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ソードアート・オンライン~黒の剣士と紅き死神~

作者:ULLR
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外伝
  外伝《絶剣の弟子》④

 
前書き
お待たせしました!前回は中途半端だったので今回からまた何時もの調子に戻しました。
今回で登場人物が増えるので大変ですw 

 
 朝、目が醒めるとアミュスフィアを装着したままだった。ログアウトした後、取り外すことなく寝落ちてしまったらしい。寝相で高価な機械を壊してしまわなかったのは運が良かった。

「……起きなきゃ」

 今日は平日。普通に学校がある。
 気分は良くなっていた。曲がりなりにも、自分の葛藤に折り合いを付けたからだろう。
 冷蔵庫の中に貯蔵してある栄養ゼリーを取り出し、トーストを齧りながら家を出る。マンションのエレベーターに着く頃にはそれを胃の中に収め、水分補給代わりにゼリーを流し込んだ。低血圧故に朝が苦手でおまけに今日は少し寝坊してしまった。朝食としては不十分だが、仕方ないと諦める。
 学校は家からそんなに遠くない。徒歩で20分くらいだ。1ヶ月と少しが経った今も通学路の風景は見飽きないもので今のところ退屈しないで登校していた。住宅街を抜け、商店街と駅前を脇目に歩いて行くと学校はすぐに見える。数年前に統廃合によって中高が同じ敷地内になり、編入された高校の新しく建てられた新校舎を最初に見たときはその大きさに思わず口を開けて放心した。校庭が中高共有になるらしく、それでは都合が悪いこともあろうということで、校舎を2階層分丸々屋内運動場にし、全生徒を収容する体育館まで別にこさえたのだから当然と言えば当然だ。ちなみに同じ敷地内と言っても中学からエスカレーター式に進学出来る訳ではなく高校に行くには試験を要する。加えて自分のような高校から入った者が混じるとかなりの人数になる。故に同級生の顔と名前を全て一致させることは難しい。たった1ヶ月ではクラスメートの顔と名前を覚えるので精一杯だった。
 席が近い、最近よく話すようになった数人と挨拶を交わし、席に着いて始業を待つ。普段はこの時何かを考えるということはしない。ぱらぱらと教科書や購入した本をめくっていてもそれは手慰みであって、意味のある行為ではなかった。しかし、今日に限っては思考が昨日のことへ流れていく。担任の教師が入って来て号令がかかるまで、そのことが頭から離れなかった。











 夜。課題を終わらせるとアミユスフィアを装着する。昨日からユウキさんがALOに入っていれば、あのメッセージに何か反応があるかもしれない。

「…………」

 あるいは、もう見限られて何も返ってこないか、だが……。
 ともかく、もう一度会ってキチンと謝らなければならない。

「リンク・スタート」

 体を寝かせたベッドが沈み込み、底の知れない暗闇に落ちていく感覚。だんだんと落下スピードが落ち、突如として視界が色鮮やかになる。
 ここは《イグドラシル・シティ》のセーブポイント。ゲーム内の時間は丁度昼頃らしく、アクセス時間が最も多い時間帯とあってたくさんの人がいた。

「……とりあえず、リズベットさんのところかな」

 いずれにせよ彼女にも謝らなければならないし、ユウキさん以外の知り合いと言えば彼女しかいない。幸いにして彼女の店はこの近くだ。
 覚悟を決め、1歩踏み出したその時。

「見つけた」

 ガシッ、と肩を掴まれた。後ろから聞こえたのは、かなり聞きお覚えのある声。間違いはしない、その声は俺を導き、ここまで引っ張って来てくれた人の声だ。

「……ユウキさーーんぐっ⁉︎」

 振り向こうとするとユウキさんの指が頬に刺さった。肩を叩いてその方向に振り向こうとすると指が刺さるあの悪戯だ。

「あははは!」
「……何するんですか」
「いやー、ライトがなんか緊張してるみたいだったから」
「真面目な話をしに行こうとしてたんですから当たり前です」
「あー、昨日のやつね。うん、なんか事情があったのは分かったよ。気にしないで良いって」

 あっさりと、簡単にユウキさんはそう言った。

「リズも気にしてなかったし、むしろ心配してたから。ライトがそんな深刻そうな顔すること無いんだよ。ここは、VR世界はゲームだけど、面と向かって話せるし、相手の表情や雰囲気も伝わって来る。言わなきゃ分からないこともあるけど、言わなくても分かることだってあるんだよ」
「……はい」

