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伝説のトレーナーと才色兼備のジムリーダーが行く全国周遊譚

作者:OTZ
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第三話 新天地ジョウト

―2月14日 午前4時 アクア号スイートルーム―

 旅を一緒にすることとなったエリカと船内で平穏に過ごしていたレッドだったがそんな所でドアを叩く人が現れる。
 そして乗客より祝賀会を開かれ丁度22時に終了した。
 しかし、元来宴会などと言う者があまり好きではない性分のレッドにとって、それは不機嫌にさせる原因にもなった。
 中途半端な時間に目覚めてしまったレッドは、今寝ると準備が忙しなくなると考えたので、起きるに至った。取りあえず何もつけないでいるのは暇なので、彼はエリカを起こさない程度の音量でテレビをつける。

「マチスジムリーダーが、ジムを理事長に突然破壊されたという訴えを起こし、それに対し理事長は折檻行為であると反発しました。その件について即時理事長を抜いての理事の間で会議が行われ、たった今その処分が決定致しました。中継です」

 アナウンサーの一声で、画面はポケモンリーグの記者会見場に切り替わる。
 全国ポケモンリーグ副理事長兼シンオウ地区理事長 シロナというテロップの右。そこには、黄色い髪をした、黒服の少しキツそうである顔の女性が写っていた。

「ワタル理事長についてですが、損傷部分はポケモンの光線によるマチスジムリーダーの身体やそれに連なる施設の一部破壊という甚大なものです。しかし、マチスジムリーダーのこれまでの暴言や理事長に対する礼を欠いた行動の数々。これらを鑑みると理事長の行為はリーグ法14条に定められている折檻行為の範疇と認められます。その為、今回の理事長の処分は折檻行為の代償として40%の7か月減俸処分としました」

 声こそ毅然そうに取り繕ってはいるが、全体的にどこか眠そうな様子である。
 折檻行為とは、リーグ法に定められている目上の者が目下の者に対しある程度の懲罰を認めるというもの。無論、この行為をした後は厳正にポケモンリーグの査察部によって調査され、適当かどうか判定が下る。折檻行為と認められたのは16件中この件含めて7件のみである。
 これが認められた場合は、大いに減刑がなされ、形式上の刑罰が下る。減俸の目安は損害額相当とされる。

「ご愁傷様」

 レッドはそのシーンをみてぽつりと呟いたのだった。

「うーん……」

 テレビの音に気づいたのかエリカがゆっくりと上体を上げる。
 彼女は疲れてしまっているのか、洋服のまま眠りについていた。

「起こしちまったか……」

 レッドはエリカを起こしたことに、少々申し訳なさを感じつつ言う。

「まだ眠いですけどテレビの音が聞こえたので……て、これシロナさんではありませんか」

 エリカが目をこすった後、テレビを見てその人物に気づくと声の調子を上げて言う。

「うん? 知り合いか?」

 知り合いを見たかとばかりの声だったので、彼はそう疑問を持つ。

「いえ。面識はありませんけど、単に知っていましたので」

 彼女は首を振りつつ返答した。

「ふーん……。見たところ、結構なお偉いさんっぽいけど、どんな人なの?」
「シンオウ地方のチャンピオンですわ。ポストワタルの声も聞こえるほどのやり手らしいですよ。働く女性の(かがみ)みたいな人です」

 彼は彼女の答えに対し

「チャンピオンということは俺もいつか刃を交える日が来るのか…胸が熱くなる! それはそうとまだ寝てていいぞ、到着までまだ2時間あるし」

 その時、インターホンが鳴り響いた。

「あら、こんな時間にどなたでしょう……。私が出ます」

 エリカは応対の為髪型を整えた後、ベットから立ち上がり玄関に向かう。
 彼女がドアを開けると十人ぐらいの少女が立っていた。

「どちら様でしょうか?」

 尋ねると、少女たちは快活な声を以て返答した。

「私たちはジョウトのキキョウガールスカウトです! あの、レッドさんにの為に皆で作ったバレンタインデーのチョコレートです!」

 と言って、少女らは水玉模様の包装紙に加え、赤を基調とした白の縦線も端にあるリボンが掛かった装飾の立方体の箱をエリカに手渡した。
 彼女は顎に手を遣って、僅かばかりの間を作った後

