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衛宮士郎の新たなる道

作者:昼猫
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オープニング Fate/parallel world
  第1話 訪れる夜

 「魔術・・・・・・ねぇ~」

 此処は、神奈川県の七浜の埋め立て地に建てられた九鬼財閥の極東本部の一室である。
 そこには、九鬼従者部隊のトップ陣を含む5人がいた。
 1人は、九鬼従者部隊永久欠番のヒューム・ヘルシングと言う金髪の獅子を沸騰させる老執事の男性で、元武神である川神院現総代の川神鉄心とは全盛期から強敵(旧知)の中で在る殺戮執事。
 1人は、九鬼従者部隊第2位のミス・マープルと名乗る初老の女性で、あらゆる知識を蓄えている事から『星の図書館』と言う異名をとっている。
 1人は、九鬼従者部隊第3位のクラウディオ・ネエロと言う老執事で、執事学校を首席で卒業した経歴を持つ完璧執事である。
 武力はヒューム・ヘルシングに大きく劣るモノの、忍者の一族や暗殺家業をしてきたプロたちも舌を巻くほどの卓越した鋼糸を使った戦闘術により、九鬼従者部隊の戦闘者のトップ陣の1人でもある。
 1人は、九鬼従者部隊第1位の忍足あずみと言うお姉さん(29歳)独身。
 元々風魔一族のくノ一であり、技を一通り収めた後に野に下ってからは傭兵家業をしていた。
 その時についた異名は『女王蜂』と言う。得物は小太刀を使った二刀流を好む。
 九鬼家長男坊、九鬼英雄の専属である万能メイドだ。
 そして最後の1人が、九鬼財閥の現総帥の九鬼帝である。
 元々は、それなりの財閥だったのを自らの手腕で世界的大企業に押し上げた傑物だ。
 向かうところ敵なしでは無く、敗北や失敗も多い。
 しかし、ここぞと言う所では負けた事はない底力の持ち主でもある。
 それと徹底した実力主義であり、その人材に脛に傷を持つ身でも優秀であれば躊躇いなくスカウトする思想を持っている。
 そんなメンバーが話し合っているのは、先程帝が零した世界の裏の中の裏に存在している事象――――魔術に関する話し合いだ。
 口調から解る通り九鬼帝は、魔術が現実に存在していた事を初めて知った様だ。

 「お前らが俺にそんな嘘を付く筈も無いが、如何して今そんな事を俺に話した?本来は秘匿するべき事なんだろ?」
 「ええ、ですがその様に悠長な事も言ってられなくなりました」

 ヒュームは、帝の疑問にはっきりと答える。
 そして他の従者たちも続く。

 「現在世界各地で様々な謎の現象が起きているのは帝様もご存じの事でしょうが、そのほとんどがシャドウサーヴァントの仕業なのです」
 「シャドウサーヴァント?また聞きなれない単語が出て来たな」

 帝の疑問にマープルが答える。
 その前に英霊とサーヴァントについて答える。簡単に。
 英霊とは、神話・伝説であろうと史実であろうと人々の想念――――信仰心によって世界から祭り上げられていった英雄達を精霊にまで押し上げられた存在である。
 次にサーヴァントとは、その英霊達を特殊な術式を持ってある程度に力を制限させて現界させた使い魔の事。
 そしてシャドウサーヴァントとはサーヴァントたちの残りカスで、人格にステータスもかなり劣化しており柔軟な発想も出来ない常闇の危険な木偶人形の事である。

 「――――ということです。しかし我々にも理解できていない事があります。シャドウサーヴァントは本来のサーヴァントが消滅した後に、出現する者です」
 「それの何所がおかしいんだ?」
 「今回は何故か先にシャドウサーヴァントの方が先に出現していますので、我々が把握していた常識とは違うのです」

 マープルの後にクラウディオが引き継いだ。
 2人の説明を聞き終えた帝は、顎を撫でるようなしぐさを見せた。

 「成程・・・・・・で?俺に如何して欲しいんだ?俺になんか要望があるから話したんだろ?」
 「いえ、現時点では帝様にこの件での要望はありません。ですが、急を要した時に報告しても手遅れになる可能性もあったので、耳に通しておこうかと愚考したまでです」

 詰まる所何かあった時に対する時のための措置であった。

 「保険策か。お前らしくも無いな、ヒューム。・・・・・・・・・つまり、そのシャドウサーヴァントがそれほどに強いって事か?」
 「個体によりますが、先程伝えました通り本来よりも劣化してますので大体の奴らはそれ程の攻撃力はありません。しかし私の家はあくまでも不死殺しの一族ですので、一応攻撃を与える事は可能ですが効果は薄いのです」

