| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~

作者:???
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

過去-パスト-part3/光の贖罪

バルタン星人が指定ポイントに選んだ場所は、かつて初代バルタン星人が初代ウルトラマンに挑み敗れた戦いの始まりの場所…『科学センター』だった。あれから40年も経ったこともあってすっかり改装されつくされていた。
すっかり夜の闇に覆われ、ここに勤務していた職員も、夜の巡回に回っていた警備員も姿を見せていない。
ミライはこの施設の入り口前にたどり着き、施設の建物に向かって大声で叫んだ。
「バルタン、約束通り来てやったぞ!サイト君を返せ!」
しかし、返ってきたのは静寂だけだった。誰もいないのか?それとも、隠れているのか?目を光らせながら周囲を見渡すミライ。すると、施設の屋上から見覚えのある人影が見つかった。すぐに追って行こうと、ミライは施設の扉のドアノブに手をかける。扉は、冷静に考えれば鍵がかかっていてもおかしくないと言うのにすんなりと開かれた。ミライにはその理由が理解できた。奴らは僕を誘っている。科学センターの扉をくぐり、トライガーショットを手に、施設の中へ足を踏み入れた。
その目に飛び込んだのは、まるで自分が、何者かの意思によって止められた時の中を歩いているようなものだった。すでに消灯時間も過ぎつつあるほどの真夜中だと言うのに、たくさんの職員や警備員たちが駆け出しの姿勢のままだったり、銃を構えて恐怖に満ちた顔のままその場に、彫刻のように硬直している姿だった。
「…兄さんが言っていた通りだ。バルタンの力で動きを封じられている」
サイトももしかしたらこの中のどこかにいるのではと考えたミライは周囲を探し回り、一人一人バルタン星人によって時を止められた人たちを見て回ったが、その中にサイトの姿は見当たらなかった…と思った矢先、ちょうど階段に差し掛かったミライの後ろを、人影が通り過ぎた。気配でそれを察知したミライはすぐに気配を追っていく。
たどり着いた先は、科学センターの屋上だった。屋上から見える景色には、星空のように都市の街灯が輝いている。一通り周囲を見渡しても、やはりサイトの姿は見当たらなかった。しかし、もう一度見渡してみると、探し求めていた人物の人影をついに発見した。
「サイト君!」
行方が分からなくなったサイトだった。しかし、様子がおかしい。ミライの言葉が聞こえていないのか、さっきからふらふらと歩いている。そして、うわごとのように何かをブツブツ呟いていた。
「…母さん……え?…何でも買っていいって…?…じゃあ、欲しかった新しいゲームでも買おうかな…はは…」
(僕の存在に気づいてすらいないのか?もしや、彼は…)
やはりバルタンの超能力で幻覚を見せられているのか。
『約束通り来てくれたようだな。ヒビノミライ。いや…ウルトラマンメビウス』
「!」
声につられて振り向いたミライの目の前に、バルタン星人が現れる。
「一体、お前たちの望みはなんだ!?なぜ彼を利用する!?」
『その前に一つ尋ねよう。メビウス、なぜお前はこの地球人の少年を助けようとする?』
「なに?」
『この少年はウルトラマンを…ツルギを憎んでいる。幼き日からウルトラマンに憧れ、いつかは自分もウルトラマンになりたい、地球防衛軍の一員としてウルトラマンと共にこの星を守りたいと願い続けてきた。だが、その夢をお前たち自身が壊したのだ。たった一発の…お前たちの得意な光線技によってな』
「…!」
以前、サイトと会った時に話を聞いていたミライはぐっと息を詰まらせる。現在のウルトラマンヒカリ…ツルギがボガールを倒すために放った光線が、結果として今の状況を作り上げてしまった。思えば、あの時自分がツルギの単調すぎる光線を見越し、身を挺してでも防いでいれば、こんなことにはならなかったのではないだろうかと思ってしまう。
『今、この少年は私の能力で幻惑を見せられている。死んだはずの家族と幸せのみで構成された世界にな。お前たちの不始末を我々が解消したということになるな』
バルタンはそう言ってサイトの方を振り向く。
