| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

ソードアート・オンライン〜Another story〜

作者:じーくw
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

GGO編
  第211話 とある少女 憧れの人に会う為に

 
前書き
~一言~


 い、勢いで書いてしまいました。……後悔はしてないんですが……やっぱりオリジナルな話は出来栄えがとても気になってしまいます…… 当初想定していた話とは大幅に違う様な気がします。何せ、オリ主とオリヒロインが出てこないんです……。出すつもりだったのですが。 ですが、唯一良かった事はやっぱり 早めに更新出来た事ですっ! 苦笑

 

 


 もう、後5時間程で 1日が終わる。
 だけど……、1日はもう少しで終わるけど、今からが始まりでもある。


――……今日、私もGGOデビュー、です。


 期待に胸を膨らまして、日常的に銃弾の飛び交う殺伐とした世界へと向かう少女がいた。
 その表情は とてもキラキラと輝いており、まるで 初めて貰ったプレゼントを開ける時の様な……、そんな表情だ。

 因みに、先程も書いた通り、期待に胸を膨らませているのは、少女。女の子(・・・)である。それも、アミュスフィアを装着するのは 家の自分の部屋。
 
 机には、古今東西、沢山の物語が描かれている本があり、棚には 多くのぬいぐるみが 少女を見守る様に並べられている。……そして、少女が眠るベッドにも 勿論 多数のぬいぐるみが置かれており、それらは 全てが動物のぬいぐるみである事から、宛ら ぬいぐるみの動物園となっているみたいだ。

 《少女》と言う事を考えれば、とても可愛らしいと思える。

 その詳しい歳は まだ不明だが、それでも容姿を見れば成人には間違いなく達していない。幼さが残るその顔は、よく言って高校生まで、と言う印象が強いだろう。

 そんな花を愛でる姿が似合う少女が何故 《オイル臭い》とまで 言われているあの銃の世界(GGO)へ憧れると言うものだろうか?

「……今日、会える、と良いです。あの人(・・・)に。……あの人、()に……」

 疑問に思えた理由は、満面の笑みを浮かべている少女の独り言から、解決に至った。

 そう、この少女は 会いたいのだ。

 あの銃の世界で 戦っていた人に。……そして、彼女が憧れた人に。全VRMMO内でも最も熱く、過激とされている 《バレット・オブ・バレッツ大会》。その中継を、少女は見ていた。

 勿論、それ以前にも 少女はGGOの世界を見てきている。様々なVR世界ででも中継されたあの壮大な戦い。その映像を見た。
 
 そこで……、少女は見たのだ。


――……彼女達(・・・)を。


 目に焼き付いてしまったのだ。




「え、えーと……、《リンク・スタート》……です」

 まだ、慣れていないのだろうけれど、しっかりと そして はっきりとあの魔法の言葉。別世界へと誘ってくれる魔法の言葉を口にし、意識はあの世界へと吸い込まれていった。











 視界が白に染まったかと思えば、次の瞬間には、真っ黒に染まり、続けて、光が……数本の光の筋が伸びていく。その光は よく見ると英数字の列だった。直線上に伸びていったかと思えば、その線は歪み捻じれ、軈てまるで台風か何かの目の様な形となった。
 これは銃の線状痕に模して 作られた仕様であるのだが そんな事を知るよしも無い少女は、ただただ 待ち侘びていた。 あの世界へと降り立てる瞬間が何時来るのか、と。

 そして、GGOのロゴが目の前に控えめに現れたかと思えば、次はまるで機械の町とも思える場所の上空にいた。……その町こそが、グロッケンである事は直ぐに判った。……何度か降り立った事があるから。

 だけど、直ぐに初期設定空間へと移行する。



 《五感チェック》《ログインサーバー》《言語設定》《ログインIDやパスワード》……etc



 どのVRMMOでも、例外なく この画面には飛ぶ。もう見慣れたモノだったから、この部分は淀みない操作で行い終えた。

 GGOの世界のアバターは、ランダム仕様。勿論、性別だけは一番最初、ネットワークゲームをする為の設定から 入力している為、ゲームによって切り替えるなんて事は出来ないから当然 《女性(female)》だ。


