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リリカルな世界に『パッチ』を突っ込んでみた

作者:芳奈
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第二十二話

 勿論、この間に暴走体が大人しくしていたはずがない。何が起きたのかは全く理解出来ていなかったが、獲物が反逆したということだけは理解していた。

 何故自分の触手が消滅したのかなど、所詮動物程度の知能しかない暴走体には考えられない。だが、恐怖は感じていた。得体の知れない恐怖を。

 恐怖を感じると、生物の行動は大体2パターンに別れる。

 恐怖を感じて、その敵から逃げるのか。それとも、恐怖を感じて、その敵を排除しようとするのか。

 自分に戦う力があるものは、後者を選びやすい。根本的な問題の解決を図るのである。暴走体も、後者を選んだ。それが、運命を決定づけたのである。

 数万本の細い触手を、一斉に叩きつける。今までのような手加減した攻撃ではない。正真正銘、全力の一撃だ。餌として確保するよりも、跡形もなく吹き飛ばすのを選んだのである。

 ・・・が、もはやその行動に何の意味もなかった。

 バシュッ!

 空気の抜けたような軽い音が響くと、触手の先端が消滅したのである。

『OOOOOOOOOOOOOOO!!!』

 残った部分が地面を叩き破片を撒き散らすが、葵たちの場所までは届かない。暴走体は混乱し、力任せに残った触手を叩きつける。

 ―――が、

 バシュ、バシュ

 無意味だった。あれだけ猛威を振るった恐るべき攻撃が、全く届かない。暴走体も、そしてフェイト達全員は呆然としている。

 冷静なのは一人だけである。

(・・・これで、もう魔法対策は完璧だな)

 その葵は、凍えるような冷たい瞳で哀れな暴走体を見ている。フェイトたちに発散出来なかった怒りを全て含めて暴走体に叩きつけようとしているのだ。彼の心の中は、静かに・・・しかし、マグマのように煮えたぎっていた。

「どうなってるんだ・・・。」

 ユーノの呟きは、全員の心の声だっただろう。先ほど死んだ人間が生き返ったこともそうだが、これだけ圧倒的な力を手に入れているのだ。



★★★



 葵が進化して新たに手に入れた力。それに名前を付けるなら、【魔力完全掌握】だろうか。周囲の魔力を強制的に隷属させる異能である。彼の周囲では、いかなる魔法も彼の許可なしには存在出来ない。リンカーコアから供給される魔力すら、本人ではなく葵に支配されるのだ。【魔力完全掌握】は、まさに魔法に対する最終兵器とも呼べる能力であり、同時に、魔法以外には一切の効果を及ぼさない、魔法に対して特化しすぎた能力でもあった。

 元々彼は、それが”エネルギー”であるならばどんなエネルギーでも操作可能な力を持っていた。電気、熱、運動エネルギー、そして魔力。種類を問わずありとあらゆるエネルギーを操作可能な能力が、”エネルギー操作”なのだ。

 ―――だが、葵は進化によって、その多様性、汎用性を捨てた。

 中途半端だったのだ。どんなエネルギーでも操れる代わりに、精度が低い。万能ではあるけれど、これだけでは、例え進化して身体能力などが向上しても、この暴走体に勝てるかどうかが分からなかった。

 だから、彼は能力を特化させた。

 彼が選んだのは”対魔力(アンチ・マジック)”だ。暴走体に対する怒りと、殺された恐怖。確実にこの暴走体を完封出来る能力を欲した結果、この【魔力完全掌握】が生まれた。

 もとより、進化とはそういうものである。例えば、深海生物が、深海の水圧に耐える体を手にしながらも、役に立たない目は退化したように、何かに特化するということは、何かを捨て去るということなのだ。どんな生物にもキャパシティが存在する。全ての性能をMAXにすることは不可能だ。なら、何かを諦めるしかないのである。


★★★


『■■■■■ーーーーーーーーー!!!』

 暴走体は混乱していた。先ほどは効果があったハズの自身の攻撃が、何故効かないのか?それが理解出来なかったからである。

 だが、効果がないのは事実。それならば、攻撃手段を変更する程度の知能は持っていたのである。

 数万本ある触手が、周囲に散らばる瓦礫を持ち上げる。暴走体が暴れた結果破壊されたビルの残骸であり、非常に大きな破片ばかりである。これで攻撃されれば、暴走体の力も相まって、葵たちなど潰れたトマトのようになることだろう。

 ―――あくまで、当たれば、の話であるが。

『GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』

 パァァァァァァァァン!!!

