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大地はそこに

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4部分:第四章


第四章

「この人達と。お話してみますか?」
「あの、言葉は」
 夫はまずそのことを尋ねた。
「通じますか?」
「私が通訳できます」
 ガイドさんは落ち着いた声で話した。
「ですから。ご安心下さい」
「そうですか。それでしたら」
「御願いできますか?」
 夫だけでなく妻もここで尋ねた。
「それでは」
「それが仕事ですから」
 それでいいというのだった。
「ですから」
「それでは御願いします」
「それなら」
 夫婦も彼の言葉を受けて納得した顔で頷いた。そうしてだった。
 話は決まった。そう見るとだ。
 ガイドさんはだ。二人に対して今度はこんなことを言ってきた。
「それでは。場所を変えますか」
「場所をですか」
「ここではお話しないんですか」
「はい、場所は」
 ガイドさんはまた言葉を変えた。あのアボリジニアンの言葉でそのアボリジニアン達と話す。そうして少し話をしてからだった。
 あらためてだ。二人に顔を戻してこう話すのだった。
「外でどうでしょうか」
「洞窟の外で、ですか」
「お話をしたいと」
「美味しいものをご馳走したいとのことです」
 それでだ。外に出るというのである。
「ですから。どうでしょうか」
「美味しいものですか」
「アボリジニアンの食べ物ですか」
「そうです。食べ物です」
 料理とは言わない。食べ物であった。だが、だ。
 食べ物と聞いて二人は少し表情を晴れやかなものにさせた。それまで異文化に触れていぶかしんでいた顔がだ。そうなった。
 そのうえでだ。ガイドさんに対してこう述べた。
「それでは。その食べ物を」
「ご馳走させて下さい」
「甘いですよ。ですが」
「ですが?」
「ですが、ですか」
「驚かれると思います」
 それがあるというのだ。甘さと共にだ。ガイドさんは笑いながら話すのだった。
「きっとです」
「アボリジニアンの食べ物にですか」
「私達が驚くんですね」
「きっと。そうなりますね」
 ガイドさんはだ。実に楽しそうに話す。それはさながら悪戯を仕込んでいる子供の様な。そうした楽しげなものであった。
 その笑顔でだ。二人に言うのだった。そうしてだ。
 三人はアボリジニアンの老人と共に洞窟を出た。この人が食べさせてくれるというのだ。
 それで四人で洞窟を出てだ。そうしてだった。
 荒野を暫く歩く。やがて。
 ある場所に辿り着いた。そこは。
 そこも荒野だった。赤い荒涼たる、砂漠に近い大地がある。周りも赤い。さながら西部劇の様なその場所に来たのだった。
 二人はだ。その周囲を見回しながらガイドさんに尋ねた。
「ここにその食べ物があるんですか?」
「ありますよ。ただ」
「ただ?」
「ただっていいますと」
「少し時間がかかります」
 ガイドさんはこう二人に話すのだった。
「待ってくれますか?」
「ええ、それは」
「いいですけれど」
 二人はあまり強くない言葉で答えた。
 
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