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夜盗

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第一章

                      夜盗
 村の者達は旅人にだ、顔を顰めさせて口々に言った。
「そっちの道は行くんじゃないよ」
「そっちの山の方はな」
「特に夜はだよ」
「行くんじゃないよ」
「絶対にだよ」
 こう彼に言うのだった。
「あの山には夜盗達がいるんだ」
「それがとんでもない奴等なんだよ」
「旅人が通ったら片っ端から捕まえて」
「身ぐるみ剥いでだよ」
「それで旅人自体もつるんでる人買いに売ってな」
「奴隷にしちまうんだよ」
「ふむ、それはタチが悪いですね」
 旅人は落ち着いた雰囲気の髪の長い男だった、背は高いが涼しげな顔立ちの優男だ。女にすら見える顔だ。
 その彼は村人達の話を聞いてもだ、こう言うだけだった。
「ただものを奪うだけではないとは」
「そうだよ、奴隷にされちまうよ」
「だから絶対にそっちには行くんじゃないよ」
 その山の方を指差して言うのだった。
「別の道を選ぶんだ」
「わし等もそっちには行かないんだ」
「油断したらこの村も襲って来る」
「この前も子供が攫われかけて」
「わし等も迷惑しているんだ」
「貴方達まで襲うとは」
 そのことを聞いてだ、旅人はまた言った。
「許せませんね」
「いや、許せないと言っても」
「それでもだよ」
「あの連中は数も結構いるし」
「武器も多く持っているんだよ」
 こう言って忠告するのだった、今も。
「だからな」
「あそこは行くんじゃない」
「別の道にしなされ」
「さもないとあんた大変なことになるぞ」
「何もかも失い奴隷になるぞ」
 こう言ってだ、村人達は止めたが。
 旅人は悠然と笑ってだった、そのうえで。
 その道に入った、道は人気が全くなくだ。
 鬱蒼とした木々の中にあった、昼でも薄暗くあまり見えない。
 旅人はその中を悠然として進んでいた、だがその彼をだ。 
 その鬱蒼とした木々の中から見ている者達がいた、まさにその彼等こそが村人達が言う夜盗達であった。
 彼等は旅人を見つつだ、ひそひそと話していた。
「おい、獲物だぞ」
「ああ、獲物だな」
「見たところ旅人だな」
「あまり金目のものは持っていないな」
「しかしな」
 それでもだというのだ。
「顔立ちはいい」
「しかも背も高い」
「売れば高く売れるか」
「男なら男娼だな」
「女なら言うまでもないな」
 こうしたことを話すのだった。
「それならな」
「まずは捕まえるか」
「そしてだな」
「身ぐるみは剥いでな」
「それから奴隷商人に売るか」
「高く売ってやろうぜ」
 こうしたことを話してだ、そのうえで。
 彼等は夜を待った、その間ずっとだった。
 旅人を追っていた、木々の中から。そして夜になってだった。
 遂にだ、旅人の前と後ろに出てだった。こう彼に言った。
「おい、止まれ」
「金目のものを出せ」
「そしてあんた自身もな」
「覚悟しなよ」
「ふむ、貴方達が村の方々がお話していた」
 旅人は自分を囲んだその彼等に言った。
「夜盗達ですね」
「ああ、そうさ」
「あの村の連中から話を聞いてるのなら話が早い」
「さあ、金出せ」
「ついでにあんたも奴隷として売り飛ばしてやるからな」
「覚悟しな」
「男みたいだが容赦しねえぜ」
 奴隷商人として売るというのだ、そしてだった。
 それぞれ刀や斧を構え旅人を捕まえようとする、だが。
 旅人は悠然と笑ってだ、その彼等に言った。
「貴方達の頭目はどなたでしょうか」
「?俺だよ」
 彼の正面にいる顔中髭だらけの大柄で如何にも人相の悪い男が答えた。身なりは汚らしくしかも荒々しい。 
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