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RSリベリオン・セイヴァ―

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第十一話「オー・シャンゼリゼ」

 
前書き
久しぶりの本編へ戻ります。蒼真と神無の話は、また次の機会に…… 

 
リベリオンズの各国の基地の大半は空中要塞が占めており、強いステルスレーダーの電磁波によって厳重に一般の目から隠されている。
また、ここリベリオンズ・パリ支部も同じであった。
「聞いたかね? 新たなIS男性操縦者が発見されたと?」
司令室にて、その話題となった新聞の表記事を見ながら中年の士官が、背後に立つ一人の若者に尋ねた。
「ええ……噂によれば、デュノア社の者と?」
青年は銀髪にスラリとした体形と共にかなりの美青年である。
「その通り……我々にしてみれば怪しいとしか言いようのない出来事だよ? そこで、君に新たな任務だ」
指令は、青年に一枚のファイルをさしだした。
「これは……確か?」
ファイルに挟まっている書類には、例のデュノア社の男性操縦者と思われる少年の写真が貼られている。
「ターゲットの名は、シャルル・デュノア。詳細は不明だが、噂によればデュノア社長の御子息らしい……」
「内容は、この御子息の抹殺ですか?」
「いいや? そこまで行かんが……君の主な任務は、ターゲットの監視と、その『正体』を暴くことだ」
「正体……?」
青年は首を傾げる。
「そうだ、何しろこのシャルル・デュノア少年は……『少女』なのかもしれんのだよ?」
「まさか……性別を偽って?」
「可能性は高い。もし、それが事実だとしたなら……?」
「デュノア社はお終い……と、いうことですか?」
青年が答えた。
「それもそうだが……それと同時に、あのデュノア社の実権を我がパリ支部の物にすることができる。デュノア社を操り、新型ISの詳細な情報を手に入れられることができるのさ?」
「……開始時間はいつごろに?」
「うむ、明朝の8時に日本へ飛び立ってくれ? 既に日本の裏政府とは話をつけてある。日本へ到着したのちに、IS学園へ向かうといい。もし、門番で足止めをくらった場合はこの偽造の学生証を見せるといい」
指令は、懐から取り出した偽造のIS学園の学生証を、青年に渡した。
「了解、これよりラルフ・ヴィンセクトは明日の明朝午前8時より日本のIS学園へ向かい、ターゲットのシャルル・デュノアの監視の任へつきます」
「健闘を祈る……」

日本IS学園にて、

凰との戦いを終えて一安心する一夏と狼達であったが、徐々に迫り来る期末試験によってテスト勉強を余儀なくされていた。何しろ、前回の中間試験で一夏含む狼達男子サイドは全員赤点ギリギリか、赤点ばかりの点数しか獲得できなかったため、夏休みに出てきて補習などという罰は避けるために必死に昼休みに学食で猛勉強をしていた。
「チックショー! 関数ってなんだよ!? 算数の引き算しかできねぇ俺にこんな数学なんていうハイレベルな問題出来るわきゃねーでろ!!」
太智は、髪をクシャクシャにかき回しながら、必死で鉛筆を握っている。
「俺も、正負の基礎問題しか思いだせないよ……」
清二も悪戦苦闘する。
「何だ清二? その……セーフってのは? 野球か何かか?」
「太智……今は勉強に集中しようぜ?」
静かに俺が注意する。
「あらあら? 男子全員が揃いも揃って何をしていますの?」
からかいに来たのか、セシリアが彼らの前へ歩み寄ってきた。
「一夏君、この公式なんだけどわかる……」
「清二さん、ここはですね……?」
「狼~! 5-7ってどうやんだ~!?」ウルウル……
「ああ……正負の計算ね?」
「だーかーらー! セーフってなんだよ!? 野球か!? 野球は俺の得意種目だ。絶対にアウトにはならねーぞ!?」イライラ……
「皆さん! 私の話を聞いておりますの!?」
すると、彼女の叫びで一旦男子らの視線が彼女に向いた。
「何だ、セシリアか……」
誰かと思ったらお前か? そんな退屈な顔をする一夏にセシリアはキレる。
「誰とは何ですの!? このイギリスの代表……」
「その台詞は、耳にタコが出来るくらい聞いたよ! テメ―の自慢なら他を当たりな?」
逆切れして太智が怒鳴った。
「あれ? そういえば……セシリアさんって、狼と試合した後に本国へ呼び出されて候補選手権で保留処分にされちゃったんじゃないの?」
と、清二が言うと俺もつられて、
「あ、そうだったな? そのあとどうなった? 保留処分」
さらに、俺につられて太智も、
「そうだったな? おいセシリア、オメェ保留処分を受けたんだってな?」
「み、皆……!」
一夏が止めるがもう遅い。ちなみに、俺と清二、太智、そして蒼真さんの四人は口が軽く、尚且つ空気の読めない性格であり、この連中だけには天才科学者の魁人さえも頭が上がらないだとか?
「え、ええ! 保留処分を受けましたわよ? けど、優秀な人材を失いたくないがためにイギリスは、私の処分を期間内だけに留めてくださいましたわ!?」
一様、彼女が当初発した言葉は、後に国際問題に触れていたが、それでもギリギリ候補権を取り消されることは免れたそうだ。
「ヨカッタネー」
「ソウダネー」
「チッ……」
しかし、俺たち三人に棒読みと舌打ちで返されてしまい、セシリアはさらに相手にされなくなる。
「あ、貴方達……!」
堪忍袋の緒がはち切れそうな彼女だが、そこで一夏がこう言う。
「まーまー? 落ち着けよ、セシリアだって例の件で狼さんに助けてもらっただろ?」
そう一夏は、彼女に凰戦との後に乱入してきた無人機で、彼女を庇ってダメージを受けた狼のことを話した。
「あ、あんな攻撃……私でも余裕でかわせましたわ!?」
「どうだか? あの後、半泣きしてたくせに?」
と、鼻で笑う太智。
「何ですって~!?」
「ああ! もう!! 静かにしてくれぇー!?」
俺の悲鳴が、学食に広がった。
猛勉強は結局、無駄に終わり俺たちは一問も式を解くことができなかった。

