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逆襲のアムロ

作者:norakuro2015
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22話 戦場の蠢動 5.11

 
前書き
仕事が忙しくて、更新ができない~(><)
結構読み返しましたが、雑な所があるかの認識もできなそうもないので、指摘お願い致します。

 

 
* ソーラレイ 照射範囲境界 5.11 9:30


ワイアット艦隊と先遣隊のデラーズ艦隊が一進一退の攻防を続けていた。
艦隊戦力比としては10対1ぐらいのものですぐさま粉砕できる戦力を持っていたが、ソーラレイという決戦兵器のため、デラーズの艦隊の数でもワイアットの先方を相手にするには十分だった。

ただワイアット艦隊の補給や戦闘部隊の交代が利く分、デラーズ艦隊にはそれが無い。長期戦になれば、デラーズは不利になる。

しかしながら、デラーズはギレンのコロニーを待つだけ。それまで戦線を維持すれば良かった。ワイアット艦隊にコロニーに取りつかれたら阻止されてしまう。及びワイアット艦隊がコロニー傍に取りつかれても、ソーラレイを打てば、コロニーも一緒に無くなってしまう。それではブリディッシュ作戦が成り立たない。

ワイアット艦隊は仮に襲来するコロニーに小勢でも取り付ければ良い訳で、ジオンはコロニーを阻止限界点まで運び込めば作戦成功となる。

ワイアットは月へのコロニー落としの情報を先んじてキャッチしていた。
元より連邦は、ルナツーの観艦式の後、ジオンを殲滅するというシナリオ。バスクの率いる地球圏の外郭軌道艦隊がアステロイド・ベルトから流れてきた小惑星を地球に向かわせ、その石がソーラレイを打ち抜き無力化。その後、ワイアット艦隊とバスクの艦隊による包囲殲滅戦という流れだった。

ギレンはデラーズの奮闘に応えるべく、デギンとキシリアに全艦隊の8割以上で迎撃を任せた。ギレン自身はソーラレイの防衛に回った。地球に落とす予定のコロニーをシーマに、月のコロニーにはマ・クベに陣頭指揮を取らせた。

ワイアットは艦橋の艦長席で優雅に紅茶を嗜んでいた。
戦況報告を受けていたが、状況は良いという報告だった。

「うん。敵も何やら時間稼ぎをしているようだが、我々も時間を稼ぎしてもらった方が都合が良い。中々バスクの土産の到着が早くはないからな」

「そうですね。将軍、月より救難信号が発せられております。コロニーをジオンが月に落とそうと企んでいるそうですが・・・」

そう副官より報告を受けたワイアットは少し考えた。月にコロニーを落とすことは彼らにとってはスペースノイドの支持が欲しいことに反する行為だ。恐怖で支配しようとするのかと。どちらにせよソーラレイがある限り、艦隊を派遣することは自殺行為に等しい。が、それを無視するにもやぶさかではなかった。

傍にいる部隊を副官に確認したところ、どうやらシナプス部隊が一番近いようだった。
ワイアットはシナプスがGP03の受領が終わっていることを報告で受けていたため、効果というよりは既成事実で連邦がそれなりの戦力を派遣したということが欲しいがため、月の防衛を命じた。

「よし!シナプスへ連絡。月のコロニーの件はそちらに一任すると。但し無理はしないこと」

「はっ。直ちに通信致します」

ワイアットは再び紅茶に口を付けていた。そして戦略的視点で考えを巡らせていた。

「(月は月で何とかするに違いない。連邦の体裁で一応公式記録として防衛派遣をしないとね。艦隊を割くにしても、ソーラレイがある限り身動きも取れないからな。単艦という手前で奴らが侮ってくれたら良いんだがね。モビルスーツ1個大隊の火力をもつ彼らならそれなりの成果を得られるだろう」



* ギレン艦隊 ソーラレイ宙域 同日 10:20


ギレンの座乗艦はグワジン級の艦艇だった。艦橋の艦長席に座り佇むギレンは、この星の屑作戦について宇宙の支配圏を手に入れるための前哨戦であった。

傍には木星帰りのシャリア・ブル大尉が立っていた。ギレンは能力ある士官を重宝した。彼が指揮するモビルスーツ隊はジオンの中でも屈指の精鋭であり、親衛隊としてギレンは常に傍に配備していた。

