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普通だった少年の憑依&転移転生物語

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【ソードアート・オンライン】編
  114 見てみぬ振りのツケ


SIDE 《Teach》

(落ち着け、俺…っ! このデスゲームが開始してから沢山の人間が死んでいるだろう…っ)

現在地は《生命の碑》の前。無理矢理粟立つ心を抑えようとはするが、かたかた、とその(たかぶ)りのあまり震えている両腕両脚を見る限り、その感情──天を()きそうなほどの〝怒り〟を抑えきれているとは到底思えなかった。

端的に結果だけを述べるならシリカに宛がっていた護衛の──≪異界竜騎士団≫のメンバーが死んだ。……否、より正確に述べるなら、〝殺された〟。

《Kine(カイン)》と云う──いつもシリカをお姫様扱いし、その軟派な態度と、どこかで〝なりきり(ロールプレイング)〟を間違ったのか、その〝鬱陶しさ〟故にイジられキャラみたいにぞんざいに扱われていたプレイヤーだったが、決して悪い人間では無かった。

……≪DDD≫のムードメーカー──そう評してもいいヤツが殺されたので、カインと仲が良かった人物──リズを始めとして、≪DDD≫のメンバー意気は消沈している。……取り分け気を沈めているのはシリカである。

沸々と、湯水の様に湧いてくる激情に駈られないようにしながら一部始終を見ていたらしいシリカからの報告を纏めてみると以下の様になった。

・事の発端はシリカが40層にて、団員(メンバー)と〝素材集め〟をしている最中の事で、シリカの不注意でMobにピナ──シリカの使い魔が倒されてしまった。

・47層にあるダンジョン──【思い出の丘】で使い魔蘇生アイテムが手に入るのを知っていたシリカは単独(ソロ)ではギリギリ突破できるダンジョンだったので、丁度手の空いていたカインに護衛を頼んだ。

・使い魔蘇生アイテム──《プネウマの花》を無事ゲット出来たシリカとカインのパーティーだったが、帰りの道中で〝殺人者(レッド)〟の団体に襲われて、カインはどこからともなく飛んでくる麻痺ピックからシリカを護ったらしい。

・シリカはカインに転移結晶を使う様に言われて、そのままギルドの本部に帰ってきたとの事。

……そして駐在していたメンバー全員で、一縷(いちる)の望みに懸け《生命の碑》に来てみたが──と云うのが今までの顛末(てんまつ)である。

(やが)て黙祷も済み、〝カインが〝殺人者(レッド)に殺されたこと〟と〝事の顛末〟を簡潔纏めて、攻略等でここに居られなかった≪DDD≫のメンバーに周知しておく。

……態々(わざわざ)迷宮区から呼び出すような事はしない。薄情かもしれないが、何時だって──何処だって人は死んでいるのだ。……俺の所感でのカインの為人(ひととなり)からして、〝自分の死〟の所為で攻略が滞るのを良しとすることも無いだろう。

黙祷とメンバーへの〝カインの死〟の周知を終えた後、一旦シリカに向き直る。……シリカには幾つか訊きたい事があったからだ。

「……まずは訊いて良いか? ……どうしてシリカは《プネウマの花》を手にしてすぐに転移結晶を使わなかったんだ?」

「……それは前にユーノさんが転移結晶を悪戯(いたずら)に使った時、ティーチさんが凄く怒っていたので使えませんでした。……カインさんと一緒だったからダンジョンも楽にクリアー出来たのもありますし…」

(……俺の所為でもあるのか…)

「ティーチ兄ぃ…」

リーファからジト目が飛んできたので、それを甘んじて受け入れる。……カインが死亡した理由の一端は俺に関係しているのは間違いないからだ。……もちろん、一番悪いのは〝殺人者(レッド)〟なのだが…。

(……いや、待て待て。……そもそもの話で──どうして〝殺人者(レッド)〟はシリカが【思い出の丘】に行くのを知っていた…? ……いや、それよりも──〝なんでシリカが転移結晶を使う事を自粛(じしゅく)している〟と知っていた?)