「……で? どこがわからないんですか?」
俺は、その日の放課後に寮でわからない難題を弥生に教えてもらっていた。
「えーっと……ここなんだけど?」
「あ、これはね?」
弥生の説明はとても丁寧でわかりやすく、こんな俺でも理解できて、今まで苦悩していた難題をすべて解くことができた。
「これで、数学は大丈夫ですか?」
「ありがとう! 天弓侍さんのおかげで助かったよ……」
「あ、私のことは弥生って呼んでいいですよ?」
「そんな……いいよ?」
今まで、女の子を下の名前で呼んだことなんてない。けど、いつまでもこのままなら、相手も堅苦しそうで逆に嫌なのかもしれない……
「じゃ、じゃあ……弥生さん?」
「弥生でいいですよ?」
「じゃあ、こっちも狼って呼んでいいよ?」
「え、よろしいんですか?」
「うん、好きに呼んで?」
「では……狼君?」
「ああ、それでもいいよ?」
俺は、その後も彼女に問題を教えてもらった。どんなに時間がかかっても、弥生は丁寧に優しく教えてくれて、俺も徐々に問題のやり方を覚えていった。
とりあえず、苦手とする五教科は大方わかるようになり、そのあと勉強は終わって二人そろって休憩を取った。
「ふぅ~……これで、大丈夫ですか?」
「うん! ありがとう、弥生さん」
「弥生でいいのに?」
「でも、女の子の名前を呼び捨てで言うのは慣れてないから……」
「私達は、大切な仲間なんですから親しく呼び合ってもいいんですよ?」
「じゃ、じゃあ……弥生?」
「は、はい……」
なぜか、二人ともそろって顔を赤くしてしまう。このままだと間が持たないし、なんだか気まずくなってしまう……
「……あ、俺何か飲み物買ってくるよ! 何が良い?」
ふと思ったことを口にして、俺は彼女に何の飲み物がいいかを尋ねた。
「え、悪いですよ?」
「いいよ? 勉強教えてもらったお礼ってことで……」
「……じゃあ、お茶をお願いします」
「お茶ね? わかった」
俺は財布を取ると、すぐさま部屋を出て行った。
「はぁ……」
そして、部屋に出て深く深呼吸をする。初めて女の子を下の名前で呼び捨てにしたのは初めてであり、少し緊張してしまったのだ。今でも、俺の心臓はバグバグと激しく鳴り響いている。
――弥生、か……
しかし、深呼吸から時期に溜息へと変わった。
「でも……」
でも……彼女には既に婚約者がいると蒼真が言っていたことを思いだす。どうせ、彼女を好きになっても無駄な話だ。それに……弥生のような可愛い娘が、俺みたいなダメ男を好きになってくれるはずもない。
「……えっと、自販機か?」
気を取り直して、俺はそんな儚い考えを忘れて自販機へ向かった。寮の自販機は一つの階ごとに二台は必ず置いてある。便利といえば便利であるが、それでもハッキリ言えば税金の無駄遣いである。世の中、貧困に苦しむ人々が同じ国の中で生きているというのに、こうしてのうのうと豪勢な寮で暮らしているので、わずかながらも罪悪感を感じてしまう。
――政府は、ISに力を注ぎすぎだっつうの?
それは、日本だけではなく世界各国全てもISに力を入れている。表社会では、ISこそが国の象徴といっても過言ではない。ちなみに、裏社会の象徴はRSと聞いている。まるで、コインの裏と表のように、光をIS、影をRSと例えた様である。
「えーっと……自販機は、あった!」
一つの階は意外と広いが、それでも自販機を見つけるにはそんなに時間のかかることじゃない。
俺は、自販機へ歩み寄って一枚のカードを取り出して、それを自販機の箇所にかざしてジュースと緑茶の缶を購入した。IS学園の施設内であれば、このカードで大抵のものは手に入る仕組みになっている。さらに、生徒全員に月ごと一定の所持金が政府から与えられるため、学園内の外へ行ってクレジットカードにより買い物が堪能できるのだ。
大抵、現在の日本で一番税金によって問題視されているのはIS学園へかける金だろう?