 そのヒュームの目は真横の2人に眼を向ける。

 「そして私とマープルは魔術を修めてはいますが、あくまでも学問としてですので、戦闘に応用できるのは強化と言う名の変化のみです」
 「詰まる所、お前らの現在臨み求めているのは即戦力になりうる戦闘面に特化した魔術師か?」
 「正確には魔術使いですね」

 マープルが帝の解釈を補足した。

 「そんな事を一々言わなくてもいいだろう?それで心当たりでもあるのか?」
 『・・・・・・・・・・・・』

 帝の疑問に押し黙る側近達3人。
 それだけ今回の問題が相当なものだと推し量れた。
 そこで、今この場でほとんど発言していないあずみに眼を向けた。

 「そういやぁ、あずみも魔術師なのか?」
 「いえ、私の忍足は元々風魔の一族で、我々の祖が日本各地の魔術師の家系とそれなりの距離を保ちつつの関係があったが故に知り得ていますが、私は使えません」
 「そんじゃ、日本の魔術師の家系がどれほど残っているか知ってるのか?」
 「申し訳ありませんが私では・・・。ですが、日本の3大名家は魔術師――――というよりも呪術師の家系で、今もなお修めている可能性があるかと」
 「しかし我々が求めているのは戦闘に特化した魔術使いなので、ただ魔術を修めているだけでは駄目なのです」

 帝の疑問にあずみは答えたが、結局打開策に成るような内容では無かった。

 「お前らの事だ。俺に話す前に九鬼の従者部隊の全員も一応調べてるんだろ?」
 「いえ、既に完了しております」

 つまり、魔術師としての才能があるモノは皆無の上、魔術師その者も居なかったと言う事だ。

 「これからは外部にも目を向けようと思っています」
 「具体的には?」
 「川神院の鉄心に話を聞こうと思っております。あ奴は魔術師ではありませんが、魔術師が実在している事は把握しておりますので」
 「他も手あたり次第に当たります。無論、魔術師の実在を知っているのは少数なので伏せながらですが・・・・・・」
 「手あたり次第・・・か。だが藤村組は無理だろうな。まぁ、俺が悪いんだけどよ」

