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ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~

作者:???
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盗賊-フーケ-part2/盗人の守護者

翌朝、魔法学院では大騒ぎが起きた。
決して破られないはずの宝物庫から財宝が複数、そして破壊の杖が盗まれた。それもゴーレムによる目立つうえに豪快な攻撃によってだ。学校中の教師たちは全員それを聞いて唖然とした。あの後フーケ捜索部隊を編成してフーケを探しに向かわせたのだが、残念なことにフーケを見つけ出せず、見つかったのはゴーレムだったと思われる土の山だけ。
―――破壊の杖、確かに領収いたしました。土くれのフーケ。
残されたメッセージを思い出し、教師の一人が憤りを見せる。
「学院にまで入り込むとは、土くれのフーケめ、許せん!それにしても衛兵たちは何をしていたんだ!」
「衛兵だと?所詮は平民だ!当てになるものか!それより今日の当直は誰だったのです!?」
当直は誰なのかと聞かれた途端シュヴルーズの顔が青くなる。
「ミセス・シュヴルーズ!あなたが当直でしたよね!なのに、当直をさぼられるとは!破壊の杖のことをどう償うのですか!」
フーケが宝物庫の破壊の杖を強奪した時、当直だったはずのシュヴルーズは、こともあろうか自室で眠りこけていたのである。
「で、ですがミスタ・ギトーもまともに当直しておられたのですか!?」
ついには当直をしていないことを互いに責めあってみっともなく言い争う教師一同。
「静まりたまえ!」
オスマンが一喝を入れて、ようやく教師たちは黙った。
「まずはフーケを見たものを確認しよう。彼女たちで間違いないかね?」
オスマンに尋ねられたコルベールは「はい」と答える。この時呼び出されたのは、昨日フーケの犯行現場に居合わせていたサイト・ルイズ・キュルケ・タバサの四人。
「君たちはフーケを見たかね?」
「はい、フーケは黒いローブを身にまとったメイジで、巨大なゴーレムを用いて宝物庫の壁を破壊し、破壊の杖を強奪して学院から逃亡しました」
学院長からの問いにルイズが答えた。間違っても、自分とキュルケの馬鹿らしい決闘で壁にひびを入れてしまったなんて言えなかった。自分の罪状を誤魔化しているようで情けないが。
ふむ…とオスマンは髭を撫でる。手がかりと言えそうなものは何もなかった。
「こんな時にミス・ロングビルはどこに…?」
コルベールは学院長室中を見渡すが、この時ロングビルだけは何故かいなかった。それもそのはず、彼女こそフーケの正体だったのだから。昨日そうだったように、破壊の杖を売るために使い方を知る、そのために策謀を巡らせている。
「すみません!遅くなりました!」
ちょうどその時、ロングビルが学院長室に入って来た。何かしらの策を思いついたのだろうか。
「どこに行ってたのです!?こんな時に!」
「申し訳ありません、ミスタ・コルベール。実は今朝から調査していたのです。フーケの居所がわかりました」
それを聞いて、教師たちからおお!と感嘆の声が上がる。すでにこの時、フーケの掌に踊らされていると知らずに。
「仕事が早いの」
「近くの森の廃屋に黒ずくめのローブを纏った不審な男が入っていったそうです。おそら
く…」
「ま、間違いありません!黒いローブに身を包んだ…フーケです!」
キュルケが声を上げる。一部偽りの情報が混じっていることに気づかずに…。
「では早速王室に報告しましょう!王宮衛士隊に頼んで兵隊を差し向けてもらわなくて
は!」
シュヴルーズが言うが、オスマンは机を叩いてそれを拒否した。
「馬鹿者!王室に知らせてる間にフーケに逃げられてしまうわい!!それにこれは我々の
落ち度!身にかかる火の粉を己で振り払えんで何が貴族じゃ!学院で起きた問題ならば
我々の手で解決する!我と思う者は杖を掲げよ!」
ロングビルはそれを聞いてほくそ笑む。ここまで計画通りだ、あとはサイト…または彼の主であるルイズが杖を掲げれば自分の作戦が成功したも同然だ。
だが誰も掲げなかった。フーケが怖くてただ顔を見合わせるだけだった。
「どうした?フーケを捕らえて名を上げようとする貴族はおらぬのか?」
「ミス・シュヴルーズ、あなたがあの時の当直だったでしょう!あなたが行くべきでは!」
「そ、そうですが…ミスタ・ギトーも真面目にやっておられましたか!?」
ついには責任の擦り付け合いを始めてしまう。オスマンは頭痛に悩まされたかのように肩を落とす。貴族はいつからこんな情けない姿になってしまったのか。
「だめだこりゃ…盗まれた『破壊の杖』は彼からもらった大切なものだというのに…」
するとその時、杖を掲げた者がいた。挙げたのはなんとルイズだった。
「ミス・ヴァリエール!あなたは生徒ではありませんか!ここは教師に任せて…」
「お言葉ですが、誰がフーケを捕まえに行くのですか!?先生方は誰一人杖を掲げていない…つまり誰も行く気がないってことじゃないですか!誰かが行かなくちゃならないというのに!だったら私が行きます!私への遠慮は必要ありません!」
「お、おい…ルイズ!無茶だ!」
大丈夫なのか?サイトは正直先日のルイズの言葉に眩しいものがあったのを覚えていた。でも、冷静に考えたら危険だ。彼女は魔法がロクに使えない身だ。そもそも対峙できる力があると思ったら、明らかにNoとしか言いようがない。
「サイト、あんたは黙って着いてくるの!これは私が決めたことなんだから!」
ンな無茶苦茶な…サイトは頭を悩ませた。
「しかたないわね…私も志願します。ヴァリエールには負けられませんわ」
そんなサイトを見かね、キュルケも対抗意識からか杖を揚げ捜索隊へ志願する。
「あんたなんかについてきてほしくないわよ」
「あなた一人じゃ、無理やり危険なところに立たされたダーリンが危ないじゃない」
ルイズはついてくるなと言うが、逆にキュルケも反論した。すると、タバサまでも身の丈ほどの杖を掲げだした。志願するつもりだろうか。
「タバサ、あなたはいいのよ?こんなバカなことに付き合わなくても」
「心配だから」
「タバサ、ありがとう…」
それを聞いてキュルケはタバサに抱きつく。ルイズも、彼女の気遣いに素直に嬉しく思った。
「私は反対です!生徒を危険にさらすなど…」
