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ソードアート・オンライン〜Another story〜

作者:じーくw
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GGO編
  第206話 ファントム・バレット

 
前書き
~一言~

 な、なんとか1話分出来ました。ちょっと長くなりすぎそうだったので、妙な部分で区切りをつけちゃいましたが……苦笑
 そして、そして! よーーやく、ここまできました! ……最後のアレが残ってますが、どうやって その場面を書こうか……、と試行錯誤をしておりますが、頑張ります。


 そして、最後に、この二次小説を見てくださって、ありがとうございました。これからも、頑張ります!


                                   じーくw

 

 



 《閃光》

 それは、死神もあの世界で見た事があった。リュウキ、そしてキリトの傍らに必ずいるあの少女達の剣技だ。速度の領域を考えれば、死銃の扱う刺剣(エストック)も負けてはないが、その剣技には何処か気品さ、鮮やかさ、優雅さも醸し出していたのだ。

 それだけは、殺人剣である奴らには、同じソードスキルだとしても、決して魅せる事が出来ないものだった。

 人を殺傷する事を第一に考えているラフコフの者達には必要とすらないものだろう。……だが、その2人の剣技、《双・閃光》に目が止まったのは事実だった。
 
 そして、何れはその気品に満ちた少女達を。……華、とさえ形容するのも、まるで遜色無い、寧ろ華の方が色褪せる程の美貌に、《死》を与える事が出来れば。とラフコフの面子が思ったのは言うまでもない事、だった。


――……何よりも、少女達は血盟騎士団に所属している、と言う理由も 勿論あるのだから。


 だが、それが成される事は無かった。唯一こぎつけかけた男が1人、いたがそれでも。

 ……その傍らには ラフコフにとってのワイルドカードが2枚。……2人いたから。


 
 










~GGO~




――なぜ、この世界で再び閃光を見る?




 死神は、この一瞬の刹那の刻に思考の渦に身を投じていた。閃光と言うのはこの世界で無い訳ではない。この世界の太陽が地平線に沈む瞬間に、眩く放つモノもあれば、夜戦中に銃擊にあった時に見える発火炎(マズル・フラッシュ)。……挙げだしたら正直キリが無い。
 だが、何故 そのキリが無い情報の渦、記憶の渦の中で 何故あの世界(・・・・)の閃光を思い描く? それが死神には判らなかった。



 その一瞬の心理的隙間。この戦いに真の決着がつく。



「やはりな。……見えない攻撃、か。そのままの意味だったか」

 思考の渦の中で声が、聞えて来た。
 体感時間が限りなく圧縮された、とは言っても、実際に掛かった時間は1秒を切る。
 



――……その間に、全てが成されていた。




「っ……!?」

 一瞬で目の前に迫る男、……死神にとっての死の鉄槌。死神を迎えに来る死神。

 彼らの()が迫ってきていた。閃光の正体。……それがなんだったのかは判らない。ただ、判るのは 至近距離に鬼が現れたと言う事実だけだった。その有り得ない速度が、閃光を生み出したとでも言うのだろうか?

「光学迷彩装置、と言った所か。それを使ってお前は腕を消した。……そのマントで、身体全体を消した様に、その装置を使って、腕先、……そして銃、ナイフを消したんだろ? 弾丸までは消せないみたいだがな」

 死神の至近距離にまで接近したのは鬼。……否、リュウキだ。


 リュウキは、何もない(・・・・)空間に手を伸ばし、掴む仕草をしていた。


 そう、傍から見れば、パントマイムの様に思えるだろう。……だが、それは一瞬だった。

 リュウキが握った場所、その場所にまるで、空間にノイズが走ったかの様にねじれ曲がると当時に、リュウキが握っている部分が見えたのだ。

 握っているのは死神の腕だった。そして完全に透明になっていた死神の銃もその姿を現していたのだ。

「馬鹿、な……。いったい、なぜ……? なぜ、判った……?」

 さしの死神も、この状況だけは、相手が相手だから。……異常な使い手であり、あの世界での最凶の男だから、と安易に飲み込む事が出来なかった。この死神の見えない攻撃。


 これまで、数多のスキル。システム外スキルを要いて来た死神だったが、この《ステルス迷彩》を使用した攻撃が真の奥の手だったから。 


 自らの身体を、姿を透明にする装備(マント) 《メタマテリアル光歪曲迷彩》とは また一味違うのが、この装備。

 あのマントは姿を消し去る事ができたとしても、地に足をつけて移動する以上、いや 例え樹海エリアの様な場所で、歩いたり、走ったりせず、木々を利用し移動をしたとしても、移動痕跡は必ず残る。歩き、走れば足音が鳴り、木々を利用すれば、枝が、葉が揺れ痕跡を残す。