今回は親征と銘打って、グレートデギンと実戦司令官としてキシリアを前面に出していた。ギレンはこの戦いを機にジオンの権力を自分一つにまとめようとも考えていた。

つまり、混戦模様でのソーラレイの誤射。それにより連邦とデギン、キシリアと葬り去ることを企てていた。

当の本人らはそのことを知らない。自分はア・バオア・クーにて後詰で戦況を静観していると伝えてあった。

ギレンはドズルを葬って以来、すこぶる親族の受けが悪くなっていた。しかし、ギレンは政務に打ち込むことにより野心のないことを姿勢で示していた。あれは誤射だったと。デギン、キシリアともに追及の手を(こまね)くことになった。

ギレンはシャリアに語り掛けていた。

「フフフ・・・この作戦で邪魔な奴らが全て消える。私の覇道もこれに極まることよ」

「はっ、さすが閣下です。ここまで苛烈なこと、誰も成し得ません。私も恐怖を覚えます」

「そうだな。それにやはり質が良ければ、それ程物量自体は重要ではない。ビグザムの戦闘力を見てそう感じた」

「今の本隊の戦力を重要視しないということですか・・・」

「そうだ。貴様とアクシズからの同志とフロンタルの技術。フロンタルがよもやキシリアから離反するとは期待してはいなかった。奴の底がよく見えない。使えるうちは私も利用しよう。元より奴も利用しているようだがな」

「閣下・・・では、そのうちフロンタルを消しますか?」

ギレンはシャリアの言に首を振った。

「いや、奴は派閥を持たぬ。ジオンの中ではさほど危険ではないだろう。奴は何やら奇妙な箱の製作・研究に努めているようだ」

「奇妙な箱?」

「ああ、人の思念が宇宙を破壊すると。馬鹿げた話だ。呪い殺せるものなら、当の昔に私の野望も叶っているものだ。だから放置してある」

シャリアは顎に手をついて、考え込んだ。シャリアもフロンタルに会ったことがあった。彼からシャリアに対して、「君にも素質があるな。ギレン閣下のために伸ばしていくと良い。それが私の希望でもある」と言われた時、何か良からぬ疑念がシャリアに植え付けさせた。

艦橋に1人の金髪碧眼の少年が入って来た。ノーマルスーツを着込んでいた。その眼光は鋭く、フロンタルによって、フラナガンで調整されたとも噂されていた。

「ギレン閣下。私の部隊の最終演習が完了致しました。いつでも配備可能です」

「そうか、ご苦労グレミー」

その少年はグレミー・トト。弱冠13歳にして、フロンタルにより素質を見出された逸材であった。
最近になってアクシズとの交流で、反ギレンはである者たちの中で、グレミー等がアクシズの技術力を持って、ギレンに仕えていた。