「そういえば本日は2月14日ですわね」

 エリカは思い出したかのように言った。起きたばかりであまり頭が回っていなかった様子である。

「はい!だからです」
「そう、わざわざありがとうございます」

 エリカは笑みを作って、軽くお辞儀をした。

「いえいえ。とんでもないです」

 リーダーと思しき先頭に立っている少女は、首を軽く横に振りながら答えた。処世術も身に着け始めているのだろうか。

「到着まであと一時間ばかりですわね。あなたがたも帰った方が宜しいのでは?」
「あ……そういえばそうですね。お気遣いありがとうございます! エリカさんも頑張ってくださいね! それでは」

 ガールスカウト達は少し慌てた調子で帰っていった。

「バレンタインデー。ですか……」

 エリカは少女たちが十二分に離れた後、何かを含んだ調子で呟やく。ドアを閉めレッドのところに向かう。
 部屋に戻ると、レッドは早速彼女に尋ねる。

「誰だった? なんか声の調子から女の子っぽかったけど……」

 レッドは少しばかり当を得ない様子である。

「キキョウガールスカウトらしいですよ。バレンタインデーのチョコをレッドさんにですって」

 それを聞くと、彼は目を丸くして

「そんな日だったのか! すっかり忘れてたなぁそんな事」

 驚きもしたが、それ以上にレッド当人にとってはチョコを貰うのは小学校以来の事であったため僥倖の限りの心境である。
 その後、二人は備え付けの丸テーブルの上に箱を置き、向かい合って座った。

「どれ、早速開けてみようか……」
「左様ですわね」

 という訳で、エリカは率先してリボンを解き、包み紙を丁寧に広げてみせた。
 その後、彼女はリボンを触りながら

「ベルベットのリボンとは……。年端もいかない子どもからの贈り物にしては、中々に上質なものを使いますわね」

 と静かに微笑んだ。

「は?」

 レッドにとっては聞き覚えのない単語なので思わず聞き返す。

「織物の一種です。古来より肌触りの良い物として重宝されてきたという歴史を持っておりますわ」

 エリカはリボンをレッドに手渡しながら手短に説明した。

「わ……。確かに触っていると心地良くなりそう」

 レッドは滑らかなその触感を楽しんでいる様子である。

「その感触から、滑らかに事が進む事の例えにも使われたりするのですが。ま、余計な話はともかく……」

 エリカはレッドに目配せする。

「ん? ああ、開けなきゃね」

 という訳でレッドは箱の上ぶたに手を遣って、開いた。
 中には手作りと思しきチョコレートが個包装で10個程入っている。ふちがいびつであったり、上に書いてある文字が歪んであったりと傍目からも手作りである事を物語っている。

「まあ、何とも子どもらしく、可愛らしい出来ですわね」

 エリカはそう言いながら、母親の如き笑みをうかべた。

「そうだな。さて、味はどうかな……」

 レッドは一つの包装を手に取って、包みを解いて食す。
 そうして舌鼓を打っていると、レッドはチョコには一切手をつけないエリカに気付く。
 不思議に思ったレッドは
 
「あれ、エリカ食べないの?」

 と尋ねた。それに対しエリカは少しばつの悪そうに

「私、洋菓子はあまり……」
「なるほど、らしいな」

 そう答えながらレッドは更に食べ進める。
 エリカは箱の中に入っていた一つの色紙に気づく。
 
「あら、寄せ書きみたいなものも入ってますよ」
「ほぅ」

 レッドは関心を示し、寄せ書きの一つ一つを黙読した。
 そうしていると、度々散見する『ハヤト』の名に気付く。

「ハヤトって誰?」
「キキョウシティのジムリーダーです。ジョウトでは高名な鳥使いで、伝書鳩コンテストであの人のピジョットが一位だった事もあるんですよ! 1番目のジムリーダーで初心者向けのリーダーとも言えますわ。飛行タイプに誇りを持っている心身深い人です」
「ふーん……キキョウはタウンマップで見る限り遠そうな所だから行くのはだいぶ先になりそうだね」

