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遊戯王ARCーⅤ 〜波瀾万丈、HERO使い少女の転生記〜

作者:ざびー
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二十三話 ー揺れる眼差しⅢー

 
前書き
*注意*一部暴力表現があります。ブラウザバックは各自の意思でお願いします。

タグ『虐げられるトマト』



 

 
 真澄達を襲った襲撃犯とのデュエルから数日が経った今でも私はあの夜の事を思い出す。

 私が駆けつけた頃には既に真澄達はあの男の手に敗れ、全身を切り傷だらけにして気を失っていた。私が駆け寄ると一瞬だが、意識を取り戻し一言、二言喋ると意識を手放した真澄の姿を。

『……ゴメン。負け、ちゃった』

 あの時、真澄が気を失う前に私に言った言葉だ。
 何時もの調子とは打って変わった、弱々しい表情でそう呟いた言葉と表情は今でも覚えている。
 なんなら、あの時『遅いわよ、馬鹿』みたいにいつもの調子で罵倒してくれればこんなにも悩ますに済んだかもしれないのに。


 ーー私が真澄の変調に気づいていれば…。
 ーー私が一緒に戦っていれば…。
 ーー私が駆けつけるのがもっと早ければ…。


 もし、私が起こす行動が違えば、真澄達の身に起こる結末を変えられたのでは。最悪でもあんなに彼女達が傷つく事はなかったのではないか。

 けど、デスガイドには、これは予定調和(運命)なのだから仕方がない。寧ろ私があそこで黒咲を倒した事の方がイレギュラーなのだ、とデスガイドに諭された。



 だけど、真澄達を傷ついたという事実よりも私を苦しめたのは純粋な恐怖だった。デュエル中は、友達を傷つけられた事から来る怒りで恐怖なぞ忘れてはいたが、今あのデュエルを、実際に鈍器で殴られたような衝撃や火で炙られたような熱を思い出すだけで体が震える。勿論、武者震いなんてカッコいいものではなく、恐怖から来る震えだ。

 遊戯王Ark-Ⅴ(この世界)に来てからは、物理的なダメージが発生するものや命を賭けた闘いに巻き込まれるだろうとは心のどこかで考えてはいた。
 だが、実際に無我夢中にデュエルをしていた時は兎も角、冷静になって考えてもう一度闇のゲーム紛いのデュエルを出来るかと言われたら答えはNOだ。

 これ以上痛い思いをしたくないし、死にたくもない。ましてやカード化なんてまっぴらゴメンだ。

 そう考えると歴代のデュエリスト達がどれほどまでにメンタルが強かったのかが思い知らされる。

 例えば元祖HERO使いは、黒炎弾をマトモに喰らい全身を炙られる様な苦痛を与えられても決して折れず、最後には勝利した。

 だが、私はどうだろうか。確かに『レイド・ラプターズ(RR)』使いには勝った。けど、最後に冥府の舟守 ゴースト・カロン(逆転の一枚)を引いていなければ負けていたし、何よりもデスガイドが攻撃から庇ってくれていなければ私はその時点で続行不可能になり負けていたと思う。

「……私は、まだ、弱い……」

 いくらOCGの知識とカードプールがあり、そこら辺のデュエリストくらい完封できる実力はあると思うし、ここ一番のドローも自信がある。それでも、歴代の主人公達が持つ『強さ』には及ばない。だが、どうすれば彼らに追いつけるのかはわからない。

「……負けたくないっ!」

 自分の力の無さが原因で親しい人物が傷つくのは見たくない。

「……誰にも負けない力が欲しい」

 だけどこれ以上強くなんて私にはわからない。

 いや、一つだけある。今の私には使えず、 可能性 (ポテンシャル)を秘めたカードが。

「……ペンデュラム、か……」


 私のカードプールは唯一、『ペンデュラム』のみ存在しない。

 その理由はデスガイド曰く、正史を必要以上に捻じ曲げてしまう事を避ける処置らしい。似た様なもので言えば、本来なら『No.』と書かれているカードからそれが消されていたりなど。そして、無闇と歴史改変など行えば、歴史の修正力によって最悪の場合は存在を抹消されるらしい。