「見ろよ父さん。俺…GUYS入隊試験に合格したんだ…これなら、どんな悪い侵略者が…来ても…俺が皆を…守ってやれるんだ…」
ふらふらと歩きながらサイトは、家族と暮らしている幻影の世界の中で、父と会話していた。
「何を言うんだ!サイト君の悲しみは虚像なんかで癒せるものじゃない!こんな幸せはまやかしだ!」
ミライはバルタンの言葉を真っ向から否定した。彼自身にもできれば変えたい過去はある。自分の人間体のモデルとなった青年、バン・ヒロトをウルトラゾーンから救えなかったことだ。だが、その辛い出来事が今の自分…ヒビノ・ミライとしての自分を作り上げた。過去を否定することはミライ=メビウスにとって自分の存在を否定することと等しかった。
『メビウス、もし貴様が憎き敵…たとえば、ヤプールから命を救われたらどう思うのだ?感謝するのか?それとも、敵に情けを掛けられた屈辱を味わうのか?』
ヤプールに、命を救われる?考えたことはなかった。ましてや、奴の特性上ウルトラ戦士と最も禍根が深いあの凶悪な侵略者が自分たちを救ってくれるとは到底考え難い。それに、信用しろと言われてもすぐに信じることなんて無理な話だ。奴はこれまで何度も下劣な手段を用いて地球を侵略しようとしてきたのだ。命を救われても、それも奴の策謀の一端にすぎないと考えてしまう。
『この少年もきっと今の貴様と同じことを考えるだろう。彼は仇であるツルギとは同族のお前たちからの救いを望んではいない。いや…彼だけではない。別に地球を救うのは何もお前たちウルトラ戦士である必要などないだろう』
「何が言いたいんだ?」
『貴様たちに、この星から手を引けと言うのだ。我々は、この星をもらう。その見返りに…現在の地球人と我らバルタンの民の共存、そして我らバルタンが地球人を守ると約束する』
「何!?」
自分たちウルトラマンが地球を去り、バルタンたちが地球をもらう見返りに、地球人をこれからは彼らが守っていく?
『我々の力で、地球人には彼と同じように幸せのみの幻覚を見せよう。そうすれば地球人は怪獣と侵略者の脅威におびえることもなくなり、自分自身が最も望む幸福を手に入れることができるのだ』
「そんなのは…違う!本当の幸せじゃない!それに、それは結局地球をお前たちの勝手で支配しようとしていることと変わらないじゃないか!」
こいつの言っていることはでたらめだ。サイトのあの様子、確かに幸せなのかもしれないが、所詮まやかしであることに変わりはない。幻想に縋って満足したところで、それは人間として大事なものを自ら捨ててしまうことと同義だ。ミライは再びバルタンの言葉を否定し、トライガーショットの銃口を向けた。
『我らの要求を拒むと言うのか?メビウス。どうも自分の立場が分かっていないようだな』
バルタンは銃口を向けられてなお余裕の態度を崩さなかった。両手のハサミを前に突き出すと、両手からキリキリと音が響く。その音はミライにはなんともなかったのだが、効果が及んだのはサイトだった。彼はミライに近づくと、トライガーショットを掴み、何と自らの喉に銃口を当てたではないか。
「サイト君!?」
『メビウス、確かにお前の考えている通り、我々は再び地球を手にするため、そして地球人とウルトラマンへ今度こそ復讐を果たすためにやってきた。だが、何も地球人を絶滅させようとは全く考えていない。寧ろ、滅ぼしてしまってはかえって我らバルタンにとっても損失となる。
奴らは、大事な家畜とするために生かしておかねばな』
「バルタン星人…!!」
守ってきた人間たちを家畜扱いされ、ミライは露骨に嫌悪感を露わにする。じっと集中して睨み付けるミライの隙を突いて、サイトはミライからトライガーショットを奪った。
『近づかない方が身のためだ。お前自身かこの少年の脳天か…どちらかが貫かれることになるぞ』
バルタンがそう告げたときのサイトは、驚くべき行動に出ていた。自ら銃口をこめかみに押し当てていたのだ。
「止めるんだサイト君!!」
ミライは呼びかけてサイトの目を覚まさせようとしたのだが、虚ろな目で未来を見つめたままサイトは、ミライに向けてトライガーショットを発射する。弾丸は、まっすぐ未来の胸元の中央…ちょうどウルトラマンたちのカラータイマーと同じ部位に向かって直進した。ミライの胸が貫かれようとしたその時だった。トライガーショットの弾丸はミライに直撃する寸前で切り落とされた。
