| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~

作者:???
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

用心棒‐グレンファイヤー-part3/炎の空賊たち

「か、怪獣…!?」
青ざめるギーシュ。見ると、あのワルドでさえこの音波にかなり堪えていた。どうする、奇怪な音を出してこちらの自由が奪われたこんな状況では、船員たちも船を出して脱出を図ることもできない。万事休すか?
これはサイト自身も同じことを考えていた。サイトは自分の左手首に撒かれた宇宙金属製のリング…『テクターギア』を見る。この状況を打開するべく、やはりゼロに変身するべきか?……いや、俺は何を考えているんだ!サイトはすぐその案を却下した。今はまだルイズたちが自分のすぐ近くにいる。ここで変身したら自分たちの正体が明るみになってしまう。そうなると、後々どんな厄介ごとが起こるかわかったものじゃない。ばれない限りは、正体がばれるような行為は絶対に避けなければ。
第一、あんな奴に任せておいたら、街の人たちだけじゃない。ルイズたちにまで被害が今度こそ及んでしまうかもしれないじゃないか。いかにこいつがウルトラマンで、これまでの地球人たちが頼りたがる気持ちに嘘が着けないとしても、こんな奴に戦いを任せるなんて状況が悪化するだけである。
しかし…今の自分たちにあの怪人が倒せるのか?そう言われると、サイトはどうすればいいのかわからなくなった。
(ゼロなんか宛てにできない。でも…)
自分の武器は武器は剣。接近して斬りかかったところで踏みつぶされるがオチだ。仲間たちの場合だと魔法。これについては、歴代の防衛軍と同様遠くから怪獣や星人を狙い撃ちにできる利点がある…が、一発一発の攻撃ではきっと威力が足りない。ベル星人を倒すには一人一人の力を集めて一転集中の攻撃を放つと言う手もあるが、こんな即席の作戦であの星人を倒せるのか?
天使と悪魔の囁きが聞こえる。
自分の中で、漆黒の衣をまとった自分が言う。『ゼロの力はお前の力だ。躊躇わず使っとけ』と。純白の衣をまとった自分が言う。『悪魔の言葉に耳を傾けるな。人間として精一杯の努力を見せるのだ』と。
どうする…どうしたらいい!!?サイトはこの場を切り抜けるための最善の手を見つけ出せず、ただ思い悩み続けた。
「ぬ…おや、あ…あれはなんだろう?」
ふと、耳をふさいだままのギーシュが頭上の空を見上げ、指をさした。何か、小さくて黒い塊のようなものが遠くから近付いている。
「軍艦」
タバサもそれを見て、そう言った。確かに目を凝らしてみてみると、空を飛ぶ軍艦のようだ。アルビオン軍のものだろうか。それとも…。
「こっちに近づいてる…」
「こんな時に…貴族派の軍艦かしら…?…いえ、あれって!」
耳をふさぎながらいらだちを募らせるルイズ。近づいている船には、その船の所属する勢力を示すための旗が掲げられていなかった。しかも大砲が、こっちを向いているではないか。