「世知辛い世の中だね……」
と、俺は自販機から落ちてきた缶を拾い上げてそう呟いた。
「アンタにそれを言う資格なんてないわよ?」
「……?」
ふと、背後から掛けられた声に振り向くと、そこにはいつかの妹が立っていた。
「舞香?」
「気安く呼ばないでくれる? 糞兄貴」
「……糞でも、まだ俺のことを兄貴って呼んでくれるのか?」
逆に俺は、少しにこやかにして話した。
「何ニヤニヤしてんの? ほんっと気持ち悪……」
「何か用か?」
俺が尋ねた。
「アンタが居たからバカにしに来た……っていうんじゃダメなわけ?」
「ああ……どうせ、学食で勉強してたとこを見たんだろ?」
「嫌でも見るわよ?」
「そう、じゃ」
俺は、これ以上は構っていられないと彼女へ背を向けた。すると、舞香はそんな俺の態度が気に入らないのか、呼び止めてくる。
「ちょ、ちょっと! 待ちなさいよ!?」
「まだ何か用か?」
「この私に対して、別の言い方があるんじゃないの!?」
「どういう言い方だよ? 『代表候補生』にでもなったのか?」
セシリアみたく彼女も威張った態度を取るので、俺は少し呆れた。
「アタシはアンタなんかよりずっと優秀なのよ!? 勉強やスポーツも、どれを取るにもアンタにより遙かに劣らないわ!?」
「それじゃあ、イギリスや中国の代表候補生にも楽勝で勝てるんだろうな?」
「ッ……!?」
その言葉に舞香は黙った。中国の甲龍はともかく実際にイギリスの代表候補生と戦い、厳しい条件の中でもそれに打ち勝った。自慢で言うわけではない。ただ、俺にできたのなら、その俺を見下す彼女にもできるはずだと言いたいのだ。
「あんなの、単なるマグレよ! そうよ、運の強さに決まってる!!」
彼女は、どうしても俺がセシリアに実力で勝った事を認めたくなかったようだ。
「……そうか、それならそう思ってくれても構わないよ?」
「ええ、そうするわ? 『男』であるアンタが、イギリスの代表候補生に勝てるわけないものね? どうせ、相手のISにトラブルか何かがあったに違いないわ?」
「……いいえ、あの戦いは私の完敗で終わりましたのよ?」
「!?」
舞香が背後からの声に振り向くと、そこにはセシリアが仁王立ちして彼女と俺を見ていた。
「セシリア?」
俺が首を傾げるも、彼女は舞香にこう言う。
「あの戦いは、私の完敗でしたわよ? 貴女の御兄様は、最も厳しい条件の中でも最後まで諦めることなく私と戦い、そしてこの私を見事打倒しましたの」
「ど、どうして候補生のあなたが……!?」
やや、尊敬しているような目で舞香は信じられないと、セシリアに尋ねる。
「事実ですわ? 現にアリーナの放送でお分りになられたと思いますけど?」
「でも……コイツは!」
「舞香さん? 自分の御兄様を『コイツ』と、言ってはいけませんよ?」
と、セシリアは厳しい目と力強い口調で舞香に注意した。そんな彼女に舞香は引きさがり、機嫌を悪くしながら速足でこの場から立ち去った。
「……セシリア、悪いな?」
フォローしてくれたのはありがたいが、でも何故彼女がそのようなことをしてくれたのか?
「か、勘違いしないで下さる!? 一様……フェアーじゃない試合状況の中で、私に勝った事は奇跡としても、一様実力として認めるわけでして……それに、あの時貴方に助けてもらったこともありましたし、借りを返そうかと……」
なにやら、顔を赤くして彼女は恥ずかしがっていた。
「そうか……まぁ、一様ありがとな?」
それだけ言うと、俺は彼女に背を向けて部屋へ戻った。しかし、俺の発したそんな一言がセシリアの耳に印象深く残っている。彼女は、ふと目を見開いたまま顔を赤くしながら俺の後ろ姿を見続けた。
「……」
――何ですの? たかが、狼さん何かにドキドキして……
一瞬、彼の姿が素敵に見えたが、気のせいだと彼女はそう自分に言い聞かせる。

