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結婚しろと

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第四章

「出来るだけな」
「離婚はですか」
「わしはしたことはないがあれは大変だ」
 離婚したその後が、というのだ。
「確かにイスラムでは汝を離婚を離婚すると三回言えばいいが」
「その離縁した妻を一生養わないといけない」
「結果として妻を四人以上持つことになる」
 それも抱くことが出来なくなった妻をだ。
「それは無駄なことだ」
「だからこそですね」
「離婚はするな、そもそも離婚するならだ」
「最初から結婚しない」
「そうあるべきだ」
「では四人の妻を迎え」
「公平に愛することだ、そして四人目の妻はだ」
 その立場の妻についてだ、カシムはことさら強くだった。アマムに忠告した。
「年をとってから迎えるべきでありだ」
「その相手はですか」
「自分と同じ位にしておけ、迎えるならな」
「その意味がどうもわかりませんが」
「その歳になればわかる、いや」
「いや?」
「世の中をよく見ていればわかるかもな」
 カシムは普段は滅多にわからない、いつも厳しい顔をしている。陰気ではないが峻厳な家長としてアブドール家を率いているのだ。
「そうすればな」
「世の中をですか」
「そうすれば御前の若さでもわかるかも知れない」
「そうなのですか」
「そうだ、ではな」
「はい、まずはですね」
「最初の妻を迎えろ」
 緊張を乗り越えて、というのだ。
「いいな」
「わかりました」
 アマムはカシムの言葉に頷いた、そしてだった。
 まずは最初の妻を迎えた、初夜の時にヴェールを脱いだ妻は整った顔立ちのまさに深窓の令嬢といったもので彼の好みの一つだった。しかも性格も穏やかで気品に満ちていて。
 彼はいい妻を迎えたとアッラーに感謝した、しかし彼は女遊びが好きで尚且つムスリムなので妻を四人まで迎えてもよかった、それでだった。
 結婚して翌年にだ、立て続けにだった。
 これまで相手としていた二人の美女を妻に迎えた、こうしてすぐに三人の妻を持った。彼はそのうえでだった。
 三人の妻達を公平に愛する様にした、だが。
 その妻達がだ、何とだった。
 互いに仲が悪く家の中で顔を見合わせると言い合いばかりした。三人それぞれで使用人達を抱えていて派閥まで作っていた。
 使用人達までお互いに仲が悪かった、最初の妻だけでなく二人目の妻も三人目の妻も性格は至って温厚である筈だが。
 三人が三人共だ、お互いにはだった。
 寝ている猫が猛虎になってだった、お互いに言い合った。時にはヒステリックな殴り合い引っ掻き合いにすらなった。 
 使用人達にすら怒らない彼女達がだ、これにはアマムも驚いてかつ困惑した。それで祖父にこのことで相談した。
 するとカシムは笑ってだ、彼に言った。
「ははは、そうだろうな」
「そうだろうとは」
「当然のことだ」
 彼の妻達がお互いに喧嘩をすることはというのだ。
「それはな」
「あの、しかし」
「御前の細君達はか」
「三人共至って温厚で」
「普段はか」
「ヴェールの中でいつも微笑み誰にも怒ったりしません」
 そうだというのだ。 
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