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ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~

作者:???
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妖精亭-フェアリーズハウス- part2/地球人3人

とりあえずやっておきたいことのひと段落は済ませた。王宮を出ると、ルイズはシュウに食いかかってきた。
「もう一度言っておくけど、姫様の寛大な処置への感謝を忘れないでよ!」
「二度も言わなくていい。わかっている。せっかく頂いた仕事だ。」
城門から出ると、ルイズがシュウの傍でギャーギャー喚くと、ルイズの声があまりにうるさいのかシュウは僅かにしわを寄せながら言った。
「っていうか、私に対するその態度は何よ!私はラ・ヴァリエール公爵家の三女なんだからそれ相応の態度を示しなさいよ!」
思えば、姫様には少なくとも警護で話してたくせにどうして自分に対しては不遜な言葉づかいで話すのだ。これについて納得できないと声を荒げると、シュウはばっさりと言い返してきた。
「お前に対しては、まだ敬意を払いたいとは思えない」
「な、なんですってえ!?」
今のシュウの言葉に目を吊り上げるルイズ。すると、シュウはルイズを見下ろしながらルイズに言う。
「こっちが下手に出ると必要以上につけあがるようだからな。お前は結構という単語では足りないほどわがままな性格、違うか?」
「いや、当たってるよ。シュウ…ぐほ!?」
サイトはルイズを擁護するどころか、あっさりと肯定してしまったのでルイズは自分の使い魔に蹴りを入れた。
「ひ、平賀君大丈夫!?」
「る、ルイズ…せめて、一言言ってからにしようぜ…心の準備ができないから…」
「少しはご主人様を立てようともしないあんたが悪いのよ!!全く、どいつもこいつも無礼な平民ばかりなんだから!シュウとやら、いいこと!私は…」
「ところで平賀、お前の傍らにいる彼女は?」
「おい、無視するな!!」
五月蠅くかみついてくるルイズを流すように無視しながら、シュウはサイトの傍らにいるハルナを見て尋ねる。
「もしや、お前の恋人か?」
「「へ!?」」
それを言われて、サイトとハルナの…特にハルナの顔が赤く染まりあがった。
「ちょ、ちょっと!!そ、そんなんじゃないですよぉ!…ま、まあ…そうだったらいいな…なんて思っている自分がいたり…」
言葉では否定しているが、内心ではそういわれてうれしい自分を否定することができなかったハルナ。後半以降のセリフに誰にも聞こえない程度の小さな声でそれを漏らしていた。唯一それを聞いた、サイトの恋人と勘繰られた彼女を見たルイズが嫉妬心を燃やして三人の地球人たちを睨みつけた。
「い、いや…その、この子は俺のクラスメートなんだ」
「クラスメート?学友なのか」
シュウは大きく表情を変えてこそいなかったが、実際驚いてはいた。自分とサイトは、地球出身ではあるが共通する点はあまり多くはない。そもそも、出身が地球と言っても、二人が生きていたその二つの地球は、歴史が異なるパラレルワールド関係にあった。だが、まさかサイトと全く同じ世界の地球から現れた人物が、それもサイトの知っている人物だったということに、偶然にしては出来過ぎている気がした。
「すでに聞いていただろうが、俺は黒崎修平。地球では地球解放機構『TLT』のビースト殲滅部隊ナイトレイダーAユニットの隊員だった者だ」
「てぃると?ないとれいだあ?」
ハルナは首をかしげた。仕方がない。さっきも言ったようにサイトとシュウがそれぞれ暮らしていた地球はパラレルワールドに当たる。積み重ねた歴史が、主にウルトラマンと怪獣に纏わる部分が大きく異なった。サイトはそれを見かね、そのあたりについてシュウと共に説明した。この機会だから、サイトはシュウに自分たちが生きていた世界のことについても説明を入れた。