 様々なエリアが入り組んだこのステージにおいては 決して絶対無敵 とは言えない。注意深く見れば、その音響で バレる可能性が高いからだ。……そして、一度でもバレてしまえば、完全に警戒され 対策も立てられるだろう。それが、今回のリュウキやキリト、シノンが取った行動だった。砂に周囲が覆われた砂漠エリアでは絶対に足跡が残る。ただ、立っているだけでも 重力がある以上、柔らかい砂が 足を取り込み、位置が完全に判るだろう。

 ……特にあの世界、SAOを生き抜いた2人であれば、その位見抜くのは造作もない事だろうから。

 だが、それでもこのステルス迷彩は違う。

 揺らめくマントに注意を引き付け、そして 警戒をしている所で、有り得ない方向から攻撃が来る。……離れれば、構えてもない(厳密には構えているが)場所から銃弾が飛び、接近すれば まるで鎌鼬にあったかの如く 身体を切り刻まれる。

 一見する程度じゃ 見抜けないだろう、と踏んでいた。案の定 鬼でさえ、1度目、2度目と攻撃が当たったのだから。

「銃弾は、放たれた方向から必ず飛んでくる。……グレネード弾でもない限り、銃弾で跳弾は出来たとしても、曲射など出来ない。その線の延長上に 必ず発射された武器があるんだ。……如何に素早く撃った所で、腕を伸ばし、オレに向けている以上、マントの中で隠れながら行うのは無理だ。接近してきた時、その揺らぎに注意をすればいい」
「っ……!? あり、ありえないっ! あの一瞬、刹那の時間で!? それも2度目の銃擊も受けておいて、全てを把握するなどッ!!」

 手品の種が判れば、種が判らなくとも、その肝が判れば 確かに見抜く事は造作もないだろう。だが、それは 知っているからこそ(・・・・・・・・・)、判るのだ。1度目は間違いなく判っていなかった。鬼が激情を顕にする事はあっても、驚愕した様な顔をするのは 見た事がない。間違いなく、あの斬撃、ククリ・ナイフによる見えない攻撃を受けた時、驚きを顕にしていたのだ。
 そして、2度目。
 どの様な攻撃がくるのかは、判っていただろう。……だが、判っていても(・・・・・・)防げなかったのだ。 
 なら、いったいどうやって見破ったと言うのだろうか。……あの眼(・・・)をしているのに防げなかった攻撃を、その手段を。



「……お前は、まだ、気づかないのか?」



 リュウキは、軽く笑みを見せた。
 死神は、その笑みを見て、そして その言葉を訊いて、目を見開いた。己の腕を見て。

「こ、これは……」

 死神の腕には 一条の赤いラインが突き刺さっていたのだ。それは赤く、そして細いラインだ。

 彼女(・・)が使用しているのは、対物ライフル。
 その弾丸は50BMG弾。数ある弾丸の中でも例外を除けば最大クラスのモノだ。そして、ゲーム仕様、と言われればそれまでだが、この世界での弾道予測線、そして照準予測線の大きさは その銃の威力に比例する。……以前、屈強な巨漢の兵士が使用していた重火器、無痛ガンの赤いラインはアバターの身体を覆い尽くさんばかりの大きさだった。
 そして、対物ライフルの弾道予測線。単発である故に、無痛ガンとは比べるべくもないが、それでも一般的な突撃銃(アサルトライフル)機関銃(マシンガン)とは比べ物にならない。

 だが、今回死神につきつけた赤いラインは、更に小さいモノだった。対物ライフルのそれよりも、弱々しささえ、感じる程のモノ。


『……リュウキっ!』


 ……だが、彼女が扱っているのは対物ライフル、へカートⅡだけじゃない。その腰に携えていたのは、へカートⅡに比べたら頼りない、とも思えるモノだが 電磁スタン弾の一撃を受け、動けず、転倒したままの状態ででも、闘志を失わずに、最後まで反撃をしようとした銃。

