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ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~

作者:???
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妖精亭-フェアリーズハウス- part5/嵐を呼ぶ徴税官

次の日、ルイズはここにきて思わぬ実力を発揮し始めた。
何を言われても決して客に手を上げず、触られそうになっても他の子達がやっていたようにそっと自分に触ろうとしてきた手をやんわりと握って防いだり、そして何よりデルフのアドバイスを見事に活用したのだ。
まずは手始めに天然の笑みを披露すると、もじもじと恥かしげなしぐさを見せる。どうかしたのか?と問われると、「お客様が素敵だから」と世辞を言う。だがこの程度でこの店の常連たちは陥落しない。そこで、ここからがルイズの本領発揮だった。スカートの裾をつかみ、少し姿勢を低くしながら優雅に一礼する。貴族の令嬢が王侯に対する一礼だ。その身のこなしは平民出身の他の妖精たちにはできることではなく、ルイズが由緒正しき公爵家の三女ならではの必殺技となった。本物の令嬢のようだ!と男たちの関心を集めた。彼女の顔立ちも高貴なもので、実は上流階級の出では?と身を乗り出して尋ねる者が出てくるが、ルイズは悲しげな表情を浮かべて同情を誘う。
すると男たちは、ルイズがきっと両親の借金返済のために屋敷のご奉公に当たっていたが、変なことまで仕込もうとする屋敷の主人の横行に耐え兼ね、この店で働くようになったのだと憶測を立てる。それを察したルイズは笑顔を客に見せると、見事客の心を魅惑の魔法にかけたように奪い去る。
財布の線が緩まってしまい、ついに男性たちはルイズにチップを払い出した。
とはいえ、愛想をかまして一芝居を打つのは癪に触っていた。だから適当に客の見えないところで荒い息を吐いて見せた。
しかし、たまったチップを見てよっしゃ!!と貴族らしからぬガッツポーズを心の中で表すルイズ。ふふん、私ったらやればできるじゃない!全く、男はちょいと小芝居を打っただけですぐコロッとなるなんて、単純なんだから!この調子でいけば、あの犬だって私に夢中に…いひひひ。
と、サイトが皿洗いをしている厨房に視線を向ける。下々の平民に媚を打つのは、正直腹が立つ者の、自分の魅力に強い自身をつけたルイズはサイトの様子を見てみる。あのバカ犬も厨房から私の魅力に注目してるはず……と幸せに浸っていたのだが、その優越感も見事に打ち砕かれる。
「ねえねえ、ルイズって実は貴族なんでしょ?」
サイトはルイズの活躍そっちのけで、皿洗いをしながら、一時休憩を取っているジェシカと二人で話をしていた。
「な、なんでそう思うのかな?」
ひきつった笑みを浮かべながらサイトは首をかしげて見せる。
「とぼけたって無駄よ。もうとっくに知ってたんだもの。あんたたちのこと」
「え!?ま、まさか…」
「そ、シエスタが時々手紙をくれるのよ。パパもあたしもシエスタの手紙で、あらかじめ聞いてたの」
「じ、じゃあ最初から知ってて俺たちをこの店に?」
「そゆこと。ま、どうして街のど真ん中で一文無しで座り込んでたのかは詮索しないけど」
最初は黒の地味なワンピースを着せたっていうのに…シエスタが従姉妹でしかも手紙であらかじめ知ってたって…モロバレじゃん。最初から変装の意味なかったじゃん。しかもハルナが少なくともトリステイン人じゃないことまで見きっていたとは…いずればれるのも時間の問題だったんだろう。サイトは頭を抱えた。
「それにあたしはパパに店の女の子の管理も任されてるの。だから女の子を見る目は人並み以上よ。ルイズったら皿の運び方も洗い方も知らなかったもの。しかもいらないほどプライドが高いし、今客の男共に見せたあの物腰…絶対貴族ね。
ハルナは、たまたま家事を親にまかせっきりにしてただけってのはわかるわ。けど、見たこともない服を着てたわね。結構かわいいし、異国の子でしょ?
