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時計と鎖のお話

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4部分:第四章


第四章

「いや、この時計と鎖は」
「如何でしょうか」
「価値があります」
 こうです。紳士に対して言うのでした。
「どちらも。まだ年季は入っていませんが」
「いいものですか」
「こちらで飾るに値します」 
 そうだというのです。
「充分にです」
「では。宜しいですか」
「はい、是非共こちらに置かさせて下さい」
 その人は自分から申し出ました。
「お金は出しますので」
「わかりました。それでは」
 こうしてです。そのうえで、です。
 時計と鎖は今度はその人に手に取られました。そうして次に来た場所は。
 背に壁があるガラスのケースの中でした。鎖はその中の壁にかけられ時計も吊るされます。周りには彼等のある場所の他にもウィンドウがあり彼等の他の時計や鎖もあります。そういった場所を見てです。 
 時計と鎖はです。ここが何処なのかお話するのでした。
「何か今までの場所と違うね」
「そうだね。何かね」
 彼等もそれはわかりました。
「どうした場所かな」
「僕たちの他にも色々な時計や鎖があるけれど」
「ここって一体」
「何処なのかな」
「博物館だよ」
 彼等の隣にいる大きな木製の、古そうな時計が彼等に言ってきました。その古い時計もウィンドウの中に入れられています。
「ここはね。博物館なんだ」
「博物館?」
「博物館って?」
「うん、大切なものが置かれてね」
 まずはです。そうした場所だというのです。
「それで色々な人達がそうしたものを見て勉強する場所なんだよ」
「それが博物館なんだ」
「そうなんだ」
「そうだよ。君達はそこに来たんだよ」
 彼等にです。こう説明するのでした。
「大切なものとしてね」
「僕達ってそうなのかな」
「大切なものなのかな」
「大切だよ。だってね」
「だって?」
「だってって?」
「いつも。誰かの為に働いているじゃないか」
 それでだというのです。時計も鎖も大切なものだというのです。
「鎖君はかけられて。何かを吊るすね」
「はい、時計君を」
 まずはです。鎖なのでした。鎖も古い時計の言葉に頷きます。
「いつもかけてもらって吊るしています」
「そうだね。そして懐中時計君はね」
「今度は僕ですね」
「そう、君はね」
 彼はです。どうかというのです。
「いつも皆に時間を見せていますね」
「はい、時計ですから」
 だからだと。彼は言いました。
「そうしています」
「そう、どちらも誰かの為に働いているね」
 そうしているということは。どうかというのです。
「それをしているから。大切なものなんだよ」
「だからですか」
「ここにですか」
「人間さん達は君達の外見がいいからここに入れたんだろうけれど」
 古い時計はです。それとは別にです。彼等の価値を見出してお話するのでした。
「違うんだよ。君達は誰かの為に働いているから大切なんだよ」
「僕は皆に時間を見せて」
「僕はその時計君を吊るして支えて」
「そうして働いているから価値があるんだよ」
 古い時計はこう彼等に話します。
「だから。ここにいるんだよ」
「そうなんですか。じゃあ僕達は」
「ここでずっと働いてですね」
「うん、そうするんだよ」
 古い時計は暖かい声で彼等に言いました。
「それがわかったね」
「はい、よく」
「わかりました」
 明るい声で応える時計と鎖でした。そうしてです。
 彼等はその博物館で何時までも一緒にいました。時計は時間を自分を見る人達に見せて、鎖はその時計を吊るして。そうして何時までも大切な仕事をしたのでした。


時計と鎖のお話   完


                 2011・3・6
 
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