「…つまり黒崎さんと、私と平賀君の世界は…映画とかでよく聞く並行世界ってこと?」
SF映画を見たことはあるし、彼女らの世界にはSFが実体化したような現実が連続して起こっていたとはいえ、自分たちの知らないウルトラマンが普通の怪獣以上に恐ろしい魔物と戦う世界が事実存在していたことにサイトとハルナは驚かされた。そのウルトラマンが、先ほどの戦いで現れたネクサスであるということにはハルナはさらに驚きを見せた。そして彼は、そのウルトラマンと共に戦った組織の一員だった。一見、自分たちと年齢差は変わらないように見えるが、世の中には低年齢ながら大人顔負けの特技を持つ人間だっていることをTVなどでよく拝見する。彼もその一人なのだろうと思った。
「そうなるな。それにしてもあのレオというウルトラマンといい…平賀と君の世界はすさまじいな。ウルトラマンが自分たちの文明を築いていて、しかも半世紀以上も前から地球に存在していたとは…」
逆に、ゼロやレオ以外にも、自分の知らない光のウルトラマンの存在する彼らの地球に、驚きを通り越しかけるほどシュウは興味深く聞いていた。『ウルトラ兄弟』やら『ウルトラの父』とか…そのような呼び名などについて、いかにも子供受けしそうな名前の役職を持つウルトラマンたちに対しては、リアルさに欠けしまうとも人間臭いなとも思ったそうだ。まあ、考えてみれば…実際に私たちが空想の物と思ってきたウルトラマンが現実に現れたとして、それがこれまで見たことのない姿の巨人が姿を見せていたとしたら、急にヒーロー臭かったり『ウルトラの父』なんて子供受けする名前なんて思いつかないだろう。それだけシュウのM78世界のウルトラマンたちの特徴は意外性があったのだ。
「ともあれ、同じ地球人同士だ。協力は惜しまない」
「では改めて…私は高凪春奈といいます」
「ああ、よろしく」
互いのことを大方知ったところで、二人は、互いに握手した。一見怖そうな人にも見えるが、サイトが気兼ねなく話していた人物だ。それに、GUYS同様に地球防衛に当たっていたというじゃないか。信頼してもいいのかもしれない。
しかし、一方でシュウはハルナの手を握り返した時、表情を変えた。まるで、何か恐ろしいものを見たような、そんな顔を浮かべていた。
「あの…なにか…?」
「!…いや、なんでもない」
ハルナがシュウの表情に首をかしげると、その視線に気づいて我に返った彼は何でもないふりをして手を放した。
「ちょっとあんたたち!いつまで私を無視すれば気が済むわけ!?」
すると、ハルナとシュウの間からルイズが頭からウルトラの父顔負けの角を生やしながら飛び出してきた。
「娘っ子はまだましだ。俺なんざ担がれてるだけで喋る機会が著しいもんなんだぜ」
構ってちゃんは一人だけではなかった。デルフも鞘から顔を出して退屈そうにぼやいた。
「平賀、それよりも…」
二人を軽く無視し、シュウはサイトに手を伸ばす。
「前に言っていたビデオシーバーを貸してくれ。それがなければ回線を繋げることができない」
「あ、ああ…そうだった」
サイトはあらかじめ腕に巻いていたビデオシーバーを外すと、シュウにそれを手渡した。彼の眼から見ると、ビデオシーバーはボタンもなくてかなり単純な作りのようにも見えた。なのに、映像付きの通信を互いにかわすという最低限の機能が、サイト曰く40年以上も昔の機械に搭載されている。実に不思議だった。
「けど、シュウ。本当に通信回線なんてできるのか?この世界って、俺たちにとって機械って言えるようなものが存在してないんだぜ」
ハルケギニアに機械的なものが一切開発されていないことを思い出し、サイトは疑問を投げかける。
「確かに、あのロボットを見てみないことに越したことないが、やってみなくちゃわからないままだろ」
「それは、まあ…」
「「ロボット?」」