『ぬ!?貴様は…!』
「ひ…ヒカリ!!」
サイトとミライの間に、武骨な風貌を持つ男が金色の短剣を持って立っていた。ツルギ…いや、ウルトラマンヒカリと肉体と魂を一体化した男…元GUYS・JAPAN前隊長『セリザワ・カズヤ』だ。彼だけじゃない。サイトを探していたアンヌも彼と共についてきていた。
「やはりバルタン星人が…済まないメビウス。調査中で宇宙に飛んでいたのだが、地球に迫ってきていた奴をみすみす取り逃がしてしまい、君に苦労を掛けてしまった」
背後に立つミライに、セリザワは一言謝罪を入れた。
サイトは、バルタンに操られた状態のまま虚ろな眼差しでセリザワを見る。自我を保っていなかった状態ではあったが、初めて会った気がしなかった。見ていると、なるべく心の奥に閉じ込めていた黒い感情が沸き立って行った。
『少年よ。その男はお前の両親の仇…ツルギだ。遠慮せずに撃つのだ』
「……ツ……ル……ギ……!!!」
バルタンからテレパシーで教えられたサイトの目つきが、瞬間的に変わった。鋭く、鬼気迫る形相でセリザワ…かつてのツルギに向けて引き金を引いた。セリザワはとっさにその弾丸をも弾き飛ばした。
『メビウス、ヒカリ。攻撃せずに大人しく地球から去った方が身のためだぞ?私に直接手を下そうとしても無駄だ。ほんの一瞬、私がほんのちょいと合図を送れば、この少年は…』
だが、攻勢に転じることはできなかった。彼はバルタンに命を握られているのだ。まだ助けることができる命を、見捨てることなどできない。ましてや…ここに来るまでの間にアンヌからサイトのことを聞いていたセリザワ=ウルトラマンヒカリにとってもこの少年を見捨てることなど選択肢に入れることは許されない。
(なんとしても、この少年を助け出さなくては…ここで助け出せなかったら、俺はまた新たな罪を背負って行くことになる…)
自分の方に銃を向けてくるサイトを見ながら、剣を構えるセリザワ。ババルウ星人の時に続き、こうしてまた自分が過去に犯した過ちのツケが回ってくる。覚悟はしていたが、いざ直面すると心苦しいものだ。
「サイト!」
しかし、ここでアンヌが大胆な選択に踏み切った。
「やめなさい!そんな悪い宇宙人の言いなりになってはだめよ!」
自らミライとセリザワの二人とサイトとバルタンたちの間に割りこみ、正面からサイトの前に立ちふさがったのだ。
「アンヌさん、危ない!」
ミライはアンヌに向かって叫ぶが、彼女は逃げる素振りを見せなかった。サイトは、邪魔をするなと言わんばかりにトライガーショットを向けた。
「サイト、お母さんの言うことが聞けないの!?」
怒声を浴びせるアンヌに、あざ笑うようにバルタンが言った。
『…ふん、馬鹿め。私の術はそんなちっぽけな一言で解除できん。ましてや、その少年は貴様を母とは認めてはいないのはもうわかっている。所詮形だけの血の繋がりのない親子の絆など、同胞たちのためにウルトラマンたちに戦いを挑んだ我が先人たちの無念に比べればごみも同然よ』
しかし、アンヌは決してバルタンの言葉に屈しなかった。
「血の繋がりがどうとかだなんて関係ないわ!この子は私の子供なのよ!」
その場にいた誰もが奇妙に思った。一番なんの力もないはずの彼女が、この場で最も強い気迫を解き放っていた。あのバルタンでさえ、たった今言ったアンヌの言葉とその気迫に押され、わずかにもたじろいだようなしぐさを見せた。
「さあ、こちらへ…いらっしゃい…!」
アンヌは両手を広げ、一歩一歩サイトに近づいて行った。
『何をしている。さあ、撃て!似非の母など撃ってしまえ!』
バルタンに促されるまま、サイトは無言のままアンヌに向けてトライガーショットの引き金を引いた。
「サイト君!!やめろ!」
ミライが再び叫んだ。
「今のセリザワさん…ヒカリを慕う人がいるんだ!君の手で撃たれたと聞けば、きっとその人は君に対して憎悪を抱くに違いない!復讐をしたところで君の痛みは癒されるわけないし、それどころか君は他人からの憎しみをずっと抱えて生きることになる!それはきっととてつもない苦痛なんだ!君は復讐のためなら、こうして君の身を案じる人を撃ってもいいのか!?」
「…!!」
視界に見えた、両手を広げるアンヌの姿を見て、サイトのトライガーショットを握る手が…引き金に触れかけている指先が震えた。
『無駄だ…撃て!』