シュヴルーズは反発した。まだこんな子ども達に、無慈悲な盗賊の相手など危険すぎる。
「ならば君がいくかね?」
「それは…私は体調がすぐれないので…」
オスマンの言葉に彼女は何も言わなくなった。そもそも体調以前に臆している自分に何ができると言うもの。
「彼女たちならやってくれるかもしれん。それにミス・タバサは『シュヴァリエ』の称号を持っている。王室から与えられる爵位としては最下級の称号だが、その若さで得られたのならば彼女の実力は確かなものじゃ」
「そうだったの!?」
驚きの事実にキュルケの質問にタバサはコクッと頷いた。
王室から与えられる爵位シュヴァリエ。その称号は最下級だが、タバサのわずか15歳という年齢でそれをいただいたことは驚くべきもの。それにこの称号は男爵・子爵といった称号とは違って実力を認められた証でもある。
「ミス・ツェルプストーはゲルマニアの優秀な軍人を輩出した家系の出、そしてミス・ヴァリエールはミスタ・グラモンを圧倒した使い魔を召喚した。彼の実力を持ってすれば、フーケに遅れを取るまい」
キュルケは鼻が高そうにしていたが、ルイズは自分ではなく正確には使い魔であるサイトが誉められたのが少し不満だった。自分が褒められる番だと誇らしげに胸を張った自分が恥ずかしい。
「そうですぞ!!なんたって彼は伝説のガンダー…もが!」
(内密にしろと言ったじゃろ!)
オスマンはコルベールの口をあわてて押さえ黙らせた。
「で、では諸君の義務に期待する。決して死なぬように」
「「「杖にかけて!」」」
張り切って高らかに唱和する三人。サイトは大丈夫だろうかと不安になる。一方で、ロングビルことフーケは完全に策が成功に向かっていることに満足げな笑みを浮かべたのだった。

さて、フーケの思惑通りサイト・ルイズ・キュルケ・タバサの四名はロングビルが手綱を引く馬車に乗ってフーケの潜伏先と思われる森へ向かった。今日サイトは結局ルイズとキュルケの二人から貰った剣を二本とも持参している。もちろんこの判断に二人は目くじらを立てたが、サイトが「折れてしまった時の予備」という理由を付けたことで、渋々ながらも納得してもらった。
「ミス・ロングビル。オールド・オスマンの秘書であるあなたが手綱なんて。付き人に頼めばよかったじゃないんですか?」
ルイズがそう言うと、気にしないでとロングビルは彼女に言う。
「フーケの情報を集めた私が案内した方がよいかと思いましたので…それに私は貴族の名を無くした身ですから」
その表情は、どこか寂しげなものだった。だからそれ以上は聞くべきじゃないと思ったのだが、キュルケが大いに興味を示した。
「興味あるわ。お聞かせ下さいません?」
「よしなさいよこの恥知らず!」
トリステインでは聞かれたくないことを、いやトリステインに限らない。聞かれたくないような内容をたいした理由もなく聞き出すことはいいことではない。だからルイズがキュルケに注意を入れる。
「いいじゃない!おしゃべりしたいんだから。ったく…何が悲しくて泥棒退治なんか…」
キュルケは現場に行くまでの退屈しのぎを潰されてため息をつくと、嫌味ったらしく呟く。
「何言ってんのよ、自分から志願しておいて」
「だから言ったでしょう?あなた一人じゃサイトが危ないもの。いくらギーシュを圧倒したからって、あんな大きなゴーレム相手じゃどうなるかわかったものじゃないもの。
そしてあなたはサイトを戦わせて高みの見物に違いないし」
「だ、誰が逃げるもんですか!私の魔法でフーケなんかやっつけてやるわよ!」
「魔法?誰が?笑わせないで」
「おい、ケンカすんなよ」
『ったく…めんどくさい奴らだぜ』
またしてもいらない火花を散らす二人。サイトは間に入ってとりなした。サイトの中のゼロもまた、サイトの目を通してこの一部始終を見て呆れていた。
「…今更なんだけど、ルイズ」
「何?」
ふと、サイトがルイズに言葉をかけてきた。
「あのフーケって奴は相当強いメイジなんだろ?太刀打ちできないのにどうして?」
地球にいた頃、地球防衛軍はみっちりとした武装を保有しているから、自分たち以上に力の優れた怪獣や星人と戦えたことをサイトは知っている。だが、ルイズはどうだろう。彼女には悪いが正直戦力的に心配ばかり残る。
「オールド・オスマンがおっしゃられていたけど、これは魔法学院の問題なの。私たちの手でフーケを捕まえることに意味があるの。それに貴族に舐めた真似したフーケを許せない。あいつが元々どんな貴族でメイジだったか知らないけど、私たち貴族の誇りを見せつけなきゃ」
ある漫画の単語で言えば、まさに今のルイズは黄金の精神の持ち主、というものかもしれない。だから昨日の夜のルイズが眩しく想えたのだろう。そうだな、戦う覚悟がなくちゃ、たとえどんなにすごい武器や力を持っていても意味がない。
でも、あのルイズのことだ。少々見栄を張ろうとしている一面だってあって無茶をしでかすのではと思った。その節はこれまで見てきたり話を聞いたりで覚えている。罰で牢屋行きになる覚悟で男子生徒からシエスタを助けたり、崩れ落ちたモット伯爵の屋敷の瓦礫に埋もれているのではと思って逃げるのを拒否したり…。誇り高いのは嫌いじゃない。でも、だからって無茶をしていいとは思えない。だからサイトは言った。
「無理すんなよ。俺も戦えるんだから、無茶な分は俺も背負う」
急に真剣な男の顔で自分を頼れと告げたサイト。逆にルイズもその時のサイトが光って見えてしまい、朱色に染めた顔を隠すようにそっぽを向く。
「な、何よ急に…あ、当たり前でしょ?あんたは私の使い魔なんだから!」
すると、ここでキュルケが面白くなく感じてサイトにわざとらしく抱きついてきた。
「ダーリン、ルイズばかりじゃなくて私も守ってよ~。ここなんだか暗くても怖いもの~」
「あ、あんまりくっつくなよ!っていうか、全然怖がってないだろ!」
じゃれる二人とは反対方向を向いていたルイズのこのときの顔は、なんともまあすぐにでも爆発を起こしたい衝動に駆られた恐ろしい顔になっていた。
しかし一方で、先ほどのルイズの言い分に、ロングビルことフーケは内心でこう思っていた。ちなみに破壊の使い方がわからなくて苦労しているイライラと、キュルケのいらない詮索をされたイライラによって、苛立ち数割増しと言った様子だ。
(その舐めた真似をさせてくれた状況を作ったのは、まぎれもなくあんたたち貴族共じゃないか。私腹を肥やしてばっかの癖に自分たちのこと棚に上げやがって…私だって好きでこんな稼業やってるわけじゃないんだよ!)