「く、空賊だあああああ!!」


謎の巨大な怪人に続いて空賊の艦隊。残っていた船員たちはパニックになって騒ぎ始めた。船のすぐ付近の地面を次々と放つ砲弾で爆破させながら、軍艦は近づいてくる。船員たちは戦闘経験がなくても冷静に客の安全をこうりょしなければならないのに、冷静さを失ってただパニくるばかりでたいした対応は全く期待できない。
「子爵様!あなたの魔法で何とかしてください!」
「いくら僕でも、あの怪人と空賊を一人で止めるなんて無理だ」
客船の船長がやってきて、ワルドに向かって対処してほしいと願い出るが、さすがのワルドでも星人と空賊を同時に相手にするだけの力なんてない。
「くそ…!こんな時に!」
デルフを引き抜いたサイトが空賊の軍艦を見上げる。ベル星人と言う怪物の出現に続いて、さらには同じ人間の敵さえも現れたと言う事態。最悪としか言いようがない。
しかし次の瞬間、上空の軍艦の砲台がベル星人に向けて砲弾を撃ち込んできた。それも次から次へと、破壊力に富んだ砲弾がベル星人に襲い掛かり、ダメージを与えて行った。砲弾を受け続けたベル星人が大きく後方へ吹っ飛んだ。
「すげえ…」
驚くサイト。この世界にも、これだけの威力を持つ兵器が供えられていたのか。それも持っているのが、空賊とは。いや…あの空賊たちはただの空賊なのか?
ともあれ、ベル星人が空賊たちの攻撃を受けたためか、奴の放ってきた奇怪な音が聞こえなくなった。
「どうしてだ?あの空賊共、こっちに攻撃してこないぞ?」
ギーシュが頭の上に両手を乗せながら頭上を見上げ続けた。空賊の軍隊は、ゆっくりとサイトたちの元に近づき、着陸した。近くで見ると、これはかなりの巨体を誇る艦だった。タラップが下ろされ、そこからガラの悪い格好をした連中がたくさん降りてきた。やっぱり空賊だったらしい。船員たちだけでなく、当然サイトたちの周りを彼らが取り囲んだ。
「な、何よあんたたち。私たちを誰だと思ってるの!?」
「おいおい、威勢がいいのか結構だがよ~。せっかく頭のご慈悲で助けてやったってのにその言いぐさはねえんじゃねえのか、お嬢ちゃん?」
貴族らしく毅然とした態度でルイズが空賊たちに怒鳴るが、空賊たちはへらへら笑いながらルイズを見ていた。所詮貴族の皮を被ってるだけの小娘、そう言って馬鹿にしているようにも見える。
「ご慈悲ですって?冗談じゃないわ!薄汚い空賊なんかに助けられてたま…むぐ!?」
「いえいえ、頭様のご厚意に感謝いたしますわ」
下卑た連中に頭を下げるなど貴族の名折れ。立派だが時と場所をわきまえない強がりを見せつけようとしたルイズの口を、キュルケが無理やり塞ぐと、空賊たちに助けてくれた礼を言った。
「ほう、そこの姉ちゃんはちゃんとわきまえてるな」
その空賊はキュルケと、彼女に口を押えられてもがくルイズを見る。ルイズはキュルケに塞がれた口を何とか解放すると、彼女を睨み付けた。
「あんたに貴族の誇りはないの!?空賊なんかに助けられるなんて、末代までの恥だわ!」
しかし対するキュルケは澄ました態度で言い返す。
「あなたこそ馬鹿じゃないのヴァリエール?相手が誰であろうが、私たちは助けられたんだから礼を言うのは人として当たり前の事じゃない。それに、迂闊に逆らったらこっちが危ないわ。そんなにカッコつけて死にたいならあたしたちを巻き込まないでちょうだい」
「勝手についてきたくせに…」
「彼女の言う通りだ。ルイズ、あまりそういきり立つものじゃない。せっかくの美しい顔が台無しになるじゃないか」
「で…でも!ワルド様は悔しくないのですか!」
納得しかねる様子の彼女に、ワルドが歯の浮く言葉を言って彼女の怒りを鎮めようとするも、それでもルイズは納得しない。
「以前も言ったが、僕は貴族風を吹かせるのは好きじゃない。それに今は、君の身の安全の方が大事だ。そうだろう、使い魔君?」
サイトに話しを振ったが、対するサイトはデルフをしまうと、こちらを向かないまま頷いて見せただけだった。タバサとギーシュもワルドに同意。自分だけ熱くなっていたことに気づき、ルイズが渋々ながらも黙った。
「急いで乗りな、貴族様。船長と頭が待ってるぜ」

