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ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──

作者:なべさん
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GGO
~銃声と硝煙の輪舞~
  戦場戦塵を往く

「ォ、あ゛あ゛あ゛あああああぁぁぁァッッ!!」

血を吐くような雄叫びとともに、眼前にまで迫っていた白刃が硬い音を伴って弾かれた。

しかしそれをまとめて塗り潰す勢いで迫る次弾、次々弾を長い前髪の奥からキッと見据え、荒く、熱い呼気を少年は吐き出した。

レンとユウキが、生まれ出た《災禍の鎧》マークⅡと戦い始めてどれくらい経っただろう。

前々から溜まっていた精神の疲労がモロに出始め、すでにアバターの動きは全開時と比べてもかなりキレがなくなっている。手足は重く、まるで囚人のようなデカい鉄球が常時ぶら下がっているような錯覚を得た。

朦朧とする視界を、心意の副次効果によって血液描写の抑えがなくなり、血塗れになっている手の甲でこする。

ぬちゅ、という湿っぽい音とともに、ただでさえ狭窄した視界が赤に染まった。

すでに、単純な速度で言えばユウキに劣っている。彼女のフォローを受ける回数もだんだんと増えてきた。

「55……56……57……レン!カウント60!!主砲、来るよッ!」

「ッ!!」

霞んだ瞳を上空へ向けると、環状動物のような有機的な曲線を描く主砲の奥底で、闇色の炎が瞬くように明滅していた。

欠片もその存在感を減じない《絶世(デュランダル)》を構え、受けの体勢を取るユウキに対し、少年は重い両脚にグッとなけなしの力を籠める。

すでに《穿孔(グングニル)》の重みも往時の半分以下だ。神装の強さは、その殻の中に詰め込んだエネルギー量に依存する。重さはイコールで神装そのものの強度を表していると言っていい。

―――これ以上の顕現は危険……だけどッ!

これまでも、そんな場面は山ほどあった。

だが、いつだってそれを乗り越えてきた。想像より遥か先に、足を踏み出し、踏み入れてきた。

虚構(ホロウ)――――」

ずぅ、という得体の知れない音が響き、黒槍の石突部分のディティールが解け崩れ、その内部から溢れだした虚無の過剰光が穂先へと収斂されていく。

飛行機のジェットエンジン音にも似た高周波がまき散らされ、それに圧されたように小柄な身体がたわむ。だが視線だけは欠片も揺るがずに、真正面―――ー砲口の内部にわだかまる漆黒を見据えていた。

消滅(ハーゼ)ェェぇぇッッ――――ッ!!!」

咆哮。

同時に、撃発。

二条のビームがドス黒い圧迫感を放ちながら照射されたのと同じく、それと入れ替わるようにレンの身体が掻き消えた。

視界の外―――ーもはや言語では語れない領域内で、構えたユウキの長剣と光の柱が真正面から激突したのが分かったが、それには文字通り目もくれずに、少年はダメおしとばかりに槍を押し出す。

一瞬後。

鼓膜を丸ごと吹き飛ばすほどの轟音が、炸裂した。

一切の色味も艶もない真っ白な装甲板は、漆黒よりもなお黒い、闇を凝集させたような黒槍の一撃を、やはり避けようともせずに真正面から受け止める。

グギリ、という嫌な音が手首の辺りから響く。

叩きつけた運動エネルギーの全てが反射され、その負荷に耐えきれなくなった関節の悲鳴だ。

元来どんな物質だろうと、普遍的に衝撃吸収性を持っている。例えば、コンクリート塊やリノリウムの床でさえ、受けたエネルギーを百パーセント返すということはないのだ。

だが、マークⅡの有機装甲は違う。

純白のその表面に傷すらつけずに、受けた運動エネルギーのベクトルだけを真反対にしてきっちりと返してくるのだ。

生物の関節はそれほど応用性に富んでいない。本来の可動域外からの圧力には得てして脆く、弱い。

「づッ……ァああああッッ!!」

ギシギヂ、と。

真反対のベクトルを持つ二つのエネルギーの塊がぶつかり、甚大な余波をまき散らす。四方八方、向きなど関係なく自由気ままに解き放たれたそれらは、空間そのものに干渉し、不気味な亀裂を発現させた。

だが。

「ッ――――ぐ…ぅッ!」

眼前にそびえる壁は、揺るがない。

正確には、装甲の素材の硬度が桁外れに高いという訳ではない。マークⅡの元となっているのは、フェイバルの得物である針――――《檮杌(とうこつ)》だ。遠距離武器というそのカテゴライズ上、相対的に防御力は落ちるのが必然である。

