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ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~

作者:???
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春奈-クラスメート-part2/少女たちの溝

自ら条約を結んできておきながらトリステインへ侵略行為を行い、それをトリステインが応戦したことで発生したタルブ村の戦いは、トリステイン側の勝利に終わった。
タルブ村の復興作業を手伝う部隊を村に駐在させると、アンリエッタは群を引き連れてトリスタニアに凱旋、国民たちからの賛辞を受けた。
ボーウッドをはじめとしたレコンキスタ軍からの投降者たちは、レコンキスタの知る限りの情報を明かすということで、命まではとらないことが決定された。
トリステインの勝利は、決してトリステイン自体の力ではないが、国力低下の目立つトリステインは、政治面で自国の強さをアピールし、他国と対等であり続けるようにしなければならない。だから不本意にも情報操作も行われ、一国の力のみであたかもトリステインはアルビオン…正確にはレコンキスタに勝利したということにした。ゲルマニアはその情報を聞き、同盟解消の件は白紙、トリステインは強固なる国として認められ、数日後のアンリエッタの正式な女王即位のための戴冠式と同時に、再度ゲルマニアとの同盟が成立することになった。
ゲルマニアとしては、アンリエッタがウェールズに宛てた手紙の件などをダシに、小さな隣国であるトリステインには強硬な態度を示したかったらしいのだが、レコンキスタや怪獣の脅威を恐れているという点では同じ。婚約も自分たち側から解消させていたために、結果として手紙の件も同盟とは無関係になった。
しかし、自由を手に入れた……とは言えなかった。女王となることで、むしろかえって、自分への立場上の束縛が彼女をさらに締め上げることになるのを、アンリエッタは自覚していた。そして…、自分にとって女王となったことを喜んでほしいと願う、愛しい人が自分の知らない世界へと消えていたという事実が、女王となってもそのことに虚しさを覚えさせた。
どんなに華やかに戴冠式を飾っても、決して彼女の心は晴れない。それでも、喪に服している母に代わって、自分はこの国の女王となる。泣き言なんてもう許されないのだ。
捕虜の尋問にあたった一衛士からの報告書を読み上げる。
タルブの戦いで回収された改造レキシントン号、ジャンバード、怪獣の死体など多数の件についてだ。
レキシントン号は、明らかにハルケギニアの技術で作られたものではなかった。今回戦利品としても獲得したのだが、大砲の代わりに搭載されたビーム砲、一つを王立アカデミーが分解して調べようとしていたようだが、ハルケギニアの金属よりも強力な合金製で作られていたため、分解にさえも手間取っていた。操縦を担当していたアルビオン兵によると、基本的な操縦方法は同じだったようだが、操舵室の構造もビーム砲の発射装置の搭載のために大きく変わっていたらしい。他にも強力な性能が備わっていたらしいが、理解できない箇所が多すぎたそうだ。いかに強力な兵器に改造しても、操縦者や搭乗者たちがそれを理解していなくては宝の持ち腐れだ。が、それが逆にあの戦いでのトリステイン側の勝利に収まった要因かもしれない。まして、あのジャンバードも同じだ。あれについてはレキシントン号の比ではない。そもそも、あのような根本的にハルケギニアで作られたものとは思えない代物が、実はアルビオン王家が守ってきた秘宝だった。これまでのこの世界の歴史で、あのようなゴーレムに変形する飛行兵器など作れっこないのに、なぜあれが『始祖の箱舟』と呼ばれ、アルビオン王家によって守られてきたのか…実に謎だらけだった。ウェールズはこのことを知っていたのだろうか?
