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ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~

作者:???
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未練-リグレット-

 
前書き
Xにてついにネクサスが客演!いやー感激ものでした…

でも、こっちのネクサスはしばらく暗い話が続きます(苦笑)



※リメイク…というか、改訂版です。また書き直すことになったらごめんなさい…orz 

 
かつて、ウルトラマンネクサスがビーストと戦い抜いた世界の地球…。
黒部ダムの底に存在する基地、フォートレスフリーダム。
デスクにノートPCを広げ、何かを調べている男が一人いた。
孤門一輝。ナイトレイダーAユニットの隊員にして、シュウのよき先輩隊員の一人でもある。
カタカタ、とキーを叩きながら、彼はディスプレイをまっすぐ見つめながら、何かを調べ上げていた。
画面に映されていたページは、英語でこう記されていた。


『PROMETHEUS PROJECT』


孤門は以前も、シュウの遊園地でのアルバイト仲間でもあった憐のことを知るために、このサイトを開いたことがある。
かつてこのサイトを調べた際、孤門は憐の素性の一端を知った。
「これは…!」
プロメテウス・プロジェクトのサイトに、見覚えのある顔写真が表示されている。その中には、憐も含まれていた。そして、自分たちの上司にして、作戦参謀長である吉良沢優もいる。
しかし、彼らだけではなかった。
さらに、もう一人その中に、孤門が知っている人物の顔があった。それは…



黒崎修平



「そうだ、思い出した。あいつも『プロメテの子』だった」
あの時、憐のことを知るためだけに利用していたこと、そして当時はまだ憐のことを知ったばかりで、まだ彼との交友関係が深かったわけでもないし、シュウのことを知っていたわけではなかった。このサイトも深いところまでは見ていなかったこともあり、孤門はかつて閲覧したこのサイトにシュウの存在もあったことに気付けなかった。
でも、孤門は思い出した。彼の顔は以前どこかで見たことがある気がする、と。
シュウは入隊当時から優秀だった。入隊当時の自分と違い、銃の扱いにも最初から長けていた。最初から、その銃のことを知っていたような、巧みな扱いだった。しおりからも太鼓判を押され、凪が直々に行った格闘の訓練でも、彼は凪の動きを次第に飲み込み、場合によっては彼女から何度か一本取るほどまでに成長した。
その異様な成長速度と秀才ぶりに、孤門はある予感を抱き、憐の時と同じように『プロメテウス・プロジェクト』のホームページにアクセスした。

ここで少し、『プロメテの子』というものについて解説を入れる。
プロメテの子とは、TLTの下部組織である『アカデミー』が計画した『プロメテウス・プロジェクト』のもとで誕生した新生ハイブリット児の総称である。
ハイパージェネティック理論に基づき、何種類もの優秀な遺伝子から特定の遺伝子を持つDNAフラグメントを選び、組み合わせることで、プロメテの子たちは誕生する。
彼らは共通にテレパシーといった超能力を持ち、アカデミーのもとで、彼らは概ね14歳あたりまでの間、大学課程までの教育を施されるのだ。要するに、普通の人間よりも頭脳明晰で特殊な力を持つ、人為的に生み出された人間なのだ。

「…でも、どうして…?」
ふと、疑問に思う。吉良沢…イラストレーターはビーストの存在を予知する力とそこいらの秀才以上の頭脳を持ち合わせていたこともあって、作戦参謀長としてTLTに抜擢された。
でも彼は?憐の場合、かつて彼は海洋学者を志していたがある事情で挫折、吉良沢も鳥類学者を志していたが、TLTの作戦参謀長となったことでその夢を諦めている。
シュウももしかしたら、本来の志望を持っていたはず。なら、なぜ…ナイトレイダーの新隊員として抜擢されたのだろうか。
「やはり、彼が気になるかい?孤門隊員」
ふと、聞き覚えある声に反応し、振り向く孤門。そこには、イラストレター…吉良沢優がホログラム映像としてその姿を孤門の前に表わしていた。
「イラストレーター。じゃあ、やっぱり…」
「そう、彼も僕や憐と同じプロメテの子です。元々彼は、機械工学を志しており、TLTにおいても彼の存在は大きかった」
「え!?」
TLTの規模は、殲滅対象であるビーストの脅威の大きさに比例するように、世界中に広がっている。そんな組織の中でも彼の存在が大きかった。となると、シュウは自分が考えている以上の存在だったということとなる。
「憐のこともある。君なら、理解はできると思うから、話します」
任務ではあえて非情さに徹することもあった吉良沢にとって、憐は心許せる貴重な相手だった。その憐にとって、孤門は恩人でもある。これまでの孤門の功績もあって、吉良沢は孤門を信頼し、彼に話した。

