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骨斧式・コラボ達と、幕間達の放置場所

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交節・ “愚” と “紅” 、二種の殺戮者

 
前書き
コラボ第四段。

今回はJade色さんのSAO二次創作『SOA~愚かなる殺戮者~』より、主人公・スイ。
対するは紅色の狂気・“謎の女性プレイヤー”。

Jade色さんよりお誘いがありましたので、書かせていただく形になりました。

亡き親友の為にオレンジプレイヤーを葬る殺戮者となった少年と、己の愉悦と快楽の為に暴意を振う少女。
根本に居座る思いがまるで正反対な、二人の戦いの行く末とは……?

では、本編をどうぞ。 

 
 
「おらぁっ!」 

「うあ!?」
「ぐっ……くぉっ!」
「てめえぇ!!」


 フルダイブゲーム。
 ゲームの中に直接飛び込んで、己がアバターの身体を動かして操作するという、まったく新しい感覚を呼び込むゲームの次なる形。

 そのうち一つ、VRMMO・RPGと呼ばれるジャンルのゲームであり、これからの着火剤とも期待作とも呼ばれ…………されど一人の鬼才の謀略により、HP0=現実の死とも直結しているデスゲームと化してしまった―――剣の織り成す世界、『ソードアート・オンライン』

 略称 “SAO” 。
 その舞台である、浮遊城アインクラッド。

 そのさらに内部の、明りが心許無い丸型の鉱石灯しかない、数メートル先の分からぬ薄暗いダンジョン…… “迷宮区” と呼ばれる鉄塔の中。
 高らかな金属音が断続的に鳴り響き、怒号と悲鳴が飛び交う。

 音源では―――両手剣を持った少年が、齢三十代に見える男数人と渡り合っていた。


 両手剣を持った少年の名前は『スイ』。
 理由は後述するが……『殺戮者』という物騒な名で知られる、所謂有名どころなプレイヤーだ。


「うらああっ!!」
「遅え」


 スイは自然体で構え、相手の一撃を待つ。
 短剣使いの突進を両手剣の柄で右へ受け流し、一歩の踏み込みから首めがけて刃が吸い込まれ―――次の瞬間には頭蓋が高々宙を舞う。

 同時の男のHPは全損。それ即ち、ゲーム世界からも現実世界からも、永久に退場した事を告げていた。

 だが、スイは止まらない。
 呆けて立ち尽くす男へと、振り切った勢いのままに回転してそのまま斬撃。首を又も跳ね飛ばす。


「なっ……このクソが!」
「ふざけんじゃねえっ!」


 其処でようやく我に返った三人目が大声で己を叱咤し、四人目が盾を使った防御重視の追撃を行っていく。


「せいっ!」
「うぐお!? ……うがあっ!!」


 四人目のみ見れば余り優勢とは言えない状況だが、少しずつ三人目へ背を向けさせていくのにに合わせて……その三人目が片手直剣を肩越しに構えた。
 余りに隙だらけのその格好は、しかしこの『SAO』では決して油断してはいけない要素を含んでいる。

 その名は【ソードスキル】。

 基本技やスピード重視にダメージ重視、連続攻撃に移動技にデバフ付きなど、スキルそのものの多様さもさる事ながら……片手直剣や短剣に細剣、片手両手含めた斧に槍に、ムチやチャクラムまで各武器種毎にも、それこそすべて数えれば無限に近い数用意されているのだ。


