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Last✾orderは魔法少女ですか?

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Die

 
前書き
ごちうさ万歳!魔法少女万歳!プリズマ☆イリヤ万歳!
って事で書きました!今回も自信作です!
読んでくれると嬉しいです!感想書いてくれると嬉しいです!評価してくると嬉しいです1 

 
【お兄ちゃんのご注文は魔法少女なんだね!】

 湖の大地で少年は目覚めた。
 地面は湖なのか? 水のちょっぴり冷えた感触は違和感を感じさせ足元の湖を踏んでみる。
 変な感触だ…………水の表面上で押し止められてる様な、足を動かすと波紋は広がり湖全体を揺るがした。
「兄様、御機嫌麗しゅう」

 ――――――その声…………って事は夢物語なのか?

「はい、兄様」

 ――――――はぁ、珍しな。お前から俺を尋ねるなんて。

「そうでしょうか? 私と兄様は運命共同体、私は兄様で兄様は私なのですよ?
 珍しいなんて事は有りませんわ」

 ――――――まぁ、そうかもね。

「案外驚かねないのですね」

 ――――――何を? お前の成長した姿を見て興奮するとでも思ったのか?

「いえ、まぁ、ほんのちょっぴり思って欲しかったです」

 ――――――なんだそれ? まぁ、ちょっと……ちょっと驚いたよ。

「ちょっと? その驚きはどの様な具体的に述べて下さい」

 ――――――う~ん…………そうだな。昔より大人ぽいのと髪、伸ばしたんだな似合ってるよ。

「それだけですか?」

 ――――――………………綺麗だよ、恥ずかしい事言わせるな。

「まぁ、兄様の恥ずかしがり屋さんですね」


 ――――――五月蝿い! 俺は事実を述べただけだ! 用はそれだけか、それだけなら俺は帰るぞ!






 揺られ。揺られ。揺られ。揺られ。揺られる。
 現実の少年の本体は眠っている。夢から覚める事、それは少年の心を狂わす時。
 少年の夢は悪夢? それとも幸福? 少年の目は覚めない。
 列車到着時間まで残り30分。




「兄様、あの時、誓った言葉を覚えておりますか?」

 ――――――……………………。

「あの瞬間、あの刹那の時間を交わした盟約を覚えておりますか?」

 ――――――…………覚えてるよ。

 忘れる訳ないだろ。
 俺達の契約を―――――俺達の罪を。

「なら、結構ですわ! 私ちょっぴり不安でしたの…………兄様は変わられたから」

 ――――――変わられたって? 昔と変わんないよ、今も昔も俺は変われない。

「いえいえ、身長だって伸びてますし…………生の兄様を観るのは何年ぷりでしょうか?」

 ――――――夢物語で会ったのは9年ぶりじゃないか?

「もぉ、そんなに時は流れたのですね…………時の流れは残酷ですね」

 ――――――お前からすればな、俺自身は変わってないけど。

「そんな事は有りません…………兄様は変わってしまわれましたわ」

 ――――――……………………?

「肉体的にも身体的にも、兄様の心は彩っている」

 少女の冷たい笑みは全体を硬直させた。
 綺麗な琥珀色の瞳…………睨まれる? そんな優しいもんじゃない。
「兄様はあの瞬間を忘れかけている。あの刹那さえも……」

 その胸の傷は誰の傷?
 その心臓は誰の心臓?
 貴方は私、私は貴方…………運命共同体ですわね。
 なら、私の死は兄様の死を意味する。私は死んでいる、でも、兄様は生きている…………矛盾してますわ。

 ――――――俺の心の隙間から侵入するな!

 ――――――会話なら夢物語で可能な筈だ!

「まぁまぁ、連れません事」

 上品な口調で少女は笑った。
「何年物の時間を共有する私達…………なのに話すのは至極稀な事。
 私から話し掛けても無視され、兄様から話し掛けてくれる事も無し…………悲しいです」

 ――――――俺達の時間は共有されてるんだ……話す必要は皆無だろ?