怪獣たち、『サドラ』『ノスフェル』『ケルビム』『シルバーブルーメ』の遺体の解剖については、巨体であるがゆえにかなりの手間がかかっていた。これまでアカデミーは、動物の死体の解剖も行っていたようだが、怪獣についてはディノゾールだけでも手一杯だ。アカデミーの研究員たちは総動員で大忙しなことだろう。
報告書については他にもある。ホーク3号…タルブ村の住人から竜の羽衣と呼称されている飛行兵器のことや、ダークフィールド内で突如発生した白い光についてのものだった。ホーク3号はマジックアイテムではなく未知の飛行機械。それを操っていたのは、ラ・ヴァリエール嬢の使い魔と。アンリエッタは、ホーク3号については目を通しただけで納得を示した。操っている人物が、オスマンでさえ一目置くほどの人物だったからだ。だが、白い光については驚きを見せていた。
(あの時の白い光…あなたなの?ルイズ…)
確かめねば。アンリエッタは一話の白い鳥を指笛で呼ぶと、上等な紙に文を記す。それを鳥の足に掴ませ、その鳥を空へ飛ばした。


あれから…。
ホーク3号はコルベールのおかげで魔法学院直轄のマジックアイテムとして、学院の中庭の傍らに保管されることとなった。20メイル近くもあったものの、庭の敷地が広かったおかげですっぽり入ることができた。
ハルナのことについてだが、学院に連れて行く途中で仲間たちが一通り自己紹介を済ませた。コルベールの口添えで学院長室へとサイト・ルイズ・ハルナが呼び出され、コルベールとオスマンの二人と、ハルナへの処遇について相談しているところだった。
他の面々はというと、いつも通り授業に戻るようコルベールに言われ、今は授業に参加している。タバサは特に文句を言わなかったが、キュルケは詰まらなそうに、そしてギーシュはモンモランシーからずっと連絡さえも横さなかったギーシュに怒りをぶつけたり、なんだかんだで心配したんだから!と泣きわめいたりして、宥めるのに苦労したとか。
「は、初めまして、高凪春奈といいます」
自己紹介を促され、ハルナは頭を下げながら、オスマンに自分の名前を明かした。
「タカナギハルナ…ミス・ハルナでいいかの?」
「い、いえ。そんな身分じゃありませんから、ハルナで結構です」
「ふむ、ではそう呼ばせてもらおう。ミス・ヴァリエール達から言われた通り、ハルナ君は別の世界…地球から来たのじゃな?」
「え?地球を…ご存じなのですか!?驚きました。地球をご存知の方がいたなんて…」
「サイト君もそうじゃが、少しばかり縁があっての」
てっきりサイトから聞いたのだと思っていたが、それ以前から地球の存在自体を知っていたことを聞き、ハルナは驚いた。
「彼女は俺のクラスメイトなんです。俺のクラスで学級委員長を務めていました。それで知り合っていましたので、この学院に一時の間だけでも住まわせてほしいんです」
個人的にも、ウルトラマンとして未知なる脅威から突如この世界に迷い込んだ彼女を守るためにも、サイトは何としても彼女を目の届く場所に置いておきたかった。オスマンに何とか許可を下ろしてもらおうと、土下座までもした。
「学院には規則があります。それを守ってこそ規則となりえんことなのは私も理解しているつもりです。ただ、そもそも異世界の物や人が来るきっかけが、自然現象なのか人為的なものなのかはっきりしていない以上、私もサイト君の言うとおりしばらく住まわせるのがよろしいかと、私は考えます」
コルベールも一教師として、学院とは無関係な彼女を置いておくことは無理があるとは考えているものの、かといって今のハルナをそのままにしておくこともよくないと考え、ここは規則をまげて保護することを提案する。
「サイト君。なにもそのように頭を下げなくともよい。顔を上げなさい」
オスマンは穏やかな表情でサイトに言う。
「ふむ、サイト君の場合はミス・ヴァリエールの召喚魔法のよるものなのはわかる。では、君も使い魔として召喚されたというのかね?」
「使い魔…ですか。いえ、私は違う…と思います」