彼、黒崎修平が元々どんな人間だったのかを…。







怪獣が現れた、という通報を受け、アルビオン軍がロサイスに集められた。住民は彼らがきた途端、なんとかしてくれと殺到し、その勢いだけで軍の兵たちを圧倒させてしまうそうだった。
兵たちは何とか彼らをなだめつつ、現れた怪獣の能力・特徴などを問う。
「角を持った怪獣が…!」「三つ首の狗みたいなのが…」
だが、シュウたちがそうだったように証言は一致しなかった。いずれも、全く異なる特徴を持った怪獣の話ばかりだった。
この話について誰もが奇妙に思う。その中には、同じくヘンリーもいた。
(どういうことだ?怪獣は一体だけだった。なのに…)
話によると、怪獣はたった一匹しか現れなかったはず。だが、誰もがそれぞれ別の怪獣の特徴を報告してきた。
本当に、この国はどうなっているのだろう。レコンキスタが実権を握って以来、アルビオンはただただおかしくなってばかりだ。
(いや、それでも僕は…この国の兵)
たかが一個人の意思でどうこうなるものでもない。結局、自分は国とそこに住む民のために戦って死ぬことしかできない。
結局、何も変わらないし、変えられないのだ。自分の運命さえ…。
乏しい足取りで歩くと、彼の元に同じアルビオン兵が駆け寄ってきた。
「ヘンリー。上官からのご命令だ」
「なんだ…?」
「空賊から接収したあの船を監視しろとさ。俺も一緒だ」
「そうか…わかった」
ヘンリーの表情が決して晴れやかなものではないことを察したのか、彼は顔を覗き込んできた。
「お前最近疲れてんのか?居眠りするなよ?」
背中を軽く叩いた後、彼はその場から去っていった。


ヘンリーの前から去っていったその兵は、兵の寄宿舎ではなく、街のとある場所に建てられた一軒家だった。外から見ると、どれは古すぎず、かといって新しすぎるというわけでもない、何の変哲も無い家だ。
監視の目が無いかの確認をする侵入者のごとく辺りをきょろきょろ見渡した後、彼はその家に入った。
その屋内は、中は真っ暗で光が差し込んでくることはほとんど無かった。まるで幽霊屋敷のような怪しいものだった。
兵士は階段を駆け上がると、二階にある、とある一室に入る。そこもカーテンで外の景色がさえぎられた真っ暗な場所だった。あるのはベッドと、壁に沿えて立っている、本がぎっしり詰まった本棚のみ。特に何も面白いものが無いように見える。しかし彼は急に、本棚の前に立つと、本棚を扉側の方角へと手動でずらす。
すると、どうだろう。壁に、扉があるではないか。棚の後ろに扉を隠していたのだ。
兵士はその扉を開くと、扉の向こうには下の階へ続く深い奈落のような階段がある。彼はそこを降りていく。
深く、深く…その下へ続く階段を下りて行く。
すると、奥にたどり着くと同時に、彼の足が音響効果で響く。
そこは、さらに奥へと続く洞窟だった。その奥にさらに向かっていく。
暗い一本道を進んだ果てに、またもう一つ扉が設置されていた。扉をたたく兵士。すると、奥の方から声が聞こえてきた。
「合言葉は?」
「『自由の心』」
兵のその答えに応じて、扉がカチャリと音を立てて開かれた。彼が扉の向こうの部屋に入ると、蝋燭の光のみで照らされた空間が広がっていた。
「…船の様子はどうじゃった?」
暗闇の奥から、壮年の男と思われる声の質問が兵士に投げかけられる。
「ロサイスの船着き場に、監視付きで繋がれてたぜ」
アルビオン兵の男はその問いに対してそう答えた。いや、そもそもこの男、本当にアルビオン兵なのだろうか。今の彼の態度は正式な教練を受けた兵にしては、どこか粗暴さを持っている。
「レコンキスタの奴ら、わしらの船を侵略用の戦艦として利用するつもりじゃろうな…」
「相変わらず人の腸を煮え繰り返すのがうまい奴らよのぉ」
そしてさらに二人、別の壮年の男たちの声が聞こえてくる。中央に座る男のそばに、控えるように立っていた。
どこかひょうきんにも聞こえるその言葉には、怒りが込められていた。
「監視体制はどれほどだったかわかるか?」
「大半が貴族の若造で構成されている。俺のほうで集めておいた仲間を、すでに潜り込ませてあるぜ。
で、どうする『船長』?動くのか」
「うむ…」
3人組のうち、中央の椅子に座っていた男の暗闇の中に隠れていた顔が、露わになった。眼帯と帽子、まるで海賊のようなその風貌…


その男は、かつてグレンが所属していた炎の空賊団の3兄弟船長の長男、ガル船長だったのだ。


「野郎ども!!ついにわしらの自由の箱舟を取り返す時が来た!」
「準備はできてるじゃろうな!!?」
それに続いて弟たち、ギルとグルもろうそくの明かりのもとにその姿を現し、背後を振り返って大声を出す。すると、さらにその場から声がとどろき始めた。
「あたぼうよ船長!訊くだけ野暮ってもんだろうが!」
「俺たちの自由の翼を、権力よがりの豚野郎なんざにいいようにされてたまるか!!」
そこにいたのは、船長たちだけじゃなかった。何十人もの、ワルドの卑劣な手口が原因で散り散りになっていたはずの炎の空賊メンバーたちが揃っていたのだ。いつか再び空を駆け巡るその日のために、再びこの場所に結集していたのだ。しかも仲間の一部を、アルビオンの正規軍に潜り込ませたりと、周到な準備のもとで。
久しぶりの高揚と興奮に満ち溢れていた。自由の心に従い、空を再び飛びまわる日を、もう一度掴むために…。