しばらくすると、一行は開けた場所に出てきた。森の中の空地。そして向こうに見える廃屋。誰かがここで暮らしていた跡なのだろうか。
「到着しましたわ。ここでフーケを見たと言う話です」
ロングビルが馬車を止めると、サイトたちは一斉に馬車から降りる。
「私は怪しいところがないか偵察に行きます。他にどんな危険があるかわかりませんので」
そう言うと、彼女は森の茂みの中へ姿を消した。
「お一人で大丈夫かしら。ミス・ロングビル」
「気にしなくていいと思うわ。彼女も魔法はかなり使えるみたいだし。それより人の心配より自分の心配したら?」
「とにかく、作戦を立てようぜ。まずはあの廃屋に偵察を…」
偵察の派遣を提案したサイトだが、タバサがそれについて案を出した。
「その偵察役が廃屋の中にフーケの姿を見つけたら、挑発しおびき出し、魔法を使わせないうちに一気に叩く。だから偵察には…すばしっこいのが適任」
すばしっこいの。それを聞いてルイズたち三人は一斉に、サイトの方に注目した。
「…あなたが適任」
この空気、まるで拒否権をはく奪されたような展開にサイトは目を丸くする。確かに、一番早く動けるのは自分以外ほかに見当たらない。なんか納得のいく流れじゃないのが気になるが、仕方なくサイトはまずキュルケからもらった剣を握って廃屋に向かう。
「そりゃ、女の子を危ない目に合わせないのが男の役目とも言うけど…」
『なんでお前が危ない役をやってんだよ…あいつらから志願してきたってのに。ま、同情しとくよ』
「同化している時点で、お前も他人事じゃねえんだぞ…」
とりあえず廃屋の中を窓から覗き込んでみた。中は暗かったが、誰もいなかった。蜘蛛の巣だらけで窓ガラスはひび割れ、中にあるテーブルには埃だらけの酒瓶が残っている。
サイトの目が、無意識のうちからかギラギラと光った。透視能力…ウルトラマンが人間の姿の際に使う超能力だ。これは自分以外の超常的なものを見極めることができる。だがいくら凝視してみても、やはり暗闇の奥にも人がいる様子はない。
「誰もいないぞ!」
手を振って合図を送るとルイズたちが駆けつけてくる。タバサが念のためディテクトマジックで調べても、魔法を使った罠はないらしい。彼女から先に入り、続いてサイト、キュルケと侵入する。
「鍵すらかかってないじゃない」
キュルケは不思議そうに言った。ルイズは「外を見てる」と言い残して、入り口付近で待機した。小屋の中はひどく埃っぽくなっていた。手分けして三人は破壊の杖を探す。すると、タバサは一つ気になる箇所を発見した。一枚、布に被せられている何か直方体の物体がある。さらに気になるのは、その布はほとんど埃被っていない。つまり誰かがこの布を動かした形跡があるということ。彼女はそれをまくると、予想した通り目的のモノを見つけた。
タバサはそれをサイトとキュルケに見せた。それはなんと、フーケに盗まれたはずの『破壊の杖』だった。
「あっけないわねぇー。まあいいわ。フーケが来る前にはやく出ましょ」
拍子抜けたようにキュルケはため息を着いた。が、サイトは破壊の杖の箱を見たとき目を細めた。
「なあタバサ。俺に見せてくれないか?」
不思議に思いながらも、タバサはサイトに『破壊の杖』の箱を渡した。
それを見た瞬間、彼は驚愕せざるを得なかった。なぜなら、その箱にはサイトに見覚えのあるシンボルマークが書かれていたのだ。
「どうしたの?」
タバサは興味深そうにサイトを見た。
「これ…は…!!!」
『なんだよサイト?お前それに見覚えがあるのか?』
一部始終を見ていたゼロも気になったのか彼に声をかけてきた。
『嘘…だろ…この破壊の杖ってのは…!!』

一方で草陰からサイトたちを見やるロングビルことフーケ。彼女の狙いは、まずは小屋の中におびき寄せる。そして次に…。
「クリエイト・ゴーレム…」
彼女の周囲の土が風にあおられるように舞い上がると、見る見るうちに大きな足が、胴体が、そして両腕が出来上がった。自慢のトライアングルクラスのゴーレムの完成だった。
完成したゴーレムは、ずっしりとした足取りでサイトたちのいる廃屋へ歩き出した。
この時、誰も知らなかった。地下に眠る、この星を覆い尽くそうとする悪夢の欠片が今の衝撃で目覚めようとしていたことを。

外を見張っていたルイズだったが、フーケの作り出したゴーレムの出現で悲鳴を上げた。
「きゃああ!!」
外の異変は、サイトたちにも直ちに伝わった。証拠に廃屋全体が大きく揺れ出した。
「なっ、なんだ!?何が起こってるんだ!?」
その時天井が、まるで何かが飛び込んで突き破るように破壊された。その穴から、フーケの作り出した巨大なゴーレムがこちらを見下ろしていた。
「ゴーレム!?」
すぐさまタバサは呪文を唱え、巨大な氷の槍を作り出した。
「…ジャベリン!」
彼女の意思の元、氷の槍はゴーレムに一直線に向かい、その体に突き刺さる。フーケも後に続いて、ファイヤーボールよりもさらに火力の高い魔法の火炎弾をゴーレムに向けて発射する。
「フレイムボール!!」
激しい情熱の炎。たいていの奴なら身を焦がすだろう、だが、ゴーレムはびくともしない。
「こ、こんなの無理よ!」
「…退却するしかない」
他に打つ手がないのならその手しかない。ここは一度退くのが得策だった。キュルケとタバサは一時退避した。
「くっそ…仕方ないか」
流石に剣一つで倒せるとは思い難い。自分もルイズを回収したらここを退避するべきだろう。サイトはルイズを目で追って行く。彼女はゴーレムのすぐ目の前に立っていた。
「ルイズ、逃げるぞ!」
彼女に駆け寄ったサイトが逃げるように言ったが、ルイズはこれを拒否した。
「嫌よ!」
逃げるわけにはいかなかった。貴族としての矜持を、誇りを…フーケのような貴族たらんとする意思を忘れたことの愚かさを、盗賊に教えてやらなければならないのだ。
(ほら使い魔君、あんたが破壊の杖を使って、私のゴーレムをやっつけて見せるんだよ!)