だが、紛れもなく傷ついた手に帰ってくるのは、手応えではなく痛みだけ。

それは、拒否であり拒絶であり、同時に拒止であった。

それは、拒み、拒ぎ、拒む、絶壁であり絶望そのものであった。

だが。

それでも。

少年は奮然と、眼前の壁に前進した。

もはや小柄なアバターは、システムで規定されている仮想重力の影響すら受け付けていない。落ちる、という現象が、レンの魂が放つ熱によって常時上書き(オーバーライド)されているのだ。

イマジネーションによって発現する心意(インカーネイト)システムにおいて、イメージはすなわち力となる。マイナスイメージは自身の弱体化しか招かない。

他ならない自分自身を鼓舞するために、ノドが変な風に痙攣するほどの絶叫を迸らせながら、レンは槍と一体化したかのように唸る腕を突き出す。

槍と壁。

その接地点で、決して可視化できない力場のようなものが球形に広がっていくのを少年は感じた。同時、どうしようもないほどに槍本体が軋んだことも。

それを正面から受け止めれば、おそらくこの刹那的な硬直状態は解除され、体格的に劣るレンは吹き飛ばされてしまうだろう。そうなれば黒槍はその形状を維持することができなくなってレンの攻撃力はダウンし、すでに引きつけ役に回っているユウキでは戦線を支えられなくなる。

ギリ、と奥歯が砕けるほどに噛みしめられる。

《冥王》と《絶剣》

第三席と第六席。

その実力差ゆえに離された数字の上で、強者(じぶん)弱者(ユウキ)を守ることなど当たり前の義務――――などではなく。

もっと単純な話で、男が女を守るということは当たり前の責務――――でもなく。

ちっぽけな少年は、ただ本能のままに咆哮する。

―――ンなこと知るかッ!!

「助けるのに理由がなくて何が悪いッッ!!」

そこで。

その輪郭を不気味に歪ませていた神装《穿孔(グングニル)》の外殻が、とうとう臨界を迎えた。

シャボン玉のように、風船のように、段階的ではなく一気呵成的に破裂した殻は、その内包していた心意エネルギー全てを無作為に開放した。

結果。

ゴッッ!!!

単純な質量の衝突では起きない轟音が衝撃波を伴って宙空を薙ぎ払った。

その余波の、さらに端っこの切れ端のようなものが赤茶けた岩盤を削り、滑空砲もかくやというスピードで散らす。

圧倒的なエネルギーの本流を間近で受けて、しかしマークⅡの巨体は巌のように小動ともしない。白い装甲にはヒビ割れ一つ、それどころか焦げ目一つついていなかった。

対して、投げ出された小柄な身体が受けたダメージは想像を絶するものがある。

もともと蓄積し、動きが鈍っていたところを、受け身を取らせる猶予さえない至近距離で心意が爆発したのだ。

四肢がきちんと残っているのがほとんど奇跡のようなものだ。。

白煙をたなびかせながら宙空に放られたアバターに、地上でビームを逸らしていたユウキの絶叫が被さった。

「レンッ!」

だが、その声すらも分厚い油膜がかかっているようにくぐもって聞こえる。

上下左右、天地の区別がつかなくなる。

―――マズ……ッ。

その瞬間。

少年の意識は走馬灯のように現れた《部屋》に引きずり込まれた。










黒。

ビロードのように艶やかな、しかし炭のように光を逃さない黒が、あった。

四方の、上下の壁全てが真っ黒に塗りたくられた部屋。

レンはそこにいた。

見慣れた部屋。

いつも《鬼》達と会話する、唯一の場所。

いつもはソファーやグランドピアノのような調度品があるのだが、今回はその全てがない。真っ黒な立方体の内側に閉じ込められたような、そんな無機質さと閉塞感が伝わってくる。

そして、今そこにいるのも少年ただ一人だけだった。

狂怒も、狂楽もいない。

無。

その一文字が脳裏に浸透するまで、若干の時間を要した。

それも当然か。つい一昨日までは、このアバターIDはALOに所属していたし、そこでこのような孤独を感じることはなかった。自分の隣には大抵いつもユウキやカグラ、そして何よりマイがいた。現実世界でもアパート暮らしということも相まって、一人でいる気はそんなにしなかった。

だが、ここは違う。

いるだけで寒々しい孤独が、孤立が心の奥底を掻き毟っていく。

―――ッ。……狂怒、狂楽。

堪らなくなったように、堪えられなくなったように、少年は音なき声で呼びかける。

言葉の連なりは壁に当たって虚しく反響し、木霊のように乱反射した。

応えはない。

答えはない。

少年の声は宙空に弱々しく減退し、消えていっただけだ。

だが、それでも。

確かな返答を、レンは聴いた。

二つの鬼は、こう切り出す。

―――さようなら。










小さな体躯が受け身の体勢も何もなしに宙に放り出されるのを見、ユウキはぞっとするほどの恐怖に襲われた。

確かに、レンホウのアバターは敏捷値特化仕様で、それゆえに高所落下ダメージ軽減は自分の比にならない。極論、頭から落ちても大したダメージは負わないのかもしれない。

だが、少女が危惧したのはそれとは別種のものだ。

―――何で……目を逸らすッ!!?