…結局、アルビオン発の船は出されなかった。無理もない。そもそも今はレコンキスタのせいでトリステインとアルビオンの仲が過去最悪な状態だ。出せる船など寧ろないと考えるべきなのだが、各国の商人や職人たちにとってそれは打撃でもあるためか、厳重な検閲のもとで船が、以前と比べてごくわずかだが出されていた。テファの耳が、やはりエルフの血を引いていることもあって外出時は帽子で隠さないといけないが、検閲に火かかってしまったらそのときは強引な手段をとらざるを得ない。

とはいえ、港町であるロサイスで怪獣が出現したとか、噂でもそんな情報が流れたら迂闊に船を出すわけにいかない。
実際に怪獣は現れ、どういうわけか被害を一切出さなかったが、おかげで街は大パニックだ。安全のために船を出せないと言い渡しても、街から逃げようとロサイスの住人たちが船の管理者たちともめ始めた。
騒ぎに巻き込まれるわけに行かず、シュウたちはいったん宿をとるしかできなかった。
「これじゃあ、いつこの国を脱出できるかわかったもんじゃないねぇ…」
騒ぎ声が轟く街の外を客室の窓から見下ろしながら、マチルダはため息を漏らした。
「これからどうなるんだろう…」
テファが不安を口にすると、アスカが元気付けるように言った。
「不安がってたって仕方ねえって。何時までもこの状態が続くわけじゃないし、必ずこの国を抜ける手段ができるはずだ」
「そう、ですね…ごめんなさい。私、今までウエストウッド村から出た事なかったから…いつかは外の世界を見てみたいって思っていました。でも、外の世界に出てから、悪い事ばかり起こってるからちょっと不安になって」
「外の世界?あぁ…確か、この世界じゃエルフって人間と仲が悪いって話だったな」
エルフと人間の過去の歴史と宗教観の違いによる6000年もの溝。アスカは、テファが世間の目にも映ることのない村の中で暮らしてきた理由を、ゼットンとの戦いが終わった直後にシュウが眠っている間に、一通り聞いてはいた。
「でも酷いもんだな。なんたってテファみたいな女の子がこんな目に会わなきゃいけねえんだ。何も悪さしちゃいないのによ」
同時にこの世界の、ある意味地球よりも理不尽に思える情勢に対して不満を口にしたほどだ。
「いいんです。私は混じり物だから…」
「そんなこというもんじゃないよ。あんたは何も悪くない。生まれなんて否定のしようもないし、あたしたちはテファのことをよく知ってるんだからね」
ネガティヴになるテファに、マチルダはそういうと、話を今回の騒ぎの原因となった昼間の出来事に切り替えた。
「シュウ、アスカ。昼間の現象について何か心当たりあるかい?」
「今回の、か…うーん…わかんねえ。あったようでなかったような…」
頭を抱えるアスカ。自分の記憶をたどっていって確かめてみたのだが、頭にパッと浮かんでくることはなかった。
「ずいぶんと曖昧な答えだねぇ」
「悪ぃ。地球を離れてから何年も経っちまったからかな。戦う事があっても連日同じ敵とやりあうわけじゃないし、戦った相手のこと全部を覚えてるわけじゃないんだ」
「まあ、確かにそうだね。とはいえ、覚えていないんじゃしょうがないか…じゃあシュウ。あんたは?」
「………」
一方で、シュウは無言だった。さっきからこの調子だった。昼間、街で見かけた黒い花と、その際に偶々いた茶髪の女の子が自分たちを横切った時からだ。
「ちょっと、シュウ?」
「…?なんだ…?」
ようやく気づいたシュウは彼らしからぬ声を漏らす。
「なんだ…ってそれはないだろ。さっきからマチルダ、君にも質問していたぜ」
「そうか、悪かった…で、質問とは?」
「昼間に起きた事だ。街に現れた怪獣が、見ている人によって異なっていた現象に覚えがないかってこと」
「…幻、というものなら覚えはある」
シュウは、以前までに戦った敵の中でそのような能力を持った奴の覚えはあった。スペースビースト、ガルベロス。目から放つ催眠波動で人間の脳を支配し、あらゆる幻を見せる。自分を不死身に見せかけるのはもちろん、人によって見せる姿を変えることも可能かもしれない。
「幻を見せる地獄の犬っころか。こいつはたちが悪いな」
シュウから覚えのある怪獣の話を聞いたアスカが、顔を歪める。
でも、まったくの被害を出さないまま去っていくとは、いったいどういうつもりなのだろうか。何か意図があるのだろうか。
「まだガルベロスだとわかったわけじゃない。なんにせよ、警戒するに越した事はない」
「そうだね…ったく、もうわかっていたとはいえ、厄介な旅になるね」
マチルダはため息を漏らす。もうすでにわかっていはいた事とはいえ、目に映るほどの危機に直面したことで子供たちに不安が募った。
「私たち大丈夫かな…」
「まぁ、気を重くしてもしょうがねーし、めった事がなけりゃ負けねえよ。ここにはシュウと、この不死身のアスカ様がいるんだからな」
胸を強く叩いて、俺に任せとけとアスカは豪語する。かつての戦いで発生したワームホールに飲み込まれても生き延びたほどの男であるから、説得力が強い。
頼もしいその言葉に子供たちにも笑みが戻ってきた。
「しかし、船の件はどうするかね…このまま時間が長引いたら、トリステイン行きの船どころか、港も封鎖されるだろうね」
トリステインへの侵攻が原因で、いまやアルビオンはすっかり警戒されてしまっている。そして今のアルビオンは、怪獣さえも使役し、異端な技術で戦艦を異星人の宇宙船のように頑丈な形で強化したレコンキスタのことだ。秘密をばらされたり、自分たちの弱みがもれ出るのを少しでも避けようと、厳重な検閲と監視体制を整えることは間違いない。

