されて、ギレンはそこには居なかった。

デラーズ艦隊はシーマ艦隊に壊滅に追いやられ、シーマの乗機ガーベラテトラにより、デラーズ旗艦は撃沈された。ガトーが着いたときには既に時は遅く、シーマの姿もなかった。

「・・・また、オレは生き残ってしまった・・・」

ガトーは途方にくれながらも、ハスラーの言葉を思い出していた。

「(ゼナ様の力になって欲しい)」

ガトーは傍にいるケリィとカリウス、残りの友軍を率いて、ハスラーの下へ向かうことにした。

宇宙は多大なる犠牲と共に更なる混迷を深めることになる。
疲弊し、失われた力を取り戻すにも両軍ともに困難を極めた。

時は流れてUC0086.1月。
様々な勢力が小競り合いを続けて、戦乱はまた新たな様相を見せようとしていた。


* オーガスタ研究所 UC0086.1.4 10:00


ナナイは突き飛ばされて、壁にもたれかかっていた。元々ただの研究機関で何の武装もない。そこにシロッコが兵士を率いて制圧してきた。

シロッコの目の前にはララァが居た。ララァは悲しい顔をしていた。

「・・・貴方はとても優れた方なのに、今ある危機を見えていないのですか?」

ララァはシロッコにそう語り掛けると、傍に居たシーマがララァを殴ろうとした。しかし、ララァに触れることができない。

「何故・・・」

シーマは驚いた。シロッコが高らかに笑った。

「ハッハッハ、どうやら一定の成果を得たみたいだなララァさん」

ララァはコクリと頷いた。シロッコは軽く手を伸ばして、ララァの腕を掴んだ。

「・・っつ痛い・・」

ララァは軽く悲鳴を上げた。シロッコは見下してララァに話しかけた。

「君の能力はそんなことに使うものではない。世界をまとめ上げるにはある程度フロンタルの思惑に乗る必要があるのだ。人はあらゆる苦難の中で革新を迎えることができる」

「私は・・・その災厄より、人類を守らねばなりません。貴方の思い通りにそのフロンタルという者が動くのでしょうか?彼が嘘を付いていると思いませんか?気づいた時には人類は滅んでいることでしょう」

「そうは私がさせん。フロンタルの思惑が仮に人類全ての粛正ならば私が止める。しかしギレンの様な革新的な考えでも、人は凡人のままだ。君の才能で世界を一つにまとめ上げる。君の様なニュータイプを旗頭に人類を選別しよう」

「私が協力するとでも?」

シロッコは手で研究所の外へ促した。ララァはここに居ると職員の生命の危険があると感じ、研究所の外へでた。

そこには漆黒で通常の大きさのモビルスーツがあった。シロッコはそれについて説明した。

「MRX-012サイコガンダム。ムラサメ研究所開発の機体だ。君はこれに乗って、ちょっと適応してもらう」

「適応?」

「ああ、さあ乗りなさい」

ララァは促されるまま、サイコガンダムのコックピットに座った。ララァはその乗り心地の最悪さを肌で感じた。するとサイコガンダムが起動し始めた。

「あ・・・ああ・・・」

ララァは脳に強制的な命令が植え付けられるような感覚に陥った。
シロッコはリモコン操作でこのガンダムを操作可能としていた。自身は傍にある黄色い機体に乗り込み、兵士らも各々メッサーラに乗り込み、その場を後にしていった。

異変に気が付いたシャアが駆けつけたのはシロッコたちが去った後だった。
研究所に入ると、ナナイがふら付きながらシャアに駆け寄った。

「シャアさん・・・すみません。シロッコという者にララァを・・・」

「そうか・・・わかった。すまなかったな」

そうナナイが言うとシャアの腕の中で気絶した。
傍に居たジーンにナナイを託し、ニューヤークに寄港中のネエル・アーガマへ連絡を取った。

「・・・ヘンケン艦長か。シャアだ。シロッコにララァが攫われた」

「何だと。一体何を考えてやがる」

「ララァのサイコ・フィールドの能力は、あらゆる兵器を無力化できる。ララァの能力を全面に発揮されれば、仮にコロニー落としするにしても全ての攻撃や侵入を妨げるから防ぎようがない」

ヘンケンはシャアの指摘に背筋か凍り付いた。

「・・・まずいんじゃないか・・・」

「ああ、相当マズい」

「分かった。ロンデニオンのブライト准将やトリントンのブレックス大将、並びヨーロッパのダグラス大将にも連絡を入れておこう」

「そうだな。ガルマには私が伝えよう」

「わかった。してその後、シャアはどうするのだ?」

シャアは考えていた。地球と宇宙でティターンズとエウーゴの戦い、並びジオンがギレン派、ゼナ派で争っている。この3年の年月で全てにおいて更に疲弊していた。

昔と比べ膿を出し終えてきたと実感がシャアにはあった。ガルマもその意見に同調した。もう一息で世界が落ち着きを取り戻すと。

シャアは地球でのティターンズを一掃をするとヘンケンに伝えた。その上でララァの情報を得ようと。

「そうだな。コバヤシ氏にも伝えて、ティターンズの基地を潰していくことにしよう。アナハイムよりシャアの新機体も届いている」

「ああ、例の金色か。趣味が悪いな」

「ナガノ博士に文句は言ってくれ。それに加えレイ博士の案もそれに組み込まれているそうだ」

シャアはアムロの父親の名前が出たことに驚いた。

「レイ博士?アムロの父親も金色に携わったのか?」

ヘンケンは頷いた。

「そうだ。コックピット周りを特殊金属でコーティングされているらしい。サイコ・プロセッサーという代物だ」

シャアはこのオーガスタ研究所のララァのブースを思い出した。要するにサイコフレーム<様式>というものかと。

「私にもその才能があるのかな・・・」

シャアは自嘲していた。ヘンケンは謙遜するなと声を掛けた。

「アムロ大尉からの推薦でもあるらしい。シャアならばという話だ」

「そうか。まあ頂けるならば有り難く頂戴しよう」

それからヘンケンと少しやり取りをして、通信を終えた。
外に出たシャアは冬ながら穏やかな気候に清々しく思えた。

「このように世界も平和であればよいのだがな・・・。贅沢は言ってられない」

シャアは部下と共にその場を後にし、ニューヤークへ戻っていった。
 
 

 
後書き
*サイコガンダムの仕様が変更になります。
既にこの時代のサイコフレーム等のサイコミュ技術は進化を遂げ、サイコガンダム程の大きさでなくても開発が可能となっております。 
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