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夢の終わるその日まで

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√明久
  glass hopper

 
前書き
明久視点に戻ります。 

 
皆と話し終わったころ、タイミングをうかがって依子ちゃんに話しかけた。さっきさりげなく依子ちゃんって言ったら特にツッコまれなかったから、これからは無津呂さんじゃなく依子ちゃんって呼ぶことにしよう。
「あ、そういえば……。依子ちゃんは試験召喚獣システムをあまり知らないよね?」
「このクラスに来る前に少しだけ説明されたけど、まだあまり理解してないよ」
「今日、鉄人先生に頼んで放課後に体育館で召喚獣システムに関して教えてあげるから一緒にやろうよ!」
「え、良いの?頼んじゃうよ?」
「任せてよ」
「それじゃあ……よろしく明久君」
依子ちゃんに積極的に何か教えてあげたりすれば皆よりも距離が縮まるだろうし、観察処分者の僕ならではの特技?というか操るコツを教えてあげられることだろうし。ただ単に依子ちゃんがどれほどFクラスに相応しい成績なのか知りたいっていうのもある。というより、それが9割を占めている。
「バカなお前が無津呂に教えてあげられんのか?まあ、こいつも頭悪そうだけどな――」
「で、できるんだよね、明久君?私そこまで頭よくないからいい加減なこと教えられちゃうと困るよ」
「も、勿論できるに決まっているじゃないか。何を言っているんだよ、雄二」
余計なことを言うなと睨んだ。そうだ、みんなも誘おう。みんながいれば例えこの僕が教えてあげられないことがあったとしても助け舟を出せるだろうし。
「あ、そうだ。どうせ雄二も暇だろうから一緒に教えてあげようよ」
「まったく、いちいち面倒な提案をするバカだな、お前は。まあいいか、今日はちょうど暇だし」
満更でも無いような雄二。
「なんの話じゃ?」
「今日みんなで鉄人に頼んで召喚システムを依子ちゃんに教えてあげるっていう話」
「それは面白そうじゃ。わしも参加してよいか?」
「勿論だよ。みんなで教えてあげよう!」
「(……グッ)」
親指を天に突き上げ、参加の意を表した。ムッツリーニも協力してくれるみたいだ。ムッツリーニが協力するということは良い写真をってくれるにちがいない。期待しよう。
「ウチも一緒にいい?」
「じゃあ、私も」
「みんな、よろしくね。みんなも来てくれて本当に嬉しいよ、私」
依子ちゃんがわからないことを僕達が教えてあげるのは当たり前なのに、そんなことで喜んでもらえるなんて教え甲斐が有る。放課後が待ち遠しい。