「しいいああっ!」
「ふっ……せあっ!」
「うぎっ!?」


 大音響を撒き散らす両手剣と楯の衝突……それが合図だった。

 男が剣を肩に担ぎ前屈みとなった所作に、システムが感知したか腕ごと硬直した―――かと思うといきなり中断して思い切り前に身体を倒す。


「オラ死ねやぁ!!」


 切っ先は相手に向けたまま剣を左腰だめに構えれば……ペールブルーの輝きが迸る。
 それと共に地を蹴り剣を突き出し、自らを巻き込み一条の光芒と成って突進していく。

 コレがソードスキルであり、片手直剣スキル・基本突進技【レイジスパイク】。現実ではまず考えられない速度で剣尖がスイへ目掛け、架空の空気を穿ちながら襲い来る。


「すぅ……」


 際してスイはまるで慌てなかった。

 両手剣を打ち下ろした位置から素早く変え、自分の身体を起こして剣を担ぎ直す体勢にし―――赤色とオレンジ色の間を行く、薄系色のライトエフェクトが刀身を包む。

 彼自身のレベルとスキルのレベル、そして約一年以上も続いているゲーム生活での癖が合わさり、男達よりも数段早く【ソードスキル】はプレモーションから解き放たれる。


「ぜああっ!!」


 一回転目で三人目が胸部から断ち切られ、何をなすでもなくHPが全損。断末魔すらなくポリゴン欠片となって消える。

 更にその途上にあった【レイジスパイク】発動中の片手直剣を、突っ込んできた男ごと打ち上げ無防備な格好を晒させる。


「あ―――」


 声を上げても、もう遅い。
 男は仮想の慣性に逆らえず万歳に似たポーズで、次なる回転からの二撃目を胴にもらい真っ二つとなった。

 上半身が宙を舞う。
 飛び散りこぼれる赤きダメージエフェクトの粒子が、宛ら血液しぶきの如く飛び散る。
 ゲームとは思えない、リアルな情景と見える、それ程に凄惨な光景を作り出す。

 スイの繰り出した、両手剣スキル・範囲二連斬り【ブラスト】で……残る命は纏めて散らされたのだった。


「ふぅ……47秒ってとこか」
 

 人を殺した罪悪感よりも、己の渦巻いていた殺気の濃さを確かめるよりも、スイが先ず口にしたのは戦闘開始たら終了まで “掛った時間” だった。
 それはまるで、この行為に慣れているかのようだ。


 ……これだけ見れば、彼は一体どんな悪人なのかと、眉を潜めてしまうかもしれない。
 しかしながら、真実は少し違う。

 彼が殺していたのは実はオレンジプレイヤーと呼ばれる『犯罪者』であり、盗みやプレイヤーへの攻撃などでカーソルが通常のグリーンからオレンジへと変わる事から、システム的にもそう呼ばれている存在である。
 中でもスイが相手をしていたプレイヤー達は、冗談では済まされないと分かっていながら……何の旨みがあるのか知らないが、有ろう事か本物の殺人となる “PK” を犯した殺人者―――呼称、レッドプレイヤーと呼ばれる者達。

 つまりスイが狙っていたのはただのプレイヤーではなく、人としての道を踏み外した外道共であったのだ。

 もっと言うなら彼は此処へ “依頼” があって来た為に、それ即ちレッドプレイヤー達を殺す事を望んでいるのがスイ一人では無いので、彼ばかり重い目に有っている訳ではない。


「……」


 しかしながら……スイもまた正義感だけで戦っているとも、命の重みを一身に背負っているとも言い難く、それどころか狂気に走ったか殺人を 『楽しんでいる』 節も少なからずあった。

 彼がこうなった発端には、“カイト” というプレイヤー、そして “PoH” というレッドプレイヤーが関わっているからなのだが、それにしたって行きすぎではという思いが先に立つ。

 皮肉にも殺し続ける中で、スイはオレンジプレイヤー―――否、レッドプレイヤーとある意味同義の意思を、己が内に抱いてしまっているのかもしれない。


「もう用は無いし、帰るか」


 男達から奪ったアイテムの中に、結晶アイテムが無い事を知るとスイは徒歩で帰らねばならないか、それとも自分のポーチにあるアイテムを取りだすかで、アイテムの金額の事もあり真剣に悩み始めた。

 再三言うが、彼は人を殺したばかり。それで日常に近い言葉を紡げるのだから……やはり、何処か狂っているのだろうか。
 されども彼が行っている事は、百害あって一利無しな自己満足だけではない。そう易々止める事も出来ないだろう。


「……しょうがない。今後もあるし、経費削減の為に歩こう」


 きっかり二十秒間悩んだ結果、スイは其処まで上部の位置のでない場所へ居たのも有り、迷宮区を歩いて降りて主住区へ戻る事に決める。

 ダメージも無く、時間もかからず、なのに結晶アイテムでワープする事に金を掛けるのは、正直馬鹿馬鹿しいと思った所為なのだろう。

 何時もと変わらぬ雰囲気のまま、何時もと同じ空気の漂う道を、スイは何時もと何ら変わらぬ足取りで戻っていく。







“パチパチパチパチパチ……”