ルイズとハルナが声をそろえる。
「ルイズは見ただろ?タルブ村に現れた赤いラインの入った白くてでかい斧を背負ったロボット」
「あ、ああ…あれね。でもサイト、私はろぼっと、なんて言われても何のことかわかんないわよ。わかりやすく伝えなさいよね。まったく気が利かないんだから」
「へいへい」
結構どうでもよく感じられることで細かいことを言ってくるな。とは口に出さなかった
「無線通信は、おおざっぱにいえば電波を互いに発し合うことでもある。でも、二つの機器を直接繋げるには中継地点のようなものが必須だ。あのロボットにそれができるよう改良を加えればこのパルスブレイカーとビデオシーバーを繋ぐことができるはずだ」
「そういや、ケータイもそんな感じの機能だったよな」
サイトはふと、自分がこの世界に来るときに持参していたパソコンやら携帯電話の存在を思い出す。あの二つの機器も、単にコードにつなぐとか電話番号を入力すれば通信したい相手と連絡が取れるわけではない。ちゃんと必要な施設などを巡った果てに相手へ連絡を取ると聞いたことがある。それにしても、それさえもさも当然のようにやる気なシュウはそこが知れないな、と思った。顔もイケるし、ウルトラマンとしてもしっかりしているし、しかも機械慣れしているし…。って、俺同じ男として負けてる気がする…ちょっぴりサイトは卑屈になった。
「ねえ、さっきから意味不明なことばっか言ってないで私にもわかりやすく説明しなさいよ」
異世界人のルイズからすれば意味不明な言語を喋っているようにしか聞こえず、意味が分からないと文句を言ってきた。とはいえ、いくら地球人だからって、素人が専門用語とかを理解できるわけじゃないが。
「一瞬だけで手紙の本文のみのやり取りができるとでも考えればいい。これでいいか?」
「最初からそうしなさいよね。で、それが何の効果をもたらすの?」
目くじらを立てるルイズをみて、シュウも逆にルイズを面倒な奴と内心では思っていた。
「あのジャンバードとやらをいじれば、俺と平賀の間で連絡を取ることができるようになる。互いの必要な事項を瞬時に交し合える」
「へえ…よくわかんないけど、やるじゃない」
「………」
結局理解してないか。まあ…別に理解してほしかったわけじゃないのでシュウは気に留めなかった。
「平賀君…」
すると、ハルナが心配そうな憂い顔をサイトに対して浮かべていた。
「危ないとわかってて、ルイズさんたちの力になるの…?」
サイトはそれを見て、う…と息を詰まらせた。
「だって、平賀君は…怪獣災害で一度家族を亡くしちゃってるんだよ?それなのに…」
ハルナも、サイトの義母から彼の素性をすでに聞いていたのだろう。話を一通り聞いたとき、成人になっていたとしても経験するには辛すぎる過去だ。それだけの出来事があったのに、危険に身を投じようとしているサイトが非常に心配になっていた。
「…やっぱり…帰りたい?」
ハルナの気持ちを察したのか、ルイズはサイトに問う。本当なら、どこにも行ってほしくないのが本音だった。でも、サイトにも家族や友人が故郷にいる。会いたいって思うはずだ。
「…確かに、帰りたいな。こっちでも向こうでも、脅威ってものがあるけど、それでも地球は俺たちの故郷だ」
「…!」
それを聞いて、ルイズの表情に影がかかった。
「でも、だからだよ」
だが、直後に放たれた彼の意外な返答に、ルイズとハルナは目を丸くした。
「俺、この世界に来た意味を考えてたんだ。どうして、俺がいきなりルイズに召喚されたのか…でも、意味なんて自分で見つけてみるもんだろ。ルイズが、虚無の魔法に目覚めたことについて自分で意味を見出したように、俺も異世界人である自分が召喚されたことにはきっと意味があるって思うんだ」
それから、まっすぐ二人を見ながら、サイトは自分の決意を明かした。
