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怖い家

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3部分:第三章


第三章

「嘘吐きは嘘吐きのままだ。だが俺は違う」
「はあ」
「組織の刺客は抹殺する!」
 またしてもわからない言葉だった。
「この俺が!許さんぞ!」
 そう言うと彼は。何とすぐ側にあった花瓶をつかんで投げてきたのであった。
「死ね!神の前でな!」
「神!?」
「だから言っているだろう!俺の目は誤魔化すことはできん!」
「う、うわっ!」
 飛んで来た花瓶を何とか避ける。花瓶は扉に当たって粉々に割れてしまった。割れた花瓶から水と花が飛び散る。それは上村にもかかった。
「よけたか。それこそが組織の刺客の証拠だ」
 男は何とか危機を避けた上村を見据えながらまた言ってきた。
「俺の目は確かだ。今度こそ貴様を殺す」
「殺すって・・・・・・」
「俺のこの手には黒い破邪の鎚がある」
 今度はまたすぐ側にあったゴルフクラブを掴んできたのだった。それを両手に持って振り回してきた。
「死ね!地獄に落ちろ!」
「なっ、何なんだ一体!」
 流石にもう仕事にはならなかった。振り回すクラブを必死に避けつつ扉を開けて家を出るのだった。
「だ、誰か!」
 家を出ながら助けを呼ぶ。
「誰かいませんか!人殺しです!」
「黙れ!人殺しは御前だ!」
 しかし男は相変わらずだった。何とブリーフとソックスのまま家から出て来て上村を追いかけて来る。そのうえでクラブを振り回し続けている。
「組織の刺客め!俺には神のお告げがある!」
「神!?」
「そうだ!白き偉大な破邪の神だ!」
 よくわからないことを喚きながら迫って来る。
「俺にはその神がおられる!逃げられんぞ!」
「逃げるも逃げられないも」
 後ろからとんでもない速さで追いかけてくる男から何とか逃れている。もう玄関を出てそこから道路に出る。しかしまだ男はクラブを持って追いかけて来ている。
「何なんだ一体」
「死ね、悪魔!」 
 今度の言葉はこれだった。
「悪魔は神によって滅ぼされる!覚悟しろ!」
「だ、誰か!」
 上村は何とか逃げながら助けを呼びだした。
「何とかして下さい!狂人です!」
「誰が狂人だ!俺は本気だ!」
 しかし相手は己を疑うことは微塵もない。やはり何処までもおかしかった。
「俺を疑うのは悪魔の証拠!悪魔よ、滅べ!」
「うわあああああーーーーーーーーーっ!」
 クラブが背中に打たれ倒れる。だがそこでやっと通報されたか駆け付けて来た警官達が男を捕らえる。それで何とか助かった上村だった。
 この事件の後で色々なことがわかった。何とか軽傷で済んだ上村は傷が癒えて出社できるようになってから事件の顛末をあらためて課長に話す。それを聞いた課長はまずはこう言ってきた。
「まずは君の命が助かって何よりだ」
「はい」
「よかったよ。聞けば下手をすれば死んでいた」
「殺されるかと思いました」
 上村は深刻な顔で課長に答えた。
「少なくとも相手は完全に私を殺すつもりでした」
「悪魔としてか」
「何かそんなことを言っていました」
 このこともまた認めるのだった。
「神がどうとか悪魔がどうとか」
「らしいな。わしも話は警察の方から少し聞いた」
「そうでしたか」
「あの男はな」
「ええ」
 話が上村を襲ったその男に関するものに移った。
「元々かなりおかしかったらしい」
「おかしかったのですか」
「近所でも有名な変わり者だったらしい」
 まずはこう言われた。
「それもかなりな」
「かなりですか」
「そう、簡単に言うとだ」
「狂人だったと」
「そう言ってもいいな。何か少しでも気に入らないことがあると発作的に暴れ」
 こうした人間は実際に存在している。
「しかも通常的に嘘をつき窃盗や暴行の常習者だったらしい」
「随分と危険な男だったんですね」
「何でも幼い頃両親から酷い虐待を受けていたらしい」
「虐待をですか」
「それでそうなったらしい」
 男がそうなった理由についても述べられる。何事もまず原因や理由がある。今回もまたそれは同じであった。そういうことであった。
「それでだ。職も長続きせず事故で死んだ両親の保険金や生活保護で生きていたそうだ」
「そうだったのですか」
「家で一人暮らしだったらしい」
 課長はこのことも聞いていたのだった。
「それで一人で暮らしていてさらに生活も人格もおかしくなっていき」
「そういえばですね、課長」
 ここで上村はあることに気付いた。
「どうした?」
「あの男何かやっていたようですが」
 彼が言うのはこのことだった。
「何か?」
「はい、具体的に言うと薬です」
 怪訝な顔で課長に述べるのだった。
「あの男、薬もやっていたんじゃと思うのですが」
「ああ、それか」
 課長はそれを聞いても驚かなかった。むしろごく当然といった様子で聞いていた。
「実はその通りなんだよ」
「そうですか。やっぱり」
「そう思ったのも当然だな、聞くところによるとな」
「ええ」
「やばい筋から薬を手に入れてやっていたそうだ。覚醒剤だ」
「やっぱりそれですか」
 上村もまた話を聞いても全然驚かなかった。これは実経験ではっきりとわかっていることだったからだ。やはりそうかと思うだけであった。
「そう、それで余計におかしかったらしい。近所の人達もそれでさらに付き合わなくなったらしいな」
「そうでしたか、やっぱり」
「君がそこに入ったのはな。運が悪かった」
「運、ですか」
「わしも済まないことをしたと思っている」
 課長は今度は謝罪の言葉を述べてきた。
「そんなおかしな人間がいると聞いていたら注意しておくべきだった」
「いえ、それはいいです」
 だが上村は課長のその謝罪はいいとして受けないのだった。
 
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