 レッドは軽く関心を示しながら答えた。

「そうですね。順当に行こうとすれば最初はやはりアザキシティの、ミカンさんが最初の御相手になるかと」
「ワタルの言っていたあの人か……どんな人なの?」

 レッドは珍しい鋼使いという事に興味を持っていた為、改めて尋ねる。

「全国最年少でジムリーダーになった人です。12歳という私より二歳若い年齢でジムリーダーとなり、最初は岩タイプでしたが今は鋼タイプというタイプに変えていますわね。私ともそれなりに親交がありますよ。御年の割りには礼儀正しく良い子です」
「ほぅよく知ってるねぇ」

 彼は先ほどからの彼女の博識ぶりに感心しきっている。

「ジョウトのジムリーダーの方々とは定例会でよく会いますからね。しかも合同研修も良くありますから互いのジムリーダーがよくお互いを知ってると思いますわよ」
「エリカなんかは有名そうだな。その才色兼備なところ、全国のリーダーの目標の一つになってもおかしくなさそう」
「まあ貴方ったら……。褒めても何も出ませんわよ」

 エリカは照れて赤くなった頬を手で押さえながら言った。

「いやー、冗談抜きでそう思う」

 実際、この感想は心の底からのものである。

「何故でしょう、他の方から同じような事を言われても心がそれ程高揚しないのに、どうして貴方に言われると……」

 エリカは言葉に詰らせた、というより、言うのを躊躇している様子だ。

「おいおい、その先はどうしたんだ?」

 レッドは分かっているにも関わらずいたずら半分にそう言う。

「……、貴方! あっ、そんな事よりも、もうジョウトが見えていますわよ!」

 エリカはレッドの言葉を無かった事にしようとしたのか、話を逸らす。
 なるほど、見計らったかのように窓の先には紀伊半島の西側が見えている。アサギ港まではもうそこまで距離は無い。
 レッドはずっこけたが、同調した。

「あれが俺とエリカの新天地だ!共に頑張ろう」
「はい、貴方!」

 エリカはしっかりと明瞭な声で答えた。

「……」

 あまりにも健康的な声だったので、レッドの心には邪心が芽生えだす。
 もう、事を起こすには頃合いではないのかと彼は思い始めている。

「貴方? どうされました?」

 黙してしまったレッドに違和感を覚えたのか、エリカは心配そうに尋ねる。
 レッドは少々黙したのちに、いやまだ早いなと思い直して

「いや、なんでもな……」

 と答えようとした時、野太い声が響く。

「レッドさーん!あと30分ほどでアサギにつきますのでそろそろ御支度を!」

 ノックをしたのち、船乗りと思われる人物が大声でそう言う。親切な個別アナウンスである。

「了解です!」
「準備を進めなくては。貴方、まずはベッドを直しましょう」

 という訳で、レッドとエリカは出立の支度を進めるのであった。

―午前4時50分―

 準備を済ませると、丁度船内にアナウンスが流れる。

『まもなく、アクア号はアサギシティへ到着致します。お忘れ物がございませんようご注意ください……』

「いよいよジョウトか」
「胸が躍りますわね! 着いたら早速ポケモンジムですか?」
「いや、まずは散策かな……」

 等と話しながら残りの10分をやり過ごす。

―アサギシティ
 
 カントーのクチバシティとは押しも押されぬ、こちらはジョウトの玄関口である。
 アサギ港は平清盛が原型となる大輪田泊を造ってから発展を続け、今や全国の港の中でも屈指の規模を誇る。
 名所にして150mの高さを誇るアザキの灯台はデンリュウが明かりを灯しており、ジムリーダーのミカンが様子を見に行ったりトレーナー達の鍛錬の場となっている。