「俺はこの世界の人たちが、昔の俺みたいな思いをすることを見過ごすことなんてできない。だから、俺の持つ知識と力で、なんとかしておきたいんだ。この世界で心残りがあるまま帰ったら、この世界を見捨てたことをずっと後悔すると思う。そんなの嫌だからさ」
「平賀君…」「サイト…」
自分たちの想い人は、ある意味順応性が高く、その上優しすぎて正義感が強い。どんな世界でもそれは変わらないままだった。年頃の男子らしいスケベなところはいただけないが、彼の本来の優しさと正義感を見たからこそ自分たちは惹かれていたのかもしれない。
(意味…か)
シュウは上着の内ポケットに忍ばせていたエボルトラスターに触れる。この力にも確かに意味とかはあるはずだが…。
「シュウも、いつか地球に帰るんだよな?」
サイトからさも当然のように問われたシュウは、黙り込んだ。その様子に、三人は首をかしげる。なぜだろう、彼も異世界人なら故郷を恋しがるはずだ。
「…俺は、お前たちほど帰りたいと強く思ったことはない」
それは、信じがたい言葉だった。どうしてそんなことを言うのだろうか。
「どうしてよ?あんたにだって…故郷に親や家族はいるんでしょう?」
ルイズが尋ねると、彼女に同調してハルナもシュウに尋ねる。
「そうですよ。ご家族、きっと心配してるはずですよ」
「家族…」
三人から視線を背け、シュウは呟く。
「心配はしないな。…と言うより、できないな」
「できない?なんで…?」
「俺に親はいない。兄弟もな」
サイトからの問いにシュウがそう答えると、三人はまずいことを聞いてしまったと思い、反省した。もしかしたら、サイトと同様彼も家族を亡くした身なのではないかと。
いや、もしかして…!サイトはふと、ウエストウッドの村人たちの姿を思い出した。6人ほどの子供たちとフーケ、そして何より…シュウを召喚したあの妖精さん!
「実は、あのティファニアって娘に惚れたのか!?だから帰りたくないんじゃないのか?」
「………は?」
あまりに突拍子のない発言にシュウは間の抜けた声を漏らした。
「いやいや、何も言うな。言わずともわかる。あれだけかわいい子に惚れてしまうのも無理はないだろ。何せ穢れなき瞳、白くて綺麗な肌、細い肢体、黄金を絹糸にしたような金髪!そして何より……」
ボヨン♪
「あのバストレヴォリューションに逆らえる男なんているわけがないのだあああああああ!!!」
ものすごく気合を入れて叫ぶサイト。ティファニアの、キュルケさえも上回る禁断の果実が揺れたヴィジョンを思い浮かべながら宣言した彼は男の心理をカッコよく語ったつもりでも、言ってることもこの時の彼の存在自体も『最低』としか言いようがない。
困惑したシュウはルイズとハルナに視線を泳がせた。はっきりいって、意味が分からないと言いたげな様子。一人勝手にうんうんと頷くサイトをしり目に、とりあえず一つはっきりしたことを見出したルイズとハルナは頷き合った。
はっきりしたこと…それは…。
「「…わけのわかんないこといってんじゃなああああああああい!!」」
サイトの煩悩と、自分たちの怒りと羞恥のボルテージがMAXになった、ということだった。特にルイズは、テファの最大の特徴と言えるあの果実を目の当たりにしたから限界突破を果たしていた。
「ホデュアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!?」
鋭い蹴りがサイトの股間と顔面にダブルヒットし、サイトは悶絶した。いつものかわいらしい表情から一変して鬼の形相に変貌したルイズがいつものように喚き散らし、ハルナはものすごくドスの入った声で、サイトの胸ぐらをつかんで持ち上げる。
「またか!またかこの犬は!!そそ、そんなにでっかいお乳がいいのか!!このドスケベ犬!変態犬!!色情犬!!!」
「バストレヴォリューションってなにそれ?おいしいの?ねえ?はっきり言ったどうかな?ねえ?ねえ、平賀君!!!?」
「ぐ、ぐるじいでず…」
(…こんなメンバーで王女からの仕事が務まるのか?)


