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スーパー架神大戦ダンゲロス

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開戦前日;side 転校生

 明日に備えて準備をするという口実で、夜魔口(やまぐち)悪夢(ナイトメア)は番長小屋から少し離れた位置にある運動部用の倉庫に入った。ここに実は迷路のようなダンジョンの入口があるというのは番長グループでは周知の事実だ。
 ダンジョン自体は大銀河と夜魔口によって攻略済みであり、危険はほぼ無い。
 中にいたモンスター達はほとんどが二人によって倒され、たまに沸いても二人の恐ろしさを身を持って知っているので襲い掛かったりはしない。
 だから、夜魔口はこのダンジョンを倉庫兼秘密基地のようにして使っていた。
 ここに仕舞ってあるものは彼女の能力には欠かせないものだ。それなりに広い上に迷路のような構造になっているダンジョン内では見つかりにくく、かつ見つかっても「ここはダンジョンだし"こんなもの"があっても不思議ではない」と思わせられるものだ。
 ただし、今日用があるのはその"仕舞ってあるもの"ではない。
 用があるのは、倉庫内に置いてある夜魔口が設置した一台の電話。それと―――。

「んー! んー!」

 と、必死に喉を鳴らすガムテープで口を塞がれた女生徒だ。無論塞がれているのは口だけではない。縄で足と手を固く縛り、さらに胴体は縄で柱に縛りつけられている。
 夜魔口の姿を見るなり女生徒はあからさまに恐怖を倍増させ、両目から涙を流し始める。
 夜魔口は別に女子高生を縛って快感を得るようなレズでもないしサディストでもない。確かに縛って監禁している女生徒は校内で一、二を争う美少女と言ってもいいくらい可愛い顔立ちをしているが、それが理由で縛っている訳ではない。
「おい」
 夜魔口は懐から短刀(ドス)を取り出し、女生徒の頬に当てる。
「静かにしてろよ」
 見た目にそぐわぬ、感情のこもっていない驚くほど低い声が女生徒から声を奪った。
 女生徒が完全に恐怖に屈したと判断した夜魔口は電話に手を伸ばし、ダイヤルを入力する。驚くほど長いその番号は入力を終えるまで数分の時間を要した。
 最後の数字を押して、コール音が数回鳴って、ようやく相手に繋がった。
 手軽に挨拶を済ませて本題に入る。

「転校生の召喚を頼みたい」





 転校生。
 異界から召喚されし、圧倒的な戦闘力を持つ魔人。
 無限の攻撃力と無限の防御力を併せ持ち、歴史的事件の裏には必ず存在が見え隠れする謎の存在。
 そして、召喚する際には"報酬"が必要とされる。





