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英雄は誰がために立つ

作者:昼猫
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Life24 転生天使!転生麻婆!?後編 ~因縁対面!?切嗣と綺礼~

 裏で駒王町を管理する面々に挨拶し終えた綺礼とイリナは、堕天使側が管理していた廃屋同然だった教会の工事を見た後に、表でここら周辺の元締めである藤村組現総組長の自宅である、藤村家に挨拶しに来ていた。
 居間に通された2人だが、イリナは兎も角綺礼は非常に居心地が悪かった。
 何故なら、目の前に座る藤村組現総組長の藤村切嗣に睨み付けられるとはいかないまでも、露骨に歓迎されている雰囲気ではなかったからだ。

 (ふむ?事前に挨拶に行くと連絡は送って居た筈だ。それにこの御仁、切嗣氏とは初対面の筈だが、何かに気に障る事でも起こしてしまったか?)

 綺礼が切嗣の雰囲気に疑問を感じている一方で、切嗣自身も、何故綺礼を目の前にして存在を否定したい気持ちに駆られていることに戸惑っていた。

 (おかしい・・・。何故僕は目の前の神父を許せないと感じてしまうんだ?そもそも許すとは何だ?僕と彼は初対面の筈だ。脳の病気には掛かった事が無いから忘れている訳じゃ無い。家族や部下たちの事は忘れるわけないし、趙の事や舞弥、レビーにタフィー、レベッカに早矢香、アンジェリーナ、キャロライン、クラリッサ、アムリタ、雪蘭、度、マリア、デグイア、ナタリア、シャリファ、テレンティア、ニコレッタ、晶、オフェリア、シャーレイ、ミア、アフィック、ローレン、ムケンダ、えっと、それからそれから・・・)

 切嗣は自分の記憶の中で今まで会って親しくなった人達を思い出していた。
 因みに、上記で上がっている名前は全員、切嗣に異性として好意を寄せていた、又は好意を寄せている(・・)誰もかれもが美しい女性たちだ。
 この事をアイリにバレれば、どの様な結末を迎えるかは想像に難くない。
 夫である切嗣の胸中に気付いていないアイリは、呑気にイリナと個人的に挨拶していた。

 「お久しぶりです、アイリさん!」
 「ええ、ホントに。それにしても見ない間に美人になっちゃって、何なら今すぐに士郎と披露宴でも挙げる?」
 「えぇええ!!?」
 「な~んてね、今時親が子供の伴侶を決めるなんておかしいモノよね?」
 「は、はは、は、そ、そうですよ・・・ね」

 イリナとしては、アイリの爆弾発言に驚きとともに若干嬉しさも込み上げていたが、瞬時に翻しに乾いた笑いと共に気が一意に落ちて行った。
 しかし当のアイリは、イリナの乾いた笑いに不思議そうに首を傾げていた。
 そうしてから、漸く“挨拶”に移行した。

 「この度、この駒王町の教会の立て直し及び、この地の神父として派遣されて来ました。言峰綺礼と申します」
 「同じく、この地に派遣されて来ました。駆け出しのシスター、紫藤イリナです。今日から宜しくお願いします!」

 それに対して。

 「藤村組現総組長の藤村切嗣です」
 「同じく、藤村組現総組長補佐のアイリスフィール・藤村です。御2人とも、私たちは貴方達を歓迎いたしますわ」
 「総組長殿直々のご挨拶痛み入ります」
 「いえ、責務ですので・・・」
 「・・・・・・・・・・・・」

 何とも空気の悪さを醸し出す切嗣。
 そんな夫に流石にアイリは、夫婦間でしか伝わらないアイコンタクト――――ある種のテレパシーで注意する。

 (ちょっと切嗣!言峰神父に失礼でしょう!)
 (・・・・・・解ってるんだけど、如何しても好きに成りたくないと言う気持ちが湧き上がってくるんだ)

 対して教会は、正式な念話で意思疎通を取っていた。

 (言峰神父、切嗣さんと何かありました?)
 (それが私にも覚えがなくてね、困っている所なのだよ)
 (ん~、取りあえず空気を変えましょう。例えば言峰神父がアイリさんを褒めるとか)
 (その提案を採用しよう)