「…いや、待てよ」

ふと、シュウが、何かを思いついたらしいのか、皆に向けて顔を上げた。
「マチルダさん、空賊たちが使っていたあの船…俺たちで奪わないか?」
「え…奪うって…あの船をかい!?」
港には、通常の便として使われている船だけではない。炎の空賊たちからレコンキスタが接収した船、アバンギャルド号もつながれていた。それを奪うという、突然の突飛さに富んだシュウの提案にマチルダが驚きをあらわにした。
「あの船をマジで奪うのかよ!?」
当然、アスカもこれには驚きを見せ、テファも目を丸くしていた。
「船を出せないのなら、やはりものにするしかない。それに幸いなことに…こいつもいる」
シュウはそう言うと、インテリジェンスナイフの地下水を取り出して皆に見せた。
「地下水、お前がサムに行った、人間を操る能力なら、監視の兵を操ることも可能なはずだ」
「へ、へえ…できねえことは確かにねえです」
「操るって…なんか俺たちが侵略宇宙人みたいで抵抗あるな…」
船を奪う。もし自分が異星人のアジトや宇宙船に連れ浚われた際に脱出するのなら自分もそうするが、アスカは相手を操るという手段はまるで悪党じみているようで強い抵抗感があった。
「でも、今の案は悪くは無いね。もうあたしたちには手段を講じてる場合じゃない」
マチルダは提案自体に反対することはなかった。
「でも、また先ほどのように怪獣が現れることも懸念されるしな…」
「それならアスカ、俺が原因を取り除いてくる。その間あんたにはティファニアたちを守ってほしい」
まだアスカのことに関しては、全面的な信頼はまでは寄せきれていないが、メフィストよりもはるかに信用できるし、背に腹は代えられない。
「…それしかないね。けど、シュウ。無茶はだめだよ」
またシュウに戦いをしいら無ければならない。生き延びるためとはいえ、これ以上この子に無理はさせたくないのが、マチルダの本音だった。
「…考えておくさ」
考える、という返答。それはあまり信用なら無いものだった。そう何度も彼が無茶をしなければならない展開などあってたまるかと思うが、村が襲われたときから無茶の連続。しかも彼はテファの手によって召還されて以来、ウルトラマンとして無茶な戦いをしたことで酷い怪我を負った状態で帰ってきたこともあった。だから、「無茶はしない」とはっきり言わない返答が信頼性に欠ける。
「………」
シュウは再び夜の闇に包まれたロサイスの街を窓から眺めてみた。昼間の騒ぎの影響か、警邏の兵たちが多数見つかった。魔法の威力では怪獣に勝つ事ができないとしても、役目を放棄する事はできないという表れだ。ゼットンとの戦いの直前に会った、あのどこかの軍に所属しているであろう青年も同じだろう。どこかで同じ任務についている。運悪く怪獣と出くわしてしまえば、命を確実に奪われるとしても。考えてみれば説得に応じようともしなかったのも当然だ。自分も同じ立場だったら同じ事をしていた。地下水からも指摘を受けたのだから。
(元を断たなければ、この騒ぎは収まらない、か)
この騒ぎの発端となった存在を倒さなければ、船はまず出されないかもしれない。
異常といえば、他にも黒い花とかも浮かぶ。あの黒い花の形、シュウには覚えがあった。地球と異なる異世界であるはずなのに咲いていた紫苑の花。
どうして、地球の花が咲いている?それにあの真っ黒な色…。
それに、あの時…
シュウの脳裏に、あの黒い花を見たときに見かけた、茶髪の少女の姿が脳裏をよぎった。
(また、あの顔…)
窓の外を眺めているシュウを、テファは憂い顔で見つめていた。
嫌な予感がよぎっていた。
テファは不安だった。
彼は戦う事、自分を守るためなら命を捨て去る覚悟を持っている。自分が傷つく事にためらいがまるでない。まるで世界が、彼を一方的にいじめているようにも思える。彼は表情を変えることは無かったが、テファは信じていた。彼は勘定に関してはかなり不器用だが、本当は優しい人なのだと。そして、そんな彼がどうして傷だらけになることになるのか…。
一人で抱え込むことに彼がこだわり続け、心を閉ざしたままでいたら、いずれ…彼が、自分たちの知る彼でなくなるのでは…と。

