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ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~

作者:???
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再会-リユニオン-part2/タルブに眠る先人

一方で、アリゲラとの戦いを制したシュウは、ウエストウッド村に向かって飛ぶストーンフリューゲルの中で傷を癒していた。ストーンフリューゲルには、ウルトラマンネクサスの変身者=適能者(デュナミスト)の傷を癒すことができるのである。だが、今回は傷を負いすぎた。
(今度のビースト…いや、いい加減怪獣と呼び方を一括しておくべきか)
シュウの世界に出現した怪獣は全て『スペースビースト』という凶悪な種のみのため、ついビーストに分類されない怪獣もビーストと呼んでしまう。
ともあれ、今回の敵はかなり苦戦を強いられた。少なくとも自分のいた世界にあそこまで空を高スピードで飛ぶビーストはいなかった。もしかしたらいずれあの怪獣のようなビーストが地球にも現れるのでは?とも考えさせられる。
今の俺は地球に留まっている身ではない。ティファニアたちには別に帰れなくてもいいみたいなことは言っていたが、故郷の世界をいざ離れると心配せざるを得ないというものだろうか。…いや、自分がいなくても地球は大丈夫だろう。自分にはもったいないくらいの頼もしい上官や先輩がいるのだから。
しかし、気になる。なぜファウストは今回戦いを挑んでこなかったのだろう。奴はこれまで二度ほど勝負を仕掛けてきた。だが、今回は怪獣を差し向けて様子見とは、一体どういう風の吹き回しなのだろう。てっきりいつも通り戯れ感覚で襲ってくるのかと思っていたが。しかもあの時、アリゲラを倒した直後に姿を見せたあの妙な機械兵器を追い払って自分を助けたようなことまでした。奴は俺のことを獲物同然に見ているからか?それに奴の言っていた『同じ匂い』とはどういう意味だ?
(…やめるか)
これ以上予想をたてたところで答えなんて見るかるとは思えない。どうせ奴はろくな事なんて考えていない。どんな狙いのつもりかは知らないが、また現れたら今度こそ倒すだけだ。
今は、傷を癒して村に戻るに限る。今回は手傷を負わされ過ぎて怪我も思いのほかひどい。ティファニアたちにはあまり見られたくはない。時間をかけすぎると彼女たちに何を言われるかわからないし不信がられるのも不本意だから早く帰らなくては。
シュウが異空間で一人考え事にふける中、ストーンフリューゲルは遥か彼方へ飛び去って行った。
その様子を、どこからか見ていた何者かがいたことをシュウは知らない。まるで獰猛な獣のような息遣いで、じっと見続けていた…。

ルイズたちと別れ、サイトはただ一人当てもなく街の中へと繰り出していた。
もう朝日は立ち上り、町中を今日も新しい一日が始まったことを知らせる。ある人を希望に、ある人を憂鬱に浸らせるその朝日だが、サイトの心の中にまで差し込むことはなかった。それは、彼と同じ体を共有するゼロもまた同様だった。
今回の旅は、はっきり言ってさんざんな結果に終わった。何もこなせず、何も守れず、寧ろ失ったものだらけな旅だった。
ラ・ロシェールでの失敗と、サイトとゼロの間に掘り込まれた亀裂、ワルドの裏切りで一気に引き起こされた王党派と炎の空賊の敗北と滅亡。さらにはルイズとの亀裂さえも起こる始末。
(俺はこれからどこへ行けばいいんだ…?)