サイトたちへの仕事、それはサイトたちに課せられたアンリエッタからの依頼だ。
その内容は、街での諜報活動。アンリエッタの話によると、トリステインへの直接の侵略を失敗させたレコンキスタは、今度は内部から謀略を張り巡らせながらこちらの足をくじいてくると予測されていた。ワルドの裏切りが原因でアンリエッタはメイジ不信に陥った。メイジの犯罪者にも剣のみでうち勝ってきた経歴を持つ凄腕剣士だったアニエスに貴族の位『シュヴァリエ』の称号を与え、彼女を隊長とした近衛部隊『銃士隊』を結成させたのもその証拠だった。元々貴族というのは、自分たちは高潔な存在だと口先で自負しているくせに裏で何をしているのかわからない。地球でも裏で汚職に手を染める者もいたりするが、それはこの世界でも同じだった。ワルド以外にも、おそらくトリステイン国内にレコンキスタと通じている裏切り者が存在するとアンリエッタは読んだ。特に金や権力欲しさのあまり裏でよからぬことをたくらむ噂の悪徳貴族が怪しいという。それがアンリエッタのメイジ不信ぶりに輪をかけていた。
『アニエスたち銃士隊からの報告によると、実は市街地にてここ数日、特に徴税官のチュレンヌによる悪行が、平民たちの間で噂として広まっております。彼が最近雇った凄腕の傭兵が主な原因にあるそうです。その者を雇って以来、その傭兵を使って他の貴族に対しての恐喝行為・美しい平民の女性の誘拐と重税などの犯罪行為を繰り返しております。しかも、逆らったものは未確認の猛毒に侵され、被害者は死亡が確認されています。
直接魔法衛士隊などに調査を促しましたが、チュレンヌの息がかかっているのか、それとも徴税官としての彼の権力や雇った傭兵の力量を恐れてのことか、時には「貴族は平民の規範のため、そんな訳がない」と言って、調査は一向に進んでいません。でも、モット伯爵の横行とワルドの裏切りを聞いてからとてもそうとは思えなくて…。
ですからあなたたちに街にて諜報活動をお願いしたいのです。最も問題視されているチュレンヌもですが、彼以外にも問題行動が判明した場合はその貴族についても報告してください』
サイトはもしかしたら、レコンキスタは次に怪獣よりも、これまで地球を苦しめてきた侵略星人たちか、人間以上の知能と知性・そして人間に擬態する能力を持つ怪獣を利用するのではと勘繰った。特にチュレンヌが雇ったという傭兵によって被害にあったものは謎の猛毒にかかって死人さえも出ていると聞いて、何かあると見ていた。
本来怪獣や星人の力は、小国であるトリステインを滅ぼすだけの十分な力があると断定できる。だが表立って一気に殲滅しようとしてこないのは、理由の一つとして自分=ウルトラマンゼロとシュウ=ウルトラマンネクサスを警戒しているから。たとえ、裏でレコンキスタという人間の組織を支配できたとしても、サイト自身も知らない二人の新しいウルトラマン、宇宙規模で名の知れた戦闘種族の、未確認の戦士に対して侵略者も慎重にならざるを得なかったのだ。しかも歴戦の戦士であるレオの出現によって、他のウルトラ兄弟がこの世界に来るのではという恐れが生じ、ハルケギニアでのレオの存在はその牽制になったのだ。他にもまだ、この世界が侵略者に狙われた前例が確認されていないことからやっと星人たちの眼に付けられたばかりで知名度が低い、または侵略したくてもまだ準備段階から抜け切れていないという見立てもある。
ともあれ、ルイズは姫への忠誠心からあっさりと安請け合い、サイトもウルトラマンとしても何が起こるかの可能性を拭いきれず、さらに猪突猛進気味なルイズを無視できず引き受けることにした。
一方で、シュウはサイトたちを見て頭が痛くなった。はっきりいって、この三人には不安要素が多すぎる。この世界に来たばかりのため環境に馴染みきれていないハルナはまだしも、ルイズは我儘で沸点が低い、しかもサイトへの好意と一途ゆえの嫉妬深さが結びついて暴力を振いがちなため、なおタチが悪い。そしてサイトはタルブ村の戦いにてウルトラマンとして覚醒できたといえるが、まだ戦闘経験も浅くて精神的にも未熟だろう。何せ、いらないところで煩悩に負けるのだ。これはこれで大概の男友達なら親しみ深さを感じはしても、残念すぎる。
しばらく鬼と化した美少女二名からの罵倒と暴力地獄から解放されたサイトは顔中があざだらけだった。
『…短絡的だっつーの。アホ。ったく…バカやりやがって、少しは同化してる俺の気を遣えっての』
ちなみにゼロにもダメージが痛々しく影響し、ゼロはサイトに対する評価点数を減点していたのだった。