そして放課後。雄二の後ろに人影が見える。
「翔子も参加したいんだと、構わないか?」
なるほど、そういうことか。
「翔子……さん?」
「……私は霧島翔子。今Aクラスの代表をしているわ。2学年の首席よ」
「ほう、なるほどなるほど。私は無津呂依子、よろしくね」
僕の時と同様、手を差し出して握手を求めた。霧島さんはその手を握って依子ちゃんを自分のもとまで引っ張った。そのあとそっと抱きしめて――
「?!」
他のみんなも、勿論依子ちゃんも驚いた顔をして固まっていた。
「……おかえりなさい」
「え、あ……えっと……。ただいま」
どういうことなのかは多分霧島さんにしか分からないんだと思う。
「……これからよろしく。雄二は私の夫だから、そこのところもよろしく」
「俺はお前のじゃねぇ。結婚もしていない……」
「大丈夫、私は翔子ちゃんの夫を狙わない。安心していいよ」
「……そうね……。そうよね」
「だから、俺は翔子の夫じゃ―――」
「これから仲良くしましょうね、翔子ちゃん」
二人はまるで雄二の話を聞いていなかった。
少しだけ遅れて鉄人が体育館にやってきた。
『それじゃあ、召喚できるようにするぞ』
「へぇ、これで召喚を……」
初めてこの召喚フィールドを見る人と同じ反応を示した。口で説明されてもなかなか理解するのは難しいし、それを操作につなげるまでにかなり苦労する。実際僕がそうだった。
「それでね、「サモンっ」っていうと、ほらこうやって自分の点数に対応してデフォルメされた召喚獣が出てくるんだよ」
「サモンっ……やっぱり、こんな感じでいいのかな?」
「やっぱり?……って総合教科の点数が姫路さんより、霧島さんより高くない!?」
「そんなバカな話があるか。ただでさえ次席と首席の間にかなりの点数差があるのにそんなわけがないだろう。それにこいつは―――」
「いや、だって……。7038点って相当じゃない?」
「はぁっ?!そんなことが有り得るのか?バグだろ、バグ」
「だってほら。点数がめちゃくちゃ高い人の召喚獣だけにつく腕輪も着けているし、何よりの証拠が表示されている点数だよ。いくら僕がバカだからって数字くらいはちゃんと読めるよ」
「……吉井、それは本当?」
僕と雄二の間を割って入ってきたのは霧島さんだった。
「……依子。私と試験召喚獣、勝負して」
「ん?いいよ。弱いから負けちゃうかも、私。それに操作だってまだそんなに」
「……お互い、手加減なし」
霧島さんが焦った顔をしているのを見たのは初めてだ。相当、依子ちゃんは点数が高いんだな。まぁ、そりゃそうか。あの高橋女史が7000点代だったし。それに限りなく近いのが依子ちゃんだなんて……。誰だって焦るし、何ともコメントしがたい。でもなんでここまで点数が高い依子ちゃんがFクラスに来たんだろう?点数を見る限り頭が悪いわけじゃないのに。
「「試験召喚獣、サモン」」
「……ハンデがあるからって手は抜かない」
「わかった!!私も精一杯頑張らせてもらう」
お互い点数が高いから動きが早い。それに頭がいいだけあって操作が手馴れている。依子ちゃんは初めて操作したとは思えない手さばきだ。互角、いや、それ以上か……?

『下校時間だ。フィールドを閉じるぞ』
2人の召喚勝負も終わり、以外にも霧島さんが負けた。僕の知っている限り、霧島さんが試召戦で負けたのは初めてだろう。無敗の霧島さんを今日初めて召喚獣を召喚した依子ちゃんに負けるとは誰も予想していなかったと思う。その依子ちゃんはというとあっけらかんとしていた。多分、霧島さんに勝つというすごさをまだわかっていないのだと思う。それに、いきなり戦わされるとは思ってもいなかっただろうし。
「やっぱり依子ちゃんの点数にはさすがの霧島さんも勝てないかぁ。ってことはさ、Aクラスと試召戦争しても勝てるってことじゃない?こっちには保体の天才ムッツリーニもいるし、姫路さんもいる。そして依子ちゃんもいれば勝算はあるよね?」
これで夢の豪華な教室と設備で授業を受けられるということだ。まあ、まずはAクラスとは言わずにCクラスあたりからでもいいけどね。
「まぁそうだが、こっちの勝利の条件がそろった今、向こうが試召戦を引き受けてくれると思うか?Aクラスには今戦ったばかりの翔子がいる。きっと無理だな」
言われてみれば確かに雄二の言うとおりだ。それに、考えが安直過ぎた。いくら点数が高い人がこっちに数人いるからって、Aクラスは点数が高いのは当たり前だし、もしかしたら返り討ちに遭うかもしれない。
「確かに。他のクラスなら依子ちゃんのすごさを知らないから勝算あるけど、Aクラスは無理だよね」
僕達の話に割って入ってきたのは依子ちゃん。
「え?やっぱりクラス規模で試験召喚獣戦争できるの?」
「ん?やっぱり?」
「ん?」
さっきから「やっぱり」って連発しているけど、なんで知っているんだ?ああ、そうか。転校してくるときにこれくらいのことは一応説明を受けたのかな。
「え、ああ。下剋上できればクラスの環境を交換できるんだよ。クラスだけじゃない。時には3年生の先輩方ともやろうと思えばやれるよ」
「へぇ、すごいね!ここの学校」
何よりすごいのは依子ちゃん自身だ。バカな僕なりにも、依子ちゃんが後にFクラスを大きく動かすだろうことは感じている。 
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