 綺礼は一度せきをつく。
 その事に自分たちが失礼な態度を取ったと思い、藤村組側に軽い緊張が走った。
 だが彼らは言峰神父の言葉を待つしかなかった。

 「それにしても藤村殿の奥方は、とても美しい方ですな」
 『え?』

 自分たちの失礼な態度を追及されるのかと思いきや、予想だにしない言葉が綺礼の口から出たので、2人揃って驚いていた。

 「ん?如何かしましたか?」
 「い、いえ、褒めて下さるのは嬉しいのですが、何故そのような事を?」
 「いえ、単なる感想です。私にも最愛の妻がおりますが、矢張り女性と言うのは幾つになっても美しいのですなと改めて思った次第です」
 「あ、ありがとうございます」

 綺礼の言葉にアイリは軽くだが照れる。
 そんな2人のにこやかなやり取りとは裏腹に、切嗣は心の奥からまた何かが吹き上げて来た。

 (この神父、まさか僕からアイリを奪い去る気か!?何と言う外道なんだ。そしてまさかイリナちゃんもこの男の毒牙に・・・・・・!いや、そんな事は許さない、許されない!世界中の全ての美人は僕の嫁!!アイリやイリヤも勿論、イリナちゃんもゼノヴィアも、椿姫ちゃんも悉く僕の嫁だぁあああ!!士郎にだって、渡すものか!)

 などと嫉妬と共に、身勝手に憤慨していた。後なんかよく解らないテンションも加わって、色々残念になってきている。何時もの事だが。
 そんな切嗣は、大事な妻を守るために強い語尾で綺礼に宣言する。

 「アイリが美しいのは至極当然の事です、何せ僕の嫁ですから!!」
 「もうヤダ~、切嗣、ったら!!!」
 「ぶへっっ!!?」

 最愛の夫の言葉の嬉しさから、基本的には稼働していない筈の魔術回路から漏れ出した魔力が加味されたビンタをもろに受けた切嗣は、その威力が凄まじいく、口と鼻から血を吹き出して苦悶していた。
 その現象に、イリナは観察する。

 (なるほど。報告書で読んだ通り、アイリさんは感情の昂ぶりによって無意識に魔力で強化させてしまうんですね。・・・・・・この事に士郎さんからの要望は、決して自分以外の3人にこの事実を伝えるべきではないと。そうですよね、言峰神父・・・・・・神父?如何かしたんですか?)

 イリナの心配通り綺礼はどうかしていた。

 (何だ、これは一体如何いう事だ?私は神の下僕にして、全ての人々よ幸せであれと常日頃から祈っているのに、何故今の私は切嗣氏の苦しむ顔を見て、気が昂ぶっているのだ!?まさか私は切嗣氏の苦悶の表情に悦を感じているとでも言うのか!)
 (言峰神父、如何かしたん――――って、まずいですよ!神父の天使の翼が黒に点滅しかかってますよ!?ホントに如何したんですか!?)

 イリナの心配する念話など届いていないのか、綺礼は自分を叱咤していた。

 (ま、まずい・・・。私が堕天しかかっているだと!?―――ええい!恥を知れ言峰綺礼!!お前はお前を指名して下さったガブリエル様の顔に泥を塗る気か!?そうであるなら貴様は主に仕える資格など無いッッ!!)
 (あっ、点滅が収まりかけてる!よかった~。それにしても如何したんです?)

 綺礼は自分に檄を飛ばした上で自ら律する事で、何とか事なきを得た・・・・・・・・・はずだった。
 頭を垂れていた綺礼は顔を上げると、いつの間にか目の前でブチ切れたアイリによる制裁として、マウンドポジション体勢で切嗣が殴られ続けていた。

 「ア、アイリさん!?やめて下さい!切嗣さんが死んじゃいますよ!!」
 「離してイリナちゃん!コイツには今日ここで、引導を渡さなければならないの!!」
 「アイ、リ、げはっ!待っ!!ごふっ、どぶっ!!」

 如何やら先程の切嗣が思い出していた数多くの女性たちの事を、女の勘による問いかけでアイリにバレてしまったようだった。
 その光景を見た綺礼は、またも精神が高揚していき堕天しかかっていく。
 この後暫くそれが続いて、綺礼はギリギリ耐え抜いたらしい。


 -Interlude-


 「お帰りなさい、藤村士郎」
 「・・・・・・・・・・・・・・・(パクパクパクパク)」

 士郎は帰宅直後の玄関内にて、かつてない程の驚きに囚われていた。
 彼の帰りを出迎えたのは椿姫――――では無く、アイリ――――では無く、イリヤ――――では無く、ゼノヴィア――――では無く、今日藤村家にも訪ねる予定として知り得ていた言峰綺礼だった。
 しかもアイリが貸したのだろう、彼女愛用の花柄のエプロンを身に着けての登場だった。
 この様なシチュエーション、誰であろうと驚いても仕方なかった。