もう何もなくて何もできない、異世界に一人取り残されたサイトは苦悩する。
ひとまずシュウを探してみようか?同じウルトラマンで、あのテファって子の使い魔である彼の協力でウエストウッド村に居ついていいか尋ねようか。それなら、何とかこの先も生きていくことくらいはできるかもしれない。テファもとてもいい子でかわいいし、子供たちもかなりやんちゃだったが悪い子たちじゃないからきっと居心地もいいだろう。フーケについては目をつむろう。あいつも好きで盗賊をやっていたわけではなさそうだし、テファがあれだけなついているほどの女性なら…。って待てよ?そのフーケは盗賊稼業で金を稼いでいたが、ああ見えて大喰らいのタバサがお代わりを許されなかったのだ。あの村の財産は無尽蔵ではなく、寧ろ生活費は圧迫されていると考えるべきだ。きっとシュウが来る以前もそれに苦しまれていただろうし、そんな中で彼を使い魔として召喚した時はもっと圧迫さることになったはずだ。そんな村に俺のようなはぐれ者を置いてくれる余裕なんてないはずだ。迷惑になるし、やめておこう…。
地球に帰ろうか?けど、どうもルイズに刻まれた使い魔のルーンが二人を繋ぎとめる鎖や杭のようにもなっているせいで二心同体の状態のまま、分離することができない。いや、理由はわからないが彼は以前、『光の国には帰れない』と言っていた。つまり、帰る場所は地球だけに絞られる。いや…まてよ…。
(地球ってどこだよ…?)
そうだ。思えばこの世界が地球からどれだけ離れているかだなんて全く分からないじゃないか。この世界に来たときはルイズの召喚のゲートに飛び込んだだけで別にこの世界の位置が分かっていたわけではない。ゼロにあえて頼んで変身し、宇宙に飛びだしたところで当てもなく宇宙をさまよう可能性大だ。そのうえ宇宙は侵略者や危険な怪獣がわんさかいるに違いない、無法地帯だ。地球の正確な位置が分からないため、のたれ死んでもおかしくない。
完全に…『ゼロ』。何もできず、どこにも行けず、何も持っていない。ある意味無能者と言う意味でゼロと呼ばれていたルイズ、本名でもあるが同時に周囲への配慮がないゼロ。この二人と同様に今のサイトもまた一つの『ゼロ』だった。
…だめだ。もう俺はこの世界でも居場所がない。
一方で、サイトと体を共有しているゼロも、気落ちしていた。ワルドの、自分のようなウルトラマンの存在を疎ましく思った発言にムキになって見返そうとしておきながら、見返すどころか街をなんともひどい有様に変えてしまった上に、自分の失敗で多くのラ・ロシェールの人たちが犠牲になってしまった。街の人たちが自分に反感を抱くのも当然だ。誰だって自分が住み慣れた街を壊されたりしたらたまったものではない。
サイトの目を通して、今もまだ壊れた箇所の修繕にあたっている街の土木作業員たちを見て、ゼロは我ながら今更にも後悔の念を強く抱いた。思えば、今自分たちがこうして立っているこの街…トリスタニアに現れたディノゾールとの戦いで、周囲から認めてもらいたがっていたゼロは焦りすぎて怪獣殲滅を優先させた。その結果、今日も未だに街の土木作業員による復興作業が続いている。もしサイトがいなかったら、あの時街に偶然にも取り残されていた子供も最悪の結末を迎えていたかもしれない。ラ・ロシェールの町人たちから疫病神扱いされ、サイトからも厄介者扱いされたゼロは自分のやったことの重大さを思い知ったのである。
