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ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~

作者:???
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春奈-クラスメート-part3/一先ずの和解?


その頃、王立アカデミーは、先ほど語った通り怪獣の死骸の解剖や、レキシントン号の構造チェックなどが執り行われていた。とはいえ、ハルケギニアでは未知なる存在も同然の生物と、未知なる技術で改造された船。たやすく解析できるものではない。
レキシントン号は強力な宇宙金属で強化されていたこともあり、船体のパーツを切除するなどの取り出し作業が進まない。正直、レコンキスタのような卑劣な手段を使うこともいとわない奴らの武器を使うことに抵抗が強かったのだが、他星を侵略する宇宙文明どころか地球にも劣る文明のため圧倒的に力不足のハルケギニアにとって皮肉なことだが、使いようによっては、強力な防衛兵器ともなりうるのだから、これらの解析・研究は是非とも進めなくてはならないのだ。
「ぐ…くっさ…しかも汚!!」
「文句言ってないで作業を続けろ!」
怪獣の死骸の周りで作業をしている研究員たちは酷く苦労させられた。
まるでガリバー旅行記に登場したガリバーが旅先で出会った小人たちにされたように、怪獣たちの死骸はロープや鎖で、地面に縫い付けられていた。やはり死骸ということもあって臭いは強烈だった。だから、死骸については王都から遠く離れた場所へ運ばれた。怪獣たちの中で原形をとどめていた形の死骸を運ぶのは骨を折らされ、大掛かりな作業だった。シルバーブルーメやケルビムは粉々に砕かれていたため輸送に苦労はなかったのだが。
その後も大変だった。死体を腐らせないように、なおかつ臭いが周囲にふりまかれないように気を遣わなくてはならないし、死骸から何かしらの有害なものが発せられることも懸念され、原形をとどめている死骸の周辺の研究員は防護服の着用も余儀なくされたほどだ。
研究員の大半が貴族出身のため清潔感にこだわりを持つものも少なくなく、作業中は文句のオンパレードだ。とはいえ生物学的にも興味をひかれるものもきっとあっただろう。ドラゴンよりもはるかに強力な力を持つ怪獣、その秘密を探りたいと考える者も多数いたようで、作業は積極的に進められた。
しかし、彼らは作業を進める中、彼らの調べている怪獣に対する、無知ゆえの油断を起こしていた。王立アカデミーのある研究室の机の上のガラスケースの中に保管されていた、ある怪獣の死骸の肉片がうねうねと動き出した。そして、突然ケース内で発生した小さなブラックホールのようなものの中に吸い込まれてしまった。
「!お、おい!!」
それに気づいた研究員の一人が、仲間たちを呼んでケースを指さした。
「怪獣の肉片が…消えた…!?」
「ンなバカな…あのケースはトライアングルメイジが作ったものなんだぞ!」
消えた怪獣の肉片は、その黒いブラックホールのようなものによって、トリスタニアの小汚い路地裏に運ばれていた。そこにはたくさんのドブネズミたちが運びっていて見る者を…特に大半が心の醜さそっちのけなくせに清潔感を重視する貴族を不快にさせるほどの数の群れを成していた。肉片にひかれるように、ドブネズミたちは集まっていく。と、次の瞬間おぞましい出来事が起こる。
「チュウ!!!?」
肉片に近づいた途端、ネズミが数匹ほど青く発行し始めた肉片に吸い込まれていってしまったではないか。吸い込んだ分なのか、肉片は膨張を始めていく。危険を感じたネズミたちだったが、肥大していく肉片からは逃げられなかった。ネズミを一匹食らうたびに膨張をつづけ、次第に肉片はさらに巨大になっていく。ついには、60メイル近くもの巨体にまで、何より異形の怪物となってしまった。
「ギエェエエエアアアアア!!!!」
最初はモット伯爵の屋敷、続いてタルブの村に現れウルトラマンたちを苦しめた怪獣…『フィンディッシュタイプビースト・ノスフェル』が復活した時だった。


そういった事件があったことも露知らず、ルイズは再びオスマンから呼び出しを受けた。それはアンリエッタに城に来てほしいという者だった。
よい機会だから姫にハルナのお目通りをするとよいとのことだ。何せ彼女もサイト君と同様異世界人、陛下もサイトのことを研究機関にも明かしにていないから大丈夫だろうとの考えだった。
「気が重いわね。急に私を呼び出すなんて…」
王都への来訪の準備を整えていたルイズは呼ばれた理由を思案する。やはり、自分が起こした白き光…そう、虚無のことだ。あの白い光のことは、間違いなくアンリエッタにも伝わっている。そのことを追及してこないはずがない。
「ルイズさんはこの国のお姫様とお知り合いなの?」
ハルナはサイトへ問う。
「幼い頃に姫様の遊び相手を務めてたんだって。いうなれば幼馴染ってことになるな」
「言っておくけど二人とも、軽々としゃべらないでね。もうじき姫様は女王になる御身だから、一介の貴族平民が軽々しく接することは許されないの」
これはしっかり覚えておくように!と人差し指を突き立てて、二人の異世界人たちに注意を入れる。先日のやりとりがあったにせよ、互いのために覚えておくべきことや大事な情報は伝え合うべきだ。
「でも、問題なのは呼び出された理由ね」
「私的な理由とかじゃないのか?」
サイトがそう尋ねると、ルイズは首を横に振った。
「それはないわね。姫様はもうすぐ女王に即位なされるもの。私的な呼び出しなんて立場上易々とできるものじゃないわ」
「…私、どうなるんだろう…」
不安そうに自分の未来を憂うハルナ。すると、サイトが彼女の前に立って、自分の胸を叩きながら笑みを見せた。
「大丈夫だよ、ハルナ。万が一の時は、俺が全力で守ってやるからさ」
「平賀君…」
「ハルナ…」
二人の間に、妙に桃色かかった雰囲気が流れたことを察知したルイズは、歯ぎしりを起こしながら、今にも目の前のリア充候補者二名を爆発させてやりたい衝動に駆られた。
(こ、この犬ぅぅ…!!!)