シャリアのグレミーを見て、その末恐ろしさを肌で感じていた。

「(何たるプレッシャーを抱えているんだ。ギレン閣下はこの少年を恐れてはいないのか・・・)」

言わずともグレミーを恐れているように見えたシャリアにギレンが気づき、笑っていた。

「ッハッハッハ。シャリアよ。グレミーを怖がっているのか?相手は高々少年だぞ。ほんの少しできる奴だがな」

ギレンの言葉にグレミーも笑っていた。

「っくっく・・・確かに。総帥の言う通りですよ大尉。私はちょっと変わっておりますが、ギレン閣下の大願成就のために尽くすだけです」

シャリアは2人の返答に言葉が出なかった。化け物が2人目の前にいることに居心地の悪さを若干感じたため、その場を後にした。

「閣下。自分はモビルスーツ隊の様子を見に行って参ります」

ギレンはシャリアの気持ちを汲み、許可した。

「すまんな。私一人でも持て余すだろうにお前には苦労かける、シャリア」

「い・・・いえ。閣下の覇道に役立てることができるならば・・・」

そう言ってギレンに敬礼し、シャリアはモビルスーツデッキへ向かった。

シャリアが着くと自分の部隊配下でアクシズからの有志であるラカン・ダカランがシャリアに近寄ってきた。

「大尉!どうしましたか?少々憔悴しているようですが・・・」

ラカンは心配そうに声を掛けてきた。シャリアは手で挙げて「大丈夫だ」と伝えた。

「お前の支持するグレミーの雰囲気に当てられてな・・・。ちょっと根負けしたのだ」

「成程。私にはよくわかりませんが、彼の胆力は13歳とは思えないものです。彼の下なら私の才能を存分に発揮できると思ってね」

シャリアはラカンの期待に興味を示した。

「お前の才能か・・・。貴官の望むものは、グレミーに期待するところとは?」

ラカンは神妙な顔つきでシャリアに答えた。

「私にもそれなりに野心があります。国の一つでも制して王にでもなれればと思い、覇道を志すグレミーに付いてきました」

シャリアはラカンの告白に笑っていた。

「フッハハハ・・・。完全にギレン閣下への反逆とも取れる答えだな。グレミーも覇権を狙っているのだな」

「ふん、悪いか。ギレン閣下と言えども人間だ。グレミーもそうだが、男に生を受けたからにはでっかく生きたいもんだろ!」

シャリアは更に笑った。ラカンは赤くなった。

「そんなに笑うことはなかろう!」

「・・・っつ・・いや、すまないな。はあ~、ラカンよ。それ程分かり易ければ、問題ない」

ラカンは落ち着きを取り戻し、別の話に戻した。

「ところで大尉。我々の出番はいつですか?」

「戦況次第だ。うるさい両軍が消えた時、我々の出番がやってくる。ちょっとばかりフロンティアになるが、それだけ平らげるにはやり応えがあるだろう」

「ほう。それはそれは・・・。武人として誉れ高いことよ」

ラカンは自信満々で胸を張り、シャリアに語った。シャリアはギレンの計画を興味深く思っていた。
限られた、選ばれた者しかこの先生きる価値なしと。自分にも少し思い当たる節を感じた。それは木星を見た瞬間、「なんと・・・スケールが違う・・・」と。

今までの人生を否定された、あの圧力に触れたことに地球に囚われている地球圏の人たちをとても小さく切なく感じていた。それを打開しようとしているのがギレンだった。

「まあ、ラカンよ。私が思うところは人類の革新である故に、お前の働きも期待することにしよう」

「ああ、大尉。新しい世界を私が見せてやる」

そう言って、2人は自身らの新モビルスーツを眼下に見下ろしていた。


* フォン・ブラウン上空 同日 15:00


マ・クベは艦隊をもって廃棄されたコロニーを月に落とすとフォン・ブラウン市へ警告していた。

「フォン・ブラウンよ。選択の時だ。生憎我々の移送中のコロニーは推進力を失い、フォン・ブラウンに墜落を免れない。ただ、君たちの選択で、推進力を得ることによりそれが回避される。が、君たちもその時は共犯だ。地球のひとたちは君たちを許すことはないだろう。元々、虐げられた者たちがスペースノイドだ。ここで地球との決別をする機会が与えられたのだ」

マ・クベは艦橋で放送をし終えると、フォン・ブラウン市のカメラ映像を艦橋のモニターに映した。案の定大混乱だった。暴動に近い騒ぎで、皆、港へ急いでいた。

「・・・ここまで易く予想できることはないな。市場も大混乱だ」

マ・クベの言う通り、フォン・ブラウン関連の株価が軒並みストップ安に転じていた。ギレンはそれを利用し、空売りをしていた。既にマ・クベはアナハイムの常務のオリサバンとの密約が済んでおり、最大限の利鞘タイミングで月へ向かうコロニーに推進力を与えようとしていた。

そこに敵襲の報告がマ・クベの下へウラガンからもたらされた。

「マ・クベ様。艦隊の後方が単艦にて攻撃してくる愚か者がいるみたいです」

マ・クベはウラガンを横目で睨みつけた。再び混乱極まるフォン・ブラウンの映像に目を戻した。

「単艦でできることなど何もない。さしあたり、ワイアットの差し金だろう。言わば演技だな」

マ・クベは戦略的なことを看破していた。大軍で率いることはソーラレイの的になる。しかし、フォン・ブラウンを見捨てることも連邦では不利に働く。一応手配したという事実を接近中の単艦に託したことを。

マ・クベは浅慮だと一瞬で悟った。単艦で向かわせること自体の効力が薄い。ワイアットが止めに寄越した敵だ。単艦で打開できる何かがあるかもしれない。自身の成功の秘訣は深慮遠謀だった。マ・クベは少しの油断も見せることはなかった。