これがフーケの真の狙い。サイトの左手のルーン、それは伝説と謳われた使い魔『ガンダールヴ』のルーン。それを刻まれし使い魔はあらゆる武器を扱うことが可能となる。ならばあの破壊の杖も例外ではないはず。そう確信したフーケは、わざとあの廃屋に盗み取っていた破壊の杖を残し、それをサイトたちに回収させたのだ。
今、サイトはタバサに破壊の杖の箱を見せてもらった時、そのまま自分が破壊の杖の箱を所持したままになっている。草陰に隠れたフーケは、早くサイトに破壊の杖を使えと催促する。いや、使ってくるにはまだ時間をかけて危機感を植えつけさせなければ。フーケは杖を振い、わざと外すようにゴーレムの腕を操作する。彼女の意思に従い、ゴーレムは右拳を振り上げ、サイトとルイズを攻撃してくる。
まずい。サイトはとっさにルイズの手を引っ張る。
「な、何するの!!」
放してよ!とルイズが喚くがサイトは聞いていない。今はあのゴーレムを倒すこと以前の作戦を考えなければ。…待てよ。サイトは杖の箱に目をやる。思えばこの箱のつくり、見覚えというか懐かしさがある。なにより、この箱に刻まれしエンブレムに彼は見覚えがあった。
「やっぱりそうだ…ウルトラマンレオと共に戦った地球防衛チーム…『MAC』のエンブレムだ!」
『何!?』
それを聞いた、サイトの中のゼロは耳を疑った。地球の防衛軍の武器だと?それが破壊の杖の正体だと言うのか。これにはルイズも、サイトが破壊の杖のことを知っていると言う事実を聞き逃さなかった。
「知ってるの、サイト!?」
「ああ、学校で習ったからな!」
箱を開き、中に入ったものを確認する。これは、なんとも大きなバズーカなのだ。担いでみると、左手のルーンが青く輝いた。
「MACバズーカ…わかりやすくて助かるぜ」
他に手段がない今、頼れるのはこの武器だけだ。サイトはすぐにMACバズーカを担ぎなおし、照準をフーケのゴーレムに合わせる。これならいくらトライアングルクラスのメイジの作ったゴーレムもひとたまりもないはず。
一方で草陰のフーケも作戦通りに思惑が向かっていることにうきうきした。やっぱりあの少年は使い方を理解している。なら彼がこれから破壊の杖をどのように使ってゴーレムを倒すか、見届けなくては。

しかし、ここに来てサイトたちにとっても、フーケにとっても予想だにしなかった事態が発生した。ゴーレムの足踏みによる地鳴り以上に、もっと大きな揺れが襲ってきたのだ。
「何?なんなの?」
タバサの読んだ使い魔、シルフィードの背中に乗るキュルケとタバサ。地上の二人を見つけ次第回収するつもりだったのだが、急に発生した地震に一度中断する。
「…」「ひゃ!!」
サイトは自分の傍にルイズを寄せて、彼女の安全を確保する。いきなり体を密着させられたものだから、男慣れしていないルイズは思わず顔を赤くしていた。一度文句を言ってやろうと思ったその時、地面から砂のしぶきが上がった。
砂のしぶきの中から出現した巨大な影。それは地上に現れると同時に異様な外見を露わにした。出現した場所はフーケのぐーれむの真下。ちょうど真上にいたフーケのゴーレムは、なすすべもなくその物体が飛び出すと同時に宙に放り出されて砕けてしまう。
「私のゴーレムが!!」
思わず草陰から飛び出してしまったフーケ。私のゴーレム?これをサイトは聞き逃さなかった。ゼロと同化しているためか、聴力も数段上がっていたためだろう。ともあれ、サイトは一つはっきりした。
これまでのロングビルの行動を思い返す。ここから学院まで、結構な距離がある。しかも人が住んでる気配はすでにない。フーケを見つけたと言う情報を、今朝に間に合うくらい持ちかえるには無理がある。そして廃屋の中に見つけた破壊の杖。それを物陰から見ていたフーケがゴーレムを攻撃。
(そういうことか!)