 基本設定の全てを終えた後に、彼女の視界は再び黒く染まり……、そして 舞台へと降り立ったのだった。



















~朝田家~





 それは、夕食を終えて 家へと戻ってきた詩乃は、少しだらしないけれど、制服のスカートやブラウスを外すと、俯せにベッドへと倒れ込んだ。


――……今日も色々と合ったなぁ。


 詩乃は、俯せのまま、両の足を曲げて ぱたぱた、とベッドの上でバタつかせながら、考えていた。

 あの件の事件から約1ヶ月。そして 本当の意味で 自分を赦す事が出来てから、同じく約1ヶ月。

 詩乃は もう暫くはやるまい、と思っていたのだが《GGOの世界》でまだ戦いを続けていた。

 ただ、その絶対的な意味は 理由は違った。

 現実世界で強くなる為に、自分自身の精神を、魂を鍛える為に 自分よりも強い者を皆殺しにし、最強を証明する為に戦い続けてきたあの《シノン》は、もういない。

 いや、《いない》のではなく、《変わった》、だ。

 現実世界で 《詩乃》は 強くなる事が出来た。……自分を赦す事が出来るくらいにまで、強くなる事が。

 他の人から見れば、本当に小さな一歩かもしれない。……だけど、その一歩が踏み出せず、何年も何年も 精神と身体が蝕まれ続けたのだ。
 

 でも、変わる事が出来た。……あの温かい手のおかげで。


 その日を境に、自分自身は本当に変われたと思う。

 学校ででも、友達が増えた。……未だに 付きまとう連中もいるのだが、あの時同様に、しっかりと断る事ができ、自衛も出来る様になった。相手の目を見て しっかりと言葉を伝え、始まりと終わりの挨拶を交わす。……それだけで、人と人の繋がりは広がっていく。たった1ヶ月間だったのだが、それが本当によく判った。


 そして、GGO。


 あの世界も、純粋に楽しむ為に、プレイをし続けている。時にはスコードロンに入り、時にはソロで 地下世界に篭もり……。

 そして、もう少しすれば大型アップデートが行われる。……その日が楽しみで仕方がない。何故なら、また……一緒(・・)に、出来るから。戦えるから。
 
 詩乃は、GGOが あの世界が好きだから 多分 これからも時間を赦す限り 戦い続けるだろう。シノンを強くする為にも。一緒に戦う事ができれば、何処まででもいける。きっと、あの荒廃した世界をも飛び越えて、何処へでも……。

「っ……んんっ」

 詩乃は、たぶん 自分の頬が緩んでいるであろう事に気づいて、慌てて気付をした。

「ぁ……、綺堂さんに、ちゃんと返さないと。……このタッパーウェア」

 ひょい、っと飛び起きると お土産として 持たしてくれた料理の事を思い出した。
 緑色の蓋に、クリアな容器。その中には 色んな種類の料理が詰められている。1食分の量、と言えばそうだが やはり やや多いと思うのは 詩乃がこれまで少食気味だったから、と言えるだろう。1人暮らしをする為に、金銭にも気を使って そして 一汁一菜を基本とし続けてきたから。
 


――今日、詩乃と綺堂が出会ったのは、詩乃が買い物をしている際だ。



 買い物籠に収められている食材の種類や数、そして 詩乃のやや 痩せ型である顔を見て、心配をかけてしまったのだろうか、今日の夕食に招待をされたのだ。その時は、色々と迷惑をかけた事もあり、申し訳ない気持ちが多かったから、断ろうとしたのだけど。

『……隼人坊ちゃんが、詩乃お嬢様の事を、とても心配されておりました。……お元気な姿を見せてあげてくれませんか? 詩乃お嬢様』

 綺堂と話をする時、呼ばれる時は基本的に《お嬢様》と呼ばれる。……非常に照れくさいモノがあるのだが、今はそれ以上に隼人の名前を出された事が大きかった。

 これまでの事に加えて、さらに心配を既にかけている身からすれば、これ以上は もう駄目だろう。少食を言い訳に、一応育ち盛りな時期に 食べないで 体調を整えられないのも。だから、ここは言葉に甘えた方が良いのではないか? と詩乃は結論をした。

 ……別にこれまでは普通で、そんなに体調を崩したりはしていなかったのだけど。もうそんな事は何も考えていない。


 ただ……やはり 会っている間は、どうしても安らぎを感じてしまう。もう、自分の気持ちに嘘は付けないから。


 それでも 玲奈の事を考えたら やはり複雑な想いも同じ位同居している。玲奈は 本当に良いコだから。優しくて 明るくて とても女の子っぽく可愛らしい。同性の詩乃から見ても。……自分が悪い事をしている、と思って罪悪感も湧いてくる事だってあるから。
 
