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ベスト・パートナーは貴方だけ

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第一章 運命の歯車は回りだす
  プロローグ~追われた少女は、彼女に出会う~

 少女は逃げていた。
 白い髪に赤い瞳の表情のない、けれど人形の様に整った顔の少女だ。
 アルビノと呼ばれる色素異常の少女は、とても珍しいが故に、逃げる相手からは見つけやすい。

 だから未だに少女を追う彼らは、着々と少女との間合いを詰めている。
 そんな少女の肩には、くすんだ金色の羽を持つ小さな妖精の人形――“機械妖精(スチーム・アンドロイド )”が座っていて、

「シャーロット、そこを右!」
「分かった、メイベル」

 シャーロットと少女を呼び逃げる方向を示唆する。
 頼もしい少女の相棒であるこの機械仕掛けの人形は、もしもの時のためにこの一帯の地図を全て記録している……はずだった。けれど、

「……行き止まり?」

 少女が茫然としたように呟き、それを見上げる。
 大きな塀が彼女のゆく手をさえぎっている。
 正確には、錆びた廃工場の壁が、だが。

「そんなはずは……地図にはないよ! ここには道があるはず!」
「でも理由は分からないけれどここには道がない。だから私達は逃げられない」
「シャーロット、諦めるのは駄目! ああもう、何処かに逃げられそうな場所は……いや、シャーロットの力で……」

 焦る様にふわりと空を飛び、辺りを見回すメイベル。
 メイベルの羽が動くたびに、光の粒が零れ落ちて色を奏でる。
 そんなメイベルを見るのがシャーロットは好きだったと思いながら、シャーロットはメイベルに、

「もっと頑張って逃げても、その後に、あの人達は私を助けに来ないきがする。だってもう、随分長く私は逃げたのに、誰も保護しに来ないから。だから私は“捨てられた”のかも」
「そ、そんな事ないよ、シャーロット!」
「いいの、メイベルだけは逃げて? だって、空が飛べるのだもの」
「そんなわけにはいかないよ、シャーロット、一緒に行こう!」

 けれど“機械妖精(スチーム・アンドロイド )”のメイベルが少女、シャーロットの服を引っ張るもののシャーロットは動かない。
 諦めてしまったのだとメイベルは気づいて、焦って彼女の服を引っ張る。
 けれど小さなメイベルの力はたかが知れていて……そこで、すぐ傍の廃工場と民家の隙間、その塀の上を誰かが走ってくる音がする。

 その足音はこちらに向かっているようで、段々と音は近づき、やがて一つの人影が現れて……。

「ああもう、頭にくる!」

 怒った様な少女、と言ってもシャーロットより何歳か年上の様だったのだが……彼女は、スカートをたなびかせながら、塀から飛び上がり地面に降りた。
 犬の様に見えるのに猫みたいな女性だとシャーロットは思う。
 水色の瞳は強い意志が宿り、ひとまとめにされた艶やかな夜空を思わせる髪は尻尾の様に見える。

 細身の割に身軽に動いているのは彼女の靴に“蒸気強化( スチーム・アシスト)”が付けられているからだろう。
 きっとこの程度の壁は彼女なら簡単に飛び越えられる、そうシャーロットが思っている所で彼女に向かってメイベルが飛んでいき、

「お願いします、私達、追われているんです。助けて下さい!」
「! 人形がしゃべって……もしかして、“機械妖精(スチーム・アンドロイド )”? 何でそんな珍しい物が?」
「私の事はいいです! お願いします、見なれない形ですが剣を持っているって事は、訓練なんかをしている人ですよね!?」
「それはまあ、そうだけれど……追われているの?」
「はい!」

 それを聞いて彼女は何かを考える様に黙ってから、次に悪い笑顔になって、

「いいわね。可愛い子猫ちゃんじゃないって、証明してやる。それに八つ当たりするにはもってこいね」

 そう呟いて、ふふふふと暗く笑った彼女はシャーロットと、その方に座るメイベルの方を見て初めて微笑み、

「私は、アリシア・アップルヤード。何でも屋、アヴァロンで助手をやっているの」
「何でも屋、ですか?」

 そこでシャーロットは、不思議な物を聞いたかのように問いかける。
 それはシャーロットの知らない職業だったから。
 首をかしげる彼女にアリシアは苦笑して、

「そう、何でも屋。だからこう見えても荒事はなれているの。だから、安心しなさい?」
「……ありがとうございます。そういえば名前を名乗っておりませんでした。私は、シャーロット。こちらの、私の“友達”はメイベルです」
「そう。貴方の事が大好きで必死な、いいお友達を持っているのね」
「……はい」

 アリシアのその言葉に、シャーロットは珍しく微笑んでしまう。
 そんな風に言ってくれる人は、シャーロットの周りには誰もいなかったから。そこで、

「ようやく追い詰めた……おや、見知らぬ女性がおりますな」

 そこでひげを生やした、白髪にタキシードを着た初老の紳士と言うべき人物とそして、鉄の塊である二足歩行する彼の二倍の身長もある人形の様な物が大きな音を立てて現れる。
 アリシアが小さく舌打ちして、

「“蒸気機械兵( スチーム・ロボット)”」

 そうアリシアが告げるとその初老の紳士は満面の笑顔を浮かべ、

「その通り! そして、賢明なお嬢さんであるなら、すぐにこの場から逃げるべきだと思いませんか?」
「……生憎、こちらの子達に助けを求められたので、この子達と一緒に逃げていいならすぐにそうさせてもらうわ」
「それは困ります。我々の目的はそこにいるシャーロット、デザイナーズチャイルドなのですから」
「……そう。それであそこにいる人達は、貴方達をお迎えに来た大人ではないのね?」

 アリシアの問いかけはシャーロットに向けて。
 だからシャーロットは頷くと、それを見たアリシアがその初老の紳士に向き直り、

「残念だわ。誘拐犯に子供を差し出すような教育は受けおりませんの」
「こちらも残念です。見知らぬ若い女性に手を出す趣味は持ち合わせておりませんでしたが、いた仕方がありません」

 そう初老の紳士が少しも残念ではない様な笑顔で告げると同時に、アリシア達に“蒸気機械兵( スチーム・ロボット)”が襲いかかったのだった。 
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