しかし、敢えてこらえていたのは昨日のハルナとのやり取りがあったためだろうか。
「やれやれ…本当の戦いはこれからってとこかね」
デルフは身分どころか出身世界を超えた三角関係を見て、ため息を漏らしていた。
ちなみに、厨房の方でも今のルイズと同じようなことが起こっていた。厨房の空気が、この日はすさまじく重苦しくなっていたのだ。その原因は、台所にて果物を切っているシエスタにあった。ザクッ、ザクッ…っと果物を切っていくその様が、まるでもっと別の…『何か』の肉をさばいているようにも見えるくらい恐ろしかった。
「し、シエスタ…どうかしたのか?」
マルトー親父が、包丁を持ったまま暗黒色のオーラを放出し続けているシエスタに恐る恐る尋ねる。
「…いえ、気にしないでください料理長。ただ、訳が分からないんですけど…超激ムカな気分になっただけですから」
満面の笑みなのに、貴族どころか見ている人間すべてに超古代の邪神のような恐ろしさを味あわせる凄味が、このときのシエスタの笑顔にあった。その日、シエスタに仕事以外の件で言葉をかける者は誰もいなかったそうだ。



一方、ウエストウッド村…。
「お仕事?」
「ああ、俺も少し稼ごうと思ってな」
サイトとの通信回線確保のために、タルブの戦いでジャンバードを回収・管理したトリスタニアに向かうことになったシュウは、この日早速出かけてみることにした。玄関に差し掛かると、テファが見送りに来た。
彼女にすべてを話していない。ここからトリスタニアまでの距離は数日以上もかかる。一瞬のごとき速さで飛べる移動手段があることで、秘密がばれることを考慮し、近くの町で働くと偽っていた。これはマチルダも一枚かんでいて、シュウが村を離れている間はマチルダが村を守るために滞在する方針となった。その代り、しっかり働いて稼いで来いとマチルダに念を押された。彼女の稼ぎ手段である盗賊稼業を休むことになるし、守銭奴のようであるが村の生活が懸かっているだから当然のことだ。
「危ないお仕事じゃないよね?」
「そんなに危険な仕事じゃない。単純に言えば物作りだ」
「そ、そうなんだ…よかった」
それを聞いてテファはほっと胸をなでおろす。シュウが自分の見えないところで危険なことをしている。元は怪物と戦う仕事をしていた、とは言っていたがテファからすれば危険行為に自らの身を差し出していることに変わりなし。マチルダにも、子供たちにもやってほしくはないのだ。
が、シュウには理解されていなかったようだ。
「心配することもないだろう。何かしらの危険が来たところで」
「それが心配なの!もしあなたの身に万が一のことがあったら」
「そうなったら、俺は所詮その程度の男だったということだ」
シュウの言葉を遮って反発するテファの言葉を、さらにシュウは自分に対する辛辣な言葉で塗り替えてしまった。
「どうして、そんな言い方するの…」
自分が傷つくことに一切の躊躇いを持ち合わせていないような言動に、テファは悲しげに俯いた。この人はなぜ、こんな言い方を表情一つ変えないまま言えるのだ。この人にとって、自分以外の人間を助けることさえできたら、自分が死ぬことも構わないというのか。
そんなのは…痛くて苦しいだけじゃないか。
「そろそろ行くよ」
シュウはテファのその顔を見ることなく…いや、それとも意図的に目を背けていたのだろうか。そう言い残すと歩いて森の中へ歩き出す。…が、彼は何かに引っ張られている感触を覚える。振り返ると、俯いたままのテファが彼の服の肘の部分をつかんでいた
「ティファニア?」
「あ、ご…ごめんなさい…」
自分でもなにをしたのかよくわかっていなかったようで、テファはその手を放した。首をかしげながらも、再度シュウは行ってくる、と言い残し森の中へと消えた。
ふと、彼女はあることに気が付く。
(あれ?ばいく…っていうのには乗らないの?)
シュウにはバイクという便利な移動手段があったのに、なぜかバイクに乗っていかなかった彼の行動に、疑問を抱いた。
「おや、もう行っちまったのか?」
後ろからマチルダがテファの元へ歩み寄ってきた。このときに、シュウの姿は見えなくなっていた。
「姉さん。シュウはどうして、自分の体を大事にしないのかな?」
以前、大やけどを負ったことでマチルダに運ばれる形で帰ってきたときのことを思い出す。あの時は火事のせいで危機に陥った人を助けるために(実際は違うが)火の中へ飛び込んだのが原因だった。その結果がどうなるか、シュウだって理解できたはずだ。口を開けば他人のことについて一切無関心を通してそうな男が、なぜなのだろう。もし、子供たちに似たようなことが起こればティファニアも同じことをするだろうと考えるが、シュウの場合は違う。なんというか…自分の身を顧みなさすぎるのだ。テファの場合は自分の身が傷つくことに強い抵抗と恐怖を覚える。対外の人間もそういうものなのに、彼にはそれが見受けられないのだ。それが、テファの心配の度合いを強める。
「さあね。一応、無理はするなって念を押したつもりだけど…どうするかは、結局あいつ次第だからねえ…」
「そんな…」
「仕方ないよ。そこまで行き着くと、個人の捉え方によるもんさ」
それはそれで無責任じゃないか?ともいうが、マチルダの言うことは間違っていない。その先は個人…シュウ自身の見切りのつけ方に左右される。他人がどうにかできる領域じゃないのだ。
「…シュウ…」
(全く、女泣かせな奴だね。やっぱり、もっときつく言っておくことも考えておこうか?)
