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少年は魔人になるようです

作者:Hate・R
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第106話 少年達は解答に疑問を重ねるようです


Side ―――

【――――魔法世界の諸君、こんばんは。良い夜だな。】


その映像は唐突に、ノイズと共に魔法世界全土の夜を照らし出した。

空中に浮かび上がっているのは、黒いフードを目深に被った中性的な声の人物。


【さて、こんな夜に御誂え向きの話だ。―――この世界を、我々が終わらせようと思う。】

「………正に噂をすれば影って奴ね。」

「どっかで見てたようなタイミングだな、薄気味わりぃ。でも……。」


憎々しげに歯を食いしばり、ネギに視線を投げる千雨。その眼は、下層に居る刹那と同じく

気付いた者の眼であり、ネギも同様かと問うている。この影は間違いなく『完全なる世界』の

一味だ。"でも"聞き覚えのある声が、何故、この映像で喋っているのか?と。


【勘違いの無いように言っておこう。そう、心して聞いて欲しい。

――今、この世界は滅びに向かっている。ゆっくりと、確実に。】


しかしそんな疑問と疑念も、朗々と響く声を聞くうちに薄れて行く。全ては計画通りに、

ある認識阻害と同時にこの世界を覆う様にかけられた、精神に入り込む魔法の為である。
 

【それは、この世界を創造した者と賛同した嘗ての世界の同胞達の魔力が枯渇し、世界存続の

危機に今、直面している――否!10年前の大戦がそれを解決すべく、決意の下動いたもので

あった!行動した者が誰かは諸君も知っていよう!それが『始りの魔法使い 造物主(ライフメイカー)』だ!

では何故そのような結論に至ったのか!?旧世界より"人間"が侵入して来た事により平和だった

この世界に無為な争いを巻き起こし!魔力の消費を加速させたからだ!】


優しい声音が急に荒々しく怒気に満ちたものとなり、映像の人物が言う"人間"はビクリと体を

震わせる。それは決して大声に驚いてではない。己の魂に刻まれた、感情や記憶――人間が

手繰り、理解する事が出来るものより更に高次元の、自分の根源に"刻まれた"もの。


【しかし!!我々はこの世界を誰よりも思い、憂い、存続させて来た彼女の行動を悪として

退けた!その結果が今日までの平和だとも言えよう!だが!それが本当の平和だろうか!?

幸福だろうか!?

私は彼女と話し合い!そして否定し戦った!だがそれは彼女もまた迷っていたからである!