「ウラガンよ。艦隊の半数を割いて、後方の敵を迎撃せよ」

ウラガンは耳を疑った。何故単艦で艦隊の半数を使う必要があるのかを。マ・クベは反応しないウラガンに再び命令した。

「聞こえなかったか。艦隊の半数で迎撃せよ。ワイアットを甘く見てはならない。単艦で目指す後方の敵は量より質で挑むつもりだ。鶴翼にて前進を阻み、包囲殲滅を図れ」

「はっ!」

ウラガンは後方の部隊に命じ、敵艦を包囲するような陣形で待ち構えることにした。

一方、マ・クベの艦隊を追跡してたアルビオンはシナプスを始めとする皆が一致して、後方より強襲を掛けられると踏んでいた。単艦での敵の侮りを期待しての事だった。

コウはアルビオンに牽引されたGP03に乗っており、いつでも出撃できる状態であった。

「・・・よーし。全て頭に叩き込めたし、コロニーをこれで止めてやる」

そう生き込んでいたが、ルセットの通信により出撃が見送られたことが伝わった。
コウはルセットに理由を聞いた。

「何故ですか?敵は目の前で、我々を侮っているのでは?」

モニターに映るルセットは残念そうな顔をしていた。

「敵は、侮らなかった。我々単艦に対して、数百ものの砲手がこちらを鶴翼にて待ち構えているそうよ。いくらGP03が1個大隊の戦力でもピンポイント攻撃には及ばない・・・」

「・・・分かりました。待機します」

コウはコックピットの中で瞑想に入った。

アルビオン艦橋でコウに通信を送ったルセットは通信士にお礼を言って、窓際で佇むニナに声を掛けた。

「ニナ、私たちで仕上げたガンダムで月を救えるチャンスだったのにね」

「そうね。そうすれば私たちの覚えもかなり良くなるはずだったのに・・・」

「まっ、そう上手くいくもんじゃないね。・・・貴方とガトーさんのようにね」

後半の言葉は囁くようにニナに伝えた。ニナはカッとなった。

「ルセット!」

ルセットは笑って、ニナを(なだ)めた。

「フフフ、ちょっとブラックジョークだったかしら。まあ終わった男のことなどいつまでも考えていないで、あの若い子のこと。どう思うの?」

ニナはコウのことを言われて、複雑そうな顔をした。

「・・・コウは・・・私の仕事を手伝ってくれた。良いひとだけど、そこまでよ・・・」

「ふ~ん。じゃあ私が頂いても文句はないのね」

「えっ!」

ニナは引き続き複雑そうな顔をして、ルセットを見ていた。

「私さあ~、あんな不器用なひと。ちょっとそそられるのよね~」

そう言って、ルセットは艦橋から出ていった。ニナはガンダムを託したコウについて、特別な感情を抱いていないと言ったら、正直自信がなかった。

その傍にて艦長席にゆったりと構えていたシナプスがバニング、アムロと話し込んでいた。

「艦長、敵はどうにも油断ならないらしいですな」

バニングがシナプスに話すとシナプスは頷いた。

「ああ、艦隊を率いる程の司令官だ。私の様な単艦を統率する者とは視野が違うみたいだな」

アムロもその意見に賛同していた。

「そうだな。あの布陣ではいくらオレでも突破は難しい。仮に突破できても補給が切れて、敵中に孤立するだけだ」

「レイ大尉の言う通りだ。元々、ワイアット将軍も出来レースだと私に言ってきていた。まあ隙があれば仕掛けて混乱させても良いということだった。その時間が戦局にもたらす上で有利に働くと」

シナプスがワイアットからの命令でマ・クベ艦隊のコロニー奪取と追撃を受けていた。結果はどちらでも良いと言っていた。月の住民もコロニーを地球に向けるよう工作するだろうと。

先にコロニー落としの情報を公式的に掴んだのは月へのものだった。月から進路変更して飛んでくるコロニーとマ・クベの艦隊がジオン本隊との戦いの最中通過しようものなら、ワイアットは戦力分散をせざる得ない。しかもジオンはもう一つコロニーを飛ばすという作戦情報もある。