「時間の共有……その共有された時間、記憶の片隅で私は笑っておりますか?」

 ――――――…時間、俺たちの時間……それは幻想だよ。

「だからこそ、愛おしい」

 ――――――俺は愛せないよ、過去を現実を……。

 過去は残酷だ。
 その形は複雑で少年の運命を変えた。
 いや、最初から仕組まれた事とも言える。最後のピースをはめ込んだパズルは完成する事を否定したなら、また別の人生を歩んだ事だろう。
 決められた道の到達点は、誰もが望み。自分だけが否定する意味不明な物だった。

 あの一瞬を――――――あの刹那の一瞬。

 その一言で終わった…始まった。

「お兄ちゃんのご注文は魔法少女なんだね!」

 何故、俺は望んだんだ?
 俺は普通だ、凡人で良かったんだ。









「兄様……」

 少女の冷えた手は少年の頬を撫でる。
 気付いてない、冷え切った手の温度を少女自身は気付かない気付けない。
 氷…………冷たい、冷徹な手だ。
「貴方は私、私は貴方…………」

 ――――――俺はお前だ、お前は俺だ。

「兄様、貴方のラストオーダーは必ず叶えますわ」

 ――――――…………魔法少女。

「私は忘れません。
 兄様の最後の願望を…………その罪は後悔の色で染まり貴方の心を満たされる事を祈っております」

 ――――――なら…………泣くなよ。

 ――――――反則だろ………………。

 少年は少女を抱きしめる。
 頭を撫で撫で。少年は笑顔で誓った。
 以前から決めた事だ、今更盟約を加える事は不可能だろう。
 でも、俺達で誓うんだ。俺達の絆で、俺の信念で…………。

「もぉ、時間ですわね…………」

 ――――――あぁ、お別れだ。

「また、会えますか?」

 ――――――会えるよ……って! 今回はお前から俺を呼んだんだろ!

「あら? そうでしたかしら?」
 お茶目な仕草で満面の笑顔で少女は笑った。
 自然と少年も……笑った。

「千の夜を超え、俺は…………」

 夢物語は終わった。
 目を覚まし欠伸をする少年。
 夢物語…………アイツ、元気だったな。
 列車から見える外の景色―――花の香り、慣れない地域の独特な空気。
「初めまして……流脈の原点」

「初めまして……始まりの龍脈」

「初めまして……終わりの竜脈」

 少年の最後の希望――――聖杯戦争をモチーフする謎のタロットカード。
 失われた最古の魔術の眠るった地なら少年の願望を叶えられるかも知れない。
 僅かな希望を僅かな可能性を信じ、少年は抗った。
 諦める事を諦めず、自分の願望を叶える為に…………彼は。


[木組みの家と石垣の街]

 謎めいた土地だ。
 魔力の流れと魔術を活かす為に配置された建物の配置…………数百年前、魔術師の秘境と言われた面影を薄らと残した街並は魔術師の端くれからすれば驚きを隠せない程だった。
 ――――あの家は地脈のエネルギーを利用して家全体の温度を上げてる。
 ――――あの風車は地脈と風向きを計算して回されてるのか…………川や風も利用する街、地脈との相性も良好で地域一体の活性力を増加させてるのか。
 入り組んだ街並は冒険者を惑わせる迷宮の様だ。
 地図を見れば迷わず進める…………筈…………………………。

 絶賛迷子中です♪

 まぁ、迷子のお陰で街の探検も出来たし一石二鳥だろ。
 プラス思考で考え、地図をを見直すと目的地の周辺で見られる川を発見した。
 なら、ここを直進して…………右から左で…………大通りから曲がって。
「Rabbit……houseだよね…………」
 送られてきた店の名前と違うな。
 目的地らしき喫茶店を発見した。だが、その店の名前はrabbit horse…………似てるけど別の店かな?
 赤の点で塗られた位置だと合ってる筈だけど……まぁ、疲れたし休憩するか。
 ―――まさか……店の名前間違えたりとか…………。
 ―――まさかな……間違える訳ないよな。
 ―――馬と家じゃあ、アリとゾウ位違うもんな……俺の勘違いだよ。
 チリンチリン……喫茶店のドアを開けると珈琲独特の香り―――懐かしい珈琲豆の香りだ……。
 少年は自然と想像する。
 落ち着いた空間、年期の入った珈琲カップ、笑顔で接客する店員の笑顔…………ちょっと憧れてるマスター適な店長。
 扉の向こう側を想像すると昔を思い出した。
 小さな小さな少年の記憶…………知乃の妹の姿を――――――。