 だから私はペンデュラムカードを使えずいたし、使おうとも思わなかった。だけど、私が力を手に入れるためにはどうしてもそれが必要なのだ。だから手に入れなければならない。

 たとえどんな手段を使ったとしても。それが悪魔に魂を売る行為だとしても。


 ーーーーーーー

 遊矢
 LP1300

 魔法・罠
 ペンデュラム:スケール1『星読みの魔術師』、スケール8『竜穴の魔術師』

 場
『オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン』、『EM チアモール』、『EM パートナーガ』


 優希
 LP4300

 魔法・罠伏せ:一枚

 場:無し




「……私は、レフトペンデュラムスケールにスケール3『竜魔王ベクターP(ペンデュラム)』を、ライトペンデュラムスケールにスケール5『竜剣士ラスターP(ペンデュラム)』をセッティング!!」


「なん、で……。優希がペンデュラムカードを」


 優希のデュエルディスクが七色の光を放ち、二本の柱が天を貫くように伸びる。空には遊矢のネックレスと同様の水晶の振り子が静かに揺れている。


「なんで、優希お姉ちゃんがペンデュラムカードを持ってるの?」
「ゆ、遊矢さんだけのじゃ、なかったの……」
「わ、わけわかんねぇぜ」

 年少組は困惑気味に声を発する。それもそのはず。
 ペンデュラムカードは、遊矢がストロング石島戦の時に、手に入れた新たな力。
 榊 遊矢だけが使えるはずの召喚方法。

 だが、現に同じカードが彼らの目の前に存在する。そして思い出されるのは少し前にLDSが塾対抗試合を仕掛けてきた時、赤馬 零児が発した言葉。

『ペンデュラム召喚。それがいつまでも君だけのモノだと思わない事だ』

 くっ、と唇を強く噛むと遊矢は前方を睨みつければ、そこには辛そうな表現の優希がいた。

「行くよ、遊矢……。私はスケール3『竜魔王ベクターP』、スケール5『竜剣士ラスターP』をセッティングしたことにより、レベル4のモンスターが同時に召喚可能!」

「っ!けど、レベル4だけなら……」

 確かに遊矢が扱うペンデュラムカードの様に多種多様なモンスターを呼び出す事は出来ない。だが、今の私にはそれで十分だ。

「リバースカードオープン!『ペンデュラム・バック』発動!ペンデュラム召喚が可能なレベルを持つモンスター二体を墓地から手札に加える。私はレベル4の『E・HERO エアーマン』、『E・HERO シャドーミスト』を手札に加える!」

 ペンデュラムスケールのセット、召喚するモンスターの確保。そして、次に起こる事を一番よく理解している遊矢はオッドアイズ・ボルテック・ドラゴンに飛び乗るとアクションカードを確保しに行く。だがその間にも、水晶の振り子が揺れ、軌跡を空へと刻み始める。

「揺れろ、魂のペンデュラム!天空に描け光のアーク!ペンデュラム召喚!現れろ、私のモンスター達!」

 天を指指し、声高らかに叫ぶ優希に呼応するように振り子が大きく揺れ動き、空へと幾何学模様を描く。描かれた魔法陣から強烈な閃光が迸り、モンスターを導く。

「手札から現れろ。『E・HERO エアーマン』、『E・HERO シャドーミスト』、『E・HERO ブレイズマン』!」

 召喚された三体のHERO。だがどれも遊矢のモンスターを全滅させ、ライフを0にする力はない。だがこれでいい。目的は達せられ、これで勝利の方程式は完成した!