そのときのテファの脳裏には、いつかのヴィジョンの中で垣間見た、炎の中で吠える…『黒い巨人』の姿が見えた。

と、その時…。
外がなにやら騒がしくなりはじめた。
「あれは…!」
窓を開けて外を見たマチルダが声を上げた。それに反応してシュウやアスカも外を見る。
そこには、昼間と同様に巨大な怪獣が姿を現していた。凄まじい咆哮が皆の耳を貫く勢いで放たれていた。
「また…ッ!」
マチルダはとっさに杖を取り出す。今の彼女の目には、村を襲ったムカデンダーの姿に見えたと思ったら、今度はツインテール、グドンの姿に、次々と姿を変えていっているようにも見えた。
アスカの目にも、同じような現象が起きた。初めてダイナになったころから長い間宇宙で戦い続けてきて、相手にしてきた怪獣や異星人の数は果てしない。それらの怪物に、何度も姿を変えていっている。
それを繰り返した果てに、怪獣は最後にゼットンの姿をかたどると、白くその姿を発行させた後に弾けて散り、再び一つの形へと姿を変える。
それも、角を持った悪魔のような姿をした怪獣へ。
この現象と、昼に見た黒い花…何より敵の姿を見たアスカは、はっとして声を上げた。
「そうか、思い出した!あいつは確か、『モルヴァイア』!」
「も、モルヴァイア?なんだいそいつは…?」
「俺が昔、相手したことがある怪獣の一体だ!奴は隕石の欠片って形で地球に降ってきて、黒い花を咲かせたんだ。そしてその花は人の恐怖に反応して、幻覚を見せる。その恐怖を吸い取ることで、強化されるんだ」
このとき、アスカはついに思い出したのだ。今のこの怪奇現象を起こしている元凶のことを。


その名は、かつてアスカ=ウルトラマンダイナを苦しめた強敵の一体『恐怖エネルギー魔体 モルヴァイア』。


ふと、アスカはたまたま疑問に思ったことがあった。自分が知るモルヴァイアの黒い花、それは黒い花弁のチューリップの姿をしていた。
(でも俺が知ってるモルヴァイアの黒い花、あれはこんな花じゃなかった)
でも、この町で見た黒い花はチューリップ状のものではなく、知らない花…確かシュウの話によると、『紫苑』という名前の花だった。
モルヴァイアは、アスカに向けて、敵意ある視線を向けていた。そして町のほうへ進んでいく。幻影であったはずなのに、町の建物を直接踏み潰し、煙を噴き上げながら。
むろん、突然の事態に、家の中に留まっていた人たちも含め、町の人たちは再びパニック状態に陥った。
その姿をもあざ笑うかのようにモルヴァイアは町の中に入り込んでいった。
「シュウとマチルダは、今のうちに皆を連れて港へ!」
「混乱に乗じてってか…わかったよ」
「待て、俺も行く」
子供たちの誘導を承諾した一方で、シュウは自分も戦いに出ることを宣言する。
それに対し、テファがだめ!といおうとする前に、アスカは首を横にふり、次のように言った。
「今のお前の役目は、俺と戦うことじゃねえ。その子たちを守ってやることだ」
「だが…!」
自分は戦うことが氏名と強く捉えていたシュウはすぐに納得しなかった。
「それに、彼女たちにはお前が必要なんだ。今大事なのは、お前が傍にいてやることだ。だからよ、ここはこの不死身のアスカ様に任せとけ!」
胸を叩いて自信たっぷりにアスカは言ってのけた。その言葉は何者よりも頼もしくたくましく見えた。
強い期待を寄せたマチルダは笑みを見せ、いまだシュウは納得しかねる様子だった。テファはというと、安堵していると同時に不安を抱く。元々自分たちの件とは無関係だったはずのアスカを巻き込んでしまっていることが気になっていた。
「ごめんなさい、アスカさん…これは私たちの問題だったのに」
「気にすんなって!んじゃ、行ってくるぜ!」
「お、おい!」
シュウの制止を聞かず、アスカはそのまま行ってしまった。
「シュウ、今はアスカの言葉に従いな。それに…」
引きとめようとしていた彼に、マチルダは言った。
「そろそろあんたには、遠慮ってものを知ってほしかったところだからね」
いい加減、シュウの戦いに対する積極性の異常さにしびれを切らしてきたのだろう。鋭い目を研ぎ澄ませたその目線の凄みにシュウは思わず黙り込んでしまう。
「…わかったよ」
シュウは最後まで納得こそしなかったものの、言われたとおりに従うことにした。