「やれやれ……せっかく、学園へ来たっていうのに早々喧嘩になっちゃったよ?」
ようやくIS学園の正門前へたどり着いたというのに、女性の門番に早々捕まり、学生所を見せても信じてもらえないから、上層部へ連絡させるよう頼んでも、門番は男だからと個人的な嫌がらせで連絡してくれないし、仕方がないので後頭部へ改造スタンガンを食らわせて失神させてもらった。
その間にメモリー消去装置を使って先ほどの接触時の記憶を消させてもらい、彼女を担いで適当に居眠りでもしていたという記憶を埋め込ませておいた。
「強引なのは嫌いだけど、別にいっか?」
ラルフは、そう呟いて気を取り直し正門を潜っていった。
「えっと……時間は?」
腕時計に目を通して現時刻を確かめる。今の時間はもうすぐ九時頃、ちょうどホームルームが始まるときか? ……え!? 九時!?
「今日、転校生が来るって言うから……げ! じゃあもうすぐじゃん!?」
任務の内容では、自分はもう一人の転校生として一年一組へ向かう予定であるが、時差ボケとかで途中仮眠をとってしまったために時間にロスが出てしまった。
彼は、慌てて敷地内を駆け走って校舎へと急ごうとする。
――ああもう! 俺としたことが、どうしていつも要領が悪いのかな!?
自分の短所を恨みながら、彼は息を切らして噴水とホログラムが映る正面玄関へ向かおうとする。
しかし、そんな彼の背後から呼びかける何者かの声がした。
「待ちなさい!?」
「え……!?」
振り返ると、そこには数人の女性警備員が追いかけてくる。
「先ほど門番の者が気絶していましたが……彼女に何をしたんですか!?」
運悪く見られていたのか? ラルフは深々とため息をつくと、人が変わったかのような表情へと豹変すると、彼女たちをにらみつけた。
「チッ……見られちまったか?」
「投降しなさい!」
そんな彼の変わり様に警戒した警備員らは一斉にISを展開かせて彼へ警棒を向ける。
「あーあー……こっちたぁ急いでるのに、僕の邪魔すんなら……」
刹那、警備員が纏うISの一体が突然強制解除された。解除された機体のパイロットの腹部へラルフが自らのRSで打撃を与えたのだ。それも、一瞬の合間にである。
「殺しちゃうよ?」
傍で倒れて苦しみだす同機を目に警備員らは動揺し、一斉がラルフを見た。
「い、一瞬の間に……!?」
「生身でISを倒したというの!?」
「へぇ~……表じゃ、RSはISってことになってんだ? ちょっとイメージ難しいけど、それでも怪しまれないだけいいか?」
どうせ、男性専用ISとかいう理由だろう。
「まさか……コイツ、男性操縦者!?」
「あ、ありえない……これ以上、『男』がISを動かせるなんてこと!」
しかし、ラルフはそんな混乱する警備員らの動揺の間も許さずに突っ込んでくる。
「そいつはどうも!!」
そして、「女」数名による甲高い悲鳴が施設内に響いたが、幸いこの場を目撃していた者は一人もいなかった。