 何故か得意満面でそう言うユウキさんに俺は素直に頷いた。仮想アバターの体がずっと軽くなった気がした。

「さ、昨日中断しちゃったクエスト片付けに行こう!」
「はい!」













 それから3日後。素材もあらかた集め終わり、主なものは残り2つとなった。1つはウンディーネのプレイヤーの協力が必須な為、ユウキさんの親友だと言うプレイヤーに協力して貰うことになった。

「相変わらず寒いねー。ここは」
「そうですね」

 待ち合わせ場所のクエストスタート地点にて、分厚い毛皮のコートを羽織り、その人を待つ。

「ん?」

 目の前の景色が僅かに歪む。モンスター出現の兆候だ。数は5。

「ユウキさん」
「おっけー、任せたよ」

 新防具と武器は完成していなかったが、盾だけは既に武装が更新されていた。赤と白を基調としたバックラーを前に構え、臨戦態勢になる。次の瞬間、僅かな閃光と共にモンスターが出現した。
 《ブリザード・フェンリル》ーーここら一帯でよく見かけるMobだ。

「はっ!」

 ポップするなり飛び掛ってきた1体をソードスキルを発動し、迎撃する。カウンターアタック判定により攻撃力がブースト。通常のソードスキル攻撃時より重いサウンドが響き、飛び掛ってきたブリザード・フェンリルが跳ね返され、HPが大きく削れた。
 吹き飛ばされた個体が復帰するまでに、更に2体のフェンリル・ブリザードが飛びかかってくる。退避するのも一手だが、それでは今やってる"修行"にはならない。
 自分のような軽装戦士が前衛でターゲットを受け持つ時の立ち回りは大別して2つある。1つは敵の攻撃を回避またはいなし続け味方に隙を突いて貰って反撃する。もう1つは自らブレイクポイントを作り出し、反撃する。言うまでも無いが、前者はパーティープレイで後者はソロプレイで効果を発揮する。今、俺はユウキさんとパーティーを組んでいる訳だが、後方に控えるユウキさんは戦闘が始まっているというのに身構えるどころか剣を抜いてすら無い。勿論、ユウキさんがその気になれば今から抜刀して地面を蹴り、5体のブリザード・フェンリルを蹴散らすまでに10秒とかからないだろう。だが、これは俺が望んだことで必死こいて修行している、さっきの後者側の戦闘方法だ。

「くっ……」

 バックラーで受け止めたブリザード・フェンリルを押し返す。続けて来た2体目はバックラーを構えたまま体を下に潜り込ませるようにしゃがんでやり過ごす。そしてそこから手と足の位置を少し変えてソードスキルを発動させる。片手直剣の基本技で、ジャンプからの垂直斬りを行う《バーチカル》。同じ基本技のスラントより応用範囲は狭いが、威力が上で隙もそこまで変わらない。一撃では仕留められなかったものの、即座に横転して距離を取る。赤いダメージエフェクトを溢しながら攻撃を食らったブリザード・フェンリルが唸る。いつの間にか残りの3体も俺の周囲を取り囲み、威嚇するように歯を剥き出しにしていた。

「…………」

 少し前の俺ならばこの状況をどうすることも出来なかっただろう。しかし、今は違う。毎日自分が少しずつ強くなっているのを実感出来るようになった。その感覚が正しければ……この程度は何とでも出来る。

「行くぞ……!」

 重要なのは周りをよく見て素早い判断を下すこと。無駄な動きを省くこと。本番前の前哨戦にしては少しハードかもしれないが、俺は意識のギアを切り替え集中力を高めて行った。











「はぁ、はぁ……」
「お疲れー。もう結構余裕?」
「……いえ、ちょっと舐めてました」

 結果的には勝ったものの、今回のクエスト用に買い込んだアイテムを僅かに使ってしまった。多めに買って来たとは言え、この消費は自分の慢心が生んだものだと心の中で戒める。

「まあ結果オーライじゃないかな。勝ったし、いい経験にもなったでしょ?」
「……そう、ですね」

 反省点があったとは言え、今までで最も良い動きが出来たという実感はある。その事実はしっかりと覚えておくべきことだ。

「あー……でも、結構吠えられてたね」
「え?」
「こういう群れるタイプの獣系モンスターをライトだけで倒したのは初めてだと思うんだけど……戦闘中に吠えられると、同一フィールドの同系統モンスターがわらわらと来ることが……」