戦闘時、敵の一挙一動から目を離すことなど、あってはならないことだ。それは例えば、野球のバッターがピッチャーから今まさに投げられる白球から明後日の方向に視線を泳がすと同義である。

つまり。

何かあった。それも、かなりマズい方向に。

思わずマークⅡの巨体から目を逸らすほどの――――否、合わせられなくなるほどの。

爆発の規模も、たった今必死に逸らしていた主砲のビームほどではないが、かなりのものだった。マークⅡの装甲に一切の傷をつけていないことからタカをくくっていたが、それは至近で受けていいという意味ではない。

「ッ!!」

ノドが干上がる。

全身が強張る。

―――やだ。

嫌だ。

―――やだやだやだやだやだやだッ!!

自由落下する従弟を受け止めようと、脚に力がこもる。

だが、跳躍しようとした少女の動きは錆ついたように止まった。

「なっ!?」

ガクン、と。

膝がその意思を拒絶し、一気に力が抜ける。

―――そ……んなッ!?

ユウキの神装《絶世(デュランダル)》の特性は絶対剛性だ。その外殻強度はレンのグングニルをも遥かに凌ぎ、たとえ相手が超威力の極太レーザーだろうと強引に跳ね返すほどの硬度を持っている。

それは言い換えれば、顕現時間が長いということに直結する。

もともと神装の上限というのは、内包する心意エネルギーに耐えきれなくなった外殻が弾ける時のことをいう。そういう意味では、絶対剛性というデュランダルの特性は、その外殻はこれまでのどの神装よりも長く、安定した持続時間を誇るだろう。

だが、それは同時に持ち主の限界も早まると言うもの。

神装は心意の中でも精神感応系を上回る、秘中の秘の奥義だ。当然、その扱いにも維持にも多大な精神力がいる。

いわば、常時全開でないと扱えない代物。

そんなものを、今日初めて発現できた少女が長時間の間維持できるわけがない。

限界。

酷使された精神が休息を求めて悲鳴を上げたのだ。

「ッッ!!」

―――まだ……だ。

ギシリ、と。

ミシリ、と。

油の切れた歯車のように、設計を越えた稼働に関節が軋む。

だが。

視界が赤っぽくなっていくのもお構いなしに、少女は絶叫しながら長剣を握り直した。

「……ぅ……動けええええええええええええええええええっっ!!!!」

湿った音とともに、握りしめた拳から血霧が舞い散る。

落下する少年の先。

白亜の壁が、そんな絶叫を嘲笑うかのように脈動した。

流線型の片腕が、主砲のリチャージがまだ済んでいない片腕が、ゆらりと不気味に掲げられる。

開いたままだったその邪悪なデザインの鉤爪の切っ先が揃えられ、矮躯に向いたのをユウキはいやにゆっくりに見えた。

その鋭利な先端が、その凶刃が、他でもない少年に狙いすまされている事実に。

気付く。

「――――ぁ」

傷だらけの身体が、傷だらけの雄たけびを上げる。

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!!!!!!!!!!!!」

明確な号令など必要ない。

鉤爪は大した前兆も、勇ましい叫びさえもあげずに、ただ振るわれた。

――――だが。



ゴッギイイイィィィィンン!!!



視界の外。

倒れ伏す少女の真後ろから雷速のスピードで飛び出した黒い影が、レンに突き刺さる寸前の大質量を強引に逸らした。

長い艶やかな黒髪を振り乱す少女のようなアバターは、両の手に持つ黒と白――――二種類の神装を振り払った体勢のままこちらを振り向いた。

《黒の剣士》は言う。

「よっ、お待たせ」 
 

 
後書き
なべさん「はい始まりました!そーどあーとがき☆おんらいん!!」
レン「いよいよもってお祭り感が出てきたというか…」
なべさん「原作サイドがまったく出て来ないよりゃマシだルォ?」
レン「そりゃマシだけどさ」
なべさん「キリト先生はかっこよく!古事記にもそう書いてあった!」
レン「事実を捏造するんじゃありません」
なべさん「はい、自作キャラ、感想を送ってきてくださいねー」
――To be continued―― 
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