 「む、いや失礼した。私たちは初対面なのだから挨拶が先だったね。では改めて、初めまして藤村士郎。私は教会より派遣されて来た、言峰綺―――」
 「シロ兄、おかえりなさーい!」
 「っと、イリナ!?」
 「・・・・・・・・・・・・」

 綺礼の挨拶中に悪気はないのだが、イリナが廊下の奥から玄関に居る士郎目掛けて彼の腕の中に飛び込んできたのだ。
 それを綺礼は、最早悟った顔で見ていた。

 「シロ兄、久しぶり!」
 「イリナか、来ることは聞いてたから驚きはしないが、また見ない間に美人度が上がったんじゃないのか?正直こうして抱かれているなんて、役得以外の何物でもないな」
 「えぇええ!!?」

 士郎の言葉を受けて瞬時に離れるイリナは、驚きながら自分を律しようと努め始める。

 (シ、シロ兄のせいで堕、堕天しちゃうぅうう!!)
 「ただいまー」
 「只今帰りました」
 「おー、2人ともお帰り」

 そんな時にゼノヴィアと椿姫が帰って来た。

 「士郎さん!」
 「士郎君も今お帰りで?」
 「見た通りだ。っと、相変わらずゼノヴィアは甘えたがりだな・・・・・・!!?」

 突如後ろから大きな殺気を感じて振り向くと、そこには先程まで自分と話していたとは思えない位の冷え切った表情をしているイリナが立っていた。
 その顔があまりに恐ろしく見えたのか、士郎は思わず後ずさる。

 「シロ兄、如何してゼノヴィアとくっついているの?如何して真羅さんがただいまって言ってたの?」
 「えっ、あっ、いや、それは・・・・・・」
 『・・・・・・・・・』

 あまりに冷え切ったイリナの声と寒気すら感じる程のプレッシャーに、士郎はしどろもどろになる。
 そんな2人と言うか、イリナの態度に瞬時に事情を察したゼノヴィアと椿姫は、敢えて互いに士郎の手を取って絡めるように握った。

 「士郎さんが説明する必要ないよ」

 と、胸を押さえつけながら、右腕を絡めているゼノヴィアが言う。

 「ええ、イリナさん。私たちは、士郎君と同じ屋根の下で暮らしているんですよ」

 同じく胸を押さえつけながら、左腕を絡めている椿姫も言う。

 「・・・・・・・・・」
 「シスター・イリナ、堕天しかかっているぞ?」

 あまりの光景に、額に血管が浮き出て斬れそうな位の貌に成るイリナ。
 そして、最初のインパクトだけで忘れ去られようとしている綺礼が、イリナに堕天への警告を口にするが、聞こえていない様だ。
 そして当の中心人物である士郎は、修羅場の様な空気を感じ取りながらも鈍感すぎるために困惑するしか出来なかった。

 『只今帰りまし、うわぁあああああああああ!!?』
 「む?」

 第2陣である祐斗とギャスパーが帰宅した直後、最初に見たのが綺礼だったからか、来た道を2人揃って逆走して行ってしまった。
 こんなカオスがその後、10分以上続いて行った。
 その10分以上の間、イリナが堕天しなかったのは奇跡と言えるだろう。


 -Interlude-


 ほぼ同時刻。
 此処は欧米のある州の中心地にある、幾つもの超高層ビルの一つの最上階に極めて近いワンフロア。
 そこは豪華絢爛と言う言葉が相応しい位の絵画などの美術品がこれでもかと並べてある廊下や、どんなVIPが来ても即座にもてなせるレベルの客室も幾らでもある大貴族の屋内を沸騰させていた。
 そのフロアの中心地にある大広間に、とある2人がいた。
 1人は大貴族や大富豪が着る様な衣服を身に纏うこのビル――――いや、この街のボスと言っても過言では無い人の姿を被った化け物、Kraことケイオス・ルイル・アスター(偽名)だ。
 もう1人は10人全員聞けば全員美人と答える程の絶世の美少女だ。少なくとも容姿とスタイルは。
 これまた豪華なドレスを着ているが、絶世の美少女と言う容姿を仏頂面で台無しにしていた。