「さあ、俺のことよりもお前たちは自分たちの仕事を任されたんだ。そっちの方に当たれ。ビデオシーバーは完成したらすぐに届ける」
「あ、ああ…」
ビデオシーバーを見せながらそう言ってきたシュウに、ボロボロのままのサイトはたどたどしくも頷きながら、去っていく彼を見送った。
「あの人も、平賀君と同じだったのかな…?」
さっきシュウの言った発言のせいか、ハルナは去りゆくシュウの背中を、どこか悲しげに思いながら見つめていた。サイトは、ファウストとの最初の戦いの後シュウがストーンフリューゲルに乗って帰ろうとしたとき、そのストーンフリューゲルに触れたときのことを思い出す。あれに触れた途端、彼の感情というか…記憶が流れ込んできた。テレビでは規制をかけなくてはいけないほどの惨状だった。人が爆発によってその身を砕かれ、銃撃によって頭や胸を貫かれて死んでいく。もう一目見たときから理解した。それを悟ったとき、全身から何かが抜け出ていく感覚にぞっとした。『戦争』…シュウはその真っ只中に立たされていたのだ。中には、シュウが同じ年齢に見える少女を腕の中に抱きかかえながら泣き崩れている姿もあった。今の彼とは思えないほどの悲痛な姿を思い出し、サイトまでもやるせない気持ちになる。
シュウが戦っている理由…やはり自分たちと同じなのだろうか。
「…さあ、いつまでもここに突っ立っているわけにはいかないわ。姫様が私たちにご命じになった任務を果たしましょう!」
すると、この重い空気に耐えかねたルイズが声を張って二人に言う。
「あ、ああ…そうだな。けどルイズ、やっとかなくちゃいけないことなのはわかるけどさ、お前の場合ちょっと安請け合いした感じが否めないんだけどな」
「何よ。姫様が私を頼りにしてくださったのよ。文句がある?」
「そうじゃなくって…お前ってかなり無茶をするタイプだからな。心配なんだよ」
サイトの脳裏に、フーケの起こした破壊の杖強奪事件の時のヴィジョンが流れる。いつの間にか戦うべき敵がフーケからツインテールとグドンという二大怪獣に代わっても、あの時のルイズは自分の未熟さを忘れ無謀な突進をかましていた。あの時と違って今は勇気と無謀を履き違えることがないのかもしれないが、だからといってルイズが無茶をしないという保証はない。貴族のプライドと愛国心・忠誠心ゆえに同じことを繰り返さないとも限らないとサイトは考えていた。
「心配?私のことを…?」
ちょっとだけルイズの頬が朱色に染まる。が、内心は嬉しかったくせに照れくささばかりが表に出て、すぐに突っぱねるような態度をとる。
「べ、別に!へぼ使い魔に親身になって心配されるほど落ちぶれちゃいないわよ!ぜ、全然嬉しくなんかないんだからね!」
とはいえ、結局自分で全部話してしまっているルイズだった。サイトはそんなルイズの気持ちに察することができず、かわいくないやつ…と心の中でごちるが口に出さなかった。
「でも、街に入り込んで悪徳貴族の様子を見るってことになると、しばらくこの町に留まることになりますね」
アンリエッタからの依頼の内容を思い出し、ハルナが言った。
「だとしたら、まずは平民に見える格好に着替えないといけないわ」
ルイズの着ている学生服は、マントと五芒星のセットがある。それは貴族の証であるため、着ていたままでは貴族であることは丸わかりになってしまう。今回アンリエッタからの依頼は、街で横暴を働く悪徳貴族の調査。平民として振る舞った方が、彼らの様子を正確に探ることができる。よってルイズは自分用の平民服を買うことにした。手持ちは400エキュー。デルフの購入額の4倍程度の金だ。国力低下傾向にある影響のためか、国庫も厳しく、アンリエッタから与えられたのは最低限の金だけだった。本人としては少しでも多く与えてルイズたちの力になってあげたかったのだろうが、これが限界だったのだろう。
「少ないわね…」
公爵家で育った金持ち気質ゆえか、ルイズにとってはかなり少ない額だったようだ。
「遠足でのおやつは300円までってよくいうけどな…」
逆にあげすぎたら使い込んでしまうというのが姫の見解でもあったのか、サイトはむしろルイズにとって少ない額でちょうどよかった気がする。ハルナはいまいちエキューやドニエの単位の大きさがよくわからずルイズに尋ねる。
「400エキューって、安いの?」
「安すぎるわよ!」
「いや、デルフがあの時サビサビだったとはいえ、剣一本で結構な額じゃないか?」
「それは平民にとっての話でしょ。私たち貴族からすれば小遣いの数分の一にも満たないわ」