 色々な感情が頭を巡っていた時。

『詩乃お嬢様も、隼人坊ちゃんも。……玲奈お嬢様も まだまだお若い。人は、沢山考えて、沢山悩んで。そして 成長をしていくのですよ。……それは 恋も同じ事、だと私は思います。……時には間違ってしまうかもしれません。……でも、その繋がってる先に、まだ決まっていない眩しく続く道に向かって、ゆっくりと歩いていけば良いんです』
 
 ニコリと笑みを見せながら、そう語りかけてくれた。
 綺堂と言う人と話すと詩乃は、いつも得られる物が多い。諭してくれている。色んな事を教えてくれる。僅かな言葉の中で心に残る。残り続ける。だから、隼人が心の底から 信頼をしている理由が本当によく判ると言うものだった。

 ただ……、あまりに的確過ぎるから……。

『あ……っ、え、えと そ、そのっ……///』

 詩乃は顔を赤くさせてしまうのだ。
 事、隼人関係では どうしても。

『ほほ。さぁ 参りましょう。坊ちゃんも待ちかねてます。……道中、シノンお嬢様の御活躍も 聞かせてもらいたいですよ』
『……あっ! き、綺堂さん、また 私と……』
『ええ。一区切り付ける事が出来ましたら、また 受けて立ちます。……約束します』

 色々な話をしているから、忘れがちになってしまうが、綺堂は シノンを完膚なきまでに 叩きのめしたプレイヤーの1人であり、間違いなく最大の強敵の1人なのだ。

 因みに、彼のアバター名は《GIN》。

 源治(げんじ)の名前の中抜きであり、その辺は竜崎(りゅうざき)の《リュウキ》と似た所があって、本当に似た者親子だと思える。


 そして、詩乃は 隼人の家で 竜崎家で綺堂の手料理をご馳走になったのだった。


 詩乃は、ゆっくりと身体を起こすと 余り物ではあるが、と渡された料理。余り物、と言うには豪華すぎる様な気がする色取り取りの料理を、崩さない様に皿に盛り付け、ラップをしっかりとして、冷蔵庫へと仕舞った。

「……これでよし、と。ちゃんとお礼もまた、言わないと……」

 本当に沢山貰ってばかり、と詩乃は思う。
 そして、同時に これから少しずつでも返していこう、と心にも決めていた。自分に何が出来るか判らないけれど、それでも、できる限りをする事を 詩乃は決めていた。


『……隼人坊ちゃんの事を、頼みます』

 
 唯一、綺堂に頼まれたのが 隼人の事だった。

「うん。……私に出来る限りの事は……、する。……絶対」

 しっかりとそう心に決める詩乃だった。


 







 そして、再び詩乃は ベッドへと戻る。
 
 身体をゆっくりと仰向けに寝かせ アミュスフィアを手に取り、頭に装着させた。

「……綺堂さんが戻ってくるとなると。うん。へカートのメンテもしておきたいし。それに、アップデート前に色々と準備もしておきたいわね。……でも時間が時間だから 今日は ひと狩りするだけにしとこう、かな」

 今日する予定を頭の中で組み、整えると。

「リンク・スタート」

 GGOの世界へと旅立っていったのだった。
 














~SBCグロッケン~
 




――……この場所は やはり一味違う、な。



 詩乃は、シノンとなり、いつもの始まりの街であるグロッケンに降り立つと、心底そう思っていた。

 リュウキやキリト、そして アスナやレイナ、リズ達に誘われて、ALOの世界ででも、キャラを作り 何度かプレイした。

 ファンタジー世界は、ALOが初めてだった。以前までの自分であれば入る事が無かった世界だが……、北欧神話をモチーフにしている世界と言う事もあって、興味自体は高くあった。まだ、皆と一緒にプレイはしていないが、ソロでも勿論楽しかった。
 攻撃スタイルは、GGOででも、ナイフを多少扱っていたのだが、剣は肌に合わなかった。それに銃を長く扱ってきたと言う事もあったから、ALOの世界での遠距離武器、《弓》を使用した。使いがってはやはり全然違うが、それも新鮮だった。