これまでのゼロは見ているものを、ゼロは血も涙もないウルトラマンの風上にも置けない奴だと誤解させてもおかしくない言動や行動を取っていた。しかし、彼もまた一人の光の国の戦士。宇宙警備隊の訓練生の頃はサイトと同じように他人の命を守ることが重大だと教わっていたし、本来の彼の性格は決してこれまで自分がやってきたことを許すようなタイプじゃなかった。寧ろ怒るタチのはずなのだ。それなのに…俺ってやつは…。
「『はあ…』」
サイトがベンチに腰掛けると、ふたりは揃って深いため息を漏らした。
「サイト…さん?」
名前を呼ばれたサイトは顔を上げた。そこには、この世界に来てから何度か顔を見かけるようになった馴染み深い少女が、いつもとは異なる、茶色のスカートに、木の靴、そして草色の木綿のシャツなどの組み合わせの私服姿で立っていた。
「し…シエスタ?」

一方で、トリスタニア城。
キュルケ、タバサ、ギーシュの三人は謁見待合室にて待機してもらい、ルイズは王宮のアンリエッタの居室にて彼女に事の報告をしていた。
いざ報告したときの彼女の表情は、任務を請け負ったときの誇りある笑みとは全く異なり、ひどく気落ちしていた。
サイトがいないことも気にしたアンリエッタだが、ルイズの話で適当に街をふらつかせていると言い、旅の途中で離脱したわけではないことを知って安心したが、ルイズからの報告を聞いてその安心した表情は一気に絶望と悲しみに染まった。
途中でキュルケたちが勝手に合流してきたことや、ウェールズたちに炎の空賊団と名乗る空賊が味方についてくれていたこと。ワルドが自分との結婚式で豹変しウェールズを誘拐、任務完了の証たるウェールズからの手紙とそのウェールズへ最後に当てることになった手紙を二通とも奪われ、さらに王軍貴族たちはワルドの操る謎の空飛ぶゴーレムによって皆殺しにされ、しかも危うく自分たちも殺されかけたがかろうじて助かったことも話した。ただ、ティファニアたちのことだけは話さなかった。ハーフエルフとはいえ、彼女らは恩人、恩人を貶めるような真似はそれこそ貴族としての沽券に関わる…ということにしている。
「裏切り者を使者に選ぶなんて…私が自らの手でウェールズ様たちのお命を奪いにかかったようなものだわ…しかも、あなたたちの命さえも…」
ワルドのこれまでの功績と礼儀は、国の重役たちから一目置かれるほどでアンリエッタ本人からの信頼も厚かった。その信頼が、まさか自分の恋人であるウェールズを誘拐し、はては婚約者であるルイズをも裏切り殺そうとするなんて愚行を働いたことにひどくショックを受けた。
「私はやはり愚かな王女だわ。ウェールズ様を裏切り者に拐かせ、結局幼き日からのお友達を死地に追いやり、死なせるところでした。間違いだった…最初から…」
アンリエッタはルイズたちに今回の任務を与えたことをひどく後悔し、嘆き悲しんだ。
ルイズはやるせなくなり、無力な自分=ゼロである自分を恨んだ。
あの時、まだウェールズは勝利を諦めていなかった。グレンたち空賊団の助力なくしては最初から勝ち目のない戦いを強いられることになっていただろう。その可能性を直接潰したのは、自分たちだ。それに、ルイズは気づいていたことがあった。アンリエッタがウェールズに宛てた手紙の内容のことである。任務を与える際に双月を見上げた時の赤く染まった姫の顔で、その内容がゲルマニア皇帝との婚姻以外にもあったことに。
「姫様、やはり皇太子さまに亡命を?」
もう一つの可能性とは、ウェールズが万が一生き残る可能性だ。アンリエッタは、涙をぬぐいながら頷いた。
「わたくしは彼を愛していた。だから生きて亡命して欲しかった。結ばれずとも何かしらの形で傍にいてほしかった…」
