| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

乱世の確率事象改変

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

言の葉の不足分



 南蛮の攻略は侵略からの解放という大義名分があった。ソレはどんな悪辣な輩なのかと戦々恐々としているモノも少なくない。
 五胡との戦を思い出せば背筋が凍る。
 五胡は力量もさることながら、特筆すべきはその残虐性にある。白蓮と星は皆に口を酸っぱくして言っていた……五胡を人と思うな、と。まさにその通りだった。
 凡そ人の行いとは思えぬ非道さ。噂に聞く『紅揚羽の狂宴』に似た薄ら寒い残虐非道な戦後。儒教の有無に留まらず、死者への冒涜など茶飯事であった。

 アレは悪だと、愛紗は思った。人々の思い描く侵略者の姿をまま表していた。それは確かに、白蓮や星が幽州を守ることに必死になるはずだ。
 烏丸はまだ優しいほうだったらしく、鮮卑に関しては白蓮ですら口にするのを憚るほど。
 もしやそれと同じなのか、と南蛮に対しての恐怖は日々膨らんでいる。

 馬を進めて幾日。
 森の端々で休息を取りつつ行軍して来たが都市らしいモノは何も無い。
 兵達は慣れない蒸し暑さに体力も奪われ、士気もあまり高くない。暑いからと飲み水も大量に消費してしまうし、食糧に至っては湿気と気温で腐りも早い。
 ただし……劉備軍は幸いなことに「とある知識」を持っている。
 嘗て居たあの男が残した知識を朱里は余すところなく覚えており、それを思考錯誤した上で使っているのだ。

 例えば水。
 軍行動をした時に問題となる飲料水の確保は、簡易的な濾過装置の考案によって払拭されている。
 例えば食糧。
 店長と料理を語らっていた彼が非常食の管理に口を出さないわけが無い。乾燥させた食糧も、“沸かした湯で戻す麺類”も最近になって完成していた。

 余談として、さすがにその麺類は市場に出回ると経済的な問題が出るからとまだ流通はさせていない。益州が安定していけば後々には民にまで浸透させる手はずである。

 愛紗は彼の知識をあまり知らない。
 朱里が恐怖に震えながら思い出しているソレが、どれだけのモノかは分からない。
 しかし人命を救うという面で目に見えて結果が分かる彼の知識に感謝と感嘆を持っていた。

 ズキリと胸が痛む。

 その彼を絶望に追い遣ったのは誰か……誰を責めていいわけでも無いと白蓮は言うが、愛紗は自身を責めていた。
 ふるふると頭を振った。
 今はいい。考える時では無い。幾分前に星と彼のことを話したからか、どうしてもそんな事を考えてしまった。
 心持を切り替え、表情を引き締め胸を張り、ただ真っ直ぐに前を見た。

「戦場に向かうというのに女々しいのは私らしくない、でしょう?」

 独り言をぽつりと。からからと笑いながらそんなことを言う男が居たはずで……。
 これではまた星に笑われるやもしれない……そう考えた愛紗は、呆れたようなため息をついた。
 馬を進め、兵を纏め、斥候を放ち……軍として行軍していくことまた幾分。異様な熱気にいつものように感覚が鋭く働かない。怯えたケモノ達の気配に気を取られることもあった。ざわついた森は静かとは言い難く、細心の注意を払っていたとしても普段より行軍の質が少しばかり劣る。

 だからだろう。森の中での突然の襲撃に彼女達が一歩遅れたのは。

「にゃぁぁぁぁぁぁ!」

 殺気に鋭さは無かった。バカ正直に繰り出されたその攻撃は、木の上から声を上げて真っ直ぐに振り下ろされた。
 先頭を進んでいたのは三人。二つ名付きで呼ばれる将が並んでいたのは運が良かったと言っていい。一寸驚くも、三人が三人ともそれぞれ反応し……その一撃を三人で受け止めた。
 炸裂する轟音は鈍い金属音を上げて。
 槍と偃月刀と蛇矛を重ね、その大型武器を受け止めた。一撃によって痺れる手、その力から只者では無いと瞬時に把握した。

 敵からの攻撃は不意打ちの類。武人としては褒められたモノでは無い。
 というより、軍を進めているとは言っても護衛の為を兼ねてであり、まず大前提として争いをしたいわけでは無いのが劉備軍のスタンス。まずは面と向かって言葉を交わそうと思っていたのも不意打ちを許した理由かもしれない。

