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雲は遠くて

作者:いっぺい
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94章 信也たち、<ゲスの極み乙女。>で盛り上がる

94章 信也たち、<ゲスの極み乙女。>で盛り上がる

 10月11日、日曜日。曇り空の、午後の5時を過ぎたころ。

 川口信也と新井竜太郎と水谷友巳と、付き合っている彼女たち、
大沢詩織と野中奈緒美と木村結愛(ゆうあ)の6人は、『佐五右衛門(さうえもん)』に入った。

 道玄坂センタービルの4階にある『佐五右衛門』は、串焼専門店で、
渋谷駅から歩いておよそ3分だった。

 6人は、扉のついた個室のテーブル席の、ふかふかなソファーに落ち着いた。

「最近は、<ゲスの極み乙女。>が、いいなぁって、思っているんですよ」

 水谷友巳が、ぽつりと、そう言って、レッド・アイの細長いグラスに口をつける。
レッド・アイは、ビールに、トマト・ジュースを加えた、赤色のカクテル。

 水谷友巳は、あの尾崎豊がしていたような、リーゼントはやめて、
いまは、無造作なショットカットの刈り上げのヘアスタイルだった。

「あっ、昨夜のNHKのSONGS、見たわ!<ゲスの極み乙女。>
『ロマンスがありあまる』とか、『キラーボール』とか、『私以外私じゃないの』とか、
この10月に発表されたばかりの『オトナチック』も演奏してくれてわよね!
どの歌も、自然と口ずさみたくなるような、キャッチーなサビのメロディーなのよね!
わたし、感動しながら見ちゃった!ぅっふふ」

 竜太郎の隣の、野中奈緒美(なおみ)は、そういって、微笑んだ。

 野中奈緒美は、1993年3月3日生まれの22歳、身長は165センチ、
可憐な美少女で、人気のある、モデル、タレント、女優である。
竜太郎と交際中で、竜太郎が副社長のエタナール傘下(さんか)の、
芸能プロダクションのクリエーションに所属している。

「そうなんですよ。ゲス(きわ)川谷絵音(かわたにえのん)さんの作る楽曲は、
小学生の子どもたちからも支持されてるんですから、おれ、尊敬しちゃいますよ」

 水谷友巳は、みんなを見て、そう言って微笑(ほほえ)んだ。

「川谷絵音さんて、確かに、いい歌を作るよね。
『私以外私じゃないの』なんていうフレーズは、ほんと(本当)、キャッチーだし、
あのフレーズは、おれも思いつかなかったですよ。あっはは」

 信也は、テーブルの向かいの、水谷友巳やみんなを見ながら、そう言った。

「子どもたちの心に響く歌を作れることって、すごいし、すばらしいと思うわ!
『オトナチック』では、大人になりきれない葛藤(かっとう)を越えて、
前に進んで行こうというメッセージが込められているんですって」

  信也のテーブルの向かいにいる、信也の彼女の大沢詩織はそう言って、
明るく微笑(ほほえ)んだ。

「音楽とかをやる、その目的って、いつまでも子どものようでもいいから、
みんなで、毎日を楽しく過ごして、平和な世界を(きず)いて行こうってことだと思うからね。
絵音(えのん)さん、確か、いまは26歳かな。おれより、1歳くらい年上なんだけど、
尊敬しちゃうし、共感しちゃいますよ。
大人(おとな)になるとかって、なんか、幻想のような気がしているんだ、
おれの場合、いつまでたっても、たぶん子どものままだろうから。あっはは」

 信也はそう言って、笑って、サッポロ黒ラベルのビールをうまそうに飲む。

 みんなも、明るい声を出して笑った。 

「ちょっと、みなさんに、質問があるんですけど。<ゲスの極み乙女。>のさあ、
『キラーボール』って、どういう意味なのかな?ミラーボールなら、
クラブとかの天井(てんじょう)で、(まわ)っている、ミラーボールのことだよね。
あっはは」

 竜太郎が、ビールを飲みながら、みんなを見ながら、上機嫌でそう言った。

「はい、竜さん。わたしにご説明させてください!」

 高校2年の木村結愛(ゆうあ)が、社会人のOLのようにそう言ったので、みんなは笑った。
1999年3月4日生まれ16歳の結愛は、1994年7月11日生まれ21歳の
水谷友巳と付き合っている。

「えーと、『キラーボール』は、ユーチューブで、
『ゲスの極み乙女。』がブレイクされるきっかけになった曲でした。
『キラーボール』というのは、絵音(えのん)さんが作った、
オリジナルな造語です。
この情報はネットで調べたことなんです。『西日本新聞』さんというところが、
絵音(えのん)さんと対談して、ご本人がそう語ったらしいんです。
絵音(えのん)さんは、<ゲスの極み乙女。>で、自分は何をすべきか!?って、
かなり考えていた時期があったそうです。
そんなときに、心の中に()まっていく、毒みたいなものを()き出そうとして、
書いた楽曲らしいんです。
『キラーボール』の歌詞には、それで、<踊らされる架空の毎日>とか、
<キラーボールと一緒に回るよ>とかの歌詞が出てくるんです。
でも、絵音(えのん)さんは、歌詞に、あまり、意味づけしたり、理屈っぽくすることが、
(きら)いだそうです。
『いろんな受け取り方があっていいと思う』とか
『歌詞って、一つの意味だと面白くない』とか、語っています。
わたしも、音楽の創造って、そんな感じの、みんなが、自分なりの想像力をふくらませて、
楽しむものだと思います!」

 結愛(ゆうあ)は、そう言い終ると、満足げに、みんなに微笑みながら、オレンジジュースを飲む。

「なるほど、そのとおりだよね。結愛(ゆうあ)ちゃんの考えかた、しっかりしているよ!
絵音(えのん)さんも、しっかりと、自分の考えを持っているんだよね。
いい話を聞かせてもらいました。今夜は、みんなで楽しくやりましょう!
それにしても、絵音さんは、歌つくりの才能もセンスも抜群だけど、
マーケット、市場で、どうやったらやっていけるかという、
そんな戦略を考えるセンスというか判断力も抜群だと感じますよ。
『キラーボール』って、何なのだろうとか、興味を持たせますからね。あっはは」

 竜太郎は、そう言って、みんなに笑った。

≪つづく≫ ーーー 94章 おわり ーーー
 
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