《グロッグ18C》

 使用する弾丸は9mm弾。先に上げたへカートⅡと比べたら、確かに頼りないだろう。……だが、この一戦においては 最強だ。
 その放たれる事のない弾丸は、死神の腕部分に命中。空間を、光を歪めている装備をしている故に、その赤いラインの光も歪んでいたのだ。そして、死神からは死角の位置から伸びる弾丸。



――最後の最後まで、諦めず 闘志を失わない。彼女(シノン)の意思。



神出鬼没の死神(ファントム)を討つ、弾丸。……予測線のみの弾丸。………だからこれは、死神を黄泉へと返す 幻影の一弾。《ファントム・バレット》。だなッ!」

 リュウキは、彼女の援護を受けながら、掴んだ腕をへし折るかの様に握り締め、捻り上げつつ、引き寄せる。現実であったとしても、手に持つ銃を離してしまうだろう。……死神は、短機関銃(スミオKP/-31)を堪らず離すと同時に、己の銃 デザートイーグルを反対側の手で引き抜き、至近距離で構えた。
 そのガラ空きの腐った脳髄を吹き飛ばす為に。

 だが。





――……死神を、舐めるな。





 言葉にならない裂帛の気合、いや 凡ゆる負の感情を込めた殺気をリュウキは全身に感じた。
 この世界は、所詮は数値で定められている。(HP)も数値であり、ダメージ量、命中の補正、……etc  あげたらきりが無い。

 だが、その中ででも不確定要素だが、精神の強さが関与する事もあるのだ。……あの世界で何度もあった事だからこそ、判る。

 その現象が 死神にも現れたのだ。動転しているとは言え、あの世界では最悪、最凶とも畏れられたその凶悪極まりない精神力に物を言わせて。

 完全に体を崩し 無防備状態にしていると言うのにも関わらず、有り得ない速度で反撃に転じてきたのだ。 死神に残された最後の武器。 あの世界では死神の鎌として恐れられた曲刀、それを彷彿とさせる武器 ククリ・ナイフ。 白い目の中に濁った瞳が現れ、構えたデザートイーグルを弾き返しつつ、お返しと言わんばかりに、頭に突き立てようとしてきた。そして、歪んだ笑みが、至近距離に迫る。


 だが、この時更なる現象が起こる。シノンの援護射撃(ファントム・バレット)よりも驚く現象が起きたのだ。


 死神の腕を強く握り、極めていた筈の手が、何者かに操られる様に、ひとりでに動いたのだ。……その手は、その緊張故に、寒気さえ わき起こす、この戦場で温もりを与えてくれていた方の手だった。
 リュウキは、この瞬きすら許されない刹那の時間帯だったが、悟った。



――よく知った誰かの手が包み、温め、導く。導く先は胸元の鞘に収めているナイフ。



 あの剣の世界での決着同様に、この世界ででも、最後は剣で。……己の(ナイフ)で。


 支えて貰いながら 動く手の中にあるひと振りのナイフ。あまりにも頼りない最弱の武器。だが、今はリュウキにとってどんな聖剣よりも、魔剣よりも強いものだった。
 そう、あの時も。……そして、今も。自分をみてくれている人が、支えてくれている光があるのだから。畏れるものは何もないのだから。


 持ちいる全てを解放したリュウキのその速度はまさに光だった。いや、その光を、光速を超え、己の姿を形成するアバターがその速度に追いつかないが如く、ノイズが生まれた。その速度は、死神の鎌がリュウキの頭を穿つよりも遥かに早く容易に 未だに笑みを浮かべているであろう死神の眉間へと突き刺した。
 
 この世界で何度も使ったナイフだが、あまりの速度で、正確に眉間に刺さった為、殆ど感触らしい感触はなかった。ただ 何もない空間にナイフを向け、突き立てた。程度にしか、リュウキには感じられなかった。
 
 その一撃は、ただ死神の眉間に刺さるだけではないく、まるで至近距離で大砲でも直撃したかの様に死神の身体が吹き飛んだ。その眉間には ナイフが刺さったままである。吹き飛んだ身体が五体満足に存在している事が不思議な程の光景だった。

