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ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──

作者:なべさん
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GGO
~銃声と硝煙の輪舞~
  Trust me

ファルと呼ばれた少年と、フランと呼ばれた少女の邂逅は、精神世界で行われたようなもので、現実時間に置換すれば一瞬の出来事であった。

すなわち。

レンがフェイバルの身体に初代(ファル)を送り込んだ直後、変化があった。

ゴッ!!と。

少女の矮躯から尋常ではない量の過剰光が迸ったのだ。

「なん――――ッッ!!?」

色は()

それだけを見れば、第一象限。正の意思を源とするものだ。これまでの彼女の行いとは、いやその過剰光から言えば、真反対もいいところだ。

だがこの量は……?と《冥王》とかつて呼ばれた少年が脳を回転させていると、まるで一個の恒星のごとき様相を呈する少女が、白い光源の中心でゆっくりと立ち上がったのが辛うじて視認できた。

「……成功」

したの?という少年の言葉尻は、掻き消されることとなる。

別に、レン本人に何かあったのではない。

もっと単純に。

「あはっはははははははははははははははははははははははははははははははhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaallllllllllllllllllllllllllllllll」

それを上回る《異常》が、爆発したから。

真っ白な少女は、狂ったように哄笑する。

白濁したように嗤い、狂ったように笑う。

「そん……な……何で…………」

零れ落ちた呟きに呼応するかのように、溢れる光に変化が生じた。

ただ莫大な力を周囲へ放つだけだったのが、突如としてその方向性にベクトルが生じ出したのだ。

不確かであやふやな意思を纏いだした白い奔流は、洪水のように赤茶けた岩盤を覆っていく。あっという間に、場が白いキャンバスに帰化させられていく。

―――オイ、オイオイオイッ!?ヤベェゾ逃ゲロ!!

切羽詰まった狂怒の《声》が、呆けていた少年に辛うじて足を動かす程度の瞬発力を与えてくれた。

高速無音歩法《地走り》

一歩で百メートル単位を移動するこの脚の前で、いかなる天災も追いつくことなどできはしない。

だが、それを具体的に発動に移す前は別だ。

一瞬。

足裏が地面を蹴り、圧倒的な敏捷力に裏打ちされた圧倒的な速さで場を離脱する、寸前。

白の洪水の端の端。飛び散った波しぶきの一滴。

それが背中かどこかに当たった――――んだと思う。

なぜなら。

ゾン!!と。

身体の中の芯のようなもの。レンを《冥王》たらしめていた根幹のようなものが、一気に、一息に、一気呵成にごっそりと、三分の一ほどが削り取られたのが分かった。

「――――――――ッッ!!」

ノドが干上がる。

だが、すでに完全に発動体勢に入っていた《地走り》は止められない。

結果、僅かに崩れた体勢によって本来は出ないはずの《足音》が背後で鳴り響き、着地時にもしわ寄せが来た。

「ぐっ!」

ざりざり、という音が腕の内側で破裂し、右二の腕の辺りが硬い岩に削られる。

どうやら、焦って飛んだせいもあり、そこまで距離は稼げていないらしい。

南部に広がる山麓地帯。もといた山から、せいぜい山一つ越えたくらいの距離しか移動していなかった。

「ッ!早く対策を考えなきゃ……。狂怒!狂楽!」

―――オウ。

―――ソンナニ怒鳴ラナクテモ聞コエルッテバ。

身体の内から響く二匹の《鬼》の声に向かい、少年は怒鳴る。

「アレは何!?どうなったらああなるの!!?」

―――ソレハ……

だが、レンはその答えを聞くことはできなかった。

いや、狂怒はちゃんと答えてくれたのだろう。だが、それを受け取る心のほうが先に、受け入れる態勢を放棄してしまったのだ。

なぜなら――――










《ソレ》は、遠方からもはっきりと視認できた。

レンが消えてから、諦めも悪く周囲を捜索していたユウキは、ちょうど行われたサテライト・スキャンを見るために端末に目を落としていたところ、詳しく目を走らせる前に自らを呼ぶリラの声に気が付いた。

