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風葬

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4部分:第四章


第四章

「村に来てくれたお客人は何でも参加してもらうと」
「そうなのですか」
「無論お嫌なら結構です」
 こうは言われた。
「無理強いはしませんが如何ですか?」
「教授」
 私は老人の言葉を受けてあらためて教授に顔を向けて問うた。
「ここはやはり」
「そうだな」
 そして教授も私の言葉に対して頷いてくれた。
「ここはな」
「そうさせてもらいましょう」
「御一緒して頂けますかな」
「はい、是非」
 教授が老人の問いに答えた。
「御願いします、それでは」
「わかりました。それではですね」
 こうして私達はその葬式に参加させてもらうことになった。朝に話が決まり式は昼にということだった。私達は昼までの間布団を敷いてもらった部屋で休みそこで話をした。
「まさか今日いきなりだとはな」
「意外ですね」
 話は長引くと思っていただけにこの展開は正直有り難かった。不謹慎を承知で告白させてもらうと。
「だが。これで風葬を見ることができるな」
「そうですね。しかし本当に風葬が行われるのでしょうか」
「少なくとも聞いた話ではな」
 それは聞いている。しかし本当にそれが行われるかどうかはまた別の話で私達はそれも承知しているつもりだった。それについても覚悟はしていた。
「本当はなかったにしろこの村は」
「はい、それだけで研究対象になります」
 このことも二人で確認し合った。
「これだけ独特な村ですと」
「そうだ。とりあえず見聞きしたことは書き留めておいて」
「後で論文にしましょう」
 私達は昼までの間村を見回り調べることにした。調べれば調べる程独特の村だった。高齢者が多いのはこうした村の特徴だった。しかしそれ以上に田がなくまた水を井戸に頼っておりしかも家畜も碌にいないということもかなり独特なものであった。
 山の頂上にあるということだけでも独特だがあまりにも昔ながらの村ということに内心驚いていた。そうして様々なことを見てそのうえでまた部屋に戻って書き残していると。ここで老人が部屋の障子のところに来てくれてそっと声をかけてくれたのだった。
「もし」
「あっ、はい」
「時間ですか」
「そうです、宜しいでしょうか」
 障子の向こうから丁寧に声をかけてくれたのだった。
「それで」
「わかりました。それでは」
「御願いします」
 喪服は向こうで用意してもらった。和服の袴である。丈は残念ながら合わなかったがそれを着て列席した。葬儀は僧侶が行いその老婆は棺に収められていた。葬儀が終わると一旦村を出て隣の山に向かうのだった。
「隣の村で、のようですね」
「そうだな」
 教授はまた私の言葉に頷いてくれた。
「そこでか。いよいよな」
「そうですね。あれです」
 あえて風葬とは言わなかった。周囲の村の人達の耳を気にしてだ。
「じゃあいよいよ」
「見られる」
 こうひそひそと言い合いながら足を進めていった。そうして辿り着いた隣の山の頂上は開け何処か祭壇を思わせるものがあった。そこに老婆の棺を置き蓋を開ける。それで皆去っていくのだった。
 
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