 数mは吹き飛んだであろう身体は、転がりながら、最終的に仰向け、大の字になり、星の少ないこの暗黒の空を仰いでいた。もう、ピクリとも動かない。……敗北をした事を判っているのか、判っていないのか。それは、離れているリュウキには判らなかった。


 そして、リュウキの前髪にあの死神の鎌が触れたのだろう。数本の銀髪が、切り離され この世界独特の匂いを持つ風に煽られ、飛ばされていく。丁度、死神が倒れている場所へと。



「く、くく……、くくく……こんかい、は所詮、前座……さ。お前らが、2人で、 1人である様に……オレも……同じ、だ……」



 もう、HPは殆ど残っていないだろう。不気味な声だけが周囲に響いていた。この世界にまだ、命が残されているその瞬間まで。



「覚えておけ…… しに、がみは……あの()と、ともに、ある……。まだ、終わらない、……終わらせない。お前らを、おれ、達がかならず……」



 その言葉が最後だった。
 アバターの間隙内に浮き上がった【DEAD】のタグが、この死神、赤羊(殺人者)と言うプレイヤーの活動を完全に停止させ、その言葉を遮った。

 全てを訊いていたリュウキは、ゆっくりと その死体となった死神の下へと歩き、そして見下ろした。その白い眼は、当然むき出しになっており、その表情は笑みさえ見て取れる。……【DEAD】と言うタグが無ければ、すぐにでも起きてきそうな感覚がする程だ。
 
 が、それでも その白目の奥にあった濁った瞳はもう存在しない。……もう、この場所にあの男はいない。最後まで苦しめた死神に、トドメと言わんばかりに答えた。



「……いや、終わりだ。お前も、お前達も。名前がなくとも関係ない。……全てを割り出し、捕まえてやる。……RYUKIの名にかけて、な。《ラフィン・コフィン》の殺人も全て終わりだ」


 リュウキは、そう言い終えると もう物言わぬ、動かぬ死神に背を向けた。

 だが、この戦い。完勝、とは言い難く勝利の余韻にも浸れない。

 何度も受けた傷が、脳裏に感じた寒気が、まだ消えずに残っているからだ。……そう、今の状態は、HPの残り等は除けたとしても、満身創痍とも言えるだろう。強烈な疲労感も同時に身体を襲っているのだ。……だが、リュウキは倒れる事を拒否した。
 そして、感じた。


――……いや、何処かで、判っていた。……この瞬間に、キリトもアイツと、……死銃と決着をつけたと言う事を。


 心の何処かで確信したのだ。……或いは、光剣が死銃を切り裂く音を聴きとったのだろうか。

「………負ける要素なんて、お前には 何にもなかっただろ? ……キリト」

 リュウキはそれを感じ取ると同時に、ぐっ、と空に拳をつきだした。


 そして、思うのはもう1人の仲間。最後のアシストが無ければ、気づくのが遅れたかもしれない死神の攻撃手段。最高の仕事をしてくれた狙撃手(スナイパー)シノン。


 激戦を称える様に、狙撃手(スナイパー)の少女 シノンと剣士(ソードマン)のキリトへと向けて、自己主張が決して強い訳じゃないのに、リュウキは高々と拳を上げていた。

 比較的、リュウキの傍にいたシノンは、肉眼でその拳を見ていた。それを見つめると そっと微笑みを浮かべ、同じく拳を上へとあげていた。

 そして、もう1人の男、キリトも、同時に……。
















 












 それは、リュウキと死神の決着がつく殆ど同時。

 キリトが、悪夢とさえ思える過去の記憶から蘇った死銃の名、《赤眼のXAXA(ザザ)》と言う名を思い出したと同時に、幾つかの事が立て続けに起きたのだ。

 それは、リュウキの時同様に後方から飛来する一条の赤いライン。名を暴かれ、動揺している死銃の中央に音もなく、赤いラインが突き刺さったのだ。……このラインはとてつもなく大きい。……強大な捕食者の殺気をも、その赤い弾丸には込められていた。

 そして キリトも、リュウキと同じ結論に至る。

 その正体は、実弾ではなく、照準予測線。……シノンの経験、閃き、最後まで諦めずに戦い続けると言う強い信念が生み出した幻影の一弾(ファントム・バレット)

 その弾丸は、死銃を本能的に下がらさせ、決定的な隙を作った。この状況で、誤射の危険性があるのに、あのへカートを撃つ筈がない、ただのハッタリだと気づくのが、キリトが攻撃に転じるよりも遥かに遅い。

 ただ、シノンが生み出してくれたこの隙を、無駄には出来ない。


――これで終わらせる!!