「……?」


 軽い調子で叩かれる、拍手の音を聞くまでは。

 何処から聞こえてくるのかとスイは辺りを見回すが、鳴りやまぬ拍手の音に反して主は姿を現さない。


「……出てこいよ、隠れてたって無駄だぜ」


 しかし相手の演出(ソレ)も無駄。

 彼は索敵スキルをコンプリートしており、視界に表示したマップに映る “無色” のカーソルで、拍手を送ったプレイヤーの位置を把握しているのだ。

 同時に、スイから霧散した筈の緊張感が漂ってくる。


 そして―――


「はい了解しました♪ これ以上フリを続けても滑稽なだけでしょうしぃ、姿をお見せしましょう♫」


 何の意趣返しなのかコレまたきっかり二十秒後、苔の生えたオブジェクトの影から一人のプレイヤーが姿を現した。


「な……?」


 その声に、姿に、スイはまず驚く。

 何故なら出てきたのは、150cm代前半へ入っているかどうかな低身長の、赤い髪を触覚状のツインアップに括った少女プレイヤーだったからだ。
 当然ながら声も男とは違うソプラノボイス。

 トランジスタグラマーな体形で、体の線がクッキリ出る袖無し臍出しのインナーと、髪とはまた違う赤い色をしたアラビアン風のズボンを着用している。
 武器は背後にある濃い紅色の刀身のスコーピオンらしく、柄尻は床につけ後ろに回した両手で添えるように持っていた。

 そして容姿―――スタイルがいい事は勿論、顔も美少女といっても差支えなく、一見それを台無しにするような顔に刻まれた『Ω』状の刺青も、何処か少女の魅力を引き立てているように思える。
 スイの知り合いに居る、アスナやリーナといったプレイヤーも美少女の域に入るが、彼女等と比べても引けを取らないぐらいだった。


「何の用だ? あんた」
「フンフ~ン♪ ~~♫ フ~ン♪」


 スイの発言に少女は笑顔のまま鼻歌を初め、純心さを感じるニコやかな表情を崩さぬまま、脚首と膝を使って上下に動き、ツインアップをピョコピョコ揺らす。

 ……其処で感じる、二つの疑念。
 確かに見た目は “少女” なのだが、纏う空気はどちらかというと “女性” を想わせる。見た目相応の歳ではないのだろうか?
 そして二つ目は、とても可愛げな笑顔である筈なのに……何故だかスイはその様子に強烈な《違和感》を覚えてならなかった。

 まるでそれは、彼女が何かを隠している様にも……。


「フン~♪ フンフ~ン♫」


 スイがそんな思考をしていると知ってか否か、尚鼻歌も上下運動も止めずに目を閉じ続ける、眼前の少女―――いや、女性プレイヤー。

 何時まで経っても進展させない様子を見て、スイが焦れて先を促す言葉を掛けるべく口を開く。


「なぁ、あんたいい加減に―――」


 其処で止まる。

 気が付いてしまったからだ……予想とは違うプレイヤーだったと言う事、依頼はもう終わったという事、それら要素が組み合わさって認知するのが遅れてしまったのだ。


「オレンジ……プレイヤー……!」


 女性の上に浮かぶ『オレンジ』色のカーソルに。


「おや、やっと気が付いたのですか。フフフッ、あなたの脳はとても個性的な時間の流れを持つのだと見えますねぇ♡ ご褒美に10点満点で10点を上げましょうか♪」


 つまるところ彼女に、
『あんた気付くの遅すぎ、思考回路イカれてんじゃないの? 点数付けるなら10点がいいトコね』
 などと言われているも同義であり、スイは彼女の言葉の丁寧さとは裏腹な内包された淀みに表情をゆがめる。


「っ……いや」


 咄嗟に武器を構えかけたスイだったが、その手は柄へと延びる事は無く、クリスタルの入ったポーチへと延びていく。

 相手する理由がないのだし、そもそもオレンジプレイヤーが全員殺人者だと言うのは、被害の多さから生まれる行きすぎた “極論” であり、目の前の女性プレイヤーがPKを行った証拠は何処にも無い。

 直ぐに殺そうとしなかったり、一人で行動しているのを見るに、大方盗みを行ってオレンジになったのを利用して脅かしているだけだろうとスイは値をつけた。

 そして放っておけば追ってくるだろう、面倒くさい人物から逃げ帰る為『転移結晶』を取りだし―――





 直後に走るは余りに冷たく、余りに強烈な “殺気”。


「うあっ!?」


 アイテムを取りだす事を放棄し瞬時に大きく仰け反ってみれば、目の前を紅の残像が掠め通って行った。

 一瞬何が起こったかと目を見開くも……即座に考えるまでも無いとばかりに背の武器を抜いて、正眼に構え対峙する。


「ウフフ……逃がしませんよぉ? 『殺戮者』さん♡」


 同時に悟る。この女性プレイヤーは、ただ露店でスキル頼みに盗みを働いた小悪党ではない……己が手で人を殺す事に何の躊躇いも持たない、彼の相対してきた殺人者達と同じ眼だと。