「……!?」
教室の席に座る太智は、急に背筋を振るわせた。
「どうした?」
そんな彼に清二が尋ねる。
「な、何だか……どこからか妙な殺意を感じる」
「よしてくれよ? お前の良からぬ予言は大抵コトダマになって戻ってくるんだから……」
そう、苦笑いしながら清二が言うと、彼の隣に立つ俺は何やら空耳のようなものを聴覚が感じ取った。
「……?」
「狼もどうしたんだ?」
清二が俺に聞く。
「いや……なんだか、空耳っぽいようなモンが聞こえてさ?」
「空耳? どういう?」
暇つぶしに太智が尋ねた。
「なんか……女の悲鳴みたいな? それも複数」
「更衣室にデカいゴキブリでも出たか?」
適当な予想を呟きながら机に頬をくっつける太智は、眠たそうな半目をしていた。彼は空耳よりも先ほど感じた殺意とやらに気を取られている。
「その程度で済めばいいんだけど……」
何せ、ここはIS学園。簡単に言えば若干15,6の少女たちが戦車や戦闘機並みの重火器を手軽に取り扱うような学校だ。どこかのバカな女子が、害虫に驚いてISを展開し、それに搭載された重火器で駆除しようとかいう大それたことをするかもしれないのだ。
「ホームルームを始める! 席につけ!?」
そこで、千冬が登場して周囲で雑談をしていた生徒たちは一斉に席についた。
「ケッ……千冬公だ」
太智は嫌な目をして千冬を見て呟いた。
「今日は、皆さんに転校生を紹介しますね?」
千冬に続いて真耶が入ってきた。彼女は相変わらず笑顔で眩しい。
「山田先生、今日も可愛いな……?」
清二は、誰にでも優しく接してくれる山田先生の笑顔に見とれていた。
「それでは、入ってきてください?」
真耶の声に教室から一人の小柄な生徒が入ってきた。金髪を束ねた……男子生徒である。
「転校生のシャルル・デュノアです!」
まるで少女と一瞬間違われるかのような美少年であり、クラス一斉は千冬初登場時と同様の黄色い歓声を広げた。
「キャー! カッコいい!!」
「守ってあげたい系!?」
「で、でも……私には織斑君が……!」
「狼さんよりもカッコいい!」
「あんなの論外よ!」
歓声と共に、俺の低評も混じっている……しかし、話によればこのシャルル・デュノアという奴は男子じゃないか? つまり……一夏以外にも男性操縦者が居たというのことだ。
「……」
しかし、そんな俺の感心な表情とは違って、太智は何やら険しい表情をさせた。
「どうした? 太智」
俺が、険しい目つきでシャルルを見る彼に尋ねた。
「いや……何だか、胡散臭そうに思えてな?」
「胡散臭く?」
「感だよ、感……」
「ふぅん……」
太智の感は結構当たるといわれているが、別に俺はそんなことは気に掛けることなく物珍しさにシャルル・デュノアという二人目の男性操縦者を宥めて。
ホームルームは終わり、早々に一時間目のIS実技講習が始まる。しかし……
「シャルル君! 今日のペア一緒に組まない!?」
「シャルル君は私と組むんだよね!?」
更衣室へ向かう早々に、シャルルは女子たちに囲まれて動けずにいる。まるで、アイドル男子がファンの女子たちに囲まれて路上の通行の妨げになるかのように……
「はいはい、道を開けて?」
「みんなも、急がないと授業に遅れちゃうよ?」
「っせーな! とっとと失せろや!!」
「シャルルが通れないだろ?」
俺たちは、そんなアイドルのガードマンのように彼の周囲になって道を開けていく。一様、男子というなら同じ同類として助けてやらないとという一夏の発言でこうなった。
しかし、俺たちは集中的に非難を浴びて通行は今も困難だ……
「……太智、可哀相だけどあれを出したら?」
すると、清二の発言に太智は淵ポケットから手のひらサイズの瓶取り出して、それを女子たちに見せつける。
「静まれ! 静まれー!! このゴキブリ瓶が目に入らぬか!?」