涙を流しながら笑うアンリエッタを見て、ルイズは申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「申し訳ありません姫様……手紙を奪われ、皇太子さまを目の前で…一番の責任は私にあります。あのワルドを…見抜けなかった…」
表情を伏せたまま、ルイズは身を震わせた。
「いえ、いいのです。あなたへ与えた任務は手紙の奪還、亡命の薦めは入っておりません。それに…」
アンリエッタは首を振って答えると、目じりに涙が残る顔でルイズ達に笑顔で向き直ると、自分の前に跪いていたルイズをそっと優しく抱きとめた。
「そのような危機に陥りながらも、あなたたちが戻ってきてくれた。今の私には、それだけで十分よ…ルイズ」
「姫様…」
「ごめんなさい…ごめんなさいルイズ…」
ルイズは、今度はルイズの無事を喜ぶ意味が込められた涙を流すアンリエッタからの抱擁を受けて、より一層胸が締め付けられ、ついに涙が止まらなくなってしまった。
その後、ルイズはアンリエッタからせめてもの侘びの印として、水のルビーともう一つ、ゲルマニア皇帝との婚姻でぜひルイズに式の詔を任せるために用意した一冊の手帳のような古い白紙の書物(どうも王家にとってかなりの貴重な品らしい)を託されると、姫の居室から出て、城下の階段で待っていたキュルケ達と合流した。
「報告はもう終わらせたわ。学院に借りましょう」
他にいうことは特になく、ルイズはそう言って先頭切って歩き出した。
「姫殿下、大丈夫だろうか…」
相手が美女という動機もあるが、アンリエッタがきっと悲しんでいると気づいたギーシュはルイズに尋ねる。
「…わからないわ」
「わからないって…君とあの方は幼馴染なのだろう?」
そこまで、任務を受けたあの夜に盗み聞きしていたのか。だがルイズは睨む精神的な余裕もなかった。
「そうだけど…私今の姫様のことはわからないと思うわ」
「今の?」
城を出て、トリスタニアの街を歩きながらルイズは続けた。
「ワルドとの式の途中で思ったの。私、多分今まで本気で好きになった事が無かった。だからワルドからの求婚を拒むことができたんだけど、姫様がどんな気持ちか分からないと思うの」
「そうなのかい?」
「たぶん、ね…」
いつものような虚勢も自信もなくルイズは答えた。
「ふ~ん、本気で好きになった事がない。ねぇ…」
「なによキュルケ、文句でもある?」
「別に?ただ、どの口でそんなこと言うのかしらって思っただけよ?昔はともかく、今は…」
キュルケが済ました表情でルイズを見ながら言った。そんな彼女をジトッと睨みながらルイズは口を開くが、キュルケは素っ気無く返した。だが言っている言葉の意味を理解したルイズは顔を朱色に染めてそっぽを向く。
「な、何を言い出すのよ…!今も昔も恋なんてしてるわけじゃないんだから!」
明らかに図星だった。ルイズが憧れ程度のワルドとは違って本気で惚れた相手…もうこれまでの時間を遡っても一人しか思い当たらない。
「と、とにかく今回の任務は本来極秘のものだったんだから、ちゃんと内密にしておきなさいよね」
「安心なさい。口は固いほうだから」
ツンツンした態度をとるルイズからの言葉に、キュルケは屈託のない笑顔でルイズに言った。余裕たっぷりなキュルケの姿を見て苛立つルイズは踵を返し歩き出しだそうとしたところで運悪く足を滑らせてしまい、彼女は転びそうになった。
「きゃあ!?」
しかし、咄嗟にタバサが杖を振るうと、ルイズの体は一時的にレビテーションの魔法をかけられ宙に浮いた。
「足元に気をつけて」
「あ、ありがとう…タバサ」
床に下ろされ、照れながらもルイズはタバサに礼を言った。