「殺すぜ? あんたを」
「どうぞどうぞ♪ 出来るものならねぇ?」


 女性はスコーピオンを手でクルクル回して遊びつつ、どう聞いたって馬鹿にしているとしか取れないセリフを、いかにも楽しげといった感じで言い放つ。

 スイの放つ殺気もまるでそよ風が如く動じず、飽くまで表情は笑顔のままに自然体を崩さない。


(今までの奴らよりは、強いみたいだが……)


 隙が見えないながら、されどスイの内心は別段気負ってなどいなかった。


 それはスイのスキル【殺戮者】に起因する。

 熟練度マックスまで上げると、プレイヤーキルをする度にレベルも1上がると言うとんでもないスキルであり、これをONにした状態のスイのレベルは……驚くなかれ 『412』 。
 攻略組で有ろうと無かろうと、先ず敵う事の無い数字なのは目に見えており、逆にいえば【殺戮者】があるからこそ自分自身に危機を及ぼす事無く、スイはオレンジ殺しを続けられるといっても良い。

 そして先まで戦いを続けていたのだから、当然【殺戮者】スキルはON状態のまま……何のつもりで女性が襲いかかって来たのかは知れないが、結果など火を見るよりも明らかだった。


「……シッ!」


 湧き上がる衝動そのままに、スイは地を蹴り突撃。


 残像を作り出しフェイントをかけ……刹那、目視など不可能な速度で凶刃が閃き、女性の喉笛へ吸いこまれていった。



「ほいっと」


 そして無造作に止められた。


「……は?」


 声に合わぬ力を込めたか衝突音こそ物々しいが……それが幻聴なのかと錯覚させる気軽さでストップさせられ、スイの瞳は思わず皿になる。

 先まで何のアクションも見せていなかった筈なのに、コンマ数秒でもまだ表現が足りないスピードで刀身を割り込ませたのだ。
 スイのリアクションが当然と言える。


「ほっ♪」


 そのまま剣をスコーピオンで払った動作に連動し、続いて放たれるは軽い声に似合わぬ、重苦しい風切音を湛えた回し蹴り。
 彼女自身のプレイヤースキルと背が低さから、中々に躱し辛いときた。


「! クソッ……!」


 スイは至近距離を一旦諦め、武器を油断なく構えてからのバックステップで、通常のプレイヤーでは有り得ぬ速度を叩きだしながら退く。


「逃がしませんよ?」


 女性は余裕のつもりなのか、少々の間を置いてから追ってくる……が、その速度が尋常ではない。
 蹴った威力で砂煙が上がり、一瞬消えた様に見えなくなったのだ。

 現れた際にもただでは迫らず幾重もの紅い影を残しながら迫ってくる。

 オマケに残像の所為で真っ直ぐ来ているのかジグザグに蛇行しているのか判別が付かない。スイのバックステップとは文字通りケタ違う。


(何か来る……!?)


 スイはほんの少し後ろに下がり――― “予感” に従って剣を右へ置いた。


「うおおっ!?」


 瞬間下から迫るは、紅く眩い光源たる刃。
 突如として走る、車にでも激突されたが如き衝撃。しかもそれは現実基準ではなく、強化されたアバターの身でそう感じたのだ。

 実際の威力など車の比では無かろう。


「ハイハイハイ!」


 人一人分の距離ノックバックしたスイへ襲いかかる、スコーピオンの槍刃を使った連続の刺突。


「うっ! ぐっ……うあっ!」


 顔面への二撃を微弱な動きで捌き、更に重ねられる三段突き―――を囮に腹へ迫るスラストを弾き、そこで待ってましたとばかりに横に振られ斧刃部分が胴へと迫る。
 受けてなるかと打ち上げスイが追撃したが、女性は勢いを殺さずバク転して結果見事に空振り。

 まだだと踏み込み、左へ行った両手剣を引き戻しながら叩きつけ―――『赤い何か』が一瞬迸ったかと思うと、下から打ちあげられてスキルでも無い一撃は不発に終わった。


「まだまだ♡」


 ニヤリ笑いながら槍部分の先端を胸部へ迫らせるも、すぐに傾け箇所を変えてスコーピオンの切っ先を顔へ突き出してくる。

 獰猛なひらめきを持つコレをスイは危なげなく避け、弾かれたまま上段にある剣を振り下して―――


「よっ!」


 ……否『振り下ろそう』として、肩口を掠めた何かに中断させられる。
 チラと見えたのはスコーピオンの “鎌刃” 部分であり、突いた際には立てていたそれを今度は傾け、傍へ戻す形で引き切ったのだと理解できる。