 キリトは大きく、更に一歩踏み込み、光剣による最大の一撃を見舞おうとした時だ。
 死銃の獣の様な反射神経は、脳の回転の速さまで、上げたと言うのだろうか、この瞬きすら許されない刹那の時に、最善の選択をしたのだ。

 それが、《メタマテリアル光歪曲迷彩》の使用である。

 姿を消し、せめて致命的な一撃(クリティカルヒット)を防ごうと言う魂胆だ。足跡で居場所は判るものの、姿を消せば 正確に狙いをつける事が出来ない。アイツ、リュウキの様な眼を持たない自分では 正確に当てる事など出来ない。

 そして、仕損じれば この大技を繰り出す故に できた自分の致命的な隙をついて、死銃がカウンターを放ち、全てのHPを吹き飛ばしてしまうだろう。

 そう、意識した時だ。……キリトの手にも、何者かの温もりが宿ったのだ。同じくよく知った温もり。その温もりが力をくれる。……あの世界(・・・・)の様に。

 リュウキは、どんな武器でもそつなく使いこなし、その全てが満遍なく強い。そして、その究極系があの世界の最終戦で使用した神業だろう。……だが、自分はそこまで器用でも無ければ器量だって無い。故に最大の力を発揮できるのは、自分が最大級にまで鍛え上げたあの装備(・・・・)しかない。


 キリトは、温もりに導かれるまま、半ば忘却の彼方だったもう1つの武器、ハンドガン(FMファイブセブン)へと伸びた。
 引き抜いてから、打ち放つまで、滑らかに出来た。数える程しか撃った事がないと言うのに、羽のように扱える。


「う……うおおおおおおおお――――ッ!」


 キリトの咆哮と思い切りの踏み込み。

 一度強く左にひねった全身を、弾丸のように螺旋回転させながら突進する。打ち放つ左手の銃。
 如何に苦手意識があった銃でも、これだけの距離であれば幾らかは命中する。……その数発は、直撃し 死銃の姿を再び顕にしていた。

 そして キリトの右手には光剣。
 なぜ、この形になったのか、それは直ぐに判った。 

 あの世界では、このスタイルだったから。この剣技で生き残ってきたのだから。……この剣で、アイツの、リュウキの背中を守ろうとしたのだから。

《銃剣の二刀流》

 キリトは、時計回りに旋転する身体の慣性と重力を余さずに乗せた右手の光剣を、左上から叩きつけた。

 二刀流重突進技《ダブル・サーキュラー》。

 エネルギーの刃が死銃の身体に、その右肩口を深々と切り裂いた。胴体を斜めに断ち切り、その身体が2つに分かれる。丁度、あの黒い銃を収めていたホルスター部分をも断ち切ったらしく、鮮やかなオレンジ色の閃光を放っていた。

 突進による威力と鮮やかな斬り口から、2つに分かれつつも吹き飛ばされる死銃。
〝どどうっ〟 と言う重い音を順に放って、その上半身と下半身は、少し離れた場所へと落下した。そして、弾き飛ばされたエストックが最後に、上半身と下半身の間辺に、落ち、地面に突き刺さっていた。

 あまりの突進に、思わず膝をついたキリトの耳が、極微かな囁き声を捉えていた。



「…………まだ、終わら……ない。死神は、負け、ない。……そして、あの人……も……お前たち……を………」



 2つに分断されたアバターは、まだ生きて(・・・)いた。
 だが、その命は風前の灯、と言えるだろう。最後まで言葉を言い終える前に、【DEAD】のタグが上半身側に浮かび上がっていた。完全に、死銃と言うプレイヤーの活動を停止させたのだ。

 キリトは、ゆっくりと立ち上がると、死銃を見下ろす。

「いや。これで終わりだ。……最後まで、認めたくなかったんだな。お前は。……共犯者も、それに、死神も 直ぐに割り出される。オレはオレの仕事を、オレができる最大限のことをやるだけだ。……お前達を必ず捕まえる。もう《ラフィン・コフィン》の殺人は、これで完全に終わりだ。……終わったんだ」