シュウが入り込んだ森の方を、心配しながらまっすぐ見続けているテファを見て、マチルダはやれやれと頭を抱えた。
一方でシュウは森の中に入り込むと、ブラストショットを頭上に向けてストーンフリューゲルを呼び出そうとした。
が、ここで思わず思いとどまった。『見えた』のだ。性懲りもなく、トリスタニアの町にノスフェルが現れた姿が。
なぜノスフェルが復活したのか解説を入れよう。奴はたとえ肉体が木端微塵にされても、細胞が少しでも生き残っていた場合、肉体を再生することが可能なのだ。
(しつこい奴め…)
眉を潜めながら、ノスフェルの蛇やゴキブリのようなしぶとさに、生物としての生存本能に関心さえも覚えそうになる、が…所詮人に害をなすことにしか能がない化け物にかわいそうだから助けようなんて情を抱くほど彼は甘くはない。
ストーンフリューゲルを呼ぶのをやめてブラストショットをしまうと、今度はエボルトラスターを懐から取り出し、それを鞘から引き抜いた。今となっては、この引き抜く感触さえも慣れてきてしまっている。これは、自分が人間じゃなくなっていく感覚というものなのだろうか。いや、そんなことは関係ない。自分には、そうなってしまってでも成さなくてはならないことがあるのだ。
エボルトラスターがら放射される紅き光が、シュウの身を包み、銀色の巨人へと変化させる。ウルトラマンネクサス・アンファンスに変身したシュウは、赤い光の玉となって空へ飛び立った。
「シュワ!!」
ここで、シュウは一つ油断をしていた。実は、今の光景を…変身した時の姿を見られてしまっていたのだ。
「なんだよ…これ…」
村の子供たちで唯一シュウを快く思わない少年、サムに。ウルトラマンのことは、立て続けに盗賊やペドレオンに襲われながらも救われたテファからも聞いていた。だが、まさか自分が嫌う男こそが…そのウルトラマンだったなんて思ってもみなかったし、想像が付いていたとしても思いたくもなかった。
見た目からして強大な力を持つ巨人。これじゃ、自分があいつに勝る部分なんて…。
いや、サムはさっきシュウが変身した際の光景を思い出す。あいつは白い短剣を持っていた。それさえあれば…。
(お前なんかじゃない……テファ姉ちゃんを守るのは僕なんだ…!)
気づかれないように去りながら、サムはシュウの顔を思い出して歯噛みした。



その頃、サイト・ルイズ・ハルナは用意された馬車に乗ってトリスタニアに向かっていた。
なぜホーク3号があるのに馬車に乗っているのかというと、ホーク3号はタルブの戦いで攻撃を受けて故障してしまっているため、修理が済むまで移動手段として使うことはできなかったのだ。とはいえ、この世界では満足に機会を修理することはできないので、次のフライトはいつになるのかわかったものじゃない。
座席にはどちらがサイトの隣に座るかでもみ合いになりかけたが、デルフの口添えで女性二人が隣に、サイトは反対側に座ることで落ち着いた。
馬車に揺られ続けたせいで、強い眠気が三人を襲う。馬車だとだいぶ時間がかかる上に何もすることがないし、ルイズとハルナはあまり互いに口をききたがろうとしなかった。
数時間をかけ、ルイズたちの馬車はトリスタニアに到着した。
「ほら、着いたわよ。ここがトリスタニアy…って!?」
ルイズは馬車に出た途端、目の前に飛び込んだ光景に驚愕した。
「あの怪獣は!!」
サイトも馬車から降りて、街に現れた怪獣…ノスフェルを見て驚いた。
「生きてたのか!?」
「うそ…怪獣!?」
サイトに続いて外に出たハルナも驚きを隠せない。
サイトと同じ地球にいたハルナにとって、怪獣は決して空想の産物ではない。ましてクール星人に誘拐されかけた経験があるから嫌でも馴染みつつあったのだ。一応この世界で起こった状況については学院長室でのやりとりで聞いていたのだが、まさか本当に、異世界でも怪獣をお目にかかるなんて。嫌な運命だことだ。
「このままじゃ姫様があいつの毒牙に…サイト!今すぐ王宮に向かうわよ!」
「ちょ、ちょっと待てよルイズ!危険だ!」
「平賀君!!」
国への忠誠心から猪突猛進気味のルイズは、大事な姫をノスフェルの牙にかからないようにと一目散に走り出した。それを追って、サイトとハルナもルイズを追って走り出した。
「ギエエアアア!!!」
突如出現したノスフェルは、大好きな人間の恐怖を求め、爪を振って暴れ出した。ただ一撃だけでも、建物を破壊するには十分。ノスフェルの爪の一太刀を受けて、復興しつつあったトリスタニアの街が再び荒らされていく。
「「うあああああ!!!」」
「撃て!撃てえええ!!」
街の人たちはノスフェルの脅威から逃れようと、なだれ込むように逃げ出していく。
一方で、街の衛士たちは住人の避難誘導を行い、魔法衛士隊は少しでもその時間を稼ごうと大砲を打ち込んだり魔法を打つなりしてノスフェルの注意をひく。
ルイズはなだれるように逃げる人々をかいくぐりながら、城の方へと急ぐ。しかし、ここで彼女の眼にあるものが飛び込む。
「邪魔だ、退け!」
逃げ遅れた子供が、どこぞの大人に蹴飛ばされてしまった姿だ。蹴られた痛みと迫りくる恐怖でその場に座り込んで泣きじゃくっている。さっきの大人はどこへ行った!?見つけたらサイトにやっているラ・ヴァリエール公爵家三女の崇高なお仕置きタイムを特別にくれてやって死ぬほど感動させてくれてやりたい気分だ。って、んなことをのんきに計画している場合じゃない。あのバカ犬のことだから身を挺して助けに行くはずだ。使い魔がやってのける癖にご主人様がやらないなんて貴族の恥だ!特別に助け出してやる!なんて歓声ずれまくりな言い訳をつけてルイズはその子供のもとに駆けつける。
「何泣いてるの!さっさと逃げなさい!」
ちょうどルイズがその子供の傍らに駆けつけ、立ちあがらせようとした時だった。
「グルルルル…」
「!」
ノスフェルがルイズを見下ろしていたのだ。これだけ近づかれた状態では魔法を詠唱する間さえも与えられない。まして相手は怪獣の中でもかなり凶暴な種族『スペースビースト』だ。ためらう間なんて期待すべきじゃない。
目の前の獲物を見つけ、ノスフェルはかぎ爪を振りかざした。振りかざされた爪はルイズのすぐ近くの宿屋を破壊し、その瓦礫が彼女と子供の頭上に降りかかる。ルイズは子供を守るために、子供を突き飛ばした。
ガラガラガラガラ!!!