 密かに笑う私の目の前で三体のモンスターが血のような紅に呑み込まれていく。

「三体をリリース!現れろ、究極のD!『DーHERO BlooーD』!」

「ぶ、blooー D!?」

 三体を生贄にし、現れたのは漆黒の蝙蝠の様な翼を広げた痩躯の戦士。その姿を英雄というより、悪魔に近い。

「BlooーDの効果により、相手フィールド上のモンスター効果は全て無効される。」

「それじゃ、ボルテックス・ドラゴンの効果が使えない⁉︎」

「け、けどそのモンスターの攻撃力じゃ、遊矢のモンスターには勝てないわ!」

 柚子が言った通り、BlooーDの攻撃力は最上級モンスターとしてはあまりにも低い、1900。よし、と希望のこもった声が聞こえてくるが今まで黙って観戦していた徹が、声を震わせながら告げる。

「無駄、だよ。あのモンスターは相手モンスターを装備してその攻撃力の半分を得る吸収効果が、あるんだ……」

「そ、そんな⁉︎」

「け、けど遊矢にいちゃんのモンスターはボルテックス以外守備表示だからダメージはないぜ。」

「そ、そうか。このまま耐えれば!」

 確かに遊矢のモンスターはボルテックスを除けば守備表示だ。だが、忘れてはいけない。これは通常のデュエルではない。アクションデュエルだということを。フィールドに散らばる無数の可能性を。

「私はBlooーDの効果でボルテックスを吸収し、装備する。さらに、装備したボルテックの攻撃力の半分の数値を攻撃力に加える。クラプティー・ブラッド!」

「ボルテックス・ドラゴン!?」


 BlooーDの両翼から紅い光が放たれ、ボルテックス・ドラゴンを呑み込む。そして、光が消え去った頃には既にボルテックスは跡形もなくなっていた。

「ボルテックス・ドラゴンを吸収したことでBlooーDの攻撃力は3150となる。そして、バトルだ!BlooーDでチアモールを攻撃!ブラッディ・フィアーズ!」

「チアモールは守備表示!俺にダメージはない!」

「甘いよ!手札からアクションマジック『ストライク・ショット』発動!!BlooーDに貫通能力を与える!」

「させるか!『星読みの魔術師』のペンデュラム効果により、相手はペンデュラムモンスターとのバトル中、魔法カードを発動できない!」


 星読みの杖が輝き、私の発動したカードを無効にせんと光が放たれる。だがしかし、同時に竜魔王の真の効果が発揮される。

「『竜魔王ベクターP』のペンデュラム効果!相手のペンデュラム効果を無効にする!」

「んなっ⁉︎」


 ベクターPの持つ杖先の結晶が妖しい光を放ち、星読みが放つ光を侵食し、塗り潰していく。そして、侵食された星読みから一切の色が消え去ってしまう。

「そ、そんな星読みの魔術師が!?」

「アクションマジック『ストライク・ショット』の効果で、BlooーDの攻撃力がチアモールの守備力を超えた数値分のダメージを与える!終わりだ、遊矢!」

「なっ⁉︎う、うわあァァァァァァァァ!!」

 血の雨の様な紅い閃光がチアモールを貫通し、遊矢へと降りそそぐ。

 遊矢:LP0

 遊矢とのデュエルに勝利した優希は今だ起き上がって来ない彼を助け起こすわけでも、勝利に笑みを浮かべるわけでもなくただその場で立ち尽くし虚空を見つめていた。

 観覧席から見ていたギャラリーもまるで別人の様な優希を目の当たりにして何か声をかける事すらためらわれた。唯一できた事は、遊勝塾を去って行く優希を目で追うことだけだった。



 ーーーーーー

 しんみりとした雰囲気の中、遊矢は遊勝塾の他のメンバーをおいて一人で外に飛び出し、優希の後を追いかけたが願い叶わず、見失ってしまった。走り疲れた体を休ませるために塀へと(もた)れかかる。体力は少し回復したものの自分の不甲斐なさに苛立ちが募るばかり。