 ーーーオオオオオォォォォン……



「……それ、先に言ってくれません?」
「……てへっ」

 キレた。後頭部に手をやって舌をチロっと出してるその仕草はとてつもなくグッと来てドキドキするけど、それは置いといてキレた。

「とりあえず空に逃げれば大丈夫ですかね」
ふん(うん)ひょうはいのふれすしゃえひょへれははいほーふ(氷塊のブレスさえ避ければ大丈夫)いはいいはい(痛い痛い)

 何だろう。怒りを込めて両頬を引っ張ってるのに、にこにこしているユウキさんを見ていると敗北感を感じてしまう。

 上空上がり、強風に煽られながら待機する。眼下では20体あまりのフェンリル・ブリザードがワンワンとこっちを向いて吠えたぎっている。……もしかしてこれは俺たちがここにいる限り増え続けるのではないだろうか。

「あの、ユウキさん。集合場所変えてもらった方が良くないですか?これだと落ち着いて合流も出来ないと思うんですけど」
「え?うーん……一応知らせるけど、大丈夫じゃないかな?」
「…………」

 もういい加減慣れたが、ユウキさんの仲間という時点で察するべきだった。多分、相当のやり手というか……鬼のように強い人なのだろう。

「あ、来たよ」

 ユウキさんがそう言った途端、眼下のブリザード・フェンリルの群の端が"爆ぜた"。
 青白い爆散エフェクトはモンスターが倒された時に生じるものだ。

 現れたプレイヤーは男女4人。
 先頭で暴風のように暴れているのはウンディーネの女性だ。ウンディーネのフィジカル面のハンデを何それ美味しの?と言わんばかりにモンスターを素手で殴り倒している。
 すぐ後ろは水色のコートをなびかせ、2本の剣を自在に操る同じくウンディーネの男性だ。二刀流や双剣と言ったカテゴリのスキルは今の所実装されていないが、彼の剣技はソードスキルのような鋭さがある。
 後方に控えているのもウンディーネの女性2人。木の枝のようなワンドを持った水色の髪の女性と長杖を持ち、ローブを羽織った薄水色の髪をした女性だ。ワンドを持った女性の装備はメイジのものではなく、軽装戦士のものだが……防御力はあまり変わらない筈なのに、メイジ用防具の専用スキルを捨ててまでそれにした理由は一体……。
 その答えはすぐに出た。軽装戦士防具の女性は隣に立つ長杖のプレイヤーに声を掛けると、ワンドをストレージにしまい、剣を取り出した。それを腰に吊るすと目にも留まらぬ速さで抜刀した。そして、陸上のクラウチングスタートのような姿勢になるとーーー煙に包まれた。

「…………っ⁉︎」

 いや、違う。煙の正体は降り積もった雪が舞い上がったものだ。その女性プレイヤーが地面を蹴って加速した時に生じた雪煙。
 視界の中央で激しいライトエフェクトが生じる。さっきまで視界の端にいた女性プレイヤーの発動したソードスキルの光だ。
 ソードスキルの発動によりさらに加速した女性プレイヤーは辺り一帯を蹂躙する。そのソードスキルほフェンリル・ブリザードを撥ねただけで塵と変えた。

「……すごい」
「あははー。アスナは相変わらず戦闘になると派手にやるねー」

 もう何だか同じ人間のやっていることとは思えないが、そうではない。これが、上位プレイヤーという人種なのだろう。その人が膨大な時間をかけて積み上げたモノの輝きが、今目の前で繰り広げられているものだ。
 最終的に30体近くまで膨れ上がった群れが瓦解したのは今回の助っ人に来てくれた人たちが現れてたから1分のことだった。













「アスナー!」
「え、ちょ、ユウ……きゃあ⁉︎」

 地上に降りるなり走り出したユウキさんは、そのままさっき派手にこの場を駆けて行ったアスナさんに飛びついた。
 対するアスナさんはただ、にこにこしながら手を振っていたが、ユウキさんが跳躍した辺りで目を丸くするとそのまま押し倒されて地面に派手に転倒した。

「来てくれてありがと!会いたかったよ!」
「ゆ、ユウキの頼みだし、別に大したことじゃ……というか、一昨日病院で会ったばかりじゃない」
「1日もアスナに会ってない!」
「えぇー……」

 キャッキャと戯れる2人に驚いたものの、何だか見てはイケナイもののような気がして意識して視線をズラす。残りの3人も、2人のことは何時もの光景だと言わんばかりに自然にスルーしてこちらを向く。