シエスタからの手紙がなくても、あたしの眼は誤魔化せないわ」
「貴族のお嬢様とあの子の二人といったい何を企んでるの?シエスタに聞いても、何もわかんないっていうし、誰にも言わないから…ね?」
「し、知らない方がいいと思うぞ?」
「え?じゃあやっぱり危ない橋わたってるんだ!」
面白そうじゃない!とジェシカは身を乗り出してサイトに詰め寄る。ジェシカのいい匂いが鼻に入り込む。い、いかん!このままでは流されてしまう。なんとか耐えるのだ。男、平賀才人よ!と自分を奮い立たせて我慢しようとしたが、彼女いない歴=年齢の少年が美少女の誘惑に打ち勝てるはずもなかった。
「ね、ね?黙っててあげるからあたしにだけこっそり教えて?その代わり…」
「そ、その代り?」
「あたしが女の子のこと…教えてあ・げ・る…」
ジェシカの色気のこもった眼差しを向けられ、さらに握られていた手が、彼女の谷間に触れていたことに、サイトは興奮が抑えられなかった。
酒場の女の子と仲良くなる。悪巧みする奴も女の子に弱く、女の子たちから情報を教えてもらう…これも立派な情報収集!…つまり…触っても…。
変なところにばかりひらめきを働かせていた思春期少年がここに一人いた。
が、その直後のことだった!
「ぐぼぁ!!!?」
ビンが、お盆が、そしてフォークがそれぞれサイトの頭と背中と、そしてケツに突き刺さった。さすがのジェシカも不意打ちの三連続コンボには驚いたらしく、その場に突っ立ってしまっていた。振り返ると、ルイズとシエスタ、そしてライトグリーンのパジャマを着ていたハルナがサイトを今にも睨み殺しそうな目で睨みつけていた。
「な、何をするだぁーーーーッ!!!」
いきなり攻撃を仕掛けてきた三人に、思わずとある聖書の名言を叫んでしまった。しかし、直後にルイズが彼を足蹴にする。
「…そういうあんたは何をしてたのかしら?ご主人様が貴族のプライドを封印してまで必死こいて男共に媚を売ってる間に」
「サイトさん、酷いです…私という女がいながら、よりによってジェシカに手を出そうとしてたなんて…」
「平賀君のエッチ…少しでも早く治そうって静養してたのに」
女性陣の冷たい視線に見降ろされ、それ以上サイトは何も言えなくなる。
「シエスタ、ちゃんとハルナを看病したげなさいよ。病人と一緒に男殴るとか、無茶させ過ぎでしょ」
「…仕方ないわ。これもサイトさんが悪いんだもの」
「う、だって…その………」
シエスタだけならまだしも、病人のはずのハルナまで一緒になってサイトに一発ぶったのを許したことにジェシカは難色を示す。余計に病気が悪化してしまうじゃないか。もっとも、なぜ二人がこんなことに至ったのかその理由をすでにジェシカは感知し面白がっていたのだが。
(やれやれ、サイトも隅に置けないわね)
むすっとするシエスタとハルナを見て、ジェシカは笑みを浮かべると、今度はルイズの方を向く。
「ねえルイズ、仕事は?まだ途中でしょ?」
「ふ、ふん。あんたこそうちのバカ犬に構ってる暇あるわけ?」
サイトを引きずりながら店の裏方に連れて行こうとするルイズは、ジェシカに対して敢えて余裕の態度をとってみせる。自分は気持ちを切り替えて客に対応し始めた結果、チップがいい具合にたまり始めていたのだ。しかしジェシカはさらに余裕の笑みを返す。
「あたしこの前のチップレースで160エキュー70スゥ8ドニエためたわ。あんたは?」
「……」
ルイズは黙る。確かに今回は持ち直してはいるが、出だしの悪さが災いしてとてもジェシカの溜めたチップ枚数には届いていない。ジェシカは二位の女の子とも半分ほどの差をつけていたのでずいぶんと余裕だったのだ。
「まあ、あんたみたいなガキにしては頑張った方よ。最初はお客に暴力振るってたからね。こっちからしても迷惑な子だったけど、基礎くらいは身についたじゃない。
最も、もうすぐチップレース期間は終わるし、それまでにあたしより稼げるとはとても思えないわね」
「が、ガキじゃないもん!16よ!」
「うそ、あたしと同じ?」
この様子だと、ジェシカも16歳、シエスタとはひとつ年齢差がある程度だった。…が、自分とルイズの胸を見比べしてぷぷっと笑った。それに気づいてルイズはちょっぴり悔しくなって涙目になる。とりあえずサイトの頭を踏みつけながら胸を画し、ジェシカに睨みを利かせる。何よ!胸が大きいくらいで人をガキだのミジンコだの…。