 「矢張り行くのか?」
 「ええ。準備も整いましたし、そろそろ始めようと思います。私の悲願・・・・・・復讐を」
 「――――その割には、嬉しそうには見えんな」

 そこへ第3者である、銀髪長髪の男が音も無く現れた。
 その男は禍々しかった。
 その男に、老若男女関係なく一般人が出くわせば、殺気をぶつけられただけで消滅してしまうのではないか?と思えるほどの禍々しさだ。
 と言っても、この男がそこらの塵芥同然と見ている一般人に、殺気どころか何かの感慨をぶつけるかも怪しいが。
 音も無く現れたその男に、先に居た2人は驚きもせずに目線を向ける。

 「その様な事はありません。これは職業病です」
 「こんな子供をそんな職に付けるなど、貴様は残酷極まりないな」

 男はケイオスを責めているが、表情は明らかに楽しそうに笑っていた。
 しかしそんな皮肉に対して、ケイオスは無表情で返す。

 「強制などした覚えも無いが、まさか同情でもしているのか?」
 「フフ、それこそまさかだが、興味程度ならそそられるな」
 「私の様な有象無象風情に興味を持たれるとは、勿体無きことにございます。王」

 最上級悪魔にも立ち向かえる戦士でも、そんなところに居合わせれば脱出率0%と言える空間内で、まるで動揺せずに腰を低くする美少女は何所までも冷静に対応していた。
 まるで死ぬことに何の恐怖心も持っていないかのように。

 「そこまで自分を下卑する必要はあるまい」
 「分相応は弁えています。少なくも、御2人のどちらかと向かい合っても戦闘にすらならないでしょう。違いますか?」
 「フフ、貴様も娘を見習って、疾くと失せたら如何だ?」

 ケイオスに殺気を込めながら笑う男。
 しかし矢張りケイオスは、何時も通りに返す。

 「そんなに視界に入れたくないなら、今度こそちゃんと死ねばいい。そこまで封印は施していないのでな。死ねば立派な英霊の仲間入りだ」
 「貴様・・・!」

 ケイオスの言葉に本気の殺気をぶつける男。
 ケイオスの封印が施されていなければ、この都市部は一瞬にして男とケイオスの2人だけを残して塵に還っていただろう。
 つまりそれだけの存在でもある。
 しかもそれが相手に殺気をぶつけただけの二次被害でしかないのだから、驚天動地極まるだろう。

 「意外と気の短い奴だ。いや、(いにしえ)の王は基本的にこんなモノか」
 「私を有象無象と一緒にまとめるなっ!・・・・・・精々今は図に乗っていろ。この封印が取れた時、貴様が私を仕留めなかった侮辱!貴様が私を見下ろした不敬!貴様が私に力を敢えて増やした屈辱!それらを圧縮して盛大に贈り物として届けてやろうではないか!」
 「そんな未来があると言いな。白龍皇と同じく、期待しないで待つとしよう。――――少々話し込んでしまって、すまんな」
 「いえ、陛下と大切な会談でしたので、その場に居合わせただけでも身に余る光栄です」

 男の殺意を何時もの様に流し聞き終えたケイオスは、本来の話に戻った。

 「・・・・・・駒王学園の新学期に合わせて編入できるように手配済みだ。いつでも発つがいい――――」

 ケイオスは少女の名前を口にする。

 「――――夕嵐紗耶香」

 自分の家族を、無残に殺した悪魔たちを滅ぼそうと胸に誓った少女だった。
 昔は駒王町に住んでいた少女だった。
 そして今ではソーナ・シトリー眷属の転生悪魔、匙元士郎にとって幼い日に離れ離れになった初恋相手だった。
 少年たちの思いをよそに、世界がまたもや確実に加速していく。
 今はまだ何も知らない少年たちに、このうねりを止める術はなかった。 
 

 
後書き
 この男は最初から出すつもりでしたが、危ねぇ!
 いろいろ語尾口調をオリジナルにするところでした。
 因みに、この男は英雄は誰がために立つを思いついてから直にいつか必ず出そうと決めていた男だったので、オリジナルサーヴァントとして出すところでしたが間に合ってよかったです。容姿についても。
 こいつの語尾、あってるかな?

 それでは皆さん、今年も色々ありましたから来年こそは良い年でありますように!とは言いません。そんな贅沢は言いませんが、ぼちぼち程度の良さが有れば私は十分です。
 それでは一応挨拶なので言わせて頂きます。
 よいお年を~m(__)m 
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