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息抜きも

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5部分:第五章


第五章

「だからよ。それでなのよ」
「じゃあそういうことにしておくね」
「そういうことじゃなくてね」
「その通りだっていうんだね」
「そうよ。わかった?」
「わかったよ」
 こう答えるがそれでもだ。顔が笑っている。思ってはいないということのだ。何よりの証であった。そしてそれを隠しもしていない。
「じゃあいいよね」
「今度の日曜ね」
「期待してるから」
 また能天気な顔で言う登志夫だった。
「色々とね」
「色々って何よ」
「だから色々とね」
「私はただの監督よ」
 こう言って引かない直美だった。
「わかったわね」
「わかってるって。全部ね」
「わかってないじゃない、いつもいつも」
 しかし登志夫は直美のそんな言葉を聞き流す。彼女の厳しい言葉を完全に聞き流している。そうしたやり取りをしたうえでだった。
 その駅前の御祭りにだ。彼はわざわざ直美の家のところまで来てだ。彼女を案内するのだった。
 家の玄関を出てだ。直美はまた眉を顰めさせる。そうして言うのだった。
「何でわざわざ来るのよ」
「駄目かな」
「待ち合わせすればいいじゃない」
「ナイトになったんだよ」
 ここでも能天気な笑顔で言う登志夫だった。
「御姫様を案内するね」
「御姫様ってね」
「だってほら」
 登志夫は今の直美の格好を見て話す。見ればだ。
 彼女は今は浴衣を着ている。濃紫で淡い赤の朝顔が描かれている。その浴衣に青い帯をしている。ただし髪型は同じである。
 その彼女の浴衣姿を見てだ。登志夫はまた笑顔で話すのだった。
「着物だしさ、今」
「これは浴衣よ」
「浴衣だけれど着物じゃない」
「違うわよ、そこは」
「まあまあ。それでだけれど」
「それで?」
「弟さん達は?」
 直美が大義名分にしているその弟達について尋ねるのだった。
「何処にいるのかな」
「今呼ぶわ」
 直美はこう言うとだった。玄関に顔を向けてだ。命令を出した。
「来なさい」
「りょ、了解」
「わかりました」
 すぐにだ。お揃いの白い上着と青いズボンの二人が来た。髪型はおろか顔も同じだ。左右対称に動くそれは軍隊のそれを思わせる。
 その二人を見てだ。登志夫は言うのだった。
「弟さん達?」
「そうよ」
 その通りだと答える直美である。
「この子達がね。私の弟達よ」
「ううん、凄いね」
「凄いって何がよ」
「いやあ、よく訓練されてると思ってね」
 彼はここでも明るい笑顔で述べた。
「軍隊みたいだね」
「規律正しくないと世の中に出てから苦労するわ」
 またしても正論だった。
「だからよ」
「その通りだね。それじゃあね」
「御祭りに行くのよね」
「うん。歩いて行く?」
 直美の家から駅前のその神社まではすぐだ。登志夫もそのことも考えてだ。それで彼女のこの家の玄関まで来たという訳なのだ。
 
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