「きゃあああ!!」
「お姉ちゃん!!」
瓦礫がルイズに雪崩の如く降りかかった。ルイズのおかげで瓦礫から逃れることができた子供は、瓦礫が落ち止んだところで瓦礫に下半身を飲み込まれているルイズのもとに駆けつける。
が、そんな彼女たちに容赦なく、ノスフェルが吠えながら再度爪を振りかざしてきた。今度はもう逃げられない!ルイズと子供は目を閉ざした。
と思った時だった。
「ルイズ!!」
サイトがちょうど駆けつけてきた。すでにノスフェルが、ルイズたちの命を奪おうとしている。
『まずい、変身しろサイト!!』
「わかってる!!」
サイトはポケットからとっさに、タルブの戦いで手に入れた、ゼロと一心同体となった証であるゴーグル型変身アイテム『ウルトラゼロアイ』を取り出して折り畳み状態から開き、それを空中へ投げ飛ばす。そして自らも大ジャンプし、宙を舞いながら落ちていくゼロアイをその顔で受け止めるように装着した。
サイトの姿が、頭上から変化していく。金色の眼を持つマスクが彼の顔を覆い、全身が青と赤の肌をした筋肉質な肉体へと変わっていく。
ノスフェルの爪が眼前にまでルイズたちに迫ったちょうどその時、遥か空から青い流星がノスフェルに強烈なけりをお見舞いした。
「ドリャアアアアアア!!!」
「ギエェエエエ!!!?」
炎の蹴り、ウルトラゼロキック。ルイズの危機を救うためその姿を変えたサイトによって、ノスフェルは大きく蹴り飛ばされた。青き流星は地上へと降り立ち、巨人となってその姿を見せつける。
「あ、あの巨人は…!?」
知れ渡っていたのはせいぜい噂程度だったことだろう。誰も彼が、鎧=テクターギアが砕かれたことで本来の姿を取り戻したのを知っているのは。彼の新しい姿に、街の人々は戸惑いと驚きを露わにしていた。
その姿を見て、ルイズとハルナは同時に呟いた。
「「ウルトラマン…!!」」
テクターギア・ゼロの真の姿…ウルトラマンゼロがついにトリスタニアに降臨した。
「ジュアアア!!」
ゼロはノスフェルに掴み掛ると、そのまま押し出してルイズたちの元から一気に距離をあけさせた。



ハルナは地球では見たことなかった新しいウルトラマンの姿を見て、しばらくじっと見つめていた。かのウルトラセブンに似た容姿を持ち、若々しさと相応の荒っぽさの二つを兼ね備えながらも、人を守るという強い使命感を背中で語る勇姿に見とれていた。
不思議だった。あのウルトラマンとは、初めて会った気がしないのだ。
が、すぐにルイズとサイトを探さなくてはと我に返る。ハルナは再び駆け出すと、ルイズの姿を発見した。
「ルイズさん!!」
彼女の下半身が瓦礫の下敷きになっている。もちろん怪我をしていて血が流れ落ちていた。
「い、言っとくけど…その子を助けたのは、見捨てたら私の貴族としての面目が立たなくなるからで、別にあのバカ犬に影響されたわけじゃないんだからっ…!」
全部自分から言ってるではないか。こんな時になってまで、痛がりながらも照れ隠しをするルイズはどこまでもブレない奴である。傍らには幼い子供がいる。自分の身を顧みないで、その子を助けたというのか?こんな姿を見てしまったら、気に入らない人だとしても、どうしても助けたくなってしまうではないか。
ふと、ハルナの眼に誰かの姿が飛び込んできた。白いマントに身を包んだ、オレンジがかったショートヘアを持つ女剣士だ。
「すみませーーん!!」
彼女は一心不乱に彼女に呼びかけた。女剣士はハルナの声に気が付いたのかハルナの方を振り返る。
「どうした!?」
「すぐこちらに来てください!あそこで女の子が瓦礫の下敷きになってるんです!!」
「痛っ…!!」
女剣士は、駆けつけてルイズの姿を見るや、目を丸くしていた。
ルイズのマントを見て、彼女が貴族なのはわかる。貴族がすでに自分たちだけ安全な場所に逃げ込んでいるとばかり思っていたその女剣士は驚き戸惑っている。だがそれだけじゃない。
「桃色の髪…!この方はもしや…」
ルイズの特徴ともいえる桃色の髪を見て、何やら彼女のことをあらかじめ知っていたような様子だった。
「銃士隊、集まれ!!」
彼女の号令を聞いて、女剣士と同じ格好をした女性剣士たちが多数集まってきた。この女剣士、見たところ一部隊の隊長クラスかそれに近い立場のようだ。
「ここの瓦礫をすぐに撤去し、この令嬢を救出するぞ!」
「「は!!」」
彼女の命令に従い、女剣士たちは直ちにルイズの足を埋めるがれきを撤去した。剣を携えていることや魔法は使っていないことから、彼女たちはメイジではない。もしそうだったら、レビテーションを使って瓦礫を軽々と除けているはず。が、職務上力仕事に慣れていたのと大人数集まっていたため、瓦礫は時間をかけることなく撤去された。
「ルイズさん、肩を貸します」
「あ、ありがとう…」
平民とはいえ、助けられた恩人だ。ハルナの肩を借りてかろうじて立ったルイズはハルナや女剣士たちに礼を言った。
「いえ、当然のことをしたまでです。しかし…あなたはもしや、ルイズ・ド・ラ・ヴァリエール嬢では?」
「私を知ってる?あ、あんたたちは?」
「私は、アニエス・シュヴァリエ・ド・ミラン。アンリエッタ姫殿下近衛兵部隊『銃士隊』の隊長を務めさせております。今日はあなたが来訪することは姫様から聞いておりましたが…」
見ての通りルイズは足をけがしている。こんな状態では城へ自力で行くことは不可能だ。