町の建物を踏み壊しながら、町を進んで破壊の限りを尽くそうとするモルヴァイア。街の中へ駆け出していたアスカはそんな、久方ぶりに会った強敵の姿を見上げる。
「てめえと会ったのって、何年前だったかね…ま、どうでもいいか」
彼はウルトラマンのレリーフを掘り込まれた物体を胸の内ポケットから取り出した。彼をもう一つの姿に変える神秘のアイテム、『リーフラッシャー』である。
シュウの、世話のかかりそうな同じウルトラマンの後輩のためにも、こんな敵、さっさと片付けなければ。
「速攻で片を付けてやる…ダイナーーーーーーーーー!!!」
リーフラッシャーを掲げ、まばゆい光に包まれた彼はもう一つの姿…ウルトラマンダイナへと姿を変えた。




アスカと別れたシュウたちは、彼に言われたとおり港のほうへまっすぐ向かった。シュウが提案した、アバンギャルド号を奪取しアルビオンを脱出するために。
「さ、急ぐよみんな」
マチルダがその後ろで皆を引き連れていた。
「うぅ…眠いよ…」
「眠っちゃだめだ!強い子になれないぞ!」
しかし、すでに夜遅い時間帯だ。子供たちは寝ぼけ眼だ。しばらく走ったのち、マチルダたちはついに港にたどり着いた。物陰から覗き込んでみると、船着き場には思った通り、見張りの兵たちが勢ぞろい。すぐに動くのはまずい。
「…地下水」
「はいよ。んじゃ旦那、俺をあっちに投げて下せえ」
地下水の頼み通り、シュウは地下水を放り投げようとしたときだった。
「怪獣が現れたぞ!全員、直ちに出撃せよ!」
周囲の見張りの兵たちが騒ぎ始め、武装していった。おそらくモルヴァイアが出現したために、迎撃に向かわされているのだ。
「ヘンリー、お前は他数名の者と一緒に船の見張りに入れ!」
「は、はい…」
その中にはヘンリーもいたが、彼は他の兵と共にその場で船の見張りを任されていた。あまり気乗りはしていないようだが、指示に従い彼は船の方へ向かう。
見張りはまだ他にもいるはずだ。できれば接触は避けておきたい。
「旦那、ここは俺の魔法を使うのを勧めますぜ」
「ん?あ…そうか、その手があったか」
地下水から声をかけられ、シュウは地下水が何を勧めてきたのかを理解した。
「では…頼むぞ。逆らったらへし折るからな」
「わ、わかってるっスから…」
半ば脅しを含めた頼み方に地下水は少し戦慄を覚えるも、すぐにマジックアイテムとしての役割に徹した。
「イル・ウォータル・スレイプ・クラウディ…」
メイジが杖を使ってそうするように、地下水を眼前に掲げて祈るように目を閉ざすと、シュウは呪文を唱え始める。そして地下水を一振りし、彼はある魔法を使った。
「スリープ・クラウド」
淡々と口にしながら、彼は魔法を振るった。すると、港周辺に深い雲が立ち込め始めた。
「な、なんだ…!?」
「気をつけろ!怪獣が攻撃を仕掛けてきたかもしれ……!」
霧が起こるような機構でもないのに発生した、突然立ち込めた雲にアルビオンの兵たちは、怪獣の出現と重なって混乱を強める。しかしそれけではない。
「お、おい!どうした!」
「こっちも人が倒れたぞ…!」
「まさか、これ…は…!」
深い霧が立ち込めていてよく見えない。だが、何かが倒れたような音が聞こえてきた。
「スリープ・クラウドか…なるほど、確かに有効だね」
今の魔法を見て、マチルダは納得した様子で呟く。
スリープ・クラウド、水系統の魔法の一種で、その名の通り雲に包まれた相手を眠りの世界に誘うものだ。
「水の魔法は得意っスから」
「すごい、兵士さんたちが皆寝てる」「すげえ…」
子供たちも関心を寄せていた。今の魔法の影響で、少なくともアバンギャルド号の船着場周辺のアルビオン兵たちは全員眠りに着かされた。
「…上出来だ。それじゃ行くぞ」
若干得意げに言い放つ地下水。シュウは一言ねぎらいの言葉を送ると、パルスブレイガーをガンモードに変形させ、麻酔弾をセットする。そして彼を先頭に、マチルダを最後尾にし、一団は船へ向かう。全員に急いで船へ…アバンギャルド号へと向かった。
が、しかし…ここで思わぬ者と遭遇した。
「誰だ、そこにいるのは!」
声に反応して、シュウたちは声のほうを振り向く。
そこには、たった一人、目が覚めたままのアルビオン兵が立ちふさがっていた。
「今の魔法が効かなかった奴がいたのか。地下水…」
「い、いやいや!俺真面目にやってましたぜ?」
まさかぬかったのか?とさっきのねぎらいの言葉の取り消しとそれ相応の何かを執行すべきかと考えるシュウに、地下水は慌てて弁明し始める。
「お前は…そうか、あのときの…!」
声の主はシュウを見て目を細めた。
その兵士は、ヘンリーだった。
(この男、確か俺があの顔が光る黒いビーストと戦う前に…)
彼の顔を見て、シュウも目を細めた。ゼットンと戦う直前に会った、あのアルビオン兵だったことを思い出した。
「しかし、今お前たちは何をしようとしていた?まさか、子供を売りさばくためにこの船を強奪しようとしていたのではないのか?」
どうもヘンリーは、修たちのことを人攫いと奴隷売買人か何かと考えたようだ。状況が状況なだけに無理も無いという見立てもある。怪獣の出現中という状況下、船に詰め寄る男と彼に引き連れられている子供たち。怪しくないわけが無い。もちろんそれについては濡れ衣である。
「人攫い扱いとは人聞きが悪いね…。あたしたちはただ、地上に降りたいだけさ」
最も、これから人の船を奪い取ってでもしないと国を出られない状況下だが。
「地上に降りたいだけ?ふん、今まさに睡眠魔法を唱えた貴様らに酌量の余地があるとは思えないな」
「……」
まさかシュウとテファが今のアルビオンのトップから狙われているなど想像もしていないに違いない。事情を知らない以上、どんな理由をつくろってもいたし方の無い反応で返された。子供たちはサムが共にシュウたちの横に、エマたちがシュウたちの陰に隠れる。
「さあ、おとなしく武器を捨ててもらおうか」
銃口を向けるように、ヘンリーは杖を向けてきた。
シュウは銃と地下水、マチルダは杖をヘンリーのほうへ放り投げる。それらをヘンリーは、杖を向けたまま近づき拾い上げた。
「な、なんだ…ぐう…!?」
しかし、地下水を拾い上げた途端、ヘンリーは頭を抱えてもだえだした。そしてほとんど秒数を数えないうちに、彼はおとなしくなった。
「地下水のおかげで助かったな」
シュウが呟くと、さっきまで生真面目さに満ちたはずのヘンリーが、どこかおどけているような口調で口を開いた。
「お役にたちやしたかい?」
「ああ。地下水、その兵のふりをしといてくれ」
「はいよ」
そう、地下水は以前村が襲撃された際、サムにしたように今度はヘンリーの体を操ったのだ。それも今度は意識そのものを乗っ取っている。これなら、ヘンリーに成りすましてアルビオン兵としての特権を利用できる。
その手口が逆に自分たちの逃亡の道を切り開いたかと思うと、サムはやはり複雑な気持ちを抱かされた。
「サム、考えてることはわかるよ。でも今は船に乗り込むんだ」
「うん…」
まだ地下水に対してよい感情を抱ききれないが、サムはひとまずここは堪えた。全員で操舵室に向かおうとした……