結局のところ、時間差でコロニーを同時に処理しないような作戦をワイアットは取りたかった。シナプス隊の動きはマ・クベの油断を誘うことなく、それに反応してくれた。マ・クベの艦隊運用がワイアットの作戦段取りの時間稼ぎにもなった。

そろそろ潮時かとシナプスは考えた。そしてこの場を離れ、ジオンの本隊の抱えるコロニーに取りつくことを考えた。シナプスはそれを2人に話した。

「さて、ワイアット将軍の目論見は一定の水準が得られたと思う。敵の艦隊運動がこちらに向いたことで再び再編する時間を要する。後は月が動くだろう。その前に進路を変更し、ワイアット艦隊とジオン本隊との交戦の最中を狙って、横槍を入れるとしようと思うが・・・」

アムロはシナプスの意見に頷いた。

「ああ、もはや先んじて止めやすい方から片づけるのが良いと思う。本隊戦力同士が繰り広げられるなら、今の状態よりは隙があるはずだ」

「そうだな。レイ大尉の意見に賛同する」

バニングも同様に述べた。

「決まりだな。本艦はこれよりワイアット艦隊の交戦地点まで転進する」

アルビオンは包囲される前のマ・クベ艦隊から逃れるように進路をとり、ワイアット艦隊の交戦宙域を目指した。それを確認したマ・クベは艦隊を再び戻し、徐々に近づきつつあるコロニーとフォン・ブラウンの混乱を眺めていた。

「さて、私らはゆっくりと脅しをかけてから地球へ向かうとしようか・・・」

マ・クベはそう呟き、自身も口座にて空売りを始めようとしていた。


* ジオン本隊 グレートデギン艦橋 同日 17:00


後方から着々と進行してくるコロニーの前に布陣するようにジオンは部隊を展開していた。
この頃になると、リック・ドムⅡとゲルググJが主力MSであり、連邦はジムやジム・カスタム、ジム・キャノンⅡが主力であった。

3年前からあるモビルスーツも様々な改善点、改良を繰り返し、3年前とは比較にならない性能を両軍とも所有していた。

先に戦っていたデラーズ艦隊がジオン本隊が到着すると、艦隊再編のために後退した。
グレートデギン艦橋には公王とが座しており、その傍にキシリアが立っていた。

モニターに映るデラーズはその2人を確認するや否や、最敬礼を取った。

「公王陛下には置かれましては、このような戦いに運び頂き、我々兵士共光栄であります」

その姿にデギンは軽く手を前に出し、労いの言葉を掛けた。

「よい。お前たちの働きにより、我々のジオンの思想が実現しようとしている。私はただの飾りにすぎぬ。実戦指揮はこのキシリアが取ることになる」

紹介に預かったキシリアはデラーズの戦を褒め称えた。

「デラーズよ。よくぞここまで凌いだ。後は我々がワイアットを引き受ける」

「はっ、一度再編して参ります」

「ああ。兵士共にも休養を取らせてから、迂回して強襲を掛けてもらうつもりでいる。追って指示を待て」

キシリアの命にデラーズは敬礼をし、通信を切った。
デギンはキシリアに戦況について確認した。

「キシリアよ。今はどのような状況だ」

キシリアはデギンに分かり易いように説明を努めた。

「父上。敵は我が方の3倍はあるでしょうが、ソーラレイにより、全軍投入しての軍事作戦が取れないことに活路があると思えます。仮に戦闘中でも、コロニーがこの宙域を通過する話ならば、連邦は止める手立てはありません。要は我々は負けない様に戦えば良いのです」

混戦中にシーマ艦隊が持ってくるコロニーが通過すれば、取りつく暇もなく、かつワイアット艦隊の中枢を分断しながら、ワイアットの艦隊はコロニーか目の前のジオンかの2択を求められ、混乱をきたすのではとキシリアはギレンの分析の受け売りを追加でデギンに伝えていた。