 鈴木三流(みりゅう)白金(しろがね)遠永(えんと)南崎(みなみざき)シンリは召喚された転校生を見つめる。
「召喚に応じて参上しました。転校生の両性院(りょうせいいん)乙女(おとめ)です」
 挨拶に応じ、返事をしたのは鈴木三流。
「どうも。私が依頼主の鈴木です」
 そして、と言いながらは後ろを振り返る。
「彼女が報酬の一文字あかり先生です」
 生徒会室には不釣り合いな十字架に磔にされ、気絶している女性を見て、そう言った。
 彼女、一文字あかりは希望崎学園の現代文教師だ。運悪く転校生への報酬にされてしまった。
 両性院は報酬を確認すると鈴木に向き直る。
「依頼内容は番長グループの殲滅でいいんですね?」
「はい。詳しくはこちらを読んでください」
 そう言った鈴木に続いて南崎シンリが生徒会長友釣から預かった資料を差し出す。
 両性院が資料を読んでいる間に、読者の皆様に三人について紹介しよう。
 前提として三人は魔人ではない。紛れもない人間である。
 長く、黒い髪を一本の三つ編みにして後ろに纏めている中性的な顔立ちをした貧乳の少女、鈴木三流(みりゅう)はSLGの会創設者にして会長である。
 SLGとはShort-Lived Glowの略であり、弱能力者を示す、鈴木がなんとなく勝手につくりだした用語である。
 一般的に何の役にも立たない弱い能力を持つとされている魔人のことを指す。
 鈴木三流はそんなSLG能力者の社会的地位上昇のため、SLGの会を設立し、学園内で活動してきた。
 今回ハルマゲドンが開催されると聞き、打算込みではあるがSLGの会の活動に協力的だった生徒会に味方することにしたのだ。転校生召喚のリスクを全て負い、持っている限りの番長グループの魔人の情報を渡す代わりにハルマゲドン終了後にSLGの会に有利な校則をいくつか施行してもらう契約になっている。
 整った顔立ちをしている三人の中で唯一の男性が白金遠永だ。希望崎学園の保健委員長にしてSLGの会では副会長を務めている。人間でありながら様々な事件を解決してきた名探偵であり、魔人にも果敢に立ち向かい時には打ち倒してきた。正直SLG能力者より何倍も頼れる鈴木の参謀だ。
 南崎シンリは二人の幼馴染みだ。放送委員長と新聞部部長を務めており、友人も多く彼女を慕う後輩も少なくない。その立場と交流関係の広さ故に持っている情報量は膨大な量に及ぶ。当然番長グループの魔人の情報も多く入手している。生徒会と取り引きが出来たのも彼女の情報収集能力の高さのおかげだ、と鈴木も遠永も思っている。
「‥‥わかりました。対象となるのはハルマゲドンに参加している番長グループの魔人、でいいんですね?」
「ええ。細かい制約については資料に書いてあった通りです」
 そう言われて両性院は再び資料に目を通す。開かれているのは判明している限りの番長グループの魔人の能力の情報だ。両性院の能力は攻撃的な戦闘向けのものではないが、かといって諜報に適した能力というわけでもない。何よりも情報がモノを言う魔人との戦いでは少なからず苦労をしてきた。
 だから最初からここまで情報が充実しているのは物凄くありがたかった。何て親切な依頼人なのだろう、と両性院は三人の依頼主に対して好印象を抱いていた。
 無論だからと言って油断は出来ない。番長である大銀河超一郎の能力は不明(情報はアホみたいに集まるがどんな能力か全く想像すらつかないらしい)だし、副番の夜魔口悪夢の能力についてはいくら調べても情報が全く入ってこない。調べようとした者は絶対に帰ってこないという。
(―――だが、能力以外についても書かれているのは本当に助かる)
 夜魔口悪夢は能力こそ不明だが、ヤクザ出身であることや身体能力が並みの魔人を遥かに凌駕すること、特技や趣味などの個人情報(TRPG版ダンゲロスで言うところのFS)、大銀河超一郎に相当入れ込んでいることなどは判明している。
 場合によっては敵対するかもしれない生徒会の魔人の情報は何一つ書いていないが、こればかりは仕方ないだろう。生徒会だって転校生と戦うような展開は避けたいはずだし、両性院だって生徒会と番長グループに二面打ちされるような展開は御免だ。
「それでは、生徒会の人たちと会ってもらいます。資料に書いてあった契約内容の通り、両性院さんには生徒会と連携を取って戦ってもらわなければなりませんので」
 無論能力も明かしてもらいます、と鈴木は続けた。どのみち転校生である両性院は嘘がつけないので素直に頷く。
 さて、このようにして生徒会は二枚の切り札のうち一つを引くことに成功した。だが、生徒会の面々は果たして相手も同じ切り札を使ってくる可能性をどれほど考えているのだろうか?





「ファーーーーーーーック!!!」
 そう聞こえたのもつかの間。
 電話の置いてあったデスクは粉々に粉砕された。
 埃が舞う中、夜魔口悪夢は何が起こったのかわからずに混乱していた。
 直前に起こった破壊活動は自身が呼び出した転校生の仕業に違いない。耳に残る品のないセリフも転校生のものだったに違いない(まさか人質の女子生徒がいきなりそんなことを言うわけないだろう)。
(そう言えば電話口で担当者が気をつけてください、なんて言っていたのを聞いたような―――)
 夜魔口が数分前の記憶を辿っているうちに、舞っていた埃は落ち、視界がクリアになる。
 どんな転校生が来やがったんだと不安になりながら目を凝らす夜魔口が見たのは―――。