…そのときだった。ふと後ろを振り返ったシュウが立ち止まった。


誰かが立っていてシュウの姿をじっと見ていた。

「!!」

港の入り口から見つめている『誰か』を見た途端に、シュウは頭の中が真っ白になった。
「兄ちゃん。どうしたんだ…?」
サムは自身の困惑の思いを口にする。窓の外を見たらいきなり驚きを見せていたようだが…。
何かいたのだろうか?それともまさか、怪獣!?テファも後ろを振り返ってみて外を眺めてみる。
そこには、誰かが立っていた。茶色とも栗色ともとれる綺麗な髪を持つ女の子だ。年齢は、自分やシュウと同じ年くらいに思える外見をしている。
ふと、彼女はテファと視線を合わせてきた。そして笑みを見せてきた。急に視線を向けられ微笑まれたことで、テファは驚きで胸が一瞬高鳴った。
しかし、テファが驚くのは次の、ジャックが放った言葉だった。
「誰かいたの?」
「え…?」
誰もいない?
「みんな、あそこに女の人がいるけど…」
彼女は気になって、宿のすぐ脇の道を指さしてみる。
「え?誰もいないじゃん」
しかし、子供たちは誰一人として、外に立っている少女を認識しなかった。いるはずの人間を認識できないなんて、自分が唯幻を見ているだけなのだろうか?
と、少女の動きに変化があった。宿から遠く離れた、港の方角から反対方向の北に向かって歩き出していた。
と、そのとき、突如シュウが彼女に向かって歩き出した。
「シュウ!?お、おい!どこへ行くんだい!?」
マチルダの声も聞こえておらず、反対側へ歩き出した彼の行動に一同が目を丸くしていた。
まるで彼を待っていたかのように、先ほど港の外から見えていた少女が、シュウが近づくと彼のほうを振り向いた。
「………そんな馬鹿な」
呆然としているシュウ。すると、少女はシュウに笑みを見せたまま、街の中へ駆け出していった。
「待て!!」
シュウは少女を追いかけ続けた。
「お、おい!!」
いきなり港を飛び出したシュウにマチルダとテファは、フェイントをかけられたように衝撃を受けた。
「待って!」
テファも釣られるように彼を追ってしまう。
「テファ、お待ち!!」
しかしマチルダの声が二度も無視され、テファも街の中へ消えてしまった。
「お、お姉ちゃんどうしよう…」
シュウもテファが二人揃っていなくなってしまった。予測し得なかった事態に今声を発したサマンサだけじゃなく、全員が動揺していた。
「くぅ…」
どうすればいい?やはり追うべきかと思ったらそうも行かない。地下水は今ヘンリーの体を借りている。アルビオン兵が一人子供たちを揃えている姿など見られるのは避けて起きた。万が一睡眠魔法が解けないとも限らないし、ヘンリーがそうだったように、魔法に耐えたか別の場所から異変に気づいたものが駆けつけないとも限らない。地下水一人(?)に任せて奥にも限界があるし、今は自分たちがいるから抑止力が働いてるが、一人だけに任せるにはまだ信頼するには早すぎる。
「おや、こいつは珍しいな…ガキどもはともかく、別嬪の姉ちゃんがいやがるぜ」
「!」
悩んでいる最中、またしても誰かが自分たちの前に現れた。
それも一人じゃない。5人…10人…いや、何十人もの、いかにも賊としか思えないならず者たちが揃っていた。中にはアルビオン兵と同じよろいを身に着けている者もいる。
「レコンキスタ共が揃いもそろってバカ面をさらして寝ていると思ったら…どうやら姉ちゃん、あんたがなにかしたみたいだな」
「あんたたちは…!?」
何時の間に、こんな数の賊が?マチルダは戦慄する。よりによって、船を奪取で競うなこの状況で、シュウとテファの失踪と重なってこんなことになるとは。
「俺たちは、その船の元の持ち主さ。この日のために、散り散りになっていた仲間を集めさせてもらってたんだよ。」
賊の一人が言う。

