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東方乖離譚 ─『The infinity Eden』─

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第2章・幕間:いつか其処へと至るため
  episode5:私だけの魔法

『Alle von mir, begann von hier aus』 『All of me, e si è conclusa qui』

 ◇ ◇ ◇

 ()が居た。

 ()が居た。

 天使の様な笑顔を持った、(赤子)が居た。

 女は完璧(カミ)だった。

 女は絶対(ヒト)だった。

 誰からも愛さ(憎ま)れた。

 誰からも愛さ(疎ま)れた。

 故に(ヒト)アイされる(捨てられる)

 ヒト(カミ)カミ(ヒト)故に、誰からもアイされない。

 (カミ)はそのうち、嬉し(悲し)くなった。

 だから──(もうなにもない)

 (ヒト)は、全部コワれた(コワした)



 ◇ ◇ ◇



 ──状況説明が欲しい。

「あははっ!すごいすごい!これも避けるんだぁ!」

「ちょっ、待っ、危っ!?」

 四方八方から飛んでくる弾幕をなんとか避け切ると、前後左右から熱の塊が迫ってくる。間を抜けるのは……無しだ。薙ぎ払われて終わる。
 上は?当然却下。それこそ切り上げられて焼け焦げたボロクズになるのがオチだ。こんなもんグレイズ(かす)るだけで大惨事だよバカチン。
 では下。当たり前に却下。上に逃げるのと同じ結果になるのは予測可能回避不可能だ。
 じゃあ──

「うぉりゃっ!」

「きゃっ!」

 前の『分身』を全力火力のレーザーで消し飛ばし、そちら側に脱出する。3本の炎の剣は宙で交差し、対消滅した。

「わぁ、面白い避け方をするのね」

「私は霊夢とか魔理沙みたいに器用じゃないからね。ってか複合スペルとかアリなの?」

「二つのスペルカードを一つにするのはダメっていうルールは無かったわ」

「なんというガバガバルール……」

 今のはフォーオブアカインドとレーヴァテインの複合スペルだろう。四人のフランがそれぞれレーヴァテインを持って迫ってくる様はもう恐怖しか湧かない。これで後ろに無意識ちゃん居たらもうそれ何処の死亡遊戯。

 ──そんな訳で、私は今フラン……フランドール・スカーレットと弾幕ごっこを繰り広げている訳であって、その経緯は……

 なんでこうなったんだろうね……

 ◇ ◇ ◇

 〜遡ること二週間前〜

「魔法を覚えたい?」

 不思議そうに首を傾げる魔理沙に、ヒメノはしっかりと肯定の意を示した。

「別に教えるのは構わんが、なんでまた急に?お前の能力で藍の力の一部が使えるんだろ?それだけでも結構戦えそうなもんだが」

「うん。実際藍の力は応用も利くし、結構強いんだけどね。でもこの能力、色々制約があるの」

『力を合わせる程度の能力』
 そう名付けたヒメノの固有能力の効果は、「自らを信頼している相手と力を共有する」というものだ。
 相手がどれほど自分を信用しているかによって使える規模は変化し、心から信頼してくれるレベルになると全く同じ能力を得る程になる。
 今主力にしている藍の力の出力は約60%ほど。この能力の友好度判定は結構シビアなようで、多少軽口を交えられる霊夢でも精々5%が良い所だ。それを考えると、藍がそれほど私を信頼してくれていると言う事実に頬が緩んでくる。
 但し、それでも限度はある。いくら力を共有しても、能力が途切れれば無力な私が残るのみ。未だ自分だけの力では空も飛べない私では、いざ『その時』が来れば対応出来ないだろう。
 では、それ以外に力をつける方法は?
 そこで思い付いたのが『魔法』だ。アリス・マーガトロイドやパチュリー・ノーレッジなどの種族から魔法使いの者も居るが、目の前の霧雨魔理沙や、聖白蓮等の職業が魔法使いの者も居る。後者は人間を止めるぞーーッ!ジョ○ョーーッ!しているが。
 神力を使った術も考えはしたが、純粋な神となると神奈子様(軍神)とか諏訪子様(祟り神の頂点)に会いに行かないといけない。当然その二人が住む神社は妖怪の山にあり、文の言いつけで妖怪の山には入らないよう言われている。生憎私には、霊夢や魔理沙のように妖怪の山を敵に回すような度胸も実力も無い。
 故の魔法だ。ならば最も距離の近い魔理沙に頼る他無いだろう。