「…いいわ、そこで見てなさいよ!あのビスチェを着て、客を全員私に夢中にさせてやるんだから!」
そういってルイズは仕事に戻って行った。そしてさっきの調子を続けてチップを集めて行った。
「あの子、魅惑の妖精ビスチェが優勝賞品だってこと忘れてない?」
監督者としても、せめて迷惑行為だけはしないでほしいと願うジェシカだった。
「そういえば…」
ふと、彼女はさっきサイトに女の子たちの管理者であることを明かしたこと、そしてそのあたりの話についてあることを思い出した。
「ど、どうかした?」
ルイズに踏まれり、シエスタにお盆をぶつけられたり、ハルナによって突き刺さったフォークを抜き取りながらサイトはジェシカに尋ねる。
「あんたたち気づいてない?うちの店の子、一人だけ最近店に来なくなってるのよ。ジャンヌっていう、いつもならチップレースで二位に上り詰めてる子よ」
「え?」
サイトとハルナはまだこの店に雇われてから日が浅いので、気づくのが遅かった。確か店の女の子たちはルイズとハルナ、ジェシカも含め全員で12人ほど。けど、前述の三人を含めても今日は11人、一人だけいない。
「やっぱり噂って本当ってことになるのかな。最近、チュレンヌが平民の女の子を漁っているって噂、少しは聞いてるでしょ?」
ジェシカからの問いにサイトは頷く。
「そのチュレンヌってのはどんな奴なんだ?」
すると、ジェシカは忌々しげに説明した。
「この辺の徴税官で、時々うちの店にも顔を出してあたしたちにたかるの。最低な奴よ、チップ一枚払いやしないんだから!かといって、あいつの機嫌損ねたらとんでもない税金かけられて店をつぶされるから、みんな言うことを聞くしかなくなっちゃうの。
しかも最近、あいつのせいで女の子たちが次々と行方をくらますって話をよく聞くの。実際その通りみたいだけど、あいつはずっとつかまらないままなのよ」
「どうしてですか?」
すでにそのチュレンヌというやつが犯罪を犯していることがわかりきっているなら、軍に通報するとかできるはず。サイトたちは首をかしげる。
「あいつはこのあたりの徴税官ってのは言ったわよね。溜めこんだ金で、このあたりの警備を務めてる連中を抱き込んでるのよ。だから通報しても『そんなことはない』の一言で返されて、ろくに捜査を進めやしないの。かといって現行犯で捕まえることもできない。あいつの周りには腕の立つ警備兵もいるし、あいつ自身も結構優れたメイジだから。それに…」
地球でもこういった手口の事件があった。自分の罪を誤魔化すために、周囲を金で釣って味方につける。汚い人間のやり口だ。
すると、店の羽扉が開かれた。先頭に太っちょにのっぺりとした顔の中年貴族とその警備と思われるメイジの軍人も混じっている。
「あいつよ。あいつがチュレンヌ」
サイトはチュレンヌを見て、ああ…となんとなくジェシカの言い分に納得を示す。見るからに小悪党な感じの貴族だ。しかも、さっきまで盛り上がっていた店の中は静まり返ってしまった。妖精さんたちも、客もチュレンヌの登場に見るからに怯えている。
ふと、サイトはチュレンヌの護衛の中に、警備たちと同じ服装を着た少年を見た。背が頭一つ分だけ低く、他の連中と比べると一見まともそうな風貌のせいもあって浮いているようにも見える。
「あいつは?」
不思議に思ってジェシカに尋ねてみると、対する彼女も不思議そうな反応を示した。
「チュレンヌの新しい護衛よ。ごく最近だけど、あの子が現れてからチュレンヌの横暴がさらに酷くなったの。けど変ね。なんであんな年下にしか見えない子を護衛に連れてるのかしら?」
ジェシカにもよくわからなかったらしい。一体あいつは何者なのだろうか。けど…サイトにはなんとなくわかる。あいつは、何か怪しい気を振りまいているように見えた。
一方で、スカロンはなるべくチュレンヌの機嫌を損ねないように対応していた。
「チュレンヌ様…あいにく今日は満席でして」
「私にはそうは見えんが?」