フーケの目的を、サイトはこのとき理解した。フーケはこの破壊の杖ことMACバズーカの使用方法を確かめたがっていたのだと。だが今は、もう一つの脅威がある。それは、たった今現れた巨大な物体だ。
「あれはなんなの?」
空のシルフィードの背中から見下ろしたキュルケはその物体を、目を凝らしながら不思議がる。
「…卵?」
呟くタバサ。そう、その物体は巨大な卵のようなものだった。それにしても、これは何の卵なのだ?ドラゴンの卵にしてはあまりにも巨大すぎる。ドラゴンだって子供の頃はごく小さい卵しか産まない。だがあの卵らしきものは、成体のドラゴンよりも大きい。40メイルはあるのではないだろうか。一体なぜこんなものが急に地上へ姿を見せたのだろうか。
「まさか、あの卵…」
これだけのビッグサイズのせいか、サイトはこの卵が一体何なのか悟った。
「サイト、わかるの?」
「もしかしたら、あの卵は…!!」
すると、卵が光り出し、殻に亀裂が走り出した。ピキピキと音を立てながらひび割れていくと、その卵の中身が露わになった。
「KUAAAAAAAAAAAAA!!!」
頭が地面に密着し、逆立ちをしているように二本の同じ長さの触手が頭にあるはずの位置から生えている巨大な生物。かつて、帰ってきたウルトラマンことウルトラ兄弟の4番目『ウルトラマンジャック』と交戦した怪獣『古代怪獣ツインテール』が姿を現した。
「つ、ツインテール!?なんでこいつがこの世界に!?」
ツインテールは宇宙怪獣ではなく、名前の通り地球の古代に生息していたとされる怪獣だ。サイトもこれまで何度か、地中で眠っていたにもかかわらず何かしらの原因で地上に復活した個体を何度か目にしたことがある。だがここは異世界。クール星人やディノゾールのような宇宙怪獣、そして彼にとって未確認のスペースビースト・ノスフェルならまだしも、地球の怪獣がこの世界で現れるなんてありえないはずだ。
いや、原因なんかどうだっていい。今はひとまず逃げなくては。学院長からの命令はあくまでフーケの逮捕ではなく破壊の杖の奪還。フーケのことなどどうだっていい。ここはキュルケたちと合流し、学院に引き返さなくては。その後、不本意だがゼロに変身してこのツインテールに立ち向かうしかない。
「ルイズ、逃げるぞ!」
ルイズに逃げるように言うサイト。しかし、彼女は逃げようともしなかった。
事もあろうか、彼女は無謀にもこちらに迫ってくるツインテールと対峙していたのだ。
「ファイヤーボール!」
火の魔法で攻撃…もとい、失敗の爆発でツインテールに攻撃を仕掛けるルイズ。だが、ツインテールには全くの効果なしだった。
「あ、あの子何をしてるの!!?」
シルフィードの上から見下ろしているキュルケも、ルイズのとった行動に驚愕していた。
「助ける」
タバサも無表情のままだが、これを見過ごすことはできない。直ちにシルフィードに命令し、一度地上へ向かわせた。
一方でフーケはこの不測の事態に困惑していた。
(破壊の杖の使い方を知りたかっただけなのに、こんな事態になるなんてね…くそ、どうする?)
このまま逃げるのが得策か?それともロングビルを演じたまま彼女たちを救出するべきか?選択を迫られていた。
「止めろルイズ!前にディノゾールが現れたときも言っただろ!お前が敵いっこない!」
説得を試みるサイトだが、ルイズはそれでも逃げようとしない。逃げることを許さなかったのだ。
「あんたたちだけ逃げればいいじゃない!!ここで逃げたらまた『ゼロのルイズ』って言
われるじゃない!!それに私は貴族よ!魔法が使える者を貴族と呼ぶんじゃない!!敵に
後ろを見せない者を貴族と呼ぶのよ!!」
彼女の、絶対に逃げてはならないと言う貴族のプライドが。それは確かに恐怖を押し殺されてくれたのかもしれない。だが、はっきりとサイトはこの時思った。
地球防衛軍は自分たちよりはるかに強い敵と戦ってきた勇敢な戦士たちだ。それは同時に、知恵と知識を振り絞って、敵との差を埋めたからこそ地球を守ることができた。たとえ作戦が失敗することがあっても、それを覚悟して強大な敵を戦い、勝利を勝ち取って守るべき地球の人々を守ることができた。でもルイズはどうだ。プライドの誇示のためにただ馬鹿正直に真正面に立っているだけ。
これは勇気なんかじゃない。ただの無謀だ!
再び魔法を使って攻撃するルイズ。しかし、やはりツインテールには敵わない。ツインテールにとってルイズなど、生誕記念のバースデーケーキも同然。すでに眼前にまで迫り大きな口を開けてルイズに食らいつこうとする。
「ひ!」
腰が抜けて動けなくなってしまった。絶望の表情が彼女の顔に表れる。
「フリーズスモーク!」
その時タバサの魔法が炸裂した。ツインテールの周囲を霧が立ち込め、ツインテールの視界を奪い去る。動揺するツインテール。その間サイトはルイズを抱え、ツインテールの前から直ちに離れる。
「ダーリン、大丈夫!?」
上空から降りてきたシルフィードから降りてきたキュルケがサイトたちに怪我をしてないか尋ねる。間一髪、けがもなく何とか抜け出せた。
だが、サイトによって救助されたルイズは、突然サイトに怒鳴った。
「じ、邪魔しないで!!あれくらい私にだって…」
「ルイズ、あなた何言ってるの!?」
信じられないとばかりにキュルケが声を上げる。サイトが身の危険を覚悟で助け上げたと言うのに。だからタバサだって力を貸したというのにこの言い分はないではないか。
「あいつは私が倒すの!トリステインの公爵家三女、ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールが!」
「いい加減にしなさいルイズ!!」
流石のキュルケも、微熱どころか烈火のごとく怒った。だが宿敵の家出身という理由からか、貴族のプライドも混じってルイズはキュルケの話を聞こうとしない。
「うるさいうるさい!敵に背中を見せないのが貴族なのよ!!」
言葉には出さなかったが、キュルケどころかあのタバサでさえこの勝手な言い分に不快感を感じた。眼鏡の奥にある青い瞳に、怒りの炎が燃え上がっている。

その時だった。


バシン!!