「任務のこと以上にダーリンがいないからって気力が抜けちゃったんじゃないかしら?」
見るからにからかってきているのが目に見えているキュルケの言葉にルイズは顔を真っ赤にした。
「ちちち、違うわよ!あんな犬のことなんか!」
犬…もといサイトのことを思い出して、ギーシュが口を開いた。
「しかし、いいのだろうか?このままサイトをほうっておいて…」
メイジと使い魔は一心同体。彼らは魔法学院でそう学んできた。このまま離れ離れで本当にいいのだろうか?むしろこういう時こそともにいるべきじゃないのだろうか。
「別にいいんじゃない?」
キュルケは興味なさげに返してきた。
「いいんじゃないって…君は…」
「あたしとしては、ダーリンを狙うライバルが減ってくれたという点ではむしろ喜ぶところだし」
「キュルケ…!」
聞き捨てならなかったのか、ルイズはキュルケを睨んできた。しかしキュルケは全く物怖じしない。元々ルイズがどんなに睨んでいても怖気つく素振りさえ見せなかったが。
「あら、どうしたのかしらヴァリエール。またそんな怖い目で睨むなんて」
「言っておくけど、ヴァリエールがツェルプストーなんかにくれてやるものなんてなにもないんだから!」
「別にいいじゃない。ダーリンはあなたの使い魔であって恋人じゃ…あら?」
キュルケは続けようとしたが、ふと遠くのものを見て言葉を切った。
「どうしたんだい?」
ギーシュが顔を覗き込んで尋ねる。
「サイトだわ。それに、隣にはあのメイドもいるわね」
「!?」
それを聞いたとたんルイズはキュルケが見ている先と同じ方向…街の広場の噴水の前を見る。キュルケの言うとおり、噴水に腰掛けるサイトと、その隣に座っている私服姿のシエスタがいた。
「あ、あの犬…!!!」
サイトの隣にシエスタがいるという事実に、非常に不快な思いを抱くルイズ。ギギギっと歯ぎしりし、あからさまに彼女の気持ちを体現している。あまりにわかりやすいリアクション、ギーシュとキュルケはやれやれとため息を漏らした。
「それにしても、あの二人何を話しているのだろうか。まさかあんなことがあった後で愛の語らいなんてことはないな?」
「ダーリンはそこまで空気読めない人とは思えないけどね。ちょっと話を聞いてみましょうか」
キュルケはそう言うと、サイトとシエスタのいる噴水広場へと近づき、ちょうどいいところで見つけた店の物陰からふたりを観察した。
「盗み聞きだなんて貴族のすることじゃないのに…」
とか言いながら、ルイズが一番気になってるのが見え見えであった。口には出さなかったが、ギーシュとキュルケはなんだかんだでサイトのことが気になって仕方ないルイズを見て笑いをこらえていた。

自分たちが覗かれているとは知らず、サイトとシエスタは噴水の腰掛けに座って話していた。
「どうして街に?」
「それはこちらのセリフですよサイトさん!ここしばらく学院にいらっしゃらなかったじゃないですか!ミス・ヴァリエールたちもいなくなっていたとかで騒ぎになっていましたし、私はもちろん、マルトーさんたちも心配したんですよ!?」
「ご…ごめん、シエスタ。心配かけちゃって」
ずいっと詰め寄ってくるシエスタの迫力に圧倒されたこともあり、サイトは流されるままにシエスタに謝った。ふと、シエスタはサイトを見て奇妙に思った。シエスタにとってサイトとは、ずっと魔法が使える貴族をただ恐れてばかりの平民の希望・憧れの存在でもある。ドットメイジとはいえ、メイジであるギーシュを圧倒したのだから。決闘をいざ挑もうとしたときからその片鱗は、思い起こせば見えていた。なのに、今の彼からはあのときのような勇気、貴族相手にも物怖じすることのない精神を感じない。