―午前5時 アサギ港 波止場―

 部屋から出て、船からも降りると、いよいよレッドとエリカはジョウトの地を踏み締めた。

「ここが、ジョウトか」
「結構発展してますわね。改めて降り立ってみると何だかカントーとは違う空気ですわ」
「ま、とにかく先に行ってみよう」

 二人は桟橋を過ぎ、ターミナルにへと入る。

―アサギ港 総合ターミナル―

 ターミナルに入ると、ゴールドと若い割りに髪の量が些少の白衣の男がいた。
 
「あ、レッドさんにエリカさん!」

 二人が見えるのを心待ちにしていたのか、ゴールドは嬉しそうな声をあげて二人の下へ近づく。

「あぁ、あれが噂の……」

 ゴールドに連れられるように、ウツギも続いた。

「もしかしてウツギ博士ですか!?」

 エリカはその姿を見つけると、あたかも知り合いであるかのように驚きの声をあげた。

「そうだよ。知ってくれているみたいで嬉しいね」

 ウツギは青年らしく爽やかに笑って見せた。

「おい、エリカ誰だよ?」 
「今では常識となっているポケモンの卵を発見して、その理論を完成させたジョウト第一の博士ですよ」
「へぇ」

 レッドはそれとなく納得した表情を浮かべる。

「ハハハ、君たちの地方のオーキド博士にはとても敵わないよ。で、そのオーキド博士から伝言があって来たんだけど……」

――――――

「え、ポケモンを取り上げる!?」

 全てを聞き終えた後、レッドは目を丸くして答える。

「いや、なんだか変な話しでさ。こういう話は普通リーグ理事長のワタルさんとかから来るはずなんだけど、何故かオーキド博士から来ててね。えーと読むよ」

 ウツギはオーキドの書簡を読み上げる。

―レッド君、エリカ女史、ゴールド君。
 君たちはポケモンマスターを目指す以上色々な地方のポケモンを使ってもらいたい。
 その為リーグ理事長のワタル君に話をしてみた所、新たな要件に地方ごとにポケモンを変えている事という条件がつくことになった。
 じゃから申し訳ないが今持っている手持ちは至急、全てボックスに預けて頂きたい。
 尚、マサキ君にも話は通しておるので勝手にボックスからポケモンを取ろうとすればマスター失格となるから気をつけるように……―

「君たち二人は僕の研究所でポケモンを預け、それと引き換えに最初の三匹を渡して、ゴールド君はホウエンに行くとの事だからオダマキ博士から同様の事をしてもらいたい訳なんだ」

ウツギが話したのち、レッドは大いに憤慨しながら

「ふざけないでくださいよ! ポケモンマスターになるには、大事なポケモンを手放せなんてそんな馬鹿げた話が……」
「そんな……、博士のくれたバクフーンと別れろだなんて、余りにも酷すぎます……」

 激情に駆られたレッドや悲哀な表情をしたゴールドとは対照的に、ウツギは冷静に返した。

「僕だっておかしいと思うさ。でも、君たちはポケモンマスターになるという決断をした以上、これに従うほか……」
「一つ宜しいですか?」

 沈黙を守っていたエリカが口を開く。

「何だい?」

 ウツギはエリカの方を向く。

「博士は今、このような話はリーグからくる……と仰せになられていました。そしてこの手紙はオーキド博士より来られたもの。本当にリーグがこれに介在してると言い切れるのですか?」

 それに対し、ウツギはすぐさま答える。

「君の疑問は尤も。でも残念ながら僕はリーグ関係者でもなんでもないからね。理事長のワタルさんに直接聞く術が無いんだよ」
「うう……。私とてワタルさんの番号など存じ上げませんわ。真偽を図りかねますわね」

 場は膠着状態に陥った。
 数分ほどの沈黙ののち、ウツギが話し始める。

「こうしていても仕方がない。取り敢えず今は僕の言うとおりに。昼にでも僕がオーキド博士に掛け合って、リーグに直接聞いてみる。君たちには後々ちゃんと連絡するから」
「オーキド博士の番号なら俺知ってますよ」

 レッドはウツギに提言する。

「レッド君じゃダメだ」
「どうしてです?」

 レッドは疑問を抱きながら尋ねる。

「多分だけど君の知っている番号は研究所の番号だろ? 博士は恐らく寝ているから今かけても応じないよ。それに手紙には至急って書いてあるから、レッド君とエリカさんの分は博士が起きてくるまでには済ませないと僕が面倒な事になるからね……。だから頼む。虫の良い頼みだという事は十分に分かっているけれど……」