「いらっしゃいませ」

 まだ、幼さを残した少女の声だった。

「Rabbithouse へ、ようこそ」

 その言葉は少年の運命を変えた瞬間だった。








「…………って訳です」
「……解りました、この度は申し訳ありませんでした」
 深々と頭を下げる女の子。
 話すと長くなるのだが、要注意点だけ説明すると。
「とある喫茶店を探してます」
「その喫茶店の名前は?」
「ラビットハウスって名前です」
「その喫茶店は家です」
「…………」
「…………」
「でも、店の名前……ラビットホースじゃぁ?」
「ココアさん!!」

 数日前、店の看板が台風の影響で壊れたらしい。
 店の名前の部分が一部欠けてしまい困っていた所を店の従業員で居候のココアって名前の少女が「私が直すよ! お姉ちゃんに任せなさい!」と言った結果、houseをhorseと間違えたらしい。
 結構、激しい間違いだな。
「本人のココア…………者は只今、店を開けておりますのであちらの席でお待ち下さい」
「えッ…………あぁ、はい」
 言われるがまま案内され言われるがまま座ってしまった。
 座った席は丁度、幼さを残した少女の見える席。
 ――――似てる、知乃…………瓜二つって奴かな。
 ――――でも、似すぎてる。夢物語で会った知乃は成長してるけど…………あの女の子も数年すれば知乃のそっくり……まぁ、似てるってだけで人を判断しちゃ駄目だよな。
 性格まで解らない。
 だが、外見は鏡の様だ。
 俺の中の知乃の数年前の姿…………実際、夢物語で会ったのは9年ぶり。
 ちょくちょく会話はしてたけど外見は見えなかった。多分、目の前の女の子は13~14歳と予想しアレは知乃の2年前位の姿と見える。
「お詫びの珈琲です」
「…………お詫びなんて貰えないよ」
「なら、サービスとして貰ってください」
 ―――接客業で慣れてるのか。
 外見は幼くとも立派な店員って訳だ。
「解った……頂きます」
 笑顔で少年は言った。
 珈琲カップ……綺麗だな。
 年期の入った感じはしない……新品なのかな?
 店は風格を感じさせるけど店員は―――――ま、まぁ、数年すれば解消されるよね。
 そんな事を考えつつ一口珈琲を含むと。
「……おいしい」
 適度な温度の珈琲。
 最初から砂糖を少し混ぜて入れてるのか……俺好みだ。
「ありがとうございます」
 ニコッと笑顔な女の子。
 綺麗……知乃…………君は知乃なのか?

 ――――――まさか、私は私ですわよ。

 心の中で響き渡る声……知乃だ。

 ――――――確かに似てますわね、数年前の私に。

 ――――――あぁ、そうでしたわね。私から話し掛ける事は出来ても兄様は話し掛ける事は出来ないのでしたね。

 ――――――なら、私から一言……兄様、貴方はシスコンですか?

「ブフッ!!ゲホゲホッ!!」
 噎せた……珈琲吹いちゃったよ…………あの馬鹿。
「大丈夫ですか!?」
 知乃と瓜二つの女の子は慌てて駆け寄ってタオルを持ってくる。
 優しい……君は優しいな。
 知乃と比べて―――――お前、後で覚えてろよ。

 ――――――図星だったのですか? 兄様?

 反論したい……だが、俺の声は届かない。
 黙ってるとイライラするぞ。そもそも空気読めよ、俺はシスコンじゃない!

 ――――――図星でしたのなら嬉しいですわ!