サイトが、ルイズの頬を叩いた。呆気にとられるルイズ。そして怒っていたキュルケとタバサも怒りの炎を無意識のうちに鎮火させて驚いていた。
「貴族がどうした!!結局死んじまったら、お終いだ!!何の意味もないだろうがこの馬鹿!!!」
「…だって」
叩かれた頬を押さえ、俯くルイズ。彼女の声が、震えていく。
「いつも…いつも……みんなから馬鹿にされて………悔しくて………逃げたらまた馬鹿にされるじゃない!!」
顔を上げたときの彼女の鳶色の瞳からは、大粒の悔し涙が流れ落ちていた。そうか、ルイズはこんな極限的な危険にまで自分を追い詰めてしまっていたのだ。いつも無能という意味でゼロゼロと馬鹿にされ続けて…。気が強くてプライドばかりが無駄に高い生意気娘…でも、実際はこんな戦いが苦手で大嫌いなただの女の子だった。一回り小さな子供のようにも見えた。
キュルケは、ルイズがこうなってしまった一端が自分にあると思い始めていた。自分もルイズをゼロと馬鹿にし続けてきた一人。まさかルイズが、あんな自殺行為同然の行動をとるなんて思いもしなかった。ルイズがやたら馬鹿にされ続けたことがどんなに彼女にとって悔しかったのか、軽い気持ちでからかってきたせいで理解もしなかった自分をやっと恥ずかしく思った。
一方で、さっきのルイズをゼロは真っ向から非難した。正直ルイズはゼロから見てみればただの雑魚同然の小娘。フーケから見ても同様だと思う。力の差なんか一目瞭然だったのに自ら捜索隊に名乗り出た彼女をただの馬鹿と決めつけていた。
『…馬鹿な奴だぜ。大した力もないのに、無謀なガキだ。あの怪獣に潰されておしまいになっちまうところだったってのに』
『…』
サイトは、ゼロに対して我慢ならずに言い返した。
『ゼロ、お前そんなに力が第一なのか?』
『あ?』
『そんなに、敵を確実に倒すためだけの力が偉いのか!?その先も、その先もただ戦いに勝って勝って勝って勝ち続けて、目の前で助けられる命を無視して、ただ力を誇示して偉ぶってれば満足なのかよ!』
同胞の先輩たちさえ人間の道具に成り下がった奴らと罵倒したゼロ。サイトは、これまで地球を守ってきてくれたウルトラマンたちを尊敬してきた。これからもそれは変わらない。だからゼロの言い分に、怒りを覚えた。
『お前だってあの貴族連中と変わらねえよ!!今のルイズを笑う資格なんかないだろ!!決闘を挑んできたギーシュや、俺と初めて会ったその日のルイズみたいにひどすぎるだろ!』
『なんだと…!!』
言われようにゼロは憤りを覚えるが、それ以上にサイトの声がだんだんと震えていく。ゼロの逆切れの気迫をものともしない。
『力だけで勝ち進んで、ただ戦い続けて…何の意味があるんだよ…力を誇示し続けて、ルイズみたいにただ立派な姿を見せるためだけに危険を冒すことに、どんな意味があるんだよ…』
次の言葉を言った時、もうテレパシーではなかった。ルイズたちにも聞こえる、いつもの肉声で彼は言った。
「そんなの…何の意味もねえ、血を吐きながら続けるだけの悲しいマラソンじゃないか…」
――――血を吐きながら続けるだけの、悲しいマラソン…。

ゼロは、その一言を聞いて何も言えなくなっていた。テレパシーではなく声に出ていた言葉だったので、キュルケもタバサも、泣き続けていたルイズもその言葉をしっかりと聞いていた。
「KIEAAAAAAAAA!!」
だが、今は泣き出しているルイズに付き合える状況ではなかった。タバサの作り出した霧の中でツインテールが金切声をあげている。司会の見えない霧の中を窮屈に思い、右往左往しながら霧の中をかいくぐっている。いつこっちに脅威がまた迫るかわからない。
っと思ったその矢先だった。ツインテールが霧の中をかいくぐってもうこちらに迫ってきていたのだ。
「くそ!しんみりさせろよ!」
悪態をつくサイトは、とっさにキュルケからもらった黄金の剣を抜く。左手のルーンが光って、さらにゼロとの同化による肉体強化で身体能力は向上。彼は上に飛び上がって、ツインテールのみけんに剣を突き刺そうとする。しかし、剣は突き刺さるどころかツインテールの体表に全く歯が立たすあっさりとへし折れた。
「お、折れたぁ!!?」
思わず某竜騎士の名を持つ仮面の特撮ヒーローのごとく悲鳴を上げたサイト。ゼロの言っていた通り、ただのなまくらだったらしい。いや、本物の剣でも怪獣が相手では傷を入れること自体怪しいが、それでも少しは期待させてほしいのが本音だった。
「ゲルマニアの業物じゃなかったの!?あの武器屋、いつか詐欺で訴えてやるわ!!」
これを見て不服を露わにしたキュルケ。せっかくサイトに送った剣がなまくらだったとは。しかし色仕掛けで値段をまけさせたキュルケもキュルケではないかと思われる。
まずい、ツインテールがサイトに迫ってきている。ここは変身するべきかと思った時だった。突如出現したゴーレムが、サイトを助けに入るためなのか、ツインテールに向かって突進したのだ。
「ご、ゴーレムがなんで!?」
さっきまで襲ってきたはずの土人形が、今度は自分たちを助けるために動いているのだ。これは一体どういうことだ?
「私も焼きが回ったのかもね。あんなくだらないプライドの塊みたいな子を助けるなんて…」
自嘲しながら、少し離れた場所からサイトたちを観察していたフーケはそう呟いた。
思わぬ助力だがありがたい。サイトはゴーレムの作り出した隙を見逃さない。ツインテールから一度離れると、彼はMACバズーカを担ぐ。照準は、ツインテールの目!