 それでも、やはり 自分にとってのホームグラウンドはこの銃の世界だと言う事なのだろう。

 このメタリックな質感をもつ高層建築群。大きさを言えばALOの世界の世界樹と比べたら明らかに小さいけれど、それでも天を衝くかのように黒々とそびえ立っている高層ビルも、その存在感は決して負けてはいない。
 全てにおいて、異なる街並みだから、比べる事自体ちょっと間違ってるが。

「さて、と……よし。いつもの所で……ん?」

 シノンは移動を開始しようとした時、ある人集が目に入った。
 人集、と言っても3~4人程のプレイヤー達が 1人のプレイヤーを囲っているのだ。

 圏内だったら、別に何かしたとしても、意味はないから別に問題はない。……死銃の事件と言う例外はあっても。それに、ザスカーには事件の概要を報告しているから、圏内においての透明マントの使用は不可能になっているから、出来ないから 少なからず安心だ。

 と、それは置いといて、今囲まれているプレイヤーを見て シノンは驚いた。

 銀色の長い髪、そして それを束ねてポニーテールにしている。
 装備も初期の装備で戦闘服(ファイティーグ)じゃない。でも、()は コンバートしてこの世界へとやってきたから、お金がほとんど無く、《撃ちゲーム》で勝ち得た賞金で武器と防具を揃えてすっからかんになった筈だ。……だから、初期の装備であってもおかしくない。

「……りゅう、き? あれ? 今日は 入るって言ってたっけ……? ん。別に訊いてなかったけど。ホームに戻ったと思ってたんだけど……」

 そう、その容姿はリュウキの物だった。何やら、男プレイヤーに囲まれていて、四苦八苦している様子だ。……リュウキが男だと言う事を知っているのは 今 この世界ででは 自分以外にはいない筈だから……、所謂ナンパをされているんだろうか。

「……やれやれ」

 シノンは、仕様がないから 助け舟を出そうと歩きだした。













 男達に囲まれている彼? は 戸惑い慌てていた。

「あ、あのっ……そのっ……」

 少しビクビクしている姿を見て、更に場が湧いている。

「リュウキちゃんっ! この間は 優勝おめでとうっ!!」
「キリトちゃんとリュウキちゃん、シノっち! 皆可愛かったよっ♪」
「何だか、今日は一段と可憐で 美しいっ♪♪」
「今度、オレ達のスコードロンに来てよー! 何処へでもつれてくよっ! 一緒に遊ぼうぜー!」

 囲まれ男物の黄色い声援の様なモノが周囲に響き渡る。

 男達とは対照的に、困りに困っているのはリュウキ??の方だ。強く言う事もできず、ただただ 流されそうになってしまっていた。


 この辺りで、明らかにおかしいのだが、リュウキにはそう言う一面は勿論ある。……でも、それは女の子プレイヤーによく有り、(爺やの教えがあるから)男プレイヤーでもそうか? と問われれば、一概にそうではないのだが。


 と、色々とリュウキに関して説明をしていた時、丁度 シノンが付いた。

「リュウキっ!」

 シノンの声が場に響き、その場にいた全員がそちら側へと向いていた。
 シノンは、両手を腰に当てて、その輪の中に入っていく。

「ちょっと。そろそろ、その辺にしてあげて。リュウキには、私が用事があるから! 先約は私なの」

 シノンは、氷の様な冷たい目で男達を見てそう言うと、リュウキ?の手を掴む。
 そして、この場から離れていった、勿論 リュウキ?も引っ張って連れ去っていった。……引っ張られていたリュウキ? はと言うと。

「ぁ……っ……はぇ……?」

 シノンに手を引かれ、ただただ呆然として されるがまま、だった。


「おおっ! 第3回BoBのチャンピオンの内の2人だっ」
「オレら、今日はめちゃめちゃついてるな~! 3人のスーパーレディの内 2人に出会えたしっ! ……キリトちゃんも良いけど、あの2人も~可愛いなぁ~。クールビューティーの2人♪」
「う~ん……、リューキちゃんは 押しが弱い性格なのかなぁ? バトルの時の印象を考えたら、ちょっと隙無い感じがしたんだけど。でも、隙、と言えば シノっちの方が鉄壁かな、やっぱり」
「オレ、今度 シノっちに撃たれたいかな~。今後の為に、色々と作戦を立てるか!」

