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魔法少女リリカルなのはVivid ~己が最強を目指して~

作者:月神
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第5話 「金色の来訪者」

 今僕は、大いに困惑している。
 ここまでの流れを説明すると、まず最初に朝はいつもどおりトレーニングを行った。その際、また行き倒れと遭遇したりはしていない。
 帰宅してからはミカヤさんやミウラと手合わせする予定もなかったので、つい先日買った武術関連の書籍を読むことにした。それを半分ほどまで読み進めた時、不意にインターホンが鳴る。
 僕の家を知っている人間はいないこともないけど、基本的に僕があちらに赴くことが多いし、訪ねてくる時は前もって連絡が入る。ただ一度しか顔を合わせたことがないジークは別であり、また必ず恩を返すと言っていたので彼女が来たのかと考えた。しかし……実際に玄関先に立っていたのはジークではなかった。

「えっと……」

 こ……この人はいったい誰なんだろう。
 玄関先に居るのは、長い金色の髪をハーフアップにしている女性。いや雰囲気で大人びて見えるが、よく顔立ちを見てみるとどことなく幼さも残っている気がする。もしかすると僕とそう変わらないのかもしれない。
 でも待て……この人どこかで見たような気が。
 記憶を辿っていくと思い当たる人物が居た。その人物の名前は、フェイト・T・ハラオウン。執務官資格を持っているSランクオーバーの魔導師だ。性格は心配性や過保護なところがあるらしく、どちらかといえば内気な方らしい。ただ戦闘中は別人のようになるとか。
 このように言うと僕がハラオウンさんと知り合いかと思われるかもしれないけど、実際のところ彼女と顔を合わせたことはない。八神家の人々から話を聞いたり、テレビで姿を見ることがあるので一方的に知っているだけだ。

「はじめましてだね、キリヤ」

 はじめましてということは顔を会わせるのは今日が初ということ。だが僕の名前を知っているということは、僕の知っている人物と繋がりがあるということだろう。
 目の前に居る彼女の容姿や僕自身の繋がりから推測すれば、可能性として最も高いのはハラオウンさんということになる。ハラオウンさんならばはやてさんやシグナムさん達から僕の話がされていてもおかしくないからだ。
 ただ断定することはできない。仮にハラオウンさんが訪ねてくるとしても理由がないし、聞いていた彼女の性格から考えれば前もって連絡は入れるタイプのはず。彼女ができない場合でもはやてさん辺りが代わりに連絡してくるはずだ。
 それに……目の前の彼女からは、はやてさんの家で見た写真やテレビで見た姿より幼い印象を受ける。はやてさん達が学生の頃に撮った写真となら大差はないけど。

「はは、突然来ちゃったから困惑させてるみたいだね」
「それはまあいいんですけど……どのようなご用件で?」
「用件は……そうだねぇ、あなたに興味があったから会いに来たってところかな。私とあなたは似た存在だから」

 この子はいったい何を言っているのだろう。普通ならこんな綺麗な子に興味を持たれただけでなく、直接に会いに来てもらえたのなら嬉しく思うことだ。
 だけど……僕はこの子のことを知らない。
 おそらく彼女の話し方からして年齢はそれほど離れていないはず。それで僕のことを知っているとすれば、僕と同じ学校に在籍している子と考えるのが無難だ。
 ただこの考えも僕からすると否定したいと思ってしまう。
 何故ならば、常識的に考えて僕くらいの年代の男子がこんな綺麗な子が学校に居るとすれば騒がないわけがないからだ。
 多分この子レベルの容姿ならばファンのような存在が居てもおかしくない。けれど、うちの学校で誰もが知っていてファンが居そうなのは、去年のインターミドル・チャンピオンズシップで上位入賞したハリー・トライベッカくらいのものだろう。
 本当にこの子はどういう理由で僕に興味を持ったんだ? 似たような存在だとか言った気がするけど、それはいったい何を意味しているんだろう。

「あーその顔はピンときてない感じだね。まあ仕方がないといえば仕方がないかな」
「あの……ひとりで納得されるのも困るんだけど。直接言えないなら言えないでいい。でもヒントくらいはもらえると助かるかな」
「別に直接言えないわけじゃないけど、そう言われると違った言い方を考えたくなるね。うーん……二度目の人生楽しんでる? って言えば分かるかな?」

 二度目の人生。その言葉を聞いたとき、僕の中の混雑していたピースが凄まじい勢いで並べ替えていく気がした。
 ――僕のことを知っていて、尚且つ今みたいな言葉を言えるということは……この子も僕と同じように転生した存在なのか。そう考えれば似たような存在と言った意味も理解できるし、僕よりも後に転生したのなら一方的に僕のことを知っていてもおかしくない。
 少女の言葉に対する疑問は次々と解決していく。が、それと並行して僕の中には不安にも等しい感情が沸き起こり始めていた。
 この子を転生させたのはあの子なのか……いや、あの子は自分以外にも転生を行う存在は居る感じに言っていた気が。
 そもそも、あの子を含めて転生なんてことを行える存在は人間からすれば神でもあり悪魔にも為りえる。これはあの子が言っていたことだ。
 故に僕が気まぐれで転生の対象に選ばれたように、誰かの気まぐれで僕にとって害となる存在がこの世界に送られてきてもおかしくはない。またあの子がこの子を転生させていたとしても僕にとって味方である保障もないだろう。