空賊達は船の乗組員を使って積荷を自分達の船へと運ばせ、サイト達についてはタラップを登った途端に武器と杖を取り上げられた。
ふと、ギーシュがさっきの空賊の言葉につまらない疑問を抱く。
「なんで船長と頭って分けてんだろう?海賊の親玉って言ったら船長で、頭だろ?」
「そんなのどうでもいいじゃない。空賊は所詮空賊よ」
こんな時にどうでもいいことを言うなと、ルイズが彼を戒める。
「うちはちと違うってだけよ。船長は三兄弟のあの人たち、そして頭はその上に立つ方ってだけの話だ」
意外と気前よく教えてくれた!?ちょっとびっくりしたが、どうもこの空賊たちは他の噂で聞く空賊とは少し違うようだ。
「杖は取り上げられてしまったが、命までは取らないようだ。しばらく大人しくして彼らの様子を見よう」
「そう、ですね…」
ワルドがそう言うと、サイトは静かにそう返答した。
しかし、空賊が当面の脅威じゃないとしても、まだベル星人がいる。だが空賊たちは全く恐れもしなければたじろぎもしなかった。
「おい『グレン』!出番だ!」
すると、空賊の一人が警鐘を鳴らして、『グレン』と呼んだ誰かを呼び出した。サイトはそのグレンと言う人物が気になった。まさか、この状況を打破できる誰かがここにいるのか?とすると…まさか…。
(俺やあのシュウヘイって男以外に、まだウルトラマンがいたのか!?)
「ほいほい、わーってるよ!」
仲間からの呼びかけに、幼い子供のような声が高らかに轟いた。聞こえてきたのは頭上からだ。確認するために頭上を見上げると、この空賊たちの切り札らしき人物の姿があった…が、それは意外な外見をした人物だった。
「こ、子供…?」
灰色の髪とキュルケのように日焼けした肌を持つ、サイトたちより多少年下に見える少年が、眩い太陽の光に照らされながら操舵室の屋根の上に立っていた。そしてその操舵室の屋根の下に、髑髏マークの眼帯を身に着けたり赤い羽根を飾った帽子を被ったりと見るからにガラの悪い格好をした壮年の男三人がいた。
「わしらの庭におかしな奴らがいるな」
「レコンキスタの飼っているトロル鬼じゃないようじゃがのう」
「人んちの庭に土足で入り込むとはふてえ奴じゃ!やっちまえグレン!」
男たちに口々に言われたその少年『グレン』は髪をかきあげ、無邪気に笑いながら戦艦に迫ろうとしているベル星人を見る。
「へへ、こんなのオイラにとっちゃ朝飯前よ」
この少年には絶対の自信があった。オレンジ色の瞳の中に炎をちらつかせながら、余裕の態度を決して崩さない。しかし、ルイズたちから見れば無謀な挑戦にしか見えなかった。まず体の大きさが違いすぎる。近付いた途端踏みつぶされるがオチだ。
「何考えてんのあいつ!?まさか、あの変な怪人相手に戦う気!?」
「そ、そうだ!人間の子供なんかにあいつが倒せるなんて、正気の沙汰の言葉ではないぞ!」
ルイズとギーシュが騒ぎ出すと、周囲にいきなり発砲音が響き、ルイズたちを驚かせた。
「黙って見てろやガキ共!」
どうやら空賊の一人が、二人の喚き声をうるさく感じてわざと空に向けて発砲したようだ。効果覿面、二人は大人しく黙った。ギーシュがビビっているのに対し、ルイズは不満げな顔のままだった。
「………」
ワルドとタバサは、あの少年をただ静かに見た。空賊風情が怪獣相手にたじろぎもしない謎が、あの少年が一体何者なのか、これではっきりできる。サイトもしっかりこの目に焼き付けようと、少年とベル星人を凝視した。


「いっくぜ…ファイヤあああああああああああ!!!」


瞬間、グレンの体が燃え盛るマグマのような炎に包まれ、空に飛びあがった。いきなり人間の体から炎
が吹き上がったことにも驚かされたが、そのまま遥かな空に飛び立ったことにも驚かされた。彼の姿が太陽と重なった時、一つの火球となった彼は地上に降り立った。
地上へ豪快に落ちてきたその火球は、見る見るうちに人に近い姿へと変わっていく。


「な、なんだあいつは…!?ウルトラマンじゃ…ない…」


火球の炎が鎮火すると、その火球は炎を象った顔をしたオレンジ色の巨人へと姿を変えたのだった。
グレン少年が姿を変えたそのオレンジ色の巨人、見るからにウルトラマンたちの特徴とは大きくかけ離れてしまっている。全く別の種族の巨人だった。一体何者なんだ?どこの星人なんだ?そして、なぜ空賊たちとつるんでいるのだ?色々と浮かぶ疑問にサイトは頭がパンクしそうだった。



「へへ…炎の用心棒、『グレンファイヤー』様参上!!」



自身に親指を向けて堂々と、その炎の巨人『グレンファイヤー』は名乗って見せた。さっきまでの声変わり前の子供臭い声から一転、グレンの声は熱血青年のそれらしいものに低くなっていた。
「ほらほら、そこの怪人、だんまりしてねえで来な!」
ベル星人に向けて、グレンファイヤーは人差し指でくいくいと手招きして見せた。
しかし、いかに変身したからといってベル星人の得意技である超音波が効かなくなるわけではない。