「発射!!!」
カチッ!引き金を引くと同時に、轟音が鳴り響いてツインテールの体に火花を荒らしのごとく起こしていった。
「KUAAAAAA!!!?」
いきなりのとてつもない攻撃力を孕んだ反撃に動揺し、そしてダメージを受けるツインテールは大きく怯んだ。
「す、すごい…これが破壊の杖の威力」
泣き止んで、破壊の杖ことMACバズーカの威力を目の当たりにしたルイズはごくりと唾を飲み込む。しかし、まさかサイトが破壊の杖をこうもあっさり使って見せたことにも驚いていた。ディノゾールの時も、クール星人の時も、そしてウルトラマンのことも、彼は自分たちが知らないことを何でも知っているように思えた。ではあの破壊の杖は、サイトが知っているものの一つに違いない。
酷く傷ついて血を流し、満身創痍のツインテール…。いや、まだ奴は生きている。このままMACバズーカを発射して止めを刺そう。
フーケも、このままゴーレムでツインテールの頭をたたき割ってしまおうと考えた。いかに怪獣とはいえ、脳に深いダメージを負わされたら生きていられないはず。
だが、サイトもフーケも、油断していた。フーケはまだほかにも敵がいたことを。そしてサイトの場合、ツインテールとワンセットになっている…もう一体の怪獣がいたと言う事実を。
再び地鳴りが発生した。そして、地面からさらに、ツインテールとは別のもう一体の怪獣が出現したのである。『地底怪獣グドン』である。
「GIEAAAAAAAAAAAA!!!!」
「か、怪獣がもう一体!?」
「しまった!ツインテールがいるなら、グドンも一緒だってことを…完全に忘れてた…!!!」
驚くキュルケ。サイトはツインテールとグドンの関係性を知っておきながら忘れていた自分の間抜けさに腹を立てた。いや、異世界だからってそう何度もずっと前に地球で起こっていたことが起こるわけがないと慢心していたのかもしれない。
「乗って!」
タバサが叫ぶ。まずはルイズを乗せ、次にキュルケが乗る。
「あなたも」
いつになく焦ったような口調のタバサ。だが、サイトは首を横に振った。
「まだロングビルさんが地上に残っているはずだ。探しに行く!だから先に行ってくれ!すぐに追いつくから!」
サイトがそう言った時、グドンがツインテールの方へと歩き出していた。グドンはツインテールを好物としている。それはこの異世界でも同様らしい。
これ以上地上に留まるの危険だ。タバサはやむを得ずシルフィードを上空へと飛び立たせた。
よし、ロングビルさんを…フーケを見つけなくては。すると、ゼロがサイトに向かって怒鳴りだした。
『サイト、お前あんな盗賊風情を助けるってのか!?』
盗賊と言えば犯罪者の一種。それをどうして助ける義理がある?ゼロには理解しきれなかった。
「放っておくことなんかできないだろ!」
『そいつは他人から盗みを働きやがった悪人だぞ!助ける通りなんざ何もねえじゃねえか!』
「黙れよ!!俺は盗賊を助けてるんじゃねえ、ただ助けを求めている人を助けるんだ!!」
ゼロは、今までサイトを舐めてきた。実力も精神的にも自分の方が優れていると自負していた。でも、さっきからどうしてだ。こいつの気迫に完全に打ちのめされている。
『なんで、そこまでしてお前は…』
それ以上サイトはゼロの言葉を聞かなかった。一度周囲を見渡すと、ちょうどグドンが、得物であるツインテールを横取りされてなるものかと、フーケのゴーレムに強烈な鞭攻撃を仕掛ける。怪獣のパワーはコンクリート製のビルだっていともたやすく壊せる。強烈な鞭攻撃を受けて、ボロボロと体が崩れ落ち始めた。だがフーケの精神力はまだ残っているためか、ゴーレムは再生していく。
(ここは、もう逃げた方が得策かしらね…)
きっと今頃あの使い魔君たちは怪獣たちの脅威から逃れるために逃げたはずだ。破壊の杖は、諦めるしかなさそうだ。目的を達成できないのは残念だが、自分が死んだら誰が『あの子たち』を養うと言うのだ。まだ会ったばかりの『あいつ』一人に任せきりにもできない。そう考えているフーケ。
「GRRRR…」
そんな彼女を、グドンはその赤い瞳に映る視界にとらえた。まずい。見つかった!フーケは、今度はゴーレムをグドンに差し向けて攻撃させる。思い切り金槌で殴られたような感触を味わいながらグドンはひるむ。このままゴーレムを囮にしていればおのずと逃亡できる。フーケはグドンたちから離れながらゴーレムで攻撃し退いて行く。しかし、次の瞬間グドンはこれまで以上の強烈な一撃をゴーレムに、そして一気に破壊して見せたゴーレムもろともフーケに与えてきた。
「うあ…!!!」
とっさに反応したためか直撃は免れたものの、今の鞭攻撃の衝撃はあまりにも強烈だった。宙に投げ出され地面にうつ伏せの状態で落ちたフーケは血反吐を飛ばした。
「ロングビルさん!」
サイトは急いでフーケの元に駆け寄つけようとする。酷い怪我を負ってしまったようだ。間に合うか?
「デルフ、力を貸してくれ!」
「おう!やっと出番か!ったく、あんななまくらじゃなくて最初から俺っちを使えよな!」
もう一本、あらかじめデルフを持ってきて正解だっただろう。文句を言いながらもデルフは張り切っている。MACバズーカを背中に背負い、デルフを握ったサイト。すると、再び左手のルーンが光る。早く駆けつけなくては、もうグドンは、いつでもフーケに止めを刺せる近距離にいる!もう殺されてもおかしくない。
「ごめんよ…もう仕送り、打ち止めになりそうだ…」
「!」
今の声、かすかだったがサイトには聞こえていた。間違いなく誰かに謝っていた。彼女は、汚い手口を使ってまで贅沢をしたかったわけじゃない。
「GUGAAAAAAAA!!」
MACバズーカでここから攻撃するにしても、再び構えるに1秒弱かかる。もう後ほんの一瞬でもフーケを殺せるグドンの攻撃を妨害する時間はない。グドンが右手の鞭を、足元にいるフーケに振り下ろしてきた。ダメだ、やっぱり間に合わない!!
