| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

ぶそうぐらし!

作者:かやちゃ
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第7話「にゅうぶ」

 
前書き
ようやく、原作キャラと絡ませられます。 

 


       =遼side=



「....む....?」

  知らない天井だ。...っと、校長室で寝たんだったな。

「時間は...まだ早いな。」

  今の時刻は6時を過ぎた辺りだ。

「さて、他の人は起きてるかなっと。」

  校長室を出て、生徒会室をノックする。

「誰かいるか?」

「開いてますよ。」

  中から佐倉先生の声が聞こえる。

「おはようございます。」

「はい、おはよう。」

「おー、おはよー。」

「おはよう。起きるの早いのね。」

  中に入ると、佐倉先生、シャベルの子、包丁持ってた子の順で挨拶を返してくれる。

「...昨日は気にしてなかったけど、あんた、凄い荷物だな...。」

「これか?...まぁ、これさえあればどこでも一時的に住めるって程度の道具を全て入れているからな。後、武器とか。」

「昨日の銃の弾とかか?」

「そんなところだ。」

  荷物を適当な場所に置きながら椅子に座り、会話をする。

「そういえば、昨日は二人の名前を聞いてなかったな。」

「あれ?そうだったか?...まぁ、いいや。私は恵飛須沢胡桃(えびすざわくるみ)って言うんだ。」

「私は若狭悠里(わかさゆうり)よ。よろしくね。」

「昨日も言ったけど、工藤遼だ。こちらこそ、よろしく頼む。」

  自己紹介を済ませ、少し二人の顔を見てみる。

「...うん。疲労はだいぶ取れたみたいだな。」

「...めぐねえが帰ってきたからかな。ぐっすり眠っちゃってさ...。」

「安心したから、そのおかげでゆっくり休むことができたわ。」

  それでも精神的にはまだまだ追い詰められてるだろうけどな...。

「...あれ?もう一人はまだなのか?」

「あー、由紀は...な。」

「七時半くらいには起きてくると思うわよ。」

  お気楽だな。...まぁ、お気楽でいなきゃ、精神がおかしくなりそうだもんな。

「...っと、そういえば、あんたらは“学園生活部”ってのをやってるんだってな。佐倉先生から聞いた。...ところで、その部活って詳しくは何をするんだ?」

「めぐねえから聞いてたのか。そうだなぁ...。」

  恵比寿沢に説明してもらう。





「―――なるほど。」

  要約すると、そのまんま学校の設備を活用して学校で暮らすという事だった。

「つまりもう一人はいつものように学校に行くため、こんな状況でものんびり寝てられるのか。学校に暮らしてるのに七時半起きは十分早いと思うが。」

「ま、そんな所かな。私達としちゃあ、由紀のそのお気楽な感じがむしろ助けになってるんだけどな。」

「それは同感だな。一人が気楽でいるのなら、他の奴も精神が安定するからな。」

  特に若狭は結構由紀とやらに助けられてると思う。見るからに精神に負担掛かってそうだし。

「...にしても、よく三階に残ってた食料だけでやりくりできてたな。」

「屋上の菜園もあったから、それで何とかしてたわ...。」

「後は、購買にささっと行って少しばかり拝借したりな。」

  そうだとしても、電気はともかく、水などがしっかり保管されすぎている。

「...地下よりは蓄えは少ない...か。」

「っ、そういや、地下には何もなかったのか?」

  恵比寿沢が乗り出して聞いてくる。

「地下には...そうだな...大量の食糧と、薬...だな。それと避難生活必需品。」

「...薬...昨日も言っていたけど、それって噛まれた時用...のだよな?」

「あぁ。俺も見つけたのは偶然だったけど、効果は俺と先生で実証済みだ。」

  ただし、使用してもゾンビに近づくが。

「分かってると思うが、薬があるからって油断するなよ?」

「ああ、それは分かってるんだけど、どうして薬なんかが...。」

  普通の学校のはずなのに薬がある。尤もな疑問だな。

「っ.....。」

「....さぁな。俺にも分からん。」

  先生の顔を見て、はぐらかしておく。今は言わない方がいいだろうしな。

「そうか....。」

「ま、気にしてたらできる事もできなくなる。深く考えない方がいい。」

「...そうだな。」

  そう言って恵飛須沢はそれ以上言及はしてこなかった。

「あっ、そういや、まだ武器とかを地下に残したままだったな。取ってくるか。」

「...一人で大丈夫か?」

「へーきへーき。二回程行き来するけど、一人でも大丈夫だ。」

  そう言って一度地下へ戻ろうとする。

「...いや、やっぱり私も行くよ。戦える人数は多いに越した事はない。」

「別にいいが...武器ってまさか“それ”か?」

  恵飛須沢が持っているシャベルを指差してそう言う。

「園芸部用のシャベルだからな。これでもだいぶ助けになってるんだ。」

「...よくよく見てみれば、塹壕用のシャベルか...充分武器だな。」

  これなら大丈夫だな。態度からして、何度もそれで奴らとやりあってるようだし。

「よし、行くぞ。」

「りょーかい!」

「由紀ちゃんが起きてくる前には、戻ってきてね?」

「分かってるって。」

  さて、じゃあいっちょ行ってきますか。





「...こんな所に階段が....。」

「普通、購買部に繋がってる機械室に階段があるとは思わないもんな。」

  特に危なげもなく、俺と恵飛須沢は地下への階段まで来れた。

「にしてもあの人数を一人でか....凄いな。」

「的確に頭を潰してきたからな。銃もあるし、あれぐらいなら...な。」

「そっか。」

  会話をしながら、地下へと潜っていく。

「よし、とりあえず鞄に詰め込むぞ。」

「...これ全部本物か...なんか、怖いな。」

「引き金には触るなよー。」

  銃を入れるために空にしてきたバッグに銃や弾薬を詰め込んでいく。

「...うし、重いけど、一回で行けるな。」

「その状態で襲われたらどうするんだ?」

「瞬時に降ろして刀で戦うさ。」

「それもそうだな。じゃあ私はこれとこれと....。」

  恵飛須沢が食料をいくつか見繕い、まだ空きがあったバッグに入れる。

「じゃあ、戻るか。」

「そうだな。」

  色々詰め込んだバッグを背負い、俺たちは三階へと戻る。





「はぁっ!」

     グシャッ

「...なかなかの手際だな。」

  道中、一度に数体のゾンビに襲われ、恵飛須沢も戦う事になり、俺はついそう呟いた。
  ちなみに、今までは一体ずつ、それも数回しか遭遇しなかったため、俺が仕留めていた。