バン!!!



甲高い銃声が天に轟いた。アンヌは、撃たれて……



「………!」

「!」

『な、…なに…!?』

いなかった。彼女の足元に小さな穴が開き、そこからプスプスと小さな煙が立ち上っていた。トライガーショットの弾丸が、アンヌを貫くことなく彼女の足元の地面を貫いただけだった。
(外したのか。バルタンの洗脳に抵抗しているのか…?)
セリザワとミライ、バルタンが驚いた眼でサイトを見る。彼のトライガーショットを握る手が、プルプルと震えていた。アンヌは立ち上がり、再び両手を広げてサイトに呼びかけた。
「サイト!目を覚ましなさい!あなたのお父さんとお母さんがあなたのそんな姿を望んではいないのは、あなた自身がよくわかっているはずよ!」
『なぜ外した!早くメビウスたちをその女もろとも撃て!お前の両親を奪ったツルギとそれに肩入れするメビウスに復讐するのだ!!』
ついさっきのサイトの誤射についてバルタンは不満そうに大声を喚き散らした。しかし、一方でサイトは…。
「ウゥ…ウグァ…!」
表情が苦痛と苦悩によって歪み始めていた。撃てと促してくるバルタンの言葉を、頑なに拒絶しているかのように、首を嫌々と横に振り続けている、
「サイト、ご両親を失って一人ぼっちになって…ずっとつらかったのよね。でも、あなたは一人じゃないわ。これからは私があなたのお母さんなのだから。一人で突っ走り続けて、ただ憎しみを募らせ、血を吐きながら続けるだけの悲しいマラソンをすることはないの」
言葉を紡ぎながら、一歩ずつ近づいて行く。その時には、すでにアンヌはサイトのすぐ目の前の場所にまで歩み寄っていた。
『ええい!何をしている!!その女もろともそいつらを撃ち殺してしまえ!』
バルタンはいい加減に言うことを聞けとサイトに命じる。

だが、次の瞬間銃声が鳴り響いた。

『が……!?』
バルタンの方へ振り返ったサイトが、アンヌたちではなく、バルタンを撃ったのだ。サイトが、星人の洗脳に見事打ち勝ったのである。
アンヌはそっと、銃を握るサイトの手に優しく触れ、もういいんだと降ろさせた。