元々、ジオンの作戦としては、このワイアット艦隊は無い想定であった。しかし失敗は付き物で、それについてはギレンは

「常に2手3手と先を読むものだ」

と言い、現行でも作戦実行可能な立案をしていた。それについて、同じように考えていたのはキシリア配下のマ・クベぐらいだった。

一方のワイアットは紅茶を嗜みながらも時計を見ていた。

「(まもなくかな・・・)」

すると、期待していたものとは違う報告がワイアットへもたらされた。

「将軍!我が軍の左翼より、敵源。反応は1つ、モビルアーマーサイズです」

ワイアットは左翼へそのモビルアーマーを止めるように指示を出した。

左翼のモビルスーツ大隊の隊長はソロモンの生き残りでもあったスレッガー大尉であった。
ジム・カスタムに乗り込んでいたスレッガーは瞑想していた。

「(ふう・・・あの時と同じ感覚だ。何か嫌な気配がするな・・・)」

それはソロモンのティアンム艦隊の敗北についてであった。
スレッガー自身で既視感を感じた。スレッガー並のエースになると、自身の勘を頼ることが生き残ることだと思っていた。

オペレーターより出撃命令が出ると、スレッガーはカタパルトにジムを載せて、出撃した。

「スレッガー・ロウ。出るぞ」

あの時の出撃で相手してもらう女性オペレーターはいない。ジョークを飛ばすような剽軽さも最近では余り出さなくなったなと自分でも思っていた。

スレッガーの周囲を数10機の味方機が編制を組んでいた。
目標となるモビルアーマーは大型故に的になり易かった。

「よーし。全部隊散開するぞ。まず味方の援護射撃が先だ」

スレッガーの命により全機が散開し、後方の味方艦がそのモビルアーマーに目がけて主砲を斉射した。
しかし、その主砲はそのモビルアーマーに当たらなかった。スレッガーは目を顰めた。

「(避けていない・・・当たっているはずだが・・・)」

スレッガーは最近のサイエンス記事を思い起こしていた。ビーム兵器を偏光できる技術の存在を。
全機にそれを伝えた。

「奴さんはI・フィールドシステムをお持ちのようだ。実弾兵器じゃないとダメだ」

スレッガーは味方機で実弾兵器を持つもの以外を下がらせた。そしてそのモビルアーマー目がけて射撃を行った。

モビルアーマーは実弾を見るや否や、回避行動を取り、返す刀で肩部ビーム砲を斉射し、有線アームクローでモビルスーツ隊を薙ぎ払っていった。

「何という戦闘力・・・」

スレッガーはそのモビルアーマーから距離を取り、実弾装備による砲撃を放っていた。
ガトーはスレッガーの実弾攻撃や間の取り方など、かつての戦場で経験した相手を思い起こしていた。

「この攻撃は・・・ソロモンで私に一撃を加えた奴か・・・」

ガトーはノイエ・ジールをスレッガーに目がけて急進させた。その速さに周りのジム・カスタム等が付いて行けない。スレッガーは大型特有の旋回不利、所謂小回りが利かない点を小さいジム・カスタムの優位性で活かし、ガトーの攻撃で散ったモビルスーツらの点々と残した実弾兵器を交換しながら、ガトーに攻撃を加えていた。

「・・・っぐ・・・中々やりおるな・・・」

スレッガーの放った一発がノイエ・ジールの肩部を軽く抉っていた。

「やっと当たったか・・・」

スレッガーは次々と場にある実弾兵器を場所を変えて、ガトーの有線アームクローやビームサーベルを避け切りながら、攻撃をしていった。

「この、蚊トンボめが!」

ガトーはスレッガーの攻撃に翻弄され、いつもの太刀筋を見失っていた。そこにガトーにとっては別の敵が現れた。

「沈めーっ!」

コウがアルビオンより一足先にスレッガー隊の左翼に到着していた。GP03の大型ビーム砲をガトーに目がけて、叫びながらガトーへ放った。

「なっ!・・・ええい!」

ガトーはI・フィールドジェネレーターを限界まで上げ、コウのビーム砲を凌ぎながらもその砲撃の反動で後方へ吹っ飛ばされた。そして態勢を立て直し、眼前に迫るGP03に対し、ビームサーベルで斬りつけた。コウもオーキスのビームサーベルで応戦した。