「...学園生活部で戦えるのは私だけだからな。」

「....そうか...。」

  雰囲気からして、恵飛須沢くらいだもんな。体育会系って。

「しかし、よく戦う事を選んだな。」

「....街全体がこうなった日にさ、否が応でも覚悟を決めさせられたんだよ....。」

「...何か、あったのか?」

  シャベルを抱きしめるように持ち、声色も少し上擦っている恵飛須沢に、俺はそう聞く。

「.....すまん、そう言うのは聞くべきじゃなかったな。」

「いや、いいよ。話したくないって程でもないし。」

  そう言って、ポツリポツリと恵飛須沢は話し出した。

「私、陸上部でさ。走る事は嫌いじゃなかったけど、入部した動機は結構不純だったんだ。...なんだったと思う?」

「む...いや、分からないな。何か目的があったぐらいしか。」

「....OBの先輩がさ、好きだったんだよ。」

  ...なるほど。確かに不純だな。

「それでさ、バイオハザードみたいな事が起きた時、その先輩に庇われて先輩が噛まれてしまったんだ。そこで私は先輩を連れて屋上まで逃げたんだ。」

「噛まれたって事はつまり...。」

「あぁ、先輩はあいつらの仲間になってしまったんだ...。」

  当初は噛まれただけでアウトだなんて分からなかったもんな...。

「屋上には、りーさんとめぐねえ、それに由紀がいてさ。めぐねえが私の声を聞いて扉を開けてくれなかったらそこで終わってたよ。」

「先生の咄嗟の判断に救われたって所か?」

「そうだな。....それで、屋上に避難したわけだけど、さっきも言った通り先輩が奴らの仲間になってしまって...それで...。」

「すぐ傍にあったそのシャベルで....か。」

  俺の言葉に頷く恵比寿沢。

「それ以来、もう吹っ切れちゃってさ...多分、先輩を殺した事で、私自身がどこかでもう死んでもいい覚悟を決めたんだと思う...。」

「.......。」

「シャベルを使ってるのは、一種の戒めかもな。先輩を殺した、武器だから...。」

  陰りのある表情を見せる恵飛須沢に、しばし俺は言葉を失った。
  ...そして。

「....えっ?」

「....慰めや、励ましの言葉は言えないけどさ、あまり追い込みすぎるなよ?頼ってもいい仲間が、いるんだからさ...。」

  頭をポンポンと撫でながら、そう言う。

「....ははっ、なんだよそれ、ホント、慰めでも励ましでもないな...。」

「あまり女の子に気遣いができるような性質(タチ)じゃないんでな。」

「ははは...まぁ、うん。なんか気が楽になった。サンキュな。」

  そう言ってから、いつの間にか止まっていた足を進める。

「さっさと戻るか。皆、心配してるだろうし。」

「今はいなくても、その内ゾンビが寄ってくるからな。すぐ戻ろう。」

  そう言って歩を速める。



「...あ、っと...。」

「荷物、どうするか決めてなかったな...。」

  バリケードで思わず足止めされる。...バッグに詰め込みすぎて&重すぎて乗り越えるのが難しくなっていた。

「ま、これぐらいなら....っ....!」

「す、すげぇや...。」

  バリケードをよじ登り、何とか乗り越える。天井にバッグが引っかかったが、そこは無理矢理突破しておいた。

「よし、戻るか。」

  何事もなかったかのように、俺は生徒会室へと戻る。

「あ、悪いけど一応銃とかは隠しておいてくれないか?」

「うん?なんでだ?」

「由紀はいつも通りの学校生活を送ってるつもりって言ったろ?だけど、さすがに銃とかがあると怪しまれると思ってさ。」

  なるほど。そう言えばそうだったな。