「……君が僕と同じような経験をしてこの場に居るのは何となく理解したよ。……だからこそ、もう一度尋ねる。君は何の用があってここに来た?」
「あはは……警戒されるかなとは思ってたけど、意外と心に来るものがあるなぁ。その、私は好きに生きろって言われただけで、別にあなたをどうこうしようって思ってるわけじゃないの。まあ似た境遇だから仲良くしてほしいな、とは思ってるんだけど」

 彼女のぎこちない笑みから悪意のようなものは感じない。僕がもう一言でも会話を打ち切りたい意思を示せば、おそらくこの場から去りそうな気配さえする。
 ……露骨に警戒し過ぎたか。
 仮に僕が彼女と立場が逆だった場合、先に転生した人間の元を訪ねないかと聞かれれば、十中八九訪ねると答えることだろう。自分の知らない世界に放り込まれるのは期待も覚えはするが、やはり不安の方が強く感じてしまうものだから。似た境遇の者を頼りたくなるのは当然のこと。
 それに……僕に対して本気で危害を加えるつもりなら、玄関先で出会うような普通の出会い方はしないだろう。僕はトレーニングで人気のない山林地帯に毎日のように足を運んでいるのだから。消したいならそこで襲えばいい。

「今の君の言葉が嘘だとは思えないし、警戒し過ぎたのは謝る。ごめん……だけど、だからといって現状じゃ信用できるわけでもない」
「うん、いきなり私みたいな存在が現れたらそれが当然だと思う。あなたは私より先にこの世界に来て、ここでの生活に馴染んでるみたいだから壊したくないと思うのは当然だし。……今日はいきなり来てごめんね。もうここには来ないから」

 寂しげな笑みを浮かべて踵を返そうとする。直後、僕は彼女の手を握り締めていた。驚いたように首だけ振り返った彼女と視線が交わったことで我に返る。

「え、あっごめん! その……信用できないとは言ったけど、別に帰れって言いたかったわけでもなくて。似た境遇の人間が居るっていうのは僕としても安心するし。だから……デバイスを預けてもらえるのなら家に上げるのもやぶさかではないというか」

 素直な言い回しをできない自分に思うことはありもするが、今そんなことに意識を裂くのは愚の骨頂。僕が今為すべきこと、それは彼女に避けているとか煙たがっていると思わせないことだ。今の言い回しだとこちらの考えが伝わってない可能性もあるし、彼女の反応をきちんと見ておかないと。

「え、本当?」
「う……うん、嘘じゃないよ」
「じゃあ……」

 少女は、すぐさまポケットから三角形の形をした橙色の結晶を取り出す。

「この子……バルムンクって言うんだけど、あなたに預けるね」
「あ、ああ。丁重に預からせてもらうよ」

 デバイスを預かってしまった以上、もう少女を家に上げずに帰らせるわけにはいかない。
 何だろう……凄く変な気分だ。ただでさえ、あまり家に女の子を上げたことがないっていうのにこんな可愛い子を家に上げてる。加えて彼女は、僕と同じような境遇。あぁ……変な緊張を感じる。
 などとあれこれ考えながらも、顔には出さないようにしながら少女をリビングへ案内する。彼女をソファーに座らせ、お茶を出すと僕の方から話を切り出した。

「さて……まず君のことを聞かせてもらっていいかな。君は僕のことを知ってるみたいだけど、僕はまだ君の名前も知らないし」
「あっ、そういえばそうだったね。私はアリシア・ライトミリア、よろしくキリヤ」

 一瞬異性に触れることや疑心から躊躇もしたが、彼女の無邪気な笑みを見た直後、気が付けば僕は差し出された手を握り返していた。

「うん、よろしくライトミリアさん」
「アリシアでいいよ。私もキリヤって呼んでるし……勝手に呼んじゃってたけど、キリヤって呼んでいいかな?」
「あはは、今更だね。うん、別に構わないよアリシアさん」

 昔は出会ってすぐの異性を名前で呼ぶなんて出来ない方だったけど、最近はあまり抵抗がなくなってきている。多分この世界というか、僕が知り合う人達が壁を作ろうとしない人だからだろう。すぐに名前で呼んでいいと言ってくる人が多かったし。

「キリヤ、さんもいらないよ。私もあなたと同じ16歳だから」
「えっと、さすがにいきなり呼び捨てにするのはちょっと……」
「そっか……まあ無理強いは良くないし、今日会ったばかりだから仕方がないかな」

 下の名前で呼んできていたので、押しが強いタイプなのかと思っていたけど、どうやら相手の様子を見て判断できる子のようだ。
 それにしても……アリシアって名前どこかで聞いたような。姿もハラオウンさんにそっくりだけど、転生する際にそういう風にしてもらったのかな。

