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蚊の毒

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6部分:第六章


第六章

「これで」
「そうです。もうすぐですよ」
 こうまで言ってきたアッディだった。
「ですからすぐに」
「そうか。じゃあ」
 言われるままそれを飲むとだった。まずはこの上なく嫌そうな顔になった彼だった。
 そうして。その顔で言うのだった。
「何だい、これは」
「まずいのかい?」
「まずいなんてものじゃないよ」
 こう塚本に言うのであった。
「もうね。とてもね」
「そんなに酷い味なのかい」
「何ていうかな」
 そのこの上なく苦いものになった顔での言葉だった。
「原爆を食べたみたいなね」
「原爆を食べた!?」
「そんな味だよ」
 こんな風に表現するのだった。
「もうね。苦くていがいがして後味が残って」
「とにかくえげつない味なんだね」
「そうだね。真夜中に大雨に逢って裸足で公衆便所に入って便器に足を突っ込んで」
「不幸が重なるね」
「そうして財布を落として止めにマフィアに喧嘩を売られた感じだね」
「とにかく最悪だっていうんだね」
 それだけは何とかわかる塚本だった。
「そんな味なんだ」
「そうなんだ。とにかく最悪の味だよ」
 飲んで言う言葉だった。
「ええと、それでこの最悪のをまだ飲まないと駄目なのかな」
「はい」
 まさしくそうだと答えるアッディだった。
「どうぞ。まだです」
「やれやれだよ」
 それを言われてうんざりとした顔になる彼だった。
「まだ飲まないといけないって」
「お椀にあるのを全部飲んで下さい」
「せめて砂糖とかがあればいいんだけれど」
 冗談めかしたことも言わずにはいられなかった。そうでもないと今のこのとんでもない味はとても口に入れることができなかったのだ。
「ないだろうね、やっぱり」
「蜂蜜は入ってますよ」
 するとこう言ってきたアッディだった。
「ちゃんと」
「薬としてだよね」
「他に様々な薬草や茸や虫の干物や排泄物が入ってます」
 とにかく色々なものが入っていることがわかる言葉だった。
「ですから味は凄いですがこれで病気は治ります」
「治るんだね」
「飲めばもうそれで一発です」
 断言した彼だった。
「ですからどうぞ」
「わかったよ。じゃあ」
 サルミネンは覚悟を決めてそれを飲み干した。極めて重度の二日酔い患者の顔になって何とか飲んだのだった。そして飲むと瞬く間だった。
「あれっ、まさか」
「もう治ったのかい?」
「うん、治ったよ」
 こう塚本に述べるのだった。すっきりとした顔になって。
「完全にね」
「治ったってもうかい」
「うん、治ったよ。気分もよくなったし」
「早いね」
 この展開には驚くしかない塚本だった。
「もう治ったなんて」
「うん。本当に聞くなんてね」
「あの病気にはこれなんです」
 アッディが明るい顔で彼に告げてきた。
 
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