その瓶には、太智が女子共へ悪戯すべく学園の敷地ないからかき集めた巨大なゴキブリが、カサカサと音を立てて大量に瓶の中へ押し詰められていた。
廊下は女子たちの巨大な悲鳴と共に周囲は途端に逃げ出してガランとなった。
「へへっ! コイツはいい効果だ」
そういうと、太智はそっと瓶を大事そうに懐へしまい込む。
「な、な、何なのそれ!?」
しかし、シャルルは顔を真っ青にして瓶に指をさした。
「ああ、これかい? ゴキブリの入った対女子用兵器の一つだ。ほかにもムカデやカメムシの入った瓶も入って、種類は豊富だぞ?」
自慢げに説明する太智だが、シャルルはそんな瓶と聞いて一瞬目まいが起きそうになる。
「よし、とりあえず行こうか?」
嵐は去ったし、これで落ち着いて廊下を歩けると一夏はホッとした。
その後、更衣室へ連れてきた早々にシャルルは何やらソワソワしている。
「どうしたんだ?」
太智は、そんなシャルルを変な目で見た。
「ちょ、ちょっとね……」
何やら顔を赤くしている。何かあったのだろうか……
「……ごめん、ちょっと僕シャイな性質だから……あっちとか、向いててくれるかな?」
おそらく、彼の家庭は裕福ゆえにこれまで過保護な生活をうけていたのだろう。だから、他の男性と着替えた試しは一度もないのだと思う。
――とんだ、お坊ちゃまだぜ……
静かに太智は溜息をついた。
「なら、仕方ないね? 皆一旦外へ出ようか」
一夏がそう言うと。俺たちは彼が着替え終えるまで外で待ち続けた。
「ああいう子とか居るんだね?」
世の中、変わったものがいるようだと清二は納得した。
「ただ単に、過保護な生活をしてきただけだろ?」
と、気に入らないような顔で太智が言う。
「何だ太智、お前あの子が苦手なのか?」
先ほどから、太智は何やら不機嫌な表情を取っていることに清二が気付いた。
「いや……さっきから何だか女々しいような仕草が目立つからな、何となく怪しいんだ?」
「そういうもんか……?」
俺は、あんまり違和感は無いように思える。というよりもただ無意識に接しているだけかもしれない。
「それに、近頃はフランスのデュノア社が怪しいっていう噂が海外の仲間から聞いた。苗字が被るし、ひょっとしたらあのシャルルって……」
「終わったよ?」
と、太智が言い終える前にシャルルが更衣室からISのピチピチタイツを着て出てきた。
「ああ、着終わったか? それじゃあついて来いよ?」
俺たちは、シャルルをアリーナまで案内する。
「うわぁ~! すごーい!!」
人工島の中にこのような大型アリーナがあるとは実にスケールがでかい。現に俺も初めて見た時は驚いたものだ。今見ても``無駄``に立派なものだと呆れてしまう。
「あれが第三アリーナ、主にISの実技や模擬戦を行ったりする場所さ?」
そう、清二が解説しながらシャルルの隣を歩いている。彼の柔らかな口調の説明で心を落ち着かせるシャルルは、彼に様々な質問をしてくる。
清二は、性格的に温厚な部分もあるからIS学園の女子たちが俺たち男性の中で気軽に話しやすい相手と言ったら彼しかいない。優し気な口調の他にも、その大柄で太った体系から女子たちから「大きなクマさん」というあだ名で親しまれている。
「ところで……皆は着替えないの?」
シャルルは、自分だけパイロットスーツを着ているというのに周囲の男性らは皆黒い制服? を着たままである。
「ああ、俺たちのISは従来と違った形をしているから別に着替える必要はないんだよ?」
と、清二が答えた。
「へぇ……便利だね? あのタイツみたいなスーツ、すごいキツイから着替えるのにも一苦労なんだ」
シャルルは、未だ慣れないこのタイツ状のスーツを身て顔を赤くした。
「はは……確かにそうだね?」
清二が苦笑いする一方で、太智は嫌そうな目でシャルルのスーツを見下ろした。
――冗談じゃねぇ! あんなピチピチタイツなんか着てられっか!!
そう思いつつ、彼はシャルルの身形を睨みつけた。