「……っ!」

 そして、苛立ちがピークに達したのか、右の拳をコンクリートの塀へと打ち付けた。その表情は険しく、さっそく痛みすら正常に感知出来ない。

「……優希、どうして。」


 遊矢は後悔した。
 優希が自分(遊矢)だけのものだと思っていたペンデュラムカードを所有し、使った事に対し、優希が 遊勝塾 (俺たち)を裏切ったと考えてしまった事にだ。

 赤馬 零児や沢渡 シンゴからペンデュラムに関する事を伝えられ、心のどこかでいつかは皆が使える日が来るだろうと考えてはいた。だけどそれはもっと後の事だろうと楽観的に考えていたのは事実だ。
 だけどどうだろうか。実際に目の前でペンデュラム召喚を見せられ、言葉を失った。


 だけど冷静に考えてみれば友達に優しい優希がそんな事をするとは到底思えない。だからこそ謝りたい。少しでも疑った事を。謝って、それで遊勝塾に戻ってみんなでたわいもない事で笑いあいたい。故に追いかけた。けど、遊矢の想いは成就せず、優希を引き止めることすら叶わなかった。


「……どうすりゃいいんだよ」


 優希がどこに行ったのか検討もつかない。
 壁に背を預け途方に暮れていると、不意にソプラノの声が響く。

「まったく、俺なら何かしてやられる……な〜んて思い違いも甚だしいデス!」

「ンなっ⁉︎だ、誰だ!」

 声のした方向から現れたのは、制服のような紺色のブレザーに、艶のある紅髪をドクロの髪留めで留め、ツインテールに結んだ少女。
 小馬鹿にしたような表情を向けてくる失礼な少女に遊矢も反論せざるを得なかった。

「な、なんだよ!こっちは、悩んでんだよ!事情も知らないくせに!」

「…………事情を知ってるから言ってんじゃないデスか」

 死にたいデスか?などと冗談めかしていう少女の言葉に遊矢は驚愕に表情を固めた。

「事情を知ってるからこそ、教えてあげたんですよ。あなたには何も出来ない。無駄だと」

「っ!やってみなきゃ無駄かどうかわからないだろ!!」

 呆れたと言わんばかりにため息を吐く少女に、カチンときた遊矢は反射的に声を荒げてしまう。普段ならこれくらいで取り乱す事はないはずなのだが、おそらく優希の件で酷く焦っていたらしい。

 だが、遊矢の怒りも赤毛の少女は鼻で笑い飛ばすと小馬鹿にした表情から一転、虫けらを見下ろすような表情を浮かべた。

「ハ?やってみなきゃわからない?やった結果がこれでしょう?」

「なに!?」

「自分の過ちに気付いた頃には後の祭り。それでも追いかけて、見失って、迷って、疲弊して、絶望した。簡潔に述べるとこんな感じですよ、あなたのやった事は。で、最後にあなたは可憐で無垢で愛らしく幼気な少女の心に傷を負わせてしまった事に後悔したのでした、マル」

「く……」

 少女の言う事はどれも正しい。

 自分の怒りが不当なものだと気付いたのはデュエルが終わり、優希が去ってからだったし、すぐに追いかけたが見失った。優希が可憐で無垢で愛らし幼気な少女かどうかは人それぞれだと思うが、優希を傷つけたことは確かなのだが。

 だからこそ、償いたい気持ちが強くなる。

「じゃあ、俺は、なにをすればいいんだ……」

 教えてくれと頭を下げる遊矢だが返ってきたのは冷淡な返事だった。

「だーかーらー、言ったじゃないですか〜。あなたみたいなトマトには何も出来ることはないって」

「と、トマト⁉︎」

「それとも……肉体言語を御所望ですか?」

「っ⁉︎」

 トマト呼ばわりされて驚くが剣呑な視線を受け、急に背筋に寒気が走った。だが、遊矢とてトマト呼ばわりされようが男であり、漢だ。少女の殺気に怯んでばかりではいられない。