自分が招か寝ざる客であることも気づかず、…いや、気づいていたとしても知ったことではないようで、チュレンヌは指を鳴らしてみせると、彼の傍らの貴族たちがレイピア型の杖を引き抜く。それに恐れた客と妖精さんたちは席から立ち上がり、店から消えていった。
一気に伽藍となった店をみて、チュレンヌは護衛たちも周りに座らせ腹を揺らしながら馬鹿笑いを浮かべた。
「誰があんたなんかに酌してやるもんですか」
チュレンヌにできればはっきりと言いたいが、逆らったらこの店の未来がない。だから聞こえないところでこうして呟くように言うしかできない現実に、ジェシカの手が握られている。ものすごく不愉快な様子だ。
「ね、ねえジェシカさん…あれって…」
しかし、ここで空気を読まずにチュレンヌに酒を運んできた者がいた。
「ルイズ(さん)/ミス・ヴァリエール!?」
サイト・ハルナ・シエスタ・ジェシカの四人は目を丸くした。
そう、ルイズだ。絶対にジェシカ以上に稼いでやる。そのことに集中していて、周囲の空気を全く読まなかったのだ。
「お、お客様は素敵ですわね」
テーブルに酒瓶を置くルイズ。さっきの通り愛想をふるまう。
「なんだ?この店は小僧を女に仕立てて働かせているのか!?私にそんな趣味はないぞ!」
すると、チュレンヌはなんともまあ女の子に対して失礼な物言いをかました。
「最低…!女の子を男扱いだなんて」
「ああ、かなりまずいですよ…ミス・ヴァリエールのこめかみが…」
小僧…つまり男の子扱い。女とみなされてもいなかった。これには特にハルナが憤慨していた。確かに、今の発言はただでさえ沸点の低いルイズが我慢できるはずもない。今は店側の人間として立っているからかろうじて堪えているが、今すぐにでも起爆しそうな爆弾にしか見えなくもない。
そんなことに気付きもせず、チュレンヌは下品な笑みを浮かべてルイズに手を伸ばし始めた。
「ふん、よく見たら胸が小さいだけの小娘か。どれ、その大きさをこのチュレンヌ様が確かめて…」
しかし、チュレンヌは最後まで言葉をつづれなかった。ついにキレたルイズがチュレンヌの顔を蹴り上げてしまったのだ。スカロンや妖精たちから特に悲鳴が上がった。貴族に手を出してしまったのだ。彼らにとって店の都立節はほぼ確定されたも同然だ。
「き、貴様何をする!!」
後ろに一時転がったチュレンヌはもちろん立ち上がった途端ルイズに怒鳴りつける。
「ちょ、…ルイズさん!蹴っちゃだめでしょう!!?」
「あ、あの子ったら…!!」
ハルナやジェシカはやっちまった!といった感じの眼でルイズを見た。
「ミス・ヴァリエール、やりすぎですよ!」
シエスタも声を上げる。いくら自分の方が位の高い貴族の出だとしても、今は身分を隠しての任務中だったはずだ。公爵家の彼女が任務のためとはいえこんな店で働いていることを知らされるのはまずい。
「貴様、平民の分際で何と無礼な!」
チュレンヌの護衛たちも貴族、平民に蹴りを入れてきた同胞の姿を見るのは我慢ならず、ルイズに対して杖を向ける。
「ゆ、許してくださいまし!この子は新人でして…」
スカロンが必死に機嫌を取ろうと試みたが、もう遅い。チュレンヌたちはすっかりお怒りの様子だ。
「ええい黙れ!者ども、この洗濯板娘を捕まえろ!」

――――プッツーーーーーーン

瞬間、ルイズの堪忍袋の緒が何十も千切れた。それはまさに俊足・電光石火の如く炸裂した。ルイズの虚無魔法…エクスプロージョンがチュレンヌたちに炸裂した。
デルフが言っていた通り、タルブ村で起こした時ほどの威力はなかった。チュレンヌたちに致命的なダメージこそはないが、ビビらせるには十分だったし、もしあの時と同じ威力で出したらトリスタニアそのものが壊滅してしまうのでこれでいい。
「ひ!?」
…いや、よくはない!せっかく人が媚や愛想を売ってやったというのに、洗濯板!?ルイズはすっかり逆上しきっていたのだ。貴族以前に、一人の女として馬鹿にされたルイズはさらにもう一撃爆発させる。
「る、ルイズの奴…!」
確かに馬鹿にされたり触られそうになったのは目をつむることはできないが、だからって魔法を遣ったらメイジであることがばれちゃうじゃないか。まあスカッとしたところはあるけど…。サイトはしかるべきかそうしないか迷った。