「ぬう・・・この大型め」

「その声はガトーか!」

接触している間、互いが直接声を交わせる環境にあった。
ガトーはその大型に乗るコウに気づいた。

「ほう、あのときのウラキか・・・互いに図体大きなものを操るとは何たる因果か・・・」

「そうだな・・・しかし、お前らの企みをオレが止める。そのためにまずお前を超える!」

「この私を超えるだと・・・笑止!」

ガトーはコウを鍔迫り合いにて強引に吹き飛ばし、ビーム砲を放った。しかし、GP03もそのビーム攻撃を偏光させた。

「貴様もI・フィールドか」

ガトーは有線アームクローでコウを攻撃した。しかし、スレッガーがその線を横からビームサーベルで断ち切った。

「なっ!・・・こいつがいたことを忘れていた」

ガトーは少し距離を取り、スレッガーに目がけてビームの嵐を放った。GP03は全て偏光させたが、周囲のモビルスーツは次々と爆散していった。スレッガーも避けるのに必死だった。

スレッガーはGP03の装備を見て、通信でコウに語り掛けた。

「おい、そこのパイロット」

コウはスレッガーの応答に驚いた。

「はいっ!何でしょうか?」

「実弾武器はあるのか?とびっきりのやつとか?」

コウは全方位追尾型ミサイルポットの存在を伝えた。スレッガーは「そいつをあのデカブツにお見舞いしてやれ」と言った。

コウはスレッガーの言うことに従い、ノイエ・ジールに目がけてミサイルポットを放った。放ったミサイルポットの目標が全てノイエ・ジールに目がけて追尾して行った。

「南無三!」

ガトーは無数の小型ミサイル群の接近にビームで薙ぎ払ったが、全ては撃ち落とせず、ノイエ・ジールの部分的各所にミサイルが直撃していた。

「ぐっ・・・」

ガトーは衝撃でコックピット内が上下左右に揺れた。ダメージ損傷率とエネルギー残を確認し、これ以上の戦闘継続は難しいとみて、その場を去り、デラーズ艦隊へ向かって行った。

ガトーは艦隊へ向かいながらも、パイロットスーツの腕の部分に負担の掛かる肉体への即効性鎮痛剤を注射していた。

「っぐ・・・ふう・・・」

ガトーは一息付き、ノイエ・ジールの初実戦とハスラー提督の話を振り返っていた。

「(少しやり過ぎたかもしれん。ここまで損害を被るとは思いもよらなかった。そして、ゼナ様の言が真であるならば、このジオン本隊が危険かもしれない。デラーズ閣下はギレン総帥の懐刀。それを承知で加わっているのか・・・)」

ガトーはギレンの出方次第でゼナの下へ参じようかと考えていた。

「(デラーズ閣下が主と仰ぐ総帥の器量をこの戦で見極めることができるかもしれん・・・)」

今のジオンの思想はガトーの思い描くものとはかけ離れているようで、ただ戸惑っていた。
ガトーの志は連邦に対するスペースノイドの権利主張のために戦っている。ジオンはそのような支持者の集まりであると考えていた。

しかし、ギレンはその中でもさらに選別しようと考えていると噂されていた。その選別方法は肉親ですら除外するほどの苛烈さ。敵味方問わずに進めていく覚悟や実行力にガトーは不義理にしか思えなかった。

コウは去っていったガトーをカメラの望遠で眺めた。自分に悔しさを覚えていた。
もっと上手く扱えていたら、斃せたかもしれないと。

「ガトーめ・・・まだ、オレの腕が及ばないのか・・・」

その科白を聞いていたスレッガーはコウに語り掛けた。

「そうだな。ガンダムのパイロット。あのモビルアーマーを相手にはお前さんじゃあ、ちょっと足りないかもな」

「足りない?」

「そうだ。熱くなると見えなくなる。お前さんに必要なのは<客観視>だね」

コウはスレッガーに言われたことを少し考えた。そして周囲を見渡した。
ノイエ・ジールが荒らした戦場でスレッガーの部隊はそこそこの被害だった。

「客観視?」

「そうだ。情熱やこだわりである程度の技術向上はできるかもしれん。しかし、その先の成功を収めるためには自分をそこにおいて全体を把握する必要がある。戦術レベルで何かを取り組むにしても、その戦場を戦略的に見る、空間的に把握する必要がある」

コウはスレッガーの話に耳を傾けていた。

「オレみたいな部隊を指揮する立場の人間はそういう技量を鍛えているのさ。凡人ならでは効率よく動ける様にすれば、それ程第六感のようなものが無くても最善の手を選べるようになるのさ。最善の手は大抵安全だ。それを選ぶことにより、部下も死なないし、自分の生存率が高くなる。それは敵を倒せる確率が上がるってことだ」