故に私は彼女を否定した!しかしそれは拒絶ではなく、歩み寄る為だ!】


黒い影が演技掛かった仕草で腕を横に振るい、ローブが靡く。それが重力に従い落ちると、

背後に複数の影が現れる。・・・尤も、最初に現れた影と似た者以外は白髪・巨体・虹髪と

影と言うには些か派手だ。そしてそれらが何者か気づいた十数人は、最初に現れた影が

『完全なる世界』の一員だと漸く認める。


『私は彼らと、『完全なる世界』と再び世界を生まれ代わらせる為行動して来た!だがそれは、

諸君との敵対の為ではない!その証拠として!』


再び、反対の腕が横に振われローブが靡いた先。円卓に座る数人の映像が映し出されていた。

魔法世界の人々には見慣れた場所だが、余人は決して立ち入れない場所、MM元老院の心臓部。

この世界における最高権力者()達が居座る机の中央に音もなく現れた黒髪の美女・・・

刀子が手にした日本刀を抜き放ち、一般人にも見える速度で周囲360度に円を描く。

何も付着していないが汚いモノを払う様に振るい、納刀。小さな金属音と同時に――-

ゴロンッ
「ヒッ……!」

「なっ……!?」


円卓に座った全員の首が、全く同時に転げ落ちる。それまで静かに演説を聞いていた民衆で

あったが、流石の衝撃に悲鳴を上げる者も少なからず現れ、パニックになりかけるが、呆然と

見上げていた中から、死体を指差す人が現れた。


「……おい、あの死体変じゃね?」

「な、何が変、って………?」


それを見ていた人々も落ち着きを取り戻し――それが最早異常ではあるが――映像を見て、

異変に気付く。真っ直ぐに座ったままの死体からも、転がった首からも、一滴の血も

出ていないのだ。そして、騒ぎが起こり、静まる事も分かっていた様に、ざわめきが収まる

のを待ち、ジャストのタイミングで再開される。


『お分かり頂けただろうか?我らは私腹を肥やす為に戦いを続けていたメガロメセンブリア

元老院の"人間"達を処断し、大戦より今まで十年間、世界を争いから遠ざけていた。

私の……嘗ての仲間であった――』


そこで、影がローブを取り払う。現れたのは誰もが予想しなかった――或は予想通りの――

眩い白。"紅き翼(アラルブラ)"最強の『白帝』、愁磨・P・E・織原。


『"紅き翼"の面々も尽力してくれた。それでもなお、争いの全てを無くす事はできなかった!

大戦の英雄などと謳われた私達の力を持ってしても!否、我々個人の力など、最初からそんな

ものなのだ!故に!諸君らの『魂』に問おう!世界を消滅させるから悪か!?世界に再び戦を

起こすからただ否定するか!?世界に平和を齎す為に一時、犠牲を出す事を拒絶するか!?