 図星の訳ねぇだろ! 一瞬でも信用した俺が馬鹿だったッ!
「あ、ありがとう……」
 手渡されたタオルで口の周辺を拭き汚れを落とす。
 ちょっと服も汚れたな。まぁ、洗濯すれば落ちる筈だし慌てる必要は無いな。
「ごめんね、手間を掛けさせちゃって」
「いえ、それは構わないのですが……」

「あの、間違ってたらごめんなさい」

「もしかして……始焉…………香風 始焉さん?」






 俺は過去の記憶を失っている、喪っている。
 覚えてるのは妹関連の記憶のみ。父親も母親の名前も忘れた…………失われた記憶は復元する事を叶わず。
 喪われた感情は取り戻せない、還らない。
 モノクロの写真……家族で撮った写真。
 知乃と俺は真中で笑っている。でも、父親と母親の顔は塗り潰されている。
 実際、塗り潰されている訳じゃない。俺の心が思い出す事を拒否してるんだ。
 だから自然と父親と母親の写った写真を見るとモヤが掛かった様に…………消える。
 昔の記憶を取り戻そうとは思わない。
 感情は生きている。俺は俺のままだ、なら…………構わない。
 一人ぼっち…じゃない。
 知乃は俺を忘れない限り、俺は一人じゃない。

「君は……誰?」
 俺を知ってるのか?
 考えられる結論は記憶を失う前の俺を知っているって事だ。
「……もぉ、何年も昔の事ですからね…………忘れてしまっても仕方ありませんね」
「あ、その……ごめん」
「構いません、私の中の始焉さんに変わりませんから」
 俺は言えなかった。
 記憶喪失なんだ…………でも、言っちゃ駄目だ。
 言っちゃ駄目なんだ。言ったら俺は、俺を許せなくなる。
「私、香風 智乃です。
 小さい頃、始焉さんに沢山遊んでもらいました」
「…………ごめん、思い出せない」
 記憶喪失って事を隠しつつ俺は会話を続ける。
 知乃の記憶なら覚えてる俺はそれ以外の記憶を全て忘れている。
 でも、知乃関連の記憶を覚えてるなら…………もしかしたら、記憶の片隅で覚えてるかも?
 知乃で埋めつくされた記憶を探り、導き出した結論は。
「タカヒロさんの娘……さん?」
「そうです!思い出したんですね!」
「ま、まぁ…………ちょっとね」
 実を言うと実家から送られてきた手紙で知った事なのだが。
 香風 タカヒロ。
 俺の母親の弟だったらしい。
 俺の記憶は不確かで曖昧だ。まぁ、記憶喪失の時点で曖昧以前の問題だけど……そのタカヒロさんって人は俺を引取りたいらしい。
 俺は、つい最近まで施設で暮らしていた。
 まぁ、色々訳有って俺は施設で数年過ごし高校進学と同時にその施設を出た。
 その直後だった……タカヒロさんから手紙は。
 手紙の内容は俺を養子として引き取って暮らしたい…………最初は疑った。
 だって……俺は記憶を失ってる。だから、タカヒロさんの事も知らないし……昔の俺は知ってても今の俺は忘れてるんだ。
 そんな俺に、突然こんな手紙が送られてきたんだ。
 誰だって疑うし不安になるだろ?
 最初は断った。
 でも、タカヒロさんからの手紙は潰える事は無かった。
 根気負けしたって言えばいいのかな? 熱意が伝わってきたんだ。
 結局、俺は了承した。
 今日から俺は香風一家の一員…………正式には数日前から一員扱いだけど揃わないと駄目だ。
 やっぱり家族って揃ってからこそ家族なんだ。
 記憶を失った俺が、言えた口じゃないけど…………多分、そうなんだ。

「あの……その……」

「今日から…………よろしくね」





「チノちゃん! 遅れてごめんね!
 帰る途中で野うさぎを発見してね!それでね!もふもふしようとしたら逃げちゃってそれでね!」
 元気一杯な女の子の登場…………チノちゃんの言ってたココアって名前の女の子だな。
「…………ココアさん。
 先日、ココアさんが直した店の看板の名前綴りを間違えてました。
 horseってなんですか? 馬なんですか? rabbitじゃないんですか?」
「え~!?そうなの!?
 ごめんチノちゃん!!もふもふするから許して!」
「やめて下さい……許可する前に結局もふもふしてるじゃないですか」
「もふもふ、もふもふ」
「………………」
 なすがままされるがままチノちゃんは偉いな~。
 もふもふ!もふもふ!
 女の子同士のじゃれあい…………待てよ? 一方的なしじゃれあいってじゃれあいなのか?
 いや、じゃれあいって言葉を使ってる時点でじゃれあいなんじゃぁ……。
「あれ? 隣の人は…………なんでバーテン服?」
 俺の服装を見てココアは呟き…………ジロジロの俺の周辺をぐるぐると回って観察する。
「誰?」
「結局それですか!」
 天然なのね…………ちょっと慣れない人だ。
 珈琲カップを拭きつつ俺は笑った。
 自然と笑わされたな……人を笑わせる才能を持ってるねココアちゃんは。
「初めまして香風 始焉です」
「初めまして!保登 心愛です!」