 三人が払いのけると、敵はくるりと宙を一回転して彼女達の眼前に立ちふさがった。街道の真ん前に立つ一人の少女を見つめてみる。鈴々と同じくらいかそれ以下にしか見えないが、その鈴々こそが幼子であれど飛び抜けた武を持つやもしれぬことへの証明である。
 気迫と気合を込めた心は研ぎ澄まされ、三人が目の前のモノへの警戒を最大限に引き上げた。

「中々やるにゃぁ。美以の一撃を防ぐなんてびっくりしたじょ。ふむふむ、ちょっと美以だけじゃ三人相手はきつそうだにゃ……お前達っ!」

 森の草木が揺れる。そこかしこに現れたのは少女の群れ。年端もいかない少女達が武器を持って兵士達を囲んでいた。
 罠だと気付いた時にはもう遅い。気配もなくどうして、と愛紗は思うも、此処は敵の庭のような場所なのだ。細作を出していたと言っても帰ってくる前に襲われればその意味もない。
 睨みつけながらも思考は巡る。ただし、愛紗の頭にじわりと困惑が渦巻く。

――しかしなんだ? 何故ここには……少女しか居ないのだ。

 見渡す限りに少女ばかり。愛くるしい見た目でふにふにの肉球を付けた彼女達の様相に兵士達も戸惑いを隠せない。
 鈴々は廻りを威圧しながら睨みつけ、星は何やら思考に潜っている様子。対面的には見せていないが、一番動揺していたのは愛紗だった。

「ふむ……幼女だらけの軍、というわけか。どうりで敗北した兵士達が語りたがらぬはずだ。幼子の集団に負けたとあっては二度と戦えまい。それ以前に、幼女が群れを成して大の男共を叩きのめしたなどと、誰が信じてくれようか」

 喉を鳴らして合点がいったと頷く彼女は楽しそうに独り言を呟き、愛紗の肩をぽんと叩いた。

「ふふ、彼が居なくて良かった。戦うどころかこれを見たらこの地に永住されてしまう。おっと……そう考えると真逆に位置する幽州に辿り着いたのは、天も彼の幼女趣味の矯正を望んでいるということに違いない」
「こんな時に冗談を……」
「お主はどうかな、愛紗。彼とは違いこ奴等と戦える、そうだろう?」

 言われて躊躇いに気付く。目の前に現れた敵を敵として認識していないことに、星から言われて初めて気付いた。
 見た目が幼いから戦わない……そんな選択肢があろうか。
 いくら愛らしい見た目だとしても、武器をもって襲い掛かってくる相手に武器を向けないことなど出来ない。自分達は武人であり、戦人なのだ。此処が戦場というのなら、敵対するモノとは正しく“コロシアイ”をするのが道理。

 選別しろ、と甘い声が囁いた気がした。
 星は先ほど、彼は戦わないと匂わせたが……愛紗の中では違う。
 いくら彼を惑わすような幼い体躯であろうとも、目的の邪魔をする相手を手に掛けないなど……“あの黒麒麟”がするはずも無い。

 戦わなければ仲間が死ぬ。
 戦わなければ友が死ぬ。
 戦わなければ部下が死ぬ。
 戦わなければ理想が遠のく。
 戦わなければ……死した誰かに顔向け出来ない。

 からからと声を上げ、乾いた笑みを浮かべ、瞳を絶望に歪ませて……その男は少女達を殺すだろう。
 星には想像出来なくとも、愛紗には彼のそういった姿を想像するのは容易かった。
 引き攣るような胸の痛みが走った。されども無理矢理に抑え付けた。
 自分はどうだ。ああ……戦をするのなら殺そう、と。

 同時に、此処で間違えてはいけない。
 自分達が行うのはヒトゴロシでは無いのだ。殴りに来たのではないのだ。まずは何をするか、過ってはならない。
 きっと彼でもこうするはず。優しい彼なら……戦う前に確かめ、戦わずに済む方法を必死に探すはず。問答無用で殴ると言ってから殴るような、曹操と同類なわけがない……と。
 ぐ、と唇を引き結んだ愛紗は代表と思われる猫耳の少女の目を射抜いた。

「お初にお目に掛かる。南蛮大王、孟獲殿とお見受けする。我が名は関羽、関雲長。益州牧より和睦の使者としてこの地に参った次第に」
「鈴々は張飛、劉玄徳が一の家臣、張翼徳なのだ。南蛮の皆と仲良くする為に此処に来たのだ」