 しかし……それは逆に攻撃後であり、つまりスイが攻撃を当てられる千載一遇のチャンスだ。


「はあぁっ!!」


 今度こそ最上段から両手剣を裂帛の意を持って振り下ろすが、笑顔と無言のままに紙一重で回避される。
 ……が、当然上段斬り降ろしで攻撃が終わる筈も無い。
 斜めへ斬り上げるべく、左肩を沈めて女性へ視線を固定し狙いを定める。


「ほらっ!」
「おおぉ―――あぁっ?」


 顔面付近にあったスコーピオンの刀身が、スイの両手剣めがけて叩きつけられ火花が飛び散った。
 力を入れて持ち上げかけた剣は僅か数秒にも満たない “痺れ” に邪魔された。

 其処で終わらせないと女性は柄尻についたピック部分で刺突を繰り出し、スイとそれなりに近い所為で避け切れず細かなダメージが積み重なっていく。


(押されっぱなしじゃ分が悪い!)


 如何にかチャンスをつかもうと、半歩引いて柄を握る手へ力が籠る。


「……ニィ♡」
「しまっ……」


 そこで失敗を悟った。


 女性の武器、スコーピオンの本来の刀身は未だ “下” にある。
 要するに両手剣の “上” にある事になり、其処で刃を上げてしまえば……?

 其処まで試行したスイの顔面へ、予想通り殴打に向いたフレーム部分が襲い来る。
 スウェーバックで如何にかこうにか本命は躱せたが、槍部分で鼻っ柱を掠め斬られた。


 ―――此処までの戦いがたった “一分弱” に届くぐらい。
 ……ハイレベル同士だからこその、スピードバトルだ。


「っ……なら、これだっ!」


 スイの次取った選択は【ソードスキル】。
 両手持ちから後ろに腰溜め気味に構え、そのプレモーションから放たれるは【ブラスト】。

 女性プレイヤーは武器を振り切った勢いで、まだ距離が開いているとはいえない。
 なら、有効であろう二連撃を決める気でいるのだ。

 発生と硬直回復共に速いスキルなうえ、受け止めけられたとしても『412』という並はずれたレベルから来る筋力値により、大きく跳ね飛ばす事が出来る。
 先刻よりも速度を上げ、オレンジプレイヤーを瞬く間に葬った赤橙の光剣が、大きくひねった体勢を活かして烈火さながらに振り出された。


「せああああっ!!」

 
 己のパラメータの高さに自信があれど……決して油断はしない。一挙一動を見流さぬ気迫を持ちながら、高速の一刀を打ち放った。

 女性が取るのは防御か、体勢を崩してまでの回避か。


 否、どれでも無い。


「やっ!」


 屈み状態から気合い一発飛びあがって身体を捻り 、【ブラスト】の一撃目を避けて見せた……途端、剣に鈍い衝撃が走り女性の姿が消える。

 何故消えたのか、スイには見えていた――――


 ―――逆さまになった女性が剣の腹に手を当て、“そこを足場に” 腕の力で跳躍した事を。


(ふざけるなっ……中国雑技団かよ!?)


