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結婚しろと

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第一章

                 結婚しろと 
 アマム=アル=アブドールはサウジアラビアの富豪の家に生まれ何不自由ない生活を送っている。仕事は家が経営している企業の重役だ。若いが一族経営なのでそうした仕事に就いている。
 独身であり女性関係も結構派手だ、顔立ちもよく優雅な趣味も多く持っているので遊ぶ相手も寄って来る。
 二十四歳とまだ若いのでこれからも暫く遊ぶつもりだった、だが。
 祖父のカシムにだ、ある日いきなりこう言われた。
「結婚しろ」
 単刀直入にだ、呼び出さてこう命じられたのだ。
「いいな」
「いきなり、なんですが」
「いきなりでもだ」 
 有無を言わせない口調だった。
「わかったな」
「ですが私は」
「何だ?」
「まだ二十四ですが」
「丁度いい年齢だな」
 祖父は孫の言葉に平然として返した。
「私が結婚したのはもっと早かったがな」
「ですがそれでも」
「いいか、結婚はしないといけない」
 それは絶対にというのだ。
「家と家の結婚でだ、それにだ」
「結婚してですね」
「子供を作れ」
 こうもだ、カシムはアマムに言った。
「わかったな」
「ですがお祖父様」
 アマムは祖父に眉をこれ以上はないまでに顰めさせて返した。
「私はまだ」
「結婚する気はないのか」
「はい」 
 こう言うのだった。
「あと数年は」
「だから言っているだろう、わしは御前の歳にはな」
「もう結婚されていて」
「子供が出来て二人目の妻を迎えていた」
 イスラムは妻を四人まで持つことが出来る、それでカシムもそうしたのだ。今ではコーランの教え通り四人の妻を持っていて子供は九人、孫は三十人いてアマムはそのうちの一人なのだ。
「だから御前もだ」
「妻を、ですか」
「人は結婚せねばならない」
 絶対にという口調での言葉だった。
「そして子供を作らないとならないのだ」
「それで私もですか」
「結婚するのだ」
「若し断れば」
「その時はわしも容赦しない」
 カシムはその年老いているが鋭い光を放つ目をさらに鋭くさせて孫に返した。
「御前を左遷する」
「企業から」
「一族から追い出したりまではしないがな」
 流石に結婚をしないだけでだ、そこまではしないというのだ。
「しかしだ」
「それでもですか」
「結婚を断った時は覚悟することだ」
 それこそ容赦なく左遷するというのだ。
「閑職をな」
「今の仕事を気に入っていますが」
「ならわかるな」
「結婚を、ですか」
「そうだ、わかったな」
「断ることはですね」
「そういうことだ」
 こう言ったのだった、彼は孫に対して。事実上アマムに断る選択肢はなかった。彼にしても閑職は御免被るものであるからだ。
 それでだった、彼は嫌々にしてもだった。
 結婚を承諾した、だがその相手は。
「ラッサーム家ですか」
「あの家の令嬢だ」
 カシムは己の席に座ったまま己の前に立つ孫に告げた。
「あの家の家長と話をして決めた」
「ですが当家とあの家は」
「長い間な」
「それこそ我が国が出来る前よりです」
「オスマン=トルコの下にいた時からだな」
「いがみ合ってきて」
「今もだな」
 とりあえず武力による衝突が少なくともサウジアラビアの中ではなくなったがだ。 
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