「ちょ、ユウキ!あれ!!」

「いた!?」

「違う!南のほう見て!」

同性から見ても綺麗で、時々少しだけ独特なイントネーションを持つリラの声が、普段の彼女の傲岸不遜ぶりを見ていれば信じられないほどの焦りと不安、そして僅かな畏怖のようなものを持っていて、思わず何も聞かずに少女は首を巡らせた。

正直、南のほうとは言っても、そこまで地理感覚には優れている訳ではない。懸命に頭に叩き込んだはずのステージマップも、度重なる出来事のせいで半ば以上が欠け落ちていた。

だが、それでもユウキはリラの声が指し示す《ソレ》には気付けた。

なぜなら――――

闇夜に沈む山々のシルエット。深い藍色をバックにそびえる赤茶けた大地は、どこか神秘的で荒廃的な雄大さをたたえている。

その間から。



《白》が、立ち上がった。



「…………………………………………………………………………ぇ」

一言で表すなら、巨人。

二足二腕。恐竜のような前傾姿勢ではなく、確かに二本の脚で屹立するその姿は人間型のそれである。だが、肩口から大きく伸びたスパイクのようなものや、本来ならば頭部があるべき位置が妙にのっぺりしていることなど、差異はある。

ただ一つ言えることは、《ソレ》のシルエットは流線型を描き、無機物的な印象を与えてこない。いっそ嫌悪感さえ抱かせるような、頭蓋骨の裏側を掻き毟られるような本能的な拒否感――――異物感を放っていた。

そこまで大きくはない。周囲の縮尺から考え見て、十メートルは絶対にいっていない。

だが、色が夜闇を切り裂く純白だったことから、遥か彼方からでも不自然なほどに鮮明に見えた。

山々の合間からのっそりと立ち上がった《ソレ》は、両腕をうっそりと天を仰ぐように掲げた。

一瞬の静寂。

そして。

『……ル。……アアアァァァaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!』

ゴウッ!!と。

距離が開いているにも関わらず、リアルな間隙を経て《咆哮》が耳朶を揺さぶる。遠雷の雷鳴のように微かで無機質ではあるが、それゆえに生々しい感情が込められたその響きは、アバターだけではなくそれを構成する生身の身体まで竦ませた。

「……な、なに……あれ……」

普段からどもり気味なミナの言葉も、どもるというよりは単に引き攣っているように聞こえた。

だいたいおかしいのだ。

三人が今いるのは、ステージ北部の砂漠エリア。つまりあの真っ白な巨人がいる南部の山麓地帯とは真反対もいいところだ。

本大会ステージに設定されている孤島は、大会規約によれば確か直径十キロの円形。ならばあの巨人とは現実置換にして八、九キロは離れていることになる。

スナイパーライフルに付いている高倍率スコープだとしても、人型なんていう情報を現在地から得るのは困難なはずだ。

なのに。

それなのに。

分かる。解かる。判る。

わかってしまう。

どれだけの距離が離れていようとも、同じように《ソレ》は自らの存在を周囲に放っていただろう。それに足る存在感を、《ソレ》は全世界に向けて放射していた。

「――――災禍の……鎧……」

色も、形状も違う。

だけれど、かつて刃を、意思をぶつけあい、殺し合った者として《絶剣》と呼ばれた少女にははっきりと分かった。

だが、同時に。

―――レンじゃない。

風に混じって吹き付けてくる圧倒的な感情の波。だがそこにいくら目を、耳を凝らしてみても、従弟のものは見受けられなかった。

―――レンは、《災禍》に勝ったんだ……ッ!