漠然としていたが、ハルナはなんとなく違う気がしていた。あの黒い雲には、なんというか、言葉では表せないほどの何かを感じ取っていたからだろうか。続けてコルベールが説明を入れる。
「ミス・タバサによると、彼女の体の契約を調べた際、他に怪我がないか彼女の体を調べましたが、契約のルーンは刻まれていなかったそうです」
「契約のルーンがない?つまり、君がこの世界に来たのは偶然ということになるのかの?しかし実に不思議じゃ。いったい何がそなたたちをこの世界に導いておるのじゃろうか」
サイトのケースとも違い、突如現れた異世界の少女。しかもサイトとはすでに顔見知りだったという事実。偶然にしては出来過ぎている。が、オスマンの場合、かつてMACの隊員と遭遇した経験もあるため、この話に強い信憑性を覚えた。
その後、ハルナにこの世界の情勢・状況についての説明を入れた。
この世界が世界史でいう中世ヨーロッパに近いもので、四系統の魔法が存在し、魔法使いはメイジと呼称され、その大半が貴族として各国の上層部に君臨していること。最近になってこの世界でも、地球と同様に怪獣や星人が出現し、それを地球(M78世界の)でも未確認だったウルトラマンが現れ撃退したということなど、ハルナに説明した。
ただ、ハルナは一つ激しく動揺したことがあった。それは使い魔との契約の儀式、コントラクトサーヴァントについてだ。
その際召喚した主と使い魔は契約の口づけを交わし、契約の証であるルーンをその身に刻むと説明があった。つまり…。
「え、ええええええええ!!!?ひ、平賀君とルイズさんがき、き……キスぅ…!!?」
サイトとルイズがキスをしたと聞いて、ハルナは驚愕する。
「あ、や…あれはその…」
思い起こせば突如見知らぬ場所に召喚され、見知らぬ美少女にキスをされた…女性とは縁のない男なら一度は夢見るシチュエーションを体感したことを思い出し、サイトは気まずくなった。それは無論、ルイズも同様だった。
「い、いいい言っておくけど、あのキスは契約のために仕方なくしたことなんだから!だからノーカウントよ!ノーカウント!」
顔を真っ赤にして隊がないことを主張するが、ここまで頑なに言われると、サイトは逆に落ち込みたくなった。
「ほ、本当に他意はなかったんだよね、平賀君…?」
「へ?あ、あああ!!もちろんだって!いきなり唇奪われたもんだから他意も本意もないって!」
「奪ったって何よ!だだ、誰があんたみたいな平民と好きでキスしてやるもんですか!」
が、ルイズを無視して必死にサイトに詰め寄るハルナに鬼気迫るものを覚え、サイトは必死に首を上下に振って肯定した。ルイズはサイトの言い方に不満を覚えて抗議を入れる。どちらとも、ちょっとはうれしかったり…なんて思ったが。
「はい、静粛に!!ミス・ヴァリエール、淑女たる者がそのように騒ぐものではありませんよ?」
これ以上ヒートアップすると、ルイズの癇癪でこの学院長室まで荒れてしまうことを懸念し、コルベールは皆に静かにするように言うと、渋々ながらもルイズたちは静かにした。
「では、ハルナ君の身柄については学院内で検討します。あまり勝手な行動は控えるように」
「私のせいでご迷惑をおかけして、申し訳ありません」
「そう怖がることはない。安心せい。ほっほっほ」
頭を下げるハルナに、オスマンは一般家庭に存在する祖父のように穏やかな口調で言った。
「こちら側から連絡を入れるまで、ミス・ヴァリエール。そなたの預かりとしよう」
「わ、私ですか!?」
自分が預かることとなったことに、ルイズは目を丸くする。なぜだ?平民用の空部屋があるはずなのに。その理由は、次のオスマンの説明で判明した。
「実をいうと平民用の空き部屋が余っておらんかったのでな。
本来なら、平民と貴族、男女別と分けた方がいいかもしれない。だが、ハルナ君はまだこの世界に来て日が浅い。傍に知り合いのサイト君がいてあげるのがよかろう」
「あ、ありがとうございます!」
「よかったな!」
「うん!」