 博士は深々と三人の前で頭を下げた。
 暫くの時が経ったのち、エリカが

「止むを得ませんわ」
「おい!」

 レッドがエリカに威嚇するかのように言った。

「私たちより年上の方が頭を下げるなど余程の事です。ここは従っておくが利口というものです……」
「大人の事情で俺たちのポケモンを渡せっていうのかよ!」

 レッドはエリカに猛然と反発する。しかし、エリカは微塵も怖気づく事無く

「とにかく……。今は博士の言うがままにすべきです」

 エリカは何かを案じているかのような口調で言う。
 それを感じ取ったレッドは

「……、しょうがないな。博士、言うとおりにしましょう」

 と博士の提案に承諾する事にした。

「レッドさんが言うのなら……。博士、僕も同じです」

「本当かい! 恩にきるよ! じゃあ君たち二人は僕と一緒にワカバへ、ゴールド君はシェルフー号でホウエンに行ってきてね」
「はい! ウツギ博士、今まで本当に有難うございました!」

 ゴールドはウツギに深々と頭を下げる。

「うん! 頑張って一旗上げてきてね」

 その受け答えは師弟関係を思わせるものがある。
 続いてゴールドはレッドに別れを告げる。

「レッドさん、また戦いましょう!」
「フン、精一杯精進するんだね」

 レッドは帽子のつばに手を遣りながら、無愛想に返答する。

「ゴールドさんの御武運を心よりお祈りしておりますわ!」

 続いてエリカが晴れやかに微笑みながら、ゴールドを激励した。

「エリカさん……! 有難うございます。それじゃあ!」

 ゴールドは明らかに嬉しそうに船へと向かっていった。

「ふぅ……、さてと、それじゃ、僕のヨルノズクで研究所まで送るよ」

 博士は一息つきながら次の段階へ進もうとした。

「へぇ……、博士でもポケモン使う事ってあるんですね」

 レッドは少々意外に思いながら話す。

「うん?普通にあると思うよ。僕はもともとポケモントレーナーで、4つ目まで集めたら研究の方に興味持ってね。でね、このヨルノズクは僕の相棒だよ。トレーナーだった頃からずっと一緒にいるしね」

 ウツギは嬉しそうにしながら語った。

「てことは、オーキド博士もポケモン使うんでしょうかね」

 レッドは次に純粋な疑問をぶつけた。

「あの人はかつては結構有名なトレーナーで元四天王のキクコさんとも親交深いらしいよ。ま、人それぞれだよポケモン持ってて僕みたいに研究者になる人もいれば、君やエリカさんみたいに強くて素晴らしいトレーナーになることだってある」
「なるほど。様々な経路をたどっている訳ですわねぇ」