 高速で薙ぎ払われる剣を止める事など出来ない。

 オマケに緩やかに回転して落ちてきた女性は、着地寸前にその勢いのままスコーピオンを振り払ってきたのだ。


「うがあぁっ!?」


 『赤い何か』がインパクトの瞬間に爆ぜる脳震盪では済まない重厚な一撃。
 スイは側頭部から叩き付けられ、いっそ可笑しいぐらいに回転して吹き飛ぶ。



 狼狽せぬように己へ言い聞かせ立て直し、挙動を見逃してなるかと女性へと目を向けて見れば……


「♪」


 今度は自分から向かっては来ず、嬉しそうに笑いながら手をヒラヒラ振っていた。

 もしかしなくても舐めている。
 スイへ、次の先手を譲るつもりらしい。


「舐めるな、よっ……!」


 口にしながらも女性の得体の知れなさは異常だと、口に出さずとも考えずともスイは気付いている。

 ならば! ―――と、迷う事無く2本目の剣をストレージから取り出し、【片手持ち】、【剣技解放】スキルを即座に解放。


「ふうー……っ!」
「へぇ♪」


 両手に『両手剣』を握ると言う、現実でもゲームでも有り得ないスタイル……これぞスイの奥の手【剛破剣】スキル。

 これを見て尚嬉しそうで楽しそうな表情を崩さない女性。
 胆が据わっているというレベルではない。


「うおおおおっ!!」


 と、何を考えたかスイは行き成り女性へ向かって無造作に走りだした。
 隙しか作らない行動を取るなど、一体何を考えているのだろうか。


「フフフ、迎え撃つとしましょうか♡」


 最初に見せた残像走行を行わず、されど十二分に驚異となりえるスピードで女性が肉薄。その距離が3m弱まで縮まった―――刹那コマ送りのように、スイは肩へ両の剣担いでプレモーションを済ませていた。


「はああっ!!」


 濃く蒼い光を伴うは、剛破剣スキル突進2連撃【ダブル・アバランシュ】。
 通常の【アバランシュ】ですら威力の高さや、突進で距離をあけられる利点を持つというのに、それが2連撃ともなればその凄まじさはより桁を上げる。

 なによりスイのパラメータで目視困難な速度まで引き上げられた剣線が、女性へと猛々しく襲いかかった。


(1撃目では決めない、2撃目で仕留める!!)


 籠った感情の所為か眉間に皺がより、歯軋りの音まで聞こえてくる……其処までの気概を見せている。


 ―――此処で女性は、又も驚くべき行動を取った。


「ウフフフ……!」


 スピードは落としたが歩みは止めようとしない。
 【ダブル・アバランシュ】へと自ら突っ込んでいっているのだ。

 赤い残像を引く無茶苦茶な移動方法と言い、行き成り飛び上がって回転しながら攻撃した事と言い、彼女は “基本” という名のネジが外れているとしか考えられない。

 だがスイもさるもの、殺がれぬ意気を持って剣を振り下ろした。


「ほいっ」


 女性が突然急ブレーキをかけて立ち止まり、其処から脚をそろえて後方へ大きく宙返り。2発とも目標を捉える事無く虚空へ光を消していく。

 突っ込んでいったのは、武器を迷わず振り抜かせる為だったらしい。又もスイは策に嵌められてしまう。


「フフ……せいらぁ!」


 何と空中でソードスキルを発動させていたか、着地と同時に突きだされたスコーピオンは『エボニーとクリムゾン』の二重螺旋に染まる。

 紅の鋼がジェットエンジンもかくやの唸り声を上げ、空気ごと穿たんばかりに放たれた尖端から鋭い衝撃波が一直線に走る。


 スイは無理に体を捻って間一髪、ギリギリで遠距離まで届く貫撃をかわせた。


「は? ……おわあああっ!?」


 ―――そう思ったと正に同時、“ズガァッ!” と背後で空間が爆ぜた。
 真っ赤な爆炎のドームが噴き上がり、スイを塵が如く吹き飛ばす。


 其処で自然に視線が向くのは己の命の残量。

 予期通りか……見た目に違わぬ相当量のダメージがHPを喰らい尽し、より女性との差を広げてしまった。


(ソードスキルもトンデモないけど……何より技量が、プレイヤースキルが段違いだ……キリ君だってここまででは……っ!)


 彼の知る人物ないにもケタ外れの実力を持つ者はおり、それは反応の速度がピカイチなキリトや、防御力№1とも言える【神聖剣】スキルを持つヒースクリフが該当する。

 されど、如何してもゲーマーとしての域を出ず、加えてSAO内に一年以上いる者ならある地度の武器を使う基礎は身につくので、扱いが少し上手ければそれだけで強者にもなれのだ。

 その事からも分かるだろう……女性の武器の扱いや切り替えの速さが、プレイヤーの域を軽く超えているのを。
 スイが最終目的としている、PoHよりも遥か上を行く程に。


(だからといって此処で退けるかっ……諦めたら終わってしまう!)