 空気の壁を破壊する音と共に、瓦礫は投擲された。亜音速で迫り来る巨大な物体をどうにかすることは、フェイトたちには到底不可能だ。

 ・・・だが、

「下らねえ。」

 ゴオオオオオオオオオオン!!!

 まるで爆弾が爆発したかのような、盛大な爆発音が響いた。・・・否、それは、衝突音(・・・)である。

 透き通るような蒼の壁が、葵たちを取り囲んでいる。数百個の瓦礫を全て受け止めて、罅ひとつ生じていないそれは、葵が作り出した魔力の障壁であった。

「・・・・・・・・・デバイスなしで、魔法?数日前まで魔法も知らなかった初心者が・・・?」

 驚きの連続で感覚がマヒしていたユーノでさえ、その光景には目を見張らざるを得なかった。非常に高い魔道士適正を持つなのはでさえ、デバイスなしでの魔法などまだまだ遠い話だ。それも、これ程の強度を持つ魔法を即座に発動出来る人間など、管理局にさえいるかどうか。

(異状だ。異状すぎる。一体、何が起きているんだ!?)

 ユーノの混乱は深まっていく一方だった。

 さて、葵はと言えば、自身の新しく手に入れた能力、【魔力完全掌握】に非常に満足していた。

 確かに、この能力を手に入れたことにより、葵は魔力以外のエネルギーへの干渉が不可能になった。

 ・・・しかし、魔力とは、そのデメリットを覆す程のエネルギーだったのである。

(すげえな。『クリーンなエネルギー』だなんて原作(リリカルなのは)で言われてたけど納得だ。このエネルギーがあれば、火力やら風力やらなんてバカバカしくて使ってられねえな。管理局が増長するのも頷ける)

 使った分のエネルギーを、世界から(・・・・)徴収して回復する。

(進化して理解できた。魔力はどこにでもある(・・・・・・・)んだ。どんな世界にも存在する。地球にだって、最初からあった。それを観測する術がないだけだ)

 そう。どんな世界にも魔力はある。それは、もはや葵にはエネルギー不足などという言葉が存在しないことを意味していた。そして・・・

(どんな形にもなる。炎にも水にも電気にも・・・そして、目の前の暴走体(コイツ)のように、物質にすらなれる!!!)

 フェイトも、魔力を電気に変換する能力を持っているし、暴走体や闇の書の防衛プログラムなども、魔力で作られた物質だ。魔力とは、いかなる存在にもなれる、万能のエネルギーなのである。

 ―――つまり、だ。

 そんなエネルギーを隷属させ、いかようにも操る事が出来る葵は、進化する前をはるかに超える万能性(・・・・・・・・・・・・・・・・)を手に入れた事になるのである!!!

「ッハ・・・!ハハハ・・・!ハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」

 笑う。笑う。嬉しすぎて。これだけの力を手に入れた今、葵を止められるモノなど何もないことを確信して。もう、寿命以外で死ぬことはないと確信して。例え管理局と正面から戦争しても、圧勝出来てしまうだろう。原作三期で、たかが(・・・)AMF(アンチ・マジック・フィールド)にあれほど苦戦していた連中である。そんな紛い物と比べることすら烏滸がましい【魔力完全掌握】と対峙して、無事であるモノなどいるわけがないのだ。

「あ~・・・夢に一歩近づいたぞ。嬉しいなァ・・・。」

 長い笑いをやめて、葵は前を向く。

「ヒッ・・・!」

 葵の背後で、小さな悲鳴が聞こえた。フェイトだ。常軌を逸した葵の様子に、恐怖を隠せなかったようで、チラリと葵が後ろを見ると、更に怯えてアルフに抱きついていた。

 こんな危険な状況で笑う、血まみれの少年だ。恐怖を感じても仕方がない。

 見れば、ユーノもカタカタと震えていた。

「・・・ふん、まあいいさ。お前らの相手してる場合じゃないしな。」

 そうして、葵は今度こそ前を向く。ビルよりも高くそびえ立つ暴走体を強く、強く睨みつける。

「さて、お前には復讐をしないといけないよな・・・。せいぜい逃げまどえ。八つ裂きにして・・・お前の全てを喰らってやるからよ・・・!!!」

 虐殺が、始まった。 
 

 
後書き
こういう主人公で読者の皆さんの反応が怖いです。どうみても悪役だもの。そして、まだ無印なのにここまで強くなってしまった・・・え、エヴォリミゆえ致し方なし(震え声 
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