「彼女たちを城まで避難させろ!姫殿下のお呼びした来客だ!丁重に扱え!」
命令に従い、銃士隊の女性剣士の一人がルイズを背負った。が、ここで二人はサイトの姿が消えていたことに気付く。
「待って!サイトは、サイトはどこ!?」
「そ、そうだ!平賀君は!?」
辺りを見渡しても、逃げ惑う人たちの中にサイトの姿は見当たらない。避難者の中に紛れてしまっているのだろうか。
一方で、ゼロはノスフェルと交戦状態だ。なんとかゼロがたった今ノスフェルを自分たちの方から引き離してくれたが、市街地が危険区域となったことに変わりない。こちらにいつ戦いの余波が来るかも時間の問題だ。
「申し訳ないが、時間がない!すぐに運べ!」
「離して!行かせてよ!サイトが!!」
「平賀君!平賀君!!」
危険を顧みずに、二人ともサイトを探しに向かおうとしたため、アニエスは部下たちに強引に彼女たちを取り押さえさせ、安全区域まで強制的に避難させた。




ゼロはとにかく市街地に被害を出させないために、とにかくノスフェルを押し出していった。ノスフェルは餌場として狙っていたトリスタニアの市街地に戻るために、抵抗してゼロの背中を叩き続ける。が、ゼロは堪えながら頭上にノスフェルを持ち上げ、街の外へと思い切り投げ飛ばした。
「デヤアアア!!」「ギィイイイ!!?」
ドスン!と大きな音を立てながらノスフェルは街の外の街道に落下した。落下と同時に、ゼロも市街地外へ飛び、ノスフェルの前へ着地する。ゼロには、シュウの変身するウルトラマンネクサスと違い、街に被害を出さないよう別の位相空間に敵を送り込むなんて便利な能力はない。サイトはあのメタ・フィールドの性能をうらやましく思う。が、ないものねだりしたところで始まらない。どうして復活したかはわからないが、こいつを倒さなくては。
「デュワ!」
手始めに一発、ノスフェルの顔をぶん殴り、顔面と腹に回し蹴りを二発叩き込む。怯んだところで、さらにもう一撃ノスフェルの眉間に手刀を叩き込み、のど元に拳を打ち付けた。
ノスフェルが喉を殴られ咳き込んだ。よほど効いたらしい。
が、急所を突かれて怒ったのか、ノスフェルは咆哮を上げてゼロに爪で一撃、二撃目と切りかかってきた。胸から火花を散らしながら怯むゼロに、続けて尾を鞭の如く振って彼を痛めつける。
「ガッ…!!」
こめかみに一撃もらい、頭に痛みが残る。下手をしたら脳震盪でも起こしそうだ。少しふらついたところで、ノスフェルはゼロの胸ぐらをつかむかのように、右手で彼の首元に掴み掛ってきた。思った以上に力強く、ゼロは自分の首を絞めてくるその手を握って振りほどこうとする。
ゼロは精一杯力を振って、ノスフェルの腕を振りほどいた。が、その次の瞬間だった。ノスフェルがその巨体に似合わない、サマーソルトキックという荒業でゼロを蹴飛ばしてしまった。
「ウアアアア!!」
宙へ舞い上げられながら、彼は市街地の建物の上に落ちてしまう。当然、彼の下敷きとなった建物はめちゃめちゃだ。
(ぐ、くっそ…家またぶっ壊しちまった…!)
ただでさえ街の復興というものは地球だろうがこの世界だろうが費用もバカにならないはずだ。できれば街を壊さないで敵を倒したいところだが、戦いの激しさとはそれを容易に許してはくれない。
これ以上被害が広まる前に、と一気に決めてやるつもりで、ゼロは光線の構えを取ろうとしたその時だった。更なる脅威が彼を襲った。光線の構えを取るゼロの頭上に黒い暗雲が立ち込めた。



「あ、あの黒い雲は…!」
一方で、ルイズとハルナは、アニエスら銃士隊によって安全な対比区域へと避難させられていた。できればすぐに市街地に向かってサイトを探しに行きたかったのだが、銃士隊や衛士隊が住人が勝手に安全区域から出て行ったりしないように見張っていたためにそれは叶わなかった。こうなると、ウルトラマンが町に取り残されているかもしれないサイトを守ってくれる、ただそう信じるしかなかった。
ゼロの頭上に突如出現した黒き雲を見て、ハルナは驚きの声を上げていた。その驚きようを見たルイズが、以前ハルナがタルブ村にて自分たちに話したことを思い出す。
「ハルナ、もしかしてあんたが言ってた黒い雲って…!」
「はい、あれです!」
黒い雲を指さしながら、ハルナは強い眼差しで黒い雲を睨んだ。
異変を感じてゼロは頭上を見上げる。ハルナとルイズも見たその黒き雲からは、闇ともいえるその怪しげな光が降りかかり、その中から一体の新たな怪獣が現れ、ゼロに伸し掛かってきた。
「グア!?」
その怪獣は、『アンフィビアタイプビースト・フログロス(B)』。両生類型の、またしてもスペースビーストだった。うつ伏せに倒されたゼロの上に伸し掛かり、フログロスは両手でゼロを乱暴にはたき始める。怪獣というのはそれぞれがやたら重いので、一度伸し掛かられると除けてもう一度立ち上がるだけでも苦労だった。しかも今は、ノスフェルがいる。ノスフェルはゼロに近づき、彼の顔を乱暴に蹴り上げた。
「ガウアッ…ンの野郎!!」
もう一度蹴ってきたノスフェルの足を、ゼロは両手で掴み取って押し出すが、フログロスに伸し掛かられている状態では思うように力が出ず、しかもフログロスが背中の上でかみついて来たり殴ってきたりと邪魔をし続けてくる。
(くっそおお…!!せっかく元の姿に戻れたってのに、早速やられるなんて勘弁だ!)