「なんだか…元気がありませんね。学院にいない間に一体何があったんですか?」
「それは…言えないんだ。ルイズからもしっかり黙っていろって口止めされてるし、話しても楽しくないことだし」
別にルイズのためというわけではなかった。ただ、あの旅のことは知らない人にはなるべく話しておかないままの方がいいと思った。ましてや、自分のことをよく気遣ってくれたシエスタにそんなことは言えやしない。
「ところで、シエスタの方はどうして?」
とりあえず、今度はシエスタの話に移ることにした。
「休暇をもらったので一度帰省しようと思って、街に来たんです。ついでに、街で働いてる叔父さんにも挨拶に行ってきました」
「叔父さん?」
「酒場を経営しているんです。親戚の中でも、ちょっと変わった人なんですけどね…」
あはは…と苦笑いを見せるシエスタ。なんか聞いていると、あまり会いたい部類の人とは思えなくなってしまう。
「でも、帰省か…帰れる場所があるってのはいいよ」
シエスタが休暇で故郷に帰ると聞いて、サイトは羨ましげに言った。俺も地球に帰れたら…。ふと、『シエスタ』と『故郷』のキーワードにより、サイトは以前シエスタから聞いた話を思い出した。
「そういえば、前に言ってなかった?ひいお爺さんのこと。確か、遠い国から来たんだよね」
思い出すと美味しくはあるが恥ずかしくもある、シエスタとの秘密の混浴タイムを満喫したときに聞いた話のことだ。
「はい。生前に『異世界』から来たと、何度も家族に話していたそうなんです」
「その話、詳しく聞かせて!」
連日のショックで故郷に帰りたいという衝動が強まっていたサイトは是非シエスタからその話を聞かせて欲しいと願い出たが、勢い余って目と鼻の先にまで顔が近づいていた。
「さ、ささ…サイトさん!いけません!こんな街の真ん中で…!!あ、…で、でも私…サイトさんなら…」
いきなりあこがれの男が急接近してきたものだから、シエスタは激しく動揺した。ちゃっかり心のどこかで望んでいたシチュエーションに喜んでもいたが。
ちなみにこの時、サイトがそんな素振りを見せたものだから、シエスタを押し倒そうとしている、またはキスしようとしていると思い込んだルイズは鬼の形相でサイトのもとへ行こうとしたが、三人が必死になって彼女を無理やり物陰に引き止めていた。
「え…ああごめん!俺ってば何やってんだろ…」
「相棒にしちゃ、ちと張り切りすぎじゃねえの?街の真ん中で女を…」
「ち、違うって!ただ勢い余っただけで…!」
我に返って直ちにシエスタから離れたサイトは恥ずかしくなって頭を掻くと、ようやく鞘から顔を出したデルフが呆れた様子で口を開いてきた。軽く咳払いし、話を戻した。
「ん、んん!で…話の続きは?」
「私が生まれるずっと昔のことなんですけど、ある日ひいおばあちゃんがブドウ畑を見に外へ出たときのことなんです…」
シエスタは、曾祖母から聞いた話をサイトに説明していった。
彼女の曾祖母が外出したその日は日食が発生した日だった。二つの月と太陽が重なるという点以外では特に変わったことはなかったはずなのだが、日食以上に変わった出来事があった。日食によって暗くなったタルブ村の上空に、二匹の見たこともない、ものすごい唸り声を上げた竜が日食の中から現れたそうだ。片方の大きな竜は再び日食に消えたが、残った小さい方の竜がタルブ村に落下したというのだ。
「その竜に乗ってきたのが、私のひいおじいちゃんだったんですよ」
「それが、前に言ってた『竜の羽衣』ってやつ?」
「はい」
(竜の羽衣か…一体どんなものなんだ?)