「…母…さん……」


少年とは思えないか細い、涙声でサイトは泣きながらトライガーショットを落とした。そのままアンヌに抱きしめられたまま、サイトは泣き続けた。失い、ずっと求め続けていたもの…それは復讐などではない。なんてことのない、平凡な『温もり』だった。
(…セブン兄さんは、こんなにまで素敵な女性と惹かれあっていたんですね…)
それを見て感動のあまり泣きそうな笑みをこぼしたミライと、セリザワは互いを見て頷いた。
「バルタン、貴様の俺たちウルトラ戦士への復讐心は相当のものだろう、だが、この二人を見てみるがいい。例え復讐に迷っても、他者との絆を持って光を取り戻すことはできるのだ。かつての俺がそうであったようにな。だが、逆にさっきまでの彼や今の貴様のように心の闇に囚われ続ければ、いずれその身に災いだけの未来しか訪れない」
セリザワはサイトに撃たれてもだえるバルタンに対してそう言った。だが、バルタンはこれまで自分たちの一族がウルトラマンたちに苦汁を飲まされ続けたこともあり、彼の言葉に対してかえって反感を抱いた。
『光だと…未来だと…戯言を!!我々バルタンの光も未来も…貴様らに復讐を果たし、この星を手に入れるその時まで取り戻すことなどできん!!』
「復讐に迷い、バルタン星の英知を失ったか!」
『黙れ!!!こうなれば、我が力を持ってこの地球を手中におさめ、先人たちへの手向けとしてくれる!!』
ついにバルタンは、自ら巨大化した。初代ウルトラマンに敗れた個体から80に敗北した6代目までの同胞たちの復讐のために、実力行使を持って地球侵略を開始したのだ。
意を決してミライもまた、左腕に、かの宇宙警備隊大隊長『ウルトラの父=ウルトラマンケン』から与えられた変身アイテムにして彼の武器『メビウスブレス』を出現させる。それに手を添えて一気に払うと、ブレスに灼熱の炎が灯り、ミライは天に向けてそれを掲げようとした…が、その手をセリザワが掴んだ。
「メビウス、今回は俺がやる」
「ヒカリ…!」
セリザワはサイトの方へ振り返る。サイトは傍に立つ義母と共にセリザワたちを、まだ赤くなったままの目で見ていた。
「…………」
サイトとセリザワは互いに無言のまま見ていたが、セリザワがその沈黙を破ってサイトに言葉をかけた。
「俺はかつて、何者も殺さず何者も傷つけることのない奇跡の星を愛していた。その星の生命は争いというものを知ることなく、悠久の平和を過ごしてきた。だが…」
淡々とセリザワは、自分の過去のことを簡潔ながらも鮮明に語った。自分の愛した惑星『アーヴ』のこと、サイトもよく知るボガールにそれを奪われ復讐の戦士に堕ちたこと、地球を訪れ今のセリザワの体と同化し、GUYSと共に戦ってきた日々のことを…。
サイトは、セリザワを…ツルギのことを許せない心を今もなお抱いていた。今言っていることだって自分に対する弁明…言い訳のようにも聞こえてくる。だが、セリザワの話から彼は耳を背けることはなかった。
「君と同じような過去を持っているからと言って許してくれとは言わない。
だが…復讐に心を穢したままでは、いずれ自分以外の存在にまで新たな憎しみを振りまき、さらなる禍をももたらすことになってしまう。君は、君を受け入れてくれた新しい母にまでその魔の手が及ぶことは、よしとはできないはずだ」
「……」
何を知った風に…とは口に出さなかった。結局その通りだった。自分をこうして心配してくれる人がいたこと。それにやっと気づいたときには、この人を討ちたくないと言う強い思いがサイトの心を占めた。
「俺を憎み続けた君と、俺たちウルトラ一族を憎み続けたバルタン…。
あのバルタンは、言いかえればまさにこれまでの君そのものだ。他にも復讐に迷って道を踏み外した侵略者は大勢いた。だが、黒い感情に身をゆだねたままではいずれ破滅する。幾度も奴らが、俺たちウルトラ戦士に敗れて言ったようにな」
少し間を置き、少し自嘲気味にセリザワはこういった。
「もっとも、かつての俺も復讐心に身を身を任せて破滅しかけたがな」
右腕に青い変身アイテム『ナイトブレス』を出現させ、鞘にしまいこむように短剣ナイトブレードを差し込むと、セリザワの体は青く染まった輝きの中にその身を包み、青い体の巨人…『ウルトラマンヒカリ』…いや、ヒカリが新たに惑星アーブの生き残った命から与えられた『勇者の鎧』を身にまとった姿『ハンターナイト・ツルギ』となって地上に降り立った。

「よく見ていてくれ…サイト君。これが…君の明日を照らす光だ!」

ナイトブレスから光の剣〈ナイトビームブレード〉を形成していると、バルタンがヒカリと向かい合う形で降り立ってきた。飼い犬と見なしていたサイトから手を噛まれたために、人間と言う盾を失った。その結果憎きウルトラマンを確実に殺せる策は失敗し、かなりいきり立っていた。
『そんな光など、我々の者として塗り替えてくれるわ!!貴様らへの復讐を果たした暁にな!』
右手のハサミの先を、ヒカリに向け、バルタンはヒカリに向かって行った。同じように、ヒカリもバルタンを迎え撃つべく剣を振り上げバルタンに挑んだ。
「フオオオオオオオ!!」
「デヤアアアアア!!!」
青い巨人と異星人が激突した途端、周囲はまばゆい光に包まれ、サイトはその眩しさに思わず目を閉ざした。