私達は世界を壊すのではない、生まれ変わらせるのだ!争いと悲しみの無い世界に!その為に

諸君の力が欲しい!一人でも多く!だから―――』


超然と、雄々しく、不敵に滅茶苦茶に。誰よりも自由に戦場を駆け、全ての敵を討ち果たす。

魔法世界で出来ない事など無い、最強の魔法使い。それが大筋、伝説を見聞きした人々の

"英雄・白帝"のイメージ。それが――


『―――この世界の為に、力を貸して欲しい。』


――頭を下げた。ほんの一秒の行動であったが、見ていた人々が受けた衝撃は先程の首刎ねの

数倍だ。その真摯な様子のまま、しかし、見る者が見れば冷め切っていると気づく目で続ける。


『急な宣言に驚いているだろう、理解も追い付かないだろう。しかし、この世界に時間が無い

事も事実だ。計画を成す為の、星の力を最も高められるのは一度だけ。それを逃せば、次の

機会は100年後。確実に世界は滅んでいるだろう。故に、待てるのは55時間。即ち明後日の

12時までに決めてもらう。 賛同してくれる者はここ、墓守人の宮殿直下の転移陣に入って

くれればいい。』


先程MM元老院が映されていたスクリーンの映像が変わり、拡大される。

映し出されたのは、夜空に会っても尚存在感を放つ漆黒の宮殿。全体的なフォルムは十字架型

だが、中心が円柱状に膨らんでおり、大剣のような印象を受ける造りだ。

その直下、剣先には横幅よりも二回り以上大きな魔法陣が浮かんでいる。


『力になってくれるのならば、私が迎えに行こう。動けぬ者が居れば思え。私が迎えに行こう。

見えぬ者が居れば思え。私が迎えに行こう。死の淵にいようとも思え。私が迎えに行こう。

己が幸せを、皆の幸せを願うならば思え。―――私が力になろう。』


そう言い手を差し出す愁磨。見上げていた誰かがそれに向かって手を伸ばし、静かに手を

握り返す。それは、目の見えない声を聞いただけの者も。音の聞こえない見ただけの者も。

それ以外も。・・・ただのパフォーマンスだ。相手を認識などしていない。

それでも・・・それだけで救われ、希望を抱いた者が少なからずいた。


『この魔法世界に生きる全ての者よ、自らが『魂』の声を聞け。憂い、嘆き、悲しみ、願う

モノであったならば、私達の下へ来い。私達が『完全なる世界(コズモエンテレケイア)』に誘おう。

拒絶する者よ、それでもよかろう。立ち向かって来るが良い。それさえも私達は平和な世界で

安寧たる生を謳歌させると誓おう!―――では、諸君の素直な回答を願う。』


それを最後にプツンと唐突に、夜を照らしていた光が消え、静寂が戻る。

それから、たっぷり一分。


『『『『なにいいいいいいいいぃぃいぃいいいぃぃいぃぃいいいいいぃいぃぃい!!?』』』』


魔法世界が、一つになった。

Side out


Side ネギ

「えー、では皆さんの意見をどうぞ。」

「無理!」「帰ろう!」「今すぐに!」

「だからそれが出来ねぇっつってんだろうが……。」


愁磨さんの演説(?)が終わって僅か30分。血相を変えて帰って来た皆とさっきの一件について

話し合った結果、三段活用の様な結論になった。・・・正確には、その意見しか出なかった。

ラカンさん達でさえ、そう出来たらなー、なんて言っていたくらいだ。


「仕方ありませんね……では状況を整理しましょうか。私達が向かった"墓守人の宮殿"は

偽物で、本物は先程見た通り、かつてあった場所と同じ所に浮いたまま、巧妙に隠されていた

ようです。その中で『完全なる世界』の一味、いえ、『造物主』さえもが生きて計画を進め、

愁磨がそれを手伝っていた、と……。」

「アル、その言い方だと奴等が生きてたのまで俺らが知らなかったみてぇになってんぞ。」

「そもそもワシらも最初の頃手伝っとったしのう。」


ラカンさんの微妙な言い回しに首を捻った面々だったけれど、ゼクトさんがサラッと言った

分かり易い衝撃の事実には吹き出す。


「はぁ!?何その衝撃の事実!?ここに来てまだ隠し事あんのかよあんたらは!?」

「や、だって愁磨も言ってただろ。隠せって言われてたから黙ってが、あいつが言ったっつー

事は……言っても良い段階になったっつー事だぜ?」

「ふぅむ?それは……どういう事かの?」


意味有りげな、危機的な状況になったような表現に、状況を掴みきれていない僕達は

耳を欹て次を待つ。ラカンさんは鷹揚に頷き――


「さぁ?」

「…………あぁ、まぁ、分かってたわよ。アンタがそういう人だって事は。」

「申し訳ないがラカン殿。貴殿が喋ると話が進まないようだから、黙って頂こうか。」

「はぁぁ……勿体ぶっていた私が悪いみたいじゃないですか。」

「あぁあもう悪かったなぁ!?昔から俺ぁ肉体労働一辺倒の脳筋だよ!」


皆から白い目を向けられ、松永にさえ退場を言いつけられたラカンさんは部屋の隅に捨てられ、

三角座りで小さくなりながら(図体は大きいんだけど)静かになった。

その後を継いで、(真面目になれば)一番説明に向いているアルビレオさんが立ってくれた。


「さて、とは言ったものの、どこから説明いたしましょうか?」