日食の中から現れた二匹の見たこともない竜、そして竜の羽衣か。異世界からやってきたことを自称していたシエスタの曾祖父が乗ってきたというそれは一体どんなものだろう。サイトは非常に興味がわいた。それはゼロも同様だった。もしかしたら、本当に異世界人なのかもしれないのだから気になって仕方ない。
「シエスタ、村にはいつ行くんだ?」
「今日中には向かうつもりですけど…ひゃ!?」
そこまで言ったところで、シエスタはいきなり両手をサイトに握られた。しかもサイトはまっすぐな視線でシエスタを凝視している。
「なら、俺も連れてってくれないか!?」
しかも止めを刺すかのごとくこの一言。サイトにとって、これは故郷へ帰るための真面目で必死の頼みごとのつもりなのだが、両手を握られまっすぐな視線に当てられてこんなことを言われ、シエスタは心臓がバクバク鳴り始めた。もしシエスタの曾祖父のことを話していない流れだったら、まるでシエスタの両親に結婚の了承をもらいに行く為に村を尋ねているようにも見て取れる。分かっていても、シエスタとしてはドキドキせずにはいられない。
「それ、なかなか面白そうな話じゃない!」
「「!」」
まさに瞬足、瞬間移動したかのように、いつの間にかキュルケがふたりの目の前にズイっと迫ってきていた。
「き、キュルケ!?学院に戻ってたんじゃなかったのかよ!?」
「竜の羽衣ねえ。そんな面白そうな話を聞いて黙ってなんていられないもの」
「僕たちもいるぞ!」
続いてギーシュが、さらに本を立ち読み歩きしながらタバサが、最後にルイズが、サイトから視線を背けたままひょっこりと顔を出してきた。キュルケたちはともかく、ルイズまで顔を見せてきたことに対してサイトは意外に思った。
「…別に、追いかけてきたわけじゃないんだから」
「まだ何も言ってないだろ」
素直にサイトとシエスタが仲良さげに話していたことが気に食わなかったことを認めないルイズはサイトが特に何も尋ねてこなかったのにそう言った。
「勘違いされると困るからよ!」
「俺が何を勘違いするっていうんだ?そもそも、使い魔にするんじゃなかったって言い出しやがったお前が俺なんかに構う義理なんかないだろ」
「あ、あるわよ!あんたみたいな平民の使い魔を使役できないんじゃ実家に顔向けできないじゃない!べ、別に気にしてたわけじゃないんだからね!」
『…ぜってー気にしてるって言ってるようなもんだな…』
ちなみに、サイトの目を通してルイズの態度をじっと見ていたゼロは、ルイズの今の感情を手に取るように予測していた。
「あ~、はいはい。痴話喧嘩はあとにして」
「「誰が痴話喧嘩だ/よ!!」」
ふたりがいがみ合っているのを見かねたキュルケが両手を叩いて二人を我に変えさせ、二人はムキになって言い返す。
「タバサ、タルブ村まで全員乗せていけるかしら?」
キュルケのタバサへの言葉にサイトは耳を疑った。
「まさかみんな着いて来るのか?」
「ええ、タバサのシルフィードなら全員乗せていけると思うけど、タバサはいいかしら?」
「別にいい」
しかもタバサは合意した。さすがにこの人数ではちとシルフィードの体に負担がかかるのではないだろうか。
「大丈夫なのか?」
上空を飛び回るシルフィードを見上げながらサイトは心配すると、タバサがサイトに言ってきた。
「シルフィードなら問題ない。全員乗せていける」
こう断言したタバサなのだが、この時どこからか「ぎゅいぎゅい!」と、まるで人を酷使するなと言わんばかりの文句をたれるような鳴き声が聞こえてきたが誰も気に止めなかった。
「タバサもこう言ってるんだし、早速タルブ村へ行きましょうか!」
半ば強引にキュルケが宣言し、一行はシルフィードに乗ってタルブ村へと直行した。




タルブ村は、ラ・ロシェールのさらに向こうの草原にある、まるで外国の童話の世界に存在してるようなのどかな村だった。
「ここがタルブ村か」
青空が広大に広がり、その下にある田畑も美しく彩っている。田舎だからこその澄んだ空気を吸って、サイトは爽やかな笑みを浮かべた。飛んでいる間も彼と一言も話さないままだったルイズはサイトを見る。なんて嬉しそうな顔をしているのだろうか。こんな顔を自分の前で見せてくれたことなんてあまりなかった。なによ…ご主人様の部屋よりこんな田舎のほうがいいわけ?…なんて思っていたりしたが、すぐにそんなんじゃないんだから!となるべく考えないようにした。