「!」
サイトの体に、突然鋭い痛みが襲い、目を覚ました。
自分の体を見ると、パーカーとシャツは脱がされていて壁に掛けられ、胸や左腕の上腕二頭筋の部位には包帯を巻かれている。この時の彼の包帯の下の傷は、やけどやみみず腫れを引き起こしていてかなりひどい有様だった。
辺りを見渡した。いつの間にか自分はベッドに寝かされていたようだ。建物は、キャンプ場にあるような木造の小屋だった。窓の外は新鮮な自然の空気にあふれていて、心地がいい。しかし、ここは一体どこだろう。自分は確か、ニューカッスル城の教会にいたんじゃ…。
ここはどう考えても、ニューカッスル付近の場所じゃない。それにあの時、俺は、いや…俺たちはワルドの魔法を食らって…。そうだ、そこからの記憶が一切ないんだ。一体俺たちはどうしてしまったんだ?………!?
サイトは、壁に掛けられた自分の服の隣に、気になって仕方ないものを目にした。あの服には見覚えがあった。フーケ事件の時、あいつが着ていた防衛軍の隊員服らしき軍服だ。しっかりと、『NR』のエンブレムも背部に刻み込まれている。それに、部屋の片隅には紺色のバイクまであるではないか。
もしかして、この部屋はあいつの!?じゃあ、俺はワルドに殺されかけたあの時、あいつに助けられたのか?
「そうだ!皆は!?…ってて…!!」
ワルドの魔法を同じ場所で、自分と同じタイミングで受けた。あの時のあいつは間違いなく自分たちを殺すつもりで放ったに違いない。だが俺はこうして生きている。だったら、みんなも生きているのでは。そう考えたサイトはすぐにベッドから降りようとしたのだが、やはり激痛が走って体が言うことを聞いてくれない。
「…ってて…」
「あ、まだ動いたらダメだよ!」
「……え?」
すると、誰かが部屋の中へ入ってきた。今のサイトを見て慌てて駆け寄ってきて彼を再びベッドに寝かせた。サイトは、地球でクール星人の宇宙船から脱出できなくなったところで発光体の状態で飛来したゼロとぶつかった時のように、眩い光が飛び込んできたのかと思った。眩しい金色の光だ。…いや、それは錯覚だった。
彼女の身にまとう雰囲気と、彼女の綺麗で長く輝いているようにも見える金髪がそう見せていたのだと気付いた。正直、美しいとしか思えてならなかった。いや、美しいと言う言葉さえも陳腐かもしれない。室内なのに帽子を被っているのは気になるが。
「あの…まだどこか痛む?」
サイトがさっきから固まったままなのを気にした彼女が声をかけると、サイトはハッと我に返った。
「あ、ああ…別に…その…」
「よかった。思ったより早く気が付いたのね」
その少女は、サイトが無理に起き上がったことにハラハラしていたものの、彼が意識を取り戻したことでホッとしていた。しかし、サイトはというと…彼女の美貌に見とれるあまり、口をパクパクさせたままだった。こんな、昔ハマっていたRPGの女性キャラを実体化させたような女の子がこの世にいるとは…思わずファンタジー万歳と馬鹿なコメを嵐のように脳内投稿したのだった。
そして、なによりサイトが今時分が見ている光景が現実なのかどうかを疑ってしまうものを目にした。


細い体の割に、胸のふくらみが以上に巨大だった。見立てだとあのキュルケ以上とも考えられるほど
に。


『…嘘だろ…あんなデカい胸、光の国の女にも見たことねえぞ…』
内緒だが、思春期のサイトは地球にいた頃、もし女性のウルトラマンが地球にやってきたとして、その大きな胸の中に包まれたらどんなに気持ちいだろうか…なんて傍から聞いたらあまりにも馬鹿馬鹿しいことを学校の悪友たちとかわしていた時のことを思い出した。もちろん本気でやらかすつもりはないが…。しかし、そのウルトラマンである、あのゼロでさえ彼女の圧倒的であり得ない胸のサイズに驚愕していると!?おそらく人類の体のサイズと彼女の身長をほぼ同等の者として考えても相当らしいが、ゼロがここまで驚くほどとは!
まさに…まさに…。



