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インビシブル

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3部分:第三章


第三章

「何がどうしたのよ」
「ああ、じゃあ話すな」
 とりあえず一部始終を話す彼だった。それを聞いた美香子はかなり懐疑的な顔であった。その顔で夫の言葉に返すのだった。
「聞いたけれどわからないわね」
「わからないか」
「何でそんなのがいるのよ」
 彼女が言うのはそこだった。
「透明人間なんて。何でなのよ」
「それがわかれば苦労はしないさ」
 首を傾げての言葉だった。
「そうだろ?大体透明人間ってな」
「そうよね。何でいたのかしら」
「さあな。映画の中だけだって思っていたがな」
「それで助けてもらったのね」 
 ワコとチコを見ての言葉だった。彼を守るようにしてその近くに座っている彼をだ。
「この子達に」
「ああ、そうだ」
 まさにそうだと述べる夫だった。
「この連中がいないとまず死んでたな」
「殺されてたっていうのね」
「そうだな。しかしおかげで助かったよ」
「そうよね。けれど」
 ここで彼女は言うのだった。
「世の中あれね」
「あれって何だ?」
「何が起こるか本当にわからないわね」
 彼女が言うのはこのことだった。このことをしみじみとした口調で話すのだった。
「本当にね」
「そうだな。そして何がいるかわからない」
 夢のことも思い出しながら語る彼だった。
「そして何で助かるのもな」
「そうよね。それでだけれど」
「どうしたんだ?」
「またその透明人間が来るかしら」
 彼女が危惧しているのはそのことだった。不安に満ちた顔での言葉だった。
「それがまた」
「ああ、それはないな」
 だがそれはないと断言する彼だった。
「それはな」
「何でなの?家の場所もわかってるんでしょう?」
「それでも来ないさ」
 安心している口調だった。
「絶対にな」
「それは何でなの?」
「ワコとチコも随分と攻撃したし」
 まず獣である彼等もそうしたというのだ。
「それに俺も椅子で随分殴ってやったからな。ダメージが尋常じゃないからな」
「ということはつまり」
「死んだな」
 だから来ないというのだった。
「絶対にな」
「そうなの。死んだの」
「とりあえずあれが何で透明人間になったかはわからない」
 そのことはここでも言うのだった。
「けれどな。あれだけやったからな」
「死んだのね」
「だからもう来ない」
 彼はまた言った。
「絶対にな」
「そうなの。それならいいけれど」
 それを聞いてとりあえずは安心した美香子だった。実際にそれ以降その謎の存在が淀に襲い掛かって来たことはなかった。
 そして数日後街の外れで奇妙な死体が発見された。全裸であちこちに噛まれたり引っ掻かれたり殴られた跡のある無残な死体がだ。彼の素性ははっきりせず誰もそれが誰なのかわからなかった。しかし淀達はわかったのだった。それが何者であるかも。そして後に風の噂で聞いた。ロシア軍が密かに身体を透明にする薬を開発させたのはいいが密かに闇ルートで流布しているという話を。真実かどうかわからないがそんな噂があった。若しかするとこれが原因だったかも知れない。ペット達によって命を救われた彼はそれを聞いて思ったのだった。それが嘘であるとはとても思えなかったのだ。


インビシブル   完


               2009・11・28
 
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