サイトと共にいられる、異世界に取り残された身としてこれほど嬉しいことはなかったハルナは歓喜した。
「…わかりました」
少々不本意だが、学院長命令ならば仕方ない。本当は部屋に他人を入れたくなかったのだが、渋々ながらもルイズはハルナの自室への入居を受け入れた。



その頃…アルビオン、ロンディニウムの宮殿。
「本当によろしかったのですか、ご主人様?トリステインの虚無、そしてアルビオンの虚無…どちらも目星は着いております。ご命令とあらばすぐにでも手を打って拘束することができるのですが」
夜の空気と闇が立ち込め、わずかに窓ガラスなどから月の光が差し込む玉座の間にて、シェフィールドは目を閉じて、自分の主と連絡を取り合っていた。
『まだ捕まえなくともよい。急かさなくとも、いずれ我が元に参じることとなろう。どんな形であろうともな。それまで、かの者たちの力量を、お前の眼を通して楽しんでいたいのだ』
余裕なのか、それとも楽観的なのか、彼女の主は淡々と話す。一方で、シェフィールドはこれから先のことに警戒を示している。
「しかし、お戯れも過ぎれば、奴らをあおることになりかねません。そうなってしまったら、ご主人様の御身に万が一のことがあるやも…」
『万が一のことがあろうとも、俺はかまわんよ。寧ろ願ったりかなったりだ。…が、お前のその気持ち、きっとわが心が潤っておれば、きっとうれしいと思うであろう』
「ご主人様…」
自分の危険を、まるでゲーム中で発生するイベントの一つにしか捉えてないようであった。
それと同じように、シェフィールドの主は一つの気まぐれな提案を出す。
『そうだ、ならいっそ本気で虚無をとらえるつもりでちょっかいを出してみてはどうだ?』
「ちょっかい…ですか?」
『そうだ。すでにお前のもとには、面白い力を持つ者たちがおるではないか。「冥王」の力を持つ者たちが』
「冥王…?」
『彼らをまねて、われらも一つ試してみてはどうだ?先の戦いの取得してきたのだろう。特に…最近現れた「ウルトラマン」達の情報を』
「まだ、不足しがちです。ジャンボットから取得した情報の量ではまだ…」
『ならば彼らを使い、我らは静観しつつ情報を取得しておけばいい。そうすれば、きっと面白いものを作り上げることができるだろう。何せ…お前がいるのだからな』
「ジョセフ様が、この私めを買っていてくださっていたとは…身に余る光栄にございます」
硬骨な笑みを浮かべ、頬を染めながらシェフィールドは笑った。
すると、シェフィールドのいる玉座の間に、二人組の黒いマントに顔から身全体を包んだ女性と、長身で屈強な体の男が訪れた。二人の来訪に気付き、シェフィールドは早速二人のもとに歩み寄る。
「さて、ミス。あなたの自慢の『人形』は役に立ってくれますか?」
「…ご心配なく」
シェフィールドに声をかけられた女性は自信ありげに、フードの下で笑った。
「既にねずみを潜り込ませました。私も計画のため、直接トリステインに潜入致します」
「期待してますよ。では…あなたはどうするつもりかしら?」
今度は、屈強な大男の方を向く。フードの下に隠れた白髪と顔のしわは推定40歳頃に見せたが、鍛えられた筋肉質な体がそれを感じさせた。ベテランの剣士のような風貌だが、彼は剣を持っていない。鉄製の杖を持っていることからメイジのようだ。
「俺は好きにさせてもらう。チェルノボーグの任務は退屈だったしな」
「ああ、あの時ですか。怪獣を育てるための生贄として、あなたとワルド子爵に囚人を集めさせたんでしたね」
以前、チェルノボーグから脱獄者が現れたと気のことを覚えているだろうか。この男が囚人の脱獄を手引きした犯人の一人だったようだ。しかも、ワルド自身もそれに加担していたらしい。恐らく仮面の男がワルドだったのだ。だが、話の内容からして、脱獄させてもらった囚人たちは、結局捨て駒として利用され、殺されてしまったようだ。所詮罪人だから殺したところで大して困らないとでも考えていたのだろうか。
「好きにするとは言いますが、いったい何をする気で?」
「…ふ、俺の噂を聞くなら容易に思いつくのではないか?」