――――キィーーーーーーーーン


「おう!!?が…!!」
聞くに堪えず、グレンファイヤーは耳を押さえた。頭の中にまでガンガン響く超音波はグレンの脳にもダメージを与えていく。ベル星人は容赦なく隙だらけのグレンを蹴り倒し、そのまま倒れたままの彼をボールのように蹴り続けた。果てに、ベル星人は馬乗りになってグレンの頭を両手で握りつぶしにかかる。
「痛って!!ほぐ!?…っの野郎!!」
いつまでも受け続けてたまるものか。グレンは背中を蹴りつけてベル星人を突き飛ばして立ち上がった。蹴り飛ばされ、星人が地面に落ちようとしたところで、彼はベル星人の頭を鷲掴みにしてジロッと星人を睨み付けた。
「やられた分はきっちり返させてもらうぜ…そうら1、2、3ってな!!!」
暑苦しい…いや、熱い上に滅茶苦茶固い石頭で頭突きを立て続けに受け、ふらついたベル星人。ベル星人はグレンファイヤーの背中を蹴って、真っ向勝負では勝てないからと怖気ついたのか空へ飛んで逃げ出した。
「まずい、逃げられる!」
「あの怪人、こっちを貶めておきながら尻尾撒いて逃げるなんて!卑怯なことこの上ないわ!」
逃げていくベル星人を見て声を上げるサイトとルイズ。
「んなろう!逃がすかってんだ!」
グレンファイヤーも空へ飛び、ベル星人を追いかけた。空に浮かぶ雲を、二体の巨大な影はいくつも潜り抜けた言った。グレンファイヤーとしては、雲は湿っぽいので好きじゃない。ずっと浴び続けたら自分の炎も熱いハートもが鎮火してしまう。とっとと捕まえて倒すに限る。鬼ごっこが始まってしばらく、彼はベル星人の足を捕らえた。
「こいつは効くぜ?セミの怪人さんよ。今のうちに、閻魔様への言い訳でも考えとくんだな!」
宙に浮いたまま、彼はベル星人の頭を地面に向けるようにして抱えた。離せと言わんばかりに星人は必死にもがくものの、グレンの腕の力は筋肉質な外見に見合うだけのパワーを持ち、とても脱出することができなかった。
「いっくぜえ…これが俺様の、〈グレンドライバー〉あああああああああ!!!」
まさに火を噴くミサイルのような勢いで、すさまじい雄叫び挙げながらグレンファイヤーは地上に向けて急降下した。いや、ミサイルと言うよりも隕石が落下した蚊のようにも見受けられた。ベル星人が作り出した疑似空間の大陸に、何十メートルもの水柱が出来上がるほどの土しぶきを上げながらベル星人は落とされた。背骨も石柱も見事にへし折られ、ベル星人はグレンからようやく放された時には複眼に輝きもなく、ピクリとも動かなくなった。
「いやっほおおおおい!!!」
「「「「うおおおおおおおおおおお!!!」」」」
勝利のガッツポーズを決めながら飛び跳ね、髪を書き上げるように頭を撫でて炎を顔から噴き出したグレンを見て、空賊たちはかなり盛り上がりだした。あまりにもうるさく、タバサはサイレントの魔法で一時的にその喚き声を聞こえなくした。
「な、なんて乱暴な戦い方なんだ…」
ギーシュは戦い方もかなりパワフルと言うか粗暴さが目立つグレンに引いていたものの、その熱き戦いには目を放せなかった。
「グレンファイヤー、か…あたしの微熱がこんなに見るだけで燃え上がりそうになったのは初めてだわ!後でお話をたっぷりお聞きしたいわね!」
キュルケはグレンの熱い戦いぶりに、心底見惚れてしまっていた。相変わらず惚れっぽすぎるその熱のこもった視線がその証拠。ルイズは「この色ボケが…」と心底呆れかえっていた。まあ、これでキュルケが本気になってくれるなら、人の使い魔にいちいちちょっかい出してくる心配がなくなってくれるから助かるのだが…。
「…」
サイトもまた、炎の用心棒グレンファイヤーの闘いを決して見逃すことなく見続けていた。
まさか、この世界にはウルトラマンじゃなくても怪獣と対することのできる戦士がいたということに。そしてその実力も荒っぽいがかなりのものだった。なにより、周囲のことを顧みようとしなかったゼロと違い、とちゃんと自分の仲間である空賊たちを戦いに巻き込もうとまではしていない。
それに比べて、自分は一体何をしていたんだろうか。ただ…見ていただけじゃないか。考えてみれば、自分はただ怪獣のことを知っているだけで、それを倒すだけの力なんて持っていない。
サイトは、思った。
ルイズには婚約者がいる。自分と比べたら男としても立派だし、自分はいつか地球に変える異世界人。ルイズにいったい何をしてやれる?
もう一つ、この世界には、俺以外にもう一人ウルトラマンがいて、なおかつ強い。しかもゼロと違ってちゃんと力の使いどころも分かっているし、周囲への被害も常に考慮していた。
さらに今回、この世界にはすでに、怪獣を相手に戦うことができるほどの実力者がいた。サイトがアルビオンに来たのは、使い魔としてルイズがアンリエッタから請け負った任務の助力だけじゃない。アンリエッタがアルビオンの反乱軍が怪獣を使役していると言う話が本当なのかを確かめることもまた理由の一つだった。アルビオンにまで奴らの魔の手が忍んでいたことはわかった。でも、グレンファイヤーがいるのなら、別に自分がいなくてもよかったのではないのか?