「こんにちは。えっと……ライトと言います。ユウキさんに色々お世話になってます」
「あたしはアルセだ。よろしくな、ライト。今日は頑張ろうぜ。んで、こっちの優男が……」
「セインです。優男って……まあよく言われるから良いけど。初対面なのにガサツな女性だと思われるよ、アルセ」
「あたしガサツだし」
「宣言しちゃうんだ、そこ……」
「ふふ……相変わらず、仲が良いですね。お2人とも」
「え⁉︎い、いや違うよシウネー。ただ付き合いが長いだけで……」
「あら、別に何も言ってませんよ?」

 シウネーさんは笑っているのだが……どこか恐ろしい。セインさんが慌てて否定すると、どうやら気が済んだらしく、含みのない純粋な微笑みになった気がした。

「私はシウネーと言います。ユウキと同じギルドの者です。よろしくお願いしますね、ライトさん」

 視線カーソルを合わせれば分かることだが、シウネーさんの頭上には、確かにユウキさんのと同じエンブレムが浮かんでいる。それでユウキさんがギルドに入っていることは知っていたが、メンバーを紹介されたことは無かった。

「よ、よろしくお願いします」

 互いの自己紹介が終わった辺りでユウキさんとアスナさんが戻って来た。アスナさんは少し疲れた様子だったが、嬉しそうなユウキさんを見て微笑んでいる。

「こんにちはアスナと言います。よろしくね」
「はい。よろしく、お願いします」

 アスナさんから差し出された手を握り返した際、彼女の顔を初めてまともに見て思わず一瞬言葉に詰まってしまった。アスナさんはーー正確に言えば彼女のアバターは、なのだろうがーーとても端正な顔つきをしていた。ALOのアバターはランダムパラメーターとは言え、ブサイクを探す方が至難の技だ。とは言え大半は無難な顔立ちになるものだが、彼女のアバターはランダムパラメーターが起こした奇跡と言って良いだろう。

「ライトー?アスナに見惚れるのは良いけど、アスナは彼氏いるからねー?」
「え⁉︎いや‼︎別に見惚れたとかは……⁉︎」
「ちょっとユウキ!からかわないの。まったくもう……」
「ちなみにこいつらも夫婦だからな」

 アルセさんがセインさんとシウネーさんを指差す。するとセインさんは少し照れたように頬を掻き、シウネーさんは思いっきり顔を伏せてしまった。

「アルセ、ALOに結婚システムは無いよ」
「知ってるよ。言葉の綾だ」

 ……いやまあ、周囲がリア充するのは一向に構わないのだが、出来れば巻き込まないで欲しい。不快とは思わないにしても居た堪れなくなる。

 ひとしきりコミュニケーションを取ったところで早速出発することになる。当初の助っ人参加予定ではアスナさんだけだったそうだが、アスナさんはスキルの半分を自身の白兵戦用に割いてる為、支援特化のシウネーさんが新たに参加。前衛が少し薄いということで近接特化のアルセさんと攻守支援と万能型のセインさんが加わってくれたらしい。ウンディーネは種族の固有スキルによって支援無しでもある程度水中で活動出来る。これだけ揃っていると頼もしい限りだ。

「それじゃあみんな、行こう!」

 水中での活動を支援する魔法をかけてもらうとユウキさんを先頭に、1人ずつ海中へ飛び込んでいく。
 武具を鍛える為のクエストも残り僅か。そして、俺はこのクエストで初めて《レイドボスモンスター》と相対する。 
 

 
後書き
正妻様参戦。これは勝ったな(何に)
さて、今回も戦闘控えめの説明多めになってしまいましたが、この外伝でちょくちょく出てくる本編キャラってパンピーと比べると、実はみんな異常に強いのよ?ってことがよく分かって頂けたことかと思います。

レイドボスに1パーティーで挑む辺りでもうね。ライトの純粋な価値観がどんどん歪められていく様子も書いていて楽しいです(ゲス顏)
後半でアスナさんがめちゃくちゃプッシュされてますが、私はあくまでユウキ一筋です。ユウキ可愛いよユウキ。
ただ、ユウキとのカップリングでよく描かれているのがアスナで、それをよく見るせいか最近、アスナも可愛いと思ったりしてます(矛盾)

それはさておき……次回が終わったらようやく外伝もクライマックスという感じですかね。早くアリシゼーションのプロットも固めなければいけないのですが、諸々あるんですよ諸々←

それでは次回もお楽しみに。では! 
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