「ふーむ、まあいいぜ。教えてやる。つっても、使える魔属法にもよるけどな。……魔属法は知ってるか?」

「魔属法?」

「まあそりゃ知らないわな。魔法使い以外は気にも留めないようなもんだし。簡単に解説すると、いわば属性とか、性質みたいなもんだ。錬金とか、炎生成とか、魔力放出とか」

 ふむ。Fateシリーズでいう魔術属性やら起源やらみたいなものか。こういうのがすんなり頭に入るんだから、Fate知ってて良かったとつくづく思う。アレかっこいいしね。投影魔法とかあったら絶対習得する。

「ま、その前に魔力計測だ。取り敢えず立ち話もなんだし入れよ。中で測るから」

「あ、そういやそうだね。分かった。」

 思えばずっと魔理沙の家の玄関まで立ちっぱなしだ。何処かに座った方がいいだろう。

「なんか飲むか?まあ全部アリスから借りてるやつなんだが」

「借りる(盗む)ですねわかりたくありません」

「お前は何を言ってるんだ?あと盗んでるんじゃない、死ぬまで借りてるだけだ。許可は知らんが」

「それを世間一般では盗むって言うんや……」

 魔理沙に指摘しつつ、適当なボロボロの椅子に腰掛ける。ギシギシ言ってるのはボロいからだ。決して私が重い訳ではない。OK? OK(ズドン)

「ほい」

「わっ!?」

 唐突に魔理沙から放り投げられた懐中時計のようなモノをなんとか受け止める。いや、これは懐中時計と言うより……何かの測定器?だろうか。

「魔力測定器。裏側の平べったい部分を左胸に当てるんだ。それで大体の魔力量が分かる」

「へぇ、そんなマジックアイテムあるんだ」

「ちょっと研究すればすぐ作れるけどな。私も魔法の研究始めて2週間足らずで作れた」

 受け取った測定器を左胸に押し当てる
 恐らくは心臓が魔力を生み出す元なのだろう。測定器の針は少しずつ動いていく。動いて……動い……ちょっ、動きすぎじゃないっすかね?もう最大値超えてんだけど?振り切ってんだけど?

「ね、ねぇ、魔理沙。これ、壊れてないよね?」

「むっ、失礼な奴だな。手入れは万全にしてあるぞ」

「いや、これ……」

 針が完全に振り切った測定器を投げ渡す。空中でパシンと受け取った魔理沙は、その結果を見て驚愕した。

「なっ!?測定不能!?初めて見たぞこんなの!」

 驚愕しつつ計測器を彼方に放り投げ(窓から外に出てったけど良いのだろうか……)、更にマジックアイテムも山を漁り始める魔理沙。

「えっと、魔理沙。それって私の魔力量が多すぎるって事なの?」

「いや、そういう訳じゃないんだ。魔力量が多過ぎる時はきちんとそういう風に表示が出るようになってる。霊夢とかレミリアの奴が面白半分で測った時に出てたな」

  博麗の巫女と吸血鬼ェ……

「んで、アレで測定不能が出るって事は、お前の魔力がアレで対応出来ない性質って事だ。実質、幻想郷の今までの歴史では一度も検出された事がない。アレには慧音に協力してもらって、幻想郷の歴史全ての魔力性質のパターンが詰め込んであるからな」

「それじゃあ、私の魔じゅ……魔属法は、かなり特殊なものって事になるの?」

「そうなる。しかし参ったな……そこまでレアな法となるとパチュリーぐらいしか知らないか……?いや、下手すりゃパチュリーすら知らないかも……」

 ブツブツと呟く魔理沙を見守っていると、突然何かの本を取り出して、こちらに投げ渡してきた。結構太い。っていうかこれ顔面直撃コースっ!?あぶねぇ!咄嗟に頭守ってなきゃ思いっきり激突してた⁉︎

「ちょっ!?」

「魔法の初歩の初歩が詰まってる魔道書。どんな魔術属性であれ、こいつなら普通に行使出来るようになってる。中身読んでみな」

 指示に従い、適当にページをめくる。そこには全く理解出来ない、ごちゃごちゃと黒いインクをひたすらにぶち撒けたような文字──文字と言っても良いのかすら分からない何かが描かれている。
 ……だが、何故かその内容だけが頭に入ってきた。成る程、確かに簡単な術式らしい。複雑な所が一切ない。いわば、何の変哲も無い紙をハサミで直線状に切れと言われるようなもの。……もの。

 ………………あれ?