「それでは、各自ISを展開しろ!」
千冬の号令に生徒たちはISを展開するよう強く念じ始める。しかし、一同は数分も遅れて展開に戸惑っていた。あの、セシリアでさえも展開に踏ん張りながら数十秒かけてブルーティアーズを纏う。
「遅いぞ! 何をもたついている!?」
千冬が怒鳴っている一方、俺たちは一瞬で展開する。RSは、ISと比べて展開に念じるなり何なりする必要性はない。必要となれば「普通」に展開できる。
「お、シャルルも展開早いな?」
一夏は、自分たち同様に展開を早く行えたシャルルに感心していた。
「えへへ……まぁね?」
「各自、展開し終えたならそれぞれペアを組んで模擬戦へ移れ!」
次なる千冬の指示によって女子たちはそれぞれペアを選び始めるが……その前に女子全員が一斉にシャルルを囲って、彼へ手を指し伸ばした。
「「シャルル君! 私たちとペアを組まない?」」
「え、えっ!?」
しかし、シャルルは驚いて動揺。そのとき、ふと誰かの手がグイッとシャルルの手を掴んだ。
「ねー、僕とペアを組もうよ?」
「え?」
シャルルの目前には、謎の美青年が笑みを浮かべて立っている。しかし、突然の彼の登場によって周囲は騒めき始めた。
しかし、服装が妙だった。ジャケットにショルダーアーマーと肘、膝にプロテクターを付けた、まるでコスプレのような身形である。
「誰だろ? あの人……」
「あの格好、コスプレ?」
「うわぁ~ 凄くカッコいい!」
「そこ、何をしている!? ……ん?」
千冬が先ほどから騒めいている塊の中を見ると、そこには見知らぬ青年がシャルルの手を掴んでいるところを見た。
「おい、何者だ?」
「……?」
振り向く青年の前には、険しい顔でこちらを見る一人の女性が仁王立ちしている。
「酷いなぁ? 本日付でこちらへ来ることになった転校生ですよ?」
「転校? ああ……しかし、何故一時間以上も遅れた?」
ホームルームには、シャルルしか来ておらず、もう一人来る予定だった男子生徒は現れなかった。
「はぁ……途中途中で警備員の人たちに足止めされまして、信じてくれるのに大変時間が掛りましたよ? 連絡するよう頼んでも聞いてくれませんので」
ニタニタと事情を説明する青年に千冬は溜息をついて頷いた。
「……わかった。後で厳しく注意しておく、では……早速だが、自己紹介でもしておけ」
と、千冬は言うことだけのことを言って彼の詳しいことは生徒達に何も説明しなかった。
――やれやれ、あれでも教師かね? まるで軍人だよ……
千冬を、必要最低限の行動と物しか言わない冷徹な軍人のように青年は捉えた。
しかし、彼は気を取り直しすと笑顔で生徒達に向かって自己紹介を行った。
「初めまして、シャルル君と同じフランスから来たラルフ・ヴィンセクトといいます。よろしくね?」
その、王子様スマイルに女子生徒はシャルル登場時同様の歓声を上げた。
「カッコいい! 超イケメン~!!」
「リアル王子様~!」
――ああ……メス豚共がヴヒヴヒうるせぇ~
作り笑いの裏側には、そういう黒い感想を抱いて、彼は再びシャルルを見た。
「やぁ? 君がシャルル・デュノア君かい? 僕と同じ男性操縦者なんだね? ま、同じフランス人同士だから、仲良くやろうよ……」
そう、ニッコリと笑みを浮かべてラルフはシャルルへ手を指しのばした。握手だ。
「ど、どうも……こちらこそよろしく?」
しかし、シャルルはラルフを見た途端に妙な胸騒ぎが起こり、控えめな表情をして彼の手を握った。
「何だ? アイツ……」
俺は急に現れたイケメン野郎に親指を向けた。
「彼は、フランスの『筆頭RS』の一人で……確か、ラルフ・ヴィンセクトというメンバーだよ」
と、清二が詳しく説明する。
「筆頭RS?」
しかし、初耳の用語もあるため俺は首を傾げた。
「うん……俺たちみたいな従来のRS装着者よりも格段に強い、エリート部隊ってやつさ?」
「エリートね……?」
正直、あまり好きじゃない用語だ。自尊心が高く、俺のような人間を見下しては笑う嫌な奴っていうイメージが強い。
「ま、エリートといっても表向きはそう言われているだけであって、影じゃあ裏政府の要人共から色々とヤバいことさせられてんだと? ああ見えて、俺たち以上の苦労人なんだぜ?」
「そうなのか?」
話に割りこんできた太智へ、俺が振り向いた。
「そうそう、前なんかロシアのISのエース五人を暗殺したって噂さ? 国じゃ公表していないにせよ、裏じゃ有望なIS使いが次々に奴らの手によって殺されているんだと?」
清二も太智同様に言いだす。
「じゃあ……そんな凄いのがシャルルに照準を合わせたってことは……」
一夏も、その話題の中に入っていた。そして、ヤバそうだといわんばかりの顔でシャルルを見る。
「ああ……コイツは臭うぜ?」
と、太智は眉間にシワを寄せる。

