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私の宝物 超能力 第3話

作者:ドリーム
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私の宝物 超能力 第4話

 
前書き
第4話 

 
 当日、普段この辺では見かけない高級車がバラック建ての家の前に停まった。
 富田家が差し向けてくれた車に乗って暗子は緊張していた。
 まるで自分じゃない衣装に包まれた人形だ。
 「あのう……運転手さん。前の運転手の方はどうなさっていますか」
 「ええ幸い、命は助かりましたが復帰は難しいそうで。でも幸男様が生涯に渡って面倒みて下さるそうで、本当に優しい方ですよ。貴女が幸男様を救われたとか伺っておりますが」
 「私はとくに何もしてません。生涯に渡って面倒みるなんて今時、そんな会社はありませんよね。優しい方なんですね」
 暗子は幸男って思ったより良い人なのだと思った。お礼のつもりの招待だろうが慣れない場所への招待は一苦労する。母からマナーは教わったが本当にキチンと出来るだろうかと気持ちが落ち着かない。
 車は青山通りに差し掛かった交差点、その時だった。予知能力が察知した。信号を無視して飛び出して来た大型トラックに暗子は危険を感じた。今回も予知能力は働いたが遅すぎた。マナーの事で心が乱れたらか? だが想像出来ない事が起こった。

 暗子が乗った車の脇に大型トラックが目の前に迫った。運転手は衝突されると目を瞑った瞬間だった。暗子は窓越しから、その車に手で遮るような仕草をした。
 すると何故か時間が止まったように、大型トラックはブレーキを掛けた訳でもなく静止した。いや動く物の全てが静止した。いやそう感じたのかは定かではないが。時間が止まったような気がする。
 運転手は車が潰されると思いハンドルを握ったまま、眼を閉じて覚悟を決めていた。だが何事も起きなかった。暗子もまさか自分の不思議な力を働いた事を暫く認識出来なかった。

 だが交差点周辺に居た人達の数人はそれを目撃した。
 確かに歩く人も他の車も衝突しそうになったトセックも動く物の全てが止まったような気がしたと、後でそんな証言があった。
 「運転手さん大丈夫? 急がないと信号が変わるわよ」
 と、暗子が運転手に声を掛けた。運転手は我に返った。
 何も起きてない事に呆然としていたが再びアクセルを踏んで車は動き出した。
 だが心臓の鼓動は激しく冷や汗がドッと出ていた。
 運転手は暗子の超能力だとは知らなかったが、不思議な能力の持ち主だと聞いていた。当の暗子もこの時点では自分の力と思っていない。今回は予知能力と超能力の組み合わせだ。
 明らかに暗子の力はパワーを増している。そして何事もなく車は富田家に到着した。
 しかし事の次第を運転手は主に告げなかった。
 心配もするだろうし誰がその奇跡を信じるだろうか。ただ幸男様にだけは伝えなければならない。
 現に事故が起きたニュースは報じられず、出くわした人々も記憶か消えていた。

 幸男は彼女の超能力に救われたと運転手は密かに聞かされていた。
 その力をまざまざと見せつけられたのだ。
 今はお礼よりも無事に送り届けるのが自分の役目と心得、いずれお礼を述べなくてはならないが。
 暗子は富田家の広い中庭に降り立った。すると左右に数人のメイドと執事が左右に別れ深々と頭を下げて出迎え、その向こうに幸男の両親と幸男本人が軽く会釈して微笑んでいた。
 中庭だけでも二百坪はあろうか、その近くには池があり噴水があった。
 真夏の太陽が燦燦と降り注ぐ昼時だが、緑の芝生と噴水のせいか暑くは感じなかった。
 暗子は母が特訓してくれた礼儀作法に従い、メイド達以上に深々とお辞儀をした。

 処が両親も幸男も不思議な表情を浮かべている。
 「ねぇ幸男、命の恩人といった方はあの人なの。あんな美人だとは聞いてなかったけど」
 「うん別人かと思った。信じられない。あの人があの暗子さん……あの時は暗がりで良く見えなかったし確か眼鏡を掛けていたけど」
 しかし目の前の彼女は、このように語った。
 「本日は私のような者を、お招き戴きありがとう御座いました」
 戸惑った幸男の母は笑顔を取り戻し応えた。本人に間違いないようだ。
 「いいえ、こちらこそ無理なお誘い致しました。どうぞお入り下さい」
 幸男は容姿のまったく違う暗子に驚き、しばし唖然としていた。
 あのド近眼のメガネはなく髪が綺麗に整えられ、まるで別人のようだ。最も暗子が貧しい家で育った事は知らなかったが、目の前に居る暗子は上流社会のお嬢様のようだった。
 女性ってこうも化けられるものなのか? 最初見たと時は仮の姿でこっちが本物なのか。
 初対面の時はどう見ても、垢抜けしない娘に見えたのだが、しかし歩く姿も堂々としていてファンションモデルのようだった。