「シャベルも同じようなものだと思うが...まぁ、生徒指導室にでも置いとくか。」

「スマン。助かるよ。」

  こんな物騒な物を生徒会室に置いておけないからな。...今は学園生活部部室だが。

「ただいま。」

「今戻ったぞー。」

  生徒会室に戻り、無事に帰還した事を告げる。

「お帰りなさい。あら?荷物は?」

「隣の部屋に置いてきた。」

  若狭がバッグについて聞いてきたのでそう答えておく。

「そろそろ由紀ちゃんも起きてくるし、朝食を作るわね。」

「と言っても、レトルトだけどな。」

「もう、そう言う事言わないの。」

  女性ばかりだからか、こんな状況でもほんわかとした雰囲気がある。...いや、こうでもしなければやってられないって事か...。

  ...などと、思っていると。

     ガラッ

「みんな、おっはよー!」

「あ、由紀。」

  扉が開き、猫を思わせるような帽子を被った桃色の髪の少女が入ってきた。

「(なるほど、彼女が丈槍由紀か...。)」

「あれ?知らない人がいる。」

  ふと俺に気付き、首を傾げる丈槍。...なんか、危なっかしい“眼”をしてるな...。

「俺は工藤遼。三年B組の生徒だ。君が丈槍由紀だね?」

「わっ、同級生だったんだ!もしかして、新入部員?」

  ...本当に今起きている状況を認識していないんだな...。

「うーん..まぁ、そうなるかな。」

「へー!..あれ?じゃあ、なんで制服じゃないの?」

「あっ....。」

  丈槍の疑問に恵飛須沢が“しまった”というような声を上げる。
  ...そうか。普段通りに認識しているなら、制服じゃない俺は少しおかしいな。他の二人は制服。先生は制服的な服装は必要ないからな。

「あー...ちょっとやらかして服を汚してしまってな。偶々持ってたこの服で代用している。ちゃんと許可は取ってあるよ。」

「あっ、そーなんだ。」

  適当に理由を考えて答える。...これで納得するのか。

「....あれ?めぐねえ、髪切ったの?」

「「っ.....。」」

「え?えっと....。」

  ふと丈槍が呟いた疑問に、若狭と恵飛須沢は動揺し、先生は戸惑った。

「そ、そうなの。やっぱり、子供っぽいかなって...。」

「えー?私は長い方も好きなんだけどなぁ...。」

  何とか先生が言い繕い、誤魔化す。

「ゆ、由紀ちゃん、もうすぐ朝食ができるから座って座って。」

「あ、はーい。」

  そう言って丈槍はパイプ椅子に座る。ちなみに俺は新しくパイプ椅子を取り出して空いている所に座っている。

「はい、おまたせ。」

  そう言って若狭は朝食となるレトルトのスパゲッティを人数分置く。

「いっただっきまーす!」

「(スパゲッティと乾パンか...パスタの量も節約しているし、ちゃっかりしてるな。)」

  サバイバルは素人だろうけど、節約はしっかりしている。

「って、食うの早っ!?」

「...んぇ?」

  まるで犬のように隣でがつがつと食べる丈槍に思わず突っ込む。

「...んぐ、だって美味しいんだもん。」

「いや、だからってそんな速いと喉を詰まらせるぞ?口周りも汚れてるし。」

  あーあ、こんなに汚しちゃって。とりあえずハンカチで拭いとくか。

「わっ!むぐ....!」

「......。」

  ....なんか、丈槍の口周りを拭いてるとよく分からん感情が湧いてくる。

「...どうした?」

「いや、なんか...幼い妹がいたらこんな感じかなって...。」

「あー...なんか、分かるな。」

  恵飛須沢も丈槍の印象がそう思えるようだ。

     ガタッ!