「決まってんでしょ!ぜんb「楓さーん、お願いしますー。」ふむががむむがが!」

「……宮崎、お前も慣れちまったか………。」

「"いどのえにっき"を使っていたら、不思議と人の機微に敏感になったんですー。」

「明日菜の場合は不思議でも何でもないけどねー。」


いつものように騒ぎ立てようとした明日菜さんはボッシュートされ、ラカンさんと一緒に

隅に転がされた。

確かに全部説明して欲しい所だけれど、時間が惜しいし・・・愁磨さんが指定した時間までも

余裕がある訳じゃない。そしてこういう時、一番頼りになるのは――


「で、あたしらが無事に帰る為にはどうしたら良い?」


最大限も無駄を省きつつ、けれど色々な答えを聞き出せる質問を、千雨さんが数秒で

導き出してくれた。やっぱりこの人は凄い。僕に出来ない事をサラッとやってのけてくれる。


「そこにシビレるあこがれるぅ!ですか?フフフ、千雨さんも好かれたものですね。」

「だから人の思考を読まないでください!」

「君が分かり易いのですよ。……それで、千雨さんの質問の答えですが。始めは――」
ザッ
「始めは俺が答えようか。」

「うおっ!?……なんやどっかで見たオッサン!?」


アルビレオさんが促すと、丁度到着したらしい、白髪に無精髭の壮年の男性が現れた。

小太郎君が言うとおり、どこかで・・・いや、あの映画の中で見た人だ。たしか――


「ガトウ、早かったですね。」

「急な用だろうが本職だからな。時間はかけられん。さて……今までの報告も兼ねるから、

少し長くなるぞ?」


新しく参戦したガトウさん・・・大戦の終わりからずっと、諜報活動を続けていたらしい。


「最も初めの事から行こうか。質問は許可した後にしてくれ。

この『魔法世界』と呼ばれる世界を創ったのが『造物主』と言う事は分かっているだろう。

それを成したのが『造物主』こと"ツェラメル"と"フェイト"の『創造』の能力と、彼等が前いた

世界の住人の"魂"あっての成果だ。その後、火星の時空軸と異相に創られたこの世界を存続

させる為にその"魂"を使っていたんだが、地球…"旧世界"から"人間”がこちら側へ流れ、

諍いやら戦争やらが激化し魔力…"魂力"と言えば良いのか。が、遂に限界が見え、それを

解決すべく動いたのが10年前の大戦だったと言う事だ。ここまで質問は?」

「ちょ、ちょ、ちょっと待って下さい。纏まってはいるのですが今理解しますので。」


よし、冷静になろう。愁磨さんが言っていた事と照らし合わせて、理解できる事は排除する。

・・・残るのは造物主の本当の名前と、『創造』という力。ここが火星であると言うのは

僕たちの考えの裏づけが出来たので良し。それで、『完全なる世界』がこの世界を壊そう

と(生まれ変わらせようと?)しているのは、このままだと魔法世界が崩壊してしまうから。

そして大戦の時に戦って、共感したのか・・・その計画に"紅き翼"の人達も協力して、でも

決別して、愁磨さん達だけが協力を続け、今に到る、と。


「んじゃ、私からいいか?」

「ああ、どうぞ。」

「愁磨先生達のあの無闇矢鱈過ぎる強さの秘密が『創造』って奴なのか?」

「そうであるとも言えますし、そうでないとも言えますね。彼等の面子はそもそもとして

人外が大半ですからね。それが愁磨の力で追加の能力や武器、不老不死を得て、ダイオラマ球

の中で修行したので、全員が伝説級、またはそれに匹敵する強さとなり――」

「オーケー、分かった。愁磨先生の滅茶苦茶さは100%『創造能力』製って事だな。」


先んじて質問した千雨さんだったけれど、あまりの滅茶苦茶さにどうでも良くなったのか、

話を途中で切り上げて、こめかみを押さえながら壁に寄りかかってしまった。

どうやら、『創造』という能力は"物を創る"っていうだけに留まらないのは分かった。

でも、僕が気になったのは力の理由よりも・・・。


「……フェイトの本当の名前が"フェイト"なんですね?」

「うん?ああ、俺が調べたところによればだが……?」


質問の意味が分からなかったのか、ガトウさんは首を捻る。いや、ガトウさんだけでなく、

さっきの話だけで頭から煙を吹いていた皆も首を傾げてこっちを見ている。

この情報を持っているのは僕だけだから、疑問に思うのは僕だけなんだろう。


「フェイトは僕に以前、『自分が真のフェイトだ』と言いました。けれど、のどかさんが

暴いた名前は三番目を表す"テルティウム"でした。つまり、"今のフェイト"とこの世界を

"創った時のフェイト"は違うと言う事です。」

「そ、それがどうしたカ、ネギ坊主!?これ以上ワタシを混乱させても何も出ないアル!」

「……成程、ネギ君は三人の『創造』が同じ能力でないと考えた訳ですね?」

「はい。予想ですが、簡単に言えば愁磨さんは万能型、あの二人は特化型だと思います。

そして、造物主は他人を不老不死にする様な事は出来ない…または出来なかったから、

"フェイトNo.0"の魂を使って、映画に出てきたウーノ・ドゥーエを創り、そして現存している、