――――俺って、この世界で本当に必要な奴なのか?



「見て、島が消えていくわ!」
キュルケが甲板から地上を指さして叫んだ。遥か向こう側から、だんだんと林が・池が…そして島そのものが消え始めていたのだ。ベル星人がグレンファイヤーに倒されたことで、存在を維持できなくなったのである。このままでは、空間ごとこちらも消滅しかねない。
「おい!」
空賊の下っ端の一人がサイトたちに向けて怒鳴ってきた。その怒鳴り声に驚いたルイズは震えながらも、強がってその空賊を睨み付けた。
「な、何よ!うるさいわね」
「うちのグレンのファイトに見とれてたのはわかるがよ、お前ら自分の立場忘れてねえよな?」
空賊は自分たちが優位に立っているとはっきりわかっている状況では相手より下手に出ることはない。杖を持たないメイジなど自分たち平民とも特に変わらず、特に恐れるだけの要素はないから、その空賊はルイズの気迫に全く動じようともしない。
「頭のところに連れてってやる。来な」



消えていくベル星人の疑似空間を発ち、サイトたちは空賊たちに周りを囲まれた状態で、船内へと連行された。
「島がすっかり消えてしまったな…」
ちょうど窓の外の景色が見えたギーシュは呟いた。その時にはもうベル星人の作り出した島…疑似空間は跡形もなく消え去っていた。すると、ギーシュは空賊から頭を拳で叩かれた。
「痛て!」
「黙って歩け!」
階段を下り、しばらく廊下を歩かされ続けると、奥の方に見えた扉の前にたどり着いた。下っ端がその扉のドアノブに手をかける。
中では頭と思われる男が、ガラス張りの壁の前の机に両足を乗せながらイスに座っていた。その横には、あの炎の巨人に変身した少年と、下っ端たちから船長と慕われる三兄弟の壮年の男たちが立ち並んでいた。
頭は真っ黒に汚れたシャツを着用し、ボサボサの金髪を赤いバンダナで左目も覆い隠す形で纏めていた。空賊と言う割に、容姿には若々しさが残っていた。頭はルイズ・キュルケ・タバサを見てにやりと笑った。
「こりゃ結構華やかな貴族様ご一行だな。可愛いねぇ」
頭はその態度が癪にさわったルイズは声を荒げ要求を突きつけた。
「黙りなさい下郎!わたしは王党派への使い、トリステインを代表してそこへ向かう大使よ。だからあんた達に大使としての扱いを要求すわ!!」
サイトはそんな彼女に僅かながら呆れてしまった。
「お前バカだろ……こういう時は嘘でも貴族派って言うところだろ」
「ダーリンに同感ね。あなた、もしかしてあたしたちと、悪い意味で運命を共にする気かしら?」
「ルイズ!君は迂闊と言う言葉の意味を忘れたのかい!僕はここで空賊に殺されて死ぬなんて御免だぞ!」
「…」
呆れたのはサイトだけではない、キュルケとさっきからビビり気味のギーシュもあからさまにルイズの発言を非難した。タバサは相変わらず無表情を通し続けて何も言ってこない。
「な、何よ!だからってこんな薄汚い空賊に気後れしたら貴族の名折れじゃない!」
「へえ…あんた、頭と船長の前でずいぶんとでけー態度だな。自分の強さに自信があるのか、それともお仲間の言う通りただの馬鹿なのか?」
逆に仲間たちへ言い返すルイズに、グレンは声をあげて笑った。サイトたちと比べて明らかに馬鹿にされた気がしたルイズはその少年をキッと睨み付ける。
「用心棒だがなんだか知らないけど、貴族である私に何の礼節もわきまえないなんて、無礼にもほどがあるわよ!」
「がはははは!お嬢ちゃん。あんましなめきった態度はとらねえほうが身のためだってママに教わらなかったかい?」
三兄弟船長の内、左側に立っていた男がガラガラ声を発しながらルイズに馬鹿笑いするが、頭が「まあ待て」と立ち上がりながらその男の言葉を止めさせた。