「.........っ。」

「ど、どうしたの悠里さん...?」

「っ、い、いえなんでもないです...。」

  突然立ち上がった若狭に恐る恐る先生がそう聞く。しかし、若狭はなんでもないと答え、再び椅子に座る。

「(...なんだ...?)」

  “妹”という単語に反応した気がしたが....。

「(....あまり、深く聞くべきじゃなさそうだな...。)」

  こんな状況だ。勝手に人の事情に踏み込んで精神を壊してしまったら元も子もない。

「ところで遼君はこの後どうするの?」

「ん?あー...そうだな....。」

  特に考えてなかったから、丈槍の言葉に答えられない。

「....まだ、仮入部だから、正式に入部届を出す手続きをするつもりだ。」

「あっ、そっか。だからさっき“一応”とか言ってたんだね。」

  丈槍の今の認識に合わせた言葉を選ぶ。...結構難しいな。

「じゃあ私は先に行ってるね!」

「...おう、授業で寝るなよ。」

  ビシッと敬礼的なものを決めて、丈槍がそう言う。それに対し、恵比寿沢が合わせるように何とか返事をする。

「....さて。」

「うん?今度はどこ行くんだ?」

  立ち上がった俺に恵飛須沢が聞いてくる。

「俺、今制服を持ってないんだよな。全部家に置いてきたから。丈槍に不思議に思われないためにも、ちょっと制服を取ってくるよ。」

「取ってくるって...家からか!?」

  一応、そのつもりなのだが...。

「そ、そこまでしなくてもいいですよ!確か、購買部にもあったはずですし...。」

「...相変わらず設備いいなこの学校。」

  おかげで色々助かってるんだけどな。

「じゃ、早速行ってくる。」

「...それなら私がついて行くわ。」

「めぐねえ!?」

  先生が名乗り上げた事に驚く恵飛須沢。...そうか。購買部があるのは確か二階。バリケードの外は危険で、一度噛まれた先生をまた危険な目には遭わせたくないのだろう。

「大丈夫よ。...ね?」

「あぁ。それに行くのは二階だ。早々奴らに囲まれはしないさ。」

  それに、俺も先生も奴らには近づかない限り襲われない。

「....分かった...。」

「おう。んじゃ、ぱぱっと行ってくる。」

  先生を連れて二階に降りる。

「.....本当に気づかれないのね...。」

「それでも近づくと反応しますけどね。」

  一応ゾンビと距離を取りながらすれ違う。...ふむ、俺には一応見向きはするが、先生には反応が一切ないな...。やっぱり、俺より影響が顕著に出ているな。

「...っと、ここか。」

「私も、どこに制服があるのかは分からないから...。」

  手当たり次第に探すしかないって事か...。

「中の安全を確認した後、手当たり次第に探してみます。先生は奴らが来ないか見張りを。」

「分かったわ。気を付けてね?」

  警戒しながら購買部内を確認する。...よし、いないな。

「さて、どこにあるのかなっと...。」

  見張りを先生に任せ、俺は制服を探した。





「ただいま。」

「無事、帰ったぞー。」

  あの後、普通に制服を見つけ出し、サイズが合う服を二着持って帰った。

「お帰りなさい。」

「早速、俺は隣で着替えてくるわ。」

  もし制服の事で丈槍に後で聞かれたら、“干しておいたのが乾いた”とでも言っておけばいいだろ。

「(学園生活部に女性だけながらも生存していた人たち...。)」

  親父の息子としても、彼女達はなんとしてでも死なせないようにしないとな...。

「(...そして、異様に設備が整っているこの学校。)」

  マニュアルの通りなら、この学校だけがこんな設備なのはおかしい。他の大きい施設...それこそ大学やショッピングモール辺りなどが同じような設備かもしれない。...でないと、さすがにこの学校だけでマニュアルにある事を担えると思えないし...。

「(そうでないと、他の生存者が望めない。)」

  ただの災害などではなく、噛まれただけで即アウトなこの状況で、ここのように設備が整っていない所で生存するなんて...母さんや親父、俺がいなければ困難を極める。

「(...できれば早めに生存者の捜索に向かいたいが...。)」

  そう簡単にはいかないだろう。なにせ、外には感染した犬などもいるのだから。

「(とりあえず、後で方針を決めなければな。)」

  今は、この学園生活部と一緒にいるだけでいいだろう...。







 
 

 
後書き
この小説ではワクチンはちゃんとゾンビ化を防いでいます。考察にあるような実は感染したままだとか、進行を遅らせてるだけでその内ゾンビ化するなんて事はありません。
ただ、やはりゾンビに近い体質になってしまいます。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