完成形であるフェイト・アーウェルンクスを創り出したと考えれば納得がいくんです。」


つまり『完全なる世界』組はトンデモ能力を持っていない分、最強クラスと言えども技術や

戦術次第で相手取れるんだ。・・・その二倍の人数がトンデモ能力複数持ちなんだから、

ここはやっぱり戦いを避ける事を優先するべきだ。出来るなら、だけど。


「では続きだ。大戦後、俺は『造物主』と計画を調べに調べた。

まぁ殆どが裏づけの為の動きだったんだが……その所々で、良く似た、しかし全く別の結果を

齎す魔法術式を見つけた。初めは愁磨が俺達に語った、造物主の計画を上書きし、"人間"の

被害を無くす物だと思った。だが、更に調べていくと、それともまた違う効果と結果になる事が

分かった。」

「それは……?」


説明すると言いながらも言い淀むガトウさんに、つい先を促すように聞き返してしまう。

しかし、ガトウさんは首を横に振って、すまなそうに言う。


「分からなかった。アルとゼクトにも解析して貰ったんだが、後半になるにつれ、歴史上

存在している術式とは何もかもが違う術式になって、一文も理解出来なかったんだ。」

「じゃがまぁ、逆に分かった事もあった訳じゃ。…愁磨がワシ等に言った計画と、本当に計画

している事は違うと言う事じゃ。」

「……あー、余計分かんなくなって来た。」


事情を知り、事態を解決しようと奔走していた人達の話を聞いて、僕と千雨さん、更には

説明している筈のアルビレオさん達も同時に頭を抱えてしまう。

それもそうだ。・・・説明して貰っている筈が、更に大きな謎が浮上してしまっていた。


「いや待て、もうあんた等とか世界の事情とかは置いておいてくれ。

もう一回するから直ぐに答えろ。私達はどうしたら無事に向こうの世界に帰れる?」


――それを、知ったこっちゃない、と千雨さんが切り捨てた。いや、一旦横に置いた。

すっかり流されていたけれど、僕達が知りたいのはそれだけだって結論付けたじゃないか。

と、漸く自分達に関係のある話と聞きつけた皆が起き上がる。


「………では、私の知る範囲での見解をお伝えします。旧世界に渡る方法は二つ。

一つ目は魔法による移動。ネギ君が才の全てを捧げ、空間・転移魔法を極めれば十数年で

出来るかも知れません。二つ目は転移ゲートによる正規の移動手段。今の所一番現実的であり

非現実的です。以上、残念ながらこれしかありません。」

「………あ、あっちの世界で召喚魔法を使ってもらうってのは?」

「ワシとアルくらいの魔法使いの特化型が数十人必要になるのう。」

「ロケットでも打ち上げてもらうとか!?」

「火星と同じ位置にあるとは言っても、位相がずれていますから無理ですね。

別の地球に着くだけですよ。」

「ダメじゃん……。」


希望を持って聞いた答えがまさかの八方塞りで、皆は完全に倒れた。

残った方法は愁磨さん達のいる"墓守人の宮殿"に侵入して、ゲートポート使って帰るしか――


「あの、愁磨さんを頼ったらダメなんですか?」


そこで疑問に思った事を皆にぶつけてみる。


「そんなの決まってるでしょー。ラカンさん達を裏切った上に、私たちを放置してんのよ。

助けてくれる訳無いじゃない。」

「それに敵さんの親玉ですしー……。私たちを助ける利点もないかとー。」

「そうです、それです、まさにそこです。」


朝倉さんとのどかさんの言に、皆がうんうんと頷く。でも僕は、僕の考えた通りの、あるいは

逆の考えを皆がしている事を不思議に思いつつ、また質問をぶつける。


「敵を騙すにはまず味方から。『造物主』はこの世界を創ったと言いました。

なら、この世界に生きている生き物も彼…彼女?が創ったという事ではないですか?」

「……成程、魔法世界に生きる物全ての思考までをも『造物主』が管理している可能性が

あると。」

「はい。そして、愁磨さんが僕達を助ける利点が無いと言いましたけれど、逆です。

計画に関係の無い僕達が動いて、『完全なる世界』組を撹乱している事で愁磨さん達が

動きやすくなっているから、今は助けない……とは考えられないですか?」


言ってはみたものの、個人的な希望的観測が殆どだし、良い様に考えすぎなのかもしれない。

でも僕は信じたいし、何よりあの人の気質を考えるとラスボスのような事をしているのも

疑問が残るんだ。だって―――


「自分の楽しい事を最優先するあの人が、他人の言いなりになって、世界を滅ぼすなんて

分かり易いラスボスをする訳無いじゃないですか。」

『『『あー……確かに。』』』

「すっげー嫌なハモりしたな。分かるけどよ。」


全員の見解が一致したところで、元気の無かった皆があれこれと策を話し合いだす。

一先ずの意識回復は出来た。でも根本的な解決は一つも終わっていない・・・と

思ったと同時。ゼルクがその話題を早々に切り出し―――


「で、結局お前達はどうやって帰るつもりなのかの?」


また空気が凍りついたのだった。

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