 武器を仕舞い、拳を包む。ぺこりと頭を下げた彼女に驚いたのは孟獲だけならず、味方の兵士達に至るまで全ての者達だった。
 合わせた鈴々は既に武器と両手を頭の後ろに持って行き、八重歯を見せて年相応の笑顔を見せていた。

 いきなり一撃を見舞われたのも気にせず語る様は明らかにおかしい。だが、愛紗と鈴々が臨戦態勢を解いた事で南蛮の兵士達にも困惑が走った。
 孟獲も同じく、怒って斬りかかってくるとばかり思っていたのにこの対応である。不思議そうに二人を交互にみやっていた。
 ほう、と感嘆を零した星は任せるつもりのようで口をはさむことは無く、自分が名乗りを上げないことで孟獲を試している。

――鈴々が警戒を解いたのは年齢が近しく見えるから、か。突き刺すような殺気や敵意は確かにないが……まだ友好を示すには早い。

 とりあえずは様子見、と槍を下げた星が一歩下がった。劉備軍最古参である二人にまずは任せてみようと。油断はせず、僅かに自分の隊の兵士に目くばせだけして。
 そんな星の思惑には気付いていないらしく、孟獲は名乗った二人を交互に見やる。

「……確かに美以が孟獲にゃ。
 でも、和睦の使者なんてもう聞き飽きたのにゃ。美以達はお前達と仲良くするつもりなんかない。大人しく荷物を置いて逃げるならそのまま帰してやってもいいじょ。軍が持ってるモノなんて不味いのは分かり切ってるけどにゃぁ」

 ふふん、と腰に手を当てて威張る仕草が可愛らしい。
 小さな少女ではそのまま帰してやってもいいなどと口にしても誰もが苦笑と共に流してしまうだろう。
 むっとした鈴々とは対照的に、星は口元をにやけさせながらも警戒の為に気を張った。愛紗は変わらず、ただじっと少女と視線を合わせて表情一つ変えない。
 なんとも可笑しな空間ではあったが、この場の危うさを理解しているのは星と愛紗だけ。
 兵士達は見た目少女の集団に囲まれているからか普段の戦場よりも緊迫感が抜けている。先ほど南蛮大王の少女が、彼らが太刀打ちできない武将三人を“防御させた”というのに、である。

「何故、そうおっしゃられるのかお聞きしても?」

 堅い口調のままで尋ねた愛紗に、孟獲は呆れた様子で手をふる。そんなことも分からないのか、といいたげに。

「あーんな狭い箱に閉じこもってる人間達なんかと仲良く出来るはずないにゃぁ。
 目の前のモノを好きに食べる自由もにゃい。飢えている誰かに分け合うような心の余裕も持てにゃい。他人の目を気にして言いたい事も言えにゃい。強い奴が弱い奴を守らにゃい……んでおいしいモノを自分達だけで食べてばっかり。
 そんなくっだらない人間たちと仲良くしたいなんて思うわけにゃいだろー?」

 やれやれとため息が一つ。
 見下しの視線に込められているのは無関心という名の刃に等しい。彼女は南蛮以外の人間に呆れ果てていた。

「森では弱い者は食べられるのが当然、でも美以はこいつらが好きだから食べさせたくにゃい。昔々からお前らの国は美以達の国にちょっかい掛けてきてたのも知ってるし、こっちはお前らの国に仕返しに行って追い返された事もある。最近はお前らもこっちにちょっかい掛けて来てるし、汗臭いおっさんが何回か攻めても来たにゃ。
 どっちかが強かったら終わる話なのに今の今まで掛かってるんだにゃ。だから美以はお前らと仲良くしにゃい。
 お前らの箱に閉じ込められることを美以達は望んでにゃいんだから。それに……」

 犬歯を見せて笑った南蛮大王は、愛紗達に向けて虎を幻視させるような殺気を放った。

「美以達の縄張りに何回も無断で入った奴等を許すわけにはいかないのにゃ。お前らの話はもう飽きた。和睦とか仲良くとか言うくせに、それならどうして武器を持って此処に来た?
 殺すつもりが無ければ武器なんて持たない。美以達でも狩りをする時くらいしか武器は持たない。お前らは嘘つきなのにゃ。ケモノは牙と爪を外せないけど、お前らは武器を外せるはず。だからお前らみたいなの……美以は大嫌いなのにゃ」