シルフィードが地上に降りると、呼び出したわけでもないのに村の住人たちが出迎えてきてくれた。急に竜が飛んできたので、村の人たちが好奇心を募らせ集まっていたのだ。それを見かねた村長が、来訪者である貴族の息女たちであるルイズたちに挨拶した。
挨拶を終えると、キュルケが竜の羽衣について竜の羽衣について尋ねた。
「竜の羽衣…ですか?」
「シエスタの話によると、あの子の曾祖父がそれを使って空を飛んでいたと聞きましたけど?」
「いえ、あのガラクタはそんなすごいものではありません。インチキなんですよ」
困ったように村長が言うと、一同はシエスタを見やる。
「すみません、実は『竜の羽衣』が空を飛ぶ姿って、誰も見たことがないんです。
生前のひいおじいちゃんも村のみんなから『飛んで見せろ』って催促されたけど、『もう飛ぶことはできない』って言い訳して、本当に空を飛べるか証明できなかったんです。ただ、ひいおばあちゃんだけは信じてくれたそうですけど、ひいおじいちゃんを気遣って嘘に乗ってあげていたって思われただけだったそうです」
申し訳なさそうにシエスタは言った。
「そうなると、村から嘘つき扱いされてたんじゃない?」
「そうだね。ありえもしないことを言ってのけると、そう言われて苦労するのが自然だろう」
ルイズが尋ねギーシュが結論づけると、シエスタは首を横に振る。
「いえ、なんでもひいおじいちゃんは実家が牧場を経営していたそうなんです。その経験を活かしてこのタルブ村に牧場を開いたんですよ。ほら、あそことか」
彼女は村の遠い位置を指さすと、広々とした柵に囲まれた放牧所と家畜用の寄宿舎が見えた。
(…なんでだろう)
サイトは放牧所を見て、不思議な感覚を覚えた。初めて見るのに、根拠もないのにどこか懐かしいものを感じたのだ。
「他にもこの村の名物として有名になる『ヨシェナヴェ』をもたらしたり、村のブドウ畑の発展にも尽力して、なくなった今でもタルブ村の貢献者として名前を遺したんです」
シエスタは誇らしげに、嬉しそうに語った。確かに、これだけ村に貢献した者が祖先にいれば、後世にも自慢してやれる。今でもシエスタにとっても曾祖父は誇りなのだろう。
「ご覧になりたければ、御遠慮なくご覧になってくだされ。ただ、あまりご期待になさらないように」
村長はそう言うと、ルイズたちを好奇な目で見に来た村の人たちを解散させていった。
「じゃあシエスタ、竜の羽衣のところに案内してくれ」
「はい、こちらです」
サイトから頼まれたシエスタは、皆を竜の羽衣の保管場所へと案内した。案内されたその先の丘の上に墓が立ち並んでいた。どうやらかつての村の住人の墓地に出たようだ。
「…?」
タバサがふと、視線の先に奇妙なものを見つけた。草腹の上に置かれた墓石の中でひとつだけ奇妙な形をしたものがあったのだ。気になって彼女が先にその墓石に近づいていくと、キュルケをはじめとしたみんながその墓石の下に向かう。
「タバサ、どうしたの?何か見つけたの?」
「あ、それひいおじいちゃんのお墓なんです。すごく変わった形でしたからミス・タバサも気になったみたいですね」
「なるほど、確かに変わった形だ。てっぺんは屋根のような形をかたどっているし、まるで建物のようだ。それにしても…この墓石に刻まれてる文字はなんだ?ハルケギニア語には見えないな」
「そうね…」
皆が口々にその墓を興味深そうに眺める仲、サイトだけはどうしてか驚きのあまり言葉を失っていた。
「サイトさん?」
なにか恐ろしいものでも見たよう、とにかく驚き過ぎて言葉も出せない。
「嘘だろ…!!?」
仲間たちが読むことができなかったその墓石に刻まれた文字を、サイトは読むことができた。いや、読めて当然だった。墓の形にだって見覚えが有る。しかもただ読むことができたことだけが、彼にとって驚くべきことではなかった。


「……『元ウルトラ警備隊隊員・古橋茂(フルハシ・シゲル)・異界ニ眠ル』…」
 
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