 エリカは素直に感心しているようだ。

「さて昔話はこれぐらいにして、まずは外でようか」

―アサギシティ アサギ港前―

 外に出るとたまたま早朝の散歩でもしていたのか、ミカンに居合わせる。
 浅葱色のワンピースを着ており、中央の赤いリボンがなんとも特徴的である。

「! エリカさん! あと、レッドさんにウツギ博士……?」

 あまり考えられない組み合わせに当惑気味のミカンである。

「ミカンさんじゃない! ご無沙汰してますわね」

 エリカは友人との再開に笑みをこぼした。

「この人がジムリーダーのミカンって人?」
「そうですよ。私のお友達です」

 エリカは普段より少しだけ声調を上げている。感情が高揚しているようだ。

「レッドさん、初めまして。私がこの街のジムリーダーをしています。あの、挑戦……ですか?」

お辞儀をした後、挑戦の有無を尋ねてくる。

「いや、ミカンさん。(かくかくしかじか)こういうことでね。今は挑めないんだ」

 ウツギはミカンに簡潔に説明した。
 聞いた後、ミカンは肩を落としながら

「そうですか……。せっかくいの一番で挑もうと思ったのに残念です。少々腑に落ちませんけどね」

 と元気なさげな声で言う。

「この街にはいずれよるからその時にはお手合わせ願いますね」
「はい! 勿論です」

 レッドの受け答えにミカンは少し元気を取り戻したようだ。

「さて、行こうか」

 ウツギはあまり時間を取られたくないのか、二人を急かす。

「せっかく久々に会えたのにすぐに別れるなんて…ミカンちゃん、また会いましょう」

 エリカはミカンとの別れを惜しみ、二人はウツギのヨルノズクに乗っていった。

―ワカバタウン―

山紫水明で、萌芽を予感させる町である。
風力発電所があったりなかなかにエコな町という側面がある。
ゴールドやコトネ、ウツギの家、そしてウツギ研究所がある。
そして東の海を行くと28番道路へと出て、カントーへの道しるべがあり、かつては港まであったという。

「戻れ!ズック!」

 何とも安易なネーミングだとレッドは思った。

「さてと、ここがワカバタウンだよ。何もないとこだけど空気がおいしいでしょ?」

 エリカはカリカリと自前のメモ帳に周囲の木々のスケッチを取って自分の世界に浸る。
 レッドが覗き見てみると、なんとも画家的な上手さであった。
 覗き見たすぐ後に、レッドは溜息をつきながら

「エリカ、お前は変わらないな……」
「ハハハ、きっとこの子はウバメの森あたりではもっと没頭してるだろうね。あそこは草木が沢山あるし……」

 ウツギがそんな事を言っていると、エリカは我に返って

「はい? ああごめんなさい!木とか花を見るとどうしても観察したくなる性分な故……」
「いやいや、素晴らしいよ。流石あのタマムシ大の首席だね。リーダーじゃなかったらヘッドハンティングしたいくらい……」
 
 博士はさらりととんでもない事を言った。

「タマムシ大の首席!?」

 タマムシ大とは現実世界でいう所の東京大学の立ち位置にあたる。
 内国における主に理数系の学問の頂点で、出るも入るも至難の業であり、入っただけでもエリート確実である。
 エリカはその生物学部植物科の首席にして最年少卒業者。

「あの……夫が完全に焦点を失ってるんですけど……」

 レッドはエリカの輝かし過ぎる功績を聞き、目をくらませている様子だ。
 エリカはそれに対し、少々レッドの事を気にかけながらウツギに言っている。
 
「まあ。君の持っている名誉はそれだけの価値があるって事だね」

 ウツギは苦笑いしながら言う。仕方がないと思ったのか、博士はレッドのフォローにかかる。

「いや。レッド君、君の持つ称号だって凄いさ。何しろカント―の頂点だからね!」
「そうですよ! 私がどんなに本気を出しても貴方には勝てませんから!」

 レッドは完全に負い目を感じてふさぎ込んでしまった。

「それでも。タマムシ大のそれに比べたら……だけど」
「博士! 励ましたいのか貶したいのかハッキリしてください!」

 エリカは鬼気迫る表情でウツギを牽制する。そして、ウツギの言った何気ない一言がレッドの傷を深めた。
 レッドを励ますのには5分ほどかかり、ようやく機嫌を直す。

「そうだよな!俺はカントー最強のトレーナーなんだ!」

 レッドは半ば自己暗示気味にそう思う事にした。

「そ、そうだね!」
「機嫌も直されたようですし、研究所に入りませんこと?」

 エリカは胸を撫で下ろしながらウツギに提案する。

「そうだね。そろそろ日も上がってきたし」

 という訳で二人は研究所の中に入った。

―ウツギポケモン研究所―

「結構広いんですね」
「まあ、蔵書も沢山あるしね。人によってはウツギ図書館と名を変えるべきだ! なんて冗談も聞いたりするし」

 ウツギは笑いながら二人を連れて先に進んでいる。

「まあ……。あら、TEM(透過型電子顕微鏡)ですわ! 斯様な貴重な物一体どのようにして……」

 エリカは思わず近くにまで駆け寄り、半ば感動しながらTEMを見る。操作している研究員は彼女の咄嗟の行動に少しだけ驚いた様子。

「ああ、あれは僕が独立した時にオーキド博士から餞別だと言われて頂いた物でね。確か2700万円とか言ってたような……」

 そんなこんなで二人は話し込んでいる。


 一方、レッドは汗牛充棟とばかりに犇めく書物の後ろに何かの端があるのを目敏く見つける。
 レッドは訝しげに思い、ウツギに見つからないよう慎重にその端をとってみる。
 その端の正体は本であった。裏になっていた為、更に表紙を見てみるとなんとも扇情的なサーナイトが描かれている。
 博士も男なんだとレッドが内心共鳴を覚えていると、横から白衣を着た助手と思しき男がやってきた。