「さよなら…『テファ』」
死を覚悟して目を閉ざすフーケ。だが、その時だった。
「諦めるな!!」
その声と共に、どこからか放たれた青白い波動弾がグドンを襲った。予測できなかった攻撃にグドンは大きく怯んでのけ反ってしまう。さらにもう数発、波動弾がグドンと、そしてツインテールに向かって連射されていく。
「え…」
目を丸くする、フーケと遠くから見ているサイト。
今の攻撃は、魔法なのか?いったい誰が?キュルケとタバサの攻撃とは思えない。ましてやルイズにあんな攻撃はできない。じゃあ、誰が…?
いや、誰かいる!サイトはフーケの傍らに、いつのまにか別の誰かがグドンに向けて銃を構えて立っているのを見つけた。黒い髪…?それにあのダークブルーと黒の軍服…。
(地球防衛軍の…隊員…!?)
サイトは確信した。あの服は間違いなく、地球防衛軍直属の隊員服じゃないか。背中の『NR』のアルファベットのエンブレム…でも、あんな服は見たことも…それ以上に、あの男は一体誰だ?見たところ、自分とほぼ同じ年くらいに見受けられるが…俺はともかくなぜフーケを助けに?疑問に思うサイト。
「あいつ、一体誰なの?」
ルイズたちはシルフィードの上から、突如現れた謎の男に注していた。タバサも不思議がっている。
「わからない。でも…敵じゃないみたい」
「見たところ、なかなかのハンサムみたいだけど、何者かしら?」
見たこともない銃で怪獣を攻撃している。メイジには見えないし服装も変わっている。少しいつもの色ボケたような言葉を言いながらも、キュルケもあの男の正体を気にしていた。

フーケはボロボロになった体を起こしながら、その男の姿を見上げた。
「なんで…あんたがここに…『シュウ』…」
その男は、なんとシュウだった。フーケと彼はどうも知り合いらしい。
「まだ動けるか?『マチルダ』さん」
しかも、シュウは彼女をフーケともロングビルとも呼ばなかった。盗賊の彼女と、突如モット伯爵の屋敷に出現したりする神出鬼没なシュウ。この二人はどういった経緯で出会ったのだろうか。
「残念だけどちょっと、骨がいかれちまったよ…」
だから少し無理がある。そう告げた。
「俺があのビーストの注意を引いてくる」
「なんだって!?」
あんな化け物にたった一人で挑む気なのか?確かに見たところすごい威力の銃を使っているようだが、とてもかなう相手とは思えない。
「無茶だ!助けてくれたことには感謝するけど、あんた一人じゃ…!!」
「俺はナイトレイダーだ。ビーストと戦って人を守るために存在する」
きっぱりと言い放った。しかも、ルイズのように誇りを誇示するための虚勢ではない。絶対に勝つという自信に満ちている。
「……あんたには、また聞きたいことが山ほどあるからね。死ぬんじゃないよ」
「ああ。後で合流しよう」
体を引きずりながらも、フーケは森の中へゆっくりと離れていく。その間、シュウはその白い銃『ブラストショット』でグドンを撃ち続ける。
(見たこともないビーストだが、関係ない。目の前の敵は倒すだけだ)
波動の弾丸が直撃するたびにグドンの体を火花が散っていく。怒るグドンは、ツインテールのことを忘れてシュウを追い回していく。
「今の彼のおかげで、ダーリンから怪獣が離れていくわ!」
「今のうちにサイトを助けに行きましょう!タバサ!」
「…」
今ならサイトを救出できる。ルイズがタバサにシルフィードを下ろすように頼むと、タバサは頷いてシルフィードを地上に着地させた。しかし、ここで一つ気になることがある。
「怪獣が…一体目の怪獣がいない」
サイトは、そしてルイズたちはここで気が付く。ツインテールの姿がいつの間にか消えていたのだ。代わりに、大きな穴が地面にぽっかり開かれた口のように空いている。天敵であるグドンが彼に注意を引かれている間に地中に逃げたのか。
すると、シュウのすぐ近くの地面がしぶきを上げる。そして、強い衝撃と共に地面をひっくり返し、姿を消したツインテールが再び姿を見せたのだ。
「ぐ…!!」
ツインテールの地面から這い出てきたポイントからとっさに動いたことで辛うじて避けたシュウ。宙に飛び、地面に着地した時には、すでにグドンとツインテールという二体の巨大な敵に挟まれていた。
(仕方ない…)
ここからならさっき竜から降りてきた連中からの目も遠いので、人目にはあまりつかないだろう。彼はブラストショットをしまいだした。なぜ攻撃手段である銃を?すると今度は、白い短剣のようなアイテムを手に握る。
「!」
まさか…サイトはもう一つ新たな、それも最も驚くべき確信を得た。
シュウはその白き短剣『エボルトラスター』を鞘から引き抜き、天に掲げて叫んだ。
「うおおおおおおおおおおおお!!!」
エボルトラスターから光があふれ出た。それが彼の身を包み、紅い光の柱となって天へと立ち上る。光の柱の中で青く淡い光が爆発し、その中から一体の巨大な何かが姿を現した。
サイトと、そしてシュウを待っていたフーケは驚きすぎて呆然としていた。突然現れた男が光に包まれたかと思ったら、さっきとは明らかに違う姿へと変身してしまった。それにその姿を、サイトは忘れもしなかった。ルイズたちもシュウが姿を変えたあたりを見てはいなかったが、サイトを探している最中に、別の巨人が出現したことに戸惑っている。
「あの時の…ウルトラマン!?」
そう、破壊されたモット伯爵の屋敷でゼロがノスフェルに苦戦していた時、突然ノスフェルを光線技で打倒したあの、銀色のウルトラマンだったのだ。 
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