「何かしなきゃいけないんだ!あんたなら、知ってるんじゃないのか。俺に何が出来るのか!」

「……チッ」

「フグゥッ⁉︎」

 赤毛の少女は小さく舌打つと最小限のモーションで遊矢の鳩尾めがけ手刀を繰り出した。
 あまりの衝撃と痛み、それに胃酸がこみ上げてくる不快感に体をくの字に曲げ耐えようとする。だが不安定な体勢になっているところに背中から押され、無様にも地面に倒れる。

「うげっ……なにすん…うぐ⁉︎」

 抗議の声は後からきた衝撃により、喉の奥へと戻ってしまう。なんとか首を回して背中を確認するとぐりぐりと自分の背中を踏みにじり、残虐な笑みを浮かべた少女が居た。
 声を発しようとするがドスンドスンと断続的に襲ってくる痛みと衝撃に口からは言葉は出ず、空気しか出なかった。


「まったくこれだからトマトは……」

「うぐっ」

「いいですか?あなたが優希さんに出来ることはありません」

「ふぐっ」

「例え頭を地面に擦り付けて謝罪したとしても、優希さんの心の傷を深くするだけデス」

「ふげっ」

「第一、力のないトマトに何が出来るんですかぁ?」

「むグッ」

「こうして美少女に足蹴にされてる時点でご察しでしょう」

「じぶんで言……むぎゃっ⁉︎」

「悔しい?悔しい?」

 痛みなのか、悔しさなのか……。涙が出て視界がぼやけ始める。だが、急に体が吊り上げられる感覚に驚愕する。見れば、先の少女が遊矢の襟を掴み持ち上げていた。しかも超いい笑みで。
 なんて、馬鹿力……なんて言えるわけなく代わりに遊矢はくぐもった声を出した

「いいですか。優希さんは今悩んでいるんです。そんな時に、深く事情も知りもしない輩が軽率な事をしても余計に苦しめてしまうだけなんです」

「うぐ……だからって」

「聞きますが、あなたはなぜ優希さんがペンデュラムカードを持っているか知ってますか?どんな思いであのカードを受け取ったか知ってますか?」

「っ……ぅ…」

「どんな気持ちであなたに対してペンデュラムカードを使ったかわかりますか!」

「っ!?」



 語調を強めながら放たれた言葉に思わずハっとさせられる。
 そして、思い出されるのはデュエル中の優希の辛そうな、申し訳なさそうな表情。

 遊矢を持ち上げていた少女はそれだけ言うとポイっとゴミを捨てるのように遊矢を路上に放り投げた。遊矢は受身も対してとれずアスファルトの固い道路に体を強かにぶつけ、呻く。だが、痛む体に鞭打つと塀に手をもたれかかりながらも立ち上がって見せた。

「へぇ、驚きました。30分くらいは動けないように痛めつけたつもだったんですがね……お代わりですか?」

「さすがに……死ぬわ」

 息も絶え絶えの状態だが遊矢は少女の(多分)冗談に返答すると、顔を上げ少女へと向き合う。その瞳には何かを決意した者がする眼をしていた。

「仲間が苦しんでいるなら、俺は、何かしてやりたい。何もしないなんて俺には出来ない!」

「……ハァーー。こりゃ、とことんバカデスね〜」


 少女は額に手を当てるとやれやれとため息混じりに頭を振る。呆れながら小馬鹿にしてくる少女だがその表情は嬉しそうに思えた。


「けど、そんな馬鹿も嫌いじゃないですよ」

「そ、それじゃ……!」

「だ、け、ど!残念ながらトマトにする事をありません。だから優希さんを信じて待っていてください。優希さんが立ち直って戻って来た時、一緒に過去を笑い飛ばせてあげれるように」


 後は私の役割ですからから……と呟くと今までの少女の言動からは想像がつかないほどの慈愛のこもった温かい笑みを浮かべた。


(この子もこんな表情するんだな。てか、そろそろ足が限界……!)