 身を翻すと同時に、キリトも感じた。

 死神に、リュウキが勝ったのだという事を、感じた。それは理屈じゃない。あの世界で共に戦ってきた戦友だからこそ、の共感(もの)だった。



「……はは。ちゃんと、こなしただろ? やっぱ、お前も絶対強い、よ。 ……リュウキ」



 違う場所で、激闘を制し、拳をあげているであろう戦友に向かって。……最後の最後まで諦めずに、戦い続けていた少女に向かって、キリトは拳を上げたのだった。

























 そして、戦闘は終わりを告げた。

 比較的、戦闘場所が近かったリュウキが先にシノンと合流し、そして やや遅れてキリトが2人に合流した。シノンは、2人を見て何かを言おうと唇を開いたが 言葉は見つからなかった。

――……自分に出来る事をする。最後の最後まで、諦めない。

 それは、この2人から教わった。だからこそ、あの最後の一弾(ラスト・アタック)を放つ事が出来たのだ。
 諦めない強い心、精神力が シノンに力を与えたのだろうか。へカートをキリトの方へと構えつつ、腰にさしてあるサイドアームのグロッグ18Cをリュウキの方へと向けたのだ。

 如何に筋力値(STR)をあげているとは言え、対物ライフルとハンドガンの2丁同時に扱う様な事は、例え照準線だけとは言え、数値的には不可能だろう。
 
 だが、シノンは体現したのだ。……其々の敵、死神と死銃の急所にその弾丸を当てる事にも成功させている。もう、これこそテクニックとは言えない、と言う事を シノンは何処かで納得する事が出来ていた。

 それを感じ取ってなのか、或いは偶然なのか。リュウキとキリトは同時に両方の拳をつきだした。2人であれば、片方だけで十分だが、今回は3人だ。……3人で戦い、そして勝利を得たのだから。

 シノンもその意図を察し、へカートを自身の肩に立てかけ、両拳を突き出し、キリトの右拳、リュウキの左拳へと、こつん……と当てた。

「終わった、な」
「……ああ。随分と長く感じた。……久しくなかった感覚だ」

 2人は、両拳をおろしながら呟き、そして 2人共がこの世界の空を見上げた。シノンも軽く微笑みながら、つられて空を見上げた。

 いつの間にか、この世界全体を覆っていた大きな雲が切れているのだ。……大きな雲が隠していたのは、……この世界の星々だった。

 この世界は最終戦争の影響で、常に厚い雲に覆われていた。日中は長くみてると憂鬱とさえ感じる黄昏色が消えず、夜空でさえ、どこか濁った血の色にさえ見えていた程だ。

 シノンは、その空を眺めながら思い返していた。


――……街の長老NPCが、言ってたっけ。……いつか、地の毒が浄化されて、白い砂へと還る時に雲が消えて、……こんな空が見えるって。


 そして、更に考える。もし、毒と言うのが かつて彼らが戦ってきたあの世界での毒。……殺人者達であり、それを倒した事で、この世界の毒をも連鎖的に払ってくれたのではないか、と。

 だが、それはあくまで当て付けだ。2人が来るよりも前からこの話はあったのだから。 
 だから、本当はこの砂漠は普段プレイヤー達が彷徨っている荒野ではなく、遥か未来。……この世界の毒とやらが、浄化された世界、約束の地であるかもしれない。

 美しい夜空を眺め、シノンはしばらく言葉を失っていた時、キリトが口を開いた。

「そろそろ、大会の方も終わらせた方がいいんじゃないか?」

 ため息を軽くつきながら、そう言うキリト。……勿論、それには理由があった。リュウキも大体判っている様で、同じくため息を吐く。

「……だな。これだけ、囲まれたら 急かされているようにも思えるよ。……ったく、こっちの気も知らないで」

 リュウキの愚痴を訊いて、シノンも改めて自分たちの周囲を見た。

 そこには……これまでとは比べ物にならない程の数の中継カメラが浮遊しているのだ。 どんな角度の、どんな攻撃も全てを記録する。と言わんばかりに配置されたカメラ。ふよふよ、と浮かび、飛び回る動きは まるで、リュウキが言う通り 『さっさとやれー!』『戦えーー!』と急かされている、煽られている気分になってくるのだ。