 そうだそうだー、と真剣な話をしているはずなのに飛んでくる可愛らしい罵倒の声。
 周りの少女達からやいのやいのと言われて真剣になり切れない空気。孟獲達は真剣そのモノであるが……愛紗達はやりにくいことこの上なく。
 たじろぐ兵士達は何も言えない。言えるはずも無い。愛紗達が代表であり、応えるべきは将である彼女達なのだから。

――……子供の思考だからこそ我らを滅ぼすに値する。真っ直ぐに突きつけられる言の葉は間違いなく正論だ。朱里や藍々が居てもこの論は崩せんな。いや、理で追い詰めれば逆上させるだけ。

 矛盾を突かれて論舌では完全に敗北を喫したと言ってもいい。変に落ち着いている星は“楽しそうに”孟獲の話を吟味していた。
 いつかは突かれる矛盾だ。劉備軍に向けられる弾劾の声は必ずある。それを分かっていて尚踏み越え進むを決めた桃香や愛紗、朱里達がどう返すのか、星は気になっていたから何も言わない。

 咄嗟に返せなかったのは愛紗。兵士達も動揺している様を見るに迷ってしまったらしい。
 ただ、思わぬ所から反論が上がった。

「何言ってるのだ? 人は弱いから武器を持つのは当たり前なのだ。こんな森で虎にあって武器が無かったら食べられるだけ、そんなことも分からないのかー?
 お前だっていきなり殺しに来たし、武器が無かったら死んでたのだ」

 変なことを聞くなー、と首を捻った鈴々を見て一寸固まり、直ぐに星は噴き出した。
 ああそうか、と思いつつ鈴々に対する評価が上がる。

――単純な答えを見つけられるのは鈴々の返しはストンと胸に入ってくる。大の大人が言っても上から目線に聴こえるが……鈴々が言うのは当たり前の事柄。下手に軍関係にばかり捕らわれているとそんなことさえ見落としてしまう、か。まだまだだな、私も。

 軍師達なら論理的な思考で丸め込もうとしただろう。それでは意味が無いのだ。
 分かり易く、簡潔に相手の非を言い当てなければならないこういった場では、単純に心の底から疑問をぶつけられる鈴々の方が有能だった。

 見れば孟獲は少し驚いた表情で自分と大差ない身長の鈴々を見つめていた。む、と数瞬の後に眉を寄せて腕を組む。

「美以達の縄張りに勝手に入るから悪いのにゃ」
「だって入らないと話すことも出来ないのだ。お使いに向かった人も追い返されたなら鈴々達が直接来るしかないのだ」
「お前らと話すことなんてないじょ!」
「鈴々達はあるのだ!」
「お前らの都合なんて知らないにゃ! 聞く気もにゃい!」
「勝手に言うからいいもん! 偶に来て畑を荒らしたりするから村の人達が困ってるって聞いたのだ! 荒らすのはやめてって言いに来たのだ!」
「そんなことしてない! 美以達は森から出たりしてないのにゃ!」
「嘘なのだ! だって村の人が言ってたのだ! 毎年野菜が無くなるって! 変な足跡がついてたから南蛮以外は有り得ないって! 動物の姿も見ないなんて変なのだ! 鈴々の住んでた村だって動物に荒らされたことあるけど誰かは荒らしてるとこを見たことあったのだ!」
「うにゃぁぁぁ! してないったらしてないにゃ! 嘘つきはお前らなのにゃ!」
「ぜーったい嘘なのだ! お前達は泥棒なのだ! お兄ちゃんも嘘つきは泥棒の始まりって言って……っ……」

 次第に熱が籠ってきた子供の言い合いの最中、不意にぽろりと出た言葉で鈴々が止まる。
 完全な無意識で口から零れた。下唇を噛んで何かを堪えた彼女は、キッと孟獲を睨んだ。

「考えてもみるのだ! 自分で獲った獲物を横取りされるのと同じなのだ! モノを盗るのは悪いことで、お前達が悪いのだ。でも悪くてもお前達にも理由があるかも知れないってお姉ちゃんが言ってたからそれを聞きにきたのだ!」
「知らない事で難癖付けられるなんて思っても見なかったのにゃ! どうせお前ら外の連中が美以達を悪モノにする為にでっち上げた嘘なのにゃ! ぜーったい嘘つきはお前らだじょ!」