コウは下を向き、反省していた。自分の仕事は早くモビルスーツに慣れること。それでこの火力を全面に発揮し、敵を倒す。その事だけに執着していた。しかしその全面に発揮するという点において、コウの考え方では発揮できないということを突き付けられていた。

スレッガーは反応のないコウの様子を汲み取り、宥めるように話し掛けた。

「オレはこの部隊長のスレッガー・ロウ大尉だ。まあ・・・その技術ならば、まだ若いってことさ。伸びしろなどいくらでもある。今日の教訓を意識して、動くことこそが大事なのだよ」

コウは部隊長のスレッガーから挨拶されたことに反応し、上官であることに敬礼していた。

「ロウ大尉!小官はコウ・ウラキ少尉と申します。アルビオンのシナプス隊のパイロットです」

スレッガーはシナプス隊と聞いて、ワイアット将軍から聞いた援軍の話を思い出した。

「そうか。君たちが主攻の要か・・・」

「主攻の要?」

「ああ。月のコロニー落下防衛の陽動と演技。そこからの主戦場への転進。そして、オレら左翼の攻撃による地球へ向かうコロニーの落下阻止。君たちの働きのお蔭で、我々はこのように真向からジオンを対峙できる。さもなくば、艦隊から多少は月に派遣せねばならなかった」

コウはワイアットの大局を見る目に感銘を受けていた。シナプス隊の効果のないような行動が全体を活かしていたことを。
スレッガーはそんな反応をするコウに心配して、語り掛けた。

「客観視も行き過ぎると、将軍のような全体把握をするようになる。あの辺の人の住まう世界は我々とは大分違うな。真似するものではない。月は脅しに屈し、地球へコロニーを送るだろう。ワイアット将軍もそこは既定路線だ。月は地球から恨まれる発想を連邦という世界警察が全てはジオンの罪として、月に恩を着せるということを狙っている」

「そのために小官らを派遣したのですか」

スレッガーは部隊の再編を副長に任せる指示を出していた。コウの質問にも、副長へ命令した後に答えた。

「そうだ。体裁は必要だ。この戦いで更に連邦の力が誇示されるだろうよ。そのための布石として、まずは連邦が月も全くは見捨ててはおりませんと言わんといけない」

スレッガーは笑っていた。コウもその意見に同感だった。

「そうですね。恩の売り買いで本当の被害者である市民をないがしろにしています。人情味とはちょっと掛け離れますね」

スレッガーはコウの回答に頷いて答えた。

「その通り。全てが駒なんだ。それが世界の上に立つ者の考え方だ。オレも手の届く距離のものでも守れればいいさ。それ程欲深くはない。欲をかいて良い試しがないからな。将軍クラスになると最善な手がまるで悪手のように感じる。訳が分からないと思う。何事もバランスは大事で、その中で客観視を鍛える。まあ、少尉がそのクラスまで望む話なら別だが・・・」

コウは軽く首を振った。

「やめておきます。当面の目標はあのモビルアーマーを倒すこととコロニー落下阻止です。そのための空間認識を鍛えていこうかと」

「懸命な判断だな。まあ期待してるぜ少尉。何せ、そのガンダムが期待の証拠だからな」

そうスレッガーがコウに激励すると、傍に石ころが急に増えてきた。
スレッガーはようやく到着したかと思った。

一方のコウは急に増えだした小惑星の石ころに驚いていた。

「なんだ、この石は・・・」

スレッガーはコウにこの石について説明した。

「少尉。これがジオンに打ち勝つための手段だそうだ。物量兵器だ。これはどんな決戦兵器でも太刀打ちできないだろう。しかし、これもまたいい考え方ではない。核を生み出した人類はソーラレイという決戦兵器を生み出し、これからも更に危険な新兵器開発の考えが増長して、いずれは身を滅ぼすのかもしれないな・・・」

コウはスレッガーの話を聞いて、自分の乗る機体についても同様のことを考えた。

「これもまた、危険思想な代物なんでしょう」

「ああ。そうだな。オレのジム・カスタムもそうだ。しかしそうは言っていられない時代な訳。なんか切ないよね~」

スレッガーとコウは流れゆく小さな隕石が流れ、戦場に向かう様子を感慨深く眺めていた。
 
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