「……確かに、ね」
 
 シノンは、口元に手をおいて、軽く吹く。心から開放された、そんな気分だった。だからこその笑みだ。

「まぁ、とりあえず この世界での危険はなくなったんだ。連中が倒れた以上、シノンを狙ってたヤツも姿を消した筈だし」
「……だな。《GGO内であの黒い銃に撃たれたプレイヤーは現実世界でも死ぬ》。……狂気地味た伝説を作るのが、奴らの目的で、闇雲に殺人を繰り返す様な連中でもない。……必ず何かを求めているんだから、な。……だが、シノン。念のために警察に知らせておいた方がいい。……近くにまだいる可能性は捨てきれないからな」

 リュウキの言葉に、キリトも頷いた。この戦いが、本当の決戦が終わるまで、シノンの傍から離れなかった筈だから。
 だが、シノンは首を捻る。

「……でも、110番して、一体なんて説明をしたらいいの? VRMMOの中で同時殺人を企んでいる人が……、なんて言っても絶対にすぐには信じてくれないでしょう?」

 それを訊いた2人は、それも道理だ。と唸った。

「ん~~……確かに、なぁ。なんか案はない? 警察にリュウキの名前を出す~とか」
「……いったいオレは何者だよ。デス○ートの○ルか? オレは。 んな権限は持ってない。……が、オレたちの依頼主なら、信じる。……と言うか間違いなく思うだろう。だから、其々の人たちに……っと」
「……ああ、確かに(……でも、ちょっと古い気がする。その例え)」

 リュウキが最後まで言うのを辞めたその理由を、キリトも察した。

「ん? どうしたの?」

 シノンはリュウキ、そしてキリトのほうを交互に見て、訊いた。

「いや。……直ぐに信じてくれる人が傍にいる、とは言え、シノンの所へといかないと行けない、だろう? ……現実(リアル)の情報は御法度だ、と言う事だ」
「うんうん……。非常時とは言え、まさか ここで住所や名前なんか訊けないだろう……?」

 2人はベテランVRMMOプレイヤーだ。だからこそ、マナー違反行為くらい熟知している。それは恐るべき、と称される行為なのだ。リアルの情報、と言うのは。

「来てくれる……っ!」

 シノンは、この時 思わず 来てくれる事に喜びを感じていた事に気づいた。だから、直ぐに口を噤む。……2人には聞こえてなかったのは僥倖だった。

 1度、2度と頭を振ると 口を開いた。

「いいわ。教える」

 そう、はっきりと答える。先ほどよりも大きな声、そして 2人にもそれは届いていた。

「大丈夫か?」
「……う~ん、そうだよ。大丈夫なのか? 現実の、話は……」

 2人の顔を見て、呆れた様子になるのはシノンだ。

「だってもう今更じゃない。これだけ、話したんだから。……それに」

 シノンはゆっくりと頷くと、真剣な表情へと変わる。慈しむものへと……。

「……私、自分から昔の事件の事を話したの、初めてだったから」

 過去の話はシノンにとっては、心の闇。……心の傷。 
 だけど、こうやって振り返っても、もうあの男は現れない。……あの銃も無い。全て、壊してくれたから。……封じてくれたから。

「……オレたちも、そうじゃないか? なぁ、キリト」
「うん。オレも思うよ……」

 2人の過去の事。それをここまで詳しく話したのは シノンが初めてだったのは言うまでもない。……キリトとリュウキは、誰にも話していないから。……家族にも。

 其々の心の底を明かしあった。その事が何処かもどかしさを覚えるが、シノンは直ぐに2人に駆け寄って囁いた。例え 闇を封印してくれたとしても、自分は人見知り。……現実の自分と今の自分は確実に同居しているのだから、その自分が顔を出して、前言撤回をしかねないから。