シェフィールドの問いに対して、男はにやっと、見るものを凍りつかせる笑みを浮かべる。この男は普通じゃなかった。人殺しを心の底から楽しんでいる。
「…ミス・シェフィールド。私がレコンキスタに身を置く条件として突きつけた例の件、お忘れなきよう」
女性が何やら気になることを言うと、「ええ」とシェフィールドは不敵な笑みを見せて頷いた。



ハルナの滞在を特別に許可されたその夜から、ルイズの部屋にハルナが新たな入居者として留まることになった。ルイズとサイトが同じ部屋を共有しているということについて、ハルナはサイトにルイズに変なことをしていないか疑ってきた。もちろん断固否定したが。
その後、サイトが藁で寝かせているという事実を聞いてハルナが使い魔だからって待遇が酷いとルイズを非難した。ハルナの態度に気圧されかけながらも、そろそろサイトへの待遇も、日ごろの感謝も込めて改善しようと考えていた(それを元来の性格ゆえに素直に表せなかったが)ため、サイトもベッドに寝かせることにした。
ただ、ルイズもハルナも互いを、サイトを狙うただの女として警戒していた。ルイズのベッドは結構なサイズなので、三人までならぎりぎりながらも入りきれるので、サイズについての問題はない。問題なのは、寝るポジション。当初はサイトが左端か右端か意見が分かれたが、サイトが真ん中でルイズとハルナが両サイドを占めることでほとぼりが収まった。
就寝時間の直前の頃だった。サイトは厨房にて、何やら妙にとげとげしさを感じるシエスタに賄いをいただいて腹を膨れさせた。なぜかこの日の料理は、辛かったので、何杯水を飲んだのかわからないくらい飲んで腹を壊しかけた。
『うふ…ぅ…』
『おいおい、大丈夫かサイト?まるで腹に岩を詰め過ぎたレッドキングみてーなフラつきっぷりだぜ』
どんなたとえだよ…とサイトは、気を遣ってきたゼロに突っ込みを入れたくなる。
ふと、サイトは広場の方に人影を見かけた。夜風に、長くてきれいな黒髪が靡いている。間違いない、ハルナだ。一体こんな時間に一人で中庭に出て何をしているのだろうか。
「高凪さん?」
「…あ、平賀君」
駆け寄って声をかけると、彼女はサイトの方を振り向いた。すぐに頭上を見上げると、彼女はサイトの名前を呼ぶ。
「ねえ、平賀君。私が何をしてたかわかる?」
「それは…」
彼女の、さっきの視線の先に見えたもの…そして、彼女の状況とかつての自分の状況を照らし合わせて、サイトは言い当ててみた。
「夜空を見てたんだろ?」
「すごい、なんで平賀君わかったの?」
「俺も、この世界に来たばかりの頃もそうだったから」
どうやら当たったようだ。サイトもルイズの部屋から、二つの赤と青の月を見上げていたことがよくあった。地球ではない、異なる世界に来てしまったのだと。
「ずっと科学の凝った日常にいたから、いきなりファンタジーな世界に来て不安になって…平賀君が持ってた喋る剣とか、キュルケさんたちがためしに見せてくれた魔法とか…それに、この赤と青の月…。あの二つの月を見て、それを知った時思ったの。ああ、本当にここは地球じゃないんだ。別の世界なんだって」
そういえば、学院に戻るまでの間キュルケたちが魔法をみせてあげたり、話しかけてきたデルフを見てびっくりしてたっけ、とサイトは思う。剣が意思を持って喋るなんて確かに、地球じゃありえない話だしな…。
「俺も、ここに来たばかりの時、同じことを思ったよ」
「そうなんだ…」
どこまでも同じことを考えていたことに、思わずサイトとハルナは互いに笑いあった。笑いが収まると、ハルナはサイトに近づいて彼の手を握った。急に手を握られて、サイトはドキッとしてしまう。思い起こせば、地球にいた時からそうだった。彼女は自分をこうやって惑わせてしまう。時折、いつも怒ってばかりなのに優しいところやかわいいところを見せてこちらをドキドキさせるルイズのように。
「た、高凪さん…!?」
「…平賀君。あなたがいなくなってから、私…本当に寂しかった」