チュレンヌの周りの取り巻きたちは二撃目も受けて気絶してしまった。残ったのはチュレンヌ一人だけ。
「な、なぜ魔法を…!!?貴様は一体…!」
ルイズが魔法を使ったことに、チュレンヌは訳も分からず問う。テーブルの上から見下ろしながらルイズは、アンリエッタから託された許可証をチュレンヌに見せつけた。
「私はアンリエッタ姫殿下の女官で、由緒正しい家柄の三女よ。あんたみたいな小物に名乗る名前はないわ!」
チュレンヌは許可証を青ざめた。なぜそんな高名な出のお嬢がこんなところで働いているかなんてどうでもいい。少なくとも自分はかなりまずい立場にある。この娘が姫の女官ということは、自分がこの店で…いやそれ以前に自分がこの区域でやったこと全てを報告されてしまう恐れがあった。当然そうなれば貴族としての権力を剥奪されてしまう。見逃してもらうために金を払ってさっさと出て行くべきか。でもせっかくの金を下賤な平民のために払いたくなかった。なんとかしなくては…。
…いや、自分は何を恐れている?チュレンヌはほくそ笑んだ。ちらっと倒れた自分の取り巻きたちの中で、一人どこか浮いているようにも見える少年兵を見る。最近自分の部下になったものだ。こいつのおかげで自分は好き放題にできた。なぜなら…こいつには他の誰にももっていない能力があるのだ。
うつ伏せに倒れているふりをした少年兵の眼が、ギラリと開かれる。すると、彼の背中から、何かが伸び始め、テーブルの下に隠れながら、ルイズの足へと延びていく。
「いいこと、ここで見たこと聞いたことはすべて忘れなさい」
チュレンヌに今回のことは忘れてさっさと帰るように言うルイズはそれに気付かない。
「ゆ、許してください!命だけは!」
わざと焦っているふりをしたチュレンヌはルイズたちの油断を誘う。この少年を部下にひキレたことで、何者も逆らうことがなかった。平民の女だって取り放題。たとえここ最近噂が立っていても、自分には誰もはむかえない力がある。たとえそれが自分より身分の高い出の者だとしても同じだ。この少年に自分に逆らってきたものを始末させればそれでいいのだから。この生意気な小娘を始末したら、今度はこの店の女を脅し、全員自分の屋敷に連れ帰った暁にこの店を取り潰してやる。
「ふん、少しは物わかりのいい奴だったようね。じゃあ、今から私の質問に応えなさい」
チュレンヌに質問を吹っかけてきたルイズ。こいつは少なくとも貴族間の上下関係における立場を弁えていると思っている。おそらく、最近この街で起きている事件について容疑がかかっていながら金や権力で周囲を黙らせているチュレンヌに直接問いただすつもりなのだ。
「そうですね…ならば手始めに…」
だがこのとき、すでにルイズの足首に、少年の背中から伸びた謎の尾が、彼女を食らおうとその牙を向けていた!
「貴様を毒殺してからにしてくれるわ!!!」
「!!?」
少年の尾が、ついにルイズの足に襲いかかってきた。勝ち誇るような笑みを浮かべるチュレンヌに対し、ルイズは何かの尾が自分を襲おうとしていることに気が付くが時すでに遅し、足元に目をやったときにはすでに、自分を取り逃がすまいと巻きついている謎の尾が自分に突き刺さろうとしていた。
「ルイズ!危ねえ!!」
サイトは、とっさに懐から折りたたまれていたウルトラゼロアイを取り出した。それを重機と同じように握ると、彼の左手のガンダールヴのルーンが青く光り輝く。右手の人差し指を押すと、ウルトラゼロアイから緑色の閃光が走り、ルイズの足に巻きついている尾に直撃した。
「ぐげ…!!」
少年から痛みによる悲鳴が漏れる。ウルトラゼロアイには変身するためだけでなく、折りたたむことでビームガンとして扱うことも可能なのだ。
『サイト、あいつは人間じゃない!怪獣だ!人間に擬態してやがったんだ!』
サイトの頭の中で、ゼロが警告を入れてきた。サイトは頷くと、その少年の胸ぐらをつかみ、乱暴に店の外へと投げ飛ばした。少年は店の羽扉を吹っ飛ばし、店の外へと放り投げられる。
「な…!!」
まさか自分の企みがたやすく破られてしまったことにチュレンヌは驚愕する。
「だ、大丈夫ですかルイズさん!」
「い、今のは何なの!?」
