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龍が如く‐未来想う者たち‐

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秋山 駿
第二章 交わる想い
  第一話 叶わぬ再会

「ちょっと、大丈夫なの?ここは」
「大丈夫っすよ。だから、安心してください」
「安心って……」


秋山が麻田に連れられ大吾と遥と共に逃げ込んだのは、足立の事務所だった。
ただでさえ数時間前に谷村から気を付けろと言われたばかりで、そう簡単には安心できない。
当の本人である足立が居ないのは不幸中の幸いか、それでもいつか帰ってくるかもしれないと警戒を緩めなかった。

大吾はソファーで寝かされ、止血は済んでいる。
贔屓にしている医者がいると言うので、今はその医者の到着を待っていた。


「どうして、俺達を助けた」
「えっ?どうしてってどういう事です」
「さっき、足立組と言いましたね。7代目の座に近いと言われてる人物と聞いて、こちらとしても安心は出来ない。堂島さんに何かあれば……」


麻田はキョトンと目を丸くして、言いたい事を理解した瞬間大声で笑い始める。


「どこでその話を聞いたか知らないですけど、組長は7代目の座を狙ってませんよ」
「7代目を狙ってない。そんな話を聞いて、はいそうですかと頷いて流す程俺は馬鹿じゃない」
「ですが俺は足立組の幹部、若頭です。殆ど組長と行動を共にしていますが、怪しい素振りは一切ありません。というより、そんな話題があれば嫌でも耳に入るかと」


嘘を言っているようには、到底思えなかった。
殆ど行動を共にしている、その殆どのうちに入らない間に何らかの策を講じている可能性はあるが、少なくともこの麻田は何も知らないようだ。

少し警戒を緩めると、麻田が大吾の側に近付き様子を伺う。


「秋山さん、でしたっけ。堅気なのにここまでしてもらって嬉しいんですが、ここは極道の世界。これ以上は、安易に踏み込まないでほしいです」


麻田なりの優しさなのか、それとも邪魔だと思っているのか。
言葉に棘があるのは、秋山も感じていた。
だがそう言われたとしても、ここで引き返す訳にはいかない。


「お気持ちは嬉しいけど、俺は桐生一馬という男を捜してるんでね。ここで、引き下がる訳にはいかない」
「桐生一馬?だけど、堂島の龍はもう……」
「死んでない」


途中口を挟んだのは、黙って座っていた遥だった。
その目は、その眼差しは、何処か桐生に似ているような気がした。


「桐生のおじさんは、死んでない」
「秋山さん、この子は?」
「桐生一馬の連れ子だよ」


それで納得したのかそれ以上訊こうとはして来ず、対する遥が口にしたのは田宮隆造との最期の日の出来事だった。




数日前。
遥は神室町にある劇場前広場で、待ち合わせをしていた。
大荷物を抱えながらも、帽子とサングラスそしてマスクと周りにバレないよう警戒する。
半年前にアイドルとしてデビューをし、極道の娘だと明かして表舞台から去った身でもある。
少なかったがファンもいたアイドル時代を知る者と鉢合わせない様に、こうして身を隠し偽って生きていた。

全ては今日、桐生と再会する為に。


「待たせたね」


そこに現れたのは、田宮だった。
遥はサングラスを取り、一礼する。


「お久しぶりです、田宮さん」
「澤村さん、買い出しを頼んで悪かった。重かっただろう?」
「いえ。おじさんに久しぶりに会えるんですから、これくらい平気です」


そう言いなが軽々と袋を持ち上げて見せる姿に田宮は微笑み、その袋を受け取った。


「さぁ、行こうか」


遥がアイドルの引退を宣言し、桐生が瀕死の重傷を負ったあの日から、数ヶ月経っていた。

大怪我の桐生を偶然発見した男のお陰で、病院に運び込まれ何とか命を繋ぐ。
ここからどうしようと途方に暮れていた時に出会ったのが、病院まで運んでくれた男の元上司だと言う田宮だった。

だがある事情により、桐生と遥は離ればなれになってしまっていた。
しかし、それも今日まで。
桐生意識は依然として戻っていないが、また会えるのだ。
また会える日を1人で待ち続け今日という日を迎え、胸が高鳴る。
早く会いたいという気持ちで、いっぱいだった。


「ちょっと待てや」


背後からした声に、少女の希望は砕かれる。


「何だ、君は」
「田宮隆造、だな?東城会の者だ」


東城会という言葉に、遥は思わず肩を震わせる。
狙いは男が言わなくてもわかる。
桐生一馬の事だ。
嫌な予感を感じ、田宮の手を引いて走り出そうとする。
だが読まれていたのか、行く手は既に男の手下によって阻まれていた。


「ちょっと、付き合えや」


全てを狂わせたバンダナの男、喜瀬は怪しく笑っていた。
 
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