「どうかした?」
「あぁいや、ちょっと君の名前に聞き覚えがあって。それと知り合いの友達に姿が似てるから気になっちゃって」
「なるほど……なら話が早くなるかな」

 アリシアさんはそう言って一口お茶を飲む。そのあと姿勢を正すと、真っ直ぐな瞳をこちらに向けて話し始める。

「あなたの疑問に答えながら話していくね。まず私の名前――アリシアって名前に聞き覚えがあるのは、あなたがこの世界に来る前の時間……あなたが元居た世界では《無印》や《As》って呼ばれているときにその名前が出てきているからだと思う」
「……ということは……もしかして君は」
「そう、私は元々アリシア・テスタロッサと呼ばれる存在だった」

 アリシア・テスタロッサ。転生する前の記憶は霞みつつあるから部分的にしか分からないけど、確か《無印》の時は重要な存在だった少女のはず。
 だけど彼女は事故によって命を落としてしまい、母親であるプレシア・テスタロッサは壊れてしまう。それからの流れは……確かプロジェクトFの研究を行ったり、アルハザードに行くためにジュエルシードに手を出したんだったかな。

「……君も気まぐれで選ばれたの?」
「多分そうだと思う。ああいう存在は面白くなりそうだからってことで色々とやりかねないし。まあ何にせよ、私からすればありがたいことなんだけどね」

 アリシアさんの笑みには喜びの感情が見てとれる。けれど、どことなく寂しげな感情も混じっているように思えた。
 ……寂しく思うのも当然かもしれない。
 転生ということは、この世界は彼女にとっては別の世界……同じような時間が流れた並行世界の可能性が高い。同じ世界に転生できていたとしても、テスタロッサの姓を使っていないということは同じ存在として生きられないということだろう。

「早く死んじゃった私にもう一度生きる機会をくれたわけだし……16歳になるまでの過程がないのはちょっとあれだけど。でも……うん、多分大丈夫。今後の日々は私にとって楽しいものになると思う」
「……会ったばかり……それも露骨に警戒しちゃった僕が言うのもあれだけど、君は本当に今考えてる生き方で今後生きていくつもりかい?」

 アリシア・テスタロッサだったのならハラオウンさんは妹に等しい存在のはず。またこの世界では唯一残っている家族とも言える存在だ。
 おそらくアリシアさんは今ハラオウンさんの姉ではなく、ハラオウンさんにそっくりな他人として生きようとしてる。だけどそれで彼女は本当にいいと思っているのか。強い意志がなければ、今後の生活は辛いものになりかねない。
 アリシアさんは、僕が胸の内で考えていることに見当が付いたのか優しげな笑みを浮かべる。

「生きていくよ。だって私はもうフェイトの姉《アリシア・テスタロッサ》じゃなくて、フェイトに似た人《アリシア・ライトミリア》なんだから」
「それはそうだけど、あの子達は別にテスタロッサの姓を使ったとしても」
「確かにそうしてもいいって言われたよ。でも……あの子はこれまでに苦痛や絶望を味わいながらも、折れることなく頑張り続けて、今の幸せな日々を手に入れた。私はそれを壊したくない。あの子が幸せながら……それでいいの」

 泣きそうな顔で必死に笑うアリシアさんの瞳には強い意志が宿っているように見えた。おそらく転生する際に覚悟を決めていたのだろう。そんな風に思わせられる強い意志が。僕が……いや、誰が何を言っても簡単に彼女の考えが覆ることはないだろう。
 自分勝手に……ただのアリシアとして生きられたのなら、この子はもっと楽に生きられるんだろうな。
 けれどアリシアさんはハラオウンさんのそっくりさんとして生きることを選んでも、彼女の姉としての自分を忘れようとしていない。お姉ちゃんはやっぱりいつまでも経ってもお姉ちゃんということだろう。
 一瞬自分の存在を隠して生きるなら姓だけじゃなく名前や容姿も変えるべきなんじゃないか。
 そう考えてしまったけど、アリシアさんは月日を重ねて16歳になったわけじゃない。それに名前や容姿も変えてしまえば、ハラオウンさんとの繋がりを全て絶つことになる。
 2度目の人生を歩んでいる僕でも自分の全てを変えて生きるのは極めて難しいことだと思う。アリシアさんのことをどうこう言えはしない。
 大体地球だけの規模で考えても、世の中に自分と同じ顔の人間は数人居ると言われているんだ。多くの次元世界が存在しているこの世界なら、アリシアさんのような存在が居ても問題はないだろう。騒がれる可能性はあるけど、そっくりさんとして誤魔化すことは充分に可能だろうし。

「そう……ならこれ以上アリシアさんの生き方について僕から言うことはない。でもそれとは別で困ったときは相談してね。力になれるかどうかは分からないけど、全力で相談に乗るから」
「キリヤ……何だか急に優しくなったね」
「その返しは少し予想外だったな。まああれだよ、話してみてアリシアさんが僕にとって害となる人とは思えなくなったから」
「その返しも少しどうかと思うけど……とりあえず、これから仲良くしてもらえるってことでいいのかな?」
「うん。改めてよろしくアリシアさん」
「うん、こちらこそよろしくキリヤ」


 
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