「ば……『バスト・レヴォリューション』!!?」
「ふえ!?」



こんな美の化身みたいな女の子がこの世に存在しているのか?もしや彼女は侵略宇宙人が俺を欺くために化けた存在なのか?それとも俺はまだ夢の中に居るのだろうか。あまりにも非現実的なものを現実で見たサイトは、さっきまでのシリアスなキャラはどこへやら……平常の自分さえなんて間抜けなことを言うのだと思えてならないセリフを叫んでしまった。少女は突然力んだサイトのコメントにビクッと震えて驚きを露わにする。
そして…その煩悩まみれのセリフに過剰反応した魔神が彼のすぐ近くにいたことを、この時のサイトはすっかり忘れてしまっていた。
「…目が覚めて早々…なんてことを言うのかしらこの馬鹿使い魔があああああ
あああああああああああああ!!!」
瞬間、某仮面の特撮ヒーローもびっくりな飛び蹴りが、サイトの顔面に深々と突き刺さったのだった。



一方、アルビオンの首都。ロンディニウム。
トリステインの使者としてアルビオンを訪れ、ウェールズとルイズが持っていた手紙を奪取したワルドの活躍もあり、さらには裏で怪獣を使役する術を似て入れたこともあり、レコンキスタは大きな被害を出すことなくアルビオン王党派との戦いは圧勝を飾った。国王ジェームズ一世が処刑され、その息子たるウェールズ皇太子もワルドによって捕らえられ、いつでも殺すことができる状態にあった。
「ぐ…!!」
縄で両腕を縛り付けられ、跪かされるウェールズは、ロンディニウム城の玉座の間にて、本来なら国王である自分の父が座るべき玉座に我が物顔で座るクロムウェルを睨みつけていた。そんな彼を、周囲のレコンキスタ側の…元はアルビオン王国の臣下だった貴族たちは鼻で笑うかのように見ていた。
ウェールズはふと、クロムウェルの隣に立つ人物を見る。女だ。それも黒という珍しい髪の色をしている。ハルケギニアでは黒髪の人物など滅多に見ない。美しく妖艶で、しかしどこか恐ろしい何かを潜ませているような不気味な女だった。クロムウェルの秘書なのだろうか。
「此度の活躍は見事だったよワルド君。我が使い魔『シェフィールド』君によって起動した『始祖の方舟』を使いこなし、時代遅れの王室に始祖の鉄槌を下した。しかも、トリステインとゲルマニアの同盟を破るに必要な素材…アンリエッタ姫の手紙の入手、誠にご苦労だった。きっと始祖もお喜びになるだろう。我らの理想も、確実に一歩ずつ着実に進んだ」
「もったいない気お言葉です」
ウェールズの目の前に立つワルドは、クロムウェルの前で跪いて臣下の礼を取る。
「これも我らレコンキスタの結束の力によるものだ!選ばれし貴族たちによって結束し、聖地をあの異教徒たる忌まわしきエルフどもから取り返す!それこそ私が始祖より与えられし使命!これだけの結束の力があればそれも夢ではない!」
両手を広げ、立ち上がって大げさで熱烈な演説をするクロムウェルに続き、ワルドとシェフィールドと呼ばれた女以外の、周囲の貴族たちは「アルビオン万歳!」と何度も連呼した。
「皆の者、静粛に!ウェールズ殿下とお話したい」
クロムウェルがそう言うと、周囲の貴族たちは直ちに静まり返る。
「しばらくぶりですな、ウェールズ殿下」
自分を見下ろしてくるクロムウェルに不快感を覚えさせられた。表情は一見温和な笑みを見せているが、ウェールズは感じ取っていた。この男から発せられる薄汚い逆賊の匂いを。
「クロムウェル…貴様、何を考えている!無用な乱を起こして国を乱すなんて馬鹿な真似を!キサマらのせいで、一体どれだけの民が血を流したと思っている!?」
そう喚くウェールズに、彼をこの場へ連れてきたレコンキスタ兵が一発のムチを振り下ろし、彼をバシン!とぶった。
「今の閣下はアルビオンの新皇帝だ。亡国の若造ごときが生意気な口をほざくな!」