 ちょっとしたナンパであり、完全に失敗(フェイル)。……玉砕したと言うのにも関わらず、会えただけでも、ちょっと話が出来ただけでも、十分満足した、と言わんばかりに 男達は 頬を緩めながら、この場を離れていったのだった。














~SBCグロッケン・廃ビル入口~




 この場所から 地下世界へと潜る事ができる。

 広大な地下に広がるダンジョンは、勿論ソロであればかなりの危険が付き纏うのだが、入口付近であれば 初心者でも十分狩る事ができるMobがPoPする程度で済む。もう熟練兵(ベテラン)の域、と言っていいシノンであれば、まるで問題ない。ログインしたらこの場所である程度狩るのを決めているのだ。

 へカートⅡの弾丸、《50BMG弾》は その弾丸の大きさから判る通りに、普通の弾丸よりも遥かに高額な為、弾代も馬鹿にならない為、ある程度考えて狩りをしなければならなかったりする。

 とまぁ 説明はこの辺りで終了とします。

「はぁ……、あんた 入って早々 何絡まれてるの?」
「ぅえ……? え、えと……そのっ……」
「まぁ、そのアバターの容姿じゃ 仕方ないとは思うけど あんな連中 あっという間に撒くくらい、楽勝でしょ? リュウキだったら」

 シノンは、ため息を吐きながらそう言っていた。
 リュウキのスタイルは、STR-AGI型で かなりの敏捷性を持ち合わせているから、あの男達から 逃れる事は簡単にできるだろう。 それを考えれば何で逃げなかったのかが、シノンは判らなかったが。

「それに、ALOに戻っていったと思ってたんだけど、まだ GGO(こっち)にいたのね? なら……一声、かけてくれても……。その、今日、だって……」
「え、えと、その ご、ごめんなさい。ちょ、ちょっと色々と忙しくて……」
「ん。まぁ リュウキなら 仕方ないとは思うけどね……」

 シノンは、納得をしていた。

 リュウキの仕事に関しては、シノンも知っているの。本人はあっけらかんと、仕事をこなしている様に見えるから大したこと、無いのでは? と思いがちだが、その仕事量、内容を考えたら、大人、一般人と比べたら…… と言うか、まるで比べ物にならない程だと言う事は判る。幾つもの企業と掛け持ちをして 全く仕事を遅らせる事なく、こなしている。スケジュール表もリュウキの家で見たけれど、まだ学生の身分だから そんなに判らないのだが……、それでも正直引くレベルだ。

 でも、シノンは嬉しかった。それは リュウキがこの世界に来てくれている事だ。

「(うん。……でも良かった、かな。リュウキって、銃も剣も使うけど、どちらかと言えば、剣の方が好き、って感じだったから。……私の好きな世界に、少しでもいてくれるのなら……嬉しい、かな。それに、今度のアップデートの後のクエストにも 参加する、って言ってるみたいだし、ね)」

 シノンは、表情を緩めて、改めてリュウキ?の方を見た。

 でも、ナゼか判らないけれど、まだリュウキ?は心此処にあらず、といった様子だった。シノンもそれに

「ん? どうしたの? りゅうk「っっ! シノン様っ!」えっ!??」

 シノンは、驚いた。
 突然、リュウキ?がシノンの手をぎゅっ と握ったのだ。もう、この場所に来てから、手は離していた。だけど、突然 また シノンの手を掴んだのだ。

「ちょ……、ど、どうしたの? ……サマ?」
「そ、その……え、えっと……わ、わたし わたし、ずっとあなたの事……、あ 憧れててっ」
「……へ?」

 突然、リュウキ?は シノンの目を見て、そして反らせていた。その表情は まるで りんごやトマトの様に真っ赤っ赤だ。

 シノンにしては、珍しく 暫く呆気にとられてしまっていた。こんなリュウキ?の顔を見た事など無かったから。そして、益々混乱させる内容だった。



「あ、ご、ごめんなさい。その、わ、わたしは リュウキ、様じゃ 無いんです……」
「………え?」











 それは、彼女(・・)がこの世界へと降り立った時の事だった。


 この世界でのアバターは 実際に降り立ってみないと、どう言う風になっているのか判らない。だが、彼女は 別に自身のアバターにはあまり興味が無かった。……ただ、憧れていた人達に会う事、会ってみたかった事、その事ばかりだった。