 アクションデュエルからのこの苦行に悲鳴を上げる体に顔を顰めているとハァと盛大に吐いたため息が聞こえてきた。顔を上げれば、がっくりと肩を落とした少女が目に映った。

「しっかし、優希さんなんであんな悪魔に魂を売ったんですかねぇ……どうせなら私に(なび)いてくれればよかったのにぃ……」

「あ、悪魔……?」

「メガネにハリガネマフラーノーソックスでラスボスオーラが滲み出てる悪魔です。ついでにどこかのCEO(社長)ですね。」

「へ、へー……」

 物騒なワードにさすがにスルーせずにはいられず聞き返すと色んな意味で凄そうな悪魔が語られた。
 

「さて、思ったより話しこんでしまいましたね」

「あ、あぁそうだな」

 優希を追いかけ外に飛び出した時には明るかったが、陽は沈みかけ黄昏時へとなっていた。

「では、お体に気をつけて。また会えるといいですね」

「あぁ。ところで名前ーーーっ!」


 最後まで言い切る前にいきなり強い風が吹き、腕で顔を覆う。風が止み、視界を戻すとすでに少女の姿はなくなっていた。

「なんだったんだ……あの子」

 いろいろとおかしな子だったなぁ……と呟くと痛む腰を摩りながら帰路を急いだ。



 ーーーーー

 ところ変わり、レオ・コーポレーションの社長室。そこに優希はいた。

「ふむ、君のおかげで我々の開発したペンデュラムカードは榊 遊矢の持つオリジナルに匹敵しうる事が立証された。予想を上回る成果に開発者達も喜んでいることだろう」

「あっそう」

 高級そうな椅子にもたれながら書類をめくるレオ・コーポレーションの社長、赤馬 零児に対し、優希は素っ気ない返事で返答する。


 ーーー友達を守るために、力が欲しい。


 そう思っていた矢先、優希に取引を持ちかけてきたのが今目の前にいる赤馬 零児だった。ここ最近、LDSの生徒や関係者を襲っていた黒咲 隼を撃退したことが社長の目にとまったらしい。

 そして、赤馬零児が私に『ペンデュラムカード』を渡す代わりに提示した条件は三つ。

 まず一つ目は遊勝塾の脱退。

 二つ目は、『ランサーズ』への参加。聞かされた当初は、槍で自害するグループなのでは?と疑ったがそうではないらしい。零児曰く、この世界は4つの次元に分かれており、次元統一を目指そうとする融合次元から私達がいるスタンダード次元を守るための対抗勢力ということらしい。

 そして、三つ目はレオ・コーポレーションが作成したペンデュラムカードでオリジナルを持つ榊 遊矢とデュエルすること。必ず勝たなければならないと思っていたがデータの回収だけで勝敗は関係なかったらしい。社長の先の発言はそのためだろう。


 三つの条件を了承し、約束通りペンデュラムカードを手に入れたわけだが、本当にこの選択が正しかったのか今でも迷う。
 出来る事なら受けとったモノを突き返し、遊勝塾に戻りたい。けど、私が弱いために友達が傷つくのはもうごめんなのだ。


「さて、これで正式にランサーズの一員となった君にこれを私しておこう」

「おわっとと……バッジ?」

「あぁ。見ての通り、ランサーズとしての証だ。そして、入団早々悪いが初ミッションだ」

 赤馬 零児が投げて寄越したのは、槍を携えた騎兵の装飾の施された金色のバッジ。そして、それを受け取るなり、鋭い視線が私へと向けられる。


「君にはマイアミチャンピオンシップに出場してもらう」

「は?」

 
 

 
後書き

暴力表現と言ったな、アレは嘘だ!……ご褒美なんです(白目)

タグ『虐げられるトマト』について
ほら、トマトって虐げられるものでしょ?キラトマとか、トマボーとか……。
なお、通常のデスガイドさんではプチトマボーしか戦闘破壊できません。きっと、うちのデスガイドはデーモンの斧でも隠し持っているのでしょう。

それではまた、ノシ


NEXT→マイアミチャンピオンシップ、開幕!! 
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