ついに炎の空賊団がここに勢ぞろいした。

「なるほど、あんたらが…アルビオンの空を根城にしていたって噂の、炎の空賊団か」
裏家業に勤めていたマチルダも話は聞いたことがある。アルビオンの貴族、その中でも悪徳貴族から財宝を奪取する義賊で、多くの賊がレコンキスタ側に着いた中で唯一、王党派に味方をした空賊団だとか。
しかしこれは厄介なことだ。シュウとテファがいない上に怪獣が出てきたこの状況で、賊が現れた。しかもそれが本来の船の持ち主だった。黙っているはずが無い。
「ん?あんた…その顔どこかで見たな」
「あ、船長!この女…確か『土くれ』ですぜ!」
それが縁なのか、空賊団の誰かがマチルダの顔を見て、彼女が悪名高い盗賊『土くれのフーケ』であることに気がついて声を上げた。
「ほう、お前さんがあの土くれか…」
すると、威厳のある声と共に、空賊たちが自分たちの中央に道を広げる。すると、サイトたちがこのアルビオンの空にて会った空賊団の船長三兄弟、ガル・ギル・グルの3人がマチルダたちの前に姿を現した。


テファはシュウを追い続けた。しかし、しばらく追い続けている内にシュウの姿を見失ってしまった。
「どこ行っちゃったのかな…まだここから遠くに入っていないはず。くまなく探しに…」
っと、一歩前に踏み出ようとすると、脚に何か妙な官職を覚えて立ち止まった。足元を見やると、そこには昼にも見た、黒い花が咲いていた。
「この花…」
アスカも、この花について知っていた。確か、モルヴァイアとか言う名前の怪獣と関係しているものらしい。
人の恐怖心に漬け込み、幻覚を見せる。そしてその恐怖を吸い込む…と。その生態はシュウからすればまさに、新種のスペースビーストといっても過言じゃなかったに違いない。
もしかしたら、あの時に見た少女が、黒い花の影響で発現した、シュウの見た幻覚だとしたら…。
(あの女の子と、何かあったのね…)
テファは、あの少女に対してあれほど取り乱したシュウを思い出し、胸が苦しくなった。シュウが苦しそうな顔をしていたっから?いや…何か違う気がした。
彼女は、自分でもよくわからないが、もっと違う理由で胸が痛んだと思えた。どうしてかわからない。ただ、言葉に表すとしたら…『面白くない』の一言が浮かんだ。
「シュウ…」
いや、やめよう。
正直、子供たちには見えなくて、どうして自分にだけ見えていたのか、そんな疑問も浮かんだが、今はそんなことよりもシュウを見つけなくては。
辺りを見渡すと、思いのほか彼の姿を早くに発見した。そこから100メイル先の9時の方角。そこに彼の姿が見えた。
そして…あの少女の姿も見えた。



シュウはまだ、あの少女を追い続けた。
しばらく追い続けると、少女は宿から離れた路地裏に立っていた。そこであたかも、彼を待つように。
「はぁ…はぁ…!」
息を弾ませ、シュウは彼女に追いつき、目の前の彼女に向き合った。
「どうして…ここにいるんだ…?」
鉄仮面のように無表情さばかりを保ち続けていた彼の表情、それが変化を見せた。
それも、悲痛な…悲しみに満ちた顔だった。


「…愛梨」


二人の傍らには、紫苑の花も咲いていた。
だが不思議なことに、昼間に見かけたものとは違い、二人のそばで咲いていたその花は、白く染まっていた。
 
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