シリカが使い魔を無くしているのは〝(グリーン)の皮を被った(レッド)〟に見付かったと云う可能性が一番濃い。

(……それはまぁ良しとしておく。いや、良くないが、後回しにするしか無い)

そして更に気になった事もある。……間違いなくレアアイテムに分類されるであろう〝使い魔蘇生アイテム〟。……《プネウマの花》をシリカが入手したら、直ぐに転移結晶を使う可能性の方が高かったはず。

……それが意味しているのはつまり…

(≪DDD(うち)≫に〝殺人者(レッド)〟の内通者が居る──か…)

「ユーノ」

「何、ティーチ君」

「……後で執務室に来てくれ。〝殺人者(レッド)〟ども──≪笑う棺桶(ラフィン・コフィン)≫どもを〝狩る〟算段を立てる」

「判った。……〝こんなマネ〟はこれ以上許していては攻略に専念出来ないしね──それに、これはボクたちへのツケだよね。……〝あんな奴ら〟をこのアインクラッドでのさばらせておいた事のね…」

俺の宣言にユーノはいつものほんわりとした雰囲気とは違った──怜悧(れいり)な印象を抱かされる声音の賛同と共に頷く。……周りの人物も──リーファやシリカですら頷いている。

(……ユーノは兎も角、アスナやリーファ達に〝人斬り〟なんてさせないけどな)

俺はそんな決意をしつつ──そんな決意とは反比例に、どうしょうも無い現実に打ちのめされるのだった。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「……で、わざわざ≪DDD(うち)≫の本部から貴重な転移結晶を使ってまで、ティーチ君は何がしたかったの?」

「……単刀直入に言う。……俺は≪DDD(うち)≫に〝羊の皮を被った狼〟が居ると思っている」
「……つまりティーチ君は“聞き耳”のスキルで盗聴されるのを恐れたという事? ……それとその〝狼〟さんが≪笑う棺桶(ラフィン・コフィン)≫に通じている可能性も考慮しているんだね」

ユーノの言葉に首肯でもって応える。さすがと云うべきか、俺の言いたかった事を──〝羊の皮を被った狼〟とな、(いささ)か迂遠気味にした比喩だったが、ユーノは直ぐに気付いてくれた。……それも註釈まで添えてくれたので話の手間が省ける。

「……ティーチ君からして〝白〟いのは?」

「……俺とユーノはもちろん間違いなく〝白〟と断定出来るとして、キリト、アスナ、エギル、リーファ、リズも〝白〟。そして〝灰色(グレー)にかなり近い白〟がシリカ。……後の後期加入メンバーは〝灰色(グレー)に近い白〟だな」

「……シリカも?」

シリカが入っているのを驚いたのか、ユーノは目を黒白とさせる。……確かにシリカは≪DDD(うち)≫のギルドでは最年少だが──シリカにも不審な点はあるので、〝限りなく灰色(グレー)に近い白〟として、一応の考慮しておく。

ちなみにリズとは──リズベットはアスナとユーノがスカウトしてきた鍛冶師で、≪DDD(うち)≫の〝縁の下の力持ち〟的な存在となっている。……寧ろ≪DDD(うち)≫の〝生命線〟とも云えるほどの存在となっている。

閑話休題。

「シリカの使い魔はどこで死んだ?」

「……確か40層って聞いてるけど──あれ? 40層なんて場所でシリカはミスしたっけ?」

「ああ。だからだよ。……もちろん──所謂(いわゆる)〝亜種〟が出たとかも考えられるが…。……その辺はシリカに後で聞いてみるよ」

俺の言葉で会話が止まり、その日は解散となった。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

後にシリカに使い魔の──ピナの死の顛末を訊いたところ、俺の推測通り〝亜種〟が出たからだそうだ。後から加入してきたメンバーを──云ったら悪いが〝お荷物〟を抱えていたら、他のメンバーよりいくらかシリカでも捌ききれなかったらしい。

(……その時のメンバーはラン、、ジンジャー、ダンケル、マスツグ──そしてシリカか…)

シリカにとっては怖いことを思い出させる様で酷な話だが、シリカに〝当時〟のメンバーを聞いたのは、そのメンバーの中に下手人が居ると取り敢えず推測している。

……ピナが死んで《プネウマの花》を取りに行くまでの期間は、少なくとも1日は有ったとシリカは語っていて──その1日の期間で〝殺人者(レッド)〟に連絡を回すのは難しくない考え、〝当時のメンバー〟ならより早くピナの死亡を知る事が出来たし──その計画について推考を重ねるのも難しくないと思ったからだ。

ちなみに≪異界竜騎士団≫──うちのギルドは基本的に〝攻略チーム〟〝採取チーム〟〝職人チーム〟の、チーム別になっていて、それぞれのチーム人数はまちまちだが、大体1つのチームに4~6人で、〝余った〟その場合は休日にしたりしてローテーションを回している。

閑話休題。

(……でも〝亜種〟が出てきて、ピナが死ぬくらい張り詰めている状態でそんな事出来るか…? ……いや、戻ってきて思いついた可能性もあるし…)

脳内で検証している次々とその推察の反論が出てきたので、取り敢えずこの推察は一旦保留しておく。

(……あー、面談して〝自分の目〟で確認するしか無いか…)

〝面倒事が増えたなぁ〟と嘆息しながら、面談の時にする質問を考えはじめるのだった。

SIDE END 
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