駆け寄ってきたハルナと、人間のそれが起こせるようなものじゃない現象を目の当たりにして驚くシエスタ。そんな彼女たちにサイトは叫ぶ。
「店のみんなを連れて非難するんだ!チュレンヌの連れてたやつは、人間に擬態した怪獣だったんだ!」
「か、怪獣ですって!?あんな人間の姿をした奴が!?」
まさか、人間に化けられる怪獣が存在しているなんて思いもしないだろう。ルイズもだが、周囲のみんなも驚いている様子だった。
「お、おのれ…こうなったら仕方ない!皆殺しにしてやれ!」
この場全員を始末することで、自分の保身を図ったチュレンヌはやけを起こしたようにボロを出し、人間の少年の姿をしている怪獣に命令する。起き上がった少年は、サイトたちを睨みつけると、その目を赤く発光させた。
サイトもそれにならって、エプロンを脱ぎ捨てて身構える。宇宙拳法の構えだ。ゲン=レオとの特訓と、これまでゼロに変身して戦ってきたことで基礎的な構えや動きなどは変身していない今でも、ある程度つかみができている。
「ひ、平賀君ダメ!危ないよ!」
「ハルナさん危ないですよ!」
心配せずにはいられなかったハルナは、自分が病気だったことも忘れてサイトに駆け寄ろうとすると、シエスタが危険を感じて彼女を引き留める。目の前でサイトが危ないことに自ら首を突っ込もうとしている。普通なら地球にいた頃、宇宙規模の厄介ごとなんてクール星人に誘拐されかけた時だけで十分なのに、彼は宣言したとおり首を突っ込みだしている。すでに分かっていたことでも、実際にその目で見てしまうとどうしても止めたくなるのだ。
「でえええい!!」
少年はサイトに向けて順突きを繰り出す。サイトはその手を受け止めると、前蹴りで相手の脇腹を狙う。その蹴りを先読みし、瞬間的に少年はサイトの蹴りを避けると、振り向きざまにサイトは手刀を叩き込もうとする。その手を逆につかみ返すと、少年はサイトを地面に投げ倒し、さらに続けて蹴りを叩きもうとする。サイトはパンチを放ってそのけりを相殺、もう一度前蹴りを繰り出したが、少年は宙へ飛びあがってサイトの攻撃を避けた。それも3メイル近くも飛び上がり、少年とは思えない動きに誰もが驚いた。
「何あの動き…!」
「あの跳躍力、魔法を使ってるの!?」
特に妖精さんたちは恐れさえ抱くほどの驚きようだった。いかにファンタジーな世界でも、ただの跳躍で平民が大きく飛び上がっているのは非現実的なもののようだ。
着地してサイトに裏拳を放つと、サイトも裏拳を放って腕同士のつばぜり合いになる。サイトは残った足で少年の脇腹を蹴り、顔面に一発食らわせた。顔に攻撃を受け、忌々しげにサイトを睨む少年。サイトはさらに追撃に足払いを放つと、少年は再び飛び上がってそれを避け、直接サイト両腕に掴み掛った。
「ぐ…ぐぐ…!!」
その腕を振りほどこうと、サイトは力を入れるが、少年とは思えないパワーが彼の両腕の動きを封じる。サイトはゼロと肉体を共有している影響で強いたい能力が人間以上に強化されている。さっきも3メートル近くも飛び上がり、その彼を力押しで押さえつけるとは、やはりこの少年は人間ではないのだ。その証拠をさらに決定づける現実が、サイトに脅威となって降りかかった。
「でえええええいい!!!」
少年が、外見年齢の数年も先の低くなった声を上げた。その時、少年の背中から黒い影…いや、尾が伸び、今度はサイトを突き刺そうとした。まずい!サイトは少年に体をつかまれた市政のまま逆立ちし、頭上から襲いかかってきた尾を蹴り上げた。少年が今の一撃で怯んでいる隙に、サイトは着地しゼロアイを手に取ると、少年に向けてビームガンを発射した。
「ぐ…ぬぅうう…」
少年は腹を押さえながらよろめくと、今度は真っ赤な光に身を包みだしその姿を肥大化させていく。最終的に少年の姿は、完全に人間者のではなくなり、巨大な蠍に酷似した怪物の姿へと変貌した。
「「きゃああああああああ!!!」」
その巨大な姿に妖精亭の者だけでなく、街の住人達さえも恐れおののき、逃げ惑いはじめた。混乱はたちまち町中に、そしてルイズたちの元にも影響する。
「あれは…蠍怪獣アンタレス!」 
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