「はあ…」
さすが貴族のお嬢様、とハルナは思った。
それから一先ずルイズが平民に返送するための服を買いに服屋へ寄った。そこでルイズは黒のベレー帽と黒のワンピースを買ったのだが…。
「地味ね」
確かに派手な服ではないが、自分で買っといて文句を垂れた。
「平民に変装した方がいいって、お前自身が納得したうえで買ったんだろ?」
「一応私が選んであげたのに…」
サイトとハルナの一言を無視し、ルイズは歩き出すと、二人も後について行った。たどり着いた先は、街の馬屋だった。
「400エキュー!?せっかくのお金がなくなっちゃうわ」
「馬ぁ?」
サイトははぁ?と言わずにはいられないほど呆れた。こいつ姫様から栄誉ある任務を任されたとかない胸を張って威張っていたくせに、こともあろうか馬を求めた。馬で街をうろつくなんて、すでに平民らしからぬことの範囲、任務の路線から外れたも同然だ。
「小遣い全額分の高い馬なんかいらないだろ。いるにしても安い馬で十分だし、それに馬具やエサ台だってかかっちまうだろ」
それに道だって広くないから邪魔になってしまうではないか。
「安い馬なんかじゃいざっていうときに役に立たないじゃない!それに宿だって…」
「宿?」
いちいち文句ばっかり言うと、今度は見た目からしてかなり高級な宿だった。外観から見てもかなり大きく、地球の高級ホテルでたとえたらVIPクラスにも及ぶかもしれないほどかもしれない。
「お、おい!こんな宿に泊まったら小遣いぶっ飛ぶだろ!」
サイトのそんな文句を無視してルイズはその高級な宿に入って行ってしまう。その宿の宿泊費は一泊200エキュー。たった二日しか泊まれないほどの高額だった。結局その宿は諦めることにした。
「なあ、泊まるなら安い宿にするしかないだろ」
「だめよ!安物の宿じゃよく眠れないじゃない!」
「俺なんか床の上に藁だったんだぜ?」
「それはあんたが平民で順応性が無駄に高いからじゃない!公爵家の私に藁の上で寝ろって言いたいの!?」
あ~もう!なんて我儘な奴だ、とサイトは頭を悩ませた。
「ハルナのことも考えて言えよ。お前が高いもんにこだわってばっかじゃ、飯食うのだってままならないんだぜ」
「…ああもう!だったらお金を引き出してくるしかないわね」
ルイズは自分の小遣いを引き出すために街の銀行に寄った。何せ自分は公爵家。国でも一・二を争う巨額の家の実家だから小遣いもバカにならない額。ああなるほど…確かに小遣いについては困らないかもしれない。が、平民に成りすましての任務はどうなるのだ?とも思う。巨額の富を持つ平民なんてどこにいるのだ。あのマルトー親父も下級貴族よりも給料は高いらしいって、いつぞや賄いをもらった時に聞いたのだが、ルイズの場合は桁が外れすぎだ。
が、いざ銀行に寄ったら…カウンターで銀行員と話をつけていたルイズから悲鳴があがってしまった。
「ぜ、ゼロおおおお!!!?」
まさか自分の二つ名と同じ…『0』!そう、ルイズのために預けられた小遣いは1ドニエたりともなかったのだった。
「いったいどういうことよ!まさか泥棒に入られたわけ!?」
「そんなことはございません。うちの警備は万全ですし、貴族様の大事なお金をお預けしている大切な施設ですから」
ごもっとも、この銀行は国の有数の貴族やそれ出身の学生なども多く利用する重要な機関だ。もし盗んだり強盗に入ったらたくさんの貴族に目を付けられ縛り首程度では済まされないほどの罰を与えられる。時にはそれを考えなかったりする命知らずな強盗もいるが、そいつらは全員地下牢に放り込まれている頃だろう。
「で、でも!数日も立てば実家からお小遣いがくるはず…」
「そのことについてなんですが貴族様…」
実家からの送金に希望を託そうと考えたルイズだが、銀行員が言いづらそうにしながらも一通の封をルイズに渡した。ルイズはそれを開いて手紙を読むと、一気にその顔が青ざめた。
「なんて書いてあるんだ?」
サイトとハルナにこの世界の字はまだ読めない。だから、デルフが代わりに読んであげてくれた。
「えっとだな…

『最近無駄遣いが激しいので、しばらくお小遣いの送金は止めさせてもらいます。ちびルイズ、お金の管理もできないなんて、それでもヴァリエール公爵家の三女ですか。まるであれ買ってこれ買ってと言っている子供が、ある日多額の小遣いをもらって調子に乗ったみたいで恥ずかしいわ。仕方ないから次に会ったとき、私が小遣いの管理方法というのを手取り足取り教えてあげましょう。もしそれでも無駄遣いをしたら…どうなるかわかってるわね?