 スイは一度目を閉じ、心の内で自分に鬩を飛ばして奮起させ、雄牛の如き気迫で駈け出して行く。

 女性プレイヤーは不敵な笑みへと変えた表情で、スコーピオンを曲芸の如く回しながら迎え撃つ。


「うおおおおっ!!」
「フフフ……はっ!」


 スイの袈裟掛けに斬り降ろした右手の剣を女性が力技で跳ね上げて、左の剣を邪魔し必然的に横薙ぎを誘発させる。
 策を曲げられながらも繰り出した剣は、ダンスの様なダッキングで回避される。

 其処から上体を起こしながら打ちこまれた一発を起点とし、赤い軌跡を引く連続突きが勃発。


「せいあっ!!」


 スイは一対の剣の腹を使って防御し、一際力を込めて入れ込んできた一撃を跳ね上げパリィする。


「ほっと」


 それも女性は余裕で対処してくる。
 手を付いてのロンダートから瞬時にスコーピオンが跳ね上がって来て、スイの追撃の一撃目は上段へ、二撃目は下段へそれぞれ反らされた。


「喰らえっ!」


 今度はスイが両手剣の位置を逆利用し、剛破剣スキル範囲四連撃【ダブル・ブラスト】を発動させる。

 海の様な蒼色の光が二閃、確かな鋭さを称えて空気をも切り裂いてきた。


「まだ甘いですねぇ!」


 女性もまた名称不明のソードスキルを発動。

 深紅の輝きで刃が埋め尽くされ、態とらしい位にゆっくりな下段へ構えから、力を溜めたバネ仕掛けの如く爆速で切り上げられてくる。

 水平と下段が一度目の衝突。
 手早く切り返される二撃目が身体ごと前に出す剛撃で激突。
 回転してきた三撃目は、意趣返しか同じ回転切りで迎撃。

 それぞれ全てで、大気ごと震わさんばかりに轟音が轟く。


「おおおっ!!」


 最後の四撃目……


「それっ」
「うぐ……!?」


 それは手元を狙っての突き。右肩ごと入れてきた刺激で剣の位置がぶれ、スキルが強制中断させられる。
 しかし、それはスイの方だけ。
 女性のスキルは終わっていない。


「はぁっ!」


 最後の紅蓮なる一突きが胸部を強く穿って、数メートルの距離を声もあげさせず吹き飛ばした。


「くそ……」
「フフフ♪」
「……なっ!?」


 顔を上げれば女性はもう1m弱の手前に居る。
 毒突く暇も無く、スコーピオンで連続攻撃を見舞ってくる。

 体勢が崩れたスイは、不利な状況のまま受け止めるしかない。

 万事休すか。


「……馬鹿正直に突っ込んできてくれて助かったぜ」
「? ―――あっ……?」


 いや、まで終わりは告げられない。
 スイのスキル【罠】で仕掛けられた麻痺罠に、女性はまんまと突っ込み引っ掛かっていた。

 雷属性とも違う特徴的な電気が、彼女の身体の周りでほとばしっていた。

 今度こそ、本当の攻撃チャンスだ。


「おらああっ!」


 スキルとして選んだのは【ダブル・ライトニング】。名の通り稲妻の軌跡を描き、八つの連刃が降り注ぐソードスキル。

 コンマ数秒違いで掲げられた両手の剣が振り下ろされ、女性の頭部を捉える。


「っと」


 ―――直前に麻痺状態から抜けられ、二段目まで屈まれて避けられるがもう間に合わない。
 残りの六連撃は確実の女性の身体へ赤いエフェクトをしかと刻む…………筈だった、本来は。


「“此処” が空いてますよ?」
「はぁっ……!?」


 スコーピオンを迷わず手放したかと思うと何とスイの股下を、アスレチックにでも挑むのか『ヘッドスライディング』で通り抜け、それを実行された本人は思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。

 攻撃を中止できず間抜けに降る彼の後ろで、無言のままブレイクダンスよろしく回転して起き上り―――直後、真っ赤に染まるソバットで蹴り入れられて『く』の字に反らされ、無理矢理前転させられてしまった。


 置きあがって睨み付ければ、脚を使って投げ上げたスコーピオンをキャッチする、実に楽しげな女性の笑みが飛び込んでくる。
 スイはとても必死だと言うのに、やはり向こうはただ遊んでいるようにしか見えなかった。


「負けるかぁ!!」


 馬鹿正直にぶつけ合うのではなく一発の牽制からサイドステップで軸を変え、両手剣を二本同時に叩き込む。
 柄込みで受け止められ鍔迫り合いが起き、瞬時に切り替えたか女性が接近。