このままではやられてしまう。何としてもここから抜け出さなくては。
(ウルトラマンがこのままじゃ負けちゃう…私が何とかしないと!)
ルイズは、ただこのまま見ているだけでいるわけにはいかないと思った。だから杖を握って立ち上がり、タルブ村にて発動したあの時の魔法…虚無の攻撃初歩魔法『爆発(エクスプロージョン)』の詠唱を始めようとする、が…見ての通り子供を瓦礫から救うために足を負傷している。足の激痛が響いて満足に立てなかった。
「痛った…」
「ルイズさん、無理しないで座って!」
痛々しくて見ていられない。ハルナはルイズに座って休むように言う。
「私たちの街が、由緒正しき王都が獣なんかに荒らされてるのよ…!それを黙って見ているなんて、貴族の名が廃るというものよ…!」
「魔法がどんな威力を持つかなんて、所詮地球出身の私には理解できないけど、GUYSがあらゆる兵器を倒せるか倒せないかの怪獣たち相手に、ルイズさん一人じゃ無茶です!」
ハルナの言うことも、普通に考えればその通りだ。いかに彼女が虚無という立派な伝説の系統魔法を持っていても、元は戦うことにあまり慣れていない素人メイジだ。それでもルイズは意地を張って、彼女は痛みをこらえながら立とうとする。負傷した足から血が流れ落ちている。
(ルイズさん、こんなになってまで…)
ウルトラマンに助力することで、街のどこかにいるサイトを早く探しに行こうと焦っているのだろうか。自分の想い人のことをこれほど強く大事にしているなんて、サイトは幸せ者なことだ。そして、ハルナはルイズのことをどこか羨ましく思った。
でも、見ているだけで痛々しかった。ルイズはウルトラマンが勝つまでこれを続けることだろう。貴族としての誇りや維持、そしてサイトのために。これ以上彼女が傷ついては彼だって喜ばない。
誰でもいい、誰か…。
と、その時だった。
空から数発もの光刃がノスフェルに雨のように降り注いだ。攻撃を受けてノスフェルはゼロの元から離れる。そしてさらに…。
「ディアアアアアア!!」
紅い光が急降下し、フログロスに強烈な飛び蹴りをかまし、フログロスはゼロの背中から転げ落ちた。紅き光を纏う銀色の巨人、ウルトラマンネクサス・アンファンスだ。
「あれは…!?」
歴代のウルトラマンと比べるとかなり斬新な姿をしている、見たことのない銀色の巨人を見てハルナは目を丸くした。
「きっと、大丈夫よ。あれも、ウルトラマン…ウルトラマンネクサスよ」
「ウルトラマン、ネクサス…」
銀色の巨人を見上げながら、ハルナはそっと呟いた。



「しっかりしろ」
ネクサスは一方的にやられていたゼロに肩を貸しながら立ち上がらせる。
「悪い、助かった!」
立ち上がりながら、ゼロは礼を言う。特に返事もせず、ネクサスは今回の相手を見据える。ノスフェルはともかく、フログロス…。こいつはもともと小型の弱小ビーストだったはずだ。それがノスフェルに負けないくらいの巨体を誇っている。
「フログロスは俺が倒す。ただ平賀、ノスフェルの口の奥を狙え」
「口の奥?」
なぜ喉?首を傾げるゼロに、ネクサスが続ける。
「奴がなぜ短期間で復活できたと思う?」
「…もしかして!」
確かに疑問だった。ついこの前、倒したばかりのノスフェルが復活した理由について、彼は自分の故郷である地球に出現した怪獣に覚えがあった。
「そうだ、奥の再生器官を破壊しないと奴はまた蘇る」
やはりそうか、とゼロは思った。再生能力を持っているなんて、かのウルトラ兄弟9番目の戦士『ウルトラマン80』とメビウスを苦しめた『再生怪獣サラマンドラ』のようだ。
だが、ネクサス=シュウがノスフェルの短期復活の種を知っていたのは助かった。このまま打ち倒しても、また自分の知らないところでノスフェルが蘇り、人を襲って食らいついていたに違いない。
「わかった!」
頷き合い、二体の巨人は二体のビーストに向き直って身構えた。さっきは一対二と不利だったが、今はネクサスも加え二体二。ノスフェルには、モット伯爵の屋敷での戦いでは、テクターギアを装備してパワーを落とされていたことやサイトとゼロの間に亀裂があったために苦い汁を飲まされたが、今のゼロに敗因はもはやない。
すると、ノスフェルは左の爪に黒い波動を込めると、それをゼロに向けて放とうとする。〈アームボウル・マキシマム〉。ノスフェルが使う光弾だ。
ゼロは頭に身に着けていた二本の宇宙ブーメランに触れる。同時に、彼の左手のルーンが光り輝くと、それをノスフェルに向けて投げつけた。父親、ウルトラセブンを初めとしたレッド族の一部の戦士も持つ同類の武器、〈ゼロスラッガー〉だ。
「ジュア!!」
風車のように回転し空気を切り裂きながら、二本のブーメランはノスフェルに向かう。同時にノスフェルの放った光弾もゼロに向かっていく。ゼロスラッガーとアームボウル・マキシマムがぶつかる。すると、ゼロスラッガーはノスフェルの光弾を見事に切り裂いて相殺、そのままノスフェルの体を斬りつける。体にバツ印の傷をつけられ、ノスフェルは後ろ向きに反り返った。