 VRMMOと言うジャンルが確立されてから、狭かった自分の中の世界も広がるんだと思った。
 だから、色々な世界を見てみたかった。……そんな時に 見つけたのが《第3回BoB大会》だった。

 銃とナイフ、体術を駆使して まるで踊る様に華麗に戦う女の子の姿。そして、光の剣を扱って、銃弾の雨霰と言っていい攻撃を目にも止まらない速度で接近、斬り伏せていく女の子。……鋭い眼をさせて、強靭な男達をその身体よりも大きな銃で倒していく女の子。

 《RYUKI》《kirito》《Sinon》

 BoBの覇者である3人の女の子達の姿。
 直ぐに憧れに変わった。皆甲乙つけがたく、とても格好いい、素敵だと思った。会ってみたい、話を少しでもしてみたい、と思った。
 
『いよいよ……です。うんっ! でも……、どこに行けばいんでしょうか……』

 GGOの世界には 殆ど来た事無いし、プレイもした事が無いのだ。使い勝手もよく判らない銃や土地勘が全く無いグロッケンの広大な街。降り立った途端 不安になってしまったのは言うまでもない。殆ど勢いでこの世界に降り立ったのだから。 

 そんな時、あっという間に、男達に囲まれてしまったのだ。

 一体何事なのか? と思ったのだが……、高層ビルのミラーガラスに目が行った。
 驚き、二度三度と見返してしまった。

 そして、自分の姿を疑った。

 長い銀色の髪、そして それを束ね、ポニーテールにしている。前髪は やや 眉にかかる程度にまで伸びており、自分の眼にも見て取れる程、銀色の輝きをみせていた。顔の作り、鼻の位置や眼の大きさ、色合いは やや異なるものの、ミラーガラスで見てみたら、殆ど区別などつかない。

『(りゅっ……、りゅうき……さま……?)』

 あまりの衝撃映像に驚きを隠せず、数秒トリップしてしまっていた所に、先程の男達が口々に《リュウキ》の名前を口に出していたモノだから、益々引っ込みがつかなくなってしまったのだ。



 そして、場面は再び元に戻る。


 シノンは、まだ驚きを隠せられない状況だった。確かに よくよく顔を見てみると 所々の違いはあるだろう。だけど、それを確認する為にはしっかりと、リュウキの顔を確認しないといけない。……幾らなんでも、じっくりと顔の確認なんてしないだろう。……照れくさい、と言う理由だってあるから。

「……って事は、りゅう……っと、貴女は リュウキとは別人って事で間違いないのね?」
「は、はい……」

 肩をがっくりと落として、気落ちをしてしまっていた。
 リュウキと違って、性別は(フイメール)である。普通、この容姿であれば女の子なのは当然なのだが、ネームカードをしっかりと見て、シノンは確認をした。
 キリトの1件があるから、少なからず疑心暗鬼になってしまっても仕方がない。

「私、《エステル》と言います。今日、ここに来たのは……そのっ」

 リュウキ?改め、リュウキと同じ容姿を持つ少女、《エステル》は シノンの顔をじっと見て、僅かながらに頬を染めると。

「シノン様に 一目逢いたくて。お話をしたくて、この世界にやってきました。……ご迷惑かもしれません。ですが、あなたのファンなんですっ」
「ふぁ、ふぁんっ??」

 あまりの事に、シノンは 驚き 仰け反ってしまっていた。
 確かに、男プレイヤーに言い寄られる事は多かった。……正直うんざりしていたし、そう言う事をしたければ、こんな戦いだけの世界と言っていい銃の世界でじゃなく、もっとファンタジー要素のある世界ですれば良い。コミュニケーションに特化した世界ですればいい、と。

 だけど、女の子に言われるのは初めてだった。女の子の割合の圧倒的に少ないGGOだからこそ、だと思うが……。

 その後も色々と話をするのだったが。
  
「ご、ごめんなさいっ。その……困らせる気は、無かったんです……。ただ 一目、一目だけでも逢いたかったんです……」

 戸惑いを隠せられないシノンを見て、憧れの人に出会えて、少し舞い上がっていたエステルだったが、少し落ち着けた様だ。

「あ、いや…… ちょっと驚いちゃってね。いや、本当に驚いた。ファンって言うのは ちょっと照れくさいけど……、何で私を?」
「あ、その…… BoBの大会、見ました。あんなに強い男の人達がいる世界で、戦い続けるシノン様を見て……憧れました。リュウキ様やキリト様も。……同性で凄く尊敬しますっ。大好きなんですっ」
「ふぇっ……!?」