 力を入れ損ねたのが仇となったものの、結果的にスイは裏拳の回避には成功。同時に左では水平に右では垂直に、スイの握る肉厚の剣が、背を向けている彼女を挟みこんだ。


「よっ」
「……!?」


 クイッ、と剽軽に身体が傾けられて垂直は髪だけを掠め、水平はスコーピオンの突き降ろしで一瞬阻害した後、左腕を添えての撒き上げで完全に無効化。

 スイへと女性は後ろを向けている筈なのに、恐ろしいまでの正確な反応を見せてきた。


「けど……はあっ!!」


 今度は隙間を狭くし鋏のような断ち切りを実行。
 これで紙一重の回避も、スコーピオンでの力技も出来ない。

 だが、スイの考えは一歩甘かった。


「まだまだ♪」


 上の刃は鎌刃でストップさせられ、下の刃は柄でするり滑らされ、又も不発に終わる。……スイの攻撃は。

 女性は少しスコーピをンを揺らし、刀身が外れたのを見るや全身から鮮やかに反転、血色なる斧刃で大きくノックバックさせてきた。
 まともに逆らえず、スイは転がりこそしなかっただけで、しっかりとダメージを負わされてしまった。


「くお……っ! うあああ!!」


 スイの放つ雄叫び。それは果たして、己へ向けたものか、それとも彼女へ向けたものか。


 “ソレ” を着火剤とした連続斬りが始まり―――左手の切り払いへ右手の袈裟掛けが追随し、巻き戻しの様に右手が払われる。
 左手の剣を突き入れそのまま薙ぎ、右手の剣を上段から叩き付ける。弧を描いて左の刃を接近させれば、直角な軌道で右の刃が襲いかかった。

 一つ一つが獣の雄叫びにも似たサウンドを響かせる。

 女性は柄で反らして剣の軌道を邪魔し、突きからの切り払いを滑稽だと殴打で押し戻す。
 上段から来た斬撃をスウェーバックで髪にすら触れさせず、左の刃は紅色の刀身で範囲の外へ。
 余りにも真っ直ぐに一撃に、力技で対応して全てを捌く。

 打ちあった鉄の眩い光が、薄暗い迷宮を数瞬照らした。


「うおおおああああぁぁ!!」


 禍々しいまでのライトエフェクトが視界までも覆い尽くし、剛破剣スキル上位連撃【ダブル・アストラル・ヘル】が猛々しい鋼の凶器へ暴意を宿す。


(もっと先読みを……もっと速さを……もっと力をっ!!)


 親友の為、残してきた者達の為、何より自分の為。

 叫び狂うスイの心の中で感情が爆発し、此処で終われないと―――終わる訳にはいかないと、剣が更に速度を、内包する威力を増加させる。

 間違いないスイの放ってきた中で、最大最強の連撃―――!




「終わりにしましょうか♡」


 現実は無情だった。

 女性はあざ笑うかのように一発目の斬撃を躱して、跳躍し二段目が空振り、三段目を足場として更に上空へ躍動したのだ。
 

(どこまで、力の差がっ……!?)


 見上げるだけのスイの眼に映るは―――


「キシッ……♪」


 暴力的なまでに美しい『紅』(あか)の刃と、狂気的な感情を秘める『緋』(あか)の瞳だった。












「……はっ……?」



 水の垂れ落ちる音がする。

 モンスターの咆哮が聞こえる。

 気が付くとスイは、迷宮区の安全地帯に居た。


 ……いや、その判断は適切ではないだろう。何せ先程までスイは安全地帯の中で死闘を繰り広げていたのだから。


「……夢、だったのか?」


 戦っていた女性の、余りの現実離れした強さにスイは思わず呟いて……


「……?」


 傍に何かが転がっているのに気が付く。


 羊皮紙アイテムを丸めた物の様で、無意識にタップすると中に書かれた文章が現れる。

 そして―――目が見開かれる。


『貴方は見込みがあります、楽しみとして見逃しましょう♡ また死合いましょうね“殺戮者”さん♪』


 この一文だけ、簡単に書かれていたのだから。


「俺は、負けたのか……」


 小さく呟いて両の拳を握ると、思い切り地面を殴りつける。


「くそっ! くそっ……くそおっ!!」


 全てに敵わず完膚なきまでに叩きのめされ、書置きを残す余裕を見せつけて見逃され、スイの自尊心は粉々に打ち砕かれていた。

 その怒りはぶつけ様が無く、ただスイは乱れた装備を直さず、地面を殴り続ける。



 やがて音は小さくなり……慟哭の声だけが、迷宮区に鈍く響き渡ったのだった。

 
 

 
後書き
……という訳で、謎の女性プレイヤーの勝利です。

いや、何というかほぼイジメみたいな戦闘になっちゃいました……Jade色さん、すいません。

これに見切りをつけず、如何か小説をご観覧いただければと思います。


ではまた次回。
 
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