ネクサスは自分に向けて火炎弾を連射していくフログロスに対し、両手で次々と襲ってくる火炎弾を空にはじき出していく。火炎弾による連続攻撃をはじきながらフログロスに迫り、腹に向けて〈アンファンスパンチ〉を叩き込んだ。フログロスが倒れたところで、彼はジャンプして一度ノスフェルの前に立つ。そしてノスフェルの上顎と下顎を掴み、ゼロに顔を向けさせて口をこじ開けた。
「今だ、撃て!」
「ああ!」
ネクサスの呼び掛けにゼロはコクッと頷く。喉の奥の再生器官を破壊すれば、少なくとも目の前にいるこの個体は二度と蘇らない。以前、一度目の戦いではチビトラマンになってしまったために倒せなかったが、もうこいつには絶対に負けない。
額の上で両手の中指と人差し指をバツ印を組むように合わせ、ゼロは額のビームランプからエメラルドグリーンに輝く閃光を放った。父、ウルトラセブンの技〈エメリウム光線〉と同様の光線技〈エメリウムスラッシュ〉だ。
「ジュワ!!」
閃光はまっすぐ、ノスフェルに向かい、細いだけあってすっぽりとノスフェルの口に入り込む。そして喉の奥に着弾したところで暴発、喉の奥を、そしてそこに会った再生器官を焼かれたノスフェルは悲鳴を上げた。
今こそ止めを刺すとき!ゼロはゼロスラッガーを、ジュネッスブラッドへチェンジしたネクサスは〈シュトロームソード〉を構え、ダッシュしながら二体のビーストに突撃、すれ違いざまに敵を切り裂いた。
〈ゼロスラッガーアタック!〉
〈シュトロームスラッシュ!〉
すれ違ったところでゼロはゼロスラッガーを指で弾いて自分の頭の上に戻し、ネクサスが光の剣を戻したところで、二体の怪獣は倒れ、爆発四散した。
自分たちの勝利を確信し、二体の巨人たちは渦を巻く光に身を包ませ、小さくなっていった。
街の人たちが、巨人たちの勝利に歓声を上げた。そしてアフリカの野生動物もびっくりな勢いで、壊れた自分たちの街へ戻り、復興作業と負傷者の看護の準備にかかった。




トリスタニア城の医務室、ルイズはそこへ運ばれていた。足の怪我は宮使いの水系統メイジに治療してもらい、傷を塞いでもらったものの、治ったばかりだから痛みが引いたわけではない。
「離して!もうウルトラマンたちも怪獣もいないのよ!探しに行かせなさいってば!!って…痛た…」
「ご自分のお怪我のことを考えてから仰ってください。その足の怪我でこの広い街を歩くことができるわけがありません」
ウルトラマンたちが勝利した途端、ルイズはサイトを探しに街に繰り出そうとしていたが、冷静にアニエスから痛いところを突かれて押し黙る。
すると、医務室にアニエスと共にいた銃士隊の女性剣士がハルナと共に入ってきた。
「ミシェルか、ミス・ヴァリエール殿が探したがっている人物は見つけてきたか?」
ハルナがルイズと共にいなかったのは、サイトとは顔見知りの彼女を借りて彼を見つけ出すためだったようだ。
「大丈夫、ちゃんと見つけてきました」
「さあ、入れ」
ミシェルが入るように言うと、戦いを終えたサイトが医務室に入室した。
「平賀君、本当に…怪我はない?」
「大丈夫だよ。この通りぴんぴんしてるし」
心配そうに見つめてくるハルナに、サイトは笑顔を見せて安心するように言った。
「よ、よお…」
サイトは次に、ケロッとした表情でルイズに顔を見せて、恐る恐る手を上げてルイズに自分が無事であることを示した。が、やけにルイズから発せられるオーラに押されかけていた。怪獣とは戦えるくせに、美少女相手にはどうしてもこうなってしまう。
「サイトの…」
「る、ルイズ?」
「バカあああああああああ!!!」
瞬間、ルイズは目じりから涙を溢れ出させてサイトに飛びついてきた。
「サイトのバカ!バカ!バカ!よくもご主人様に心配かけたわね!!絶対に、絶対に…許さないんだからぁ…」
まるで街中で逸れた親と再会した迷子のように泣きじゃくりまくった。てっきり怒られるのかと思ってしまった。
でも、考えてみるとサイトたちとはぐれたのは、元は一人で飛び出した自分に原因があるとルイズ自身も悟っていただろう。ただ、いつもの意地っ張りのせいでそれを口に出して言えないだけだった。
こんな子供のように泣かされてしまうと、サイトは怒る気が失せてしまう。自分に飛びついてきたルイズの頭を、彼は妹を大事に思う兄のようにそっと頭を撫でた。
しばらくルイズはサイトの胸の中で泣きじゃくっていた。ようやく泣き止んだところでハルナが二人のもとに歩み寄ってきた。
「ハルナ?」
やけに神妙な表情をして、彼女はルイズを見ている。サイトはどうしたんだろうと不安に思っていたのだが、以前夜の双月の下でサイトのことで彼女と会話したルイズは、あの時の話の続きをしてくるのだろうと予想した。
「ルイズさん、正直言って…私ルイズさんのこと、よく思ってませんでした」
やはりそうか、とルイズは思った。無理もない。学院の伝統に従い、自分の貴族としての面目を保つため、進級するため、結果としてサイトを召喚し契約した。だが、される側からすれば身勝手な誘拐も甚だしい行為だ。あの時の会話で、ハルナが涙目で睨んできたことをルイズは決して忘れていない。
「平賀君を勝手に召喚しておきながら、酷く扱っていたみたいでしたから…」
「…」
「だって皆の話だといきなり床の上にパンとスープだなんて…同じ人間に対する対応とは思えなかったし、」