「お互い、最初は手加減なしでやり合おうよ? いいでしょ?」
平然とした口調で対戦ペアのシャルルへそう述べるラリフ。そんなラルフにシャルルは戸惑う顔をするも、ラルフに関する胸騒ぎが気のせいだと己に言い聞かせて、静かに頷いた。
「じゃあ……」
ラルフは、静かに片手を広げ、掌を地面へ向けて伸ばした。その掌からは光の陣が浮かび上がり、陣から粒子を放ちながら黄金に輝く双剣が現れた。その剣を展開した掌でガシッと掴むと、万弁の笑顔を浮かべた。
「……いくよぉ!?」
「ッ!?」
シャルルが気付いたころには、ラルフは既に自分の間合いへと近づくと双剣を両手に軽く振りまわした。
「くぅ……!」
しかし、それもつかの間にシャルルはバックステップでギリギリに避けた。
「へぇ? やるね……か弱そうな表情してたから、ちょっと小手調べをやったんだけど……まぁ、その様子じゃ、問題ないよね!?」
笑みを絶やさず、ラルフは己のRS、「ランスロット」を両手に握りしめ再びシャルルの元へ突っ込んでくる。シャルルは、アサルトライフルを構える余裕すらなく彼の猛攻をくらった。
「オラオラァ!!」
何重にも見えるかのように双剣を乱れ突くラルフの猛攻は周囲の目を丸くさせた。
「お、おい……あんなマンガみたいな攻撃、RSにできたのか!?」
俺は、そう清二に囁いた。
「鍛錬を続ければ出来るとは聞いたけど……」
と、清二。
「やろうと思えば、俺たちにもできるかもしれないが……だが、かなりの負担と疲労がかかるぞ?」
より詳しく太智が解説する。それを聞いて、俺は呆然とあのラルフという色男を見ていた。
「じゃあ……アイツは、そんな条件を覚悟でやってんのか? でも、笑ってんぞ!?」
笑いながら疲労や負担もそっちのけで猛攻を繰り広げるラルフは、俺たちから見て普通ではなかった。
「な、何なの……!?」
無論、シャルルから見てISがこのような動作を取ることはできない。もう、人間業ではないのだ。
「そこだぁ!」
ランスロットの猛攻に対し、防御することしか出来ないシャルル。そして、そんな彼の首をラルフの片手がガシッと掴んだ。
「オラァー!!」
そのまま、シャルルを地面へ叩き付けた。周囲に土煙が舞い上がって視界が一瞬塞がるが、煙が去った頃には、既にラルフがランスロットの先をシャルルの首筋に添えて抑え込んでいる光景があった。
シャルルが、彼とペア戦を始めてからわずか数十秒で起こった出来事だ。
――そこそこ訓練を積んでいるようだが、咄嗟の状況判断が遅いな? それと……
シャルルの弱点を分析し、そしてつまらなそうな目でラルフは彼女を見下ろし、もう一つ気付いた点を彼女に対して囁いた。
「女、か……」
その目は、まるで冷たく冷酷そのものを意味していた。
「ッ!?」
シャルルは、彼の発するその一言に目を見開いた。
「お前たち! 誰がそこまで暴れろと言った!?」
あまりにも激しい対戦ゆえに千冬が険しい表情で駆け寄ってくる。
「ラルフ、授業早々に何をやらかした?」
千冬が問う。
「いえ……少し、本気を出したまでですよ?」
ニヤリと笑むラルフは、何事にも動じずに千冬へと顔を向けた。そして、わずかにシャルルの方へ振り返ると、再びあの冷酷な視線を向ける。
「……」
その視線に、シャルルは謎の恐怖心に見舞われる。
――その柔肌と匂い、誤魔化そうとも無駄だ。大方、RSの情報を盗みにでも来たコソドロか? まぁ……しばらくの間は泳がせておくとするか。殺すのは、それから出も遅くはない。
ラルフの視線は、千冬へと戻った。

 
 

 
後書き
予告

突然現れた謎の美青年ラルフ・ヴィンセクト。見た目は少々ナルシだが、良い奴だし俺たちに凄く友好的だ。だが……それとは別に女子には冷血なほど冷たい。

次回
「貴公子、暴かれる」
 
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