 幸男の父も幸男から聞いていた印象と余りに違う様子に驚きを隠せず、幸男に小声で囁いた。
 「おい、幸男。お前が言っていた女性は本当にこの人なのか」
 そう囁いた。
 垢抜けしていなくて貧しそうな娘だと聞いていた。
 それがモデルとまでは行かないが、とても綺麗で美しく輝いて見えた。
 だが当の暗子は、そんな自分の美貌に気づいていなかった。髪型と眼鏡からコンタクトに変えて、ちょっと綺麗な洋服にしただけなのに。
 それも金の力で化けただけでも、多少は綺麗に見えるかと思った程度だった。
 一夜だけのシンデレラ嬢と思っている。
 また明日からジーパンに、いつものジャケット姿に戻るのだからと。
 やがて広い応接間に通され幸男の両親が正面に二人並び、暗子と幸男がその前に座った。
 早速、執事が会釈してメイド達に目配りすると、豪華な飲み物や料理がテーブルに並べられた。

 「では改めて、ようこそいらっしゃいました。この度は幸男が命を助けて戴きまして本当にありがとう御座いました」
 「とんでもないです。たまたま惨状が頭に浮かんだだけです。お礼を言われる程の事ではないのですから」
 暗子は母から学んだ礼儀作法も言葉遣いも、ドキドキだが今のところ旨くいっていると思った。
 だが富田家の人からは落ち着いた態度に言葉使い、さり気ない気遣いも好感を持たれたようだ。
 その後、家族と一緒に食事になったのだが、慣れない暗子には美味しさよりも極度の緊張で、ご馳走も喉を通らなかったが、それが逆に謙虚に映ったようだ。
 この日は無事に化けの皮が剥がれる事もなく終った。
いやこれで全て終る予定だった。こんな人達と住む世界が違うし、もう幸男とも二度と会う事はないだろうと思っていた。

 だが幸男は一目惚れしたようだ。暗子の魔法に取りつかれたかのように。
 帰り際に幸男が暗子に言った。
 幸男はなんとしても、お礼をさせてくれと、それも自尊心を傷つけないように気遣ってくれたのだが、お金では失礼と宝石と高級乗用車を受け取ってくれと言うのだ。
 こんな豪華なお礼なんて聞いた事もない。大金持ちは、まるで金銭感覚が庶民とは桁外れで、まったく分かっていないようだ。それにお礼なら今日招かれた事で済んでいるのに。
 それでも気遣ったつもりのようだが、例え高級な車を貰ったとしても維持費が大変だし車の免許も持っていない。
 でも、その気持ちだけは受け取らなくてはならない。暗子はお礼を述べながら丁重に断ったのだ。困った幸男は両親に相談した。どうすれば気持ちが伝わるのかと。

 両親は幸男の困った表情を見て、惚れたなと苦笑をしていた。
 しかし相手の幸男は尚も喰い下がる。それならと暗子に幸男が提案を出した。
 今度その予知能力の予兆があった時に、すぐ会ってくれと暗子に伝えた。
 それも予兆が現れたらすぐに電話をくれと。暗子は言っている意味が分からなかった。まあそれならば、と暗子はOKをしたのだ。

 暗子は正直困っていた。幸男は優しいしとても魅力がある男性だ。
 しかし身分というか住む世界が余りにも違う。第一、暗子は定時制高校しか出ていない。
 その日に生活して行くのもやっとの状態だ。
 万が一にも恋愛関係に発展しても結末は見えている。幸男は大会社の跡を継ぐ御曹司だ。
 両親は跡継ぎには家柄、学歴そして容姿端麗な女性を望むだろう。
 だが幸男は何かにつけ口実を見つけて暗子を誘い出す。
 その度に母は新しい洋服を買ってくれたが、もう金銭的に限界だった。
 この際、幸男にハッキリ断ろうと考えていた。

つづく
 
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