「……私の名前は――朝田誌乃。住所は――――」


 住所の全てを訊いた時、リュウキの脳裏に彼女の名前が染み込んだ。《朝田誌乃》と言う名前に、だ。
 そう、ごく最近に、その名字を訊いた覚えがあるからだ。

 あの時(・・・)は、下の名前までは言ってなかったから、定かではない。だが、心の闇と、あの時の瞳に感じた懊悩。一致している面が多すぎた。

 そして、キリトも驚いていた。だが、理由はリュウキとは違う。

「驚いたな。オレが今ダイブしているのは、千代田区お茶の水だし」
「え? ええ!? 目と鼻の先じゃない」

 いくらなんでも近い、とシノンも仰天していた。

「はは…… これなら、いっそログアウトしたら、オレ達がそのまま駆けつけたほうが早いかもしれないな。って、リュウキの家からの方が近いか。バイクなら、車よりも早いと思うし」
「っ……」

 シノンは思わず口を噤んだ。来てくれるの、と先ほども思って、声を上げそうだったから。今回はしっかりと言うのを我慢する事が出来ていた。

「ううん。大丈夫。近くに、信用できる友達が住んでるから……」

 シノンはそう返事を返した。
 この中継を見ているであろうシュピーゲル。新川恭二。開業医の次男坊だ。……今日の中継をどこまで見たのかは判らないが、思わず 目の前の彼に(アバターは女そのものだが)抱きついているシーンを見られていたとしたら、どうやっていい訳をすればいいか、と頭を悩ます問題となってしまっているのだ。
 だけど、ちゃんと説明はしなければならないだろう。……期待をさせてしまった自分にも非があるのだから。

「それにさ。……その人、お医者さんちの子だか「っっ!!!」 っ?? どうしたの??」

 暫く考え込んでいる様な仕草をしていたリュウキが突然顔を上げた事に、シノンは思わず驚きを上げていた。

 この時、シノンは もしかしたら自分に何か危害が加えられていたのか? と心配されたのだろうか、程度にしか思っていなかったが……。


「どうしたんだ? リュウキ」
「……い、いや、なんでもない」

 リュウキは歯切れが悪い言葉を返すだけだった。だが、直ぐにリュウキが首を振る。

「……病院(・・)とは、あまり洒落になるような事じゃない、と思って、な。それに依頼主経由で警察にも連絡を入れておかないといけない、だろ」
「あ、確かに。……共犯者もそうだし、オレ達が倒した2人の事も、捜査しないといけないからな」
 
 リュウキはそう付け加え、キリトも納得していた。
 それを訊いたシノンは、やっぱり、と感じてやや照れてしまっていた。共犯者の事も勿論不安の種だが、それよりも、自分の事を心配をしてくれているのだから。

 だが、それも一瞬だった。少し2人に睨みを効かせる。……まだ、訊いていないから。

「それはそうと、私にだけ個人情報を開示させて終わろうっていうの?」

 その言葉を訊いて、キリトは はっ としていた。確かに名乗らせておいて、自分は、自分たちは何も言っていないのだから。

「あ、っとと、ご、ごめん。オレの名前は、桐ヶ谷(きりがや) 和人(かずと)。ダイブしているのはお茶の水だけど、家は――……」

 慌てふためき、先に開示したのはキリトだ。それを訊いたシノンは軽く笑う。緊迫した状況と言えばそうなのに、それにも関わらずだ。

「キリガヤ カズト、でキリトね。確かに安易なネーミングだわ」
「って、それはシノンには言われたくないな!」
「ふふ。それで、その……リュウキの方もこんな感じだったりするの? キリトと同じ感じだって言ってたし」

 シノンは、少しだけ ほんの少しだけ 表情を引き締め直した。


――心の何処かで、()の本名を訊くのが待ち遠しかった気がするから。


 それは、キリトだけが訊いていた。

 あの3輪バギーの上での叫び。リュウキの名を呼ばなかったのだ。それは キリトだけしか知らない。……シノンは あの時 精神が不安定だったからこそ、何を口走ったのか、よく覚えていなかったから。





「あ、ああ。……オレの名は 竜崎(りゅうざき)。……竜崎(りゅうざき)隼人(はやと)だ。現在のダイブ先は自宅d「っっ!!」っ!?」



 その名前を訊いた途端、弾かれたようにシノンは動いた。己の分身とまで形容していたへカートを押しのける勢いで、リュウキの胸に向かって、飛び込んだ。


――へカートの重みも一緒に、リュウキは、隼人は背負ってくれた。シノンは、いや 誌乃はいつだったか判らない。……何処かで心の何処かでは確信していたんだ。


 彼が、あの時の《隼人》だと言う事を。








 
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