滅び去った王国にしてやる礼儀などないと言わんばかりに、その兵士はウェールズに向かって怒鳴りつける。
「待ちたまえ」
その兵に対し、クロムウェルは止めるように言うと、兵士は「し、失礼しました!」と敬礼し鞭を下ろした。
「我が部下が失礼を。そして、こうしてあなたを乱暴なやり方で連れてきたことをお詫び申し上げよう」
父を、臣下たちを無残に殺させておいて今更謝ってくるなど何様のつもりだ。ウェールズはより一層クロムウェルに対して怒りを募らせる。
「私のことをいかほどにも罵倒しても構いませぬ。しかしこれも、この世界に永久の繁栄をもたらすため。我らの親愛なる始祖が降臨なされた『聖地』をエルフどもから取り戻すため。それが、始祖ブリミルから『虚無』を受け継いだ私の使命。始祖が私に、いかなる手を使ってでも聖地を取り戻せと仰っておられるのです」
「ふざけたことを…貴様のような逆賊に始祖ブリミルのお力が宿るなどありえない!」
信じられるわけがない。噂ではこの男はその『自称虚無の力』とやらで人心を掌握し、はては怪獣を操ってアルビオン各地を混乱に陥れた。証拠に北方はレコンキスタに操られた怪獣のせいでひどい有様になっていたと偵察部隊から幾度も報告があった。個人的な理由も付け加えたら、こいつらは父を殺し、危害を加えてきた相手とは言え元は無関係だった炎の空賊たちをも…。
理想のために、人外特有の圧倒的な力=つまり怪獣の力を持ってここまで非道を平気でやるような組織を、そもそもこの大陸の人間が崇拝する始祖がお許しになるはずがないし、ましてや力をさずけるなんて真似もしない。もし本当だとしたら、始祖が力を与えてはならないモノに与えてしまったことになり、選択を間違えてしまったということになってしまう。そんなことはあってはならない。
「信じてくれてはいないようですね。残念だ」
「炎の空賊団は、貴様らが悪魔に…イセイジンとやらに魂を売り、その対価に怪獣を操る力を手に入れたと言っていた。すでにこちらでも証言はとっていた。貴様らレコンキスタに寝返ったアルビオン兵を尋問してな」
「ならば、証拠を見せてご覧に入れよう。私が虚無の担い手であることを」
にっこり笑うクロムウェルは、指輪を装備した右手を掲げた。その指輪に埋め込まれた紫色の宝珠が屋内に差し込む太陽の光を反射して輝く。それを見たウェールズは。ハッとなった。
(そうか…わかったぞ!クロムウェルの言う『虚無』の正体!やはり…!)
何かある確信を得たとたん、彼は両腕を縛る縄を解こうと両腕に力を込め、さらに立ち上がってクロムウェルに食ってかかろうとしたが、直ちに彼のそばに待機していたレコンキスタ兵が彼を取り押さえ、床の上に押さえつけた。
「往生際が悪いぞ!」
「ぐ…!!」
正直今の自分は潔く覚悟を決められない情けない王子かも知れない。だが、このままクロムウェルを捨て置けば、アルビオン王軍の壊滅以上の更なる災いが訪れるのではというおそれが彼を動かしたのだ。寧ろ貴族としてこの輩を見過ごせないという心情からなのか、それともグレンたち炎の空賊たちとの出会いと触れ合いを通した結果なのか。
しかし、ここに味方といえる貴族は一人もおらず、自分は杖を奪われて、自由さえもこうして奪われている。
ウェールズは、取り押さえてきた兵士に頭をわし掴みにされ、無理やりクロムウェルの顔が見えるように持ち上げられる。
「…これが…虚無の力だ。この力により…我が虜となるがいい。ウェールズよ!」
すでに、彼の目と鼻の先に、クロムウェルの身につけていた指輪が突きつけられていた。今度は太陽の光の反射ではない、指輪が自ら紫色の光を発光した。
その光を見たとたん、ウェールズの意識は…暗闇に落ちていった。


アンリ…エッタ…。グレン…。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