「で、あんたところへ何しに行くんだ?明日にでもあんたが会いたがってる王党派共は消えちまうよ?」
「王党派は、そんなに不味い状況にあるのか?」
ワルドが尋ねると、ふう…と頭は呆れた様子で言った。
「何も知らねえで内乱中の国に行くのか?呆れたね~。王軍は、レコンキスタが怪獣を使役しているおかげもあってか、その戦力差は圧倒的なもんさ。もうじき、ニューカッスルまで王党派共は追い詰められて孤立。このまま黙ってたら滅ぼされるのも時間の問題さ。窓の外、見て見ろよ」
頭が自分の背後にあるガラス張りの壁の向こうを指さした。壁そのものがガラスだから、空の景色を一望できた。
よく見ると、アルビオンの空を、翼をもつ怪獣たちがすでに飛び回っていた。『火山怪鳥バードン』『超古代竜メルバ』『宇宙有翼怪獣アリゲラ』その他数体ほどさまざまだ。
「見ろよ、連中は何匹かすでに空を飛ぶ怪獣を放ってる。逆らえば命はないって言ってるのが丸わかりだ」
急いで疑似空間から脱出できたのはよかったかもしれない。島が消滅する前に、あいつらに見つかっていた可能性があった。
とはいえ、すぐにあの怪獣たちが手を出してこないのは、操る者たち=レコンキスタも迂闊に味方になってくれる空賊、または他国の船を打ち落とすことはできないからである。
「怪獣を操る!?そんなやつらを相手に王党派は戦っていると言うのか…!」
(お姫様の言う通りだったのか…)
ギーシュが声を上げる一方で、サイトは窓の外に見える怪獣たちを見て苦い顔をした。同じ星で生きる者同士の戦争にまで怪獣を駆り出すなんて、とてもこの世界の人間だけでできるようなこととは思えない。一体どこの誰がこんなことを…!自然と拳が握られた。
「確かに、魔法衛士隊をあっさりやっつけたほどの怪獣たちを操れるなら、負けてもおかしくはないわね。ルイズたちの旅先の目的がとりあえず王党派の人に会うってことはわかったけど、これじゃあ先が怪しいわね」
今更気づいたのか…。サイトはキュルケに心の中で突っ込んだ。まあ、思い出してみればキュルケたちは興味本位で着いてきたのだ。特に自分たちの目的も明かさないままだったから詳しく知らないままなのも無理はない。
「俺たち『炎の空賊団』はレコンキスタとは対等に手を結んでいる。もし王党派に組するやつがいたら捕まえろとも頼まれてんだ。
けど、せっかく仲間のグレンが助けてやった命なんだ。ここは俺たちと一緒に貴族派にならねえか?そしたら、スカボローの港まで送ってやるぜ?それにレコンキスタ共はメイジを欲しがっている。礼金もたんまりくれるそうだ。悪い話じゃねえと思うがどうよ?」
「死んでも嫌よ!」
バッ!と右手を振って強気な姿勢を保ち続けた。
「おい、ルイズ…!」
落ち着けと彼女に突っつこうと思ったサイト。しかし、彼は気づいた。ルイズの足が、小刻みに震え始めていた。本当は怖かったのだ。一体何をされるのかはわからない。もしかしたらこの空賊たちに自由を完全に奪われた暁に乱暴されたり殺されるかもしれない、もしかしたらあの炎の用心棒に焼き殺されたり…それらの恐怖をこらえて、相手をまっすぐ見続け見栄を張り続けていた。
ここまで来るといやおうにも眩しく見えてきた。
「最後だ、もう一度だけ聞こう…。貴族派に……………!?」
頭が目を鋭くしてルイズを睨み付けて貴族派になれと最終通告を下そうとした時だった。彼は急に言葉を切らし、鋭かった目が驚きで丸くなった。
「その指輪は…!」
彼の目に映ったのは、ルイズがアンリエッタから託された指輪『水のルビー』だった。ヴェルダンデにじゃれ付かれた時のトラウマもあってか、それに気づいたルイズが右手の水のルビーを左手で覆い隠した。