「うぐ!!?」
ドス!!っと剣が自分にぶっ刺さってきたような気がした。が、あくまで言葉という名の剣なので実際にさしているわけではないので流血沙汰になるわけじゃない。
「いきなり平賀君の前で着替えるなんて破廉恥な真似をしたし」
「うが!?」
「しまいにはいつもいつも平賀君を巻き込んで危ないことに首を突っ込み続けて…」
「うぅ…」
一体どこからその情報を…っと思った時、真っ先にギーシュやキュルケの顔が浮かぶ。ギーシュは口が軽いし、キュルケはルイズを使って面白がっていたに違いない。学院に戻ったらあの二人に恨み節のラッシュをお見舞いしてやろうか。
「今回平賀君とはぐれたことだって、ルイズさんが勝手に飛び出したことが原因ですよね。これだけ平賀君を危ない目に巻き込んでおいて…」
「…」
「ハルナ、そこまで言わなくても…」
「平賀君は黙ってて!私はルイズさんの話してるの」
確かに、召喚したばかりの頃などから今回までのことを含め、ルイズがサイトを巻き込んでやらかしたことは褒められたことばかりではない。いや、決して悪く思われるべき人間じゃない。だからそこまで責め立てることもないじゃないかとハルナに言おうとしたが、次にとんだハルナの言葉が、サイトの口をも閉ざさせた。サイトは、優しすぎる。その優しさゆえに話が進まないなんてことになっては、自分がルイズに言わなくてはならない言葉で遮られてしまう。だから、あの夜の会話でも自分は先にサイトを一度ルイズの部屋に帰させたのだ。
「…ハルナ」
ルイズはハルナのもとに歩み寄ると、伏し目がちに、いつもの高慢さを混じらせた態度を現さず、彼女に言った。
「確かに、私はサイトを使い魔として召喚したわ。でも、あいつにも家族やあんたみたいな大事な知り合いがいるってことは、今あなたと話して改めて理解できた。…悪かったわね。でも、約束するわ。いつか…いつか責任もってサイトを故郷に返すことを」
「…本当、ですね?」
「私は貴族よ。始祖とラ・ヴァリエールの家名に誓って、嘘は言わないわ」
サイトだって、いつか地球へ帰ることを願ってはいたのだから。
ハルナは、頷いた。思い起こせば、サイトは自分が誘拐されたも同前の身なのに、ルイズを恨んでいる節が垣間見られなかった。それどころか、ルイズをはじめとしたこの世界でできた仲間たちと絆が結ばれつつあった。キュルケからは執拗なアプローチを受けていたし、シエスタからも熱っぽい視線で見られていたし、ギーシュは特に覚える価値もない話を持ちかけられたり。タバサは無言だったからよくわからないが…。ルイズの場合もそうだ。口を開けばサイトをこき使う発言ばかりとるが、サイトがシエスタやキュルケに構うとすぐさま激怒して理不尽な罰を下す。
「……わかりました…ルイズさんを、信じます」
悔しいが、ハルナもルイズの理不尽な行動の根源にある想いには共感を覚えていた。
「けどハルナ、言っておくけど」
すると、ルイズは人差し指を突き立て、これだけは覚えておけ、と言いたげにハルナに強く言った。その一言が、シリアスな空気を見事にぶち壊してしまったのだった。
「あのバカ犬は私の使い魔なんだから、手を出すことは許さないんだからね!」
「ちょ……やっぱりルイズさん、変です!平賀君のこと、使い魔としか思っていないんですよね?もし平賀君が私に気があっても関係ないですよね!?」
一瞬沈黙したが、ハルナは対抗意識を燃やしてルイズに言い返すと、ルイズはう…と息を詰まらせる。
「か、関係ないけど…あ、ああああるわよ!」
矛盾しまくりな言葉を返すルイズ。どうも独占欲が表に出てしまい、サイトを素直に渡す気になれなかったようだ。
「どっちなんですか!?ルイズさんだって平賀君と一緒にいたがってるのが見え見えです。なるほど…よくわかりました!平賀君を地球に返せない理由って、やっぱり平賀君を独占したいだけなんですね!!?そうとしか思えません!!」
話を聞いていたサイト、アニエスにミシェルは唖然としていた。
「…あの、隊長」
「…なんだミシェル」
「止めた方がよいのでは?」
「……止めたところで止まるとは思えんが…」
こうなると、もはやさっきまでのサイトの人権問題を問うはずの話合いから、単なる女の戦いだった。話の趣旨が完全に変わってしまっていた。
「そ!!そそそんなわけないじゃない!な、なななんで私があんな馬鹿犬と居たがるのよ!手を出すなっていうのは、使い魔がご主人様とは違う女にいちいち尻尾を振るようじゃ、ヴァリエール家の品格と使い魔を扱う技量のなさを疑われるのが嫌なだけなんだから!」
ああ、やっぱりだ。とハルナは思った。この娘はわかりやすい。素直じゃないくせに、自分の気持ちを隠すのがめちゃくちゃ下手なタイプだ。なんだかんだで、サイトに構ってもらいたがっているのが丸わかり。
(やっぱり、ずるい…こんな根のいい女の子を憎めるわけないじゃない…)
ルイズに対して思うところがなくなったわけじゃないが、サイトがそうしたように、自分もこの少女を見ておこうと思った。
 
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