伏し目がちに、ハルナは押し殺すように言った。
「学校に行ってもいつもの席に平賀君がいなくて、きっと明日なら来てくれるんだって思ってもやっぱりいなくて…平賀君のお母さんに聞いても、わからないって…本当に不安で…ひょっとしたら、あの時死んじゃったんじゃないかって、考えたくもなかったのに……」
気が付くと、彼女は身を震わせ泣いていた。サイトは、彼女を急に取り残してしまったことに罪悪感を覚える。地球にいる母さんや同級生たちもこんなふうに、自分のことを心配していたのだろうか。そう思うと、どうしても地球に帰りたくなってしまう。
でも、サイトは思う。今の自分は、ウルトラマンゼロでもある。宇宙の平和のために、この世界に潜む宇宙の悪を倒さなくてはならない。レオからも指摘・説教され、こうしてこの大地にいる。
「高凪さん、大丈夫だって。俺はここにいるから」
抱きしめまではせず、彼女の頭に手を乗せてそっと撫で上げた。しばらくハルナは泣き続けていた。サイトが失踪してから抱え続けた不安と、彼が生きていたことへの歓喜が一気に破裂し、涙を抑えきれなくなっていた。
「ご、ごめんなさい…みっともないところ見せちゃったな」
真っ赤になった眼をこすりながら、照れくさそうにハルナは笑った。
「いいんだよ。女の子が泣いちゃったら受け止めるのが男ってもんだと思う」
今俺いいこと言ったぜ!と内心で得意げになる
「じゃあそろそろもどろっか、高凪さん」
「平賀君」
歩き出したサイトを、ハルナが呼び止めた。
「私のことは…ハルナでいいよ?」
「え?い、いいの?」
「うん」
「あ、ああ…ハルナね」
少し照れくさげに、下の名前で呼んでほしいと言ってきたハルナに、サイトはまた胸が一瞬高鳴る。
「あ~ら…随分と仲良しじゃないの…?」
突如聞こえてきたドスの利いた声に思わずびくっとなる。今の声はハルナのものじゃない。振り返ると、そこには頭にきてお冠状態のルイズがサイトとハルナの後ろで、両手に腰を当てていかにも不機嫌そうに立っていた。
「る、ルイズ!?」
「まだ戻ってこないから探しに来てみれば…ご主人様に内緒であ、あああ逢引だなんていい度胸じゃない…?」
「逢引!?」
単に偶然、この場に居合わせただけじゃないか。相変わらず思い込みが激しいというかなんというか…。
「ここにハルナがいたから、話してただけじゃないか!」
「ふ~ん、何を話してたっていうのかしらね?私の知らない間に、ハルナを名前で呼んであげたみたいだしねえ…」
今にも爆発しそうな形相で睨んでくるルイズ。シエスタといい、ルイズといい、なんでこんなに不機嫌なのかサイトには理解できない。
「あ、そうだルイズさん。せっかくだから女の子同士で話しませんか?」
すると、サイトに助け舟を出すかのように、ハルナがルイズに話を持ちかけてきた。
「話?」
「ええ」
一体何をルイズに話そうと考えているのだろうか?気になったサイトだが、ハルナが彼に言ってきた。
「平賀君に聞かれると、ちょっと困るかな?だから、先にルイズさんの部屋に戻ってて。そんなに時間かける気はないから」
「あ、うん。じゃあ俺、先に戻ってる」
地球にいた頃、偶然女子の会話を耳にした時のことを思い出す。聞いていたことが知られると、同じ教室内だから聞きたくなくても聞こえてしまうのに、聞き耳立てるなだのキモイだのと一方的に罵倒してきたものだ。聞かれたくないなら聞こえないとこで話せよ、ブスのくせに生意気な!なんて小学生じみた言いかえしをしたくなったものだ。まあ、冷静に考えると、聞いていた自分も悪いのだが。
内容はわからないが、ハルナもきっとサイトには聞かれたくないことをルイズに話すつもりなのだろう。先に戻ることにした。
サイトが校舎の方に姿を消したのを契機に、ルイズが問いだす。
「話って何よ?」
「平賀君のことで、お話があります」
まっすぐルイズを見据えながら、ハルナはルイズに言った。なぜだろう、彼女の視線がやけに鋭くて、氷のように冷たかった。次にハルナがルイズに言ってきた言葉は、互いにとって相反する意味で重要性を持っていた。