「これは姫様が直々に私にお預けになった大切なものよ!あんたみたいな薄汚い空賊に渡すもんですか!」
すると突然、頭は顔を上げて大笑いした。
「ハハハハハ!まったく、トリステインの貴族は気ばかり強くてどうしようもないな!!どこかの国の恥知らずよりはましだがね」
「へ?」
突然の頭の変貌にサイト達は目を丸くして顔を見合わせた。一体どうしたのだこの男は。
「あん?どうしたのさ?急に笑い出して」
「むぅ…その指輪に、なにかあるのか?」
グレンと、三兄弟の船長の真ん中に立つ男がルイズの持つ指輪を頭が気にしているのが気になったためか、指輪のことを尋ねた。
「ああ、『僕』にとってとても縁の深い代物だよ。その指輪は」
頭は自分の右手の手袋を脱ぎ取る。すると、彼の露わになった右手の薬指にもまた指輪が身に付けられていた。だが、それは決してただの指輪ではなかった。指輪に付けられた宝珠の色がエメラルドグリーンであることをを除けば、ルイズの水のルビーそっくりだったのだ。
「!」
ルイズたちはその指輪に注目せずにはいられなかった。
「さあ、君も指輪を出してくれ」
さっきまでの汚い口調から一転して、紳士的な声で頭はルイズの前に立つと、右手の指輪を付けた右手を前に突き出した。ルイズも恐る恐るだが、右手の薬指の水のルビーを突きだす。すると、双方の指輪の宝石の間に虹色の光が輝いた。
「どういうこと!?」
「この指輪はアルビオン王家に伝わりし『風のルビー』。そしてしれはトリステイン王家に伝わる水のルビー。水と風は虹を作る。王家にかかる虹を」
ルイズが驚いた眼で頭を見た。アルビオン王家に伝わるかどうかは定かではないが、水のルビーとそっくりの形状と魔法の掛けられた宝珠。それがアンリエッタから託された指輪と反応する辺りから、頭が身に着けている指輪はどう考えてもただの指輪ではない。どんな貴族だろうが後生大事に持たずにはいられないほどの代物。それをただの空賊風情が持っているとは思えない。
「まさか…!」
「え?何?どうしたのよルイズ?」
一体何のことだと話が見えないサイトたち。特にキュルケは後ろからルイズに問い詰めているが、ルイズはというと、何か強い衝撃を受けたのか頭の言葉に呆けていた。
「失礼した、僕はアルビオン王立空軍大将、本国艦隊司令長官…」
そう言いながら頭は眼帯やバンダナを外し、髪も櫛で整えた。彼は何かしらの理由で空賊になりきっていたのだ。
「と言っても、レコンキスタ共に奪われたり、破壊されたせいですでに本艦『イーグル号』しか存在しない無力な艦隊だがね」
変装を解くと、そこにいたのは凛々しい金髪の美青年であった。
「まぁ、その肩書きよりこちらの方がとおりはいいだろう」
そう言って、青年は改めて自己紹介をした。もうこれを見ている読み手の方々は、お気づきの人もいることだろう。


「大使殿とそのご一行の皆。大変失礼した。僕はアルビオン王国皇太子『ウェールズ・テューダー』だ」


「え…?」
呆けた声で、ルイズ以外の面々も青年を見た。
さっきまで空賊になりきっていた…。
っていうか明らかに空賊にしか見えなかった連中と炎の巨人となった少年とつるんでいたこの人が…アルビオンの皇太子!?


―――えええええええええええええええええええええええええええ!!!!!?????


次の瞬間、サイトたちの絶叫が、アルビオン王党派軍の軍艦イーグル号からアルビオンの遥かな空に轟き渡ったのだった。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