あなたの姉。エレオノール』…ってよ」
なるほど、さすがのご家族も、ルイズの浪費癖には困っていたようだ。それにしても、ルイズに姉がいたんだな。
「え、エレオノールお姉さま…」
しかし、ルイズは異様にビビりまくっていて震えあがっていた。もしかして、ルイズの姉は怖い女性なのか?彼女がこれほど恐れる相手だ。もしかしたら、キレたルイズ以上にめちゃくちゃ怖い女性なのかもしれない。そう思うと、サイトまでも寒気を感じてぞぞっと鳥肌が立ってしまった。親と子が似るなら、姉妹も同じだろう。
「ルイズさん、念のため尋ねますけど、買い物の際は何を買ってたんですか?」
もしやと思って、嫌な予感がよぎったハルナがルイズに彼女が休日の買い物で買うものを尋ねてみる。思わぬ質問に、ルイズはうっ…と息を詰まらせた。そして言いづらそうにこう答えた。
「…ドレスや宝石よ。一着600エキューでも安いくらいの」
600で安いドレスなど高すぎる。ルイズが今着ている服の何倍もの価格だ。
「…いくつ買った?」
「…虚無の曜日に出かけたとき、見つけたら手あたりしだい」
「「ええええええええええええ!!!?」」
見つけたら手あたりしだいだなんてどんだけ買ってたんだよ!いらねええええええええええ!!!サイトは絶叫した。ハルナもあり得ないとばかりに仰天した。
「し、仕方ないじゃない!安物を買ってたらヴァリエール公爵家が貧乏人みたいに見られちゃうんだから!…せっかくお父様が下さったお金なのに」
「ンなの知るか!!」
いちいち貴族の面子にこだわって高級品を買ってちゃ、寧ろ財布の紐がゆるゆるな間抜けにしか見られない。どうしてそのあたりにまで頭が回らないのだろう。せっかく小遣いくれたお父さんがかわいそうに思えてくるじゃないか。
ともあれ、小遣いを増やすことは結局かなわなかった。
「結局400エキューで何とかするしかないってことだわな」
ケタケタ笑いながらデルフは笑い飛ばした。剣だからお金のことなんてどうでもいいのか、完全に他人事だと思っているご様子。
「けど、たったこれだけのお金じゃ…」
「だから安もんで我慢しろよ。それともやっぱ、お嬢様には無理がある任務だったかな?」
未だ高級な品にこだわるルイズにサイトは言うが、我儘なのかそれとも食わず嫌いなのか、なかなか納得してくれない。それどころか…。
「いいわよもう!私一人でがっぽり稼いでやるんだから!」
意地を張って、サイトから財布をひったくると、稼ぐと大口をたたいて一人で歩き去ろうとした。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよルイズさん!」
「ついてこないで!」
「お、おおおい!ルイズ!!」
結局ルイズは二人を置いてけぼりにしてそのまま走り去ってしまった。 
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