 藤村組。
 関東圏に絶大な影響力を持つ極道の組織である。
 こう言われてしまえば、関東圏内の民間人は藤村組を日々恐れている――――なんてことは無く、寧ろ地元では非公式的な第2の警察とまで言われている。
 事実、地元で何かしらの事件で被疑者の捜索を行う上で、人手が足らない時に地元の警察署から応援を頼まれるほどの信頼を勝ち取っている。
 最初は小さな組織だったが、いたずらに暴れまわる他の極道の組織を併呑していき、当時の組長であった藤村雷画の人心掌握術と圧倒的なカリスマ性で完全に統率していき、少しづつ反逆の目を潰しても言った。
 そうして地盤を固めていったが、当時は華族である名家に成りあがりの不良崩れと陰口を叩かれていた。本人たちは全く気にしなかったが。
 そして今では、日本全国の地主・大地主や各地方の有力者とも横の繋がりを太くしていき、世界の川神や成り上がりの大企業九鬼財閥と日本国内限定では渡り合えるようにまで成長していった。
 しかし約半年前、九鬼財閥の従者部隊の30番台の1人の男が川神で腰を据えて行うプロジェクトを秘密裏に知り得た。
 そこでさらに出世をするためにと、功績を上げるためによりにも拠って藤村組の弱みを探り始めた。
 男は入社してから長い間ずっと欧州の支部で働いていた事もあって、ここ日本の何たるかには鈍く、藤村組も民間人を危険にさらす程度の組織位の認識しか持っていなかったのだ。
 しかし中々外からでは見つけられずに、遂にしびれを切らした男は、藤村組の中枢とも言うべき藤村邸の中に潜入したのだった。
 従者部隊30番台と言う自信を持っていたがために、この危険な賭けにも勝ち得ることが出来ると考えたのだ。
 しかしそれは誤りだった。
 藤村組は鈍物の集まりでは無い。規模では負けるモノの、1人1人の組員の腕っぷしの練度では寧ろ勝っていたのだ。
 それ以前に、その男が藤村組を嗅ぎまわっていた事は既にばれていたのもあって、あっという間に捕まったのだ。
 しかしその男には自分よりも下位の部下たちがおり、緊急連絡してしまった事で騒動の規模が大きくなった。
 その緊急連絡を受けた部下数人は、藤村組に入ろうとしたが組員に門前払いを喰らう。
 勿論納得できない部下たちは何度も入れさせろと要求して言い争いになり、騒ぎが大きくなっていく内に近所の住民が警察に通報したのだ。
 しかも内容は、藤村邸に怪しい人たちが押し入ろうとしていると言うモノだった。
 そして警察も介入してからやっと騒動は一時的に静まってから侵入した男を九鬼に引き渡したが、男は自分は攫われて暴力を受けたと世間に公表したことでさらに炎上していった。
 その出鱈目に切れた藤村組全体が、警察に通報して弁護士も通して裁判モノになった。
 正直に言えば、その男に生き地獄を合わせたかったが、藤村組で保護している隣の邸宅の少年の説得により、法に従うと言うやり方を取る事に成った。
 そして幾つもの証拠を見つけた上で、結果的にその男は懲役〇年に処された。
 勿論男は控訴したが、それも棄却された。
 功を焦ったが故に奈落に沈んだ男の末路だった。
 しかしこれでこの騒動は終わらなかった。
 企業からその様な騒動が起きた九鬼財閥は、一気に業績は下向きになり、九鬼財閥を成り上がりと邪魔に思っていた他の企業も陰険な嫌がらせなども受けたので下がる一方だったが、九鬼財閥の首脳陣が過労死しかねないほどの働きを見せた事によりたった1ヶ月で何とか業績を元に戻しって行く事に成功したのだ。
 だが問題はもう一つあった。
 九鬼財閥全体を守るために九鬼のトップである帝は、ある重大な事を忘れていたのだ。
 九鬼財閥全体を守ると言う事に比べれば些細な問題だったが、今の時代で信用を取り戻すと言うのは並大抵の事では無い。
 にも拘らず、何と一月もの間藤村邸へに謝罪しに行くことを忘れていたのだ。
 忙殺モノだったからと言って許されるモノでは無かった。
 その日の内に急ぎ謝罪をしに行ったが、門が開かれることは無かった。
 それから毎日のように最低1時間以上は門の前で土下座する日が続いたが、結局開かれることは無かった上、冬木市に九鬼財閥関係者が入るだけで住民たちからの白眼視に晒されて行った。
 地元の警察署ですらあまり対応が良くないのだから、住民たちがどれだけ藤村組に信を置いているかが分かるだろう。
 あれから数ヶ月経った今では、住民たちからの白眼視に晒されることはなくなったモノの、未だにあの騒動の溝は深く、誰もかれもが余所余所しかった。
 そして今に戻る。

 「あの件につきましては私にも責任があります、帝様。武士道プランの発案者は私なのですから」
 「別に今あの時の責任について問う気は無いんだぜ?マープル。――――まぁ、兎も角、この件に関しちゃあ俺は手に終えそうにないからしっかり頼んだぞ?」
 『はい』

 そうして、4月初めの宵の中での九鬼財閥首脳陣の極秘会議は終わりを迎えた。


 -Interlude-


 キンッ!!

 同じころ、川神市の親不孝通りの幾つもの建物の屋上にて、人世に知られぬ戦いがあった。

 「キキ」

 2つの影が幾度もぶつかり合う様に、互いの得物が衝突するたびに夜の街を一瞬だけ照らす火花が起こる。

 「フンッ!」

 一方は赤い外套に身を包み、髑髏の仮面で面貌が分かりづらくなっている人物だ。
 両手の指の間に挟むように、投擲用の剣である黒鍵を使い、相手へ先程から投擲している。
 もう一方は黒い外套に身を包み、こちらも髑髏の仮面を付ける怪人だった。
 しかし赤い外套に身を包んでいる人物とは異なり、その怪人の体中を黒い霧の様なモノで包み込まれているのか、姿かたちが少し見づらい。
 投擲されてきた黒鍵を、左手に持つ短刀(ダーク)をこちらも投擲して防いだり、持ち前の身体能力で器用に躱していた。
 しかし一度、大きく空に向かって躱したのが不味かった。
 いつの間にかに赤い外套に身を包んだ人物は、先程までどこにも持っていなかったはずの黒い洋弓と弓矢を使い、黒い外套の怪人に狙いを定めていたのだ。
 これに一か八かの対処として、ダークの投擲に自分が被っていた外套を相手に向かって投げ捨てた。
 ダークは牽制で、外套は目くらましとしてのモノだ。
 だが赤い外套の人物の射には、何の影響も及ぼさなかった。
 彼の中では既に命中しているのだから。