「平賀君を、返してください」
「へ?」
いきなり、サイトを返せと言われたルイズは戸惑いを見せる。
「言葉通りです。平賀君を地球に返してください」
ルイズは、なるほど、と心の中で呟く。盗み聞きなんて貴族のすることじゃないなんて言言うくせに、結局好奇心に勝てないルイズは、さっきのサイトとハルナの会話もちょこっとだけ聞いていた。彼女はずっとサイトのことを待ち続けていたのだ。こうしてまた異世界出会うことができただけでも奇跡だ。でも、そんな奇跡よりも彼女が望んでいたのは、この世界に来る前までの何一つ欠けていない平凡な日常。その中でもサイトの存在は絶対に欠けたくはなかったのだ。
「そんなの、できたら最初のうちにやってるわよ…」
あの時の自分に、召喚を取り消して元の場所に送り返すことができたら、間違いなくサイトをとっとと地球に送り返していたに違いない。いや、もしほかのメイジでもそれができたら、今頃学院はドラゴンなど、ハイレベルな使い魔ばかりを手元に置いていたはず。
一応、学院長室で使い魔召喚の儀式とそれに伴う魔法の説明はされているが、召喚した使い魔を送り返す魔法も手段も存在さえしていないことに、ハルナは納得しかねる様子だった。
「勝手すぎますよ…私や平賀君のお母さんから、平賀君を奪ったくせに…」
ハルナは俯くと、ルイズの心に次々と突き刺さっていく言葉を投げつけていった。
「あなたは他人の大事なものを奪い取った。あなたに分かりますか?私達の気持ちが…大切な人を奪われた気持ちが…ルイズさんは、それをわかっているんですか!?」
「…!」
「GUYSまで動き出すほどの大問題にもなったんです!結局なんの成果もなくて捜索は中断、平賀君のお母さんだって、平賀君の無事を毎日毎日祈り続けて、ごはんも毎日二人分作って…それでも…帰って…こなくて………ずっと一人で………私だって…会いたかった…のに……」
サイトと二度と会えなくなるのではという不安と悲しみ、寂しさをこらえようとどれだけ必死になっていたことだろう。涙声になったせいで最後まで言い切ることができず、彼女はついに泣き崩れてしまった。
「…それは、できないわ」
それを言うと、ハルナはルイズをキッ!と冷たい目で睨みつけた。目元が涙で濡れきっていた。彼女はルイズへの敵意を向きだしたまま、走り去っていった。ルイズはそれを追わず、俯いた。
(サイトも、最初に私と会ったとき…あんな風に睨んできたことがあったわね…)
思えば、考えたこともなかった。まさか、ここまで自分が、サイトのことで恨みを買っていたということなど…。それは今でも彼女が、平民または使い魔が貴族の言うことを聞くことは至極当然のことだという認識が、体に常識として染みついてしまっていたことによるものかもしれない。その認識が、サイトたちにとって実際にはどれほどの怒りを買うかも考えずに…。もしかしたら、地球にいるというサイトの母も、この世界に召喚したというのが自分だと知ったら、息子を奪った憎い奴として恨んでいただろうか。
でも、それでもルイズはサイトを手放したくないという意地を捨てられなかった。
「だって…あいつは…私の使い魔だもん」
使い魔に逃げられたなんて噂が伝わったり、まして実家に伝わったら、二度と家の門をくぐらせてもらえないなんて事態にもなりかねない。実家の母や姉はそれほど厳しかったのだ。
それに、ルイズ自身はまだ認めていなくても、サイトは彼女にとっていなくてはならない存在になりつつあった。これまで、彼の存在がどんなに助けになったことだろうか。ギーシュとの決闘、フーケ事件、アルビオンへの旅路、タルブ村の戦い…それらの中でサイトの存在が何よりも大きすぎた。そんなかけがえのない存在を返せと言われても、どうして仕方ないから返してやろうなんて言えようか。ルイズにサイトを易々と手放す選択肢はなかった。 
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