「オエエエエエエエエエエエエエエエエエ!! クソッタレー!」



 大量のゲロを吐きながら暴言を吐き散らし、ゲロに何回浸されたかわからない衣装を身に纏い、やたら血生臭い持ち主が本来の使い方をわかっているのか不安になるベースの横で四つん這いになっている、パンクロッカーがいた。
 人質の女子生徒はそれを見て失神し、夜魔口は頭を抱えて思う。
 冗談と言ってくれ、と。
 とりあえずゲロを一通り吐き終えるまで待ち、落ち着いたところで水を出してやった。
「クソッタレー!」
 ガンを飛ばされ床に唾を吐き捨てた後、拒否された。
「・・・おい」
「あ? なんだよクソッタレー!」
「お前が私が呼んだ転校生でいいんだな?」
「そうに決まってんだろクソッタレー!」
「私が依頼主の夜魔口悪夢だ。そこで寝ているのは報酬の家杉(いえすぎ)よしえだ」
「てめえはファッションパンクだクソッタレー!」
 いきなり殴りかかってきた。ベースで。
 流石に転校生の一撃など受けようものなら夜魔口もひとたまりもない。
 回避しようとするが、そんな必要はなかった。転校生の方が自分の吐いたゲロに足を取られて転んだからだ。大量のゲロの上でそんな激しい動作をしたのだから当然だ。
「ギャアアアアアアアアア! クソッタレー!」
 夜魔口は泣きたくなってきた。どう見ても頭のおかしいヤバい人なので今すぐ逃げ出すのが正解のはずだが、こんなのが苦労して人質連れてきて大銀河にバレないように気を張り詰めながら召喚した転校生なのか。私の苦労は何も報われなかったのか。
「クソ! 散々だぜクソッタレー!」
 散々なのはこっちだ。クソッタレー!でゲシュタルト崩壊しそうだわクソッタレ。
 だが、召喚した以上こちらの戦力になってもらわないと困る。
 夜魔口はなんとか転校生パンクロッカーとコミュニケーションを取る方法はないかと考える。
 そうだ、転校生は嘘がつけないと電話口で担当者が言っていた。ならこいつに率直に聞くのがいいだろう。
「おい、なぜ私を殴ろうとした」
「テメエがファッションパンクだからだクソッタレー!」
「ファッションパンクってなんだ」
「見た目だけ、格好だけで、精神性がパンクに全然追いついていない奴らのことだクソッタレー!」
「じゃあお前はなんだ」
「俺は―――正真正銘のリアルパンクロッカーだ!」
 どうやらリアルパンクロッカーの反対がファッションパンクらしいと理解した夜魔口はとりあえず下手に出る。
「わかった。私はファッションパンクだ。お前はリアルパンクロッカーだ」
「わかったかクソッタレー!」
「だがお前は同時に転校生でもある。召喚に応じたならあの報酬も欲しいはずだ。私もお前に生徒会の連中を殺してもらわなきゃ困る」
「ああ!? 命令すんな! ファック!」
 と言ってリアルパンクロッカーは床に唾を吐き捨てる。
 段々腹が立ってきた夜魔口はこの転校生は殺したほうが遥かに役に立つのではと思い、屠る方法を考え始めた。ゲロを喉に詰まらせたら死ぬだろうか。
 しかし幸か不幸か、夜魔口の頭に妙案が浮かんだ。
「生徒会の奴らはそのファッションパンクとやらより遥かにたちが悪くてな。この世からパンクを根こそぎ消し去ろうとか考えているイカれたアンチパンク集団だ」
 するとパンク転校生は小イワシのようにその釣り針に食いついた。
「それはマジかクソッタレー!」
「ああマジだ。既に何千人ものパンクロッカーが犠牲になった」
 その後、夜魔口は生徒会に対するよくわからない悪口を転校生に吹き込み続けた。
 パンクバンドのCDを軒並み焚書しているだとか。
 パンクな髪形してるやつの毛根を死滅させて回っているだとか。
 酒や煙草、ドラッグなどを見つけ次第持ち主ごと消し炭にしているだとか。
 転校生が「そいつらはスタバに行ってんじゃないだろうなクソッタレー!」と言えば「そう言えばライブハウスを片っ端から潰してスタバにしてたな」と返し。
 「HIPHOPの連中よりタチが悪いぜクソッタレ」と言ったならば、「生徒会にはパンクのCDをHIPHOPのCDに変換する魔人がいる」という大嘘をつき。
 生徒会に勝手に変な設定を付与しまくった結果、気が付いたら生徒会がセッ〇ス・ピス〇ルズのメンバーを全員暗殺したということになっていた。
 そうした夜魔口の多大なる苦労の甲斐あって、パンク転校生を番長グループの戦力とすることに成功したのだった。ついでに名前を聞くことにも成功した。
「ファック! 許せねーぜ生徒会の奴ら! 俺が全員ぶっ殺してやるぜ!」
「ああ。助かるぞリアルパンクロッカー」
「俺の名前はまなぶだクソッタレー!」


【ハルマゲドン開催まであと12時間】 
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