胸の奥がカッと熱くなる。

気付けば、少女はもう一度立ち上がるための力を得ていた。

「……行くの?」

「うん」

レンが待ってる。

即答で返すユウキに、数瞬押し黙ったリラははぁ~っと盛大な溜息を吐きつつ後頭部を掻いた。

「あーもー、大会がメチャクチャ」

「ご、ごめん……」

謝んな、という言葉はぴしゃりと言い放たれた。

鋭い眼光でこちらを一瞥した少女は、ぼりぼりと綺麗なブロンドを乱す。しばらくの間、あーとかうーとか言って呻いていたリラは、ふと顔を上げた。

「取り引きよ」

「と、取り引き?」

「そ。あたし達がアンタ達に手を貸す代わりに、アンタ達は絶対にこの大会をイイ感じに着地させなさい」

そ、それはかなり無茶な要求では、とユウキは思わないではいられなかった。

運営体(ザスカー)からしてみれば、この大会はもう修正不可能なほどねじれている。もう運営そのものを放棄したとしてもおかしくはないほどに。

それを、あまつさえ運営される側に位置するプレイヤーが大会の行く末をコントロールするというのには、生半可な力では無理である。

いや、と。

少女は思い直す。

そうではない。今までの極大の異常事態(イレギュラー)、その元凶は全て一つの点に集約されている。

フェイバル。

あいつを倒せさえすれば、かなり遠回りで迂遠ではあるが、まだBoBを墜落ではないまでも、不時着くらいにはできるはずだ。

「わかった。でも、何か策でもあるの?」

ユウキの問いに、リラはただ不敵に笑った。

「少なくともアンタ達よりゃ弱いけど、これでも結構GGO歴も長いのよ。少しは古参(ベテラン)を信用なさい」

「……そっか、了解」

にっと笑みを返し、リラはくるりときびすを返した。

「さてと、行くわよミナ。森の中に隠した《あれ》取りに行く」

「え……え……ま、待ってよぅリラちゃ~ん!」

すたすたと確かな足取りで遠ざかっていく(たぶん)の背中を、ミナが少々危なっかしい足取りで追う。

両者を黙って見送るしかできないユウキに、振り返りもせずに最後にミナは告げる。

「あ~そうそう、コレはあくまで休戦だかんね。あのワケわかんないヤツ倒したら、もうあたし達は敵同士よ」

「……うん」

呟く少女の返事は届いたかどうか。

そのまま走り出すコンビの背中が次第に小さくなっていくのを見ながら、ユウキは小さく息をつく。

―――みんな、すごいなぁ。

レンは、自分は何の抵抗もできなかった《鎧》に打ち勝って見せた。

リラとミナは、自分が弱いということをきちんと理解し、それでも何かの力になろうと前を向いている。

自分だけだった。

小さいことでうじうじ悩んで、一歩でも前に進むのを恐れている。

弱く見えた。

矮小に思えた。

卑小に感じた。

―――だけど。いや、だから。

そろそろ、いい加減に歩を進まないといけない。

テオドラが言っていたではないか。考えることは自分達の役割ではない、と。人それぞれに役割があって、そして自分に与えられたのは悩むことではない。

ならば、自分の――――ユウキの役割とは何なのだろう。

そこまで思考した時、少女は砂漠の向こう側から聞こえてくる小さな音を拾った。それはやがて、砂煙を携えてこちらに向かう小さな影となる。

「……車?」

三輪だが、おそらくバギーという踏破力の高い車種のようだ。砂漠のため、派手に後輪から砂塵を弾き飛ばしながらこちらへと向かってくる。

目を凝らすとすぐさま索敵スキルが発動し、視界に必要な明度(ガンマ)と、専用の双眼鏡やスコープには及ばずとも、ある程度までの拡大(ズーム)を行ってくれる。

助手席に座るのは、夜風に揺れるペールブルーの髪を両脇で束ねた少女だった。確か、シノンといったか。

そして、運転するのは――――

バギーはユウキの眼前で止まる。運転していた黒衣のプレイヤーは、スッとこちらを見た。

「よ、お疲れ」

「そっちも」