「レッドさん。それは博士の愛本ですよ。サーナイトというポケモンを」

 助手は吹聴屋な性格なのか、それとも博士に恨みでも持っているのかは定かでないが、レッドに話しかけて博士の秘密を暴露しようとした。
 が、ウツギは鋭い。異変に気がついたのか、TEMの元を離れいつの間にかレッドの背後に立ち、

「柏木君?何してるのかなぁ?」

 と、言外におぞましい雰囲気を漂わし、薄ら寒くなる程の優しい声で言う。

「!、さーてポッポの進化の際におけるデオキシリボ核酸の情報の変化はーっと……」

 柏木は話題を逸らそうとする。
 雰囲気からしていつもはこれでなんとかなっているようだ。しかし、運が悪い事に今回はエリカがいて、

「あら、それはC塩基の情報が……で、……でと言う風に変化するんですよね」
「何この子怖い。完璧すぎる」

 柏木はエリカの簡潔かつ要領を得た説明に(おのの)いていた。
「知らないの?この子タマムシ大の主席だよ」

 ウツギはさらっとざまあみろとばかりに嘲りの感情を満杯にしながら、柏木に告げる。

「すんませんしたーっ!!」

 柏木は博士とエリカに対し深々と平謝りした。

「さて、お馬鹿な助手は放っておいて奥行こうか……っておい! そこの赤帽野郎! 読んでんじゃねぇぞ!! つーか、汚い手で触んじゃねえ!」

 ウツギは激怒した。それも、普段の温厚な表情とは正反対で、ロケット団でも裸足で逃げ出すぐらいの恐ろしい形相である。

「すすすすすすす、すみませんでした」

 レッドが本棚に戻すと、膨らんだ風船が萎むかのように、ウツギは元の温和な表情に戻る。

「じゃ行こうか、レッド君」

 あまりの感情の起伏に、レッドはウツギは二重人格ではないかと密かに疑いをかけるのであった。
 研究所の奥にたどり着くと、ウツギは嬉しそうな表情をしながら、

「さーて、このセリフを言うのもゴールド君以来だなー。そこに三個のモンスターボールがあるだろう? 好きなの持っておいで!」

 二人はテーブルに向かう。
 
「マシンの右からワニノコ、ヒノアラシ、チコリータというポケモンだよ!」
「やっぱり多少苦戦すると分かっていても草への執着は捨てられないですわね。チコリータで!」
「俺は名前がレッドだし……、ここは炎でヒノアラシにしよう!」

 レッドは単純明快な理由で決めるに至った。

「決まったね。それじゃあポケモンじいさんの所に……って違う違う気を付けて行ってらっしゃい!」

 ウツギはついほかの事を言ったがすぐさま修正し、二人の旅の安全を願う。

「……! あの、ポケモンは預けなくて……」

 エリカは思い出したかのように、元気なさげに尋ねる。

「いい」

 ウツギは静かにそう言った。

「はい?」

 エリカは目を点にして、当惑気味の表情になる。

「責任は全部僕が取る。君たちは僕のあげたポケモンも使って、この地方で活躍するといいさ」
「し……しかし」

 レッドは後ろめたさを感じながら言った。

「いいって言ってるんだ。早く行きなよ」

 そう冷たく突き放すようにいい、我関せずとなったばかりにウツギは後ろを向く。

「は、はい! 有難うございます……!!」

 レッドは大いにウツギへの感謝の意を示しつつ、ウツギの豹変にも疑問を抱きながら研究所を後にした。

 そして二人は最初のジムがあるキキョウシティにへとその歩みを進めるのだ。

 
―第三話 新天地ジョウト 終―
 
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