 ぐぬぬ、と互いに睨み合う少女二人。間で話を聞いていた愛紗と星は疑問ばかりが頭に浮かぶ。
 特に先程、鈴々が一瞬見せた逡巡は星の頭を冴えさせた。

「……孟獲殿、つかぬことをお聞きするが……あなたがしていなくとも他の者がしていたということはないので?」
「お前っ……ミケやシャムやトラがそんな意地汚いことするっていいたいのか!?」

 激昂。怒りの炎の向く先は星に走った。射殺さんばかりの視線は殺気に彩られ、仲間を侮辱されたことを心から怒っていた。
 しかしながら星は動じない。真実を知る為には誰かが疑問点を突っ込まなければならない。

「いや、三人だけとは限りますまい。我らであっても盗賊に身を落とすものが居る始末。それともなんですかな……南蛮では盗賊に身を落とすモノはいない、と?」
「当たり前だじょ! ミケもシャムもトラもみぃんな大家族なのにゃ! 皆一緒なのにそんなことするはずないにゃ!」

 ふと、疑問が浮かぶ。何故南蛮大王は先ほどから三人と思われる名前しか呼ばないのか。
 ぐるりと当たりを見渡して少女兵士達を確認して……星は絶句した。

 余り気にも留めていなかったが、よくよく見れば少女兵士達には三種類しか居ないのだ。
 人として生まれるのなら有り得ない事態。全く顔も姿も同じ人間がうようよいる。これほど恐ろしいことは無いだろう。
 やっと気付いたのか愛紗も絶句していた。同じように気付いた兵士達からその気味悪さに後ずさった。

 その怯えの空気を感じ取って、孟獲はふんと鼻を鳴らす。

「ほらみろ。お前らが悪いからお前らがびびってるんだじょ。
 やいちびっこ! お前らが悪いって仲間が証明してるじゃにゃいか!」
「むぅ……なんで星も愛紗も黙ってるのだ……」

 何故に星達が驚いたのか分からず、鈴々も当たりを見渡す。
 別段、彼女は驚かなかった。神経が集中しているのは孟獲であって、他の少女兵士の見た目などどうでも良かったからだ。
 立ち直った愛紗と星は互いに顔を見合わせた。驚きはしたものの、現在最優先にする事柄は南蛮王孟獲との情報錯誤であることは間違いない。

「いや、さすがにこれだけ同じ顔が並んでいたら誰でも驚くぞ孟獲殿。それよりも……」
「まだ言い訳するっていうなら――――」

 どうにか話を続けようとするも、もはや通じそうにない。理知的に話が出来る相手ならば良かったが、孟獲たちはそうではなかった。
 不機嫌を全面に押し出して武器を構え、大地に鼓動を伝えるかのように足を踏み鳴らした。
 ケモノ耳を付けた少女兵士達も一斉に立ち上がり武器を構え、呼応するかのように足を踏む。

「生き残れたら命乞いと一緒に聞いてやるのにゃぁ!」
「「「にゃー!」」」

 仲良くしたいと交渉をしたとは言っても、此処が森の中で彼女達の縄張りであることには変わりなく。何時如何なる状況でも戦場が開くことはあったのだ。
 刃を交えるしか道は無い。そうでなければ殺されるだけ。いくら口で喚こうとも、話を聞かない輩も居るのだ。

「掛かれーっ! 突撃にゃー!」
「「「にゃー!」」」

 駆け出してくる少女兵士達。
 瞬時に戦場用に切り替わった脳髄は冷たい判断を下す。星も愛紗も鈴々も、自分達では足りなかった不足分を理解する。
 躊躇いを持った愛紗も、悪を責めた鈴々も、冷静でいようとした星も、三人ともに非はあった。
 桃香のように、白蓮のように、そして……黒のようには出来なかった。

 もしかしたら違うやり方で、戦いなどしなくても解決出来たかもしれない。それでも目の前に来る現実は常に一つであり、己らの願いの為には乗り越えるしかなくなった。
 数奇なことに、彼女達の三人全員がヒマワリのような笑顔を浮かべる優しい王ならどうしただろうかと……思い出さず、からからと笑う漆黒の男ならどうにか出来ただろうかと、そんな事を考えていた。


 
 

 
後書き
読んで頂きありがとうございます。


原作で南蛮の三人が量産型っぽく言われてたのでそのまま使います。
南蛮と戦うってことはこういう事態なわけで。
あくまで恋姫なのでお許しください。


ただ、原作では簡単に戦ってましたが
大義を重んじる劉備軍の兵士達は幼い子供を殺せるんですかねぇ……

ではまた 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