 その容姿で、自分の事を《大好き》とまで言われて、動転してしまいそうになるシノンだった。リュウキじゃない、と判っているんだけれど、想像以上の高威力なのだ。

「あっ、そ、その違うんですっ。あ、憧れ、憧れですっ」
「わ、わかってる。わかってるから! (ま、周りに誰もいなくて良かった……)」

 慌てて言い直してくれたから、シノンも何とか返す事ができるのだった。


 暫く 色々と話をする2人。GGOの世界ででは女の子の絶対数が少ない事もあって話は非常にしやすい。まだまだ、銃の話には詳しく無く、無知だと言える程だったが、熱心に訊いてくれて、勉強になるとまで言ってくれているから、話す側もとても良い気持ちになった。
 
 色々と話をしたが、やっぱり一番驚かれたのは。

「……ええええっ!! りゅ、リュウキ様とキリト様がっっ!?」
「そ、女の子じゃないわよ。2人とも」

 リュウキとキリトの本当の性別である。
 
 容姿をみたら、どこから見てもF()なのだが、その実 M()なのである。実際に現実で見ているし、彼らのネームカードも確認しているから。その逆の逆は有り得ない。……夢を壊すのもどうか? と思ったけれど、自分の他にも被害者? を出す訳にはいかないだろう。

「そう、なんですか……、少し残念です」
「そ、そう?」

 また気落ちしている少女、エステルを見て ちょっとだけ 引いてしまうシノン。……女の子が、相手が女の子じゃなく、男の子だとしって、残念に思う。がっかりする、と言う事は? 

 連想できるのは決して多くない。そう……百合の気配だ。

 シノン自身は、別に同性愛を否定するつもりはない。性同一性障害と言うモノも存在するし、海外では日本よりも割とポピュラーだったりもする程だ。著名人にも多くいるから。

 でも、誓って言えるが自分にそっちの気はない。

「でも、シノン様に会えたのは本当に良かったです。……仲良くしてくださいね?」
「え、えーと……」
「あ、リュウキ様やキリト様にも、私 会って話をしてみたいです。……シノン様は、ちょっと怖い人かな? って思っていたんですが、そんな事ないんですね。ここに来たばかりで、何も判らない私の事、よくしてくれて、本当に嬉しかったですっ」

 満面の笑みでエステルにそう言われたシノンは、慌てて笑顔を返した。

「あ、う、うん。そんな大したことした訳じゃないんだけど……、そう思ってくれたなら良かったわ。銃の話にもついてきてくれたし……」

 シノンは、ちょっと的はずれな事を考えていた事もあって少し罪悪感もあった。だけど、ここではっきりと言っておこう。

「ごめん。《様》は ちょっとやめて欲しいかな? 私の事はシノンでいいわ」
「えっ、あ、は はいっ ごめんなさい。私の中では、《シノン様》でしたので……。え、えと シノン、さんっ」
「うん。それなら、良いかな? 宜しくね。エステル」
「は、はいっ!!」
「あ~、後 リュウキとキリト、だったかな。……実際はそうイイもんじゃないわよ? 色々とエステルの中で神格化されてるみたいだけど。(ま、まぁ……隼人の方は……)」
「え? そうなんです?」
「そーそー。だって、あいつったらさー」

 会話が弾む弾む。

 キリトが知らない所で、しっかりとディスられているのだった。だが、それもキリトの所業を考えたら、仕方がない部分はあるだろう。……まだ、着替えを覗かれた事の恨みは消えてなかったシノンだった。 


 その日は、時間を忘れて笑いあい、そして話をする事が出来た。……VR世界で新しい友達も出来た。自分の中の世界が更に広がっていく感じがしていた。


「……憧れ、か。判る気はするかな……」
「え? どう言う事です?」
「んーん。何でもないよ。あ、まだ暇なら これからひと狩り行かない?」
「えっ! ほんとですかっ! あ……、で、でも 私 まだ始めたばかりですし。ご迷惑をかけてしまいそうですが」
「そんなの気にしなくていいよ。最初は皆初心者だし。これからいく所は、そんな難しい所じゃないから。……色々とレクチャーしてあげる」
「わ、わぁっ! ありがとうございますっ!」

 
 そのまま、2人は地下へと潜っていったのだった。




 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