前時代的な内燃エンジンの音を多少緩め、キリトは言う。

「……《災禍の鎧》か?」

「うん。キリトは《死銃》?」

「あぁ」

深くは訊かない。

ただ、互いの《敵》について、彼らは質問ではなく確認をする。

普通の人が聞けば、その辺の雑踏に転がっている世間話程度の口調で、何の気負いも、背負いもなく、二人は言葉を交わした。

すべてを知るなどという大言壮語は吐かないが、それでも知っているという儚い見栄くらいは張れる。

かつての六王の一角。

片方は長い間末席に居座り、片やもう一方は代理とはいえ第三席に着席した男。

両者の《見栄》は、一般人(シノン)の細い肩を確かに震わせた。

会話はそれだけ。

二人はそれでまた、各々の物語へと戻っていく。

――――その寸前。

「ユウキ」

響くアイドリング。

その中でも、剣士の声は不思議とよく響いた。

「あいつ――――レンのこと、疑うなとは言わない。人間なんてそんなもんだ。いつだってプラスの考えでいられるわけじゃない」

疑うこともある。憎むこともある。道を違えることだってあるかもしれない。

間違えない人間などありはしない。完全に己と同一の主義主張を持つ者など存在しないのだから。

でも。

だけど。

それでも。

「お前自身はどうなんだ。許せるか?許容できるか?()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「――――――ッッ!!」

弾かれたように、少女は振り返る。

激昂する眼を受け止める少年の双瞳は、湖面のように静かな闇をたたえていた。

「あいつが助けて守って一緒に戦うお前を、他でもないお前が貶めるのか?」

あくまで少年は淡々と言った。

「ぶつからなかったら伝わらないこともある。…………俺が言えるのはこれだけだ。後は自分で考えろ」

それだけだった。

それだけ言って、キリトは再びバギーのエンジンを吹かし、砂漠を走っていった。

―――そっか。

ズンン……!と。

夜気が細かく揺れた。

例の《咆哮》ではない。明確な、敵対の意が宿った一撃の余波の端っこが、世界そのものを殴った音だ。

だが、それすらまったく感知せず、少女は思う。

―――ボク、行っていいんだ。

あの小さな背中に並べずとも。

あの小さな背中を守るだけの力を持っていなくとも。

それでも、助けに行けないという理由にはならない。

得体の知れない力が、四肢に宿る。

悩むな。

振り返るな。

前を向け。

メキィ!という凄まじい音が炸裂した。少女の足裏が、岩山の赤茶けた岩盤に《足跡》をつけた音だった。

「確か、キリトがピンチの時にアスナがありえない速さで駆け付けたって聞いたなー」

最初は疑ってたけれど、今なら胸を張って信じるだろう。

今の自分なら、何でもできる。できる気がする。

「よぉ~~~~~いぃ」

四肢が。

身体が。

「ドンッッ!!!」

躍動する。 
 

 
後書き
なべさん「はい、始まりました!そーどあーとがき☆おんらいん!!」
レン「とうとう……来たか」
なべさん「はいです。正真正銘、真正面から真正直に完全で不完全な《災禍の鎧MkⅡ》でやんす」
レン「文中でディティールの説明してるけど、アクセルワールドのほうも読み込んでいる人には挿絵もあって想像つきやすいかな」
なべさん「AWの方ではやたらデカく見えてたけど、こちらではそもそもが開けたフィールドで縮尺の関係でちっちゃく見えちゃうんだよね。そこが残念」
レン「改造すればいいんじゃない。ウルト○マンクラスに」
なべさん「それだとゴジ○になるでしょーが」
レン「もう半分なってるような……」
なべさん「はい、自作キャラ、感想などを送ってきてくださいね!悩みから吹っ切れたユウキはどう活躍するのかお楽しみに……!」
――To be continued―― 
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