「どうした?やり方はすぐ分かるだろ?」

「……出来ない」

「……は?」

「……なんか、出来ない」

 やり方に従って、魔力を流しているのだ。だが、一向に魔法が起こる気配が無い。

「……他の魔法だ」

 若干顔を暗くした魔理沙に促され、私はさらなる魔法を試してみる事になった。






 ♣︎〜少女修練中……〜♣︎






「結論から言うぞ」

「……うん」

 取り敢えず本に書いてある魔法は全て試した。他の本に載っている上級魔法なんかも試してみた。結果は勿論全て惨敗。

「お前に魔法の才能はない。以上」

「デスヨネー」

 分かってたよ。ああ分かってたさ。最初の魔法失敗した時点で何となく察してたさ。なんか負の連鎖に頭からスピア・ザ・グングニルしちゃったんじゃとか思ってたさ。

 ──案の定かっ!案の定才能/Zeroかっ!

 折角のレア体質が台無しだよばかぁっ!

「つっても、この結果がお前の魔属法のせいって可能性もある。なにしろ未発見の魔属法だからな、何が起きても不思議じゃない」

「えっと……じゃあ」

「そういう訳で、これからパチュリーっていう魔法使いの所に向かう。知ってるか?紅魔館の魔女」

「名前だけなら」

 原作知識で外見どころか使用するスペルカード、能力名まで知ってるけどそれは勿論秘密。ややこしい事になるのは避けたい。幸いにも人里には紅魔館含む各地の情報がよく集まっているので、ここら辺の誤魔化しが効く。人里の人々に感謝だ。

「よし、んじゃあ行くぞ。私の知ってる魔法使いの中で、純粋な知識量ならアイツに勝てる奴は居ないからな」

 椅子から立ち上がった魔理沙は何気無い動作で指を鳴らす。すると何処からかぐるぐると回転しつつ箒が飛んできて、魔理沙の右手にすっぽりと収まった。流石は東方のかっこいい主人公担当、一つ一つの動作がイケメン。え?巫女?あっちただ外道なだけ……うわなにをするやめ((ry

「ほら、さっさとしないと置いてくぜ」

「あ、ごめんごめん」


 いつの間にか窓の外で箒に跨り、こちらを手招きする魔理沙を駆け足で追う。
 窓の縁に手を掛けて飛び越えると、地面に着地する前に能力を使って九尾……ではなく、天狗へと変異する。
 これは文──射命丸文の力の一端を共有したもので、本人が幻想郷最速の速さを誇る為に一部の力であろうとも驚異的なスピードを出せるのだ。まあ本人と比べれば天と地ほどの差があるが。
 勿論、文への事情説明は済んである。自らの能力の事も話したし、それについての了承も得てきた。藍に比べると少し出力は落ちるが、それでもかなりの強さだ。流石は幻想郷最速。

「せぇ……のっ!」

 足に魔力を回し、思いっきり宙を蹴る。同時に爆発的な推進力が生まれ、能力によって擬似的に生まれた漆黒の翼がその羽根を散らす。一気に上空まで到達すると、一歩遅れて上空までやってきた魔理沙が、紅魔館の方角を示した。

 魔理沙の指示に従って暫く飛翔していると、次第に霧が視界を覆っていく。勿論紅霧異変のような大層な霧ではなく、紅魔館付近に存在する湖から発せられる霧だ。自然現象によって発生する、何の変哲も無い霧。

「おっと」

 不意に魔理沙が急停止する。と思うとそのまま横に旋回し、思い出したように、そしてすまなさそうにこちらに手を合わせてきた。まるで『悪い、忘れてた』とでも言うように──

 ……あれ?そういやいつも魔理沙が紅魔館に入る手段って不法侵入じゃね?

「ふんっ!」

「どわっ!?」

 ヒュゴァッ!という何やら物騒な音に、半ば本能的に頭を守る。同時に頭を守る両腕に重い衝撃が伝わり、抵抗する間も無く地面に叩き落とされた。
 衝撃を殺しきれず、幾らか回転しながら少しずつスピードを落としていく。なんとか停止したのを確認し、立ち上がると、目の前に立っていたのは──

 まあ、そりゃ門番だわな。

「見ない顔ですね。正面から堂々と紅魔館に踏み入ろうとは、中々に肝が据わっている」

 ──違うんや美鈴、不法侵入するつもりや無かったんや……

 紅美鈴(ホン メイリン)。紅魔館の門番を務める妖怪。妖怪の身でありながら弱きを覆す為の人間の武術を会得した、妖怪の異端とも言える妖怪。

 その門番が、今思いっきり私に敵意を向けている──!

「なんでさ……」

 思わず某人間のフリをしたロボットの口癖が出るくらいには、面倒臭い状況だった。 
 

 
後書き
next→episode6:紅魔の館 
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