「…………あれ? 香風? ってチノちゃんの苗字じゃぁ?」





「えっとですね、かくかくしかじかで」
「え?そうなんですか!?」
「で、かくかくしかじか……で」
「なるほど、なるほど」
「そういう事なのでそういう訳です、解りましたか?」
「はい!解りました!」
 長かった…………説明を理解されるのに40分は掛かったぞ。
 チノちゃんの説明は解りやすいな~俺って説明下手なのかな? まぁ、チノちゃんのお陰で助かったよ。
「って事はえっと…………」
「始焉です」
「始焉はチノちゃんのお兄ちゃんって訳ですね…………えッ!?お兄ちゃん!?」
「お兄ちゃんって訳では……」
「私は認めないよ!私はチノちゃんのお姉ちゃんだもん!」
「だから……そのお兄ちゃんって訳では」
「譲れないし負けないよ!」
「人の話を聞いてください!」



 ✾✾✾✾✾✾✾✾✾✾✾✾✾✾✾✾✾✾✾✾✾✾✾✾✾✾✾✾✾✾✾✾✾✾✾✾✾✾✾✾✾✾✾

「お待たせしましたアイスココアです」
「まぁ、初めて見るけど新人さん?」
「はい、今日から入りました」
「まぁまぁ、色とりどりね」
「?」
「すいません~注文いいですかー?」
「はい、ただいま。
 では、失礼します」
「ええ、お仕事頑張ってね」
「お気遣い感謝します」

「注文を承ります」

「ありがとうございました」

「お会計1200円になります。
 …1200円丁度頂きました。ありがとうございました、またのご来店をお待ちしております」

「いらっしゃいませ」

 彼はオールラウンダーだった。
 染み付いた喫茶店の接客はバイト経験者と思わせる程だ。
 確かに、始焉はバイト経験者だ。しかも様々なバイトを経験しており接客は慣れっこと言えよう。
 だが、それ以外も理由が存在する。

 過去の経験……9年前の過去。
 勿論、記憶を失った彼は覚えていないだろう。
 だが、身体に染み付いている。店は違えど対応できる程、始焉は働いている。
 笑顔で……本当の笑顔で。

 ――――――あらあら、呑気な兄様。

 ――――――仕事熱心ですわね、私の声が届かないなんて……。

 ――――――別に、寂しくなくてよ。

 ――――――べ、別に、寂しくなんかないんだから!!

 ――――――……兄様の………馬鹿。

 それでも笑顔で少女は言った。
 真実の笑顔で。偽りの笑顔で。









 地脈の底で渦巻き膨張する影。
 その中心部では《カード》の様な物体が収められており……胎動している。
 そのカードに描かれた絵は騎士【セイバー】らしき西洋の鎧を纏った女騎士。
 地脈の魔力を……人間の負の力を吸収し魔力を蓄える。

「セイハイ…セ・イ・ハ・イ……喰わせろ、聖杯!」

「感じる…奴だ、奴だ!奴。奴。奴。奴。奴。奴。奴。奴。奴。感じるぞ!」

 成長している。
 人間の言葉を発している。
 鎖で何重も巻かれた剣―――足元で突き刺さっている聖剣の成れの果てをそれを。

 引き抜いた。

 始まってしまう。
 聖杯戦争を真似た聖杯戦争。
 偽りでも本物でも偽物でもない聖杯戦争。
 始まってしまう、あの惨劇が…繰り返されてしまう。

 ――――――――――――――――――最後に笑うのは私ですわよ、兄様。




















 
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