 「ガッ!?」

 心臓に。
 致命傷を負った黒い霧に包まれた怪人は、その場に最初から居なかったかのように、魔力の滓になって消えて行った。

 「ふぅ。今日も何とか片付いたか」

 赤い外套の人物は、一息ついてから黒い洋弓を消した。
 そこへ殺気と戦闘意欲を滾らせている誰かが、下からこの屋上に上がって気配を感じた。
 その誰かとは――――。


 -Interlude-


 「はぁ~~~」

 黒髪の美少女、川神百代は、自宅である川神院に帰るために親不孝通りを抜けるところだった。
 何時もの彼女は、本来ならこの時間帯にこんな場所に居ないのだが、戦闘狂(バトルジャンキー)である彼女にこんな時間帯に果たし状が書かれているんだからそれに応じるのが彼女だった。
 だが蓋を開けてみれば何時もの様に一撃で沈んでしまった。
 確かに戦いは好きだが、もっとワクワクするような相手との戦闘がしたいと言うのが本音だった。

 (加減しても簡単に終わるし、ある程度強くてもちょっと本気出せばどちらにしても一撃で終わってしまう。もっと楽しめる奴とやりあいたいな~)

 だがそんな奴は少なくともこの周辺には、身内である川神院や九鬼鉄工部門を継いだライバル、九鬼揚羽位しかいないと言うのも理解していた。
 それに誰もかれもそう言う奴に限って、忙しかったりして相手にしてもらえる機会が少なかった。

 (グズグズ悩んでるなんて私らしくないし、とっとと帰って、シャワー浴びて寝るか)

 落ちた気分を無理矢理戻して、川神院に走って帰ろうとした時だった。

 「ん?」

 彼女の視界の上の方――――正確には、ビルの屋上の間を駆ける影を見かけた。
 その影が別の影と交差しあう度に金属音の音が鳴り響いた。
 しかしそれは只の金属音では無い。
 それは武器と武器がぶつかり合う音だった。
 しかもそれは川神学園で生徒同士の決闘で使われるレプリカなんぞではない。
 切り割けば血が噴き出る本物同士だ。
 だが、一般人がこんな事を音だけで判断出来るの訳がない。
 出来るとすれば最低でも一流の武芸者か、よほどの戦闘狂(バトルジャンキー)の2択だけだ。
 勿論、百代は後者である。

 「なんだなんだ?随分楽しそうなことをしてる奴らがいるな!」

 屋上に直も眼を向け続けているだけで、百代は意気高揚していた。
 何せ自分の視力をもってしても、ビルとビルの間を飛び交う影の輪郭がおぼろげにしか見えないのだ。
 たったこれだけでビルの屋上での戦闘も、戦っている奴らのレベルも非常に高い事が分かってくる。
 これでは日々強者との戦闘を求めて病まない百代に、興奮するなと言うのが無理と言うモノだろう。

 「フフフ、もう我慢の現界、だっ!」

 強者に餓えた武神は、今迄とは別の何かとの遭遇に興奮しながら屋上まで一気に跳躍した。
 しかしそこには誰も居なかった。

 「なっ!なんで!?確かにさっきまでは、戦ってたはずなのに・・・」

 百代はあまりの事に愕然とした。
 まずどれ程の強者かとメンツを確認し、あわよくば自分も戦闘に乱入しようと目論んでいた結果がこれなのだから、無理らしからぬことだろう。
 そんな百代を、それなりに距離の離れた別のビルの屋上の給水塔の裏で、赤い外套の人物――――衛宮士郎は盗み見ていた。

 「如何して川神がこんな時間にこんな所で・・・?」

 ここは治安が怪しい親不孝通りで、しかも夜だ。
 正直、彼女の自宅である川神院に送って行きたい気持ちに駆られるが、極力女性に手を上げることを良しとしない士郎としては百代と戦いたくないことに加えて、魔術師の事で彼女を巻き込むわけにはいかないと言う責任感から士郎はその場をから黙って離れる事にした。
 しかし士郎は勿論、百代自身も気づけなかった。
 士郎とは別に、暗がりの闇の一角から彼女を盗み見ていたある視線が合った事に。
 そして彼女を見ていた存在は確かにこう呟いた。

 『ミ・ツ・ケ・タ』 
 

 
後書き
 昨日、『シャア専用』と言う文字の入ったシールが、助手席の窓に張られている赤いトラックを見ました。土木関係のトラックです。
 私の家から、一番近いセブンイレブンの駐車場に止まっている所を、たまたま見かけました。
 ええ、それだけです。 
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